【第3部連載開始】聖女が来るから君を愛することはないと言われたのでお飾り王妃に徹していたら、聖女が5歳?なぜか陛下の態度も変わってません?
第42話 今回はちょっとだけせくしぃよ ◆――アネモネ(ショコラ)
第42話 今回はちょっとだけせくしぃよ ◆――アネモネ(ショコラ)
なっ! なんなのよぉおおおこの気持ちよさはっ……!
人間の女に水まみれにされ泡まみれにされ、全身を触られてぞくぞくしながら、あたいは悶絶していた。
「あおっ!? あおぉっ……!?」
わっ! やだっ! なんか変な声が出ちゃうっ……! でもこの女、絶妙に気持ちいいところを、ちょうどいい力加減で触ってくるのよね……! あっそこそこ、ちょっとかゆかったから助かる――……じゃないわよっ!
あたいはハッとして、くるまれたタオルから急いで逃げた。っていうかいつのまにタオルに!?
いけないいけない。あの女の使う謎の妖術で、あやうく身も心も持っていかれるところだったわ! 孤高の花と呼ばれたあたいを
平静を取り戻すために必死で毛づくろいしていると、今度はちび聖女がやってきて、あたしをごしごしとタオルで拭き始めた。ふぅん? ちょっと痛いけど、あたいをお世話しようとするのは、まあいい心がけね?
「わぁあ、ねこちゃん、さらさらできもちいいねぇ」
すっかり乾いたあたいを見て、ちび聖女が嬉しそうにほおずりしてくる。ちょっと、暑苦しいわよ。猫パンチ飛ばさないあたいの優しさに感謝しなさいよねっ!
あたしにまとわりついて離れないちび聖女を見ながら、あたいはそっと横目で人間の女を見た。
昨夜からことごとくあたいの邪魔をしている女――名前はわかんないけど、ちび聖女に「ママ」って呼ばれてる女は、呑気な顔でこっちを見ている。
その顔は平和そのものって感じなのだけど、かと思えばお風呂と称してあたいに謎の妖術をかけてくるし、昨夜のことを「夢」と言って周りの人間に話していたりするし……。あれって、「おまえの正体、知っているわよ」っていう牽制よね? その上であたいを泳がせてるってこと? くっ……人間め、侮ってくれるわね!
あたしは悔しさまぎれに、まだ抱きついてくるちび聖女の顔をぺろぺろと舐めた。食べるのはあの女がいない時だけれど、こうなったら味見だけでもしてやるわよ!
「きゃー! ざらざらするう!」
けたけたとちび聖女が笑う。
ふんっ、味見されてることにも気づかないで呑気なものね! っていうかこの子なんかおいしいわね……。舐めてるだけなのにあまいミルクみたいな味がするんだけど、さっきそんなお菓子でも食べてたのかしら?
一心不乱に舐めてると、ちび聖女がキャーッと言って逃げていく。あっ待ちなさいよあたしのおやつ!
「エデリーンさま、式典衣装の仮縫いが終わったようです。一度試着していただけないでしょうか」
「わかったわ」
人間たちが何か話している。それから部屋に、すぐさま何やらすっごく豪華な服が次々と運び込まれた。それを見てあたいは顔をしかめる。
うへえ、白って嫌いなのよね。聖女とか女神とかの色だから、上位魔物のあたいからすると反吐が出ちゃいそうになるわ。
うんざりしながらちび聖女を見ようとして、あたいはおちびの姿がないことに気づいた。それから、庭に繋がる大きな窓が開いているのを見つける。
とんっと庭に飛び降りると、少し離れた場所でちび聖女がなにやら花とにらめっこしていた。その姿は無防備そのもので、おまけに他の大人は気づいていないのか、周りを見渡すとあたいとちび聖女のふたりきり。いつもついてくる双子の騎士もいない。
あれっ? これってチャンスじゃない?
あたいはもう一度辺りを念入りに確認すると、ちび聖女の後ろに立った。おちびの背中に落ちる小さな影がぐんぐんと大きくなり、やがてすっぽりとその姿を覆ってしまうほどの大きさになっても、相変わらず花に夢中になっている。
ふふっ、今度こそいただきまー――……。
「アイー? アイ、どこにいるの?」
シュンッ! 即座にあたいは姿を縮めた。
あっ、あぶないあぶない……! 振り向けば部屋の中から、女が顔を覗かせている。大丈夫よね!? 今の見られてないわよね!?
「にゃ、にゃお~ん」
「そこにいたのね。教えてくれてありがとうショコラ」
にこやかな顔で、女が歩いてきてあたいの頭を撫でる。ちび聖女が振り返って、見つけた花を一生懸命女に見せている。
それからもふたりは、ほぼずっとべったりだった。おまけにようやく女が離れたかと思えば、今度は騎士たちがぴったりとちび聖女のわきを固める。あたいはじれじれとチャンスを待つことにした。
――そうしているうちに二日経ち、三日経ち、そして一週間。あたいは完全にじれていた。
チャンスを見せてくれたのは最初だけで、それ以降は意外と隙がない。むむ……。最初のチャンスを逃したのは痛かったわね。じれたあたいは決意した。
その晩、ぐっすりと寝ている(ように見える)人間の女の体に、あたいがトンッと降り立つ。それから女を見下ろしながら、やわらかな肉をもみもみふみふみした。
よし。いったん、丸呑み作戦は忘れるわよ。作戦に固執しすぎて失敗するのは、三流のやること! あたいは一流だから、だめだとわかったらすぐに手段を変えるわ! こうなったら食べるのは諦めて、誘い出して事故に見せかけて始末するのよ!
なおもこねこねしながら、あたいは自分の切り替えの早さに感心する。……っていうかこの女、なかなか立派なものを持ってるじゃない……。
一心不乱にもみもみふみふみしていると、女が「うぅ……重い」と苦しそうな声をあげた。
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