第83話 みんなのおはな ◆――アイ

 りりあんおねえちゃんが、むちゅうでドーナツをたべている。

 わたしはにこにこしながら、それをみていた。


 おねえちゃんはおさとうのおはながさいたから、きっとおさとうがいっぱいはいったどーなつ、すきだとおもったの。

 

 ――いちばんさいしょにおはなをさかせたのは、ママだった。


 しょこらがきてすぐ、しょこらがたまにぴかぴかひかるから、ママになんで? ってきこうとした。そしたら、ママのむねのところに、おはなのつぼみがあったの。


 それ、なあに? ってきいても、ママはみえないみたい。


 だからじーってみてたら、つぼみがじぶんでおしえてくれたの。


『アイを守る力が、私にもあればいいのに……。もっともっと、強くなりたいわ』


 それはすこしさびしそうな、ママのこえといっしょだった。


 わたし、そのこえをきいたら、むねがぎゅうぅーってなっちゃったの。


 だって、ママがずっとわたしのことかんがえているんだよ?


 そうおもったら、うれしくて、ぽかぽかで、ちょっとなきたいきもち。

 でもわたしがないたら、きっとママはびっくりする。

 だから、なかないかわりに、ママのつぼみにさわった。

 そしたら、つぼみが、ぱぁってひかって、あかい、ぷらんぷらんしたかわいいおはなになったの。


 それから、たまにみんなのつぼみがみえるようになった。

 サクラのおばあちゃんも、しょこらも、パパも、ホートリーのおじちゃんも、なべのおじちゃんも、みんな。

 パパとなべのおじちゃんは、まだおはなをさかせてない。


 でもりりあんのおねえちゃんは、さとうでできた、きいろのおはながさいた。はなびらがいっぱいで、まんまるで、とってもかわいいの。


 おもいだして、くふふってわらってたら、にこにこしたママがわたしをみた。


「アイ、なんだかさっきよりも嬉しそうね。『みせすどーなつ』、そんなに気に入ったの?」

「うん! アイ、だいすきだよ!」


 にこにこしているママをみると、アイもとってもうれしくなる。


「アイが嬉しそうだと、ママも嬉しいわ。それにしても、アイが本当に賢くてママとっても助かっちゃった。アイが『みせすどーなつ』をよく覚えてくれていたから、ママも絵を描けたんだもの」

「アイの『映像共有』にハロルドの調理能力、それに君の画力、どれひとつ欠けても、きっとこのドーナツは再現できなかったんだろうね」


 パパも、にこにこしてたのしそう。


 ――わたしがドーナツをおもいだしたのは、ママがりりあんおねえちゃんのおかしをかんがえているときだった。


 ママとなべのおじちゃんは、けーきとか、ばばろあとか、まふぃんとか、いろいろおはなししてた。


 そのとき「ドーナツ」ってことばがきこえて、わたし、ぱっとおもいだしたの。


 ママのところにくるまえの……まえの、ママのとき。



 そのひ、わたしはまえのママといっしょに、おそとにきていた。

 ママはおおきなたてもののまえにくると、こわいかおでわたしにいった。


「愛。買い物してくるからあんたここの草陰でまってなさい。いい? 騒いだりしないで、動かないでじっとしてるのよ。じゃないとあたし怒るから」

「はい、ママ」


 わたしはいわれたとおりにした。

 はっぱのうしろで、ちいさくちいさくからだをまるめて、だれにもみつからないように。


 でも、ちらってうしろをみたときに、きづいちゃったの。

 うしろのたてもののなか、とうめいながらすのむこうにね……どーなつが、いっぱい。い~っぱい、あったの!


「わあっ……!」


 うごかないでっていわれたけど、どうしてもみたくて、まどにぺたってくっついた。

 おみせには、いろんなどーなつがならんでいた。


 くるくるしたの。

 ちょこれーとみたいなの。

 しろいくりーむがはさまってるの。

 ぴんくいろの。

 ぽんぽんしているの。

 ぽんぽんした、ちょこれーとの。

 ちょこれーとだけど、きいろいつぶつぶがついたの。


 いっぱい、いーっぱいあって、がらすのむこうで、きらきら、きらきらしてた。

 なかではおとこのこが、おとこのこのママといっしょに、どーなつをかってる。


 いいなあ。アイも、たべたいなあ……。


 じーって、じーーーってみてたら、おとこのこのママがわたしをみた。

 それからおとこのこのママはおそとにでてきて、わたしにはなしかけた。


「あの……君、どうしたの? もしかして迷子? お母さんはどこにいるのかな?」

「あの……えっと……」


 どうしよう。しらないひととはなしをしたら、ママきっとすごくおこる。


「お母さんとはぐれちゃったのかな? 一緒におまわりさんの所行く? たしか駅前に交番あったわよね……」


 おとこのこのママがはなしてるよこでは、おとこのこがもうドーナツをたべていた。

 まるいぽんぽんがつながったドーナツは、いいにおいで、ふわふわだった。


 それに……なんだかもちもちしている。


 わたしがじぃっとみていると、おとこのこのママがいった。


「……『ミセスドーナツ』、食べたことある? よかったら、一個あげようか? あ、でも今って、こういうの勝手にあげちゃだめなんだっけ……」


 えっ! どーなつ、くれるの?

 わたしがかおをあげたときだった。


「愛っ!!! 何してんの!!!」


 すごくおおきなこえがして、わたしもおとこのこもおとこのこのママも、みんなびっくりした。


 ママだ。


「あ、この子のお母さんですか? あの、この子――」


 でもママは、すごくこわいめで、おとこのこのママをギロッてみた。


「ほら! 早く帰るよ!」

「はっ、はい、ママ」


 わたしはもっとおこられるまえに、すぐにママとてをつないだ。

 ちらってうしろをみたら、おとこのこのママが、しんぱいそうにわたしをみてた。


 ごめんね、やさしくしてくれたのに……。

 それに……。


 おとこのこがたべている、ぽんぽんのどーなつをみて、わたしのおなかがぐぅとなった。


 『みせすどーなつ』、たべたかったなぁ……。

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