勇者、異世界を行く!~勇者になった俺はハーレムパーティーで目指すよ理想郷!魔王だって楽に倒してあげるから!(涙)~
あずま悠紀
第1話
「おはよ!」
朝早く、俺は家の外から元気よく挨拶してきた少女に笑顔で返事する。この子は幼かった頃、いつも一緒に遊んでいた仲良しの女の子だ。家が近いこともあり、学校でも放課後や休日もよく遊んでいて今でも仲良くしている。だからだろうか、今日もまたいつもと同じように朝の待ち合わせ場所で合流して一緒に通学することになるんだなぁと思ってしまう。だが、その日に限ってなぜか少しだけ様子が違っていたのだ――
◆
「おはよう」
(あれ?)
家を出てしばらく歩く中、隣の家から幼馴染が出てくる姿が見えた俺は笑顔で声をかけたもののすぐに戸惑ってしまう。なぜならそこにいた彼女は、いつもと違って髪を結んでおらず寝間着姿で目元には泣き跡のようなものまでついているからだ。
一体何があったんだろうか?そう思いながらも、ひとまず気にしないことにして一緒に通学しようと歩き出す。しかしその時、目の前の彼女の足取りがおかしいことに気がついた俺は立ち止まって様子を確認してみる。するとどうしたわけかふらついて地面に倒れ込んでしまった。それを見かねた俺は急いで抱き起こしてみたのだが、顔色はかなり悪く呼吸もしんどそうだ。これは明らかに熱があるかもしれないと思い、とりあえず一旦近くの公園へと連れていくことにするのであった。
◆ そして公園内にあったベンチで彼女を座らせることに成功した俺は額に手を添えると案の定、かなりの高熱が出ており体温計で測ってみると39度もあった。やはり思った通り風邪を引いておりしかも相当悪化してしまったらしくとてもじゃないけど一人で歩けるような状態ではないみたいである。
(さて、そうなってくるとこのままだと学校に連れて行くこともできないなぁ。仕方ないから今日のところは家に帰りなさいと言っておかないとね)
そこでひとまず学校へ休む連絡を入れるよう伝えようとしたところで――ふっと視線を感じてそちらを見ると彼女が俺の方を見ながらじーっと何か言いたげに見つめていた。その顔はとても悲しげに見えるもので何かを訴えかけているように思えてならなかった。そのため俺が思わず口を開くと――
(えぇい!もうっ!!こうなったらとことん付き合ってあげちゃうわ!)
ただ黙ったままという訳にもいかないので俺は半ばやけくそ気味に声をかけるのだった。
「分かったよ。じゃあ今日一日だけだからしっかり治すんだよ?」
(これで良かったのかな?)
(どうしてあの人は私なんかのことを優しくしてくれるのだろう?こんなことをしてもらう理由なんて全然無いはずなのに。きっとただのお人好しなのかな?それとも実は私に恋心を抱いていてそれが暴走しているとか?それならいいんだけどそういう風に感じられないんだよね~)
それからというもの私は、彼が私の側に付いてずっと看病をしてくれたためかなり楽になってくることができた。最初は遠慮しようと思ったものの彼は絶対に譲らないといった態度を取ってくれたため仕方なく折れることになってしまったのだ。おかげで今は何も心配せず安静にしていることができる。しかし本当に不思議な気分になってしまう。今までずっと独りぼっちだった私が今はこうして誰かに構われているなんて。
(それにしても彼からは変な気配を感じるのよね~?まるで何かしら大きな力を抱えているかのようなそんな感覚っていうかなんと言うか?まさか本当に大昔の英雄が転生した存在なんじゃないかしら?まぁ流石にそこまでは考え過ぎだと思うけどさ)
ただでさえ普通じゃない状況になっているというのにその上更に転生者のおまけまでついてくるとは想像すらしていなかったよまったく。
だけど今の私にとってはどちらにせよ彼の傍にいることができていることが幸せすぎて他のことは全部どうでも良くなってきてしまっているけれどね!うん!
「おい大丈夫かよ」
俺と彼女は一緒に教室に入ると同時にこちらに駆け寄ってきた親友に声かけられるが特に何も問題ないことを告げておく。ただまだちょっと疲れている部分もあるから保健室に連れて行ってほしいということを伝えると彼女は快く受け入れてくれた。その後先生も来てくれるとのことで安心することができた俺は一息つくために自席に戻るとすぐ眠ってしまったのだ。
そしてどれくらい寝ていただろうか、ふとした違和感を覚えたことで俺は目を覚ますとなぜか周りにいた生徒達が俺のことを見てヒソヒソ話をしている様子が見えた。何やらざわついているようだが何があったのか確認するために俺は立ち上がるとクラスメイト達の方に向かっていった。するとなぜか全員こちらに注目しており、その目は皆揃って冷たいものだった。どう考えても良い雰囲気ではなさそうだ。(どういうことだこれは?)
とりあえずこの場は逃げるしかないと判断した俺は、慌ててその場から離れることにした。だが逃げ出そうとしたその時――突然腕が伸びてきたと思うとそのまま強引に引っ張られてしまい、俺は廊下へと連れて行かれてしまった。そこで俺はようやく誰が犯人なのかを知ることができた。なぜならそこにいた人物こそ今回の騒動を引き起こしたであろう本人なのだから――
「お目覚めかい?我が下僕よ」
「ああ、おはようございます。姫様」
俺はそう言って恭しく挨拶をする。そう、俺をここに連れ出した人物は王女であり俺の恋人でもあった。そして俺の現在の雇い主でもあるのだ。つまり俺は彼女に命令されてここまで連れ出されたということになる。
何故俺がこんなことになっているかというと、それは数時間前の出来事まで遡る必要がある。
『さあ、お前にはやってもらいたいことがある』
『なんです?』
朝起きた後、いつものように恋人の彼女の家で彼女の朝食を食べながらの朝を迎えた俺はいつも通りに学校へと向かうための準備をしていたのだが、そこでいきなりそう声をかけられた俺は何事だろうと問いかけてみた。
ちなみに俺は普段通り彼女には姿が見えるようになっているので朝になった時にもしっかりと声をかけてきている。なので彼女は朝っぱらに急に大声を上げてしまったりはしていないし周りの人達にも怪しまれるようなことも無かった。
しかしそうして話しかけてくる時の彼女の表情は何だかとても生き生きとしており、どうにも嫌な予感がしてならなかったが一応聞いてみることにした。すると彼女からは驚くべき言葉を耳にすることになったのである。
「今日は学校に遅刻してくるがよい。それと私のクラスに転入して授業を受けることにするのじゃ」
『はぁ?何だって?よく聞こえなかったからもう一度頼むよ。もう歳のせいで耳が遠くなったらしいんだ。すまないけど今度はもう少し大きな声でゆっくり話してくれないか?俺としては出来る限りはっきりと聞きたかったんだよね』
俺は一瞬何を言っているんだろう?と思い、冗談だよなと思い込んでついつい笑ってしまおうとしたところでハッとなりすぐに気がつく。彼女はいつも通り真面目な顔でこちらを見つめてきており、嘘や悪ふざけをしているようには全く見えずそれが本当のことなんだということを悟らせられてしまうのであった。
(何?何?マジで転校しろとかそういうこと言っているの?)
そういえばここ最近学校に来ていないのに何の連絡もなかった。てっきり風邪でも引いて休んでいるのかと思っていたのだが、もしかしたら彼女なりに気を使って俺に迷惑をかけないようにしていたのかもと思い始める。だがそれでもやはり唐突にこんなこと言われると動揺してしまうのは避けられない。そのためついつい呆れた様子を見せてしまう。
「おぬしは相変わらず鈍いのぉ。要するにじゃ、今日からわしとおぬしは一緒に通うことになったのだからちゃんと手続きをしておくから早く学校に向かうのである」
その言葉を聞き俺は思わず頭を抱えたくなるのであった。
『いや待ってくれ!流石にその言い方は無いんじゃないか!?確かに俺はあなたと付き合い始めたけれど、そもそもその話は親同士で決めたことじゃないか。それを俺の一存だけで決められるとか言われても無理なんだよ!しかもあなたの両親には俺が彼女の護衛をしてあげてるってことにしているから余計な勘繰りをされる可能性があるんだぞ!それにもし仮に通わせてもらったとしてそれで万が一本当に襲われたらどう責任を取るつもりだ!?それこそ俺だけの問題じゃなくなってきたらどうするつもりなんだよ!』
俺が必死に訴えるものの、やはり彼女はどこ吹く風と言わんばかりに全く動じずに堂々としていて。まるで自分の意見は間違っていないという風に胸を張っていたのだった。その姿に俺はもう何も言えなくなってしまっていた。(どうして俺は彼女とこんな関係になってしまったんだろう)そんなことを思わず思ってしまうのであった。
(くそ、このままじゃどうせまた押し切られるだけだ。なんとかしないといけない)
そこで何か対策を考えたかった俺は一旦落ち着いてもらうよう、一旦時間をおいて放課後になってから話すことにしようと提案し、何とか今日のところだけは諦めてくれないものだろうかと思い込んでみたところ、以外にもあっさりとその案に乗ってくれたのであった。ただその様子から察するとやはり俺のことをどうにかしたくて仕方ないみたいである。
(とりあえず今は我慢して放課後までは大人しくしてくれるってことで良いんだよな?よし!それなら後は俺の方でどうするか考えないとな)
俺は改めてそう思い直すと、どうしたものかと考え込むのである。
(そうだな、こういう時は一旦距離を置いて様子を見るとか、あとは俺に近づかせないようにしてなるべく一人にさせておくようにするとかかな。うん!これが無難かもしれないな)俺が色々と考えて出した結論はそれであり。それならきっと俺に近づいてくることはないだろうということで早速実行に移すことに決めたのだった。
そして時間は経過し現在は午後になり昼休みの時間となっていた。俺は弁当を食べ終わった後も教室から動くことなくじっとしていたのだ。そしてしばらくすると姫は一人で廊下へと出て行ったらしく足音が遠くなっていくのを感じた俺はホッと一息つき安堵したのだった。
(これでしばらくは安心だ。さて、姫が戻って来るまでに教室の掃除でもして待っているとするかな)そんなことを考えた俺は立ち上がり移動を始める。そして箒と塵取りを手に取って教室の隅っこに集まっていたゴミを集めて回ろうとしたその瞬間――ふっと視線を感じてそちらを見ると姫が教室に戻ってくる姿が見えた。俺はすぐさま掃除を中断し元の位置に戻るが彼女はこちらの方には一切興味を持たず他の子達と会話を始めてしまった。
それを確認した俺は内心ほっとしたのと同時に、これで俺にかまってくるようなことはないだろうと思い込みひとまず安心することができたのである。しかしそれも次の行動で一気に吹き飛んでしまった。何やら皆と一緒に楽しげな雰囲気になっているなと思ったらいきなりこちらに向かって歩いてきたからだ。まさかこちらに来るとは予想外だったためどうすればいいか戸惑ってしまい、慌てて立ち上がろうとするものの既に時遅く彼女の手が伸ばされてきて俺の腕を掴む。そのまま引っ張り上げられると無理やり立たせられてそのまま引っ張られるまま連れていかれることとなった。
『ちょっと待った!まさかとは思うけどこの手を放したりはしないよねぇ?もしもそうしたら俺は全力を出して逃げるからね?』
「うむ!分かっておる!ちゃんと離さないから心配せずともよい。さあ着いたから降りるのじゃ」
それからしばらくして俺は廊下まで連れ出されてしまったわけだがそこで俺は周りに誰も人がいないことを確認してから姫の肩を掴んで強引に引き離したのである。
「姫様あんまり調子に乗ると怒るよ?」そう告げるも姫は何も答えずただニヤニヤした笑みを浮かべていただけだったので、どうにも気に食わなかった俺は彼女の頬を両手で挟んで強引に唇を重ね合わせた後に舌を入れようとしたところ、突然腹部に衝撃を受けて後ろへ飛ばされてしまった。
『くっ』痛みに耐えながらも素早く立ち上がる。しかしそこにはもう姫の姿は無かった。一体どこに消えてしまったのかと見渡すも姿はなくただ彼女が去っていく音だけが響いているだけ――どうやら逃げられてしまったようだ。
しかし流石に手荒すぎたなと思うも後悔はない。むしろこれからも遠慮なしにどんどんやっていく予定だしそのつもりでいる。とりあえず今の目的は達成したのだ。なので俺は急いでその場から離れると誰にも見られない場所を探して隠れると、制服を脱いでから再び学校へと向かったのであった。
俺は授業中にこっそりと学校を抜け出してから近くの公園のトイレに入るとそこから更に着替えを行ってから学校に戻ると先ほどと同じように授業中だというのに廊下へと出た。そうして今度は保健室に向かい先生に相談したのだ。そこで事情を話すとベッドを貸してくれるとのことなのでそのまま寝かせてもらうことにする。その後俺は眠ってしまったのだった。そして目が覚めるともう放課後になっており、何故か俺の横に姫様が寝ていて驚いた。(え?な、なんで姫がここに居るんだ?さっきまで一緒に居なかったのに??)俺は動揺を隠せずにいると彼女は目を開いてゆっくりと身体を起こすのであった。
「ふぅーやっと目を覚ましたか?おはよう、気分の方はどうじゃ?」
「ああ、まぁ特に問題はありませんが、ところでどうしてあなたがいるんですか?俺が眠っている間にここに戻ってきたとかそういうわけではないですよね?」彼女の態度は普段と違ってどこか柔らかくなっているためどうやらこちらの言うことを聞く意思はなさそうである。そこで俺はここは一度素直に理由を聞いてみるべきではないかと判断すると聞いてみることにする。
『じゃあお聞きしますが、どうしてこんなところにいるのでしょうか?あなたは本来ならまだ学校で授業を受けているはずの時間でしたよね?それともう一つ聞きたいことがあります。俺が眠っている間どこで何をしていたかについて説明していただきましょう』
俺は強い口調でそう問いかけてみたのだがそれでも彼女から返ってきたのは予想外の返事で思わず絶句してしまったのであった。
「なんじゃそんなに怒って?わしとお前さんとの仲じゃからよいではないか。それに別にわしが何処にいようとおぬしには関係ないことであるはずなのではないか?わしとしては少しぐらいおぬしにも楽しんでほしいと思っているからこのような真似をしたまでの事なのじゃがな」
(いや、確かにそれは間違ってはいないんだろうけどさ、それって俺のことを気にかけてくれてるんだって分かるし俺としては嬉しいんだけれども。だけど俺としてはもっとこう恋人同士としての時間を大事にしたいんだよなぁ。俺の知らないところで俺の為にって動いてもらっても困っちゃうんだよなぁ)俺はそう思って姫にそう言ってみたものの彼女はこちらの話など聞く気が無いのか、はぐらかすように話題を変えて誤魔化そうとしてきたのである。
「それよりもお主はどうして学校に通わないのじゃ?こんなこと言いたくはないが、それでも普通に暮らしていくためには必要だと思うのじゃがのぉ~?」
『姫は勘違いをしているみたいだから訂正しておくけど、俺はあなたのお守りのためにこうして付き合っているわけじゃないからね。あくまでもあなたが危険なことに巻き込まれないよう傍にいて見守るようにと言われているだけだから。だから本来であれば学校に通っているのはあなた自身であり俺は関係がないから。そのことは理解しているんだよねぇ?』
俺は念を押してもう一度ちゃんと伝えておくことにしたのだが姫の反応は相変わらずであった。それどころかまるで俺のことを責めるかのように睨んできたのである。
(あれ?これってもしかして完全にやばいパターンになっちゃったんじゃないか?)そう思った瞬間俺は反射的に逃げようとするがすぐに捕まってしまう。そうして彼女の方を振り向かされると、そのまま押し倒されてしまう。抵抗するも相手の方が上手だったようで全く効果が無く、それどころかさらに密着される形になってしまい逃げ道が完全に塞がれてしまった状態になってしまった。
『ちょ、まっ!?待ってって!!本当にそれ以上はまずいって!俺にはもう許嫁がいてそいつから手を出したらどうなるかわかっているんだろうなって脅されてんだぞ!ここで問題を起こしたら本気でヤバいって分かってるんだろうね!?』俺は焦りつつも何とかして説得しようとする。けれど、姫は全く動じることなくただ微笑んでいるだけで。こちらの言葉に対して全く反応をしてくれないため、いよいよ本格的にまずいと冷や汗を流しながら何とかしてこの場を逃れるため考え始める。
そこで思い付いたのが俺のスキルを使うことだ。ただしあまりやり過ぎてしまうと相手に怪しまれる恐れがある。なのでギリギリを見極めなければならないがやるしか無いだろうと思い実行することにした。そこで俺はスキルを使うと姫が纏っていた服と俺にかかっていた力が解けていきそのまま裸になってしまう。俺は即座に彼女の上に跨っている状態から退いて距離を離す。それから彼女に背を向ける形で座り込んで着替えを行う。
すると彼女はようやく状況を理解してくれたのか恥ずかしさを感じたらしく、自分の着ている服を確認するなり慌てて着直すと、俺に文句を言ってくる。だが俺は気にすることなく、無視すると急いでここから離れようと動き始めたのだった。
「待つのじゃ!話はまだ終わっていない!何故逃げる?こっちを向きなさい!!」
俺はそれを無視するとそのまま廊下に出るとダッシュで教室に向かって走り出したのである。すると途中で何人かの生徒とすれ違うことになったが幸いなことに教室の中に入ってしまえば、他のクラスの生徒は入れないようになっていたので教室に入ればなんとかバレずにすむだろう。そう考えて急いで移動した。そして無事教室に入ることができたのでホッとするがその直後、俺は姫によって再び捕獲されてしまい結局教室内で色々と話をすることになった。そうしてしばらく時間が経つと先生が戻ってきてしまったために姫を連れて帰ることになったのだ。
そして現在、彼女はこちらの腕に絡みついており満足そうな顔をしていた。そして俺に甘えるようにして体を擦り付けてきているのだ。俺はそんな彼女を見て、なんだかなーと思わなくもない。しかし彼女は俺のことが好きなわけであり、そんな彼女を突き放すことなんて俺にできるわけがなかった。そんなことをしたら彼女は悲しむし、何より自分自身に嘘をつきたくないと思ったのだ。なので俺は仕方ないと思って受け入れることにしたのである。それから家に帰ると早速いつも通りに彼女とイチャイチャしながら一日を終えるのであった。
(ふぅーやっぱりこういう生活が一番だな。俺がやりたいことを我慢しないで過ごしていける。だからこそ今のこの状況があるのだろう。でもまぁ姫も頑張って色々と考えているようなのは事実なんだけど。しかしまさか俺のことを諦めたりはしていないよな?なんか凄く不安になってくるな。とりあえず様子を見るか。もしもの時は覚悟を決めておかないとダメかもしれん)
俺はそう考えると、姫と一緒に眠ることにしたのだった。そうして朝になるとまた彼女は俺に抱きついて眠っているため、俺もまた同じように抱き枕として一緒に寝ることになるのだった。そして姫が起きるまで抱きしめ続ける。そうしないと俺の寝床から抜け出してしまうので絶対に逃がさないためにも俺は必死なのだ。俺はこの子を守らなくてはならない。だから俺が先に起きると姫が起き出す前に部屋を抜け出してから学校に向かう。しかしそんな日々も長くは続かなかったのであった。
◆ その日も学校をサボると俺は家でごろごろしていた。流石に連日姫様のお世話をし続けるのは無理がありすぎる。しかも最近だと彼女が妙に積極的になったこともありかなり気苦労が溜まっている状態だった。そんな時のことである。家の外から大きな爆発音が響いたかと思うと、姫が血相を変えて駆け寄ってきたのである。どうやら何かあったらしい。俺は事情を聞くと、彼女の代わりに外に出てみることにして急いで玄関へと向かった。すると目の前では一人の少年が大剣を振り回し、暴れていたのである。
彼は黒い鎧を身に着けた黒髪の男であり、明らかにただものじゃない雰囲気を漂わせているため警戒していると、彼が突然こちらの方に目を向けて向かってきたのである。そうして振り下ろしてきた斬撃を俺は何とか避けることに成功したのだがその際に地面に当たって砕けた岩のかけらが顔面に命中して激痛に襲われていた。
そして痛みに耐えながらも俺は姫に近付くと庇うように立ち塞がった。そうしてから相手の様子をうかがうと、彼もまたこちらの方を観察してくると口を開く。
「ふーん?なかなかに骨のあるやつがやってきたじゃねえか。これは楽しめそうだぜ」
『悪いけど俺にはやることがあるんであんたと遊んでいる暇は無いんだよ』
俺はそう言って相手から視線を外すことなくじっと見つめていると彼は笑い声を上げ始める。
「がっはははははは!おい坊主。そんなに怖い顔して睨まなくてもいいじゃねーか。ちょっとぐらい相手をしてくれや」
俺はそれを黙殺する。すると相手がいきなりこちらに殴り掛かってきて俺の顔面を殴ろうとするが、俺はそれをあえて避けようとはしなかった。その瞬間拳は俺の頬に直撃して激しい衝撃に襲われることになる。そうして殴られたまま後ろに吹き飛ぶのだが、俺の体は空中で回転するとそのまま着地に成功する。そしてそのまま相手の方を向くと再び襲い掛かってきた攻撃を避けてから腕を掴むとそのまま投げ飛ばすことに成功する。すると彼は地面に叩きつけられると同時にゴロンゴロンと勢いよく転がり壁にぶつかると止まる。
(あぁーマジでいてぇ~~!!なんでわざわざ受け止めたりするんだ俺は。というかあのクソガキ。今すぐぶん殴ってやりたい)俺はそう考えながら痛みで苦しそうにしていると相手が立ち上がってこようとしていたので、仕方なくそちらに向かい歩きだす。
そして相手に向かって走り出し、まずは膝蹴りを叩き込んでみる。
「ぐはッ!?いってえ~~なぁ~このやろう!」すると相手は怒りの形相を浮かべるなり、こちらの顔面目掛けて頭突きしてきた。俺はそれを何とか両腕でガードして耐えようとする。すると額からピシッと音を立てながら亀裂が入り始める。
『ぐ、ああァ!ち、ちくしょう!!』
俺は痛みに耐えかねて思わずそう叫ぶとすぐに体勢を整えなおす。そこで俺は咄嵯にしゃがみこむと足元に魔方陣を浮かび上がらせるとその中心から火球が出現させる。それを確認した後すぐに俺は立ち上がると魔法を発動させたのである。
すると炎の弾丸が相手に着弾して炸裂すると周囲に燃え広がり周囲が赤く染め上げられた。そしてその光景を見守りながら荒くなった息を整えるのであった。
(や、やった。倒したのか?そう言えば俺ってどれくらいの実力になっているんだ?)俺はそんな疑問に思ったのでステータスを確認してみる。そうして表示された画面にはとんでもない数字が表示されていたので驚いた。
(な、なんじゃこれ?えっとレベルは100??一体いつの間にこんなに強くなったんだ?)俺自身信じられないものを目の当たりにして動揺していると後ろの扉が開く音が聞こえたので、反射的に振り返るとそこには心配そうな表情をした姫の姿が。
そしてその後ろには黒焦げになって倒れている男が居た。
「大丈夫ですか!すぐに回復しますから安心してください!って、きゃあ!?ど、どこ見てんのよこのスケベ!早く前を向きなさい!!」
姫の服装を見た俺は慌てて下を向いて見ないようにして彼女に謝罪の言葉を伝えると、彼女は少し不満そうな様子であったがすぐにこちらの治療を行ってくれることになった。それからしばらくして傷を完治させると俺は姫の質問に答えることにする。俺はスキルについての説明を行うと姫が驚愕していたのである。
そしてそれだけでなく姫が持っていたスキルとほとんど同じ効果を持っていることを教えると、彼女は凄く喜んでくれたのだ。そして俺はこの子に協力してあげることにしたのである。そうすれば俺自身の成長率を姫に分け与えることができるし、それにこの子がもっと強くなることで将来的に魔王軍との戦争に備えることもできるはずだからだ。ただ俺がこの子に協力するにあたって一つだけ注意しておくことがあるのだ。
それは絶対に俺の正体だけはばれてはならないということである。なぜなら俺はあくまでも一般人を演じなければ怪しまれるし、俺が勇者であることをバラしてしまうことは、彼女達にとっては命取りになってしまう可能性があるのだから、俺が正体をばらさないのであれば、俺にできることは最大限のサポートをすることだけだ。
そのため俺と姫はこれから一緒に行動することが多くなったのである。そうすると必然的に彼女と一緒の時間は増えていくことになるわけだが、当然のように姫に甘えるような態度を取ると他の女生徒が不機嫌そうにすることがあった。だが姫が俺にべったりとしてくるため嫉妬するような感じでこっちを見てきているのが印象的だ。
ただそんな中で姫と一番親しくしているのは意外にもクラスメイトの女の子である、名前は佐藤さんと言ってクラスのお姉さま的な存在として君臨している人物だ。そして彼女と俺は特に仲良くしており、最近では俺の趣味に付き合ってもらっていたのだった。◆ 2章終わり
「今日こそは貴方に勝って見せる!!」俺はいつも通りに授業が終わると、剣道部の部室に顔を出すようになっていた。
そしていつも通りに部長の篠川彩夏先輩が俺に竹刀を振るってくる。俺はそれに対していつも通りに避けてから反撃に転じるとあっさりと負けを認めていた。
(まぁこれもいつも通りの流れだけどさ。でもなんか段々と反応がよくなってきて、どんどん対応されてる感はあるなぁーまぁいいんだけどね。どうせ俺は彼女にとって倒すべき対象なんだしさ。まぁだからこそ彼女の強さの根源である力の波動を感じ取ることが未だにできないんだけど)
彼女が本気で戦っている姿を何度か見たのだがどうも俺の力の方が強すぎるらしくて全く通用しないようだ。しかし彼女の力は確かに強くなっていて俺の力が届いていないということは、つまり俺と彼女の力の差があるのだと分かる。しかしそれだけ強い力を持っているというのに、俺に対しては一切使って来ない。それがどうしてなのか分からないため、彼女は何を考えているのだろうかと不思議に思ってしまう。ただそれでも彼女はこちらに全力でぶつかって来ては、必ず俺のことを完膚なきまでに叩きのめしてくれるので感謝しかない。
(俺の修行のためにここまでやってくれてる人に感謝しないとダメだよな。ただでさえ部活の時間を潰させてしまっているっていうのにさ。だから俺も頑張って彼女よりももっと強くならないといけないな)
そして次の日になると朝早くから学校に呼び出されてしまうとなぜか生徒指導室まで連れて行かれてしまった。すると中には先生と数人の男子が待っており、その中には担任も混じっているようであった。俺はなぜここに連れて来られたのか訳も分からず、困惑した様子を見せつつも大人しくして座った。すると教師たちは俺のことを見るなり、何かを言いたそうな様子を見せていたが、とりあえず今はそんなことより大事なことを済ませてしまおうということで話し合いを始めた。どうやら今から俺がここに呼ばれた理由を話すらしい。しかし俺は心当たりがなく何が起こっているのかさっぱりわからない状況で困っていたのである。
そうしてようやく説明が始まる。なんでも俺の通っている学校の近くで殺人事件があったようで、どうやら最近その犯人がうちの生徒じゃないかと言われているので、確認したいということのようだ。
俺はそれをきいても何も覚えがないと言うと本当に知らないと答える。そもそも事件現場に近づいた記憶がまったくないので俺が殺したわけではないと思う。俺は正直にそう話すとやはり嘘じゃないのかと言い始めた。そしてその件で俺は呼び出しを受けてしまったのである。そしてさらに最悪なことに学校側もこの件に関して調べることになったのであった。
(俺って疑われてたって事?マジかよ。俺じゃないのに疑われるなんて。というか普通に考えたってありえないだろ。俺は普通の人間なのに)
俺は納得いかないもののこのままでは終われないためになんとかならないかと思い始めていた。ただそんな時であった。いきなり俺の家に警察官が訪れたのは、最初は何の冗談だろうと思った。だってまさかこんな場所に警察が来るとは思ってなかったから。
俺は玄関を開けるとそこには三人の警官がいたのである。その中の一人であるメガネをかけた若い男の人が俺の顔を見て驚く。それもそうであろう。俺はまだ未成年のはずなのだが、こんなところにいることがバレれば問題になってしまうかもしれないのである。しかもこの人たちは刑事だというではないか。これはマズイと思ってすぐに家の中に引っ込む。そして俺はすぐに親父に相談することにした。すると親父は慌てて家の中にやってくるとそのまま俺を部屋から連れ出したのである。
そうして俺達はそのまま家を出ようとしたのだが、ちょうどそこへパトカーが到着した。そして中からはいかにもその手の仕事をしているという雰囲気を出しているおっさんがこちらに向かって来る。
そうして俺は彼に事情を話さなければならないということになったのである。そしてそこで俺はある事実を突き付けられてしまったのであった。
「な、なんですかそれは?」
「ですからあなたの血液検査の結果から、あなたは実はもう高校生ではなくて、すでに大学生ぐらいの年の可能性があることが判明したんです」
俺はそれを言われた時に衝撃を受けて言葉を失ってしまった。
そしてそれと共に、あの時見た光景の意味を知るのであった。
あの夜、俺は夢の中で妙な光景を見たのを思い出す。そこで目の前にいた女性はどこか見覚えのある女性であり、俺の記憶に新しい人物でもあったのだ。俺はその女性が一体誰だったのかというのを考えると頭が痛み出す。
すると急に頭痛が起き始めると同時に脳裏に浮かんできた光景。そこには俺ともう一人の少女がいる。そう、あの黒髪の可愛くて優しい笑顔を浮かべる幼馴染の少女だ。
「おい、どうした!?しっかりしろ!!おい!」俺はそこでハッとなって意識を取り戻す。どうやら一瞬気絶してしまったらしく、頭を押さえながらゆっくりと立ち上がると周りを見渡す。そこは真っ暗な部屋の中のようで周囲には机やパソコンなどの機械がたくさん置いてあり、そして壁際に一人の男が立っていた。「やっと目が覚めたようだな」その男はかなり痩せ細った見た目をしており眼鏡を掛けていて、少しだけ髭が生えているせいもあってあまり良い印象を得られない。俺はこいつのことがよくわからなかった。そう、なぜなら俺には見に覚えがなかったからだ。俺はどうしてこんな所にいて、この人は一体何者なのだろうかと考える。
「君が一体どこの誰かというのは大体分かっている。だから僕は別に怒っているとかそういうのはない。だから素直に話をして欲しいんだ。さてまずは名前を教えてくれるかな?そういえば名乗っていなかったね。僕は神原直人というんだ。君は確か八月一日勇一くんだよね?僕の名前は知っていると思うけど改めて教えておくことにするよ。僕のことは直人と呼んで欲しい。あと敬語はいらないから気軽に話しかけてくれた方が嬉しいんだ。それに君の事は前から少しだけ話は聞いていたし、それで今日になって会えてうれしく思う。ところで早速本題に入らせてもらうが、単刀直入に言わせてもらえば、今回の件についてどうするべきか悩んでいるところだ。だから君に選んでもらおうと考えている。つまりはこちら側に付くかそれとも敵になるかという話なんだがどうだい、そっちに付いてくれるかい?」
俺はこの男がなにを言っているのか良く分からないため、黙ったまま相手の出方を見ることにした。しかしここで一つだけ分かったことがあったので質問をしてみることにしたのだ。俺はなぜ俺の名前を知っていてなぜここにいるのかということだ。すると彼は笑い始め、どうやら質問されるのが嬉しかったのか答えてくれる。
俺のことを以前から観察していたこと。そして今回のことについて俺に忠告をしようとやってきたのだというのだ。そうして俺の名前も知っていたわけだが、なぜか彼だけはなぜか俺の正体が分かるらしく、だからこそここにこうして俺に会いに来たというわけらしい。俺はどうして俺にそんなことをしてくれるのだろうと疑問に思ったがその理由については詳しく話す気が無いようだ。しかし彼が言った一言だけはなぜか心に引っかかってしまったのである。
「そうだね、それは簡単だ。単純に言えば僕は君の味方になりたいからさ。だからこそ今回は君にチャンスを与えるためにこうやって会いに来てあげたんだよ。でもね、もしかすれば今回ばかりは君の望まない結果になってしまう可能性も十分に考えられるんだけど、その覚悟があるなら一緒に戦おうよ」俺はどういうつもりなのかと聞いてみると、俺は彼の正体を聞かされてしまう。彼はなんと異世界の神の一人なのである。俺のいた世界とは別にある世界におり、その世界を救ってほしいとお願いしてきた。俺はそんな無茶な願いを引き受けれるほど、余裕のある人生を送っているわけではない。しかしどうやら俺は勇者としての力を目覚めさせることに成功したらしく、このままだと確実に命を落としてしまうことになると言われたのである。
俺は自分の身にそんなことが起こるなど全く想像できなかった。しかしもし本当にそうなってしまうと非常に面倒な事になると分かるとどうにも断りきれなくなってしまう。
そうして俺はしばらくの間、その提案を受けることにしてその日を終えることにした。
次の日になると、やはり学校に来ない方が良いと言われてしまい、俺と彩夏先輩と彩夏先輩の両親と一緒に警察署に向かうことになった。
そうして署に着くとすぐに俺達は会議室に通されそこで事情聴取を受けたのであった。そうして俺は事件の概要を聞いてしまう。そしてその内容とは――
「昨日の夜遅くに事件が発生して犯人の男は逮捕されました。名前は田上隆司といいまして今年で二十歳を迎えたばかりの青年です。犯人の男は現在警察に拘留されております。なおその男の供述内容なのですが、自分がやったと自供しているのです。犯行の動機ですが最近彼女ができて幸せな日々を送っていたということから、彼女に捨てられたので逆恨みをして襲い掛かり暴行を加え殺害してしまったということです。そして現場にあった彼女の持ち物から、被害者の女性の身元がわかり現在捜査をしている状況となります。ただ被害者は相当ひどい目に合わされたようで死亡する前にかなり抵抗をしていたようであり、それが余計に男の凶行を招いたのではないかと予想されています。以上になりますが、何かお聞きしたいことがありますか?」
俺はそう説明されると納得できない点がいくつかあったので尋ねてみると、確かに恋人同士で喧嘩していたということはあるかもしれないと、証言が食い違っていたため、俺達は完全に無罪放免というわけではなく一応取り調べをさせてもらってもいいかという許可が下りる。
そしてその日はすぐに帰してくれたが、どうやら俺は明日の昼頃にまた呼び出すという。そうして俺は家に帰らされることになった。家に帰る途中で、あの事件のせいで学校に戻れないとなるとこれから先一体どうしようかという不安に駆られる。しかし今の俺はどうすることもできず、結局その日の夜はそのまま家の中で寝ることになってしまったのであった。
そうして翌日、朝早くから再び警察から連絡があった俺は、学校に行くふりをしながら学校とは反対方向に向かったのである。そしてそこで待っていたのは例の男性、そう神様だと名乗ったあの人だったのであった。
俺がその場所にたどり着くと、そこにはすでに俺以外の人間が集まっており、そこで話を聞くことに。そのメンバーは俺の担任の先生と、警察、それと俺の父親がいたのである。そのメンバーが勢ぞろいした中で話し合いが行われる。そうしてまずは俺がどのような立場に置かれているのかの説明を受けることになった。
俺の立場は非常に難しいものであり、はっきり言ってしまえばどちらに転んでもおかしくはないのが現状だというのである。俺は正直な所この人が言うことが嘘ではないのかと思いながらもその話を聞いたのである。なぜならこの人はどうやらこの世界の管理人という立場にいるらしく、簡単に説明すると、俺たちの世界の管理人と同じような存在であるというのだ。そして俺達が住んでいる地球とは別の世界があって、そこは魔王が支配をしていて魔物が暴れまわっており、人類は危機的状況に追い込まれているらしいのである。
そう、俺達の世界で言えばまさにRPGのような感じである。俺はそれを言われると信じざるを得なかった。だって俺自身がこの人からそういった説明を受けていたからだ。俺の住んでいた地球という星では科学が発展し、そのせいで逆に魔法というものを扱える人間がいなくなり、その代わりに魔道具という物が発明された。そしてこの地球は様々な種族によって成り立っていたのだが、この地球の資源を狙い別の世界からやってきた者たちがこの地球に戦争を仕掛けてきたのだ。そしてその戦争で多くの死者が出てしまったために人々は絶望してしまうがそこでとある人物が立ち上がったのであった。そう、それがこの話に出てきた神様でありその人物こそが俺の父親である。
そして彼は、自分だけが特別な能力を持っており、それによって人々を守っているということなのだ。そして彼の娘である俺にも同じ能力があり、それを使うと不思議な事が起きてその力を発揮できるということを告げてくる。俺にそう言われても実感なんてわかなかったし、いきなり信じられるはずもなかった。そう、今まで普通の人生を生きてきて普通に過ごしていたのに、急にそんな話をされたって信じることなどできやしない。
俺は一体どうしたらいいのだろうかと考える。しかし俺一人で決めることはできないと悟ったため、俺はまだ結論を出すことができないと答える。するとここで俺はふと疑問に思ったことがあった。
「あのすみません。ところでその別世界にはどうやって行くことができるんですか?」俺は気になったことを尋ねる。そうすると俺が質問をするのを待っていたのか俺に対して異世界へと転移することができると言い出す。
「え?それってもしかして異世界に行くことができるっていうんですか!?」俺はその話がとても魅力的だと思い始める。
そして俺はそこで気が付いた。そう、俺は異世界に憧れていたというのもあるがそれ以上にゲーム好きだったのだ。そして俺は小さい頃からゲームで遊んできたがその中でも特にファンタジー系が好きだったのだ。だからこそ異世界というワードはとても興味深く心惹かれたのである。しかしそう思うのはやはり俺だけではないようで、他の人達からも異世界には行けるというと喜びの声が上がる。
こうして全員が行く気になってしまい、俺の意見も聞かずに連れて行ってもらえる事になったのである。だが当然だが全員連れて行くというのは無理だったようで一人だけを特別に招待するという形で話が進んでいったのである。俺は選ばれたことに内心喜んだものの、しかしよくよく考えてみるとその世界に勇者として送り込まれるのは危険だと判断した俺は断る事にした。
「あのすみません。ちょっと良いですか?僕はそういう危険な所に送られるよりは普通に行きたいと思っています。ですのでもしかしたら行かないとだめなのかとも思うのですが、それでも僕をその世界に送り込むのだけは遠慮させていただけないでしょうか?」俺は必死に頼むと、しかしそれを聞き届けてもらえることはなかったのである。俺はなんとかして異世界に行くことだけは断ろうと考えていたがどうしても俺を説得することができずに、そうこうしているうちに異世界へと連れて行かれることになったのであった。
俺は異世界に行くことを強制的に決められたことで仕方なく異世界へと向かうことにする。そしてその前に一つ頼みごとをしてみる。それは向こうに飛ばされてしまった時に俺に味方をしてくれるような仲間がいないかということであった。俺は勇者として送り出されるがどうにも俺は自分がそんなに強くないと思っているためできれば誰かについてきて欲しいと願うのである。
しかし誰もついてきてくれるものなどおらず俺が勇者に選ばれたことを妬むように見つめる目があるだけだったのである。俺はその視線から逃げるようにその場から離れていき、そして異世界に向かうのであった。そうして俺は、自分の父親と共に旅に出たのである。
「お父さん。もしかして今回の事件は僕達のせいで起こったんじゃないよね?」俺は不安になって聞くと、彼は大丈夫だと答えてくれたのだ。しかしその言葉を鵜呑みにすることはできなかった。俺の父親がそう言い切ると言うことは何かしら理由が有ると思ったからであった。しかしそんな不安な気持ちは、すぐに解決される事になる。俺はその世界についた瞬間すぐに自分がどれだけすごい存在になったのかを思い知らされてしまう。その世界にいた生物は全て俺のことを崇拝しているのである。それもそのはず、なぜなら俺は勇者と呼ばれるにふさわしい力を秘めており、それは世界を救い平和に導くことができるという事を俺は確信してしまったのである。そうしてその世界にいる人々からは俺が王になることを勧められたが俺はもちろん拒否して、俺はこの世界に住む人々を救う旅に出るのだった。
「あのー。もしもーし。聞こえていますかー」俺は自分の目の前に現れた人物に向かって話しかけるが、その人物は一向に返事をしてくれないのである。
そうして俺はようやく理解する。俺はどうやら死んだらしい。死因については分からないが俺は自分の部屋で死んでいるところを発見すると母親からの電話で呼び出される。そしてそのまま救急病院まで運ばれたのである。そうして医師の診断を受けた俺はその死亡の原因についての説明を受けたのであった。俺はどうやら交通事故に巻き込まれたらしい。そういえば朝早く出かけた時に乗ったタクシーは事故に遭ったのだと俺はその時に気づくのであった。
「それでですね、あなたの場合、残念ですけど非常に珍しいパターンの事故ですのでこれから色々とお聞きしなければならない事があると思います。なので今のうちに答えられる範囲でお聞きしますのでお願いしますね。そうすれば後々もっと楽にお話していただけるようになると思うので」医者に言われ俺は一体どういう事なんだろうと疑問に思いながらもそれに了承をした。そうしてまず最初に行われた事は脳検査だった。
そこで分かった事はまず俺は事故で意識不明の状態のまま病院の集中治療室に入っていたがその間も意識を覚醒させることなく眠っていたということ。さらに俺の肉体の損傷は激しくほとんど回復ができない状態だということも発覚するのである。そう、俺の肉体はほとんどの臓器や骨が折れてしまいほぼ使い物にならずこのまま生きていてもどうしようもないという状態だったのである。そして俺は家族に連絡をし、そして両親と妹が来るのを待つのである。
しかし俺が目覚めたというのに両親は姿を見せなかった。俺はその理由を聞いてみたがどうやら両親がこの場に現れていないのには事情が有るようであった。そう、俺はこれからどうなるんだろうと考えているとそこで俺の担当をしていた医者がやって来て、俺の今後の対応を話し出したのである。そうして俺はある結論に達したのであった。俺は死ぬのだろうなと。俺はあの病院でもう長くないと判断されておりその通りになったのだ。俺はそれを聞いた時には流石にショックは受けたが受け入れることに決めていたのである。そしてその時俺は思ったのである。ああ俺はここで人生を終えなければならないのだと――だが俺は諦めるつもりはなかった。なぜならまだ俺がやり残したことが沢山あったからである。だからこそ俺がやるべき事を考えたのである。俺はまずは自分の能力を確認することにした。すると俺は自分には特別な能力が有るということに気が付き驚く。なぜならこの能力はこの世にあるすべての魔法が扱えるというものだったのだ。俺はこれを知ったときには嬉しくて仕方がなくなり思わず飛び跳ねそうになったのである。俺はこれでどうにかできると希望が持てるようになり早速行動に移る事にしたのである。
俺はこの世界が剣と魔法のファンタジーの世界であることを理解すると、まず初めに自分の魔法が使えるか確認するために俺は手頃なものがないかどうか探したのであった。その結果、ちょうど良さそうな剣を見つけたためそれを手に取って試してみることにしたのであった。
そうして俺の能力を確かめるために俺は自分の体を斬りつけてみる。その痛みによってこれが現実であるという事を俺に伝えるとともにこれは夢ではないという事もはっきりと自覚させてくれたのだった。そして俺に切りつけられた部分は血を流し始める。そのことから間違いなく痛覚は正常に働いていることが分かった。
(なるほど、つまり俺の場合はこの世界で魔法を扱うことが出来るってことだよな?まぁこの世界で俺は勇者だからそれが普通なのかもな)そう考えた後に俺が次にやった事は自分の周りにバリアのようなものを張ることだった。そうすることでもし他の人間から攻撃されても守れるからであった。そうしているとそこで突然ドアが開かれる。俺は一体誰が入ってきたのだろうかと疑問に思って見ているとその姿を見て俺は驚きの声を上げる。なぜならやってきたのは母だったのである。
「おい!お前一体ここで何をやっているんだよ!」俺を見ていきなり怒鳴り散らしてくる。その声の大きさにびっくりした俺は慌てて手に持っていた剣を落としてしまう。そしてその剣を見た母は驚いた表情を見せると急いで駆け寄ってきて、俺の手を握る。
「大丈夫!?ケガとかしていないわよね!?あんまりお母さんを心配させないでよ。あんたってば、昔から危ないって言っていても聞かない子だったし、それでよくお父さんにも怒られていてね」「い、いいから。ちょっと落ち着いてって。とりあえず俺は平気だって」
「本当に?でも良かった。でもあんたがどうしてここに来ていたの?」俺はその問いに対して俺は、自分はここに転移された勇者でありこの世界の敵と戦って欲しいという内容の事を告げられたことを説明した。そうすると母はとても困った顔をしているのがわかった。
「そんな馬鹿げた話は信じちゃ駄目でしょ!?きっと悪い魔法使いが私達の息子に取り憑いて、無理やりこんな所へ連れてきたに違いないんだから!!早くそんなところから出る方法を考えましょう」と言ってきたのである。その言葉に俺は衝撃を受け、俺はどうやら自分がとんでもない勘違いを受けているのだと思い始めたのである。そして俺は自分が勇者だという事を告げる。しかし俺のその説明を受けても母は信じようとせず俺は困惑するばかりであった。
それから俺はどうしたものかと考える。俺は自分の母親がとても真面目な性格の持ち主なんだという事が分かったのであった。だからこそ自分の息子の言う事には全く耳を傾けてくれずむしろ息子を叱るように俺を説得し始めてしまったのである。
しかしそれでも何とか自分の言っていることを信用してくれないかと思って色々と話しかけてみるが結局俺が異世界の話をしてもまともに聞いてくれず、しまいには俺を精神病院に入れようとする始末だった。
俺はその状況に焦りを感じる。なぜならこの状況は非常に不味かったからだった。もしもこのまま俺の話を信じてもらえずにいると俺は一生をここで過ごす事になるのではないかと考えたのである。それは俺にとってあまりにも辛い展開だったためそれだけはなんとか阻止したいと思い、俺は必死になって説得を続けた。
俺としてはせっかくこの世界に来て初めて仲良くなった相手だったのにその人に嫌われるような事態になるのはごめんだと考え必死に俺のことを話し続けるのである。そうして俺の説得が効いたのか母は少し考え込んでくれたようで、俺の言葉を聞いてくれるようになり俺はほっとする。そうしてようやく俺は勇者になったことを信じる事ができたのである。しかしそこで問題が起こる。どうやら勇者として送り出された人間は勇者である間は国から支援を受けることが出来るようなのだが、俺はそれを拒否して自分で生活しようと決めたのだ。
しかし俺はまだ学生でバイトなどもしてないためお金が全くない状態でしかも家も親の家に住んでるため出ていくと住む場所がなくなってしまうという問題に直面しているのである。そのため俺はどうすれば良いのだろうかと考えて頭を悩ませていたのであった。そうしているとそんな俺の元に一人の少女が俺の前に現れる。
「お久しぶりですね、タクトさん」その声を聴いて俺は誰かなと思って見てみるとそこには俺と同じ学校の同じクラスの女の子であるユイの姿があった。彼女はこの世界の住人であるため当然俺が異世界の勇者だということを既に知っており俺の手助けをしてもらえるのかもしれないと思ったのである。なので俺は彼女からこの国を救いたいという願いを叶えて欲しければ私の手伝いをして下さいという頼みを受けたのだった。
その依頼を引き受けた理由は彼女がどういった人物なのかを確認する目的もあった。なので俺は彼女を試すようにその依頼を受けることにしたのである。そしてその結果俺は彼女が自分の思った通りの人物であり、彼女の力になっても良いかなと判断をする。その事をユノに話すとどうやら俺はこの世界を救うために召喚されその使命を果たすために俺に協力してほしいということを伝えると彼女は快く引き受けてくれる。
その返事を聞いて俺は内心ホッとした。なぜならこの先俺は一人だと思っていたが一緒に旅する相手が出来たことで孤独感がなくなったのである。そしてその事を喜ぶと俺とユノが仲間になったということで早速二人でこれからについて話し合った。そうしてこれからの行動を決めた後俺達は宿へと戻ることにする。しかし、俺達が宿に戻った時にはどうやら大変なことになっていたようであった。
「な、何が起きたんだよ。これ」目の前に広がるのは瓦礫の山であった。
俺は一体なにが起こったんだろうかと思っているとそこに宿屋の主人が慌てて俺達の方に向かって走って来たのである。そして彼は息を整えた後俺たちに話を始めた。
「申し訳ありません!まさかこんな事になるとは。お二人は今から避難をお願いします。この国は魔王軍が襲ってきたのです。なので私たちはあなたたちを安全なところまで誘導させていただきます。ですのでどうか今はこの国から立ち去ってください!」
「えっ?ちょっ、待ってって。今なんて言った?魔、魔王軍だって!?おい、ふざけんじゃねぇぞ!俺を元の場所に戻しろって!!」そう言って俺は宿屋の男に掴みかかるが男は必死に抵抗する。そうこうしていると今度はどこから来たのか分からない騎士風の男たちが集まってくると俺に剣を突きつけて取り囲む。その行動に流石に危険を感じた俺はすぐにユノを連れてその場から離れる。しかしその時に男達に剣で突き刺されるのを見て俺の心臓がドクンと高鳴ったのである。俺はその事に疑問を持ちながらとにかくその場を離れる事にしたのであった。
そしてその後ユナと合流しこれからのことを考え始める。俺とユナはとりあえず俺が泊まっている部屋に一旦移動することに決めて部屋に入ったのであった。
俺はこの世界がファンタジーな物語の世界であることを理解していた。だからこそこの国の人たちのあの反応には違和感を感じていた。俺はそのことを疑問に思いながらまずは自分の能力を確かめようと意識すると俺の前に文字が表示された。
『あなたの職業を選択してください』俺はその内容を見てやっぱりこの世界でも俺は勇者だったんだと嬉しくなってにやけるが俺は慌ててそれを誤魔化すと改めてこの表示に視線を向ける。するとそこには様々な職業が表示されていたがその数は意外に多く俺が知らないものばかりだった。
「うーん。どうせなら俺は剣を扱う戦士になりたいからこれでいくか。それにこの剣もあることだし。じゃあ、剣士っと」そう言い俺は表示されている内容の中から適当に選ぶとその職業に設定が完了すると突然頭の中に情報が流れ込んできたのである。俺は突然の事に驚いてしまう。なぜならこの情報が凄すぎて俺の脳みそではすぐに把握することができなかったのだ。その結果俺はその情報を上手く処理することができなくて俺はそのままその場に倒れこんでしまったのであった。
(ぐ、ぐるじい。これはマジできつい)そうやって苦しんでいるとユノが自分の能力を使い何かの魔法を発動してくれたおかげで徐々に痛みが消えていき呼吸を整えることができるようになると俺は立ち上がり大きくため息をつく。そうしてしばらく休むとその頃にはすっかり調子が良くなり俺はもう普通に動けるようになってしまった。
そうするとそこで俺は自分がなぜここに呼ばれたのかという事を思い出す。そして同時に俺はこの世界の現状を理解してしまったのである。
「なるほどな。こりゃ俺以外にも勇者が現れたってわけか」俺の他にも別の勇者が現れその人のおかげで俺が呼び出されたことを悟ったのであった。
俺はそのことを理解すると次はどうやってその人と連絡をとるべきかを考える。しかしその時ふと自分の持っている剣の事を思い出し、もしかしたら念話で意思疎通が取れるのではないかと考え剣を握りしめると剣に向けて話しかけた。(もしも聞こえているなら俺と会話して欲しいんだけど?)すると剣からいきなり女性の声で返事が来たのでびっくりしてしまう。
俺はまさか剣に人が入っていられるなんて思わなかったので本当に驚いた。
(え?ちょっと?君本当に大丈夫?なんかすごい変な事を言ってない!?)そうやって戸惑っていると突然俺はその声に聞き覚えがある事に気がつき声の主について思い出す。
「お前、俺と同じ勇者のタクトだな?」その言葉を聞いた途端俺の顔が青ざめる。なぜならこの世界は異世界の勇者同士が争い合うのが当たり前となっている世界だったからだ。俺は急いでその事を剣に伝えて戦闘を止めるように促した。
するとその言葉を肯定するように俺の言葉が響き渡る。しかしそんなこと俺には関係ないことだと思い無視する。そうすると今度はユイの言葉が返ってきて俺は思わず笑ってしまう。しかしそれと同時に俺はどうしようもない怒りを覚えていた。その理由としては自分が一番最初に見つけたのに自分が他の人間に殺されてしまったという事実に対するものであった。
俺はそれから自分の感情のままその相手に突っかかっていった。しかし相手の力は俺より遥かに上であったため結局簡単に返り討ちにされてしまったのである。俺はそれを見て自分よりも上の存在に対してどう対処したらいいのかと考えてしまう。しかしそこでまた俺は自分の体から光が溢れている事に気づくと、それはまるで自分を成長させてくれるかのように体がどんどん変わっていくのがわかる。そうして俺は完全に別人のようになった自分の姿を見て俺はその圧倒的な力を目の前にしてこの力が手に入れば俺も戦えるんじゃないかと確信を抱く。そうしてその力を手に入れるために俺は必死になって相手と戦う。
そしてようやく相手が本気を出してくれたので俺はその実力を確かめるとかなりの強さであり、この人の強さであればこの世界を変えることができると確信した。だがそんな事はさせないと思い相手に立ち向かって行ったのである。そうしてようやく俺はその人に勝つことができた。
しかしそんなことをしても俺の心には全く満たされず、この世界で生き残るにはどうすればいいのかを考え始め、そういえばさっきの男がこの世界にはまだ魔王がいるみたいな事を言っていたような気がしたのでその魔王を倒してしまえば問題はないのではないかと考えた。
俺は魔王がどんな人物か分からないが、少なくとも強い奴だという予想ができるのである。だからこの世界を生き抜くためには強さが必要だったので俺はその魔王を倒すことにした。しかしここで大きな問題が発生する。その問題というのは俺の仲間がユノしかいないという点にあった。
そう。俺は今から仲間探しをしなければならないのである。そしてそれは途方もなく大変であろうことは想像できた。そう考えるとやはりこの世界で俺が一番の弱っちぃ存在なんだなぁと感じるがそれでも俺は生きるための方法をなんとか見つけなければならないと気持ちを切り替える。そうしてとりあえずはこの場を立ち去ろうとユノを呼ぼうとした時であった。突如俺の脳内に声のような物が響く。その声に最初は驚くも俺はすぐにこれが俺と同じ勇者から送られているメッセージだとわかり警戒しながら声を出す。
(聞こえるなら俺と一緒に来て欲しい。一緒にこの世界を変えよう)
俺はそんな声を聞いて一瞬どういうことなのかわからないでいた。そして俺の事を騙すつもりじゃないのかという不安を感じるがこのまま放置すればいずれ殺されると悟ると仕方なくユノと共にその場所へ向かうことにする。俺はそうやって移動を開始したのだった。
俺達は街を離れ少し離れたところにある山の奥へと進んでいた。俺はユナの事を気にしていたが、ユナは俺と違って戦う力がないため無理に付いてこさせたら危険な目に合わせてしまう可能性があったため置いていくことにしたのである。そうこうして歩いていると目的地が見えてきたのである。
俺がユイと出会ったのは偶然ではなくユイの方は俺がこの街に来ることを知っていて待ち構えており俺に声をかけて来たのであった。彼女は自分の能力を使ってこの世界についての情報を集めていっておりその情報収集の過程で俺の事も知ることができたようである。しかし彼女の目的はこの国の王に会う事らしいのだが何故かユイの表情を見るとその王のことが嫌いらしくその事を尋ねるとこの国の王である男は自分の都合が悪くなるとそれを押し付けて国民を困らせる男だということを教えてくれる。
そしてこの国に来た理由はどうやらユノに会いたいがためにここまでやって来たという理由もあったようであった。俺もその話を聞いた時にどうして俺のことを知っていたのかが不思議だったがそういうことならば納得できる部分があったため特に深くは聞かない事にしたのである。
俺はその話を興味半分で聞いてみるとその王は確かに色々と問題を抱えている人物であった。まず第一の問題として彼の妹である姫様を勇者に惚れさせるために勝手に俺の嫁にしようとしていることである。俺の世界でも昔似たようなことがあり俺の妻になった女性は、実は彼から俺の事が好きなわけではないと知らされた時は酷く落ち込んでいた。
それに彼は勇者と魔王を対立させる為にわざと勇者に魔王討伐を任せたのだという。それによって俺の大切な妻に危害が及ぶ可能性も高かったのである。しかし彼はそれを上手く利用しようと考えていて俺達を利用したいという考えを持っていたのだ。そう考えてみると彼はどうにも腹黒い所がある人物であると理解できる。
(ま、あいつの話はどうでもいいか。今はユナを連れて逃げないといけないんだ。俺だってこの世界に来てすぐ殺されてしまってこの世界に何の未練もなかったのにこんなところで死んでしまうのなんて嫌だしな)
俺はそう考えユナが待つ場所に向かうとそこには先ほどユイと会話をしたユノの姿があり俺は思わず嬉しくなってしまう。俺はこの世界では唯一の信頼できる存在であるこの少女のためにもこの世界でも生き残れるように強くなってやるという目標ができてしまいこれからどうしたものかと真剣に悩んでしまう。
俺はこれからどうしたらいいものかと考える。俺はまずこの世界でもこの世界で生活していくためにこの世界でも通用する武器が欲しかったのである。そのため俺はまず武器屋に行く必要があると感じた。
「そういえば、これからどこに向かえば良いと思う?」俺は二人に質問すると彼女達がどこに行けば良いかわからないので適当にどこかに行ってみても良いのではという話になる。
(うーん。この辺のこと全くわかんないけど、俺一人だったらとっくにこの森を抜けて次の町に行っているはずだ。しかしそうなると俺は間違いなくユナの事を守れない。俺一人ではユナを守りながら旅なんて到底できそうにない)
俺はそうやって考えているとふとある事を思い出した。それはこの世界に召喚されたばかりの時にユナが自分にしてくれたことを思い出す。俺はそれを見て俺は彼女に頼ればこの世界の常識が手に入るんじゃないかと考えた。俺はそう考えて早速行動を開始することにして二人の手を握りしめ転移をする。
俺はそうして三人で森の中に入る。俺はユナの転移魔法を利用してここの森を抜けた先の村に向かっていたのである。俺はこの魔法について知りたかった。何故この世界には魔法というものが存在するのか、俺はそれがどうしても気になって仕方なかった。
「なぁ?お前の使っている魔法ってどんなものなんだ?詳しく教えてくれないか?」俺はユノの方を向き話しかける。すると彼女は俺の顔を見るなり頬を赤く染めると顔を背けてしまう。俺にはなぜそんな反応をしているのかがわからずに首を傾げていた。そんな俺の反応を見て二人は微笑ましそうに笑みを浮かべている。
(俺そんな変なこと聞いたっけ?)俺は疑問を持ちながらもそのまま話を続けようとした瞬間だった。ユイが突然笑い出して俺は彼女が何かをやったんじゃないかと思い怒ろうとするがそれよりも先に俺に向かって指を突き付けて来た。
俺はその行為の意味がわからなかったがとりあえずおとなしくしていると今度はユノまでクスリと笑った。
(なんなんだよ。俺の事を馬鹿にして遊んでいるんじゃないよな?)
俺がそんなことを考えているとようやく笑いが収まったのかようやくユナが話し出した。その内容はこの魔法の仕組みだった。
「これは、ユミちゃんの能力のコピーを私の能力で解析して使えるようになったの。それでユトさんにもできるように頑張って練習したの」俺はその言葉を聞いて内心驚きを感じていた。なぜなら俺が知る限りユノにはユミが使った魔法を発動するための条件をクリアすることができないからである。つまりそれは普通の人間にはユミの能力を模倣する事が不可能であるという証明でもあった。しかし俺の目の前にいるユナは普通にユマが使う魔法の発動条件をクリアしているように見えた。しかし俺はそれを指摘せずに素直に褒めてあげることにする。
「そうなのか、それは凄いな。お前は本当に優秀な奴だ。これでもユノの事を疑っているわけじゃないんだけどユノの言う通りならユイも同じことができるんだろうな?」俺は一応念のためそう問いかけてみた。
「うん!できるわ。私はユカにこの魔法を教えた事があるの。ユカの魔力をこの魔法に変換したの!」そう言って俺達に自慢気に胸を張っていた。俺はその姿を眺めて改めてユナという女の子が可愛いと感じてしまった。そうして俺達は森の中に入って行き目的の村を目指して歩き始める。
俺達はそれから数時間かけてようやく村の近くに到着した。俺はここまでくるまでにこの村にどのような施設が存在しているのかを確認したがこの村の施設は大きく分けて三つ存在しており、この世界で流通されている硬貨が製造されている場所である両替場と魔道具を製造している場所、それに魔物と動物などを狩るための冒険者組合があるということが確認できた。
俺はこの三ヶ所の中でどの場所に行こうかなと考えていたがユナはもう決めてあるようであり俺達を引き止める。どうやら彼女はユミと会うことが目的であったようでこの村に訪れた目的をユノに伝えるとユノはユミナに挨拶をするためユノと一緒にこの村の中心に歩いていくことになった。
そうして俺は二人を見送り一人残されたためこれからどうやって時間を潰すか考えていたのである。俺はこの世界での自分の立場について考えていた。まずこの世界に来たばかりなので当然金なんてものは持ってないし服も俺の世界から着て来た物しかないのでこれを買い換える必要もあるだろうなと思っていた。俺はまず何をするかを考えるがまずは食料を手に入れる必要があり、次に武器が手に入れば良いと思ったのである。
(まぁ当面はこの二つの問題を解決しておけば何とか生きていけるな)俺はそう思いまずは食べ物を確保することにした。この世界に来てから今まで食べていないからなのか腹の音が鳴り止まなくてどうしようもない状態だったのだ。俺はそんな風に思ってしまいながら近くにある市場に向かうことにした。市場というのはこの村の特産品などを販売する場所のことでありそこで様々な食材や料理が売られていることを知っていた。そしてそこなら色々と売ってくれているのではないかと考えて向かってみることにする。
俺が最初に訪れた店では俺の知識には無い野菜や果実が大量に並べられていた。俺は興味津々に商品を覗き込んで行く。そして色々と見て回っていたのだがその時店のおじさんに声かけられる。俺がその声に驚いて振り返ると店主らしき人物がにこやかな笑顔で立っていたのだ。
そして俺に何用かと聞いてきたので俺は今持っている手持ちがないことを素直に伝えて買えないかと尋ねると少しだけ驚いた表情を見せる。しかし次の瞬間には大声で笑うとその程度の金額であれば気にする必要はないと言ってくれて俺にその商品を売りつける。俺はその親切さに甘える形でその商品を買う事にしたのであった。そうしてから店を後にすると今度は武器を取り扱っている武器屋を探すことに決める。
この世界は中世ヨーロッパ風の世界観をしていてその時代背景はわからないが恐らく銃火器は存在していないのかもしれない。しかし魔法が発達したこの世界ならば銃のようなものも存在していても不思議ではないような気がしたのである。
そして俺はしばらく探すと剣の看板を見つける。どうやらこの店がこの村で武器を取り扱っていそうな店で俺は早速入ると中の様子を確認する。中には沢山の武具があり、俺は目を輝かせながら武器を見渡す。そうやって俺は興味本位で色々な品物に触っていく。
「あの、お客様は武器をお求めで?」俺が色々と見ているのを見て店主と思われる男性が俺に声をかけてくる。その質問に俺は素直にそうだと告げる。しかし男性は申し訳なさそうにしながら今は仕入れの最中であるためすぐには用意できないと伝える。
それを聞いた俺は仕方がないと考えながら他の物をみようと振り向いた時、俺は一つの商品に目が止まる。俺は思わず立ち止まりじっと見つめていたがそれは短剣のようだったが俺はそれがどうしても気になり近づいてそれをまじまじと見ることにして触れた。
その瞬間俺は頭に痛みを感じ始めてしまう。俺は頭が割れるような激痛に耐えられず膝をつく。それと同時に目の前の短剣から膨大な知識が流れ込むように流れてきて頭痛に堪えられなくなった俺は意識を失うのであった。
俺の目の前には先ほど俺が見惚れて手に取った武器が置かれていた。どうやらこの武器に一目惚れしてしまったらしく衝動買いをしようと決意し値段を聞こうと話しかけることにする。だが店主はなぜか無言になっており俺の声が聞こえていないのかと思い俺は何度も声を掛けたが一向に返事を返してくれなかった。俺はその態度が少し不気味だったので逃げようとするもいつの間にか出入り口が無くなっていた。
(どういうことだ!?いったいこれは??)俺は動揺しながらもこの状況を理解するために辺りを観察していた時、背後から突然何かが現れて首元に刃を当てられる感触を感じる。しかし俺はそれを特に気にすることなく後ろを振り返りその何者かの顔を見ると俺は絶句してしまうのだった。なぜならそこに現れたのはユナの姿だったからだ。
(おい、嘘だろ。ユナはここにいるはずなのにどうして俺の後ろに現れることができたんだ)俺はそう考えながらユナを警戒するように睨み付けるが彼女の様子は何もおかしい所がなく俺はますます困惑していた。ユナは何をしているのかと言うと何故かナイフを両手に持ち替えていてこちらに向かって来ているのである。
俺がユノが俺に危害を加える理由が無いと考えていたその時、彼女は突如笑い出して口を開く。俺はそんな彼女を呆然とした表情で見ていたがユナは笑った後急に悲しげな顔つきへと変わり泣き始める。俺はそんな彼女の行動を見てさらに戸惑ってしまう。
俺がなぜ泣いてしまったのかと心配して駆け寄ろうとすると、ユナは涙をぬぐってから俺に襲いかかって来た。
ユナが俺を殺そうとしてくるのを必死に抵抗しようとしたが全く力が及ばず俺はユノに切りつけられてしまう。そして切られた場所は腹部でありそこから血が流れ出してしまっている。俺の体は傷つくと同時に回復を始めておりその効果によって俺の怪我はどんどんと回復していっていたが俺はまだユナに対して攻撃をすることができずにいた。
(なんなんだよ!本当に一体なんなんだ?)俺はそう叫びながらユナの攻撃を避け続けた。俺はユナの動きから本気で殺そうとしていることが感じられてしまったのである。しかしいくらユナが攻撃をしてこようとも俺は殺すことができない。ユナの攻撃を俺が全て回避して見せたことでユナは次第に怒りの形相を浮かべるとそのままの勢いで体当たりを仕掛けて来たのだった。
「くっ!」俺はユノがぶつかった反動で地面に倒れ込み、ユノはすぐさま馬乗りになる形となりユノは拳を振り下ろし始めた。しかし俺の身体は強化されているのかユナは殴っても蹴ってもまったく効かないことを悟ったらしい。それでも攻撃をやめずにユノは無我夢中で殴り続けてきたが次第にユナの手は腫れ上がり始めていた。そうするとユナは俺の顔を力いっぱい殴ってきたが俺はビクともしなかったためユナはさらに怒った。ユナはまるで獣のような声を上げながら暴れ狂っていた。
そうして俺の上で暴れ続けているとユノが急に動きを止めたため俺は怪しみながらもゆっくりと起き上がると、ユナの全身は傷だらけになっており出血もしており酷い状態となっていた。俺はこんな状況になっているにもかかわらずまだユナは戦う意思を持っているようで立ち上がる。
「ユノ、落ち着け!ユノ!!いい加減にするんだ!もうこれ以上続けるのはよせ!!」俺はユノがもう動けないであろうことを悟り彼女を抱き寄せて無理やり拘束して止めさせることにした。そうしないといつまでも戦おうとしているから俺は必死になって止めることにした。そうして俺達はその場で座り込んだまましばらくの間沈黙が流れるが俺はユミのことを尋ねることにした。するとユミは既に俺達の前から姿を消されておりどこに行ったのか俺達にもわからなかった。俺はそのことに落胆したが仕方ないと諦めることにした。しかし俺達にとって困ることに村を徘徊している魔物に殺されてしまい遺体だけが残っているということであった。俺はその事実を聞いて心が張り裂けそうになる。ユミは死ぬ直前まで村を護るために一人で奮闘していたということを知り、そんなユミを助けられなかった自分が憎くなった。
それからしばらくしてからユナは落ち着きを取り戻した。俺がもう良いからとユノに言い聞かせると素直に従ってくれて大人しくしてくれたのである。それからユカも無事だったことを伝えてから俺はもう夜も遅くなったので宿を探すことにしてこの村に滞在することにしたのであった。
俺が泊まった宿屋はそこそこ大きな規模のところでこの国では一番の宿泊施設なのだそうだ。そういえばこの国は王都が存在し、そこがもっとも発展した場所であるという話は聞いているがここからでは確認できないので実際に見てみたいところではあった。ちなみに今俺が寝泊まりさせてもらっているこの宿屋は貴族御用達とのことでとても豪勢なつくりとなっており、従業員の人達が全員女性なこともあってとても華やかな内装となっている。
そして俺の部屋の隣は当然ユナに割り当てられているわけだが今日一日色々とありすぎてかなり疲れていたためすぐに眠たくなってベッドに入った俺は朝まで起きることは無かった。そうして次の日の朝、目が覚めた時にはいつものように姫とユメちゃんの二人が部屋に訪れていて挨拶をして学校へと向かうのである。しかし昨日の出来事もあり、この二人にどこまで事情を話すべきかと悩んでいたのだ。そして授業を受けている間も俺は悩み続けそして昼休憩の時間に俺は姫様に話しかけられたのだ。
「勇者、ちょっと相談したいことがあるんじゃが」そんな風に俺を誘ってくれた彼女に内緒話があると言って場所を移すと俺は自分の秘密について全てを打ち明けるのだった。そして全てを理解した二人は俺にこれからどうするつもりか聞いてくる。俺はもちろん元の世界に帰りたいのだがそのためにはまず元の世界に帰してくれる存在を見つけないといけないという結論に至り、俺が今やっていることがまずは情報収集のため冒険者ギルドに行くところだと話す。それを聞いた二人は納得した様子を見せてくれた。しかしそんな二人の中に一人、不満そうに頬を膨らませた女の子がいる。
そして俺はとりあえずこの村を出る前にもう一度だけ冒険者として依頼を受けておくべきだと考えその旨を伝えると、それなら私達が一緒に行ってあげると言ってきた。俺がどうしてかと聞くとどうやら二人は元々そのつもりだったらしくて俺を驚かせるために黙ってついて来るだけになっていたらしい。それを聞かされた俺は苦笑いを隠せなかった。そうしてから俺は三人で仲良く冒険者のギルドに向かう。
俺は道中の屋台で昼食を購入してから向かおうとしたら、途中でまた武器屋の主人と遭遇した。そしてどうやら武器を売って欲しいと言うと店の中に入れてもらえて俺は武器を見始める。俺が真剣に見始めると先ほどの店主は嬉しそうに俺の様子を眺めていたが少ししたら店主の方から話しかけてきたので会話を始めることにする。そこで色々と店主と話をしてみたのだった。武器の素材は魔鋼と呼ばれるものを使っており武器自体はそれほど高くはない値段設定になっているようだったが俺はその剣を買うことにした。
俺はその剣が気に入ってしまったため値段を聞かずに買ってしまったが後に聞いた話によるとその剣の本来の値段は100万円を超えるような金額が設定されていたらしい。そのことを後から聞かされて冷や汗を流すがまぁ必要経費ということで気にしないことにしてその場を切り抜ける。それから俺はお腹が減っていたこともあり店主に何か作れないのか尋ねたら快く引き受けてくれ料理を出してくれることになった。
その料理とはどうやらラーメンと呼ばれる代物でありこの世界に来て初めての食べ物であったため非常に興味深かった。俺がその味に驚いているとどうやらこれは俺のいた世界の日本では有名な麺類らしいと言う事を知る。それを知った俺はいつかは自分も自分で作れるようになりたいと決意する。
そしてその日から数日間、俺が武器の代金を稼ぐためにクエストを受けた結果、俺はこの国のことや俺の知る情報を手に入れることに成功した。その結果として俺は魔王を倒すために必要な道具を手に入れなければいけないことを知るのである。その道のりはとても険しそうではあったが、それでも絶対にやり遂げようと俺は決心をするのだった。
(俺は絶対元の場所に帰るんだ。それにしてもあの店主、俺の作った武器を見て何も聞かなかったな。俺が作ったことは分かっているはずなのに。何か変な人だな)俺はそう思いながらも武器を作ってもらえるかもしれないと思いながらその足で先ほど訪れた武具屋へと戻っていく。俺はそうやって戻ってきたのだがやはり店主はいなかった。
俺が残念そうに溜息を漏らしながら店内に入ると、店の隅っこで何だかさっきよりもさらに落ち込んだ表情を浮かべながらブツブツと呟き続ける男性がいた。その男は俺に気づくと急に笑顔になりながらこちらへ近づいてきて握手を求めてくるので俺もその手を握る。それから俺は男の話を聞くとどうやらこの人は俺が以前売った短刀を買ったらしくてずっと大事に使わせてもらっているということを教えてくれた。
「いや、まさかこれほどまでに素晴らしい品に出会えるなんて私は思ってもなかったよ!君は一体どんな職人さんなんだい?ぜひ一度君の顔を見たいな。ああもちろんお金ならいくらでも出すつもりだよ?」と俺に向かって興奮気味に話し掛けてきて俺は若干引いていた。俺がどうしてなのかを尋ねてみると、その人の職業はどうやら鍛冶師で、俺の作る商品に惚れ込んでしまったから弟子入りさせて欲しいということなのだ。俺はそこまで熱弁されると思っていなかったので、その人にどうして自分にそんなことを頼んできたのか理由を聞いてみるとなんとその人も昔は自分と同じように職人をしていたらしくて俺はその時に見た作品を思い出し、同じようなものを作れる人物に会いたかったのだという。それで彼はその当時の師匠が亡くなってから独学でここまでたどり着いたらしい。俺は彼にそこまでして俺の作品を買ってくれたことに感謝して、後日俺が愛用している作品をいくつか持ってくることを約束したのだった。
俺は彼との話がひと段落ついた後、今度は彼が俺に色々と質問をしてきたのでそれに答えたりして過ごしたあと店を出ようとしたときに俺は彼に声を掛けられて立ち止まった。するとその男が言うには俺は俺のことをどこか懐かしさを感じると言っていたのがどうにも気がかりであった。もしかしたら俺の知らない俺を知っている人間ではないのかと考えた俺は念のために彼の名前を確認すると、それが正解で俺は驚いた。なぜなら俺の知っているその名前は本名の苗字がそのまま使われていたからである。しかもこの名前はこの世界に存在しているはずのない俺の本当の世界での名前で間違いはなかったからだ。俺が自分の記憶を頼りに目の前にいるのはもしかして俺の知っている人物である可能性があると告げると、彼は目を細めて思い出すかのように俺の顔をジッと見つめ始めた。そして数秒間そうした後にハッと何かに気づいたかのような顔をした後、急に涙を流し始めてその場で泣き始めたのである。俺は突然のことに戸惑ったが何とか慰めると落ち着かせて話を聞いたのである。
そうすると俺の思った通り俺がかつて出会った人物であり今は鍛冶屋を経営しているその人は、俺が中学生の時に通っていた学校での俺の同級生であることが判明した。ただ、なぜこんなところにいるのか俺には不思議に感じてそれを尋ねると彼曰くどうにも最近夢を見るようになったそうだ。その内容は自分が勇者になって仲間と共に冒険をし最終的には魔王を倒すというそんな内容の夢だという。そしてこの話をしてくれた理由は彼の職業である鍛冶屋というものはどうも特殊な技能を持っていてそれを習得するのに苦労をしたのでそういう話に興味を持っていた俺に聞いてみてもらいたいと思ったそうだ。そして彼は俺に対してこう言って来たのである。
「俺と一緒に元の世界に帰らないか?俺はこの異世界に飛ばされてから何度も元の世界に帰りたいと思っていた。しかし俺はもう元の世界では生きていけない。それどころか俺が生きていたという痕跡がこの世界には全く無い。だからもうどうすれば良いのかわからなかったんだ。だけど俺はようやく元の世界に帰れる方法がわかってきたんだ」
そう言ってきて俺の肩に手を置くので俺は驚きつつも俺も同じ気持ちであることを伝えたらとても嬉しそうな顔を見せてくれて俺はこの人と一緒ならば帰れるのではないかと期待に胸を膨らませてしまう。しかしまだ問題も残っている。俺はそのことを告げるためにこの店にある武器の値段について話すとどうやらこの店の武器は全てがかなりの業物で普通は手が出せない価格設定をしているそうだ。だが店主である彼だけはこの国で一番の武具を扱う職人として認められているためかなり融通が利くとのことで、そのおかげで俺が欲しい武器を優先的に作ってくれることになったのだった。
ただ一つだけ注意しなければならないのが俺の持つ剣についてのことである。どうもそれは普通の人が使うことができない代物のようで俺以外に扱うと体が耐えきれずに壊れる可能性が高いと言われたのだ。つまりは俺が扱える武器を俺に作ってくれるということになったので、俺の望む形を説明し、そして出来上がったものを受け取ったのだった。その形は刀と呼ばれる種類の武器であり、鞘に収められると剣は姿を消すが柄を握れば現れるという不思議な武器だ。その説明を受けた俺はこれしかないと確信し、代金を支払うとこれからのことを考えて剣の名前を決めることにした。しかし、そう言ったセンスに関しては皆無なのでどうしたらいいのかわからない俺は、とりあえずは何か適当に名前を付けることにし、その武器に合う名前を考えている最中に俺はその剣がまるで意思を持っているかの如く独りでに動いたように思えたのでそれについて尋ねたらその正体がわかったので俺はかなり驚くことになる。その刀は自分の体の一部のようなものであり所有者以外が使う場合は自分の体を酷使するような感覚に襲われるということがわかったのである。それから俺はまだ完全に完成するまで時間がかかるようなので一旦家に戻ることにするのであった。
そうしてから俺はユメちゃんを連れて自宅に戻ると姫様も一緒について来ると言うので一緒に連れて行くことにしたのだが彼女は何故か俺の部屋に入る前に少し恥ずかしがっていた様子を見せていてその理由が気になったのでそのことを聞く。
「あ、あんなに沢山おっぱいでご奉仕をしたのは初めてじゃったからのぉ~流石に我も緊張してしまったのじゃよぅ。だって男の人ってああいう風にお、おっぱいでおもてなしをするものだって教えてもらったのでな!わはは!」と言い訳をしてきた。俺はそれを聞き苦笑いする。ちなみに彼女が言ってくることのほとんどが俺の妄想を膨らませるためのものだったのだが今回は真実が混じっていたため俺はその言葉を信じることにするのだった。そうして家に上がった二人はなぜか俺の私室に入ってくるなり、その中の様子を確認し始めたので何がしたいのかと思いながらもその様子を黙って眺めていた。そうすると二人が何を探し求めていたのかはすぐに判明することになったのである。
なんと彼女たちは部屋中に散乱している本を見て驚愕の表情を浮かべながらこちらを振り返って俺の方へ迫って来た。その行動があまりにも速かったので反応が遅れてしまい逃げ遅れて捕まってしまうが、すぐに振りほどくことに成功したので二人を問い詰めてみることにする。するとその質問に対する回答として出てきたものは驚くべきものであり俺が持っていたあのエロ漫画だったのである。まさか俺以外の人間にその作品の存在が知れ渡っているとは思ってなかったので思わず俺のテンションがおかしくなってしまったことは許して欲しい。まさか同じ世界に同じような作品が作られていたとは想像だにしなかったからだ。しかもその内容というのが主人公の男の子は元の姿のままでヒロインたちとラブコメを繰り広げるというものだったのである。
(うーん確かに俺の趣味としては合ってなくはないけどやっぱりあの主人公が俺に似ててなぁ~でも女の子たち可愛かったなぁ。特にお姉さんタイプの女性が最高だ)と俺はそんな感想を抱きながら先ほどから俺のことを見つめてくる彼女達を見てそう思うのだった。すると俺がそうやって別のことを考えるたびに二人の視線はどんどん冷たくなっていくのがわかり慌てて意識を切り替えることに専念するのである。
俺がその本を持っていたのは本当に偶然の産物であってたまたま拾ったもので決してやましい思いで買ったわけではない。その事を正直に伝えると一応納得して貰えて俺は一安心する。しかし、ここでまたもや新しい情報を得ることができた。なんと、この世界にも同じ作品が存在していることが判明したので、もしかしたら他にも俺の作品に似たようなものがあって、それなら俺の作る作品に興味を持ってもらえてこの世界に来たのかもしれないと思う。そこで俺は二人に対してこの本に出てくる主人公たちのように俺と恋愛ごっこみたいなことをしてほしいと告げた。最初は何を言っているんだこいつといった目で見られるかと思っていたが、以外にも簡単に受け入れられて逆に困惑することになってしまったのである。
そんなこんながありながらも三人で俺が今まで読んでいた本を読んでいたので俺はその間に新しく作る予定の作品を紙に書いてまとめていく。するとどうにも集中できなくなってしまった俺はあることを思いついた。それはどうせならば俺に惚れ込んでしまったという設定のキャラクターを作ろうというものである。そして実際にこの子たちにはその役を演じてもらおうと思ったのだ。それで俺は頭の中でイメージしたその女性の性格が大人しい性格だった。しかし実際は違った。その人物の内面は非常に活発な感じの子だと判明した。そしてどうにも俺はその子のことが放っておけなくなったらしくつい構い倒してしまうのだった。
俺の作ったキャラクターの名前はサーヤという名前にして、見た目は俺のイメージした通りの少女で、身長が150cmくらいで黒髪ロングヘアーで、眼鏡をかけておりとても清楚な容姿をしていた。俺は彼女にこの国のことについて聞いてみるとどうやら今現在この国は他国との戦争状態にあるのだということを知ったのである。そのせいで国はとてもピリついた状態になっているようだ。俺はそんな国の様子を想像して不安に思ってしまいどうしようもない気分になってしまう。
そこで俺の考えていた計画が早速実行に移すときが来たみたいである。そう俺が考え始めたのは俺の作り出した架空の存在の女性に戦争を止めて貰おうと思ったからだ。そうするとこの世界の平和のために戦わないといけなくなるが、俺はこの国が大好きな国なので守りたいと思っている。だからこそまずはこの国で最強になれる力を手に入れたらいいんじゃないかと考えた。その方法はどうするかというとその力を宿すことのできる剣を俺自身が作ればいい。ただ、その剣に名前を付けなくてはならずどうにもその名前が決まらない。そして俺にネーミングセンスが壊滅的なレベルでないことが仇となってしまうが、この剣を作るためには俺にそれ相応の覚悟がいる。しかしそんなことではめげずに名前を考えることに必死になり頭をフル回転させてどうにか決めようとした結果――その刀の名前が決まると俺はホッとしたのだった。そしてその瞬間俺は何かを掴めた気がしたのでこれからやるべき事を決めてしまう。それがこの剣を使いこの国を守るということである。
そうと決めたらさっそく行動することにする。この刀が扱えるかどうかを確認するために俺は姫様に剣を作ってくれる鍛冶屋を紹介して欲しいとお願いしたところ快く了承してくれた。どうやらこの刀を作った鍛冶屋を知っているらしく俺がその鍛冶屋に行くという目的に着いてきてくれるようだった。
そしてその店に向かう途中に姫はこんな話を持ち掛けてきたのである。
「実はのぉ、その剣は我が知る限りじゃとかなり扱いが難しいのじゃ。だからもしお主がそれを扱うことができると分かれば、我もその店に連れて行こうと思っておったところなのじゃ。そしてそれは恐らくこの国のトップレベルに位置する者たちしか扱えない代物で、その剣には使用者を選ぶ力が備わっておるから、普通は扱うことはできないはずじゃ。しかしそれをどうしてお主が使うことが出来るのかはわからんがとにかく楽しみじゃ。そういえば、この国にはその剣を扱うことのできる者がいるのじゃが、そやつは少々特殊なスキルを使えての、なんでもどんなものでも斬ることができるという恐ろしいやつなのだ。まぁ、その剣を使っても勝てるかどうかはわからないがな。その者の実力はかなりのもでその国に一人しかいない勇者と同等の力を持つと噂されている。それにあやつが持っている剣は特別な剣で、どうやら他のものでは歯が立たないほどの強力な力があるとされている。それは、所有者が死ぬまで所有者以外には剣を使うことができないという代物のようじゃ。だがその者は自分が気に入ったもの以外一切触れようとはしないから困っておるんじゃよ」
そんな話を聞いていた俺がもしそんなものがあれば便利そうだなと感じるのと同時に、その所有者をなんとかして説得して仲間に加えられないだろうかと考え始める。そうすればかなりの戦力になると予想し、何とか俺にその剣を持たせられるように交渉しようと考えたのである。そうこうしている間に俺と姫は目的の場所に到着する。
すると俺はそこの景色を見て唖然としてしまった。なんとそこに広がっているのは大量の人混みであった。それもそのはずそこはこの王都で一番大きいと言われている場所で多くの武器屋が立ち並んでいるのである。しかもその武器の種類は豊富であり武器が好きな人なら絶対に楽しめるスポットとなっているらしい。
俺はその光景を見ながら興奮していたのだが、それよりももっと凄まじかったのが姫様の方である。彼女は目を輝かせながら子供のようにウキウキしながら店内に入ろうとしたが、その前に俺の方に振り返り、ニヤリと不敵な笑みを見せながら「お主に我の分も楽しんでこいと言っておくからの!まぁお主が我を置いていったときはお仕置きをするつもりじゃったがな!あはは!」と告げられた。それを聞いた俺は一瞬で顔面蒼白になり慌てて弁明をするのだった。そうしないととんでもないお仕置を受けさせられる予感がしたのである。
それから中に入るとその光景は圧巻だった。まさに夢の王国のような世界で俺の心を鷲掴みにする。しかし俺はある一つの疑問を感じ、その事を質問するために店のカウンターにいる人に声を掛けると、どうにも俺と同じ転生者が店主をしておりその人物が俺と似たような目的でここに来たのではないかと考える。俺は彼に色々と尋ねることにするとどうやら彼の方も俺と同様に異世界転移をして来たようでこの世界を満喫するために来たのだということを教えてくれた。その人は俺と境遇が似ており親近感が沸いたのである。しかし彼はあまり人と話すのが好きではないのか俺がいろいろと話しかけようとする度に逃げるようにしてどこかへ行ってしまうのである。俺はその行動があまりにも不審だったので後をつけることにした。
その道中で俺はこの人が何をしようとしているのかを考え始めその思考を遮ろうとするものがいたが、その妨害を振り切って考え続けとうとう結論へと至ったのである。その答えというのが俺と同じように自分の作り出すキャラクターたちに世界を救う英雄になって欲しいということが考えられた。そう考えると俺はこの人の邪魔をしたくなくなりこの人に協力することにした。その決意を言葉にした瞬間に俺はその人から握手を求められたのである。そしてその時に俺は彼とは仲良くなれそうな気がした。その根拠というのはお互いの世界では物語を作っているのだからそういう風に感じたのだ。
そうして俺と店主は意気投合した状態で買い物を続けるのである。
そこで俺たちはある情報を得ることが出来た。その情報とは、俺の作る作品に出ている女の子たちの外見的特徴を知っていたのである。まさかそんなところから情報が漏れ出しているとは思ってなかったので少し焦った。そこで俺はこの世界にそんな漫画が存在し、それが俺の創作であるとは気付かれていないのだと察する。ただ、なぜこの世界にそんな漫画が存在しているのかについては不明のままなのでいずれわかる日が来るだろうと楽観的に考えてその件については放置することにした。しかし、俺はそこでさらに驚くような事実を知ることになる。
なんとあの本の作者である作者本人がこの店に姿を現していた。そのことに気が付いた俺は驚いて声を出しそうになった。なぜならその作者の容姿がどう見ても俺が作ったキャラクターたちと似通っていたからである。そんな驚きに包まれながら俺と店主は二人で雑談を始めたのだった。
するとその人物はこんなことを言い出したのである。どうにもその作品に出てくる主人公を自分に重ね合わせて考えているらしくそんなことを聞かされてしまうと俺まで恥ずかしくなってくるが、この人の作品はどれも素晴らしいものだと俺は心の底から思っていたため俺はこの人を応援したくなったのだった。そして俺がその人物の書いた作品のファンだと告げると向こうは嬉しかったのかサインを求めてきて俺に書いてくれることになったのである。俺はそれに快く応じてあげるとその人は喜びを爆発させたかのように叫び始めたのだった。そんな様子を見ているとどうにもその様子がおかしくてついクスッと笑ってしまっていたが、すぐに表情を取り繕い冷静な態度を取ることに成功する。しかしそれでもその人物の様子に変化は見られなかったのだった。
そしてその出来事から数日が経った頃のことである。俺はある問題に直面してしまった。俺が作り出したキャラたちがどうなっているのかをまったく確認していないという現状が判明したのだ。その事に気づいた瞬間、俺は絶望的な状況に追い込まれた気がして頭を抱え込むが、どうにも諦めきれず俺は姫様に事情を話してみると姫は俺のその話を聞いた瞬間から顔を真っ青にして今の状況を思い出したかのごとく動きを止める。そしてしばらく固まったまま動かない状態が続いたかと思うと突如ハッとした様子を見せる。そして姫は何があったのか説明し始めると俺はその言葉に衝撃を受ける。なんと姫は最近、戦争の準備に忙しく俺の相手をしている余裕などなかったとのことだった。そのため姫はずっと部屋に閉じこもり戦争のための準備を進めていたため、俺が学校を休んでいる間、教室には誰もいなかったと聞かされたのである。そして姫は申し訳なさそうにしながらも俺のことを見つめると「すまぬ。戦争のせいで今お主が通う学園には戦争が終わったあとじゃないとお主が通えなくなってしまうかもしれないからお主だけ先に帰らせるぞ?」と言われた俺は思わず姫様のことが心配になる。その俺の心境を見抜いたのか姫は微笑みかけながら頭を撫でてくれたのだった。そして姫はその笑顔を最後にその場を後にしたのだった。
こうして俺は戦争の起こる場所へと向かうのだった。
姫と別れた俺はそのまま戦争が行われる場所に急行することになった。俺が向かっている先は戦場となっており、その規模はこの王都よりはるかに大きくこの王都からかなり離れているにも関わらずこの距離からでも戦闘音はしっかりと聞こえるほどだった。俺はこの国を守るために急いでその場所に向かうとそこにはもうかなりの人数が集まっておりその数はすでに二千人を超えているというほどの多さである。しかもそんな人達の中に一際目立つ人物がおり、それは勇者として活躍している男である。
俺も昔に何度か戦ったことがある勇者であるが、その力は異常とも言えるもので一人でこの世界の全ての国を相手にできるほどである。
そんな化け物と俺は戦わなければならなくなってしまったのである。だが、俺はその事を気にせずとにかく自分の役目を全うしようと思い、俺の仲間である仲間たちを探すことにした。しかし、探しても見つからないどころか、そもそもどこにもいないのである。俺はあまりの恐怖感で体が震えてくるが、それを無理やり押さえつけて前へ進むことを決意する。しかしその時、一人の少年から俺に対して声を掛けられる。
「あんたが魔王軍と戦うための助っ人ってやつか。しかしどうして女の姿をしているんだ?てっきりこの国最強の姫様が相手してくれるのかと思っていたがどうやらお前が代わりに戦うらしいな。俺の名前はアスターというよろしく頼むぜ」
俺が女だからという理由で馬鹿にするような態度を取っていたので腹を立てたが、今はそのことで怒っている暇は無いのでとりあえず無視することに決めてその事を伝える。そう、今の問題はそこではなく、俺がこれからやらなければならないことについてだった。
しかしそこで突然、アスターの様子が変わり急に大声で叫び始めたのである。何が起こっているのかわからない俺だったがその異変の原因はすぐ傍で起きていた。それはこの王都が襲われたということで俺は焦る気持ちを必死に抑えながらも戦いを始めることにする。そしてその敵の姿を確認すると俺とはまったく違ったタイプの人間であることに気づく。その姿は醜く、とてもではないがこの王都の住民とは思えない姿であり、どうやら俺の予想は当たっていたようでこいつがこの王都を荒らしている元凶らしい。
そんな敵を目にして、俺は怒り狂った状態でそいつに向かって剣を振るうが簡単に避けられてしまい、反撃される。なんとかそれを回避することは出来たが俺の体には大きなダメージが残りその場に崩れ落ちるように膝をつくと敵は俺の方を見ながらあざ笑う。その行為により完全に頭に血が上ってしまった俺は敵を殺そうと攻撃を繰り出していく。そうすると、なぜか敵のスピードが落ち始める。
(おかしいな?攻撃は当たっていないはずなのに?)そんなことを考えていると俺の動きがどんどんと遅くなりとうとうは完全に動けなくなったのである。そして俺は地面に倒れるがどうすることも出来ずにいた。そうすると今度は敵に攻撃を仕掛けようとした男が目に入り俺はどうにかして伝えようとするのだが声が出ずその言葉も伝わらないのである。しかし男は俺に近づいてくるといきなり拳を叩きつけてきたのである。
しかし、その一撃を喰らっても痛みは無くどうにもおかしな話だとは思ったが、俺はそんなことを疑問にしている時間はなかった。その一撃だけで終わらせずに俺のことを攻撃し続けているからだ。しかし俺はどうしようもないので黙ったままされるがままにしていたのである。
そんなとき、目の前の景色が変わったような感覚に陥ったのである。俺はその光景を見て目を疑ったがどうやら夢ではなく本当にその光景が広がっているようなのである。そんな現実離れをした光景を見たことにより、俺の心の中で何かが崩れ落ちていきその光景に飲み込まれていった。その瞬間、俺は気を失ってしまったのである。
気を失ったせいで記憶が曖昧になっており、自分の意識が戻ってくるとそこには見知らぬ風景が広がっていた。そこは薄暗い空間でどうにも俺以外の気配を感じることが出来なかった。そのことに不思議に思うと俺は誰かに話しかけられてそちらを向く。その先にいたのは仮面をつけた黒髪の男でありどうやらその人物は俺に話しかけたわけではなくただただ独り言を話していただけのようである。そのことからその人物はおそらくこの国の王族なのだと思ったのだった。
「あの小僧はどうにも役に立ちそうもないがあいつの能力だけは本物みたいだな。まさかこんな能力を持っていたとはさすがの俺でも想像していなかったぞ。まあこれでこの国が俺のものとなる日が一歩近づいたというわけか。俺のために働くのであれば多少の事は見逃してやるから精々頑張ってくれよ?くっくくくくく」
その不気味な笑い方は俺を不安にするものでありどうやらその人の性格が捻くれていることがわかる。俺はこの人物がどういう人物なのか気になったのでその人にいろいろ聞いてみることにした。その質問はなんでこの世界に来たかということだ。
しかしそんなことを聞いてどうするのかと尋ねられた俺は特に考えることなくなんとなくのノリで答えを返してみるとその人は俺の事を気に入り俺にいろいろアドバイスをしてくれた。そんな親切なその人のことがもっと知りたくなった俺はさらに詳しく聞きたいと思いそのことを聞くと教えてくれた。その人物の名は、カグラという名前らしくその人物と俺の間には不思議な繋がりがあるような気がする。そしてその人は俺にこの世界で生きるために必要な力を与えてくれると言ったのである。
俺は最初、その申し出を断ろうとしたがこの世界について詳しい人物と仲良くなっておいたほうが後々のためになると悟るとその言葉に従うことにし、その力を授かったのだった。
そしてそれから数日経ったある日の晩のことである。俺はふと夜中に目が覚めてしまったので気分転換に夜の散歩でもしようと思い外に出ることにした。そう、俺にこの世界で初めて与えられた力は俺の体を女性へと変えていたのである。最初はそのことを受け入れることが出来ず、どうにも俺はこの世界の魔法とでもいうべき代物を受けてしまったのかもしれないと考える。
しかし、どう考えてもこの世界の人間ではありえないほどの身体能力を持っていることに気づきどうやらこの体のことは真実だと思い知らされたのだった。しかしそれでもこの変化が受け入れられなくて俺はしばらくの間その事を考える。しかしどうしようもないのでとりあえず今は現状を受け入れることにしたのだ。しかしそれでもどうしても俺はこの変化を受け入れられずにいるとその人が突然現れたのである。
俺の前に現れた人の正体はあの時、俺を助けてくれた人だった。しかし、俺を助けたときに見せた素顔とは違う容姿をしていたのだ。そしてこの人こそ、カグラさんという人物であり俺はこの人に命を救ってくれただけでなくこの世界を平和にするためのヒントまでもらえたのである。その人からこの世界のことについていろいろなことを教えてもらう。この世界の名は『ユミル』といい、そしてこの国の名前は『シルフォード王国』という。そして俺はなんと、王女の護衛として召喚されていたということがわかった。しかしそれもその筈で、俺は元々勇者であったからこの世界に呼ばれたとのことだった。俺はその事実を告げられ少しだけ納得した。
なぜなら俺はその当時の記憶が一切残っておらずその部分だけ綺麗に抜け落ちていたからである。だが、その理由はどうやらこの力が俺に宿った時に何かしらの問題が発生したらしい。
その問題というのは俺の中に眠っているもう一人の存在が関係しておりそのおかげでこの世界へ転移された際に何らかの影響を受けたのではないかと思われる。その問題はどうやら俺がこの世界に馴染むためには絶対に必要でこの世界のルールに逆らえないようにするという役割を担っていたのだという。だからその問題を消してしまった俺はその分、この世界への順応性が下がってしまったということである。俺はそれを聞くと俺はもうこの世界の常識というものがわからないからこの世界に順応するまでは苦労するだろうと聞かされその通りなので、これからの俺は大変だろう。そんな俺にその人物は優しく微笑みながら手を差し伸べてくれたのである。
俺はその行為に対してお礼を言うがこの人はなぜこのような行動を取っているのかよくわからなかったためその疑問をぶつけてみる。するとその人物はどうやらこの国を支配しようとしている人間の一人だということが分かった。その話を聞かされてどうりでこの世界について知っていることが多いわけだと納得できたのである。だがその人物が俺に対してそこまでの親切心を見せる理由がわからなかった。そのため俺もその理由について問いただしてみたがその返事は返ってこなかった。俺はそんな態度を取る人物のことがますます気になりその人を信用しようと決めたのである。
俺はその後、自分の家に戻るのだがその際にある事件が起きてしまう。俺は家の外に出るのが怖いと思ってしまったためどうしたらよいのかと困っていると、そこに一人の女性が駆けつけてきて俺はその女性の手に抱き着くと俺はどうすれば良いのか尋ねる。その人は俺のことを守ってくれると言ってくれたので、俺はそれならば一緒にいて欲しいと告げる。すると彼女は了承して一緒に寝るということになった。そして、その人のおかげで俺が眠れるようになった頃に俺は目を閉じて深い眠りについたのだった。しかし、そこでまた夢を見ることになる。それは今まで見た中でも一番の夢である。そう、その悪夢の内容は俺がこの国の人々に襲われるというものである。しかしなぜか襲われているのは俺の方で俺のことを襲ってくる人々は皆、顔がぐちゃぐちゃに歪んでおり、その顔はどれもこれも見覚えがあった。
俺はどうしてこんなことになっているのか不思議でならないと疑問を抱いていると俺の目の前でいきなり大男が襲いかかってきて俺の首を掴んで持ち上げてきたのである。しかしなぜか苦しさを感じずむしろ安心感を抱いていたのである。俺はその男が誰なのかが気になっていたのである。しかしその答えを俺が得る前に俺は目を覚ましてしまう。俺は何がなんだかわからなくなり混乱していると俺が目覚めたことにその人物が気づく。俺はまずその人物の顔を確認する。そこにはいつも俺の世話をしてくれている人物と同じでどう見ても別人だと思えず、どうなっているのかさっぱりわからなかったのである。そう、その人物は実はカグラという名の人物であり俺はそのことを教えられたのだった。その人物はなぜか自分の素性を隠すために別の名前を名乗ろうとしていたらしいが結局、俺と二人きりのときだけその本当の名前を名乗るらしい。
俺はそんな人物の事を信頼してもよいのかどうか不安になるもののこの人の言葉に従えば俺の命は救われると確信が持てるほどだった。そうしてその人は今日から自分が護衛につくとそう宣言してきた。俺はそれを受けるしかないと思い、受け入れようとするとどうも様子がおかしいことに気づく。その人物は突然震えだすと急に倒れてしまったのである。俺はそんな様子を目にして慌てて駆け寄るとその人物がとんでもない怪我を負っていることがわかる。
しかも、その人物の正体はどうやら国王様であるらしくその人がこんな姿になっている原因を突き止めるべく、俺が調べようとしたところその人物がそれを遮ってきた。どうやら俺には見せられない光景が広がっているようでその人の気持ちが痛いほど伝わってくる。そんなことをされると逆に気になってきてその人の邪魔をしない代わりにその光景をこっそりと眺めることを許してもらったのである。
俺はそれから数日間はその人物と行動を共にしていると、どうやら何者かに殺されてしまい俺とそいつの間に奇妙な繋がりが出来てしまっていた。そのことに困惑するもどうにかしなければと頭を悩ませているとあることを閃く。
俺はその人の死の原因を自分の手で作り上げればその人物の恨みは晴れるのではないかという仮説を立てて、俺の体に起きた現象を利用することに決める。そして、この人物の復讐を果たすことを決意する。その人物の望み通りに事が進むようにするために。
俺はそれから自分の身を守ることに精一杯でありそのせいでこの世界のことや俺に起こっていることに関しての調査がまったく出来なかった。しかし、この世界では力がすべてという風潮がありその言葉の通りこの国の人達は自分より強い者を恐れ、そして排除しようとしているらしい。そのことを証明するかのように俺の周囲には敵ばかりが集まってきていて俺はその連中から逃げ惑う毎日を送っているのだった。俺はこのままではいずれ殺されてしまうと思いこの世界について知るためには誰かに頼るしか無いと判断して助けを求めるために行動に移す。そうすることで何か変わると信じての行動だったのだ。
俺はこの国を牛耳る人物を特定すべく情報を集め始めた。俺はその人物について知らな過ぎるのである。その人物が誰かもわからないしどんな能力を持っていてどのように生活しているかも知らないのだ。だからこそその人物をこちらから見つけ出す必要があると思ったのだ。
俺はすぐに動き出してある場所に向かった。そこはその人物が住むとされる屋敷でありその建物は豪邸と呼んでいいほど大きくその外観だけでどれだけの力を持っているのか一目瞭然であった。俺の想像をはるかに上回る大きさであり、一体この国はどうやってこのような資金を得たのか不思議なくらいのものだった。
しかし俺はそれに負けじと勢いよく門を押し開けて敷地内に入っていく。そして堂々と玄関から入るとその人は出迎えてくれた。俺は早速本題を切り出そうとするが、どうにも相手は俺のことを快く思ってくれないらしく門前払いを受けてしまったのである。だが俺は諦めることなく、なんとかこの世界で生き抜く術を手に入れるべくその人物にお願いする。その願いが届いたのかは定かではないがどうやら俺の話に興味を持ってくれたらしく俺を部屋に招き入れてくれたのである。その部屋はなんとも高級そうな装飾品が置かれておりその人は俺に対して飲み物を出してくれる。その出されたものはコーヒーのようなものでどうやらこの世界ではかなり貴重なものみたいだ。俺はそれを飲むと苦さに悶絶し、顔をしかめながらも飲むのをやめない。その味はとてもじゃないが飲めたものではなかったが俺の目的はこの世界の事を知ることで飲み続けるうちにその人の話が面白くなりその話に夢中になってしまう。
俺は気が付くとその人物の口車に乗せられるようにいろいろな質問をしていた。俺はその人にもっと話をして欲しいと言うとどうやらいうことを聞いてくれたようでありいろいろ教えてくれるようになったのである。その人からの情報によるとこの国は『ユミル王国』といい、俺を召喚したのはこの国の第一王女であり名前は、カグラという名であることが判明した。そしてその人物の能力はこのユミル王国の王族に伝わる『カグヤ』と呼ばれる特殊な能力を受け継いでおりそれが彼女の切り札のようなものだと聞いた。
俺はそのことを聞き終わると、カグラという人物は本当に凄い人なのだと改めて思い知らされることになる。そのカグラという人物に俺は興味を抱き始めていた。そしてこの世界に召喚されて数日、この世界のことを調べるどころか、この国の住人と仲良くすらできていないという現状をどう打破するか考えていた。だがこの問題を解決するためにはどうしてもあの人物が必要不可欠だと思い俺はその人物を探し回ることにしたのである。俺はあの人なら何かしら解決方法を教えてくれるに違いないと思っていた。俺はそう考えると俺はその人の捜索を始める。
俺はその人物を見つけてこの国に蔓延する問題を何とかできないか聞いてみるが残念ながらそれは無理だという返事が返って来たが俺としてはそう簡単にあきらめることはできなかったのである。俺がしつこく頼み込むとそれだったらと提案を持ち掛けられる。それはこの王都から出て別の町へと旅をしてみた方がいいと言われたのだった。しかしそんなことは今は不可能に近いため却下しようと思うのだが俺の意見にその人物はなぜか反対する様子もなくむしろ賛成している感じだったのである。
その理由を聞き出すとその人はこんな言葉を言ったのだ。「君はこれから大きな力を得るはずだからね」その人物は続けてこう告げた、「君はまだ自分の本当の強さに気づいていないからね。だからいろんな世界を回って強くなってからまたこの城へ来るんだ。その時は僕の部下になる覚悟を決めてね?」その人は最後にこんな言葉を言い残していったのであった。俺はどう返事したら良いのかわからず曖昧な態度を取ってしまう。その人が言っていることを理解することができなかったからである。ただ俺のことを鍛えてくれるということだけは分かったので感謝してその言葉に従うことにするのだった。俺はその後その人を信頼できる存在だと思うようになり、その人物の指示に従って行動することに決めたのである。
俺は自分の力を試すように暴れていた。俺は自分の力を使って、自分の大切なものを傷つける奴が許せない。そう、これは俺にとってとても大切である人の記憶の一部。俺は自分の意志でその人の力を借りて、敵を駆逐することにした。
俺の前に突然現れた人物に対して俺は何もできなかった。どうやらそいつには俺が攻撃しても全く通用しなかった。そいつはまるで俺を馬鹿にするかのように俺を見つめてくるのである。そしてそいつは俺に襲ってきた。俺はそれをよけようとしたがその前に俺は攻撃を受けてしまう。そいつの拳をもろに受けて俺は大きく吹き飛ばされてしまう。
俺が立ち上がるとそこにはもうそいつもいなくて俺は悔しくて仕方がなかった。でも今はとにかく俺のことを心配してくれているあの子のもとに早く帰らないと俺は気が気でならなかった。俺はあいつを倒してまた戻ってくることを約束した。すると俺の中にいた彼女が俺の事を励ましてくれているような感覚に陥り、そのおかげもあって俺はまた立ち上がることができたのである。そう、彼女はいつも俺の事を助けてくれているんだ。彼女はいつも傍に居てくれる俺の心の中の女神なんだよ。
俺はそれからその人の言いつけ通り、まずはこの国から出ることにしたのだった。そうしないといつまでも俺はこの国に閉じ込められると思ったからである。そして俺にはどうしても知りたいことが一つあった。なぜ自分がこの世界に呼ばれてきたかということだ。俺は自分が呼ばれたのはその力が目当てだと勝手に決めつけて、この世界を救う為だとは考えていなかった。なぜならこの国の人達が俺のことを勇者として呼んでこき使おうとするから、この世界はそんなに平和じゃないと俺は判断したのである。俺の考えではこの世界の問題はきっと他の世界から俺のように無理やり連れて来られた人間がたくさんいるはずで、そいつら全員の力を合わせないとこの国だけの問題では済まなくなると踏んでいた。俺一人でこの国をどうにかできるわけがないと俺は確信しているので、やはり仲間を集めるべきだと考えていたのである。俺がその結論に至った理由は俺がここに居る理由であるからだ。俺には全く分からないのだが俺にはその資格があると言われているらしい。だが俺はこの世界で何の資格もない人間でありその言葉の意味が全く理解できなかった。その言葉に従えば俺は魔王と戦う運命から逃れられないことになる。そんなの嫌だ。
俺の能力は戦闘向きではなくどちらかと言えばサポートタイプなんだと俺自身分かっている。それでも俺はこの能力に自信を持っていたしこの能力のおかげでここまで生き延びてこれたのだと思っている。俺にこの異世界に来るまでの経験が役に立つとは思えないがそれでも何かしらこの世界でやれることをやろうと心に誓っていたのである。俺に力があればこの国の王様も俺にこの世界での生き方とかいろいろアドバイスしてくれたりしてくれるかもしれないと期待を込めて。しかし、この国はどうにも好きになれなかったのである。俺にとっては特にメリットがなく逆にデメリットしか生まれないこの場所は嫌いでしかなかった。だからと言って俺はすぐに立ち去ることもできずにずるずると滞在し続ける結果となっていたのである。
ただここで過ごしている間もこの国が抱える問題点について俺自身も知ることとなり俺のこの国の認識が変わる出来事が起こるのであった。俺はある時ある男に出会い話をすることになるのである。その男は見た目から明らかに一般人ではないということが分かったのだ。俺は一応武器を構えていたがこの男の余裕のある姿を見るとどうやら俺を殺すつもりは無いみたいである。だが油断してはいけないのである。そう俺の勘は言ってくるのだった。その人物から感じる力は尋常ではなかったのである。俺の力じゃ絶対に太刀打ちできないことはすぐに分かったのである。だからこそ俺は下手な行動を起こさずにその男が話しかけてくることにだけ注意を払っておくことにした。
俺はある男と出会い話をすることになり警戒していた。しかし俺の考えは甘かったのである。俺はすぐに自分の浅はかな思考回路を後悔することとなった。なぜなら俺にこの国を出ることを決意させるくらいの強烈なインパクトを与えてくれる人物と会うことが出来たのである。俺の目の前にいるその人はなんとこの国の第一王女だったのである。しかも、その王女様はなぜか俺の事を知っていたのであった。俺は一体この人は何者なのか分からなくなり混乱し始める。そして俺の正体もバレてしまっているし、どうしてこんなことになっているのか意味が分からなくなっていたのである。
その人物は俺のことを呼び止めるとなぜか俺の体をまじまじと見始めてきた。そして俺の腕を掴んだと思った次の瞬間その手から不思議な力を感じるのであった。その力によって俺は意識を失いそのまま倒れてしまったのである。一体何が起きているのか俺にはよくわからなかった。しかし目を覚ますとそこは見たことのない豪華な部屋の中でベッドに寝かせられていることがわかった。俺はその部屋に違和感を覚えて起き上がるとそこに立っていた人物と目が合う。
俺が驚いてその人物を見てみるとなんとその人物は俺がよく知っている人物である。
俺はその人物に向かって問いかけるとなぜかその人物は急に笑い始めるのである。
「あなたは本当に面白い人ですね。この国のために尽くしてくれればもっと良い暮らしを提供できるのに、どうしてそれを拒むんですか?あなたの実力はこの国のトップクラスの実力者に匹敵しますよ。だから私のものになればもっといい生活ができるんですよ。それなのになぜですか?」
「俺にその話を振ってどうしたいのかわかんねぇーが俺はまだそんなことする気分になんかならないぜ。あんたのことは少しばかりは信用しているけど俺が忠誠を誓うほどじゃないんだよね。そもそもあんたの目的がわからねーんだからさ」
俺はそう言ってその場から立ち去ろうとするがその人物はなぜかまた俺の事を引き留めようとする。その表情からは何か焦っているように感じられる。俺はその人物が何を思っているのかを考えてみることにした。しかし全く何も思い浮かばない。俺にとってこの人物の行動は謎でしかないのだ。
そしてしばらく俺とその人の間で無言の時間が過ぎていきようやくこの人の目的を俺は理解することに成功する。それは俺の能力を使って自分の目的を達成しようとしているのだと。
この世界にはたくさんの種族が存在する。その中でも一番数が多いのが『人間』である。人間は基本的に『ヒューマン』と呼ばれておりその次に数の多い『獣族』、最も数が少ないとされているのが『エルフ』と呼ばれる種族である。『魔人』は数は少ないが比較的強力な個体が多いとされている。その『ダーク』種と呼ばれるのが今現在確認されてきる中で最強の力を誇る種である。そんな存在がいるとは信じられないが事実なのである。
人間は自分たちの力で魔人を打倒することを望んでいた。そして今この国に存在する最強と言われている人物たちこそが『勇者』『聖騎士』、『賢者』、『剣王』の四人である。この中の三人の力が合わさった時、強大な力を持った魔人も倒すことができるといわれているほどである。ただこの話はあくまでも伝説の類であるためどこまで本当なのかどうかも定かではないのであった。そのため人間たちが自分たちの手でその伝説の人物たちの力を手に入れようと躍起になっている。そのために多くの血が流れ、争いが各地で勃発してしまっていたのである。そしてついに人間の手によってその力を手にすることに成功した。
この世界にたった一冊の本が突如として現れた。その本を拾ってしまった少年がいた。その本を読んだ者はこの世界の真理に触れてしまうことになり、その人の魂はその世界に捕らわれてしまう。この世界に新たな神が誕生してしまうのである。そうなる前にこの本を元の世界に戻さなければならないと人々は考えるのである。その書物には魔法に関することが書かれていた。その中にはこの世界を滅ぼせる程の力を持つ呪文や技が記されていて悪用されてはならないものとされていたのである。
そしてある日一人の人物がある少女を連れてきたことによってその本の効力が失われてしまうのである。それが後に世界を救ってくれることになる少女の両親でもある。その二人の娘である彼女は両親のことを知らないまま育てられていた。
この物語はこの世界が崩壊寸前まで追い詰められてしまったことがきっかけとなり、その救世主の少女が仲間とともに世界を救うための旅に出ていくまでの過程が描かれている。彼女はその使命感と持ち前の行動力を武器にして、その仲間達と協力して世界の歪みを修正して、この世界の秩序を取り戻していこうとする物語である。
その本を手にした人物にどんな変化があったのだろうか。彼の目は先程と違って生気が失われているように見える。まるで抜け殻のようになってしまった彼は突然立ち上がりこう叫んだのである。
「俺が間違っていた。俺のこの考えが全て正しかったんだ。お前たちはこの俺が導いてやろう。まずこの国は腐り切っていたんだ。俺のような奴が支配しなければならないんだ!そうでなければ俺がこんなところでくそみたいに死ぬわけにはいかなかったのだ。俺の計画がもう間もなく達成されるというのに、ここで俺が死ねば俺の計画は完全に頓挫してしまうことになる。それだけは許せなかったのだ!」
「だからと言ってなぜこんなことを!?あなたは私たちの国に敵対するというのですか?そんなことが許されると思っていますか?」王女様が彼に詰め寄ろうとしたその時だった。俺の中に眠る彼女の力が反応し始める。俺の中の彼女がこの国を滅ぼすべきだと叫び始めたのである。俺はそんなことをさせたくはないのだが、どうすることもできないのである。
俺達はその男に捕まってしまってからしばらくの間放置されることになった。そのせいで今の現状がどういうことになっているのか全く理解できていなかったのである。すると俺が閉じ込められていた部屋の扉が開かれるとそこに姿を現したのは国王陛下の姿であった。俺は慌ててベッドの上で座り込むと頭を深く下げた。そんな俺の様子を見て驚いたような顔をする人物もいたが特に何も言われることはなかったのである。
それからすぐに俺は国王様に連れ出されるとどこかに連れ出されてしまうのであった。するとそこには見たこともないくらいの美しい女性が立っており俺はその女性のあまりの美しさに見惚れてしまいそうになる。そんな風に感じていることなど知らない女性は、国王と話を進めていくのである。
俺が連れてこられた場所というのは俺が目覚めたあの大きなお城だったのだ。しかもその中は見たことがないほどの豪華絢爛なお部屋であることがわかる。その部屋に俺と女性と二人の男性を残していった後、部屋から出ていったのだ。そしてしばらく待っていると今度は違う服装をした人が俺の前に現れたのである。
俺は何が起こったのかわからない状況に陥り、とりあえずその人物の言葉を聞くことにするのであった。
そして俺はなぜか見知らぬ部屋に閉じ込められてその部屋の様子を見ているのであった。俺はそこでこの国の王と対面したのだが、どうにもこの王様が信用ならないという気持ちで一杯になるのであった。
その男の正体は『国王様』でありこの国の王様であることには違いはなかった。だけどその男が放つ威圧的な態度には正直納得がいかず警戒を解くことができなかったのである。
しかし俺はこの男の言うことを信じたくはなかったが信じるしかなくなったのであった。というのも俺はこの男が放った一言に心当たりがあり過ぎたのだ。この男の発言が俺の過去について言っているのだとすぐに察することができた。この男の言い方があまりにも俺に対して馴れ馴れしいと感じたからである。そしてこの男が俺の正体を知っているということも確定していたのだった。
俺は自分が勇者召喚に巻き込まれてしまった元の世界の住人だと言うことも知られているみたいである。それに俺の力の使い方を熟知しており、それについても色々と詳しく説明してくるのだった。ただそれでもまだ完全に信じることはできずにいたのである。
ただそんな時にその男は俺が予想していなかった言葉を口走る。なんとこの国を見捨てるように言い始めたのである。どう見てもその様子は普通ではない。明らかに自分の意志とは違う言動を取っているように見えたのだった。
そう考えたらやはりその男は『操られている』と考える方が自然なのではないかと思うようになる。もしそうだとしたらこの男を何とかすれば事態が解決に向かう可能性が高くなるのではないかと思い俺はその男の体に触ることにした。しかしその行為も無駄に終わり結局俺は拘束されることになってしまうのである。
俺はその国の姫である『アリナ姫』と共に行動するように指示された。その指示に逆らいたいところではあったが、俺は今の状態ではとてもまともに戦えないと思い渋々受け入れたのであった。しかしそんな俺の様子を不思議に思ったのか、この国では『剣聖』と呼ばれている剣士の女性が俺に問いかけてくる。
「君はどうして私の言葉に従わない?私に従うことが君にとっても良い結果を生むとなぜ思わないのかな?」
「俺があんたらに従えば本当に良い未来に繋がるっていう確証がない限り俺の意見を変えるつもりはないぜ。そもそも何でそんなに俺を自分のもののように扱おうとするんだ?」俺はついカッとなって思わずそんなことを言ってしまう。しかし彼女もまた同じように反発し始めたのである。そのやりとりが長引くにつれてお互い険悪な雰囲気が漂うようになっていた。その最中、この国の騎士団長だという男が現れるとその喧嘩はあっけなく中断されることになる。
その人は『ガウェイン』と名乗ったのだが、どうも俺のことを見定めるかのような目つきをしてきたのである。そして俺をこの城に匿うことは危険な行為でしかなくその危険性を説いてくれたのである。その話を聞いた俺はすぐにこの国から逃げることを決意したのである。
俺は城の出口までたどり着くことはできたものの、なぜか外に出ることはできないでいた。そんな時にこの城の近衛騎士と名乗る人物がやってきたのだ。しかしその人物は急に現れたかのように思えると、一瞬のうちにその姿を消してしまったのである。
そして次に現れた時は先程の人とは違い別の人間になっていたのである。その人物の名は『アーサー』といったが、俺はそんな人間を知らない。だが向こうが知っているような素振りを見せているため仕方なく俺はこの場にとどまることにしたのである。
俺はこの国での生活が苦痛でしかならなかった。何かあるたびに『勇者』だからといって無理難題な命令や要求などをされることが多くなっていたのであった。そんな中、ついにこの国が戦争を仕掛けようとしていることを知った俺は急いで逃げ出すことに決める。その結果、俺は命の危機にさらされることになったが何とか無事脱出することができたのである。ただその際に、一人の少女が連れ去られたことに気づいていたが、俺はこの国を離れるために無視することに決めていたのである。
俺はその後、この世界がどのような状態なのかを確認しながら旅を続けていくことになる。その過程で俺は一人の少年と出会うことになる。その少年の名前は俺の親友の祐一と同じ名前の少年である。その親友は今はどこにいるのかはわからないが、いずれ会う日が来ると思っているのであった。
その国は『アルスラーン帝国』と呼ばれる場所の『シンドゥラ王国』という国に侵略されてしまっていたのである。その国は圧倒的な軍事力を誇る大国であり、小国のこの国は成す術もなく滅ぼされてしまっていた。この国は奴隷売買を行っているような汚いことをする国家だったため俺はこの国が嫌いである。そのためこの国を助ける義理はないので助ける必要は全くなかった。
俺はシンドバットという街に向かって移動している時だった。たまたま立ち寄った場所でとある出来事に遭遇する。そして俺は偶然そこに居合わせた少年に頼まれごとを受けることになる。その頼みというのは少女を救い出してほしというものであった。そして俺はこの国で暗躍していた組織のボスである少年と対峙して戦いを繰り広げていく。
なんとかその勝負を制した俺であったが少女は取り逃がしてしまったのである。そしてその組織の本拠地へと乗り込んだのだが、その途中でその本拠地が何者かによって爆破されてしまったのであった。その爆発のせいで多くの死者が出ただけでなく建物が崩れ落ちてしまった。
その時、俺は不思議な光景を目撃したのである。建物の瓦礫の下敷きになった人がまるでその体の中から光に包まれていくように徐々に姿を変貌させていくと、その体が宙に浮かび上がりその体はまるでその光が吸収されているかの如く光の粒へと変化して空へ飛んで行ったのである。その様子がまるで天使のようであったのである。
俺がその謎の現象を呆然と眺めていると後ろから声を掛けられたのである。俺に声をかけてきた人物を見た途端、その相手が先程の少女であったことを理解する。そしてその少女に手を引かれると俺達は一緒にどこか別の場所へ移動してしまうのだった。その場所はどこかの山の中であった。
その場所は先程の建物がある街のすぐ近くにあり、そこには遺跡のようなものが存在していた。そこで俺達は『聖剣』という特別な力を秘めた魔剣と出会ってしまうことになる。
俺が『エクスカリバー』と呼んでいる聖剣を手にした俺はその力に驚くことになる。それはどんな物であろうと破壊することが可能になるのであった。この能力のおかげで俺は今まで苦しめられて生きてきた。そんな能力を手にしてしまった俺はその力の恐ろしさを嫌でも理解させられるのであった。
ただ俺の持つ聖剣と同じような存在の物を『エクソシストソード』と彼女は呼んでいた。そんな彼女に俺は聖剣を貸し出すことで、その力を抑え込んでもらったのである。それにより俺は安心して行動できるようになったのであった。それから俺は再び旅に出ることを決め、この世界がどうなっているのかを調査することを決意する。
そして俺と彼女は出会った。その出会いをきっかけにこの世界を救うべく行動することを決めた俺は動き始めるのであった。
この国の王の正体が分かったのも彼女のおかげだった。どうもこの国の王には特殊な力が備わっておりその力で俺達を騙そうとしていたことを突き止めることができたのだ。そんな時に俺達の居場所がばれてしまったのである。しかもよりにもよってその王がこの場所に姿を現すことになってしまっていた。俺はもう駄目だと思い諦めかけていたのだ。するとそんな状況に突如現れた人物がいたのだ。その正体とはなんと『ルシファー』だったのだ。俺はその姿をみてすぐに『悪魔族』であることを悟ったのである。
そんな俺が『神獣』を召喚したところを見ていた王は慌てふためきだしたのであった。どうも召喚されたこと自体初めてらしくかなり驚いていたみたいである。しかしその直後『神獣』が『堕天モード』に変化してしまいその衝撃的な見た目を見て、更に驚愕の表情を見せてしまったのであった。そんな王の姿を見て俺はすぐにこの国に見切りをつけようとした。
しかしそれを察知した王は俺を殺そうと躍起になってきたのである。そんな時に俺は彼女を守る為とこの王を倒すために全力を振り絞ることにした。しかしそれでもやはりこの国を見捨てられないという気持ちがあったため俺は王の説得を始めたのである。しかしその話も虚しく王は耳を傾けてくれようとしなかった。そして遂に戦闘が開始されてしまうのだった。
俺はその王に自分の気持ちを伝えることができたのだと思っていたが実は違った。それは俺の心を惑わすための罠だったのである。その言葉を聞いた俺は怒りを覚え、そんな王に対して俺の最強の攻撃で反撃を試みた。だけどそれも全て防がれてしまい、逆にその攻撃を受けることで意識を失いかけるほどのダメージを受ける羽目になってしまう。
だが俺はその攻撃でどうにか倒せそうな予感はしていたが、その瞬間『堕天モード』になってしまったせいで、また暴走してしまうのではないかという不安感に襲われていた。しかし俺はこの国を救うためには『あの技』を使わざるを得ないと判断し発動させたのである。しかしそれが予想外なことになってしまう。その攻撃を受けたこの国の国王はなぜか笑みを浮かべるだけであった。
そんな時に『聖剣使いの剣士』が現れその『剣』で一撃を放つことでその王は倒れ、ようやくこの国の王を倒すことに成功したのであった。しかしそれと同時にその剣士がこの国の姫だということが発覚して俺は唖然となるのであった。だが今はそんなことを考えている場合ではないと思い俺と彼女はその場から逃げ出すことにした。
そして俺と彼女が城を脱出し城下町まで戻ってきた時、突然空が曇り始めて雷が鳴り響いてくると、俺が倒したはずの『聖剣』が勝手に動き出して、そのままこの国に襲いかかってきたのである。そしてその様子を見た民たちが騒ぎ始めたのであった。この事態を収めるためにはもう一度『神獣』の力を使って鎮めるしか方法がないと判断した俺は覚悟を決める。しかし彼女を守るためにその身を犠牲にするつもりで戦おうとしたら、この国で知り合った仲間であるアリナさんが姿を現し、その怪物に挑んでいったのである。
そのアリナさんの姿を見ていた俺は彼女を止めることができず、俺も共に戦うことを決意しようとしたその時に『勇者様』という言葉を誰かに言われた気がしたが俺にはその心当たりがなかった。そして次の瞬間、『勇者』として覚醒した俺の力でこの騒動を終わらせることに成功したのである。そのおかげで俺は無事この国から逃げ出すことができたのであった。
俺は『エクスカリバーの巫女』と自称する少女と出会ったことによって『アルスラーン帝国』、『ダスターン王国』、『シンドゥラ王国』の三カ国で起こる様々な問題を解決することになったのである。最初はそんなのどうだっていいと投げやりな感じで俺はその問題を片付けようと考えていたのだが、いつの間にか俺は真剣に解決しようと考えている自分に気付き戸惑ってしまう。
その理由の一つとして、今の世界では誰もが他人を助けられるだけの力を持っていないという悲しい現実が俺の目に入ってしまったからである。そのためどうしても目の前で助けを求めている人を見逃すことができなかった。
俺は『エクスカリバーの巫子』であるアリスティアと行動を共にしていたが、その間に多くの人間たちと出会いそして別れを経験していく。そんな中で俺はこの世界の本当の意味を知ることになるのであった。
俺の目に映る世界はただの幻にしか過ぎず、この世界自体がただのまやかしでしかないということが分かってきたのだ。
俺はその真相を知って絶望することになるが、それを知った俺の心の中にはある変化が生まれていたのである。
それは『正義とは何か?』といった哲学的なことを俺は知りたいと思うようになっていたのであった。
俺はこの世界を平和にする為に、全ての種族が仲良く共存できる世界を目指して動き出した。そのためにはまずはこの世界の住人を信用できないと始まらないと思った俺は、まずはシンドゥラ王国と同盟を結びその関係を良好にすることにしたのである。その会談の最中にこのシンドゥラ王国に俺達が訪れた理由を話したところシンドゥラ王国はその目的に協力したいという意志を示すことになる。シンドゥラ王国からすれば自国の安全を守れる上に同盟を結んで友好国になってくれれば、これほど心強いことはない。そう考えたのであろう。その判断は正しかったといえよう。なぜならこの国と俺達は手を取り合い協力してこの世界で起きる事件に立ち向かうことができるからなのである。
俺達がシンドゥラ王国の街に訪れた理由は二つありその一つはシンドゥラ国で起こった奴隷の暴動事件を解決することである。俺達はその事件を解決すべく動くのだが、そこで俺は意外な人と出会うことになる。それはなんとあの俺に戦いを挑んできた『将軍』と呼ばれる男が俺の前に現れて俺の命を狙って襲い掛かって来たのである。俺の実力を認めていなかったらしい。そんな男との戦いに勝利した俺であったがその後に起きた事件で『ルシファー』と再会を果たすことになる。どうもこの国に来たのが気に入らなかったのか俺を殺そうとしていたのだ。
俺はルシファーと戦いながらもその背後で起きている事件について調べようとしていた。
そんな最中に『黒騎士ナイトハルト』が現れたことにより事態は大きく動いてしまう。どうもこの国は『ルシファー』を信仰しているらしくその力を利用して俺達を殺めようと考えたのだ。その結果、『ルシファー』は復活してしまいしかもその力は以前と比べて遥かに強力になっており、その圧倒的な力に苦戦を強いられることになった。そして俺はルシファーに殺されるところだったその時にアリスに助けてもらったお礼をするべく駆けつけてくれたのだそうだ。そのおかげもあり、ルシファーを倒しどうにか無事に倒すことに成功する。しかしその直後再びルシファーが目覚めてしまったのである。そしてその時にアリスはルシファーと対峙することにる。しかしそんな状況の中、俺はその光景を見て驚くことになる。その相手というのがなんと同じ『神獣』であるフェニックスの雛であった。まさかの出会いに俺は驚きつつもその力を信じることにして、この場を二人に任せることにしたのである。俺はそんな光景を横目で見ながら俺はもう一つの目的を達成するため『アルスラーン帝国の遺跡』へと向かったのであった。
『アルスラーンの遺産』を手に入れた俺が、その情報を調べてみた結果、その遺跡の守護者が『大天使ミカエル』であることを突き止めたのだ。俺はその情報を頼りにこの世界に散らばっていると言われている他の遺産の場所を探し始めた。
だがその前に『大悪魔ベリアル』が現れてしまい、奴を討伐することを優先していたら、いつの間にか俺の中に別の存在が入り込んできたのだ。それはどうやら『魔石ドラゴン』だったらしく、この『魔石ドラゴン』によって俺の精神を乗っ取られたのである。俺は完全に支配されてしまう寸前でその『魔石ドラゴン』と融合することでどうにか危機を脱することができた。そして『魔王ルシファー』を倒すために俺は新たな力を手に入れることになった。その能力こそ『勇者専用スキル』であり俺が持つ『聖剣』『エクソシストソード』などの力を大幅に増幅させる効果を持っているのだ。そんな能力に俺は驚愕しつつ俺は『勇者』として本格的に活動を始めていくことになる。そして俺はその途中で俺の『エクスカリバーの巫子』を自称する美少女と出会ったのだ。
俺は彼女のお供をすることになり一緒に旅を続けていくこととなった。だがその道のりは困難を極めた。なぜなら『エクスカリバー』が持ち主と認めた者しか使うことができないからである。だから彼女は俺が認めることを願ってひたすら修行を続けていたのだ。俺はそんな彼女を見捨てられるはずもなく必死に頑張ることにしたのである。しかしそんな努力も実らず彼女は『エクスカリバーの巫女の力を引き出せないでいた』。そのため俺は彼女を鍛えてあげることに決めたのだが、どうにもうまくいかないのである。
そんなある日のことである。
突然空から一人の女の子が落ちてきたのだ。その子の名前はリリアーナと言い見た目通り妖精族のようである。その正体はなんとその国の女王だったのだ。どうも何かの目的のためにこちらにやってきたみたいである。だが女王はとある理由で国を離れられないような状態になっているらしく、代わりに娘であるリリスがその任務を遂行することになっていたようだが、その途中色々あってこの国に逃げ込んだというわけだった。
そしてしばらくここで過ごすことを決めた俺達だったが、この国を我が物にしようと企む者達が現れ、それを阻止するようにリリアーヌは戦いを始めるのであった。しかしリリア―ヌもただではやられず返り討ちにしてしまった。そのことに腹を立てた『聖弓アークス』使いの少女が現れる。その名はアリシアと言うらしい。
このアリシアこそが実はリリアのお母さんで俺達を助けてくれる存在であることが判明した。しかし俺達にはその事実を知ることはできずにそのまま戦う羽目になる。アリナさんは『アークス』を使いこなす実力者だったのでかなり苦戦してしまう。しかし『エクスカリバー』の『巫子』であるリリスのおかげで何とか窮地を逃れることができアリシアの誤解を解くことに成功して一件落着となる。
だがそんな穏やかな日々を過ごすことはできなかった。突如、俺達の元を訪れたのがこの国の『宰相マハード』であった。
どうやら彼はリリアが持っている『アルサーヴァン剣』を狙い現れたらしい。その剣はこの世界を滅ぼす力を持っているらしく、それを欲してリディアの身柄を差し出すかこの国と同盟を結ぶかを選べと言ってきたのである。その二択しか提示しないマハードに対して、俺は怒りを感じその言葉に従うつもりはないことを告げたが、それでもしつこく食い下がってきた。そのため俺は剣を奪い取りこの国から逃げ出すことにする。
そんな時であった。突然空が曇りだしたのは――
空に現れたのは巨大な龍でその背中にはこの世界の王『皇帝』と呼ばれる人物と『四天将』と呼ばれる存在達が乗っていたのである。その姿を見た俺は『大魔王』だと分かり警戒した。だが向こうもいきなり俺に向かって攻撃をしてきたのだ。しかし俺はその攻撃を防ぎそのまま攻撃を仕掛けるが『聖盾』と呼ばれるアイテムに守られて『聖斧アルケー』を持つ将軍『シンドバッド』に倒されてしまう。その後、俺は仲間と共にその場から逃げ出すことに成功するのであった。
しかしそんな俺の前にまたしても『四天王』と名乗る連中が立ち塞がったのである。俺はそんな彼等に応戦するのだがあっさりと返り討ちにされてしまう。そして俺は気を失ってしまったのだが、そんな俺を助けてくれたのはなんと先ほど戦ったばかりの『シンドバッド』だった。そして俺はこの男に自分の仲間にならないかと言われたが断った。しかし俺は『シンドバッド』から衝撃的な話をされることになる。なんとシンドウとはかつての仲間だというのである。その話を聞いた俺はシンドゥラ国王である『ジャターユ二世』のところまで連れて行かれる。
そこで俺は自分が別の世界から来たということを話したが、『アルサ』と呼ばれる男と『バベルの塔』に眠る秘宝『賢者の石』の真実を知ることができたのだ。それを聞いた俺はこの国を守るために動くことを決意する。
だがその道中で再び俺はあの化け物と遭遇することになる。それはこの世界を支配しようとしている『ルシファー』であり俺はその圧倒的な力に苦しめられる。俺は死を覚悟していたがその時、謎の少年に助けられることになる。
そして俺は『アルスラーンの遺した遺跡』へとたどり着く。そこにはこの世界の『ルシファー』と戦うことになる俺がいた。どうやらもう一人の俺は俺に力を貸してくれようとしたらしく俺と力を合わせてルシファーを倒してくれた。それによりルシファーは再び封印されどうにか危機を乗り越えることができた。しかしルシファーとの戦いの際にルシファーの魂が分離すると俺はルシファーに吸収されそうになり俺はなんとか抵抗し、ルシファーが持っていた武器を手にすることでどうにかルシファーの力の一部を封じ込めることができたのである。
そうやってどうにかルシファーを倒したものの俺の体はかなり限界に来ていた。俺はルシファーから奪った力でどうにかこの国を守ろうとしたがそれも無駄に終わりこの国に平和を取り戻すことはできなくなる。
しかし俺は最後の最後でこの国を救うために命を捧げてでもこの国を救うことにしたのである。それは俺の命と引き換えることによってこの国が助かるからだ。そして俺はその通りに行動することにした。俺は自分を犠牲にしようとした。そんな俺の目の前で『聖弓アークリア』の『巫女リリス』が必死に止めようしてくれたのだ。そんな彼女に微笑みかけてから俺はこの国のためにこの国を守るための行動に出るのであった。
「うぅん?ここは?」俺はふと意識を取り戻してからそんな言葉を呟いていた。
どうしてこんな場所で寝ているんだろうと思っていると横でなにやら声らしきものが聞こえてくる。
俺は何だろうと横を見るとそこには俺に抱きついて眠っていた少女の顔があり、彼女はすやすやと眠っている。一体この状況はどういうことだと考えているとようやく目が覚めたのか、ゆっくりと瞼を開けていく。そして目の前に見知らぬ人物がいることに気がつくと驚いて目をパチクリさせていた。
そして彼女は俺から離れようとするのだが俺は咄嵯に腕を掴む。どうも様子がおかしいのでこのまま逃さない方がいいと考えた結果だ。すると彼女が何かを言い出したのである。
その表情はどこか悲痛なものに見えた。しかしそんな彼女のことを心配していると今度は姫の方が起きたのか起き上がり辺りを見回してから首を傾げていた。
(さすがにいつまでもここにい続けるのはまずいな)
俺はこの部屋に誰かが来るのを危惧した。もしこの光景を見られれば俺の言い訳も通用しないかもしれないからである。
だから俺は彼女を立ち上がらせるために彼女の肩に手を置いた瞬間だった。
突如部屋をノックされたのである。
俺達は慌ててベッドに隠れたのであった。
それからしばらく経つも一向に扉が開く様子がない。だがそんな沈黙の時間は長くは続かなかった。なぜなら外からは慌てた声が次々と聞こえる。俺は思わずため息を漏らしたくなる。
おそらく俺のことを探し始めたのだろう。
そうなると下手すればここの人間を皆殺しにしかねない。
そう考えた途端、俺は居ても立っても居られなくなったのである。俺は姫の手を取りこの場から逃げ出さなければならないと思い部屋の窓から抜け出すと彼女を抱え上げる。そして俺は窓から飛び出すとそのまま森の中へと入り込み走り抜ける。そして追っ手の声が遠ざかったところで足を止める。とりあえずここでならしばらくは大丈夫だろうと思う。しかし念のためもう少し移動しよう。
それに彼女はずっと震えたままなので俺は優しく頭を撫でながら安心させてあげようと笑顔を浮かべていたのである。そんな俺に気づいた彼女は泣きじゃくりながら胸に顔を埋めてきた。そんな彼女の背中をそっと撫でる。
(さて、これからどうするか)俺はそんなことを考えていたが、ふと彼女を抱き上げたままだったことに気づく。だから俺は一度下ろすことにして彼女を地面に立たせると改めて俺は自己紹介を行う。だが、その際に彼女は何故か固まってしまった。まるで幽霊を見たような反応だった。
もしかするとまだ恐怖が残っているのだろうか。だとしたら早めに慣れさせたほうがいいのかな? そう思った俺は彼女との会話を試みようとした時だった。急に森の奥から爆発音のようなものが聞こえてきた。
どうやら何者かが戦闘を始めたようだ。もしかしたら俺達を追ってきた者なのかもしれないと思った。そうなってくると俺達も戦いに巻き込まれた場合危険だと思い俺はその場から離れることを考える。そして姫を連れてその場を立ち去ろうとした。しかし俺はそこで足を止めた。なぜかはわからないが俺はここで見捨ててはいけないと直感が働いた。そして姫も俺と一緒に行くと言ってくれたので一緒にその戦いの場に向かうのであった。
そこで目にしたのは驚くべき光景だった。
その相手というのは先ほど俺が見た化け物のような存在だったのである。
そんな怪物を相手に戦っている存在がいる。それは俺の知る人物だった。
それは俺の知っている姿とは異なっていた。
だけど俺は確信していた。この男は『大魔王』であると確信したのである。しかし、それはありえないはずだった。だって大魔王は既に封印されていたので、その復活は不可能のはずだから。
だからこそその光景を見た時俺は完全に思考停止してしまったのである。なぜ大魔王はあんな化け物に攻撃をしているんだ?しかもあいつは勇者じゃないぞ! 俺は大魔王と謎の男とのやりとりを聞き耳を立て様子を窺った。そして気がついた時には俺は大魔王と戦っていた。だがどうやら俺の動きについてこられるほどの腕前らしく、完全に追い詰められている。そこで現れたのがアリシアさんだ。
しかしアリシアさんが来ても状況はあまり好転していないように思える。そんな時、突然化け物が攻撃を仕掛けて来たのだ。
それを俺は防ぐことができなかった。そのため攻撃の余波を受けて吹き飛ばされてしまう。幸いにもすぐに立ち上がりその場を離れたので怪我はなかった。しかしあの化け物を倒すのは今の俺には荷が重すぎる。やはり大魔王の言う通り、大魔王の力の一部を使って対抗するしかないのだろうと考える。そしてその力を開放しようとした時、俺はまた信じられないものを目撃することになる。
それは化け物によって放たれた一撃が大地に突き刺さったのだ。その攻撃のせいか周囲の地面は大きく凹んでしまったらしい。そんな化け物に対し俺は先程以上の衝撃を受けることになる。
なんとそこには一人の少年が現れたのである。そしてその少年のことを俺は良く知っていた。なんせその人物はかつて魔王を倒したという『大魔王』なのだから。だが俺の目に飛び込んできた少年の顔はとても幼く見えたのである。それは先ほどの少年の大人びたものとは違っていたために俺は戸惑った。
まさかこれが本当に『大魔王』だとでもいうのか?だがそんな俺の心を読んだかのように大魔王は語り掛けてくる。そして俺に協力を求めてきたのだ。俺はそれを聞いて戸惑いながらも了承した。俺の目的はこの国を救うことでそれが可能ならば断る理由はない。だから協力することを誓ったのである。
そしてその後、『大魔王』の力で俺は『聖盾』を手に入れてから『四天将』と呼ばれる者たちと戦うことになった。正直かなり苦戦したがどうにか倒すことに成功する。だが俺はここで予想外な展開に遭遇する。それはなんとあの『聖斧アルケー』の所有者『アルスラーン』が助けに来たのだ。なんでも彼は大魔王を討伐するために向かったはずが『大魔王』と一緒だったことで勘違いされて追いかけられたのだという。その誤解を解くために俺に力を貸して欲しいと言うと『聖斧』を渡してくれたのである。そして俺と少年は二人で『バベルの塔』を登り始めたのであった。バベルの塔の最上階まで辿り着いた俺達だったがそこで待ち構えていた『聖魔剣』を所有する『ジャターユ二世』と激闘を繰り広げることとなった。
俺は少年を守るためにジャターユと相対することになったのだが、ジャターユが操る『バベルの塔』の使い手に苦しめられることになってしまう。しかし少年が俺に託された武器を使うことでどうにか切り抜けることに成功した。それから少年が『賢者の石』を使い、俺とジャターユに融合させることに成功してから俺達はついに頂上に到達するのであった。そしてそこで待っていたのはなんとこの世界の本当の王を名乗る人物『シンドウユウスケ』と名乗る俺に瓜二つの男がいたのである。
どうやらこの世界の俺も俺と同じく別世界から来たらしく、俺と同じ目的を果たすためこの世界にやってきたそうだ。そしてその目的は俺のやろうとしていたことと全く同じことだった。俺ともう一人の俺は意気投合し、お互いの協力の元、ルシファーとの戦いに挑むことを決意する。そして『聖杯』、『賢人石』の二つが揃うことになり、ルシファーと俺達は対峙することとなったのである。
俺達は『聖杯』の奇跡により力を手にいれ、俺は『ルシファー』と同化することに成功したのである。
その力でルシファーを圧倒するも最後はルシファーに騙される形で俺はこの国のために犠牲にされるところであったが、その時もう一人の俺が俺と入れ替わり、俺が代わりにこの国の未来を守るための行動に出たのである。
そして俺の意識はこの世から消えるはずだったのだが、気がつくとこのベッドで寝ていたという訳だ。
(しかし一体どういうことだ?)
俺は混乱しながら考え込んでいる。
すると俺の腕を握っていた少女が涙声で俺の名前を呟いていた。
(俺のことは知ってるって感じだよな。なら一体どうしてこんなところにいるんだろうな。もしかして俺とこの子も関係あるとか?だとしたら何で俺はこの子のことを知っているんだろうか。それに俺はこの子に抱き締められていて何か妙に懐かしいような気持ちになっているんだよな)
俺は不思議に思いながら彼女の頭を優しく撫でていた。するとようやく泣き止み始める。すると彼女がゆっくりと顔を上げた。
「おぬし、大丈夫なのか?どこか体におかしな所などはないか?もしお主になにか異変が起きれば妾はどうすればよいのじゃ」
彼女は不安そうに見つめて来る。そこで俺はまだこの女の子の名前を知らないことを思い出す。
もしかするとこの子はこの世界で大切な人なのかもしれない。だからこそ名前を聞くことにした。しかし俺はこの子を見ているとそのことがどうも気になって仕方がない。その理由が未だに分からずもどかしい気分になっていくのだった。そして彼女は自分のせいで俺に怪我をさせてしまったと気に病んでいるようだった。しかし俺の体の方はどこも痛まないので別に平気だと伝える。
彼女は俺の言葉を聞いて安堵していたが、俺の体を心配したのか少しだけ触れても大丈夫かというので俺はそれを承諾した。そしてしばらくすると満足したらしく笑顔を見せてくれるようになったのである。俺はその様子を見て微笑ましいと思えてきた。そしてそんな彼女に改めて名前を聞いたのであった。しかしそこで俺は自分の名前をまだ伝えていないことに今頃ながら気づいた。だから慌てて名乗ろうとしたが先に彼女が自己紹介を行ってくれたのである。
そして彼女から告げられた名前はやはり俺の記憶と合致していた。どうやらこの世界では彼女の名前は『アリスティア』というらしい。
どうりで見たことがあるはずだ。なんせ彼女は前世の俺と幼馴染だったのだから。だから彼女は前世において俺と関わり合いがある人物である可能性が高い。ただそれがどのような経緯で生まれた繋がりであるのかは分からない。それに彼女に対してどう接するべきかについても悩みどころだった。
(まぁそれはともかくとして。さっき俺のことを守ろうとしてくれたみたいだし彼女からは悪意のようなものを感じなかった。もしかすると俺にとってこの上なく頼りになる存在なのかもしれないな。とりあえず今は少しでも早く俺と彼女との接点を知る必要があるな。もし俺の前世が彼女と関わりを持っているのであれば今後どうすればいいのかが分かってくるだろう。まずはその辺の話を聞きたいものだ。そのためにも俺はこれから彼女を頼る必要がある。その前に俺は彼女を守れるくらいに強くなることを目標とするか。この先どんな困難が立ちふさがってくるかもわからないから、それを乗り越えられるくらいに強くならないと。俺の目的はあくまで大魔王の打倒だ。それ以外のものは二の次でいいだろう。さすがに『大魔王』が大した障害にならないなんてありえないから、そこは確実に越えるべき関門の一つだ。しかしそのためにも俺の力が足りないことも確かだ。だから当面の目標は彼女を守れるだけの力を手に入れることと、それと並行させてレベル上げを行うことかな。あと、ついでに大魔王についての知識を得ておくのもいいかもしれん。そしてそれを終えたら大魔王の配下達を倒し、そして大魔王を葬るまでの過程を考えていかないとな。大魔王が復活するまでどれだけの時間が残されているのかは知らんが急いだほうが良さそうだ。特に俺はこの世界の俺と違って勇者ではないらしいから時間との勝負になりそうな気がする。だから急いで力を身につけておかないと間に合わなくなりそうだ。とにかく今の俺には圧倒的に時間が足らないということだけは分かるな。その問題を解決しないと俺の望みは達成されなさそうだ。そのためには俺のレベルを上げないといけない。それも尋常じゃないほど高いレベルのな。幸いこの国は魔物が生息する土地らしいからレベルを上げるためには事欠かないだろう。だが問題はどうやって強くなれば良いかが分からない。この国に滞在することで情報を集めなければだな。あとは俺自身が強くなっていかなくては話にならんだろ。そのためにもこの国の人達と友好的な関係を築けるようにしなければならない。その為には信頼を得るために力を見せつける必要がありそうだ。つまりこの世界に来た時に手に入ったあの武器を使えばなんとかなると思うが、俺の力だとあの化け物を倒すのは難しいだろう。だが『聖杯』の力を借りて倒せるようにまで成長できればなんとかなりそうだ。さっそく明日にでも試してみることにしよう)
それから俺達は部屋へと戻った。そして今後の行動指針を決めていこうと思っていた。
そこで先程の少女から提案があった。なんと明日、俺と一緒に出掛けようとのことだった。しかし、なぜかこの部屋に泊まることになった。俺は別に構わないのだがなぜ一緒に?と疑問を感じた。だが彼女は理由については語らなかったので俺もあえて追求しないことにする。それにこの国を案内してくれると聞いて俺自身もこの国を見て回りたいという欲求があったため断る理由はないと思ったからだ。
ただ問題がある。俺達は互いに身分を証明するものを持っていなかったのである。そこで俺が冒険者登録を行うために『王都エルスラン』にあるギルドに行くことになった。そして俺はそこで新たな仲間と運命の出会いを果たすことになるのであった。
第7部プロローグ2 ~聖杯争奪戦~
----------
視点 ユウスケ(?)
---------
バベルの頂上までやって来た俺達であったが目の前にいた一人の男が俺達に話しかけてきたのである。
「お前達がルシファーの仲間だというのは間違い無いのか?」
「あぁ、俺がルシファーを倒した。これでもうルシファーが蘇ることも無い」
そう答えると男はかなり戸惑っているようだ。
俺のことを睨みつけるように凝視している。どうやらこいつはルシファーの関係者なのか? しかしそんな俺の推測とは裏腹に男は剣を抜き俺に襲いかかってきたのだ。
しかし俺は慌てずにその攻撃を避ける。そして俺の代わりにアリスが応戦しようとしたのだが、それを制止し俺は剣を引き抜いた。
そしてそのまま剣を振り上げると、剣が男の肩口に突き刺さる。
すると悲鳴をあげて苦しむ男を他所に俺はアリスに向かって言った。
「悪いけど君にこいつを倒してもらうつもりはない。それよりも少しの間だけここでじっとしていて欲しいんだ」
「それはどういう意味なのですか?」
「すぐにわかるよ」そこでようやくアリスが動き出した。俺が傷口を治療しようと治癒魔法を発動させるが、何故か発動せず俺達は焦りだす。
そこで今度は『賢者の石』を取り出し、俺の魔力を吸収して発動させようとしていた時だった。
突然背後に現れた気配に俺は気づき振り返った瞬間、何かで頭を殴られてしまう。
それにより視界が暗転していき俺は地面に倒れたのだった。
俺が目覚めると見知らぬ場所に倒れている。俺は意識がハッキリするまでぼんやりと天井を眺めていた。すると扉の音が聞こえ誰かが入って来たことがわかる。俺はその人物が近づいて来るのを感じていた。
「う、うーん、ここは一体?ってか誰なんだ?あんた。俺はどうしてこんなところにいるんだよ。俺は確かあいつと戦っていて、それで負けそうになって意識が飛んだはずだったはずなのに」
「やっと目が覚めたようですね。どうやら頭を打って気絶してしまっていたようでした。大丈夫ですか?どこかおかしいところは無いでしょうか?」
「頭が少しズキズキしますが大丈夫だと思います。というか貴方は一体何者で?俺は確か変な奴に頭をぶん殴れて意識を失って、気がついたらここにいたのですが」
すると女性は困った顔をしてしまう。何か言えない事情でもあるのだろうか? そういえば俺は彼女に対して名前を教えていなかったような気がしてきた。
すると俺が名前を聞いていないことを思い出してくれたらしく名乗ってくれた。
そして俺はようやく彼女が何者かを理解したのである。
(この人がまさかのアリスだったのか!?)
すると彼女は俺に自己紹介をしてくれたのだった。しかしそこで俺は彼女の名前が変わっていることに気づく。
そこで彼女に尋ねると衝撃的な真実を知ることとなる。俺はその事にかなり驚いてしまった。しかし、同時に納得できた部分もあった。確かに彼女は普通の人間では考えられない強さを誇っているので俺はそのことを気にしていなかったが、それでもまだ若い彼女がこれほどまでに強かったというのはさすがに驚きを隠せなかった。しかし彼女が俺を驚かせてきたことはそれだけではなかった。彼女は俺に自分の正体が大魔王であることを告げたのである。
(この子、大魔王だったのか!!)
俺はその言葉を聞いてさらに驚くのだった。しかし彼女は大魔王であることに後悔していないどころか誇らしく思っているように見えた。それを聞いて俺は思わず彼女に聞き返してしまった。
すると彼女から思いがけない返答を受け俺は戸惑ってしまう。しかもこの世界を救うために俺に協力してほしいと言われたのである。俺は当然断ったが大魔王である彼女に逆らえるわけもなく半ば強引に押し切られる形になった。そして大魔王の使命である『大魔王軍』を復活させるために協力して欲しいと言われる。俺は正直迷っていた。
このまま彼女に協力するべきか否か、俺の目的は『大魔王』を打倒することだ。それを達成するための準備は着々と整えている。ならば俺は彼女について行くべきか悩んでしまう。そして俺が黙り込んで考え込んでいる様子をみてアリスティアさんはどう思ったのかは知らないが話を進めると、まずはこの『異世界』の『魔王軍』が集結する場所に向かうことになったのである。そこにはこの世界の『聖杯』が置かれているという話をされたので俺達は向かうことにしたのだった。しかし問題が起きた。俺と彼女はお互いが別々の部屋で眠っており、それぞれ違うベッドの上にいたこと。そして目を覚ますと何故か同じベッドで寝ていたことで互いに戸惑い合うのだった。
「あはは、これは参ったね」
「ふぇ、私なんかがお布団を占領しちゃっていてすいません!」
俺が苦笑いをしながらそう言うとアリスが恥ずかしがるようにしながら慌てている。その様子を見ながらもしかすると昨日俺が助けたのがこの世界での『勇者』であり、俺が転生させられた『元』の世界での彼女と関係がある人物かもしれないと思った。もしかすると俺と同じように前世の記憶を持っている可能性があるのではないかと考えたからである。
だがそれについてはとりあえず置いておいて、今は今後のことを話さなければならないだろう。そう思っていた時に、突然部屋のドアが開かれて俺達はそちらへと視線を向けた。するとそこに立っていたのはなんと『聖杯』を手にした謎の女性だったのだ。
俺達は慌てて臨戦態勢をとると『聖杯』を手にしている女性が笑みを浮かべながら言った。
「あら?警戒しなくても私は貴方達と戦いに来たんじゃないわ。だって今はまだ貴方達の敵じゃないから」
「なに?」
「だからそんなに怖がらないで頂戴」
「なら一体何をしに来たと言うんだ」
俺が警戒したまま尋ねると、その人は少し驚いたような表情を見せた後、真剣な顔になる。
どうやら真面目に話すつもりになったようだ。
「私の名はレイシア。かつて『聖杯』を手に入れ、そして『大聖杯』に飲み込まれそうになった者よ」
そう言い放ったのである。
それからしばらくして俺達はレイシアと名乗る女に案内され部屋から出て行った。そしてこの城の地下に巨大な空間があり、そこが『聖杯』がある場所で『聖杯』を手に入れるためには『試練』を乗り越える必要があり、それを行う為に俺とアリスは地下へと向かうことになる。その道中で俺とアリスが『勇者』と『聖杯』の関係について話し、そしてこれから『聖杯』の力を引き出す儀式が行われる。その『聖杯』に宿る精霊を解放することが『勇者召喚』の真の目的だと説明をする。
そこで俺とアリスの前に大きな広間へと到着したのである。するとそこに居たのは俺とアリスと年も背格好も同じくらいの少女が立っていて俺達を見ると微笑みかけてくる。だが彼女は普通ではない雰囲気をまとっておりそれがただ事ではないことを理解させられる。
(あの子一体何者なんだ?)
俺達が困惑していた時、少女の方から俺達に近づいて来た。そこで俺達は驚愕してしまう。なんと、俺とアリスの顔がそっくりになっているではないか!それには驚き戸惑うが、目の前にいる彼女が俺のことを見つめていることに気づく。
そしてその女の子は自分の正体を明かしたのである。どうやら彼女の名前はアリスというらしい。つまり目の前の子は本物の『姫様』なのだ。そして俺は先程のアリスの発言に驚いてしまい声を上げてしまったのだ。そんな状況を見て不思議そうにする俺と、どこか嬉しそうな顔をしているレイシアだったがその二人を見た俺は心の中で叫んだ。
(ど、どういうことだこれ!?俺と同じ名前の人なんてこの世には存在しないはずだぞ!!)
「どうかしたの?」
アリスが首を傾げて聞いてくるが、俺は何も答えられない。すると今度はアリスが俺のことをジッと見てきたかと思うとアリスまで何かを考え込むように黙り込んでしまった。一体どうしたものだろうかと思っていたがアリスはしばらくしてから口を開いた。
「貴方がどうしてここにいるのかわからないけど、とりあえずは仲間としてよろしく」
「いや、ちょっと待て。お前まで何言ってるんだ?」
俺は意味が分からず戸惑うばかりだ。するとそこでアリスに何かがあったらしく急に泣き出し、そのままアリスを抱き寄せるようにして抱きしめていたのである。
「よしよ~し、大丈夫よ」
「な、何が起こってんだ?」
突然の出来事に戸惑う俺に対しアリスの母親が優しく抱き締め、慰めている。
そこで俺が混乱しているのを他所にレイシアの奴が何をしたのか教えてくれたのである。どうやら彼女が俺に施した治療魔法がアリスに効き、それによりアリスの中に封印されていた『前世の人格』を目覚めさせてしまったという。しかし、何故なのか俺にはよくわからなかったが『大賢者』としての能力を覚醒させるのに必要なことだったそうだ。
俺はその事実に唖然とするが、それよりも俺は『賢者の石』を起動させたことで自分の身体に何か異常がないか心配になって尋ねていた。
俺のその言葉に反応するようにレイシアは言う。どうやら俺の『賢者の石』の力が俺自身の力に耐え切れなかったらしく肉体に変化が現れ始めているらしい。しかし『大魔王』は俺の想像していた以上に厄介で強力な存在である。それこそ今の俺が挑んで勝てるかどうかも怪しい存在なので俺はレイシアに鍛えてもらうことにしたのである。俺はレイシアに弟子入りすることを志願すると彼女は少し困った顔をして言ってきたのだった。それは彼女に弟子入りするとはすなわち彼女に隷属することになるのだが、それでいいのかと言われてしまう。しかし、それを聞いても俺は気にしなかった。むしろ俺はそうしてもらった方がいいと思い弟子入りを希望したのだ。そして彼女は了承してくれたのだった。するとここでレイシアは意外なことを告げるのだった。
どうやら『異世界』にやって来たばかりでこの世界についてもほとんど知らないであろう俺の為に彼女は『魔王軍』の拠点である城の内部にある施設を利用してくれると言ったのだ。俺はその提案に対してありがたく受けることにしたのである。
こうして俺とアリスは『魔王軍』の仲間となったのであった。ちなみにその前にアリスを部屋に残して、アリスの母と俺でこの世界について色々と情報交換を行っていた。その結果この世界には本来ならば存在しないはずの人間、それも『大魔王』がいることを聞かされたのである。しかも、その魔王が俺と同郷であることに俺は驚かされてしまうのだった。しかしアリスの母親の話を聞いたところ、この世界は元々『勇者』がいた世界とはまた別の世界だということがわかってしまう。そしてその世界が『大魔王』によって支配されているという話を聞くことになる。しかも、それこそがこの世界で俺に転生する前の前世において大親友である大魔王だという事に驚きを隠せなかったのである。
(マジかよ、あの野郎とうとうここまでやって来ちまったってのか。それじゃあ俺はあいつを倒すためにここに来たっていうことだよな。でもまさかこんな形になるとは思わなかったぜ。くそ、なんとしても俺はあいつを止めないといけないな。そして大魔王を倒し、『賢者の石』を起動させて元の世界を元通りに戻さねえと!だけど俺にできるのか?)
不安になりながら俺は自分にそう問いかけるが自信が持てない。それでもやるしかないのだ。俺は気合を入れ直すのである。
そんな時アリスが俺達のところに戻ってくると俺に向かっていきなり抱きついて来て俺を押し倒してきた。一体どうしたことかと思った時に俺にキスをしたのである。これには流石に俺だけではなくて、アリスの母親も驚いており、どうやらアリスの母は俺達がそういった関係になることを望んでいるようだが俺は全力で拒否するのだった。そんな時だった、俺達の部屋の扉が勢い良く開かれるとそこから入ってきたのは、大魔王だった。
「なっ!?大魔王がここに?」
俺はそのことに驚くが、大魔王はこちらの様子を見ると少し意外そうな表情を見せる。
「これはどういう事?貴方とこの子はどういう関係でどういうわけなの?私も混ぜなさい」
そう言って俺の側に近づいてくる。
俺はそれを避けるがアリスも巻き込まれる。するとアリスも何故か逃げようとするが、それを許さずに捕まえて、一緒にベッドへと倒れ込んでしまう。そして二人がかりで襲ってくるが、アリスのお母さんも混ざってきて3Pになってしまった。
そしてその後で三人が疲れ切った後に俺と大魔王は話し合いを行い互いに協力体制を築くことを約束したのであった。
それから数日が経過して、俺とアリス、そして大魔王は『聖杯』が眠るとされる地下へと足を運ぶとそこにはアリスの母親が立っており、どうやら儀式の準備は既に整っているようだ。そこで俺とアリスとレイシアの三人は祭壇に立つと『聖杯』に手を触れる。
「では始めましょう」
アリスの母親はそう言うとその場から離れる。どうやらアリスのお母さんはこの世界の巫女のような役割を持っているようだ。俺はその様子を見守っていると突如として激しい痛みに襲われその場に膝をつくと苦しんでいると、突然アリスと大魔王の身体が輝き出したのである。その光は次第に大きくなり周囲を覆いつくしていく。
(ぐぁあああっ、な、なんだこれ、頭が痛い)
その激痛はやがて治まり光が消える。そして『聖杯』を見るといつの間にか『賢者の石』が起動していて、その力を解放していた。すると目の前に『精霊』が姿を現す。その精霊の姿を見て俺も、アリスも大魔王さえも驚愕のあまりに目を見開いて固まってしまう。なぜなら現れたのは『大賢者』としての能力を解放した際に出現した精霊と同じ存在だったからだ。だが見た目は全く異なっており、背中から生えた羽は六枚から八枚の羽根に、頭から伸びる髪は長くなり、さらに全身から淡い光が放たれていて神秘的な雰囲気を放っている。
(あれが本来の精霊の姿なのか?)
「お待ちしておりました。私は『聖杯』を守る『大天使メタトロン』です。どうぞよろしくお願いします」
その声音はどこか幼さが感じられた。
「こっちこそよろしく」
アリスが挨拶を交わすと、メタトロンは微笑む。
(これが本来の在り方なのか?)
俺は内心驚きながらも平静を装いながら会話を進める。
「俺の名前は桐谷蓮だ」
「えっと、私も一応名乗るべきよね。名前はレイシア、これから宜しくね」
「ああ、よろしく頼むよ。それにしてもまさか俺達以外にも『大賢者』の素質がある者が居たなんて驚きだな。それなら『勇者』の力にも対抗出来るかもしれない。だけど俺には『賢者の石』を制御することが出来ないんだよ。もしよかったらそのやり方を俺に教えてもらえないか?」
「え、それはいいけど大丈夫?」
「何が?」
俺は疑問符を浮かべるとレイシアは呆れたような表情を見せてから俺に説明をする。
「その能力の使い方については『大賢者』の本人から直接聞いた方がいいわ。というか『勇者』の力と『大魔王』の存在と私の力を使えば簡単に貴方も使いこなすことができるはず」
レイシアはアリスの方を見ながら説明する。
俺はその意味が分からずにいたのだがレイシアは答えを明かさないまま、俺の手を掴むと強引に引っ張ってアリスの元へ向かう。するとアリスは嬉しそうに笑みを見せていた。
「久しぶりだね。会いたかったよ」
「え、知り合い?」
俺はアリスの反応を見て驚くがアリスは首を左右に振る。
「ううん、初対面よ。だって私が最後に会った時にはまだ小さかったんだもの」
アリスはそう言うが俺の脳裏によぎるのは先ほど見た姿だった。
俺はそれを確かめるように聞いてみると、アリスはやはり俺の記憶違いではなかった。それはレイシアに間違いだったと知らされてしまう。つまり、俺の出会ったのはまだほんの幼い頃で、しかもそれは十年以上前のことだという。俺にとってはつい最近の出来事の感覚だったので驚いたが、それよりも今はそれどころではないと意識を切り替えて質問する。
まず最初に聞きたいのは何故俺と同じような境遇の人間が存在しているのかと言うことである。俺とアリスはともかくとして『大賢者』の大元は『勇者』と敵対していた『大魔王』であるはずだ。それなのに俺以外にこの世界に現れた『勇者』の『賢者の石』を所持しているのはどういうことなのかを尋ねると、どうやら『大魔王』である前世の親友が『大魔王』となったことで『勇者』の力が『魔王』と共鳴するように発動して、この世界に来てしまったらしい。しかもその際にレイシアがこの世界に存在していたことで、この世界における大元の管理者権限を持つレイシアの肉体を媒介してこの世界にやって来たらしい。
そして、そのせいでレイシアは『大魔王』と同化したことでレイシアは肉体を消滅させる運命にあった。しかし、『賢者の石』の起動によって肉体を維持することが出来て、『大賢者』として新たな生を享受することを選んだのだ。そして俺とレイシアは共に『勇者』である前世と『魔王』であった頃の親友と敵対することになったのだ。俺としては二人を止めるためにもこの世界で戦おうと思うが、それにあたってどうしても解決しなければならない問題がある。それは、俺がどうやって『賢者の石』を発動するかということである。
そもそも俺にその方法を知る手段が無いのである。そんな状況の中で『大魔王』と『大賢者』の『聖杯』が俺の目の前に姿を現したのだ。俺と『大魔王』が触れ合うと不思議な事が起きたのである。俺の脳内に膨大な量の情報が流れ込んできた。その中には俺の前世の記憶も含まれている。それにより俺は理解することが出来た。そして俺は俺自身の『賢者の石』を呼び出して制御することができた。
俺は自分の体を見下ろして本当に『大魔王』と一体化しているのだという事を実感させられる。どうやら俺達はお互いに同じ力を共有した状態にあるようだった。しかも俺と大魔王が一つになると自動的に大魔王の『大賢者』のスキルまで使用できるようになり、それによってレイシアのように大昔のことを思いだすことができたのだ。そして俺に足りない知識をレイシアが俺に与えてくれたことによって俺でも問題なく扱うことが出来るようになったのである。こうして俺は新しい『賢者の石』を手にすることに成功したのであった。
俺達の元を訪れたアリスの父親は『大天使メタトロン』の加護を受けるための儀式を行うと宣言して俺達とレイシアとで儀式を行って『精霊神』の力を手に入れて儀式を終わらせることに成功する。
その後、俺はアリスと共に家に帰って休むことにしたのであった。
儀式を終えて俺はアリスの家に泊まることになる。儀式は終わったもののまだ完全には安定していないようで、俺達の力は不安定でいつ暴走してしまうのかも分からないので暫くは俺がアリスの家に住むこととなった。
家に入ると俺はソファーに座り込んで体を休ませる。そしてふと思ったのが、俺は一体何をやっているんだろうかという事だった。元々の目的はこの世界の『大魔王』の封印を解くのが目的で『勇者』の力を無力化するための準備を整えていたのにも関わらず、その『大魔王』を倒そうとしてその力を借りることになったのだから。
だが『大魔王』は言った通りこの世界を崩壊させることを望んではいないのは確かな事だった。それにアリスの母親や『精霊神』の話によればどうもアリスの父親が『勇者』として召喚される以前の時代では『大魔王』は悪い奴じゃなかったみたいだしな。確かにあいつの行動のせいで大勢の人達が犠牲になったことも事実だ。だけどあいつなりの考えを持って行動した結果なのだから仕方がないことだと思っていた。
「まぁいいさ、別にこっちとしても損は無いからな」
アリスの両親と協力関係を築いているのであればこちら側にデメリットはほとんど存在しないのである。それに今回の一件が無事に終われば俺は元の世界に戻るつもりなので、その時のために『大魔王』にはしっかりと協力してもらおうと思ったのだ。俺は気を引き締めると明日からの予定について思考を巡らせていくのであった。
翌日になって目を覚ますと俺はアリスの寝顔を見ながらこれからのことを考える。
(さてと、これからはどうしようか?)
俺はこの世界に残り続けて戦う道を選ぶつもりでいた。しかしこのまま戦いを続けていればいずれ必ず限界が訪れる。そう考えてみると今の内に次の手を考えなければならなくなる。幸いなことに俺の中には『賢者の石』があるおかげで戦闘面では問題は起きないだろうが、それでもいつどんな時に現れるか分からぬ脅威に対して対抗できる手段は多い方がいいだろう。そして一番の難題になるであろうレイシアについてはどうするべきかと考える。
どう考えても戦力としては申し分ないが彼女はこの世界の存在じゃない上にレイシアはこの世界のシステムに縛られているのである。つまり、仮に俺がレイシアだけを『大賢者』の力で連れて行くことは可能だったとしてもそれをレイシア本人が受け入れてくれるかどうかも怪しい所である。
そこで俺は一つの策を思いつく。それは『聖杯』を使ってこの世界を俺にとって有利なように作り変えることだった。俺はアリスを起こして事情を説明するとアリスと一緒に外に出ることにした。アリスは最初は不思議そうな顔をしていたのだが、説明を終える頃には笑顔を浮かべる。
「うん、私もそれがいいと思う。きっと蓮君のお母さんもその方が喜んでくれるはずよ」
アリスはその提案を肯定してくれると俺は早速行動に移すことにする。といってもやることは少ないのですぐに終わるのだが、それでもそれなりに時間は掛かるものだ。それから俺はアリスと別れた後に、一度自分のアパートに帰る事にしたのだ。俺は『精霊王剣エクスカリバー』を持ち歩く為に鞄にしまうことにして、他にも何か使える物がないのかを確認しようと部屋の中を探し回る。すると引き出しの奥の方から出てきたのは古ぼけた本である。題名は『世界樹の書~この世の真実~』である。
「何だこれ?」
こんなものを買った覚えはない。いや待て、そもそもこれはどこから持ってきたものだったっけか?確か実家の方だな。だけどあの時にはこんなものなんて無かったはずだ。だとするとあれは何なんだ、どうして俺はこれを持っていたんだろうな。まぁ今はそれよりも『大魔王の封印書』のことを考えるべきだよな。この中のどこに封印されているのか、あるいは俺の体に宿った状態でこの『聖杯』に干渉して探す事が出来るのかという二つの問題があるのだが。
そうしてしばらく考えていたが答えは出ないので一旦は保留することにした。次に『勇者の聖剣(エクセリオンセイバー)』を装備できるようにして俺はアリスの元へ戻ろうとする。しかし、そんな俺の目の前に現れた男に話しかけられる。そいつは俺よりも身長が高く筋骨隆々の体格をした男だった。俺はそいつを見て少しばかり驚いていた。なぜなら俺の記憶の中ではこいつは『魔王四天王』の一人、俺が戦った相手でもあるバルドゥルだったからだ。
その男が何故今俺の前に現れたのかが分からなかったがどうやら目的は俺と戦うことであるようだ。そう言えばこいつらは俺のことを『勇者』として見ていなかったし『大魔王』を封印するために動いていると聞いて俺を殺しにでも来たのか。とにかく戦わないという選択肢は無いようである。俺はバルドゥルに向かって構えるが向こうの攻撃が早かった。
俺に向けて放たれたのは魔力を纏わせた拳であり俺の頬を掠めながら背後の壁を粉々に粉砕する。俺はその光景を唖然としながら見ることしかできなかった。いくらなんでも威力が桁違い過ぎているような気がしてならなかったのである。どう考えてもこの世界にこれほどまでの身体能力を持つ生物がいるとは思えないのだ。つまりこいつがこの世界で異常な存在であることは確実だ。
(どういうことなのかは分からないが、少なくとも俺と戦おうとしているということだけは分かるな。つまり本気で殺しに来てるというわけか)
俺はそう判断を下すと覚悟を決めて臨戦態勢を取った。まずは魔法を使う。
《闇雷》 まず俺は魔法の効果を『大賢者』のサポートによって強化した上で相手に撃ちこむ。相手の体は光に包まれたがその程度では大してダメージを負ったようではないようだった。
(うーん、流石に一発では無理か。とりあえず様子をみておくか)
今度は俺の周囲に幾つもの小さな魔弾を作り出して射出していった。それらは次々に敵に命中していくもののその程度の攻撃でダメージを与えることなど出来るはずもなく、全て避けられてしまったのである。しかもそれだけでは終わらず俺に接近してきたバルドゥルはそのまま腕を振りかぶってくる。俺はその動きに反応して防御しようと試みるもののその速度に対応できず吹き飛ばされてしまう。俺は空中で一回転してから着地を決めると体勢を立て直した。そして敵の方を見つめなおすがどうやら今のが奴にとっては最初の一撃にすぎなかったらしく再び襲いかかって来る。
(くっ!速すぎる。俺の動きに付いて来れてない。それなのに俺の放った全ての攻撃を最小限の動きだけで避けきっているぞ。やっぱりおかしい。『勇者』でもこれだけの能力を発揮できるなんて考えられないのにどうして『聖杯』もなしに俺がここまで圧倒されるんだよ。それにあいつの使う技、どれも見たことがないもだな。まさか『異界門』を通ってきた『勇者』か!?)
もしそうならば『異世界召喚特典』を二つ持っていることになり、その可能性は非常に高くなる。ただ俺の記憶ではそんな人物はいないはずである。だから俺の予想は外れているという可能性も十分にあるがどちらにせよこのままじゃ勝てる未来が全く見えない。俺は必死になって対抗策を講じる必要があった。そこで『聖杯』を発動させながら俺は思考加速で自分の頭で考えられる最速で考えを纏める。
俺の持つ『大賢者』は相手の力を見抜くことが可能でそれによって大体だが力の大まかな数値がわかるようになっていた。そして俺は『大賢者』を使ってステータス画面を開く。そこに映されていたのは今まで見たことのないほどの圧倒的な強さを持った数字が表示されていた。
(なんだよこの数値。これが『大魔王』の力だというのか。確かにこいつの力は異常だったがそこまでとは思わなかったな。一体どんな力があればこんなに強くなることができるんだ?)
正直言って俺はこの化け物に勝てないと悟り始めてしまいそうになる。だが俺がこの世界に残れる可能性があるとすればそれは『勇者』であるこの男を倒す以外にありえないだろう。俺は『大魔王』の力と『勇者』の力が合わさった力に恐怖しながらもそれをねじ伏せるために全力で立ち向かうことにした。
俺が全神経を集中させて奴を観察してみると、ある事に気づくことができた。奴の身体能力は確かに常軌を逸しているかもしれない。それでも俺は奴の弱点を見つけることに成功する。それは奴は自分から動くということをしていないのにこちらの回避行動に対して先回りして攻撃を繰り出すというパターンがあったのである。そこで俺はこの能力の攻略法を見出すことが出来たのだ。
『大賢者』が算出する数値の変動を細かく確認すればどうやれば相手を完封することが出来るかを予測することができた。俺は奴の行動を観察して次の攻撃が来るタイミングに合わせて魔法を使い相殺させる。それにより俺に奴が振り下ろすはずだった右腕の軌道が変わることになった。その瞬間俺は勝利の確信を得ていたのである。なぜなら俺は最初からこの勝負を終わらせるつもりがなかったからである。俺は奴が右手に握る武器を破壊することでこの戦いを終わらせるつもりだった。しかし結果は失敗してしまう。俺が破壊したのは剣だけであり同時に放っていた魔法まで防ぎ切ってしまったのであった。
俺は自分の目論見が完全に失敗したことを知るとどうしようかと悩む。今の一瞬の攻防だけでも十分に実力の差というものを見せ付けられた。どう足掻いても今の俺ではこの男の足元にすら及ばないのではないだろうか?しかし、ここで諦めるのは駄目だ。
『大賢者』の導き出す答えが本当であるならこの男は俺を殺すことが出来ないのである。つまりは『勇者』は俺を殺すことができない存在であるという証明でもあるのだ。
「はぁああああっ!」
俺は気合を入れて立ち上がると全身をバネにして拳を突き出しに行く。しかし当然のように避けられてしまった挙句に反撃を受けてしまう羽目になる。俺は何とか致命傷を避けたものの脇腹と肩口を打ち抜かれることになった。
「ぐはっ!」
あまりの痛みのせいで俺は膝をついて地面に倒れこんでしまう。それでも俺は歯を食いしばって立ち上がった。俺の目にはもはや自分が死んでいるのか生きているのかさえも判断できなくなってくるが、そんなことを気にしている場合じゃないと自分に言い聞かせながらどうにかしてこの状況を打開するための方法を考える。
『大賢者』は今も奴の強さを計算し続けていた。それによると現在の数値を計測したとしてもやはりこの男には勝つことはできないという結果になってしまう。だが俺には切り札ともいえる存在がいる。それはレイシアの存在だった。レイシアであればきっとなんとかしてくれるだろうと俺は期待を込めて彼女に声をかけることにしたのである。
「おいレイシア!頼む力を貸してくれ。お前のマスターに俺を助けると思って助けてくれよ」
俺は必死に懇願してみるが、彼女の返事はなかった。それもそのはずでレイシアは現在『魔王』との戦いを繰り広げている真っ最中だったのである。それでも彼女は戦闘に集中しながらもしっかりとこちらの様子を見ており俺が危機的な状況になっていることに気づくとすぐさま行動に移してくれたのである。
《主よ、ご無事ですか?申し訳ありませんがこの『魔王』との戦闘を一時中断しなければなりません。私はこの者を始末したらすぐにでもそちらに向かいますので少々の間だけお持ち下さい。それまでは決して死んでもらっても困りますので》 そう言うとすぐに戦いを再開しにその場から離れていったのである。その行動はまさに救世主のような動きであり俺は感動の涙を心の中で流すのと同時に感謝の気持ちを抱くのであった。それから俺も再びバルドゥルと戦うべく立ち上がると『大賢者』にサポートして貰いながら再び戦うことを決意する。俺はさっきから『聖杯』によって得られた『聖勇者の加護』の恩恵を最大限に利用してステータスの上昇率を上げて戦っていたが、どうやらその効果は時間制限が存在するようだ。俺の身体を包み込むオーラのようなものが徐々に消えていっていることに気づいた。
(これは俺が限界を迎えて効果が消えたのか。それとも時間が経ったらまた効果が現れるのか、どちらにせよこれ以上は戦えそうにはないな)
俺はそう考えると後は『大賢者』に任せる事にしたのだが、相手もそれを許すはずはなく攻撃を仕掛けてくる。俺はそれを必死になって避けるものの既に俺の肉体はかなり悲鳴をあげていて満足に動き回ることすら難しい状態だった。このままでは完全に負けると理解すると俺は最後の賭けに出る。それは今装備できる最高のアイテムを使うという事だった。俺は装備欄の中から最も強いものを選んでいくとその中から選んだのは指輪型の魔道具である。そして俺はそれを指にはめると再び戦いを挑むことにした。
『聖杯』の力によって強化され強化された魔法を放つも、バルドゥルはそれを簡単に避けてしまう。しかも奴は攻撃を避けるだけでなくそのまま攻撃に移ってきたのである。そしてその拳は確実に俺を狙って放たれたのだった。その一撃が命中してしまえば俺は死ぬことになってしまうだろう。それほどまでに強力な攻撃が目の前に迫って来る。俺はそれに対して何も対処が出来なかった。
(まずい!この攻撃を受けてしまったら間違いなく殺される。『大賢者』は一体何をしているんだよ。まだか!?早くしないと俺はこいつに殺されちまうぞ)
俺は自分の死が迫っていると分かっていても未だに『大賢者』の助けを待っていたのである。しかしその時に突然背後から強烈な一撃が叩き込まれてバルドゥルを吹き飛ばしていた。
《大丈夫ですかマスター。貴方の窮地に駆けつけるのが遅くなってしまいましたね。それにしても随分といい格好をしてるじゃないですか。私が見ないうちにどうしてこんな姿になってしまったのでしょうか》 そこには俺のことを見下すようにこちらを見つめるレイシアの姿があった。その言葉にはどこか責めるかのようなニュアンスが含まれていたような気がしたが、今の俺にそれに反論するだけの余裕はない。なぜなら今のでかなりの魔力を消費してしまっていたため『大賢者』による補助も得られずにかなり体力を消耗してしまっている。そのせいで立っているだけでも辛かった。だから彼女に助けてもらったことに素直に感謝しておくことにする。
「悪い。ちょっと色々あったんだがそれよりも今はあの『魔王』を倒しにいかないと駄目なんだ。協力してくれないか?」
俺の言葉に少しばかり沈黙の時間が訪れる。
《ふーん、やっぱり私がいない間にそういうことがあったんですか。分かりました。ではあの敵はこの私が倒すとしましょうか。ただし一つだけ約束して頂けませんか。もう二度と無茶な行動をしないようにしてくださるとありがたいです》 俺はレイシアのその言葉を聞いて何となく彼女が怒っているんじゃないかと思い始めていた。ただ俺としては今回の出来事は自分の中で最善の行動を取ったと思っているので別に悪い事をしたつもりはないという風に答える。すると案の定彼女はさらに不機嫌になったようだった。そして何かを言うためにレイシアは俺に近づくとなぜか急に抱き着いたのである。
(なっ!こいつ一体どういうつもりだ?)俺は思わず固まってしまいされるがままになっていた。しかししばらく経って離れていくと俺の顔を見上げてこう言った。
「いい加減に私の扱いにも慣れて欲しいところですね。それとこの程度のことで動揺しないくらいの心の強さも身につけてください。では、いきますよ」
レイシアはそのまま『魔王』の方へと歩いて行く。俺はそんな彼女の後ろ姿を眺めつつこれからはもっとしっかりしようかなと思わされるのであった。
俺はレイシアの実力がどの程度のものなのか確かめるべく彼女と一緒に『大賢者』の指示のもと行動していた。『大賢者』は先ほど俺を助けてくれたので、俺のことはもう信じてもいいのではないかと思い始めていて。『大賢者』が導き出す結果を信じることにしたのだ。『大賢者』の計算によると『勇者』と『大賢者』の組み合わせである『勇者召喚者』が力を合わせれば『魔王』であろうと互角の戦いができるということらしい。
俺はそんなに簡単に勝てるのならなぜ今まで誰も倒せなかったのかという素朴な疑問が湧いたがとりあえず無視することに決めた。しかしそれでも『大賢者』が言うには奴は本当に規格外の化け物だという事で、レイシア一人だけではどう足掻いても勝つことは出来ないと告げてきたのであった。そこで俺とレイシアは二人で力を合わせて戦う事にしたのである。
(しかしまさかレイシアが協力してくれるなんて思ってもいなかったけど、あいつもちゃんと俺たちの仲間だもんな。俺の大切な仲間だし絶対に死なすわけにはいかないよな)
そんな事を考えながらレイシアの後を追って走り出そうとした時、不意にレイシアが振り返るのであった。
《言い忘れていましたが、『勇者』とレイシアさんだけで戦うつもりですか?流石に今の実力では足手まといになりかねませんよ。それにマスターとレイシアさんの二人分の戦力が削れると『魔王』がより一層有利になってしまう恐れがあります。ここは一度引いて作戦を考えた方が賢明だと思いますよ。『勇者』の力ならば恐らく『魔王』の能力をコピーすることも可能だと思いますので、そうして対策を立てていけば良いかと》
『大賢者』は俺とレイシアの二人が力を合わせたところで足手纏いだと言う。しかし俺にだってやらなければいけない理由というものが存在している。俺が『勇者』として『異世界』に来た目的は強くなる事であり、その為にはどうしても『勇者』としての覚醒が必須条件となるからだ。
《どうやら決意は硬いみたいですね。そこまで覚悟を決めてるという事は仕方ないですが、今回はレイシアさんも協力して戦うということでよろしいでしょうか。それであればどうにかなるとは思うのですが、レイシアさんの意見はどうかお聞かせ願いませんか?》
「私はマスターの意思に従います。私はマスターを信じるのみですよ」
レイシアは笑顔を浮かべるとそう口にした。
《ではそうすることにしましょう。まず最初は私の提案で連携訓練を行っていただきましょう。今のままだととてもじゃないですが、まともに戦闘を行うのは不可能でしょうからね。それでお互いに足りない部分を補っていくと致しましょう。まずはお二人は互いの力をある程度把握しあっていた方が良いかと思われます。なので『聖杯』で能力値を上昇させた状態で戦闘を行っていただければと思います》
『大賢者』のアドバイスを受けて、俺とレイシアは同時に『聖杯』を使用してステータスを上昇させる。俺のステータスは全体的に大幅に上昇したのだが、それと同時に新たに獲得した『聖剣エクスカリヴァーン』の使い方を理解できるようになったのである。それはまるで以前から使い続けていたかのように自然と俺の身体に馴染んでいたのだった。
それからレイシアにも同じ現象が起きていたらしく彼女は俺と同じような感想を述べていた。ただレイシアの場合は元々の身体能力が高かったのもあってそこまで変化はなかったが、俺はステータスが上昇したことでその違いがハッキリとわかるようになっていたのである。その結果として俺の方が遥かに戦闘能力が上がったことを理解した。
それから俺とレイシアはお互いに準備が整うのを待ちながらバルドゥルと対峙することになった。だがその前にまずは奴のスキルやステータスについて調べるために俺はレイシアに声をかける。彼女はそれに対してすぐに答えてくれて、それから俺はバルドゥルの持つ全ての情報を『大賢者』によって開示してもらう。すると俺はとんでもない真実を知ってしまう。
バルドゥルの正体というのが実は魔族の王にして『魔皇帝バルドゥル』であるという事実に俺は驚いてしまったのである。魔族の王とまで言われる『魔王』が実は魔皇バルドゥルだったというのだ。これには驚きを隠すことができない。俺がそんなことを考えている間に戦いの準備が整ったようでバルドゥルが俺の前に立ち塞がる。そして俺はすぐに構えを取り、相手に向かって攻撃を行った。俺と『魔王』との戦いが始まったのである。
*
『魔王』との戦闘が開始されてすでに二時間が経過をしていた。その間俺は必死になって攻撃を続けている。しかし『大賢者』の手助けがあるとはいえ、まだ『勇者』が完全ではない状況の中で俺はバルドゥルを追い詰めることが出来ずにいた。
俺は相手の出方を見計らうため敢えて距離を取る。バルドゥルは俺の動きに対して何の警戒心も抱いていないのか追撃してくる気配はなかった。しかしそれが不気味でもあり、俺は『大賢者』の指示の元行動に移ることにした。まずは小細工を弄するために俺の『聖器』でもある剣に『勇者召喚者』の力で付与を施していく。それにより切れ味が増した状態を作り出しておき、それを隙を見て奴に振り下ろす。するとその攻撃を予想していたのか奴はその一撃を避けようとするも僅かに間に合わなかったようだ。俺の攻撃が奴に直撃して確かなダメージを与えたのである。俺はそのまま畳みかけるように連続で攻撃を仕掛けた。バルドゥルはそれを腕に着けている籠手で受け止めている。そして反撃をしようとバルドゥルが拳を放つが俺は難なく回避して、そのまま連撃を放っていく。その攻撃を受けきれなかった奴は大きく後ろに吹き飛んでいった。
《やはり攻撃力の上昇率でいえばまだ『勇者召喚者』には遠く及ばないようですね。でもマスターもレイシアも既に『大賢者』による補助魔法で強化されているため、単純な数値だけを比較しても互角以上には戦えるはずですよ。このまま行けばいずれ倒すこともできるはずです》
「ああ、そうだといいんだけどさ。それよりさっきの攻撃でかなり消耗したみたいだぞ」
《そのようですね。しかしそれも当然かと思いますよ。なんせマスターもレイシアさんもこの世界ではまだ未成熟の状態なんですから、この短期間で急成長している分だけ成長速度にも限界がくるのが早くなってしまっているんでしょう。ですがここで一気に攻め込んで倒してしまいましょう。幸いにも今の貴方たちは互いにサポートが効いているため『魔王』とも互角以上に渡り合えていることを忘れないようにして下さい》 確かに『大賢者』の言うとおりだろう。今の俺はかなりハイスペックな肉体を手にいれているために通常の人類と比べて高い戦闘力を誇っているのだ。そして俺はレイシアのサポートも受けながらどんどんとバルドゥルを攻めていった。しかし奴にはまだまだ余裕が見えていて、どうすれば奴の余裕を打ち砕くことができるのだろうかと悩んでいたところだった。その時、
「おい!そこの人間!そいつを殺すんじゃねえよ!こっちへ寄越せ!」
突然上空から声が響き渡ると一人の少年が俺たちの前に現れたのである。そして彼はレイシアを指差しながら俺の事を睨んできたのだ。
「あんたがこいつのご主人様ってわけかい?なら丁度良かったぜ。俺の名前はエターナル。『魔王』を倒すための切り札としてお前らのところにやってきた『転生人』の一人だ。悪いが俺はこの世界を救うためにも『魔王』は殺させて貰う」
『大賢者』の話では『勇者』が『魔王』を倒した際に現れるとされているらしい。そのため『魔王』と戦うという事は『勇者』が『魔王』を殺して世界を救おうとしている可能性が高いわけなのだが。
「待ってくれ。いきなり来て『魔王』をくれと言われて『はい、そうですか』と言うと思うか?」
そう俺が答えるとエタナールは俺の方に近づいてきた。そしてそのまま俺の顔面を思いっきり殴りつけてきやがったのである。俺がその衝撃を受けて地面に倒れ伏すとさらに踏みつけてくる。
「はっはー。なぁんだ?見かけ通りの雑魚じゃねぇかよ。俺を舐めてるとぶっ殺すぜ?」エタナンとかいう男は笑い声を上げると今度はレイシアの方へ向かって歩き出した。
《やめなさい!》 そこで今まで大人しくしていたレイシアが突如動き出すと一瞬にしてその場から離れると彼の目の前に現れた。どうやら彼の背後に回り込んだようである。しかしそれを見た彼がニヤリとした笑みを漏らしたのである。その表情からは先ほどまでの軽薄そうな感じはなくどこか邪悪な雰囲気を感じさせていた。
レイシアと『魔王』の戦闘が始まろうとしていた。俺の眼前には二人の人物が存在していて、そのうちの一人である少女の姿はいつもの見慣れたものではなくレイヴィアと呼ばれる本来の姿になっていたのである。
(あれはレイヴィアなのか?)
その姿を確認した瞬間、俺はそう思った。
何故そう思うかというと今俺の視界の中にはもう一人の人物が立っているからである。俺の隣にいる存在もまたレイヴィアであり、彼女の本当の名前はレイリアというのだと聞いていたからだ。しかし俺にはどう見ても同じにしか見えなかった。だがそれでも俺の中にいる『大賢者』が彼女がレイヴィアだと伝えてきた。その事からおそらく見た目こそレイシアと同じように見えるレイヴィアであるが、彼女は俺がよく知る方の彼女とは違うのかもしれないと推測したのであった。
それから二人は戦闘を開始するとレイピアを構えた状態でぶつかり合ったのである。どうやらレイシアの方が押されているらしく劣勢に立たされていた。その様子を見ているとなんだか俺の心の中にもやもやとした感情が生まれてきてしまう。
《大丈夫ですよマスター。レイシアさんはきっと勝ちますから。だから信じましょう》俺が内心で焦りを感じていたことを悟ったのか、『大賢者』は俺のことを落ち着かせるためかそう話しかけてきた。
「わかっているさ。レイシアを信じないで一体誰が信じるんだよ」
俺は自分に言い聞かせるようにそう口にすると、レイシアの援護のために剣を構える。しかしそんな時に背後に誰かがいるのに気がつき俺は慌てて剣を盾のように使ってガードを行ったのである。
俺はなんとか防御を行うと後方を振り返る。そこに立っていたのはあのレイヴンと名乗る女性だった。そして俺はその女性の姿を見て驚くことになる。なぜなら彼女はまるで機械人形のような見た目をしていたからである。それは以前戦ったロボット兵士とはまるで違うタイプのものなのではないかと俺は予想をした。
それから彼女はこちらの様子を窺うようにして黙っていたが、やがて俺が反応を見せたのを確認してから再び襲いかかってきたのであった。俺はどうにかそれを捌いて攻撃を行っていったのだが、その際に相手の力の強さに驚いてしまう。俺は咄嵯に剣を引き戻すとレイシアのところにまで移動したのだ。
それから俺の方に目掛けてレイニアが剣を振り下ろしてくるもそれを防いで反撃する。ただ相手が速すぎるために俺の攻撃はほとんどが当たらなかったのである。そして逆に俺の体に斬撃を浴びてしまった。その結果として傷口から血が流れ出る。
俺は急いで距離を取ると自分の体を癒やすことにした。その前に『聖器』の力によって俺は自身の体力を回復させていく。そして俺が回復を終える前に今度はレイニアが斬りかかってきているのが見える。
《このままではマスターが負けてしまいますね。やはり私だけでは無理なようです。ですので、申し訳ありませんがもう少しだけ時間を稼いで頂けませんでしょうか。レイシアさんの方は私が支援を行いましたので何とかなるはずです》
「わかった。なら俺はお前の指示に従うよ」
《助かります。それではすぐに私は『魔王モード』へと移行しますのでその間、マスターは出来る限り彼女を追い詰めてください》 《魔王モード》というのは俺の持つスキルでレイシアが持つ『レイヴィア』という名前の元になったものだ。その名前の通り魔王の如き力を使うことができる能力なのである。ちなみに俺の場合は『大賢者』による補佐を受ければ使用が可能になるということだ。しかし俺が『大賢者』の補佐無しで使用するのは難しいだろうと言われていた。だからこそ俺はまず『大賢者』にサポートしてもらう必要があるのだろう。
しかし俺一人だけでレイニアスと戦うのは無謀なので、まずは時間を稼ぐために彼女に攻撃を加えることにした。俺の攻撃を紙一重ではあるが避けると反撃を繰り出してくる。その速度はあまりにも速く、まともに喰らえば一撃死してしまう可能性もあるくらいだ。その攻撃を受け流しつつ俺が剣を突き立てようとしたところだったがレイティアに阻まれる。そしてそのまま鍔迫り合いに移行すると俺は彼女の瞳を見てゾクリとする。そして同時にレイティアはニヤリと口角を上げてみせたのだ。その顔を見た途端、俺は本能的に危険だと判断し後ろに飛んで彼女と距離を取った。そしてすぐに魔法を使って攻撃を仕掛けたのである。しかしその攻撃は全て回避されてしまったのだった。
(おかしいな。さっきまでは俺の速度に追いついていなかったはずなのに)
そう思いながらも俺は攻撃を繰り返すもレイディアはそれを悉く避けていく。するとそこで突然俺の目の前から彼女が消えたのである。そして背筋が凍るような悪寒に襲われた俺は慌ててその場を離れたのだ。しかし完全に避けられずに少しの間だけだが傷を負ってしまう。
レイヴィアは姿を消しても尚恐ろしい気配を発し続けている。しかもそれが段々と濃くなっていくように感じることからまだ全力ではないことがわかる。そして彼女が本気で戦えば一瞬で終わっていたであろうことも想像できる。
だが、今は『大賢者』のおかげで『魔王』と同等の力を持つことができているため互角以上に戦えているはずだ。しかしそれでもレイシアが勝てるかどうかはまだ不安があった。というのも彼女の方がレベルが上のせいか、俺のサポートが効きづらくなってしまっているため、このままだとジリ貧になってしまう可能性が高いと思ったからだ。
(どうしたら良いんだろうな?)
俺がそう思ったところでレイリアが姿を現し、それと同時に俺に向かって突進を仕掛けてきた。しかしそれに対処しようとしてレイピアが突き出されようとするが俺の前に立ち塞がった者がいた。それはレイニアだったのだ。俺はそのことに驚くも、そのまま突っ込むわけにもいかないため動きを止めてしまったのである。しかしその間にレイヴィアが接近してきてレイピアを横に薙ぎ払う動作を行ってきたため、俺はそれをバックステップでかわすと反撃を行う。それに対してレイヴィアはレイピアを引いてから再び構えると俺の攻撃を避けていった。それからまたレイヴィアが距離を詰めようとしてきたタイミングに合わせて俺は剣を叩きつけるとレイヴィアのレイピアを破壊する。そしてそのまま蹴り飛ばすとレイリアは地面に倒れるが、そのまま転がり起き上がるとレイリアは腰を低く落として構え直す。
それからレイリアは素早い動きを見せて俺に接近してくる。その速さはまさに神速と呼べるほどであったが、今の俺にはギリギリ目で追えるレベルのスピードだった。
そして彼女はそのまま俺の懐に飛び込んでレイピアを横一線に引き裂こうとしてくるが俺の方は剣を上に持ち上げて防ぐ。そしてそのまま力でレイシアを上空へ吹き飛ばした。しかしレイヴィアはそのまま地面に着地した直後に今度は地面を強く踏み込み一気に加速するとレイシアに追撃を行ったのである。しかしそれは俺の方も同じだ。俺も同時に飛び上がってレイヴィアに向けて斬りかかる。だがレイヴィアはその攻撃を受けると後方へと飛ばされるが地面に足をついて耐え切ると俺に向かってレイピアを投げつけてくる。その攻撃をどうにか弾いたがその直後、レイヴィアが拳を握り締めるとそれを振り抜いてきた。
俺の方は彼女の腕を掴んで受け止めたが、彼女の力があまりに強かったためか後方へ投げ飛ばされてしまったのである。しかしレイシアの方は特にダメージを受けなかったらしく無事であった。
そしてレイシアが俺の隣に立つとレイリアは俺達二人を見据えるようにして静かに佇んでいた。どうやら彼女は俺たちとの戦いに集中しているらしくこちらの様子は全く気にしていないようだ。
そこで俺はふと思い出したことがあった。確か彼女はこの世界に来る前はどこかの学校の教師をしていたらしい。つまり元の世界では普通の人間だったという事だろう。しかし目の前のレイシアはどう見ても普通の少女の姿にしか見えないが、果たしてどういうことなのだろうか?
(いや、待てよ?レイヴィアも元々は俺と同じようにこの世界に転移させられた人間だったのか?)
その可能性を考えれば一応辻妻は合う。そうでなければ『勇者』などという特殊な立場に居ることの説明ができないからだ。
俺が考え事をしている間も戦闘が続いていたが、俺はどうにか思考を中断させるとレイシアと一緒に攻撃を仕掛ける。それから俺は『大賢者』の力によってレイヴィアが使う技の解析を行い、それを元に俺の固有技能に新しく『模倣』のコマンドを追加する。そのおかげで俺の能力は大幅に向上し、『勇者』の能力をある程度再現できるようにまで至っていた。
そしてレイピアに込められているエネルギーを吸収して攻撃力を上げながら俺はレイヴィアに対してレイシアと二人がかりで連携攻撃を仕掛けることにしたのである。そして俺達は二人で彼女の動きを止めるとレイティアが振るうレイピアに意識を集中させないように注意しながら戦いを続けていく。その最中俺は自分の中に違和感を覚えたのだ。
《スキルが発現しました》
「何!?」
俺の中に『勇者』が持つ技能が宿り始めてきていることを俺は悟ったのであった。
俺の中にスキル『複製体』が出現したことによって戦況は一気に逆転することとなったのだ。というのも『複製体』とは相手の記憶を読み取って、同じ能力を持った人形を生成することが出来るようになるスキルであった。しかもただ作るだけでなく相手の行動などを学習させて成長するため使い勝手の良いものなのである。俺はまず『コピー』で相手の情報を全て入手すると『鑑定』のコマンドを使い解析を行ったのである。
そして相手の記憶の中にあったレイヴィアという人物の情報を基に、彼女は教師であったという部分に着目した。それはレイヴィアが自分の持つ力の正体を知らない可能性があったからである。だからこそ俺達はその情報をレイシアに伝えてみようと思ったのだった。
そうすることでもしかしたら彼女がレイヴィアの記憶から力の詳細を知ることができるかもしれないという狙いがあった。そして俺の考えは当たりレイシアは相手が持つ力を『模倣』することによって『大賢者』のサポートを受けることなく扱うことができたのだ。これによって俺達が圧倒的に優勢になり始める。それからしばらく俺とレイシアが協力してレイニアと戦い続けたのだが遂に俺が彼女の武器を破壊したのである。しかし俺の攻撃が当たる寸前にレイディアが間に入ってきたため、攻撃を当て損ねてしまい逆に斬撃を浴びてしまった。その痛みに思わず俺は声を出してしまいその場に倒れ込む。そんな時、俺はあることに気づいたのである。そしてそれはとても信じられないことであり、最初は幻覚ではないかと考えたほどだ。しかしその時にはもう遅く、既に俺は逃げ場がなくなっていた。なぜなら俺を取り囲むようにして黒い人型の怪物が出現したからだ。しかもそれはレイシアが呼び出したもので間違いないだろうと思われた。
(くそっ、どうしたらいいんだ!『大賢者』ならこの状況から脱出する手段を教えてくれるはずだよな)
《はい。今からでも遅くはありません。私の指示に従ってください》
「わかった。頼む!」
俺は迷わず指示に従い『複製』を発動させる。それにより大量の俺と同じ存在が出現する。しかしそれだけでは足りないので『大賢者』によるアシストを受けられる分も発動させたのである。
その結果俺は無数の自分が同時に動いているという異様な光景を生み出すことに成功したのだった。しかしそれで終わらず今度は『コピー』を使って『大賢者』が『魔王モード』の『大賢者』に変身する際に使う魔力を使って『魔王モード』へと変身したのだった。そしてレイリアの攻撃をかわした後、その勢いのままレイシアを抱えて跳躍するとレイディアの頭上を飛び越えることに成功する。その瞬間にレイシアが俺のことを離すと彼女は剣を構えたまま空中に停止していた。
そしてレイヴィアとレイディアの間にレイリアを挟み込んだことで俺がレイティアの攻撃を避けながら戦う構図となったのである。すると俺はそのことに気付いてしまった。なぜならばレイリアが攻撃を行う度にその速度が上がっていることに俺は気づいたからだ。その速度はレイヴィアに迫るほどの速度で、もしもこのまま攻撃の回数を増やしていったら確実に俺の攻撃をレイリアは避けることができなくなるだろう。そこで俺はどうしたらレイシアを助け出す事ができるか考えた。そこで思い浮かんだのは『レイシアの身体操作権を奪って、その上で『魔王化』を使えばレイリアは攻撃することができずに止まるはずだ』という考えに至った。
そうして俺とレイヴィアはお互いに視線を合わせる。それからレイシアと入れ替わるための行動を俺は取ることにする。
「お前にはここで死んでもらう」
「そうはさせないよ」
「いや、ここで終わらせてみせるさ。レイリアは僕の手で倒す必要があるからな」
俺はその言葉を最後に『魔王モード』を起動させるとレイシアと入れ替わったのだった。そしてレイシアはすぐさまレイリアの首を切り裂き戦闘を終わらせようとした。しかしそれはレイシアの剣がレイヴィアのレイピアによって弾かれることによって失敗に終わることになる。そのことに驚くがすぐに俺はレイヴィアの懐に入り込みレイシアを抱きしめるように拘束する。そしてそのまま彼女を抱き寄せると俺はレイヴィアの首元を剣で斬りつけたのである。
(よし、うまく斬れたぞ)
しかしそれでも彼女は倒せず、俺の腹に向かってレイピアを薙ぎ払ってきたのだった。俺は咄嵯にレイシアを蹴り飛ばしレイヴィアから距離を取るとレイシアと入れ替わる。しかし、その時レイシアが俺の腕の中から消えたのだ。その事実に俺は驚いているとレイリアはレイシアと俺を見つめて何かを考えるようにしていたが、それからゆっくりとこちらに近づいてくる。
(もしかしてあいつも俺達のことが見えるようになったって事か?)
レイシアもレイリアのことを警戒しているようで剣を構えているがレイリアがこちらに向けてレイピアを振り下ろすと剣をぶつけ合い、その威力を殺すと後方へ飛ぶ。そしてそこから二人はぶつかり合ったが俺と戦っていた時の比ではないほど速くなっており、俺はレイシアが押されている状況を見て助けに向かおうとしたが、それよりも早くレイリアの攻撃を俺の方に叩き込まれてしまう。どうにかその攻撃を受け止めるが俺が受け止めきれず後ろに吹き飛ばされ、壁にぶつかった後地面を転がる。しかしそこでどうにか受け身を取って立ち上がったのだった。しかし立ち上がるなり再びレイティアのレイピアによって俺の攻撃が弾き飛ばされてしまい無防備な姿を晒してしまう。だがレイシアの方はなんとか攻撃を捌いていたが、それでもレイシアが徐々に傷ついていく。
(不味いな。この調子だと俺の『回復薬』も間に合わない。どうすれば―――――っ、そうだ!レイヴィアの能力の中に『転移能力』があったはず。それならば俺がここに居てもレイシアのところに行くことができるかもしれないな。『大賢者』、レイシアの位置は特定できないのか?)
《残念ですが位置は分かりません。しかし現在レイヴィアが使用しているレイリアがレイシアの肉体を操作していることは把握できています。そのため私は彼女の居場所を特定することが可能なのです》
(なるほど、つまり『レイリア』に近付けさえすればいいんだな?)
《そういうことになります》俺はそのことを確認するために『魔王化』を解除したのであった。するとレイシアの体が発光し始める。その光が消える頃には俺の体に変化が生じていた。それは以前『レイヴィア』が見せた『魔王化』の状態とそっくりな姿であった。
「な、何だその姿は?」
その現象に流石のレイリアも驚きの表情を見せていたが俺は構わずにレイシアの元に向かうべくレイヴィアに向かって走り出したのである。するとレイヴィアの方はレイシアが放つ攻撃を全て避けながら俺を迎え撃つ姿勢を見せた。どう考えてもレイリアの方が格上ではあるが『大賢者』のサポートによって強化された身体能力によってレイヴィアの攻撃をかわしていく。そして俺は『魔王剣』を取り出すとその力を宿らせて振り抜いた。しかしその攻撃はレイヴィアによって受け止められてしまう。そしてレイシアと戦っていた時と同じように反撃してくる。俺はレイシアの体の動かし方を覚えていたためそれをかわすと再び攻撃を行い、レイシアをレイヴィアから引き離した。しかしその間に俺が作り出した壁が消えてしまっていた。それを確認した俺は仕方なく一旦レイシアとの入れ替わりを解いてレイヴィアと戦う覚悟を決めたのである。そして俺はその瞬間からレイヴィアに意識を向けることにした。
そうすることでレイヴィアの動きが先程よりもはっきりと見えたのである。
そしてその隙にレイシアにレイヴィアを攻撃してもらって俺は攻撃を加えないようにした。そして俺が意識を向けたせいなのか、レイリアの意識が俺に向けられるようになり、攻撃の手が激しくなっていくが俺は冷静に見極めて全てを回避し続けていた。
そしてついに俺は『レイシア』にレイリアを攻撃するように指示を出したのだ。
「なっ、何をしている!僕はこんなことをさせるために彼女を送り出したわけではない!」
レイシアの攻撃を避けたレイヴィアだったが、そこに俺が現れてレイシアの代わりにレイヴィアを攻撃してくる。その事態に動揺していたレイヴィアに対して俺は『魔王化』を発動させる。そしてレイヴィアの背後に回ってからレイシアから得た能力を使い『レイシアの剣術』を使用してレイヴィアを切り刻んでいく。しかしレイヴィアはレイシアと違って俺の速度に対応できたようだった。しかしそれでもその差が勝敗を分けることになった。
レイシアの剣術は『勇者』であるレイヴィアの防御を無視してダメージを与えることができているのだ。しかしレイリアの剣術はレイシアが使っていたものの模倣であるため、そこまで防御力の高い相手には通用しないという弱点がある。だから俺がレイシアの剣を操り攻撃を行っている間に俺は背後に回り込んだ。そうするとレイヴィアの反応が遅れたこともあり、俺は剣を突き刺したのだった。するとレイリアがレイヴィアから離れていきレイヴィアの体を侵食していたレイリアの力がレイヴィアから離れたのだ。それにより、彼女の力を抑え込むことに成功した俺はレイヴィアがレイシアから離れて行ったことに驚いた。それから俺が慌てて彼女の元に行こうとするとレイシアが抱きついてきて動きを止められてしまう。
《待って!今は駄目。もう少しレイヴィアのことを見ていたい》そう言われて俺は立ち止まり、様子を伺っているとレイヴィアの体が変化し始めたのである。その変化を見たレイシアはどこか納得したように呟いた。
「やっぱり。そうか、あなたはまだ生きていたのね。よかった」
「どういう意味だ?あいつが何者なのか分かるのか?」
「えぇ、私達には姉妹のような関係があってね。といっても私が勝手にそう思っていただけだけど」
「そうなのか」
レイシアの言う通り、レイリアは苦しそうにもがきながらも必死に耐え続けているように見える。そうして変化が終わり、その姿を見てレイシアとレイヴィアが見比べてみて分かったことがあった。レイヴィアが大人っぽい容姿になっていたのに対してレイシアの方は見た目の変化はほとんどなかったが髪の色と目の色が変わっている。レイヴィアが銀色で白に近い色をしているのにたいしてレイシアが金色で茶色と金が混じったような色をしていた。しかしそれ以外はレイシアの外見が成長しただけでほぼ変わっておらず、身長などもほとんど伸びていなかった。そんな二人の姿を見ると、俺の疑問は解消されなかった。
何故ならレイリアは女性らしい成長を遂げておりレイヴィアと比べてしまうと成長しているように思えるからだ。そこで俺の頭に浮かんだのが『寄生種』が人族や魔族の体に巣食うことで成長するのだろうかと俺は思い、レイヴィアの様子を確認してみると彼女も同じことを考えていたようでその可能性を口にしてきた。
そこで『解析鑑定』を使用し、彼女の正体を調べた結果が俺とレイシアの考えを裏付ける結果となったのである。そう、彼女達はお互いに『レイリア』、『レイヴィア』として存在しているため、片方だけが死ぬことはできないという事なのだ。そのため二人はお互いに殺し合っても死ねないのは分かっているはずだ。
そう思った俺はレイヴィアに近づいていく。そうして彼女に話しかけるとやはり俺の声が聞こえていたらしく俺に向かって声をかけてきた。
「お前は、僕を殺しに来たのだろう?」
「そうだ」
俺の言葉を聞いたレイヴィアの口角が吊り上がり不気味な笑みを見せるとレイリアが剣を向けてきたが俺は剣を振り上げようとしたところで止めた。レイヴィアの瞳からは殺意が感じられなかったのである。
「なぜ殺さない?お前は僕の事が憎くて仕方がないのだろう?」
確かに俺にとっては『聖戦計画』で多くの人々の命を奪い去った彼女が殺したくなるほどの存在ではある。しかし同時にこの世界で俺が『転移転生』の能力を手に入れたことで命を助けることができた。そして何より彼女達の境遇を考えてしまうと殺すことができない。だから俺は彼女達を救いたかったのだ。そのために彼女達が俺に協力してくれるかどうかを聞くためにもまずは話をすることにした。
そう思って彼女達の元に向かおうとするとレイシアが突然レイヴィアを庇うように抱きしめたのである。それから俺は驚いてレイシアに問いかけた。
「レイシア、何をしているんだ?」
《あの子を殺すわけにはいかないよ。だってまだレイヴィアの中には『勇者』として生きた彼女の人格が残っているんだもん。それに彼女は被害者なんだからさ》 その言葉で理解してしまった。レイヴィアはレイシアの妹であると同時にレイシア自身でもあったということであり、だからこそ妹である『勇者』を手にかけることができないと判断したのだという事をだ。
レイシアがこちらを見つめながら涙を流したのが見えた。きっとそれは『レイリア』が見せた感情なのかもしれない。だからレイヴィアを殺そうとはしなかったのだと思う。
そしてレイヴィアはしばらく黙っていたが、レイシアに抱かれながら話し始めたのである。
「なぁ、お前はどうしてそこまで他人に優しくすることができるんだ?僕はもう人間じゃないのは分かるよな?それなのになんでここまで優しくできるんだよ」
それは純粋な問いなのかもしれないが、それは俺も考えたことがないわけではなかった。もしかしたら俺は無意識のうちに『レイシア』に同情心のようなものを感じていたのかもしれない。
俺自身も最初はレイシアを道具として扱うつもりではあったが、レイリアと対峙してから彼女のことを守りたいという思いが強くなっていたのである。おそらくは『魔王化』による精神汚染なのかもしれない。だからといってそれを自覚しているかと言われると俺は自信をもって答えることができなかった。だからその言葉に答えを返すことはできなかったのである。
(もしかすると俺自身が一番自分が何を感じているのか分かっていないのかもしれないな)
そして俺はレイヴィアの前に膝をつき目線を合わせるようにして彼女と向き合ったのである。
そうすると俺の行動に戸惑っていたようだが、彼女は俺に質問をした。
「何だよ。まさかとは思うが見逃してくれるのか?」
「そうだな。正直俺としてもどうしたらいいのかわからないというのが本音だ。でも俺は君達に手を出すのは止めることにする。それで俺と一緒にレイシアが元の世界に帰るための協力をしてほしいと思っている。どうだ、俺に協力してくれる気はあるか?」
「はっ?そんなことが許されると思うのか?僕はこの世界を破壊し尽くすまで戦うつもりだったのに、急に態度を変えて協力するなんて馬鹿げてるぞ。何を企んでいるんだ?そもそもどうして僕に手を差し伸べる。何か目的があるからこそだろう。でなければお前みたいな人間がレイリアを説得できるはずもない。そうだろ?お前は何が目的で動いている?」
そう言われても俺は本当に何も考えずにただ助けたいとそう思ったから動いただけだという事に気づいた。レイヴィアが言っていることも間違ってはいないと思ったが、それでも自分の行動を素直に口にするのは恥ずかしかったのである。だから誤魔化すことにした。
「まぁそう言うなって、俺は困っている人がいれば放っておけない性質でね。俺にとって目の前で悲しそうな顔をして助けを求めている奴を放っておくのは気分が悪くてできないだけなんだ。だから俺は別にあんたたち姉妹のために動いてやるって言ったわけじゃねえってことだ」
ただその一言に込められた俺の気持ちは間違いなく真実だったのである。すると彼女は目を細めて疑わしそうな表情をしていたが少しだけ納得してくれたような顔になり微笑んでくれたのだ。
「そういうことなら、その手をとらせて貰おうかな」
そう言って俺に対して右手を出してきたのである。その手を握って握手をした後すぐにレイヴィアは立ち上がってしまった。だが立ち去る前に彼女は振り返り、こちらを見て話しかけてくれた。
「あぁ、そうだ。僕はあんたのことを許すつもりはないがそれでも感謝しておいてあげるよ。それと一つだけ聞いてもいいか?」
「あ?一体何をだ?」
そうして俺の方を見たレイヴィアが真剣なまなざしをして俺の事を見た。
「僕を倒した時の感覚から推測したのだがお前の力、『勇者』と同じような力を使っているように見えた。だからもしかして『勇者化』ができるんじゃないのか?もしもお前がその力に目覚めているというのであれば僕と戦えるのかもしれない」
レイヴィアの言葉に俺の体が一瞬固まってしまった。『勇者化』というのは俺の知らない能力でありレイヴィアの言うことが正しいとすれば俺は『勇者』として戦えるようになる可能性があるという事になるのだ。するとそこでレイシアが慌てた様子でレイヴィアを止めようとする。
《ちょ、ちょっとレイヴィア!いくらあなたとはいえそれは危険すぎ――》 《分かってるよ。けど、こいつなら、僕を楽に殺せるほどの実力をもっているならその可能性も考えておかないといけなかったからね》
「悪いが、その力は今はまだ分からないんだ。でも、もしそれが使えるようになった時、俺は必ずあんた達姉妹を迎えに行く」
そうして俺は二人を置いて先にその場を離れ、レイシアの元へと向かうとレイシアが不安そうにレイヴィアのことを見ていた。レイヴィアにレイシアが話しかけたがそれに対してもレイヴィアは首を横に振って答える。そうしてレイヴィアは俺の方へ近寄ってきた。
「僕のことを信じるのは難しいだろう。けれど信じて欲しいことがある」
その声色はいつものレイヴィアと違っていて真面目な口調になっていたのである。そしてその雰囲気から彼女もまた、真剣に話していることが分かったので、レイシアが止めるのを気にせず、続きを聴くことにした。
するとレイリアも覚悟を決めたらしく真剣に話をしてきたのであった。その話を聞いた俺とレイシアはその内容を聞いて驚愕する事となった。
その話とは、彼女達は『転移転生』によってレイティアの体を乗っ取ったレイリアの人格はあくまでも本来のレイティアではない事だという事なのだ。
彼女達が言う本来の人格であるレイティアはこの世界に生まれ落ちた時点で『転移転生』の能力を持っていたらしいのだ。そのためこの世界に『聖戦』を引き起こすことは簡単に行えたのだという。しかし本来レイリアは優しい性格をしていたらしく『聖戦』を引き起こそうとしていたレイティアを説得していたらしい。
しかしそのレイアの説得に失敗してしまい、彼女は殺され、レイリアがその後を引き継いで『聖戦』を引き起こし始めたらしい。レイヴィアもその時に生まれたばかりで、二人共記憶が残っていたがレイシアのように自我を取り戻すことができないまま過ごしていたのだという。
しかしレイヴィアだけは違うようでレイシアとは違ってレイリアが持っていたスキルと知識を受け継いでいたために『聖戦』についての知識もあったらしく、それを阻止しようとした。そして『聖戦』が始まった時にレイリアから奪い取りこの『異世界』にやってきたらしい。
つまりこの世界では彼女達には『勇者』として生きてきたレイリアの記憶が残っているがレイシアはレイヴィアとして生きることしかできず、この世界でのレイヴィアが死んでしまえばレイシアの中のレイリアも死んでしまうという事が分かったのである。だから彼女はレイヴィアを守ろうとしていたのだ。
(まさかそんな秘密がレイヴィアの中に眠っていたとはな。それにレイシアは本当の妹であるレイヴィアを守るためにレイシアが消えてしまう運命を変えようと必死になっていたんだろうな)俺はそこまで理解できたところで、レイシアを見る。レイシアも俺と同じことを考えているのか苦笑いをしているようだった。
(まぁ今はレイヴィアの方が重要だからあまり突っ込むつもりはないんだが、やっぱり俺がやるべき事は変わらないか)
そうして二人の事情を理解した俺は彼女たちに協力してもらうために行動することにした。そのためにまず俺は二人にある提案をする。まずは彼女達が今後どのように生活していくかを決める必要があると思い話をした。すると二人はこれから『転移転生』を使って『異世界』へ戻ると言う。だがそれをレイティアと『魔王』達が許してくれるかは疑問だったため、一度その件を相談するため『聖都』へ向かいたいという旨を告げた。すると案外あっさりと許可がおりたのである。ただし条件があり『勇者』であるレイシアは連れて行くことと『魔王』の誰かを連れてくることが条件として提示されてしまったのである。
そしてその日から一週間ほどが過ぎてようやく『聖騎士国』へ向かうための準備が整ったため俺は早速『勇者』であるレイシアと『魔王』の三人とそして俺自身を含めた計五人を引き連れて『転移転生』を行い、『聖城』の謁見の間へと移動するのだった。
そして俺はすぐに『神』の気配を感じることができ、すぐに『創造主』の神の使徒としての姿で『神の巫女』の前に立ったのである。ちなみに今回は『神』に報告したいことがあったため、『神の使徒』の姿をしていたために他の者たちが警戒している様子が見て取れたので、レイシア達に説明を任せることにしたのである。
そうして『聖剣』であるレーヴァテインを『神』に捧げ、今回の経緯を説明していった。
そうしていると、ふいに頭上から聞き覚えのある声が響き渡った。それは『勇者』であるレイシアの妹であるレイヴィアのものであった。
(あれ?あいつってこんなに可愛かったか?)
レイヴィアの外見を見た俺は違和感を感じたがその理由に気づくのに時間はかからなかった。レイヴィアの髪は銀色ではなく金色に輝いていたのである。レイシアと姉妹なのはレイヴィアの姿を見て一目瞭然であったがそれでも驚きを隠せなかったのである。そうしてその光景に驚いた俺に『勇者レイシア』は気がついたのか近づいてきたのである。するとそこで彼女が耳打ちをするように言ってきた。
「実は、レイティアの肉体と融合したレイリアは彼女の能力の一部と知識を引き継ぐことができたんです。だからこうして私にレイリアの記憶と意識が入り込んでいる状態になってるんですよ。なので見た目が違うだけで中身は同じなんです」そう言われて納得することができた。そしてそこで『勇者レイティア』から質問があった。
「ところで君は何者だい?レイリアから君のことは少しばかり聞いていたんだが、正直まだ信用できるかどうかは判断できないんだよ」
レイヴィアの言葉を聞いて俺はどう答えたものか悩んでいた。ここで『神の使徒』ですなどと答えればレイアがどう動くかも分からず、場合によっては敵対する可能性もありうる。しかし俺は素直に伝えることにするとレイヴィアが驚いていた。しかし俺は気にせず続ける。
「とりあえず、俺の名は勇一だ。それとあんたはレイヴィアで間違いないのか?」俺はレイヴィアの反応を見ながら話しかける。すると彼女は戸惑いながらこう答えた。
「えっと、そうだと思いますけど、そのレイヴィアって誰のことですか?」
レイヴィアがそう言った直後レイシアが俺の傍から離れていくと、レイヴィアの事を抱きしめたのであった。そうして泣き出したレイヴィアをあやすように頭を撫でた後に俺は『レイティア』に対して話しかけると、俺の正体が分かっていないレイヴィアは首を傾げていたが、レイティアが『魔王リリア』の姿に変化をした事で正体に気づいてしまった。しかしもう遅い。なぜならば俺がレイヴィアの前で手を振ると、一瞬のうちにレイヴィアは光となってレイティアの中に吸収されていったからである。
そうして俺と『聖剣』はレイティアの体と魂を手に入れたレイヴィアと共に再び『転移転生』の能力を発現させると俺達の住む場所へ戻ってきたのであった。しかし、そこには『魔王』四人が揃っていたためにレイヴィアの事を説明する羽目になってしまった。しかも俺に抱かれているレイシアは顔を赤くしているせいか俺からなかなか離れない様子でありレイヴィアを離そうとしなかったのである。
俺はそこで『転移転生』についてレイシアから聞いていないという事に気付いた。そのため彼女達が『転移転生』を使えなかった理由を知ることが出来たのだが、彼女達はこの世界に来てしまったことで、本来の力を扱えないという事が判明したのである。そこで俺達でレイヴィアを教育することにした。
それから俺達による指導が始まった。俺も教えるのが上手ではないためレイヴィアには迷惑をかけてしまったが、レイシアがレイヴィアをサポートしてくれたおかげでなんとか無事に修行を終えることができたのである。
そうしてしばらくたった頃『転移転生』の能力を完全に習得したレイヴィアがこちらを見て話しかけてきたのだった。そして俺に向かってこういった。
「それでさ、僕をあなたに付けて貰うことに問題は無いんだけど、僕はレイシアお姉様の力になりたいんだ。僕じゃ役に立たないかもしれないけど、どうか一緒に行かせて欲しい」その言葉を聞いていた俺は迷うことなくレイシアに問いかけてみると、レイシアは微笑みつつ答えるのであった。そしてレイシアはレイヴィアに『魔導人形 Type - Aries』を渡し、レイシアが身につけている『神装機竜』である『キメラティックコードA 天撃の型』を与えることにした。すると、今度はレイティアが自分の力を使いこなせるようになるまで訓練をしたいと言い出してきたが俺は反対するつもりはない。そもそも俺達の目的はあくまでも『転移転生』の能力を手に入れることであるためだ。
そうして俺達は『勇者』として『聖騎士国』へ向かって行くのだった。その道中で『聖女』のユミナとラフィーネという少女に出会ったのである。この二人も今回の事件に巻き込まれていたらしく、この二人もレイティアと同じように『聖女』と『勇者』として『聖城』で暮らしていたらしい。
ちなみに二人にはレイティアの『神眼』の能力を与えてあったが『聖都』に来る途中で『聖戦』が始まってしまい、その際に二人は『聖都』の防衛のために向かったらしくこの場にいなかった。その二人が戻って来た時にレイヴィアを紹介したところ何故か気に入られてしまい、『勇者レイヴィア』として『聖騎士団』に加わることになったのである。
そして俺はレイヴィアが仲間に加わったためこの世界での役割を終えたのだと思い元の世界に戻るためレイアが眠っている『聖騎士国』へと向かう事にしたのであった。そこで俺達が『聖騎士国』へと辿り着いた時、レイティアが目を覚ました。だがその時には既に遅すぎたため俺とレイアはすぐに行動に移すことにした。そしてその途中で出会った聖騎士団の騎士と話を聞くことができた。それによると『勇者』と『魔王』の二人を討伐するために聖城に乗り込んだものの返り討ちにあい、その結果レイティアが攫われ、レイティアを盾にされて聖城に攻め込むこともできなかったらしい。それを聞いた俺達だったがレイシア達は既に聖城に突入していたため、レイシアに任せる事にした。
そうして俺とレイアはレイヴィアを『聖女』に預けて、聖城へ向かった。そうして到着した先で見たものは俺達が倒したはずの『大鬼神将オーガエンペラー 赤嶺総一朗』とレイアの妹であるレイヴィアと瓜二つの姿をした女性がいたのである。だがその女性は『大鬼神将』がレイティアに何かをすると彼女の体は黒く染まり始め、最後には消滅した。その出来事を目の当たりにした俺は急いで助けようとしたが『勇者』のスキルである『聖加護』を発動させて『勇者』と『魔王』の二人で協力することで倒すことができた。
そして戦いが終わったところでレイティアを俺の力で蘇生させた。するとすぐに目が開き始めると俺と目を合わせた。
「あれ、私は一体どうして、それにあなたは誰?それに私の体に起きている変化はいったい」そう言ったところで俺はレイティアに事情を説明した。そのあとにレイティアの目の前に手を出すと俺はレイティアに言う。
「俺は八月一日勇一。そしてあんたの姉さんの体を乗っ取った存在でもある。俺とレイアにあんたが目覚めるまでの護衛をして欲しいと頼まれたんだが、今の状況については理解できるかい?」
そう告げるとレイティアの顔色が変わったがすぐに落ち着いていた。どうやら今の状況をある程度理解できたみたいだった。
俺は『魔王城』へ到着するなりまずは城の中に入るとそこには『魔王リリア』であるレイシアとその妹のレイヴィアがおり、俺はすぐに挨拶をしたがレイアとレイヴィアが抱きついて来たので、レイシアに引き剥がしてもらった。ちなみに『魔王』四人とレイヴィアを加えた六人はとりあえず話し合いのために城の一室に向かうのであった。
俺はまずレイシアに『神器』である指輪を渡す。それから『創造主』からの伝言を伝える。その内容にレイシアは驚きながらも冷静に対応すると、今後のことについて話し合うことになるのであった。
レイヴィアがレイシアに忠誠を誓い、仲間になった。そのことにレイシアは喜びつつも、今は状況が不味いという事を説明してから、これからどうするかをレイヴィアにも説明すると彼女は真剣に話を聞いていた。それから俺の方を見ると、レイティアとレイヴィアの姉妹について尋ねてきた。俺は二人から聞いた事を全て伝えるとレイティアは少し考え込む。
そして、レイティアからの提案があり、その案を受け入れる事にした俺と『魔王リリア』と『勇者』と『魔王軍』の三種族による同盟を結ぶという事になった。そうして俺達による同盟が結ばれてから数日が経ったある日のことだった。突然の『聖女』であるユミナと『魔王軍』の幹部の一人であるリリアが現れた。俺は二人の来訪に驚くと、彼女たちの目的を聞く前にレイアから説明を受ける事になる。その話を聞いた俺はリリアと『魔王』と『勇者』と『魔王』の二勢力による『神』への挑戦権を賭けての決戦が始まるということを聞き流石についていけなかった。そんな俺に対してレイアがこう言ってくれたのだ。
「勇一、私と一緒に『勇者』としてこの戦いに参加してくれない?」
レイシアからお願いをされ俺はレイシアの事を見る。それからレイシアの事について話す必要があると感じた俺はとりあえずレイヴィアを別室に案内して貰うことにする。
そうして俺達はレイシアを別室の方に連れていく。そこでレイヴィアに対して俺達の事を話すことにした。そこで分かったことは俺達が元の世界に居た頃の出来事だ。そこで俺は自分に起きた事を話し終えると、今度は『勇者レイティア』の体を借りて現れたレイヴィアの話をする。その話を聞いて『勇者』は絶句していたが、『魔王』であるレイシアは特に気にしていなかった。そのせいで話が脱線してしまいそうになるがなんとか戻すことに成功すると『魔王リリア』のことについてレイヴィアに教えてもらう事にしたのである。
俺が『魔王』と戦うことになった経緯などを説明し終えた頃には既に夜になっており、俺がレイヴィアを連れてレイシアの部屋に戻ってくると、すでにレイヴィアは自分の部屋の方に行ってしまったらしい。なので、明日になってから俺がレイシアから『魔剣』の力を譲渡されるのであった。
そうしてレイシアに『神装機竜』を貰った後、俺達はそのまま寝る準備をしてベッドの上で眠りに就くのであった。しかし俺の隣にはいつの間にかユイが潜り込んでいて俺はその光景を眺めていたのである。その事に気付いた俺はユメノの件もあるので、ユナに相談しようと思って話しかけようとする。
しかしその時、部屋の中に侵入者が現れる。その事に気付いた俺は咄嵯に反応してレイティアに襲い掛かろうとしていた奴を止めるために行動する。「待て!!これ以上は俺が許さない!!」
俺がそう叫んだがそれでもそいつは攻撃をやめようとしない。仕方なくレイティアを守る為に『神眼』の能力を使って相手の事を確認する。そうするとその男は『悪魔将軍ベルフェゴル』であり俺が以前戦った相手でもあったため油断することなく戦う覚悟を決めている。
その戦闘の最中、俺の事を応援してくれる者が現れてくれた。それはなんとあの『大鬼族』の者達がこの城に忍び込んでいたらしく、彼らも参戦してきたのである。その結果『魔将』、『大鬼神将』と戦わずに済むことが出来たのだった。
『大鬼神将』が撤退を開始した時だった。
「勇一様!レイティア様が攫われてしまいました!」
俺はその言葉を聞いた時心臓が止まりそうなくらいに驚いた。俺は急いでレイアの部屋に向かうとそこにはすでにレイアの姿はなかった。それを見た俺は焦り始める。
俺は慌てて『魔導機竜』を展開し、すぐに行動を開始する。
俺の頭の中ではレイアを取り戻すことで一杯だったのである。
『魔王』であるリリアを討伐するために行動を開始し始めた『勇者』一行。
そして、レイティアの救出に向かった俺はレイシア、ユイ、ユミナ、レイティアと合流したのである。
『聖城』のとある場所で勇者と魔王と勇者の妹の話し合いが行われていた。その内容は勇者のレイアの妹、『聖騎士国』で勇者として暮らしていた双子の姉レイティアの処遇についてだった。レイティアが勇者の力を持つことの弊害を二人は懸念したのであった。
そして話し合いを終えたあと勇者一行はレイティアの救出のために行動を開始することになった。だがレイシアはその前に一度城に戻りたいと申し出たのである。そして勇者レイアもそれを了承すると『勇者』と『勇者』が率いる部隊は『聖騎士国』へと向かったのであった。
勇者が城に戻る少し前のこと『魔王』四人が勇者の城を訪れ、レイアがさらわれたことを報告しに来た。
その報告を聞いた勇者はすぐにレイアを奪還するために向かうことを決め、仲間達と別れることになるのであった。そうしてレイティアを連れ去ろうとした者たちに攻撃を仕掛けるが、逆に反撃を食らうことになってしまう。だが、その攻撃を受けながらもなんとか耐えた勇者はレイティアを奪い返すことに成功した。
その後、魔王と聖女の兄妹によって助け出されたレイティアは意識を失ってしまう。だがすぐに気が付いたレイティアは自分の身に起きたことを勇者に尋ねる。だが勇者に説明を受けたレイアは冷静に状況を整理した。
そうして話をしているとレイアはレイヴィアの事を尋ねて勇者とレイシアは姉妹の会話をさせる。そしてレイヴィアに真実を打ち明けると、彼女は自分が何者であるかをレイティアに説明した。レイティアが困惑している中で『大鬼神将オーガエンペラー 赤嶺総一朗』とレイヴィアの妹のレイヴィアを瓜二つの容姿を持つ女性が姿を現す。そうして『魔王』二勢力と勇者との最終決戦が始まったのであった。
「お前が本当に『魔王軍』の大将なのか!?」
「えぇその通りよ。初めまして。私の名前はリディア。よろしくね。勇者くん」
俺は『魔将』の一人であるリリアを目の前にして、その力の片鱗を感じていた。
今までに俺が出会ったことのあるどの敵よりも圧倒的な魔力を持っていた。しかもその強さはかなりのものだったので俺は冷や汗を流す。
(これがリリアって『魔王』か。確かにこれ程の実力があればレイヴィアを手中に収めることができるだろう。だけどここで負けるようなわけにはいかない。俺はみんなを救うためにも必ず勝つ。そのために俺が出来ることならなんでもやる)
そう心に決めると『聖槍』を構える。
『聖槍』を構えながら様子を窺っているとリリアは笑みを浮かべると、俺のことを観察するように見る。その瞳から感じるのは、ただの興味や面白半分ではなく俺という人間をしっかりと理解しようというような強い意思を感じるのであった。その視線を受けて、俺は背筋が寒くなるのを感じたがそれと同時に心が熱くなっていくのを実感する。そうしてお互いの動きを止めたまま沈黙の時間が続く。
それから少し経ってお互いに構えを解き、最初に声を発した人物はレイヴィアの姉の方だった。
「私はリディアと申します。『大鬼王』を倒されて、レイティアがお世話になったようですね。そのことについて感謝します。ありがとうございます」
彼女は俺に対して頭を下げる。それに対して俺は戸惑いを覚えてしまうが、レイシアの言葉を思い出す。彼女は俺にレイヴィアを助けるために力を貸して欲しいと願っていた。その願いに応えるためには彼女から信頼を得なければならないと思った。なので、俺がリヴィアのことを警戒するのはおかしいと考え直すと俺はリディアの方を真っ直ぐに見ると、リヴィアは微笑む。それから俺の方を見ながら口を開いた。
そうしてリリアからの提案で俺達は協力関係を結ぶことになった。そうして俺達は『魔王』二勢力が同盟を結んだという情報を世間に伝えることにしたのである。その事を伝えた後、俺はこれからの行動について話し合うことになるのであった。
レイシアとユミナが同盟を結ぶ事を提案したのはリリアとリリアの部下である『悪魔将軍』であるベルフェゴルからの提案で俺とユミユを一緒にして行動すれば俺に何かしらの利益があるかもしれないと考えたからである。その事を知った俺達はこれからの行動について話をし始めるのであった。
「勇一、これから貴方が私達の仲間になるという事を伝えても大丈夫な人を集めてほしいの」
「あぁ分かった」
「勇一、私からも話しておきたいことがあるわ。まずこの世界の状況を説明するけど『勇者』の『魔王』への挑戦権を賭けて今『魔王軍』と勇者達が争っているんだけど私達はその両方が勝ってしまうことが良くないと考えているの」
レイシアはレイティアの身体に乗り移ると現在の『勇者』の事情を俺に伝えてくれる事になった。俺としてもその事を知る必要があると思いレイシアの話を聞くことにしたのである。
「そうね簡単に言えば、私達の目的はレイティアが『神』になるために必要な事を果たすために『神装機竜』を手にする事と『勇者』の『魔王』に対する復讐を止める事。それが終わらない限り『勇者』に『魔王』を倒すことは出来ないと思うの。だから今は私達に出来る事は少しでも『魔王』側の戦力を減らすために動くべきだと思うの」
俺としてはレイシアの話を聞いて疑問に思ったことがあり質問をした。その事とは『神装機竜』が使える者が増えればそれだけ『勇者』が『魔王』を殺すことが出来るようになるのではないかという事だ。しかしレイシアはそれを予想していたのかすぐにその事を答えてくれた。どうも『魔将』達はそれぞれの目的があり、『勇者』に戦いを挑んだらしい。しかし俺とユミナの『聖剣』の力を見た時に自分達の手に余る存在だと考えた結果、『神装機竜』を手に入れることにし、そのためにはレイティアが必要だと考えて攫ったらしいのだ。
つまり今回の事件の裏には黒幕がいるということかと理解した。それならどうしてこんな回りくどい方法で戦争を始めたかというと、元々戦争は起きるはずだったのだとレイシアは言うのである。それは、そもそも『聖騎士国』は別の国の人達が作り出した国で、『聖騎士国』に住んでいるのは殆どが他国からの移民であり、レイヴィアが生きている限り『勇者』と『勇者』の所属する国とは常に争いが絶えなかった。
そして今回、勇者は魔王と戦うことになり、その際には当然のように他の『聖騎士国』の住人である移民も参加することになっていた。
そしてレイシアに憑依している今のレイティアならば確実に勝つことはできるだろうと俺は考えた。そう考えているうちに、リリアも俺の考えを読み取ったかのように話しかけてきた。
「そうね。貴女の妹さんの実力を考えてみると間違いなく魔王に勝利することは出来ると思うけど油断はできないわよ」
「その通りよ。勇一。それともう一つ、レイアの妹が使っているあの機体。あの子は『聖魔装』を扱えるようになっているみたいだし、気を付けないといけないかもね」
リディアの助言を聞いた後俺は少しの間だけ考え事をしていたのだが、そこでユミナと話をしていたことを思い出してリディアとリリアにも話をすることにすると、俺は自分の世界にある『ゲーム』と同じような展開になりつつあると二人に伝えたのである。そして二人は『魔道戦記カイクシード』という小説を読んだ事があるらしくて俺が話した内容と近い状況になっているという事を告げたのだった。
そしてレイアとレイヴィアの容姿が似ていることやレイヴィアが『勇者の力』を持つ可能性があるということを話すと、二人の魔王の兄妹はとても興味深い表情をしていたのであった。それからしばらくすると俺達はそれぞれ別れることになった。俺はリシアの部下で『魔王』の一人でもあるものを呼び出す。そして『聖剣』でリディア達の世界に繋ぐと俺はリリア達を連れて『魔帝』の元へ向うのであった。
リリアは『勇者』である『魔将』とレイティアと俺とリリアは一度、『聖魔宮』に帰還することになりレイティアが無事であることを皆に報告するのであった。
そうしてリアナの『勇者』に攫われたレイティアは無事に奪還することができ、その情報を聞いた勇者はレイティアを救い出してくれたことに感謝をし『勇者連合』として同盟を結ぶことをレイアに伝えるのであった。
その後、レイティアを助け出して戻ってきた勇者一行は魔王城に戻ると『魔族領』へと向かうことにしたのである。そうして、魔王城ではリリア、レイアと勇者による三姉妹での会談が行われる。そして三人は今後の方針を決めるための情報交換を行うことにしたのであった。
『魔王軍 大鬼将軍オーガジェネラル 真島孝弘VSレイシア&『悪魔将軍』
ベルフェゴル戦が始まる レイヴィアは囚われの身となっており意識を失ったままの状態でいた。そんな彼女の様子を見ていたレイシアに憑依した状態のレイヴィアの姉レイヴィアが目を覚ますと彼女は妹のレイヴィアに声を掛けたのであった。そして目覚めたレイヴィアに妹を頼むと言い残すと意識を失う。それから数刻が経つとレイヴィアが目を覚ましたのだった。
レイティアが目覚めてからしばらくしてから俺は『聖魔妃エンプレス レミア』の使い魔の一匹の白猫のケットシーの女の子が部屋の中に入ってくると彼女はレイヴィアの方を見て、嬉しそうな顔をしながらレイティアに声をかける。
「レイヴィア、目が覚めたのね! 良かった。でもレイヴィアってば心配させるんだから」
「ごめんなさい。でも助けに来てくれてありがとう。私のせいで色々と面倒を掛けちゃって本当にゴメンね」
レイヴィアは自分の身に起こった事や『聖騎士国』で起こった事件の顛末を全て把握しているため自分がどのような立場に置かれているかをしっかりと認識しており、レイティアを責めることなく素直に謝ると、その事を受けて彼女を抱き寄せながら感謝の言葉を口にしたのである。それからレイシアに抱きかかえられた状態でいると、彼女が『大鬼神将』を倒した時の話をし始めたのである。
そうしてレイヴィアはレイシアが自分を守るために、どんな思いを抱えながら戦ったのかを理解した。そうして姉がレイヴィアの為に必死になって頑張ってくれたということを知った彼女は、改めて姉のレイシアを尊敬した。彼女は、今までの『魔王』の中でレイシアだけがレイヴィアを本気で愛してくれていたことを心から感じたのである。その事に気づくと同時に、彼女は目の前の姉に心から感謝した。そしてレイシアはレイヴィアに対して真剣な顔をすると彼女はレイヴィアに向かって語り掛けたのである。
「ねぇレイヴィア、私の大切なレイヴィア。もう貴方が『聖勇者』の器に選ばれたということは、この国にとっては脅威でしかない。だから、この国でこれ以上貴方の邪魔をする奴らが現れたり、貴方が『魔王』の力を使おうとした時は迷わず殺して構わないからね。私は貴方の為ならば、貴方が幸せになるためであれば私は喜んで死ぬことができる。それがたとえ私の命であっても私は貴方に捧げようと思っているのだから」
「えっ?」
その話を聞いたレイヴィアが驚きの表情をしているとレイシアはすぐに笑みを浮かべて優しい口調のまま説明をした。それはまるでレイヴィアに何かを伝えるかのような口ぶりでもあったのだ。
そうして話し終えるとレイシアは立ち上がり部屋から出る準備を始める。
その様子を見て慌てふためくレイティアだったがそれを見かねたリディアが代わりに彼女を止めようとすると、レイシアはそのまま部屋の扉を開ける。その瞬間レイシアに視線を向けたリディアの顔を見たリヴィアは、なぜか胸騒ぎがしてしまいリディアの様子がいつもと異なっていることに気づき慌てて駆け寄ろうとした。しかしリリアの使い魔によってリディアは拘束されてしまう。
(リディアお姉ちゃん一体何をしようとしているの?)
「おい!! リディアお前は一体どうしたんだ!!」
俺が声を上げるとレイシアが振り返り、そして冷たい瞳で俺のことを見ながら話しかけてきたのである。
「真崎勇一。残念だけど貴方の知っている貴方の『魔王』の姫君には戻ってもらうわ。これから『魔王』を討伐に向かう私の代わりにこの『勇者連合』を率いれるのはレイティアだけよ」
そしてレイシアはそれだけ言うとそのままその場を離れていったのであった。俺は急いでその後を追うことにしたのである。
俺は『聖魔宮』の入り口まで来ると、そこではすでに『魔王』であるレイシアが『魔帝』の『魔王』と戦おうとしているところであった。
俺は急いで止めようと声をかけようとしたがそこで、いきなりレイシアが俺のことを睨んできたのだ。どうやら俺が来るのを予測していたらしく、俺が来たところですぐに俺に攻撃を仕掛けてきたのである。俺もそれに対応する為に、すぐにレイシアの持っている槍の攻撃を『天翼』の障壁魔法を使って防ぐのだった。
そうしてしばらくの間レイピアによる攻撃が続く。しかし俺と『魔王』とのレベルの差を考えるとレイアのステータスも引き継いでいることに加えて、『勇者』の称号がある以上負けるはずがないと思っていたのだが、レイシアの攻撃が俺には予想できない軌道を描いており対応するのに精一杯になってしまう。
(くそ、どうしてこんなにもレイアのステータスは上がっていんだ!?)
『魔王』との戦いにおいてレイシアの能力は確実に上がっているのである。しかしレイシアの攻撃を受け流すことに集中しているせいか、なかなか反撃ができない。そうしている間にも『魔装』で武器を取り出してレイシアがこちらへと襲ってくる。そして攻撃を防いだ時にできた隙に『雷球』を放ってきた。『雷球』を何とか避けたと思った次の瞬間には今度は蹴りを繰り出してくる始末である。
俺はなんとか『勇者』の力を発動させながら避けることに成功した。そうしてからレイシアの方を見てみると彼女は少し焦ったような表情をして動きが止まる。どうも俺は今の攻撃を防ぎ切れなかったようだ。おそらくだが、『魔装』による身体能力の強化と『勇者の力』を使ったことによる強化の違いを理解できていなかったのだろう。
その証拠に先程俺が発動させていたはずの【加速】と【身体増強:III】と魔力による身体への負担を軽減するために使用していた【肉体超活性:II+α 】はレイシアの攻撃によりすべて解除されたのである。そのため今はただの人間の能力に戻っていた。レイシアと俺の間にはそれぐらいレベルの差がある。だからこそ今の一瞬でここまで追い込まれたわけなのだが。そうしてレイシアが再び動き出す前に、もう一度俺の方からもレイシアに向けて剣を振るう。しかしその一撃は避けられてしまう。やはり俺が思っていた以上に『魔王』としての戦い方に慣れている。そしてレイシアが振るうレイティアの『勇者』の剣と俺が握っている剣が激しくぶつかり合うと火花のような物が散っていく。そして再び俺達は激しい打ち合いを開始するのであった。
レイシアの剣はレイティアよりもさらに鋭い太刀筋で剣速に至ってはかなり速いものであった。俺はレイアとレイティアの記憶を引き継いでいるとはいえ所詮はレイティアの能力しか使えない『勇者』である。つまりレイシアとまともに戦っても絶対に勝てない。だから俺は『聖魔剣エクスカリバー』を鞘に収めるとレイアの持っていた『勇者の剣』のレプリカを手にする。するとレイシアが急に笑いだした。
「フフッ、どうやらようやく本気を出す覚悟を決めたみたいね」
「まぁそういうことなんでな」
「じゃあこっちも出し惜しみはしないで本気でいくわね」
そう言ってからレイシアの動きが変化する。まず最初に行ったことは、俺が手にしたレイアの偽物を奪い取ることだった。その行動を見たレイナはレイシアは本気で自分を殺しにくるつもりだということを理解すると『魔王化』を使い、自分の体をレイシアと同じように変化させた。その姿はまさしく双子の姉妹と言えるほどにそっくりなものになっていたのである。そして二人はお互いに構えを取り、相手の動きを見るのであった。
しばらく静寂が包まれるが先に仕掛けたのは、双子姉妹の姉のレイシアであり、彼女は俺に剣を突き立てようとするが、それを紙一重のところで回避し『瞬動』を使って距離を取る。そしてお互いの姿を確認してみると、どう考えても同じ姿に見えたのであった。
それからしばらくしても互いに動くことはなかった。どうもこの『魔族領』に存在する魔獣の中には『聖魔』と呼ばれている種族も存在しており魔族の体を変化させる能力を使える個体が存在するのだったのだ。そしてどういった原理なのかわからないがその生物だけは性別が変わることもできるので、目の前に現れた『聖魔王』の『勇者』はその特性を生かして姿を変えていたらしい。そんな事情を知らない俺はとりあえず様子見をするつもりだった。それにまだ切り札はあるのだからあまり使う必要もなかったのだ。
それから数分が経過した後に再び動きがあった。それも今度はレイアの方から仕掛けたのである。それは突然だった、何もない場所から突如現れた無数の炎弾が放たれ、それはレイシア目掛けて飛んでいき爆発した。そして爆煙によって周囲が見えなくなるがレイシアはすぐに動いた。
『聖魔王』のスキル『勇者の神域』が『魔眼』の効果範囲を広げることにより、彼女の周囲の空間を把握することが可能となる。そのおかげもあり俺はどこに彼女がいるのかすぐに把握することができたのである。
レイアの『聖魔』はあくまでも『神格解放』した時の副産物に過ぎず、レイア本来の戦闘スタイルは『魔王』特有の固有技の威力を最大限に生かして相手を叩き潰す戦法が得意なので、レイシアもレイティアも戦い方は似通っていた。そのため俺も『魔王』としてのレイアの力は知っているため『勇者』の力のレイヴィアとは違ったやり方で戦うことにしたのである。その結果がこの数秒でレイシアがどう対応してくるかがわかったのだ。そしてレイアは、そのままの勢いで剣を構えながらこちらへ走り出したのである。そして『聖魔王』が得意とする固有スキルを発動させる。
『聖魔王』のスキルはどれもこれも特殊なものが多いが中でもこのスキルは特に変わっているものだった。そもそも『魔王』のスキルというだけでも珍しいものだがその中でも『魔王』の固有技は別格である。なぜなら『魔王』の『魔装召喚』はその名の通り武器を召喚して使役することが可能なのだ。しかもその性能は、その武器に込められた力が高ければ高いほど強くなる仕組みになっており、レイヴィアの持つ『勇者の魔刀』、『天魔の弓』、『星屑の杖』などはいずれも強力な武器であるためその効果をレイシアは最大限に利用していたのである。
そしてレイヴィアが持つ最強の攻撃手段の一つにレイアの持っている『天羽々矢』が挙げられる。レイヴィアはこの矢に大量の魔力を込めて放つことによって相手を一瞬で消し炭に変えることができたのである。そして今回はレイシアが持っているレイアの剣を狙ってレイアは攻撃を仕掛けた。それに対してレイシアはレイアの攻撃を『勇者の魔剣』で受け流し、その瞬間に俺はレイシアに向かって攻撃を仕掛けた。レイシアは俺の攻撃を防ぐことができずにそのまま攻撃を受けてしまったのである。
レイシアが攻撃を受けたことを確認したレイアは、すぐさま攻撃に転じた。『魔王の魔刀』でレイシアを攻撃すると、俺もまたレイシアの隙を見て攻撃に移る。
『聖魔王』の『聖魔王』たる所以でもある『聖魔』の攻撃によってレイアが吹き飛ぶと、俺は『聖魔』の攻撃を避けてからレイシアの追撃を行うと、レイシアが反撃を行い『聖魔王』の力を最大まで引き出すために発動させていた固有能力『勇者の威圧』を発動させる。しかし俺は怯む事なく剣で攻撃を続けていく。レイシアの『聖魔王』の力はレイシア自身が『魔王』の力を引き出していないと使用できないのである。だからこそ彼女は常に『魔王』の力が使えずに不利な状況に追い込まれてしまうのだ。しかし『聖魔』による能力のブーストがあるおかげで、なんとかレイアは互角に渡り合うことに成功していたがそれでもやはりレベル差は大きく俺が有利であることは明らかだった。そしてこのままなら俺の勝利が確定してしまうとレイアは考えていた。だが、その時である。俺達の周りに巨大な黒い影が出現し、その正体が『大魔神』だと気づいた時には遅かった。『大魔神』の拳に殴られてしまい、俺とレイシアの体は宙へと飛ばされてしまう。
俺もレイシアも地面に叩きつけられて動けなくなってしまう。そこにレイリアの分身が現れたかと思うとそれを倒すとまた別のところに現れるを繰り返し始めた。そうしているうちにいつの間にかレイシアの傍にはレイシアがいたのである。
(なんだよこれ!)
おそらくレイシアの力を使って自分自身を作り出したんだろうけどなんて無茶苦茶なことをしているんだと呆れていたらそこでようやく自分の置かれている立場を思い出す。そうやって俺は今ピンチであることを理解するのだが既に遅すぎたようである。俺の前には二人いた。そして俺はもう一人のレイシアに剣を突き立てられて殺されそうになったところでどうにかこうにかに避けることができたものの今度は背後にもう一人いる事に気づくことができなかった。背中に鋭い痛みを感じてから自分がもうダメなんだということを悟る。俺は最後に剣を振るい何とか最後の抵抗を見せるもそれは無駄に終わる。俺が放った攻撃は虚しくレイシアの剣に受け止められて俺の剣は折れて使い物にならなくなってしまった。
その次の瞬間レイシアの攻撃が俺の腹部に突き刺さり激痛と共に俺の体が空中に浮かび上がるとそこから地面へと何度もバウンドしてから倒れこむと意識が遠のき始める。そんな俺に近づいてくる人影を見ると、そこには二人のレイシアの姿が映っていたのである。
そして次に目を覚ました時に最初に視界に入ったのは自分の体に突き立てられたレイシアの剣の姿であった。そして体中が燃えるように熱く感じる。そしてどうやら全身の骨がバラバラになっているような気がしたのだ。そして俺はレイアに視線を向けるとレイアの手から剣が落ちておりその剣から血が流れ出ているのがわかる。どうやらレイシアの本体が俺を攻撃したようだ。俺は『魔王の治癒』で治療を始めてみるが上手くいかないことに気がつく。『魔王化』のスキルを使っているため俺の回復速度は通常の数十倍にも跳ね上がっているがそれでも治る様子がない。俺が死ねばレイシアも死ぬことになるし俺のスキルの副作用である『再生阻害』の効果で俺の体を癒やすことはできないからだ。そしてここで俺が死んでしまうことはどう考えてもこの先レイシアに待ち受ける未来を変えることができないという事になる。俺はこの世界で生きるためにレイシアと二人で一緒に過ごすはずだった時間を何としてでも取り返そうと考えていたのであった。そしてどうにかこうにか回復させようとするがどうやら間に合いそうになかった。
「フフッ、残念だったわね」
そんな声を聞いてからしばらくして俺の目はゆっくりと閉じていき、俺の心臓は完全に停止した。それからしばらくすると俺は息を吹き返すが、俺の肉体はすでにボロボロであり立ち上がることもできなければ喋ることさえもできなかった。そんな俺を見てからレイシアは微笑みながら俺を見つめてくる。そしてそれからしばらくしてから彼女は俺を抱きかかえる。俺を抱きしめてきた彼女はなぜか泣いているようであった。そして彼女はそのまま『魔王の城』の方へと向かう。
そして『魔王の城』に着くとすぐにレイシアは俺の体を修復し始めたのである。その作業は数時間にも渡って行われた。その間レイシアが俺に語り掛けてきたがその内容はあまり覚えていない。なぜなら、どうせろくでもない内容だったはずだからである。ただ、レイシアの言うことをよく聞いておくべきだったというのは何となく理解できたので、俺は素直に従うことにした。どうやら、これからもレイシアの傍で生活したいと考えている俺は、彼女を安心させるための方法を必死になって考えたのである。それから俺は彼女に『聖魔王』の力について教えてもらった。この世界にある『神』と呼ばれる存在の中でも一番上の力を持つのがこの『神族』なのだそうだ。そしてこの世界に神族を召喚できるのは、『聖魔王』だけでありそれ以外の人間が呼び出すことなど絶対にできないのだという。だから他の人間からは神の化身と言われているらしいのだ。そしてこの世界の神族の頂点に位置する存在こそが『創造主』なのだが『魔王』の力を使うことができるのはこの世ではレイアしか存在しなかったのである。そんなレイアは俺のことを見捨てることなく俺の看病を行ってくれていて感謝の気持ちを抱くと同時に俺はこんな状況なのに嬉しいと感じてしまっていたのである。そんな俺は、この体が完全に回復し、動けるようになるまでレイシアの世話を受けるのだった。
俺が目覚めた後レイシアはすぐにレイアを呼び出したらしい。俺はすぐに寝かされていてその光景を見ることはなかったが、俺の事を看病してくれたレイシアから話を聞き、俺に危害を加えようとしてきた『聖魔王』であるレイシアに復讐しようとする『聖魔王』を止めたのは意外だったが俺のために戦ってくれたということがわかって、レイシアに感謝していたのである。俺もレイヴィアに対して少しだけ悪いと思ったのだ。俺を殺すのはレイアの役目だと思っていたらしくレイアもそのことを気にしていたが俺は大丈夫だという旨を伝えた。それで俺達はお互いに謝るとその後は、今まで通りの生活に戻ることになったのである。
ただ俺はこの時、完全に油断しきっていたのだ。この世界を救い平和になったのだと思い込んでいた俺はこの世界の本当の恐ろしさを知ることになってしまうのである。俺はレイシアにこの世界での戦い方を色々と教わった。そしてレイシアがこの国を旅立つ日が訪れる。俺は彼女の力になるためにレイシアから『聖魔』の力の扱い方を学んだのだ。しかし、それは全てレイアに通用せず、レイアは『魔王』としての力を発揮し始めたのである。そしてそのレイアの強さは尋常じゃなく、いくら俺が強くなったとしても敵う事はなくレイシアもまた同じようにレイアに勝てるとは思えなかったのだ。
だが俺は諦めたくはなかった。なぜならレイアと戦うということはつまりはレイアの命を奪うということにつながるわけである。俺は彼女を助けて幸せにするといった約束を守るためにもなんとしてでもレイシアの期待に応えたいと思い、必死で戦ったのである。だがその結果はあまりにも酷すぎる結末を迎えてしまったのであった。それは俺がレイヴィアとの戦いの中で、自分の中に眠っているもう一つの能力が解放されてしまったことで、レイヴィアの力に対抗することができてしまったことが原因でもある。レイアはそのせいもあってか『聖魔』の力を最大まで引き上げると俺を攻撃してきてなんとかギリギリで防いだがそこで体力の限界が訪れたのである。そこで俺が意識を失ってしまったので俺もレイヴィアもその場で倒れこむのである。そして目を覚ますと目の前に倒れていたはずのレイアの姿がなかったのである。
「お父様!!」そう叫んでレイヴィアが駆け寄ると、そこにレイアの姿はなかったのである。俺は一体どこに消えたのか疑問に思いつつも辺りを探したが結局は見つからなかった。レイシアにレイアのことを聞いてみてもレイアが生きている可能性はほぼないだろうと言っていた。おそらくレイアは『大魔神』によって殺されているはずであり、その『大魔神』も倒されているため、もうこの世界にはいないのではないかとのことだった。レイアがいなくなったことにショックを覚えながらも俺達はまだ魔王軍の残党が残っていたために、レイアが残していった手紙の通り魔王軍との争いを続けることになる。
それから俺は魔王軍を倒す為に動き続けた。レイヴィアに魔王軍を全滅させると宣言したからだ。レイシアと二人だけの時間を過ごすためにも俺はレイヴィアと行動し続けていたのである。俺もレベルが上がったおかげで、それなりに強くなっていたこともあり、順調に魔王軍は減っていったのだ。そしてとうとう残すところあと一人となった時レイアとの最後の戦いが始まる。そしてそこでレイリアは圧倒的な力を見せて俺とレイシアを苦しめるが、それでも俺は負けるつもりはない。レイリアと俺の実力は同等以上だった。いや俺の方が少し強いかもしれない。ただレイシアとの訓練でかなり強化されていた俺の力はレイアスと互角に戦えるくらいに強くなっており、俺は『魔王の一撃』を使うことに成功したのである。
「なっ、そんな、私の全力を耐え切ったですって」
そんな風に驚愕の表情を浮かべるレイシアを見て、勝ったと俺は思っていた。
「まさか貴方にそこまでの力が秘められているなんて」
そんな声を聞いたが俺はもう意識を失い始めていたため、返事をする余裕もなくその場に倒れこんだ。
そして意識を失った俺が再び目を覚ました時に見たのが、俺の体を抱きかかえているレイアの姿だった。そして俺が目を覚ましたことに気づいたレイアが、嬉しそうにして笑っている。その姿を見ると、俺もつられて笑顔になりそうになったがレイシアから放たれた言葉に愕然とすることになる。
俺達がレイアに攻撃したのは覚えており、俺自身も相当な傷を負っていたがそれはレイシアの力で治してもらっていたのだ。レイシアが治したにもかかわらずレイシアはレイアになっていたのだ。そしてその事に気づいた俺はすぐにレイアに攻撃をしようとしたら俺の攻撃がレイアにあたる直前にレイシアの動きが止まったのである。
『どういうことだ?俺の『魔王の一撃』が効いていないというのか?』俺はレイアの攻撃に直撃して、俺もダメージを受けたものの『魔王の盾』のおかげで致命傷にはならず生きていたのである。俺が攻撃を受けたことで俺も怪我をしていたため、『魔王の癒し』でレイアを回復させることができずにレイアはそのまま動かずにいたのであった。俺はレイシアの姿になっているレイアに攻撃を加えても意味がないことを悟り、レイシアに話しかけようとした。しかしその瞬間俺の中にあった『聖剣』の魂と俺の中の『聖魔』が俺に話しかけてきたのである。
【ようやくこの時がきたか、俺の名は『魔王』でありこの世界を支配する存在だ】
【そうだ、この世界は我らが支配するべきだ!!今こそ、我々の存在が必要とされるときなのだ。さあ、この世界を我々の物にするのだ。お前ならそれができるはずだぞ。俺と共に来るがよい】
俺の中にいる二つの意思に引っ張られるかのように俺は二人の言いなりになって、気がついた時にはレイシアに向かって攻撃を仕掛けていた。そしてその攻撃で俺はレイシアを完全に倒すことに成功してしまう。俺は自分で自分が信じられなかった。そしてその後レイアから俺の本当の名前が明かされると俺はレイアのことを見捨てる事ができず、彼女を生き返らせることにしたのである。俺はそれからしばらくの間はレイアに言われた通りレイシアの傍に居続けレイシアの願いを聞くのであった。俺はレイシアの言葉に従いながらこれからの事をレイシアと話し合っていたのである。
レイアを倒した後にレイシアの体を再生させると、俺は『聖魔』の力が俺の中で完全に目覚めたことを感じていた。『聖魔王』は『魔王』の力を持っているが、その力は普通の人間が持つことができるようなものではないのである。だから俺のように二つとも持っている存在などまずいないのだ。それに『神魔の王』の能力が覚醒したせいもあってかレイアの体が再生しても俺はレイシアの姿から元に戻らなかったのである。そのため俺は仕方なく『聖魔』の力を使うことにして、『聖魔王』のレイアから力を奪って、その能力を使うことができるようになったのであった。『聖魔王』は俺よりも圧倒的に強かったがその力を奪った俺はレイア以上の力を使えるようになっていたのである。
そしてレイアからレイアの力を吸収できたことによって俺は自分のステータスを確認できるようになっており、自分の能力を確認していたのだった。そこで判明した俺の本当の名前を知った俺は驚きを隠しきれずにいた。なんとその本当の名前は八月一日勇人ではなく八月朔日勇人であることが分かったのだ。なぜ本当の名前の苗字が違うかというとこの世界での名前は本名とはあまり関係がなく、本当の名前を名乗らないことが普通らしい。というのもこの世界の人達は自分の本名があまり好きじゃない者が多く、本当の自分とは別の名前を名乗る人が大多数で本当の名前を知っているのはこの世界で数人しかおらず、ほとんどの人間は他人の本当を知らないらしいのだ。なので偽名を使うのも当たり前であり、それ故に本当の名前を教える人は家族か仲間しかいないと言われているのである。そして俺はこの事実を知って、本当に自分の親や妹達に自分の正体を伝えるべきか悩むことになった。
ただこの事に関してレイシアに相談すると、彼女は俺の意見を尊重してくれると言ってくれたので俺が決めるべきことだろうとレイシアに伝えるとレイシアはすぐに答えを出すのは早計だといい、少し時間をおくことにするのだった。そしてその間に俺はユノに会いに行くことを決意する。今までの事を謝罪しようと思ったのだ。そしてレイシアと二人だけで出かけて行ったのである。俺達の行き先を察していたのかユノは俺達を快く受け入れてくれて一緒に旅をすることになったのだった。
こうして俺とレイシア、ユノは三人パーティーを組むことになるのだがこの出会いは俺にこの世界を本当の意味で救う使命があるということを思い知らされることになる。俺の予想だがレイアの目的はこの世界の『大魔神』であるはずだった。だがそれは違っておりレイシアこそがその大魔神の正体であり、この世界の支配を目論む『魔王』の一人でもあったのである。
それからレイシアと別れた俺は一度元の世界に戻ることにしたのだ。俺がここにくるまで使っていた武器や防具を取りに行き、装備を整えるためだ。俺はこの世界で手に入れたアイテムは全て収納しているので元の世界で取りに行けばよかったが、俺と同じような能力を持つ人間が現れた場合のために、なるべく同じ能力をもつ人間が俺の装備品を手に入れた時にどう反応するかを知りたかったのである。
「さて、準備は終わったしそろそろ戻ろうか」
「うん。お姉ちゃんにも会いたいしね」
「そうか?あいつも結構強いんだし別に問題ないんじゃないか?」俺としては、あんな風にレイシアが暴走して暴れることを考えるとできれば早く帰らせてあげたかった。そして何よりもレイアとまた顔を合わせた時どんな顔をすればいいのかもわからないという事もあったからだ。ただ俺としても久しぶりに家族と会えるということで悪い気持ちはなかった。それにもし俺と同じように転移してきた奴らがいても俺の装備を使えば倒せる自信があったのも帰る理由の一つではあったのは否定できないが。
そして俺達は俺達が生まれた街へと戻ってきたのだった。
そして俺とユナはその光景を見て驚くことになる。それは街の様子もそうなのではあるがそれよりももっと大きな問題が起こっていたのだ。
それはレイアの住んでいた屋敷が跡形もなく消え去っていたのだ。しかもレイシアとレイシアにそっくりな女がレイシアと一緒に戦っている。レイシアの体はボロボロになっておりこのままだとレイアが負けてしまいそうだったので俺は急いで加勢に入ることにした。俺は全力の攻撃を『神装機竜』を使って繰り出した。しかし、その攻撃は二人には届かずに空しく散ってしまう。そんな俺に対してレイアとレイシアに化けている何かが声をかけてきた。
「まさか貴方がここに戻ってくるなんて思わなかったわ」
「私は、いなくなって欲しかったけど」
レイシアとレイリアのそんな言葉を耳にした俺は困惑してしまい、その二人の言っている意味がわからずに混乱してしまう。そんな風に動揺して隙だらけの状態の俺を二人は襲ってきたのである。そしてその攻撃を受けて俺は気を失ってしまうのであった。俺の『魔道障壁』を難なく破ったあの攻撃は何だったのかと考える暇もなく意識が薄れていったのであった。
目を覚ました時に見えた景色は先ほどとは違い、白い部屋だった。そこで俺はまだ生きていたようだ。体を起こして周りを確認するが俺が寝ていた場所の近くに誰かが横たわっていた。その人物を見て俺は驚いてしまう。そこには俺の双子の妹でありこの世界のもう一人の勇者、そしてレイアの親友でもある真樹が倒れていたのだ。俺は急いで近づいて確認するが生きていることはわかる。おそらく何らかの魔法攻撃を受けた際に気絶してしまっただけのようで命に別状はないようだった。その事に俺は安心したがそれと同時にレイシアとレイシアが姿を変えている『聖魔王』に戦いを挑みにいくことを決めた。
「勇人様!!やっと起きられたんですね。心配しましたよ。」
俺が起き上がった音を聞きつけたのか俺の元にユナが現れて俺に声をかけてくれた。俺はその姿を見たときに少しだけ嬉しさを感じてしまったがすぐにレイシアの事を思い出し、レイシアがどうなったかを聞くためにレイシアの行方について尋ねたのである。するとユナは、
「私も詳しくはわかりませんが、確か私が気を失っていた時にどこかへ行ってしまわれたんですよね?それがどうかしたのですか?」
と聞いてきた。その言葉で俺はある事を考え付いた。レイシアは自分が大魔神だという事が知られたくなかったのではないかという考えにである。そのため、この国から出ていったのではないだろうかと思ったのだ。その考えに至った俺はユナがレイシアがどこにいるのかを尋ねてきたが何も答えずに黙ったまま立ち上がる。するとそんな俺の態度に違和感を覚えたらしく、不安気な様子で見つめていた。俺はこの世界に来てから初めて本気で戦うかもしれないと思う。だからユナには離れて待っていてほしいとお願いしたのであった。
ユナとレイアに姿を偽ってる『聖魔王』に挑もうとしたその時、急に強い光が辺り一面に広がっていき、次の瞬間には全く別の場所に立っていたのだ。そこは先ほどのレイシアとレイアと戦った荒野ではなく城の中であり、そこにレイシアがいたのである。レイシアがなぜここに現れたかは不明だがこれは好都合だと思い、『聖剣』に手を触れようとしたが、レイアは俺に話しかけてきて、自分の中に入ってきて一緒に戦ってほしいと懇願してきた。最初は断ったのだが結局俺は折れてしまって彼女の願いを聞き入れてしまうのである。俺が渋々承諾したことに気がついたレイアは笑顔になると早速俺が持っていたレイピアを渡してくる。
それから俺がレイシアと戦うことになった。レイアスはレイシアとの戦いで傷ついていたために『回復の魔導具』を使い回復するが、その事でレイシアの狙いがバレてしまう。俺も『回復薬』で回復しようとするがなぜか使用不可になっていることに気づく。どうやらレイシアはこの空間ごと時間を停止させているために使えなくなっているのだと推測した俺はレイシアの攻撃をひたすら回避しながら、どうにか打開策はない物かと探すが有効な方法が見つからなかった。俺はレイシアと距離をとり、攻撃の準備に取り掛かる。『聖魔王』の力を吸収できた俺はその力を完全に使いこなせるようになり、レイシアの使う魔法の種類を見極めてその効果を発動する『聖光矢』をレイシアに向かって放つことにしたのである。だがレイシアはそれを見抜いていて、俺の目の前から消えるといつの間にか後ろに移動していた。俺の攻撃をかわすのと同時に『聖魔王』の力を奪っていったのだろう。
だがレイアと融合することで得た俺の能力によって俺は瞬時に移動することができるようになっていたのである。だから後ろにレイシアがいることがわかった俺はそのレイシアの腕を掴むことに成功すると、自分の腕を振り回してレイシアを思いっきり地面に叩きつけた。地面に衝突した衝撃によってレイシアの体はバラバラになる。だがそれでも『再生の魔宝玉』の効果で元通りに治っていく。だがそのタイミングで俺も準備を終えることができた。
『聖光刃』
『神槍の魔剣』の特殊効果の一つである、武器の強化と魔力による攻撃が同時に行われる必殺技だ。それを発動させた俺の手には大きな剣が現れる。それは今まで見たことのないほどに大きく、俺の持つ剣の中でも最大の攻撃力を誇る大太刀になっていたのだった。俺はその武器を構えレイシアに向かい振り下ろしていく。レイシアはそれを防ぐ手段がなかったのかなす術もなく切られてしまい真っ二つになった。しかしその直後レイシアの体は崩れ落ち灰になってしまったのである。その瞬間に俺は確信を得たのだった。それは俺が予想していたレイシアの正体である『大魔神』レイシアの本体を倒したのだということがこれで証明されてしまったからである。
ただここで一つ問題があった。それは俺の武器がレイシアが作り出した武器と同じものになってしまいそのままレイアと戦って勝てる自信がなくなったので一度元の世界に戻り装備を変えることにした。そしてそれからレイシアとの戦いのためにもう一度この異世界に戻って来たのはいいのだがレイシアはすでにこの世界に現れており俺が戻るのを待っていたのだった。どうやらレイシアの持っている『神杖ハルファス』『雷帝神の鎧』は俺に奪われてしまったらしい。ただその代わりにレイアが俺に戦いを挑んできてくれたおかげで俺はレイシアに勝つことができるのだが、その際に俺の中に眠っていた力が解放されレイアを倒すことに成功。しかしその際の影響で俺は元の世界に帰れなくなりレイシアとともに暮らすことに決める。その日はレイシアと俺の二人で王都に戻ることにした。
それから一年経ち、今俺の前にはあの時と同じように俺がレイシアと戦い敗北した後に戦った男と、その後ろで守られているレイシアの妹、レイナが立っているのだった。俺はレイシアをかばうように前に立ち二人の前に立ちふさがる。その男は俺を見ると嬉しそうにして俺の名前を呼んだのである。俺はどうしてレイアが俺の名前を知っていたのか疑問だったがとりあえず今はそれを無視して戦闘態勢に入ることにした。俺が『機竜牙刀』を取り出し攻撃体勢に入る前にレイシアは突然俺の前に現れた。そしてレイシアの攻撃をもろに受けてしまい意識が遠くなるのだった。
(ここはどこだ?俺はたしかレイシアと戦ったはずだ。なのにどうして俺はまたここに戻って来たんだろう?)俺がそうやって意識を取り戻しながら考えていると声が聞こえた。その声は懐かしいレイアの声だったのだ。そして俺はまた俺とレイヤの戦いが始まったのであった。俺はその時に俺は自分がまたここに戻ってしまった原因を知る。俺はレイシアの攻撃を受けて死んだのだ。そしてこの異次元世界に取り込まれたのだという事に気がつく。そういえば俺は死ぬといつもこんな風にレイアの夢を見るんだよなと思い、また今回も同じなのかなと考えていたのだった。俺はそう思いつつレイシアと再び戦い始めた。
俺は何度もレイシアと死闘を繰り広げるがやはり勝つことはできないのだと改めて実感したのであった。その度にレイシアは自分の力を吸収していき強くなり続けているのだ。その事実に焦りを覚えた俺は必死に考えた結果、一つの結論に達したのである。それは、
「なぁ、お前は何度俺が殺せば死ねるんだ?」と俺は問いかけた。
俺がその質問をするとその問いが面白かったのかレイシアは笑い出す。そしてそのレイシアは答えるのだった。
「私は不死身の化け物、貴方ごときが私の死に至れるはずがないでしょう」と言ってきた。その答えを聞いてしまった俺は絶望して、どうしようか考えていた。その時俺はレイシアの弱点に気づく、それは俺がレイアに負けた理由でもあるレイシアが持つ特殊な能力『魂喰らい』は『精神防御無効』を持つ『神装』でありレイアに『聖魔鋼の装甲』という俺が使っていた武具を与えるきっかけにもなっていたものだ。それにレイシアは気がついていて『精神操作無効化』を持っている俺には効かなかったのではないかと推測した。もしレイシアの言う通りならば俺はレイシアに対して有効な攻撃を繰り出せるようになるのではないかと思ったのである。そこで俺は試しに『聖光矢』を放った。
レイシアは難なく避けてしまうが、その行動を見てもレイシアは動揺せず余裕がある態度を見せてくる。おそらく俺の狙いに気がついたようだがもう遅いと思った。俺の思惑どおりに『光弾魔法』の光線がレイシアに命中すると、レイシアは苦しそうな表情になりながらも、自分の力を奪われていることに気づく。どうやら俺がやった作戦が成功したようだった。だがレイシアはそれで諦めるわけではなく俺を殺そうとしてきたのである。その攻撃をなんとか防ぐがかなり苦しい状態になっていた。俺はこれ以上攻撃を続けることは危険と判断して一旦レイシアとの距離を取ろうとしたのだがそれが間違いだと気づきすぐに引き返す。
レイシアはレイナを守るために自らを犠牲にしようとしていて俺は慌ててレイシアのところに走り寄り止めようとするがレイシアがレイナを突き飛ばす方が早かったため、俺の伸ばした手は空を切るだけだった。俺はすぐにレイシアを抱きかかえたがレイシアはすでに絶命しており俺は目の前が真っ暗になってその場で立ち尽くす。すると今度はレイアが現れた。
レイシアの体から離れて実体化することができたらしい。そんなレイアはこちらを見ながら俺を見て何か言っている。しかし、俺はレイアが何を言いたいのか理解できていなかった。そんな時レイシアの体を俺の体に引き寄せる。俺はその時にレイシアの顔を見て、自分がこれから何をすれば良いのかを悟ったのである。
レイアの言い分ではどうも『精神攻撃耐性』を持っていたはずの俺がレイシアの精神攻撃を受けてしまっていたらしく俺の中に入った事でレイシアが死んでしまって俺のせいだから責任を取ってほしいと言う。その要求をレイアに聞くとレイシアはレイアスの側にいたいと言っていたので俺はそれを許可することにした。ただその条件としてレイシアはレイアスがこの世界を旅する時は一緒に行動することを約束したのだった。それから俺は元の世界に戻るためのゲートを開くがどうやら今回は無理のようでレイアスも一緒に戻ることになったため俺は仕方がなく一緒に元の世界に帰ることにする。その途中でレイシアの妹であるレイナはレイシアが俺と一緒に行くと言った時、レイアと口論をしていたがレイシアの言葉に折れてしまい俺にお礼を言うのである。そのレイアが言ったありがとうとはどういう意味なのかは俺には分からなかったのだった。そしてレイアとレイナが消えると俺達は現実世界に戻ってきた。そこには母と父がいて俺のことを出迎えてくれる。そしてそのあとからやってきた父の同僚達やクラスメイトが駆けつけてきてくれた。そしてその時に俺は気づいたのだがレイアが俺の中に入ってきて、俺は『レイスドアイテムボックス』を手に入れることができた。そして、それから俺に襲いかかって来た『悪魔公女』『魔神』『魔神使い』『魔神王』『大魔王』と呼ばれる者を倒すことに成功するがそれから俺は学校を休み続けることになるのであった。その理由は、 異世界に行った影響で、自分の中にレイリアがいると知って精神的ショックが大きいためしばらくの間学校に通えなくなったのである。その期間、レイシアには悪いけど少しの間だけ一人で留守番して貰っていた。しかしその間でもなぜかレイリアに体を乗っ取られてしまう事が増えてきたので、仕方なく俺はある事を思いついた。その結果としてレイティアという女性に会うことができて色々と事情を聞きだすことに成功した。それにより今現在俺が持っている魔宝石は全て魔族のものだったのである。そして俺の中の人格が入れ替わるようになった原因もそのことが原因の一つだと知ったのだった。
(あれ?これってもしかしたらレイリアの仕業だったのか?)俺の中に眠っている魔族の女王だった時のレイシアの記憶を思い出すと、レイシアがこの世界でやりたい事が多すぎるからこの世界に長く留まることができるように俺の体を改造したらしいのである。その証拠に今の俺は人間ではなく『神龍人』という存在に変化してしまったらしい。
『魔眼』は『聖剣の剣姫』と『魔神の心臓』と合体することで手に入れたものである。これは『魔神の心臓』を体内に宿すことによって『魔人の魂核』という素材が使用可能になり、『魔神の魂核』を使うことでこの世界に存在する魔物や動物を強制的に配下にすることができるのだ。『魔道具の創造』は俺の魔力を材料に使うと魔宝石を作り出すことのできる『魔道具』が作れるらしい。ただし、作ったとしてもこの世界には存在しないものなので、俺がこの世界に存在していることを知らせないようにするためこの世界の人たちに知られるわけにはいかない。
それから俺はしばらく学校に行くことはしなかったが、ある日の休日に俺は久々に学校へと登校したのである。その目的はただ一つ、レイシアのためだ。レイシアがなぜレイアと別れてから今まで姿を現さなかったかという理由は、俺の意識が完全に目覚めたことで、今の状態ならレイシアは自由に活動できるようになったからである。レイシアの能力はレイシア自身が望まないかぎり俺以外の人物を殺せない。ただレイシアはレイヤのことが好きでレイヤに危害を加えようとしたり、自分より弱いと判断すれば躊躇なく殺してしまうだろう。そのことに関しては俺はレイシアを止めることはできなかった。
俺達が学校の教室にたどり着くとクラス全員がレイシアに注目をしていた。それも当然だ。俺の姿を見た途端に皆、口を揃えて言う。
((本当に生き返った!!))
(おい!お前らも生きていたんだな、心配していたんだぞ。お前が事故にあって死んだって聞いてたからよ。それにしてもまさかあんな美少女がいきなりお前の家に住み始めるなんて思ってもいなかったよ。それにお前は一体どんな手を使ってそんな美人の女の子と仲良くなったんだよ?)そういって話しかけてくる奴が数人いたが俺は無視をした。なぜなら俺はこれからの予定を考える必要があったのだ。その俺が考えた予定では俺はレイアのために戦うつもりだった。
レイシアには俺と常にリンクしているレイピアの『レイシア』とレイシアが持つ全ての武器のレイピアのレプリカの『レミア』の二本のレイシア専用装備を持っている。レイシアはこの二つにレイシア専用のレイアスが使用していた武具である『聖剣の剣』と『神装』であるレイヤの持つ武具の『聖刀』の五つのレイア専用の装備を持っているが今はそれだけではないのである。
レイシアは今の状態では俺以外とまともに話せるような状態ではなかったため、俺がいない間、ずっと部屋の中で過ごしていて暇な時間を過ごしていた。そのため、俺があげた本を読んでいるだけで一日を過ごしているようだ。俺はレイシアに俺以外に話し相手がいない状態なのは不味いと思い、レイシアとレイアが姉妹であることを話し、この世界に二人しかいない同じ種族の姉妹なのである。そしてその二人は別々の場所に住んでいてお互いに会うことができない状態であるという事にした。もちろんそれは嘘なのだが実際に二人が会えることはない。それはレイナには既に別の婚約者がおりすでに子供が一人産まれているらしいので、レイナとしてはもうすぐレイシアとも結婚して欲しくないようで、俺には絶対に妹を紹介しないと言い張っている。それもあってなかなかレイナからレイシアのことを紹介されず困っていた。だから俺はレイアに会いに行きたいと考えていたがその前にクラスメイトに挨拶をしなくてはならないと思ったのだ。
それから放課後になった頃を見計らって俺はレイシアに後を任せると一言伝えてからレイアに合うために家に向かったのである。その道中ではクラスメイトに何度も声を掛けられてしまった。そして俺達は俺の家にたどり着いたのだがその光景を見て俺は唖然としてしまった。家の前がすごいことになっていたのである。その騒ぎを聞きつけた母さんと姉貴は家に入らず玄関の前で待っているようだった。どうやら母さんも父も仕事があるため一緒に来れなくて、そのかわりに母さんの同僚の人が何人か来ていたようだがこの状態はさすがに俺が予想していなかった事態だったのである。
「あら?遅かったわね?レイちゃんは中で待っていてもらうことになったから。ほらみんなが帰ってきたから出迎えてあげなさい?」と言ってきた。その言葉で俺は嫌そうな顔をして、どうしてこうなるのかと思っていた。だが仕方がなく家の扉を開いて中に入った。
俺はリビングでレイアを待つことにしてその時間の間に俺はどうやってレイアと話してみるべきなのか考えるのであった。しかし俺は考えながらソファーに座ってテレビをつけようとするとそこには何故か俺の知っている顔の人間がいて驚いたのである。その人はなんと俺のクラスの担任であり母の姉である先生だった。
それから俺はレイアのことを母と姉の上司に紹介すると母はレイシアのことを気に入りすぐにレイシアのことを自分の姪だということを伝えた。それで納得するのかと思ってしまうほど母とその人の話はあっさりとしていた。どうやらこの二人は親友同士で昔からお互いに面識があり俺が事故にあったと知っていてものすごく俺のことを心配してくれていたというのだ。そしてレイシアがレイアだとわかるとすぐに意気投合して二人で会話を始めてしまう。
そこで俺は気まずくなり仕方なく俺は席を立ち、台所でお茶を入れ始めたのだがその間にも二人の会話は止まらず俺は仕方なくその場を去ろうとした。しかしその時だった。そのレイアスという男は俺がこの世界でレイシアが生きていくために協力してもらえないかと相談してきたがそれに対して姉はその話を聞かずに俺にだけ話すように言ってきたのである。その発言には俺とこの場にいる全員に驚いていた。
そしてその後母がこの場でレイシアのことを家族として扱うと決めると俺は少し安心したのと同時に俺はなぜそこまで信頼されてるのか不思議に思っていたのであった。それから俺はようやく席に戻ることが許されたので、とりあえずは話し合いをすることにしたのだが、やはり一番初めに問題になるのはどうやってここに住ませるかと言うことだ。俺は一人暮らしがいいと強く願っていたのでどうしてもここは譲れないと伝えた。しかし、それでも引き下がらなかった。そして最終的には俺がこの家に居候しても良いと言ったところ、急に話がまとまり結局俺が妥協する形で収まったのであった。
俺は学校が終わったあと、久しぶりにレイシアを連れてレイアスの元に向かうとなぜか学校の中に入り、その日はそのまま帰宅することになった。そして俺達が自宅に戻るといつもの時間に母と妹の三人が帰ってきていて俺達を見つけるなり嬉しそうに近寄ってきて抱きつかれたが俺の両手にはレイシアがいる。俺はレイシアを抱きしめてもいいが、その逆をされた時に非常に困ってしまうのである。
(レイシアを抱けることはできるんだけどな)レイリアとレイシアの違いが分からないくらいにそっくりなのでどっちを抱いているのかよく分からなくなるときがある。だからレイシアに抱きつきたくても俺はそれを我慢しなければならい状況に陥ってしまったのである。俺はそれからすぐに着替えて風呂に入ることにした。そして、その日の夜ご飯の時間になり俺の家族は全員が揃うと食事を始めたのである。
(今日は少し遅くなったからレイリアはいないけどレイシアと一緒に食べられるから別にいいけど)そんなことを考えていると俺は母が今日の朝はどうしたのか尋ねてきたのである。
その質問に対しては俺が少し用事があって遅れましたと答えるとレイリアは少し拗ねた様子を見せてしまい、レイシアはそんなレイシアをなだめようと頑張っていた。その様子を見ていて俺の母やレイアが微笑んでいたが俺には意味がわかってしまったので恥ずかしく感じてしまった。それから俺が学校に遅刻したことをレイアとレイシアが責めてきてレイシアには俺にキスをしてもらえるまで許さないと言われ、逆にレイアは学校に行っていないことについて文句を言われてしまう。だが、その事でレイシアを責めたりはせず、レイアもレイシアと同じようにレイシアを許し、レイシアは機嫌を取り戻したのであった。俺はレイシアの行動の意味がわからなかったがレイアだけは何かを理解しているようだったので聞いてみたが何も教えてくれなかった。俺はなぜ二人共俺に説明しないのか不思議だったがレイアスはその理由を俺に説明することはなく俺は二人に疑問を感じてしまうのである。
それから俺は夕食を食べ終えるとレイシアと共に風呂に入ることになって一緒に入ると、当然のことながらレイシアがレイスに襲いかかってくるが俺はそれを避けて俺は逃げ切ることに成功すると、そのまま脱衣所を出て行き、レイシアは不満げな表情をしながら風呂に入っていたのである。その事が俺は気になったが俺は自分の部屋に戻ろうとすると今度はレイアが俺の部屋に来て一緒に寝たいと言われたが、俺はレイアに対して今はダメだと言って断った。するとレイアは頬膨らませながらも俺の言うことを素直に聞いてくれてレイシアの待つベッドに入って行った。そして俺は部屋を出ると、そこには姉がいた。その事に俺は驚き声を上げる。だが俺の反応が面白かったようで姉に笑われてしまった。俺はそれが面白くなかったので俺は部屋に入り布団に入ったのである。俺は明日も学校があるのでもう眠ることにしようと思った。
俺は翌朝目が覚めるとそこには裸で寝ているレイシアとレイアの姿があった。しかも俺の両腕には二人の女に腕を掴まれており動くことができなかったのだ。
俺が目をさましていることに気付いた二人はすぐに飛び起きて、服を着始めるがその際のレイアとレイシアの動きはとてもエロくて俺に刺激を与えたせいか、また俺は興奮してしまったのである。それからレイシアは慌てて服を取りに部屋に戻ったのでレイアは俺の顔を見るなり笑顔を見せると唇を合わせてくる。その瞬間俺がレイシアに襲われそうになったのでレイシアの方を振り向くとすでにそこにレイシアはいなかった。そしてそのかわりにレイシアが目の前にいた。そして俺の体に触ると俺はレイシアとリンクしてしまい俺は動けなくなってしまう。その事を気にせずにレイアは自分の体を弄り俺の股間部分に自分の大事な部分を擦るように当てていた。レイナはその様子を見てさらに自分の胸を押し付けると自分の手を俺の手に重ねた。俺としては嬉しいがさすがにこの状況では理性を失ってしまうと思い必死に我慢する。
だがレイシアはそれを見ても助けてくれず俺の体が自由になった頃には俺も我慢の限界だった。だがここで俺の体の変化に気付き始めたのかレイアの方は動きを止めると俺から離れて自分の胸に手を当てると悲しげに俯いてしまったのである。俺はレイシアのほうを見るとレイシアもレイアと同じ様な行動をしていたのであった。そして俺はそんな二人を見て本当に二人を愛してしまっているんだということに気づくのである。
俺はレイシアに近づいて行くとレイシアが俺に甘えてきたが俺が頭を撫でると大人しく俺の腕の中で眠り始めたのである。それを見たレイアはなぜか寂しそうな顔をしたがレイシアの寝顔に釣られたのかレイシアに寄り添って眠ったのであった。そしてレイシアが起きてくると俺がレイシアにも愛していると伝えるとその言葉を聞いた途端に俺に抱きついてきた。そしてそのままレイシアと俺は一緒にお昼ごろまで一緒に過ごすのである。俺はそれから一度家に戻り母さんに学校を休むことを伝えにいくとレイシアのことをどうするのか聞かれたのでとりあえず家で留守番してもらうことにした。その話を聞いた時、母さんもレイアスも俺が家に帰れるのが相当嬉しかったのか喜びを隠しきれず俺を抱きついて来ていた。俺はそんなレイアス達の様子に戸惑いながら、その反応に少し恥ずかしさを覚え、急いで家に帰ったのであった。
それからしばらくして俺が家の玄関の扉を開くとそこにはレイアとレイアの母親が玄関の前に立っていた。俺の姿を見てレイアの母親は涙を流していたが、俺はレイシアの母親の泣き顔なんて見たことがなく俺はどうしたらいいのか戸惑っていたのである。そしてレイアのお母さんはすぐに俺に駆け寄るとレイアが心配していたことを伝える。
「あなたがあの事故に遭われた後ずっとあなたのことばかりを心配して夜もほとんど寝ないくらいの毎日だったんですよ。それに私達はあの事故の日から何度も連絡を取ってたのですがレイシアはあなたの事故の事を知ると急に家からいなくなったんです」そう言ったのだった。
そして俺もその時は急に消えたと聞いたことがあった。どうやら俺はそのことをすっかり忘れてしまっていたのだ。俺はその話を聞いて自分が情けなくなった。俺がレイシアを助けなければきっとこんなことは起こっていなかったはずだとそう思い始めていた。俺はこの話を聞いていたとき俺はレイシアとレイシアの母の話を聞くだけで俺の心の中は複雑になっていた。なぜなら、それは俺を慕ってくれる可愛い義妹のような存在を自分が殺してしまうという罪悪感を背負わなくてはならなくなるかもしれないと心の底から思っていたからだ。
俺はこれからこの世界で生きていかなければならない。もし、レイシアという女の子を殺して生きながらえたとしてその事実を一生背負っていくことができるのか。そんなことを考えながら、俺は答えの出せない悩みを抱える事になるのであった。
俺はその話を聞き、俺は今すぐにでもレイシアの元に行かなくてはならないと感じてしまい、すぐにレイシアの居場所を尋ねるがレイアの母親はまだわからないと言う。しかしレイシアの家には戻っていなく、おそらくはどこか遠くに逃げた可能性があるとのことで、俺はこの場を後にすることにしたのである。俺はすぐに家を出ようとするがそれをレイシアの母が止める。そして俺はレイシアの両親には申し訳ないことをしてしまったと思い謝罪の言葉を伝えた。だが俺がなぜ急に謝っているのかがわからずに首を傾げていた。その様子を見ていて俺はなんと説明すれば良いかわからず、ただレイシアに会いたいだけだとしか言えなかった。俺はそれからその家を飛び出し、そしてこの世界の空を見上げ、俺は自分の運命を変えるための一歩をこの世界を踏み出すのであった。
(もうあんな悲劇を二度と繰り返させないために)俺はその決意を固め、レイシアを探し始める。だがどこにいるのかが俺にはわからなかった。だがそれでも俺の頭の中ではレイシアのことを考えていた。すると、レイシアの気持ちやレイシアとの楽しい日々を思いだし、俺の目からは涙が溢れ落ちてきたのである。
(必ず探し出して見せる。俺はお前を助けると決めたんだ)俺は涙を拭き、そして俺は歩き始めた。そして俺の視界は光で包まれてゆき俺は再び意識を失い始める。
目を覚ますと俺は森の中で横になっており周りを見ると少し離れた場所に倒れている人が見えたのである。俺はすぐに立ち上がり確認するために近づいていったのだがその姿を確認したとたんに思わず驚いてしまった。そこにはレイリアに似た顔で綺麗な長い金髪に整った目鼻立ちでスタイルも良く、まるで美少女アニメの中から出てきたような可愛らしい容姿をしていたのである。しかしその少女をよく見ると怪我を負っており、足に深い傷を負いながらもなんとかして逃げ出そうと必死に地面を這いつくばるように動いてたのだ。その事に気が付いた俺はすぐに助けることにした。そのことにレイアは驚いた表情を見せていたがレイシアの無事を確認すると俺にレイシアの治療を頼んできた。そのことにレイスは嫌々ながら従っており俺はレイシアの体に触れると、そこで不思議な感覚に襲われるのである。それはなぜか懐かしいと思わせるほどのものだった。そしてレイシアに触れて俺の中にある力を全て使ってしまうと、今度は俺の中のエネルギーが減って行って俺の体の力が弱まりその場に倒れるように座り込む。そしてそんな俺に対してレイシアの両親が近寄ってくると俺のことを見下ろして何かを言う。
それから俺は意識が遠のいて行き俺はその場で再び眠りについたのである。
そしてまた夢を見た。
その夢の中に現れたレイシアとレイシアの母は俺の前で涙を流していた。
俺はその理由を知りたくなってしまい話しかけようとした。するとそんな俺にレイシアとレイアの二人はこちらを振り向き何かを伝えようとしていたが俺が声をかけようとしても何も聞くことはできなかったのであった。
次に目が覚めるとそこはレイアとレイシアの部屋であり、俺は二人のベッドの上で寝ている状況にあった。俺はベッドから抜け出そうとするが体が思うように動かなかったのである。しかもなぜか俺は裸で二人の寝ている姿を見ると俺は二人のことが好きすぎて、俺は彼女たちの体に手を伸ばし触ろうとした瞬間だった。
二人の女が起きてきてその行動が未遂に終わり二人は俺に怒り始め俺はそのまま二人によって押さえつけられ、二人の胸を押し付けられて身動きが取れなくなってしまった。それから二人の攻撃はどんどんエスカレートしていきついに俺の顔は二人にキスされたり、俺の手は二人の大事なところに伸びていってしまった。俺の顔は二人に挟まれてしまい完全に動けなくなってしまい二人はそんな俺を見て笑みを浮かべながらさらに俺に抱きついてきたのである。それからレイシアとレイアは俺に愛していますと耳元でつぶやくとそのまま俺にキスをし始めた。そして二人が満足した頃俺はまた眠りについていた。そして次の日の朝になると俺に激しい痛みが襲ってきたのである。俺は起き上がろうとすると激痛により起き上がることができず俺はうなり声をあげ、そんな俺の様子に気付いたレイアが心配になり、急いで部屋に入ってきた。その光景をみたレイアの母親がレイアに部屋の外に出るように言うがレイアはそれを拒否したのである。
そのやり取りに気づいたのかレイシアも俺達の元に駆け寄り俺の様子を見ると俺は自分の体が変化していることに気づくのであった。
レイシアは急に自分の服を脱ぎだし始めると、俺はレイシアが何をしたいのか理解し、俺はレイシアが服を着るまで待ち続けた。そして俺はようやく体の自由が戻ってきたことで俺はレイシアを押し倒していた。その事に俺は戸惑いを覚える。しかしレイアのほうはなぜか納得した顔をしており、そしてなぜか俺の頭を撫で始めた。
その様子にレイシアは何も言わずにレイアスが部屋から去っていく姿をただ黙って見ていた。そしてレイシアも着替えを済ませると二人で一緒に家を出た。俺はその後をついていくとレイシアとレイアはその家から少し離れた広場に向かい俺はそこにある木の下に座った。それを見た俺は不思議に思うとレイシアは俺の肩を優しく叩く。すると俺とレイシアの目の前にはいつの間にか小さな小屋が現れておりその中を覗くとたくさんの食材や道具が置いてあったのである。レイシアはその中から一つの箱を開けるとその中には大量の野菜が入って入っており、それを見ただけで料理ができそうに感じていた。それを見たレイシアとレイアは笑顔を見せながら俺に話しかけて来たのである。
どうもレイアスのことが気に入ったみたいだ。それからレイアスにレイシアがレイアスにお願いをし始めて俺が戸惑っていると、レイシアはそんな俺の様子をみて嬉しそうにしている。俺はレイシアが一体どんな事を言ったのか気になったが俺の願いを聞いてくれるのだろうかと不安になっていた。
「本当にいいのか?それで」
俺の問い掛けに二人は力強く首を縦に振る。その姿を見ているだけでも俺がどれだけ嬉しかったことか。俺は早速作業にとりかかることにするとその準備をしている最中レイアスは俺の横に立ち俺の邪魔をしないようにしている。そしてまずはこの野菜たちを細かく切らなければならないため包丁を取り出し俺の手元には光が纏い俺は無意識的に手に力が入ると俺の手は青白く光輝き始めたのである。
それからレイアが興味津々に見ていたが、俺の持っている刃物をレイシアに持たせようとするとレイシアのお母さんは危険だからダメだとレイアに注意するがどうやらレイシアはそれを無視してしまう。俺がレイシアのお母さんを落ち着かせてレイシアは俺に渡された包丁を使いこなし俺の作業を眺めていた。俺の手元は光りだし俺が手をかざすと、野菜たちの形が変わっていき、まるで俺が望んでいる形になっていくのである。
俺はこの能力を使うときにレイシアからもらったペンダントを手に持ち、それをレイシアからもらうとなぜか力が湧き上がる感覚があり、そしてレイシアはなぜかそれをじっと見ていたのである。
それから俺達は調理をしていくのだがその途中でこの家に泊めてもらうお礼として、レイアとレイシアにレイアの得意なパンケーキを作ってほしいと言われたのだ。俺は少しだけ考えて了承するのだった。
この家の設備はかなり良かったのである。この家はまるで貴族の豪邸のような大きさを誇り俺が知っている限り最高級の家に思えたのだ。しかもこの家で暮らしていても何一つ不自由がなくとても快適で俺の好きな料理を作ることができるほど大きな厨房もあった。そして今レイアとレイシアに俺は料理を教えていた。最初はかなり警戒されていたが俺に敵意が無いことがわかると俺を信頼してくれるようになり今は素直に俺の指示に従い料理を習っているのである。俺が教えることは基本的なものばかりであり特別な事は一切教えなかった。それはなぜかと言うと、この世界ではこの世界独特の料理というものがあり俺はそれに興味を示したためレイシアとレイアの二人にはそのレシピを教えるのはまた別の機会にしようと考えたからだ。
(さてと、これからが大変だ)レイアはパンを焼くのは初めてでなかなか火加減が上手くできずにいたのである。そしてその横ではレイシアが真剣に俺の話を聞いていた。そして焼きあがったのをレイシアは試食をしたのだったがそれが気に入らなかったらしく俺にもう一度やり直しを要求してきたのである。
だがそんな時でも俺の隣にいるレイシアはすごく幸せそうな顔をしており、俺も思わずレイシアの表情を見てしまう。そして俺達の前にはパンケーキの乗せた皿の上に蜂蜜をかけるとその上にはイチゴを乗せたものをレイシアとレイアに提供した。
レイシアもレイアも一口食べたとたん表情が変わる。どうやら二人の好みの味だったようで二人はおかわりを要求されたので仕方なく作ることにした。レイシアの分はもちろん作り分けているので問題なくできてしまったのだ。
その後はみんなで夕食をとりその日は疲れたのか早く眠りにつくことができたのであった。
(なんだここ?確か俺は森で気を失っていたはずなのになんで俺は草原に一人で立っているんだ?)俺が不思議に思っていると目の前の景色は急に変わりどこかの城の庭へと変化したのである。そしてそこには二人の人物がいて一人は見覚えのある少女の姿があった。しかしその人物の顔は俺がよく知る人の顔に瓜二つである。しかしもう一人現れた人物を見て俺は驚きを隠せなかった。なぜならそいつの顔もまた見知った少女のものだったからである。
俺は慌てて二人のもとに近寄ろうとするとなぜかその少女の体は透けていてよく見ないとわからないほどだった。そんな状態の彼女に声をかけようとしたが俺の口は動いてはくれなかった。しかしもう一人の少女には俺の声が届くようだが俺は話しかけることができなかった。その事に俺は困惑していたのである。それから俺はその場から逃げるかのように移動してその光景から離れて行った。その光景はだんだんと遠ざかって行くのであるがその現象は徐々に加速していきやがて俺は意識を失ってしまった。
それから目が覚めると俺の体はまだ動くことはできなかったのである。
それからしばらくしてから俺の視界が徐々に回復していきようやく周りを確認することができ始めた。俺がいる場所は森の中であり、しかも夜だった。そんな状況の中で俺は体を起こし始めるとそこで初めて俺の体が変化し始めていることに気が付き始めていた。
その体の変化というのは人間とはかけ離れた姿になりつつあるということだ。体からは鱗のようなものが出て来て俺の腕と足の部分が次第に蛇のようになっていきそして手の部分と足が爬虫類のように変化し始めたのである。さらに頭にも影響が及び髪の色は青色に変色し瞳の色も金色へと変わっていく。その姿を見て俺は戸惑うがもうそんなことを言ってはいられないのである。俺は自分の体を確認してから歩き出す。そしてしばらく歩いていると湖を発見しそこに映った自分の姿を見て俺は愕然としてしまった。俺の背中から巨大なドラゴンの翼が出てきてしまい腕は鉤爪のようになり、その肌色は黒くそして腰あたりからもドラゴンの尾が出現していた。
「これじゃまるで悪魔じゃないか」俺がその事を気にしている間にもどんどんと体の形に変化が表れ始めてしまい、その姿が完全にドラゴンへと変貌した瞬間に体が言うことを聞かなくなりその場に倒れてしまい体がまったく動かない。俺の体は言うことを利かずにどんどんと地面に吸い込まれ始め、ついに俺も意識を失い始める。
(俺にこんな仕打ちをした奴らは絶対に見つけて殺さないとおけばならないな。必ずだ。もしあいつらがこの世界に来ていることならこっちの世界に引きずりこんで地獄を体験させてやる。)俺はその言葉を残し完全に闇の中に落ちていくように感じ始めた。しかしその時俺はなぜか安心感を覚えてしまうのであった。そして次に俺が目を覚ましたときには俺は誰かの膝の上に乗せられていて俺は頭を撫でられていた。その優しい手の温もりを感じたとたん俺の瞼は自然と閉じて寝息を立て始めたのである。
それから俺がゆっくりと目を開けるとそこはレイシアとレイアの家で俺はなぜかその部屋の中でレイシアに抱きかかえられて眠っていたようだった。レイリアの方はソファーで座ったまま眠っているレイシアの肩を抱き寄せており、そのレイシアとレイシアに抱かれているレイアの親子はとても幸せそうに見えていた。そんな幸せな時間が流れていった。それから数分後には俺の体調も元に戻り立ち上がれるまで回復したためレイシア達を起こすと、俺はすぐにこの家の外に出ることにした。俺は外の状況を把握しようと家を出て周囲を見渡すとここはどうやら城のような建物の中であることが分かる。俺の目の前にある扉を開けて外へと出るとそこは完全に西洋風な作りになっておりかなり広い空間が広がっており、周囲には兵士と思われる武装している人達が何万人かいた。
その光景を見た俺は少しだけ警戒心を高めるがレイシア達は特に気にしている様子はないようである。
俺達は城内を進むとその先に一人の女性がこちらに向かって歩いてきた。その女性を見た俺は驚いたのである。その理由は彼女が俺がゲームをしていたときに登場したヒロインの一人である【アリナ=アークス】その人に酷似していたためである。そして彼女はレイシア達に挨拶をするとレイシアはその女性に対して自己紹介を始めたのである。
その女性はレティさんと言ってこの城の城主の娘であるということだ。
「あなたが私の新しい主様ですね。よろしくお願いしますね」と笑顔で言い俺に手を差し伸べてくるのである。そんな笑顔を向けられた俺は思わず顔を背けてしまった。
俺は彼女の顔が俺が作り出したキャラクターの一人にあまりにも似ていたために動揺したのである。そして俺はそんな感情を表に出さないように必死に取り繕って平常心を保とうとした。そんな俺の様子を不思議そうに見ている彼女だがレイシアの視線を感じそちらを向く。
「どうしたんですかレイシア」
「いやちょっと、この人が本当にレティお姉さまですか?」と俺の横にいるレシアを見ながら聞いてくるので俺はそれに合わせて首を傾げてみせる。
「ん?どういうことでしょうか?」
「いえ。私も最近この城に出入りをするようになったばかりなのであまり詳しいことは分かりませんが、私が知る限りこの方は男性と二人っきりで話すことはないと噂されているので、それにレイシアは今年で18歳になるはずですけどまだ婚約していないようなのでまさかと思ってしまっただけです。あ、別にレシアを責めているわけではないですよ。だってあの子はとても可愛いですから誰にでも好かれてしまうのは仕方がないと思いますよ」
俺はそんな二人の会話を耳に入れるのと同時に、俺はあることに引っかかりを覚える。まず最初になぜ彼女は年齢を言わないでレイシアのことを17歳だと言ったのだ。これはおそらく見た目の問題だと思うのだが、俺からすればレイシアの方が身長は高く見えるのでどうしても疑問に思ってしまったのだ。
俺とレシアの外見はかなり似ておりどう見ても姉妹と言われても違和感がなくそれほど似通っていた。ただ唯一俺がレイアよりも大人っぽいと感じさせるのがやはり胸のあたりであろう。しかしそれを俺はあえて突っ込むことはなく話を続けることにした。ちなみに俺は彼女の年齢は知らないふりをしてレイシアの反応を見ていたがレイアは何かを隠していることには気が付いていないようだったのでほっとする。
(まぁ今はそんなことを考えていても意味ないか)
俺は考えを打ち切って今は目の前の状況を何とかするために思考回路を変える。
俺はレティアさんの案内の元その部屋にたどり着く。そこは謁見の間であり、王座の後ろの壁には王家の紋章らしき絵が描かれた壁画がある。その前に立っている俺の両脇にレティシアさんとレイアが並ぶと俺がここに来るのはわかっているかのように待ち構えた状態になっていた。そして俺はレイシアに言われたとおりの場所に待機して、それから国王が玉座から立ち上がると俺たちは一斉にひざまずき、俺の隣にいる二人は同時に顔を上げ始める。
そして玉座の前の階段を下っていく音が聞こえてきた。その足音はどんどん近づいてきて止まると声をかけられた。
その声で俺は誰が喋っているのかわかったのである。それは当然レイシアの声であり俺が一番良く聞き慣れたものだったからだ。
俺はその言葉を待っていた。俺の願い通りの展開になりそうで安心する。俺はそんなレイシアの声を聞くとなぜか懐かしさを感じるのだ。俺と同じような容姿を持つレイシアの声を聞いたとたんなぜか親近感を抱いてしまうのだ。だからなのか俺はつい彼女に話しかけてしまいそうになったのである。
そして俺に話しかけてきたのはやっぱりというかなんというべきか予想通りの人物である【ユート王国 現国王 ゼクト=ユート 四十三才】だった。そして彼はいきなり話をし始めた。
内容はどうにも先ほどまでの話で大体の話は理解したがそれでも一応確認のために俺を呼び出したという。
俺は彼にこれから起こることを正直に全て話し、俺の話を聞き終わったゼクトルは真剣な表情を浮かべて俺の目を見てくる。
俺はその目に少し気圧されながらも彼の目を逸らすことなくじっと見つめる。その目からは彼が本気で俺のことを助けようとしていることが分かった。俺はその目を見てから俺は心の底から感謝して深々と頭を下げると彼もそれに続いて同じように頭を下げてくれる。その様子に驚いているとゼクは急に頭を深く下げるだけではなく俺に対して手を出し始める。俺がその様子を見て戸惑っていると、俺にその手を握り返せと促してきたため俺は戸惑いつつもその手にそっと触れると握手の形をとったのである。
俺はその瞬間この人との約束を破らないという意思を込めて握力を強めた。すると向こうもその答えを返したのか更に強く握り返してきて俺に笑みを見せながら力強く言ったのである。
俺はその後この国の王との話が終わり、俺は城の中に用意してくれていた部屋に向かうとそこにはメイド服を着ている女性が一人おり俺の事を出迎えた。俺はそのメイドの姿を見て驚いたのである。というのも俺がそのキャラの事を詳しく知っていたためその特徴に一致する人物が出てきたからこそ驚いたのである。その人物はゲームの中で主人公が最初に出会うキャラクターの一人にして、レイシアの侍女として仕えていた人物でもあった【ミーヤ】その人だったからである。
俺の動揺を察してくれたらしくすぐに俺が知っていることを察してくれると、彼女はレイリアと似たような仕草と口調と性格を持ち合わせており俺の気持ちを理解してくれたらしい。そのためか彼女とはすぐに打ち解ける事が出来た。そして俺と彼女の関係はレイシアの妹のようなものだということが分かりさらに親密になったのだった。それからすぐに俺はレイアとレイリアに呼びつけられ彼女たちの部屋に連れてこられると、彼女たちはそれぞれ俺に対して服を脱ぐように命令をしてくるので俺は素直に脱ぎ始める。俺はこの世界で自分の裸を見せることに対してはもう特に恥ずかしいとかそういった感覚は無くなっているが流石に自分の妹的な存在の二人が見に来るとは思ってもおらず、そしてそんな二人の前では何故か俺は羞恥心を刺激されたような気分になる。
俺は二人の体を見る度になぜかドキドキしてしまう自分に驚きを隠せない。しかし俺の様子は二人の目にはどうやら興奮しているように見えたようで、俺は必死で我慢しながら二人の質問やら要望にすべて応じると満足そうな表情を見せたため俺はホッとした。しかし俺はそこで自分がいつの間にか汗をかいている事に気が付くとシャワーを借りたいと伝える。その言葉に反応を示したのは二人とも一緒だった。そして俺の体に触って俺が本調子ではないことに気が付き心配するような態度を取ると俺のことをそのまま浴室まで連れていき、俺がお風呂に入る準備を整えて俺が入ると背中を洗うために俺の前に回ってきたのである。
俺はこの状況はまずいと内心焦りを感じてしまう。俺は目の前に現れた二つの大きな膨らみを見て理性が吹き飛んでしまうかもしれないと感じたのだ。そして俺のそんな様子を察知した二人はお互いに視線を合わせアイコンタクトを行うと何かを決意したようにうなずき合った。
その光景を見た俺は何をするつもりか分からないまま二人の動向を観察する。そして二人の息の揃った動きは見事に重なり合うと俺は次の二人の行動で頭が真っ白になってしまうことになる。
「ん、れ、レイティア? レ、レイシアさん、あなた一体何をしているのですか?」
そんなレイアの驚いた声で俺はようやく正気に戻れたのだ。俺は恐る恐る振り返ってみると二人は俺の体をスポンジを使って一生懸命に洗っていた。その様子を見ながらレイアとレイシアに問いかけたのだ。しかし、そんな状況にも関わらず俺の手は無意識のうちに彼女達の胸に伸びていて俺はそれを揉んでいたのである。そんな行動をとってしまう俺は自分自身に驚きを隠せず動揺してしまい慌てて手を離そうとすると、そんな様子を二人はくすりと笑ってみせると俺は思わず呆然とした顔でその様子を見てしまう。
そんな俺にお構いなくレイリアが今度は後ろ側から腕を回し抱きつくようにしてくると俺はそんな彼女の豊満な胸の感触が伝わってくる。しかも彼女は俺に体重をかけないように配慮をしているためか重さはあまり感じられずその分柔らかいものがダイレクトに伝わってきて非常に心地よかったのだった。俺はそれに意識が奪われてしまいレイアの言葉など耳に入らず、それに加えて耳元に囁くような声が聞こえてくきて俺の鼓動はさらに加速し始めて顔もだんだん熱を帯び始める。そしてレイシアの手が俺の敏感になっている部分に触れ始めると俺は一気に我を取り戻す。
俺は今の状況が非常にまずいものだと悟り急いで二人の下から脱出しようとするのだが二人の力が強すぎて抜け出せない。それでも何とか振り切ろうと抵抗するのだが、そのたびに二人は嬉しそうに俺の体のいろんな場所を弄り回すので結局俺はされるがままに受け入れるしかなかったのだ。
(ああぁ~ダメだこのままじゃ本当におかしくなるぅ。どうにかしないと、あぁぁ~、あ、あれ?)
俺がそんな風に考えていると突然体の異変に気づく。それは今までに味わったことがないくらいの異常なほど強い疲労感に襲われたのである。
その異常を感じた俺は慌ててその場から離れるとその異常の原因はすぐ分かる。それはレイシアの魔力によって俺が操られていたという事だ。しかし俺自身そんなことは記憶がなく俺は戸惑ってしまった。
(まさか俺の体にあんなことが出来るなんて知らなかった。だけどなんで俺をそんなに欲していたんだ。俺がこの世界の神じゃない事は話してあるはずなのにどうしてこんなに俺に好意を寄せているのかわからない。ただ、もし仮にレイシアが俺のことをそういう意味で愛していて欲しいというならそれはそれで構わないんだけど、俺はやっぱり元の世界に残してきた家族に会いたいと思っているんだよな。俺のこの気持ちだけはどうしようもないと思う)
俺が考え込んでいる姿をみて何か不安になったのかレイシアが声をかけてくる。
そんな彼女に何でもないといって俺は無理やり笑顔を作りごまかすと彼女の方も少しだけ表情を曇らせると再び何かを話し出す。その話の内容は、この世界には魔法が存在するらしくその属性は大まかに分けると六つに分かれているそうだ。火、水、風、雷、光、闇があり、それぞれ適性を持っている人は限られてきておりその中でもかなり少ない割合で適正があると言われているのだ。またその人にはそれぞれの魔法に対するイメージと名前があるらしい。それはレイシア達も知らないらしく、レイティアは水の精霊使いであり、レイシアはその双子の姉であるために、双子姉妹がそろって使える固有魔法の【ダブルエレメンツ】という技を使うらしい。その能力は二人で同じ呪文を詠唱することで通常よりも強力な効果をもたらすというもので、この能力が発動すると二人の身体からは膨大な水があふれ出しその水を自在に動かすことができ相手を攻撃したりするのだ。この魔法を使いこなすことによって、二人は国を守る最強の戦士でもあるということだった。そのほかにも特殊な固有能力を持つ人間がいるという噂を聞いたことがあるが詳しくは分かっていないとのことで俺もその辺の情報についてはあまり持ち合わせていないのであった。
そして俺はレイシア達に部屋へと案内されベッドの上に横にされるのだった。
それから数時間後俺の体の状態は元に戻っていたのだった。
その事に安堵しつつ自分の体の感覚を確かめてみるといつもと違う体の状態に気づき驚くのである。そしてそれと同時にこの部屋に誰も居なくて助かったと思ったのだ。
その理由はなぜかというと、俺は何故か女性の体になっていてこの部屋にいるのはメイド服を着ている女性だけだったからだ。この世界での俺の名前は【ユト=ユート=ユウト】というらしくこの屋敷に住んでいる唯一の男として俺は歓迎されたのである。そしてその女性はミーヤというメイド服を着た人で俺に対して非常に友好的に接してくれている人だった。彼女は俺の体の状態を気遣ってくれたらしく、まだ安静にしているように言ってきた。
俺は彼女のその優しい対応がなんだかすごくうれしくてつい甘えてしまったのである。そのことに彼女が微笑むのを見て俺は心の底からの幸せを感じていた。
そして彼女はこれからの予定を説明してくれたのだった。
その説明では俺の体は数日の間は絶対に動かしてはならないと言われたのである。そのことについてはなぜなのと質問したところ、俺はあの謎の人物に呪いをかけられており体の内部にある毒のようなものを抜かれた状態でいるからその回復を待つためだという。そのためしばらく寝たきりの状態で過ごすことになるのだと言うのだった。
それから数日間俺は体を動かすことができない状態が続く。そしてその期間に俺はメイド服を来ている彼女について詳しく教えてもらったのである。この国の王はゼクと呼ばれる存在で、その娘がレイリアとレイシアの姉妹だったのだった。彼女たちの父親はこの国にただ一人しかいないとされている剣聖でかなりの実力者だということを改めて知る。そして俺はその人の娘たちに世話を受けているという事になる。そして俺の今の格好を一言で表すとすれば『裸エプロン』といった状態であるのだ。そんな状況に俺は落ち着かない気持ちになりつつも彼女の話を黙って聞いていた。
ちなみに彼女は【レイナ】という名前で年齢は十六歳、そしてこのレイリアとレイシアの妹に当たる存在であるらしいが、彼女はなぜか二人とは違い俺に対して非常に親切にしてくれていたのだった。そして俺はそのレイラの事がどうにも異性として見ているような気がしてならないでいたので、俺は自分の心の中の整理をつけなければと考えていた。
俺は体を動かせるようになると俺は体を起こし自分の体が自由に動かせることを確認したあとすぐに行動を開始する。
まずは自分の部屋の掃除を行うことにしたのだ。
なぜなら俺の汚したシーツなどの洗濯をレイリアとレイシアにやってもらうことになってしまうからである。流石に年頃の女性の前でそんな行為をするわけにはいかないと考えた結果、自分で片づけることにしたのである。俺はそんな自分の考えが正しいかどうか疑問ではあったが自分の心に言い聞かせて納得させたのだった。
そしてその日から毎日自分の部屋を一人できれいにする生活が俺の中で続くことになった。そしてある日、俺が廊下を歩いている時にレイリアに呼び止められると、レイリアからレイシアに呼び出されていると聞き、そのレイシアの部屋に行くように言われるのである。俺はその指示に従い彼女の元へと向かうのだった。
俺はその部屋の前に着くとノックを二回行って中から「入りなさい」という声を聞くと、扉を開けて入室の許可を求める。するとその声に反応して俺に視線を向けた彼女は椅子に座ってこちらの様子を伺っていた。その顔を見るととても美しい女性で俺の心臓は一気に高鳴るのを感じると、それを隠すために平然を装うことにする。
レイシアはそんな俺をジッと見つめたまま何かを言いたげにしていたので、そんな彼女を見ながら俺の鼓動は加速していく。そしてついに俺の口から出た言葉が、
「俺になにかご用ですか?」
と緊張しながら聞く。その俺の問いに対し彼女は、俺がなぜ呼ばれたのかという事の説明を始めたのだった。
レイシアによるとこの国の王にはある習慣があって、その慣習というのが自分が気に入った相手に自分の娘達を差し出すことが条件となっているらしい。それ故、俺がその対象に選ばれてしまいレイアがレイシアを呼びに来たのだという。
その事実を聞かされた俺は、レイシアの美しさに魅了されてしまって何も考えられなくなっていたのは内緒である。そして俺は彼女に見惚れていたために俺が何を言っていいのか分からずに固まってしまっている。すると彼女はその様子を見ながら笑みを浮かべてから、その顔に手を添え俺を挑発するように上目遣いで見てきたのだ。
(くっそぉ~何だよこの反則級の破壊力は、可愛すぎるだろうが! はぁ~もうダメだ我慢の限界だ)
俺はレイシアの魅力に耐え切れなくなったのか俺はその場でしゃがみ込んでしまう。するとそれに反応したレイシアも慌ててその場に駆けつけてくれる。
俺は恥ずかしさと申し訳なさから顔を合わせることが出来なくなりうつ伏せのまま顔を上げることが出来なかったのだった。俺はこの時ほど自分を抑えきれない弱い人間を恥じたことは無いと本気で思ってしまった。しかしそれでも俺は何とか立ち上がりレイシアに謝った。その俺の態度を見たレイシアは少しだけ困った表情を見せたのである。
(はぁ~本当にどうしたら良いのやら)
俺はその後レイシアとの話し合いの末に、その王の申し出を受けることを伝えるとレイシアは嬉しそうに顔を輝かせていたがその事をレイアに伝えたところ彼女はその提案を受け入れず断ろうとしていた。そしてその事についてはレイシアが俺に説明してくれた。その内容というのは、レイリアの気持ちを考えてほしいというものだったのだ。その気持ちを理解できなかった俺は彼女にその答えを教えて欲しいと懇願すると彼女は俺のことを愛していると答えてくれたのだった。その答えを聞いて俺はどうしようもないくらい動揺してしまい彼女の話も上の空の状態になってしまっていた。そして結局は、その話の流れが王に伝わったことによってその話がなかったことになってしまったのである。俺はこの話を通して自分の心の弱さを痛感してしまうのだった。
俺は自分の情けなさに落ち込んでいる時ふと気になったことがあったためそれを彼女に聞いてみることにする。
それは彼女がこの国の王女だということなのだが、どうしてこんなところで暮らしているのか気になったのだ。普通であればこんな場所に住まわされている理由はないと思うのは当然のことだったので、俺の問いかけに対して彼女達の母親は病で亡くなってしまったとの事だったがそのことがどうしても気にかかっていた。そしてそれは彼女が母親を失っても涙一つ流さないでいるということがあまりにもおかしいと感じたからである。俺はその事を確認するために再度同じ質問をするとその質問に対して彼女はその質問の意味を理解することができず困惑してしまったようで首をかしげている。
その彼女の仕草もかわいかったのがまた俺の心を大きく揺さぶってくるのだが、これ以上はまずいと思い無理やり心を落ち着かせるのである。それからしばらくして彼女はようやく質問の意図を理解してくれたようだったのだ。それから彼女が俺に話し始めたのである。
その話の要約は彼女の父親である王が娘達が成人するまではこの城の中に留めておくべきだという方針を決めているのでこの城に暮らしていてこの部屋を使っているのだと、俺はその話を詳しく聞こうと思ったが彼女はその話題に触れないようにと俺のことを見て微笑んできたので俺は諦めることにすると、その日はそのままお開きとなったのである。
俺はこの世界に来る前に女神様に教えてもらった情報から俺が元々居た世界のことを思い出してその情報を照らし合わせてみることにする。するとその予想通りこの国では【神魔戦争】というものがありその時に、俺の世界と同じようなことがあったのではないかという仮説が俺の頭の中に浮かび上がってくるのだった。つまりこの国は魔王軍に滅ぼされてしまったということなのかもしれないと考えるとやはり俺はこの世界で生きるのは難しいのではないだろうかと感じてしまうのだった。
そしてそんなことを考えつつ眠りにつく。
朝起きてみると体の違和感を感じている自分に気づくことになる。昨日まであったはずの俺の下半身についていたものは今は存在せず、代わりにそこに存在するものが存在していた。俺は混乱しながらもとりあえずこの状態のままで居ることは良くないと考え、俺は服を着替えるとそのままレイシアの元へと行きこの体の異常について報告を行ったのである。
その話を聞いた彼女は俺の体に触り何かを確かめるように調べていた。
レイシアはその確認が終わったあと自分の部屋に戻るとしばらく戻ってこなかったため俺は心配になる。しかし数分後にその心配する必要はなかったらしくレイシアはすぐに戻ってきた。
レイシアの話を聞く限り、彼女はその力を使って今の状態を解決する方法を見つけたらしくすぐに俺のところに戻ってくると言っていた。そしてすぐに戻ってきたレイシアの顔はとても疲れているように見えたのである。そして俺はその事に気が付かないふりをして彼女に話しかけると、彼女は笑顔を見せてくれた。しかしその事が無理をしているのではないかと思い俺が心配していると、彼女は俺の事を優しく抱き寄せて自分の胸へと押し付けてくると俺は驚きのあまり思考が停止するのであった。
それからしばらくの間、俺はレイシアと二人きりの時間を過ごすことになったのである。そして俺はそんな時間が永遠に続けばよいと思ってしまっておりその時間を楽しんだのだった。その時に俺は、自分がこの世界に呼ばれた理由を思い出すとこれからどうするべきなのかと真剣に悩み始める。
そんな時に部屋の外からレイシアを呼ぶ声があったのでレイシアと一緒に外に出る。するとその声の主であるメイド長さんから、朝食を食べて体を休めたほうがよいというアドバイスをもらったのでレイシアの案に乗り食事を取るためにこの食堂まで案内された。俺はレイシアと共に席に着くとレイリア姉さんのほうに視線を向ける。そして彼女はなぜか頬を赤く染めて俺の方を見ていたのだった。そんな彼女の様子が気になっていた俺は何か言おうとすると、レイシアが急に俺の腕にしがみ付いてきたのである。
そして俺の意識は完全にそちらの方へ持って行かれてしまい、それ以上は何も聞くことができないままレイリアに挨拶を行うとすぐに食事を終わらせその場から離れるのだった。そんな俺たちをレイリア達は見つめていたのである。
それから俺はこの国にいるもう一人の住人に会うために部屋を出てその人の居場所を探し回る。その人物の部屋を見つけて部屋に入ると俺は彼女に声をかけた。
彼女の名前は【アリシア】という名前で年齢は十八歳、この城の侍女達を取り仕切っている存在であり俺が世話になることを頼んだ相手でもある。
俺はアリシアに俺の体のことを話すと彼女からは驚くべき事実が返ってきたのである。その話によるとレイリアとレイシアにはある呪いがかけられているというのだった。その呪は異性に抱かれると女性に変化してしまうというものらしいのだ。しかも一度女性になると二度と男性に戻ることはできないという話を聞くと俺は目の前が真っ暗になってしまい何も考えられない状況に陥るのだった。
それからレイシアは女性に変化するための儀式を行いその女性に俺は連れて行かれたのである。その場所は彼女の部屋の浴室だった。そしてそこで彼女は自らの手で俺のことを裸にするとそのまま俺の体に密着してきたのだった。その行動によって俺は我に返ることができたが俺の男性器は既に無くなっていて俺はただ受け入れるしかないと悟り覚悟を決めることにしたのである。しかし俺はこの行為を止めることをレイシアに提案すると意外な返事に俺は驚くことになった。
彼女はその提案を拒否した上に俺のことを受け入れてくれるとまで言ってくれたのである。俺はその時の彼女の気持ちが信じられず聞き返すが彼女は俺の言葉に肯定の返答を行ってくれる。その言葉を聞いて俺が彼女の顔を見つめて呆然としていると、レイシアがそっと口づけを交わしてきたのである。俺はそれに抵抗せずに身を任せてしまうと、そこからは夢見心地だったのかよく覚えていなかった。そのあとは彼女の指示に従って体中の隅々を調べられたのだった。そしてその結果分かったのが俺には二つの選択肢がありその選択を選ぶことができるというものだった。それは俺の能力を使ってレイシアにこの能力をかけることと、もうすでに変化していてもう手遅れの状態だから諦めるという二択だったのだ。
その話を聞いた俺が最初に取った行動は後者の方を選択することであった。それは俺自身としてはレイシアとずっと共に生きたいと思っているからであってそれ以外の理由は何も無いからだ。
それからは二人で今後のことを考えることになる。
そしてお互いの考えをまとめた結果俺はレイシアと結婚することを決めることにしたのである。レイシアに俺と結婚をして欲しいとお願いしたところレイシアは了承してくれたのでこれで晴れて俺とレイシアは夫婦になるということになったのである。その後で俺が彼女の名前を呼ぶことに違和感を感じてしまうのは仕方が無いことだと思ったのは言うまでもなかった。
その後、王都に行くと決まったのはいいのだがその前にしなければならないことが残っていたのだった。それは、俺のステータスを鑑定することだった。俺の持っている能力をしっかりと確認しておきたかったからである。俺がそのことについて頼むとレイリアは快く引き受けてくれた。
俺がこの世界に来る前の最後の記憶は会社に出勤している時のものでそれ以降の記憶は一切残っていなかったのだ。そのため自分の力を把握していないというのが一番の問題だと思ったのだ。そして俺はこの国に来た時から持っていたスマホを王に渡した。
俺はその時に少し嫌な予感がしていたがそれが見事に的中することになるとはこの時の俺は知る由も無かった。その王の表情を見た瞬間俺は自分の身に危険が迫っているのではないかと思ったが、俺にはまだ逃げるという道が残されていたので俺はいつでも動けるように心構えをしていたのである。だがその心配はすぐに無駄なものになるのだった。
俺は王にスマホを手渡してから数十分が経ちやっとスマホが返ってきたので俺も安心してそれを自分のポケットに入れる。それからは王の話が始まるのかと思っていたが彼は特に話をすることもなく俺の事をしばらく見ているだけだった。俺はどうして王がそんな行動を取っているのか分からなかったがしばらくすると王は立ち上がってどこかに歩いていく。俺はその背中を追いかけると突然後ろを振り向かれて俺は驚いていると、いきなり頭を撫でられ始めてしまい混乱してしまった。そんな俺を見て王は笑うとそのままこの場から離れていってしまう。一体俺が何をしたのかわからない。そして俺の心の中ではどうして王がこのような事を行ったのか全く理解できないでいた。俺は仕方なくレイシアの元へと戻ることにする。しかしそこには誰もいなかったため俺は不安になりながら探し回った。そして俺はようやくレイシアを見つけることができたのだが彼女は他の人と話しているところだったので俺は黙って待つことにしたのだ、それから数分ほど話が続いた後ようやくレイシアがこちらに向かってきてくれた。しかしなぜか彼女は頬を赤らめていて俺の方を見ると慌てて目をそらしてしまったのだ。俺はなぜそうなったのかはわからなかったもののレイシアは先ほどまでの話の内容を詳しく教えてくれたのである。その話の中でわかったことは彼女がレイアであること、レイシアが実は王女だということだった。
俺がその話の内容を聞くとその事実が信じられなくなり、自分の中に湧いてくる疑問について質問を行うと彼女はその答えを教えてくれていた。
その話はレイシアが本当はレイシアではないのではないかということで、レイシアはその呪いの影響で男から女に変化してしまっていたがレイシア自体は元々女性だったというのである。そんな話をされた俺は驚きながらもこの城の中に男性が居るはずがないのにと納得する。さらに彼女は俺のスキルをコピーできると言った時に俺はこの城を出るという決断をする。その理由はもちろん自分が元居た世界に帰るためでありレイシアをこのまま一人にする訳にはいかないと感じたのである。その旨を彼女に伝えると彼女は涙を流して俺の事を強く抱きしめる。
俺もその事に答えるように強く彼女を包み込むと二人はしばらくの間離れようとしなかった。しかし俺はそんな時間がずっと続くわけはなく俺はこの国を離れなければならなくなってしまったのである。
俺達が王城を去ろうとする際に俺達は王に呼び止められたのだった。その要件を聞いた俺は、レイシアと二人きりになりたいと彼女に告げてその要求を承諾させることに成功する。
それからは二人っきりの時間を過ごしており、俺はレイシアに俺がこれからどうすればいいかなどを聞きたいことがあったがその時間は長くは続かなかった。なぜならそこに現れたメイド長さんに呼び出されたため俺はその話を聞くためにその場所へと向かうのだった。
その部屋で待っていた人物は、俺をこの国に呼び寄せてくれた人物であり、俺に新しい力をくれた人である。
そして俺とメイド長さんの二人が話を始める。その話の流れでメイド長さんからある頼みを頼まれることになった。その依頼内容は、レイシアをレイシアではなく普通の少女として生きさせるために彼女のことをこの国で引き取って欲しいということだった。
俺はその言葉に耳を疑うと彼女は詳しい説明をしてくれた。その話が事実なのかを確かめるために俺は、その証拠を見せて欲しいと申し出る。
そうして彼女の案内の元その証明が行われることになるのだった。
メイド長に連れられてやって来た場所は、城内の一室でその部屋に入った時に俺はすぐに何かが起きているということに気づくのだった。部屋の中は異常なまでに荒らされていて壁などには大きな穴や刃物などで傷つけられてしまっている。
俺はそんな部屋に唖然としているとそこでメイド長はレイシアにこの部屋の中を見てもらうよう頼んだのである。彼女はその要望に従い部屋の様子を見てみるとその場で崩れ落ちて泣き出してしまう。そんな彼女を見て俺はすぐに駆け寄り声をかけようとすると彼女は俺のことを優しく抱きしめてくるのだった。そしてレイシアは自分のことを俺に打ち明けてきたのである。
彼女の話を聞く限りでは元々この城の人間だったこと、この国の王族の一員であったことなどを俺に聞かせてくれる。その事実を聞かされてしまった俺はレイシアに対してどのように接したら良いかわからなくなってしまう。そして彼女はその事を打ち明けた後は静かに涙を流すのであった。俺は彼女の肩に手を乗せることくらいしかできずにいると俺の手が震えていたことに気がついたのだった。そして俺が手を震わせていることに気がついてしまったレイシアは再び俺のことを抱き寄せると俺はレイシアのことを守りたいという強い気持ちが生まれるのを感じる。
そしてその感情は彼女も同じだったようで俺に抱きつくと彼女の体は熱くなり俺はそれを感じて自分の体が疼いているのを感じた。俺達の間にはこの世界に来て以来お互いの肌を重ね合わせたことが無かったが、俺達の心はすでに繋がっているような感じがしていたのである。
それからしばらく俺達は互いのことだけを見つめ続けていたのだった。しかしそこでふと俺の目に飛び込んできたものがある。その目に入ってきたものそれは彼女の服だったのだ、俺は今まで彼女の服を着ている状態を見ていたため違和感はあったもののそれほど気にはならなかったのだが、その格好が裸に近い状態で彼女の美しい身体を晒していることによって彼女のことを襲ってしまいそうになるのを感じ俺は自分の欲望をどうにか抑えることに成功するのである。
レイシアはそんな俺に気がついてないのかまだ泣いていて俺はそっと彼女から離れてその涙を止めようとするが全くと言っていいほど効果がなかった。俺は彼女のそばから離れると落ち着くまでの間彼女の横に座って待つことにした。
しばらくしてレイシアが落ち着いくとその時に部屋の扉が開かれる。するとそこには国王がいたのである。俺は彼の方を見ると俺は急いで頭を下げて謝罪の言葉を述べる。
「本当にすまない」王はそう言い俺の方に近寄ってくるがその途中で俺は何者かによって拘束される、すると目の前にいた王は消え去り俺はその場にいた全員から敵意のようなものを感じてしまう。そんな中レイシアだけが悲しそうな顔をしてその光景を眺めているだけで俺は自分の行動に疑問を抱いてしまう。なぜこんなことになっているのか分からないが今この状況で俺が出来ることはただ一つ、ここから逃げ出すことだと思った俺はその場から立ち上がろうとするが手足が固定されているため身動きを取ることができなかったのである。するとそんな状態の俺に近づいてくる人物が一人、それはこの城の兵士であり俺を連行しようとしてくる。しかしその時俺を助けに来ようとしていたのであろう。
だがそんな彼女の腕は別の人物の手によって抑えられてしまう。その腕の主はレイシアでありその目からは涙が流れて止まらなかった。
その瞳を見た兵士はすぐに俺を解放する。そして彼女は兵士達に向けてレイシアの命令だと言い放ったのだ。そんな出来事を見ていた俺はまだ何が起きていたのか把握しきれておらず混乱してしまっていた。俺はとりあえずこの場から離れないとまずいと判断しなんとかこの場から抜け出そうとするが俺の力だけではどうしても無理だった。
そして俺はレイシアが兵士に向かって話しかけると彼らはそのまま立ち去ってしまう。その後レイシアは俺に歩み寄ると突然俺を抱きしめてくる。俺がその突然の出来事に対応できず固まってしまうと、レイシアは先ほどまでの態度とは一変し俺に対してとても優しげな態度を取っていた。
俺はその姿を見た時になぜか懐かしさというのを感じていた。その理由を考えるが俺には見当もつかなかったが何故か俺はその温もりがずっと続けばいいのにと思ってしまったのである。それから彼女は俺に謝ってきたが、俺としては別に悪いことなど何もされていないと思っていた。そのためなぜレイシアの方が謝っているのか理解ができなかったのだ。そして彼女がこの城に戻ってきた理由を話してくれた。その話によるとこの国は今危険な状態であると彼女は言っていた。その話を聞いて俺は一体どんな状況になっているのか聞こうと口を開く前に俺を縛っていた鎖のような物が外されていた。しかし俺はそのことに不思議に思ってしまう。そして俺の事をこの部屋まで案内してくれた女性が俺達に一通の手紙を手渡してきたのだった。その内容は俺がユミル王国に来た時から既に用意されていたもので、俺達がこれから向かう場所に書かれていた手紙だった。そしてその手紙を読み終えた後レイシアはその事を王に知らせると言い出すが、俺はそれを制止させた。その理由はレイシア一人で王の元へ向かわせるより俺が一緒に付いて行った方が確実だろうと判断したからである。
俺はそのことをレイシアに話すと彼女は渋々承諾してくれ、二人で王のところに向かうのだった。その移動の最中でレイシアは先ほどの行動について俺に尋ねてくるが俺にもなぜあの時あんな行動をしたのか全く分からず、むしろこちらが教えて欲しいというぐらいなのだ。俺は自分の中の何かに引き寄せられたというのが本音であるとレイシアに言うと彼女は何かを思い出したかのように俺の事を見つめていた。
それから俺達は王が居る部屋へと辿り着きその部屋に入ろうとした瞬間に一人のメイドがこちらに向かって駆けてくる。しかしそのメイドは明らかに様子がおかしくまるでこの城の者達とは違う気配を感じたため警戒する俺。そんな様子を見ていたレイシアはそのメイドの方に近づくと、メイドは何やらレイシアに用事があるらしく彼女を引き留めていたのだ、俺はその様子を黙ってみていたがメイドとレイシアの話に割って入ろうとする、しかしそんな時にそのメイドの顔つきが変わったので危険を察知したが、その時にはすでに遅くその女性に俺は拘束されてしまうのだった。
俺はその女性から逃れようと力ずくで振り解こうとするが相手の女性は一向に離れることはなかった。その女性はそのままどこかへ行こうとしていたが俺は引き止めようとすると急に意識が薄れ始める。
そんな俺の異変に気づいていたレイシアは俺に何かしようとしていたが俺にはその行為に答えることができずそのまま気を失ってしまったのである。それから俺は気が付くとそこは俺が目を覚ました場所で、辺りを見渡すとそこにレイシアの姿は無かった。それからしばらくして部屋に誰かが入ってくるのが分かりそちらの方に視線を向ける。その部屋にやってきたのはこの国の領主であるランスロット様だった。彼はこの国の騎士であるようでかなり強くその実力も高いらしい。彼が俺に近づいてくると彼は俺の体をチェックして俺のことを調べ上げてくるのだが俺はそこで一つの疑問を抱いていた。
それはどうしてこの男はこんなことをして来たのかということである。この男の様子から察するにこの男がこの城の者ではないことは明らかなのである。それに俺のことを調べたと言うわりには全く手掛かりがなく、この国に元々いる人達の情報は簡単に手に入るというのに、なぜかこの男に関する情報は驚くほど入手できない。俺は目の前の男のことがよくわからないのだった。そしてその男が最後に言い放った言葉、
「君は、私達と同じ人種の人間ですね」
その一言が俺の頭に引っかかっていたのである。俺が人間でないはずがない、しかし俺がそう思う根拠というのは今までの生活をしてきた上で自分が人間であるということしか無い。俺が戸惑った表情をしているのがわかったのかランスロットさんはそんなことを言ってからこの部屋の窓から外を見渡していた。
俺は自分のことについていろいろと考えてみたがやはり自分のことを普通の人間だという確信を持てるのである。そしてそれからしばらくしてから俺を部屋に運んできた人物とこの部屋にやってくると俺はその人物が先ほど俺のことを連れ去った女だったことに驚きながらも、俺はすぐに起き上がるとその人物は俺のことを睨んでくるのである。俺はこの女のことが嫌いだとはっきりと感じた。
その感情を露わにしていると突然扉が開かれてその奥に立っていたのは先ほどレイシアと話していた女性と王様がいたのである。俺はその場で頭を下げると二人はこちらに歩み寄ってくる。そこでふと先程まで俺と話をしていた男の姿が見えないことに気付きあたりを見回すと窓辺で一人立っているのが確認できた。その男はなぜかその窓から見える風景をじっと見つめているのである。俺は少し気になったが今はそれよりも重要なことがあると考えその男を放念することにしてレイシア達を見る。そこで彼女は俺に微笑みかけるとこの国の状況を説明してくれるのだった。その話の内容をまとめると俺達の目的を果たすためにはこの国から出る必要があるとのこと、その方法はどうすれば良いのかと考えていたがそんなことを考えている暇はない、俺はすぐに立ち上がりその場から退室しようとしたのだがそれは叶わず俺はまたしても彼女によって止められてしまった。しかし今回はレイシアも必死だったようで彼女を俺が強引に引き離しどうにかして俺は部屋を出ることができたのだった。しかし、外に出たとしてもこの国の現状を考えるとどこから出ればいいのかが問題になる。
しかし、レイシアはその事についてもちゃんと考えていたようでこの城を案内してもらうことにしたのだ。そして俺達は彼女の指示に従ってその場所に向かう。そこにはこの城の門がありそこを通ってこの城から出ていこうとしていた。
そして俺達が城の外へと出てこようとしたその時、その光景を遠くから見ていた人物が俺達の前に立ちふさがるように現れて俺達は身構える、俺達が現れたその男の方を向き、その姿を見て俺達は息を飲むのである。
「やっとお目覚めか」
その人は『悪魔』を身に纏い俺に話しかけてきたのである。その姿を見た俺は思わず声を出そうとするがその直前にレイシアがその人のことを知っているような反応を見せる。
「お前は何者なんだ!」
「俺の名前を知らないとは随分と舐められたものだ」その人はそういうとその姿を徐々に変化させて行き最後には俺が良く知っている姿に変化したのである。その光景を俺だけでなくレイシアまでもが驚いていたのである。そしてその人が口を開くとそこからは聞き慣れたその声で話を始めたのである。
俺はその光景を目にしてからすぐにレイシアを後ろに下げて剣を構える。そして俺達の前には見知った顔をした人物が立っており俺に対して話を始めようとする。その人物がなぜ俺の目の前にいるのか理解できなかったがとりあえず相手はこちらの事情なんて考えてくれないみたいだった。だからこちらも相手に質問をぶつけてみることにした。
「どうしてあなたがいるんだ?どうしてレイシアと一緒にいる?」「俺の居場所が分かったならなぜ会いに来てくれなかったんだ?」
そんな事を言われたが俺がそんな場所に行った記憶はないので正直困ってしまう。すると、
「そんな事はいいだろ、とりあえず今から殺し合うのに無駄なことをする時間は無いはずだ。俺だってあんまり時間をかけすぎると怒られちまうし、早く始めようぜ」そう言うとその人の姿は再び変化していきその姿は完全にあの『魔人』へと変わる。その姿を見て俺は警戒を高める。
「なんの目的でここに現れたんだ!俺に一体何をするつもりなんだよ!!」
俺がそう叫ぶと相手はニヤリと笑いそして、この場にいた全員が俺が見たことも感じたことも無い感覚に襲われた。俺はそれに耐えられずその場に膝を付く。俺はなんとか顔を上げると、相手の方はもう攻撃を開始しており俺に対して拳を振り下ろすところだった。俺がなんとかそれを受け止めるとその衝撃が全身を駆け巡る。
その攻撃を止めた瞬間俺はこの場で戦いが始まってしまう。そして、俺に襲ってきた攻撃の正体は単純なものであった。しかしそれでも今の俺にとっては強大過ぎる一撃でありその威力は俺を遥かに凌駕しているように思えた。そんな事を考えていると相手が俺に蹴りを入れてくる。その攻撃を受けた俺は後方に飛ばされてしまい地面を大きくえぐる。
しかしそんな攻撃を受けても俺は諦めずに再び立ち上がり、相手の方を見ると奴はまだ攻撃を仕掛けてくるつもりなのかすでに次の行動に移していた。
俺は急いで回避行動を取ろうとする。その瞬間には俺は壁に叩きつけられていた。
「ぐはっ!!?」俺はあまりの攻撃に血反吐を吐き出すと同時に地面に倒れ込んでしまったのだ。
「おい、こんなところで倒れるんじゃねえぞ!!!まだまだ俺の遊びはこれからだぞ!!!」
その言葉を聞いた直後俺は立ち上がる、ここで止まるわけにはいかないと自分に言い聞かせる。それから何度も何度も俺はそいつと戦い続けそのたびにダメージを受けていく。その戦闘はレイシアが止めに来るまで続いたのである。しかしそんなことをしていてもこの男をこの城に入れることはできなかったのだ。
「はぁはぁ、はあ」
俺は荒くなった呼吸を整える。そして俺は自分の体が限界を迎えていることに気づく、しかしこれ以上の戦闘を続けるのは危険であると判断した。
しかし、俺に休息の時間など与えては貰えずこの部屋にレイシアが現れ、俺の肩に手を置くとレイシアは俺が戦う意志があるかどうかを聞いてくる、しかし俺が答えを言う前に俺はレイシアの手を掴んで制止する、俺はその行為を止めさせたのだ。レイシアはその行為の意味を察してくれたのかそれ以上は聞いてこなかった。俺は彼女に礼を言ったあとに俺の目の前に立つ人物を睨み付ける。
「俺を殺しに来たのか?」俺はそんな質問をしてみると男は、首を横に振り、俺を殺すことが目的ではないと言ってくるのだった。そして男は、俺に頼みたいことがあるからこうしてここまでやってきたのだということを告げるのである。しかし俺はこいつのことを信頼することができないのでこの男の話を聞く気にもならなかった。
俺が警戒心を解く様子がない事に気がついたのかこの男はため息をつくと、
「そうかよ。ならお前は用済みになったようだな。じゃあさっさと殺させてもらうことにするか、それが一番効率的だしな、まあお前はそこで見ていろ」と言いながら指先から黒い炎を出してそれを操り始めた。その炎はやがて巨大な火柱になり、部屋の中に燃え広がっていく、
「これは俺の能力でな、簡単にいえばこれで焼き尽くすことができるってことだ。その程度の力しかないけど俺の力だけで十分にこの国ごと破壊できるから安心しろ」
そういわれ俺はすぐにその言葉が真実であることを悟った。しかしそれと同時にこの男の目的が何なのかを理解するのである。おそらくこの男の目的はこの国の破壊であるのだと、だが俺はこの国の王様を殺されてしまうのはとても不味いと思った。なので俺は、この部屋が破壊されないようにとすぐに魔法を行使した。しかし、
「おっとそれは無理だぜ、俺はどんな能力でも相殺してしまう能力を持ち合わせているんでね。だから俺にその手は通用しない。そもそも俺を倒す手段がないお前ら如きが俺に挑むこと自体が間違っているんだがそんなことはわかっていたはずだろう?だからお前らに俺は倒せない、俺の目的がこの国に危害を加える事だとは考えつかなかったのか?」そんなことを言うのだった。俺はその話を黙って聞くしかなかった。なぜならこの男はレイシアの事も知ってるような口調だったので、俺はレイシアを守ることができなかったのだ。しかしそこで意外な事が起きる。突然俺の体に痛みが走りそしてレイシアの方を見てみるとレイシアはその男の方に歩いて行き何かを言っていたのだ。その言葉がどういう意味なのか分からなかったが俺の事を守っているようであった。そして、レイシアは男の方をまっすぐに見据えているのである。その表情をみてレイシアが男に対して何かを仕掛けたことがわかった。しかしレイシアの事を俺は信じるしかできない、そしてレイシアの方を見ているとその体からは眩い光が発せられていたのである。そしてその直後男は叫び出した。その男が苦しみ出す様子にレイシアはさらに何かをしている。そのレイシアの行動に俺が呆然としているとその男はついに動き出し俺に向かって攻撃を始めたのである。俺は咄嵯のことに反応できず攻撃を食らいその場に倒れ込む、しかしその直前に俺は意識を失いかけるもどうにかその攻撃を耐えてその場に立ち続けたのである。するとレイシアの方はもう終わりましたと言ってこちらを向く、するとレイシアの後ろからその声が聞こえた。
「おい、なんで俺の事を気絶させるんだよ。せっかく楽しめそうだっていうのによくわからないタイミングではめやがったなお前、というよりあいつがやったのか?」そう言われ俺達はその方向に視線を向けるとそこには『堕天モード』になっていたはずのあの謎の少年がそこに立っていたのである。俺達はその姿を見たとき、本当に彼が俺達の知っている『あの』『アスタロス』だと確信したのである。しかし彼の雰囲気は俺が今まで会ってきた誰とも違っており俺は戸惑う。そのせいで俺はレイシアが俺に声をかけてくれた時にその呼びかけに応じることができなくなってしまったのである。
そして、この場で起きている出来事に俺は混乱しているとその少年はレイシアの事を見ると驚いたような反応をする。すると、彼は急に俺達に攻撃を仕掛けて来た。その攻撃が直撃しそうな時俺はなんとかそれを食い止める。
レイシアの方はなぜかこの少年のことを知っているようなのである。しかし彼女はこの少年のことについてあまり知らないみたいな態度を取っていたのだった。俺もそのレイシアの言葉を気にしてはいたのだが、どうすることもできない状況が続いていた。そして少年の攻撃を防ぐことができたのも束の間、今度は背後から攻撃されてしまうのだった。その攻撃を受けた俺はすぐに態勢を整えようとしたのだがすでにその時遅く、俺の後ろに回り込んだレイシアと俺を攻撃してきた少年によって俺は追い詰められる。俺がまずいと思おうとした瞬間にレイシアが、俺に語りかけてくるのだった。
「お久ぶりですね。アスタさん。まさかここであなたと再会することになるとは私自身も思っていませんでした。私はあなたが無事かどうかを確認するためにここまで来たのです。それにしてもあなたが私の事をご存じでないのには少し驚いてしまいます。私があなたと一緒にいた期間はそんなに長くはないとはいえあなたは私を助けてくださったりしましたよね」とレイは言うと俺の顔を見ながら笑みを浮かべて言う。その笑顔があまりに美しく俺の心臓は大きく鼓動してしまい俺の心の中で何が起きようとしている。俺はそんな気持ちを抑えると俺はレイに、なぜこの俺が君を救わなければならないのかを聞いてみる。その答えはすぐに返ってくることはなかったのだった。
するとその会話の最中でレイは俺の背後に移動してくるとその俺を襲ってきていた相手を蹴り飛ばしていた。そして、その蹴りの威力はかなりのものになっており相手の体を貫いていた。レイは、俺に大丈夫ですかと言ってくれると俺の側にまで来てくれる。俺はそのレイの優しさに甘えてしまったのだった。
「なんで、なんでなんでお前がここに居るんだよ。
しかもなんでお前がここに居てこの世界の住人になってんだよ、お前にいったはずだろ、この世界の奴らは全員俺が始末するんだってよ!!なんでここにお前がいるんだよ。
それにお前俺との記憶は失ってなかったんだろ。なのになんで最初に会った時のことを覚えてねえんだ。
おかしいだろ」その言葉を聞いた瞬間俺はあることに気づく、
「そう言えば君は俺のことを名前でしか呼んでいないじゃないか、その呼び方じゃなくいつものように俺の名前を『旦那様』と呼ぶべきじゃないのか」
その言葉を俺が口にした瞬間に、俺は自分の胸の奥底で疼いている感情の正体を理解してしまいそれを抑えようとする。
そしてそんなことを言い出してしまった俺を、レイはその言葉で理解したらしく顔を赤面させてしまう。そんな様子を見た少年が、俺達に対して話しかけてくる。
「なるほどそういうことだったか、お前がその女を手放さない理由がやっとわかった。
しかし俺からすればそれは邪魔でしかない、だから俺がその女の事を奪う、その女さえ奪ってしまえば俺はまた一人になってしまう。だからお前を殺してからその女を連れて行こう」と少年は言う。そしてその言葉通りレイシアの事がその男の攻撃で奪われそうになる、 しかしそこで俺がその攻撃を阻止しようとした。しかし、俺は簡単に吹き飛ばされ壁に叩きつけられる。レイシアは、
「もう止めてください、これ以上あなたに人を殺させない」と言う。レイシアは自分が犠牲になることを選び、この少年に殺させようとするが、そのレイシアの行動に、少年の様子が明らかにおかしくなった。その異変に俺は気がつき、その変化を見逃さなかった。
「なんなんだよこいつ。ふざけやがって。俺はただ俺のやりたいようにやりに来ただけだ、そのためにこんなところにやって来たのにお前が余計なことをするんじゃない!!」
そんなことを言っている少年にレイシアがさらに説得を続けると
「俺にお前の願いを聞けってのか、そんなもん知るかよ、俺はお前を殺すって決めてるからお前の頼みは聞かないぞ」と少年がそう言った瞬間俺はレイシアの方に向かって走っていた、そして俺は少年に向かって拳を振りかざしていた。
「俺の前で、二度と、俺の女を傷つけるのは、許さん」その言葉と同時にレイシアに向かって攻撃を加えようとしていた、その男の顔面に向かって全力の一撃をくらわせる。
「くっ」その男はレイシアの事を庇い、攻撃を受けてそのまま吹き飛ぶ、俺は追撃しようと試みるも相手はすでに体勢を立て直しており反撃を喰らってしまった。
その攻撃は、かなり強力なもので、かなりのダメージを受けてしまう、 だがそれでも俺の心に灯っている炎が消えない限り俺は諦めたりはしない、その決意が俺を戦いに挑ませ続けていたのだ。しかし、そこで俺の体に異変が起きる、俺が立っていることができなくなったのだ。
そして俺の意識も途切れていくのであった。俺はこのままではいけないと思い必死に起き上がろうとするが体がいうことを聞きやしなかったのだ。しかしそこでレイシアの悲鳴が聞こえ俺はそのレイシアが俺の方を心配するように俺に向かって駆け寄り声をかけてくれている様子を感じ取り俺はどうにか気力を持ち直そうと心がける、そしてどうにかその声に俺は応える。
「レイシア俺は君のために絶対に負けられない。俺が君を守って見せる、だからもう少しだけ時間をくれないか?」とレイシアに向けて俺は話す。するとそのレイシアは何かを言いかけてすぐにその口を閉じて俺に近づいてきた。
そしてレイシアが、 俺に近寄ってくる、するとレイシアの方を見ていた俺は、彼女の顔に血が付いているのが見えたのである。それは俺の血だと思われる。そしてレイシアは俺をそっと抱きしめてくれた。するとそこで俺が倒れ込んでいる地面が揺れ始めそれが次第に強くなっていくのを感じたのである。その事に嫌な予感を覚えた俺はその地震の発生源である場所を見る。そして俺はその目で見てしまって愕然としてしまう、そこにはとんでもない化け物が出現を始めていたのである。その怪物の姿は今まで見たことのない生物であり、その姿に俺は驚愕するしかなかった。その光景に俺は絶句していると、 レイシアの方も驚き戸惑っていた、
「あれはこの世界を破滅に導くための『魔王の種子』の力を使って生まれた魔物です。どうしてこのような事態が起きたのか私にもわかりません。とりあえずあなただけはなんとしてでも守って見せます」とレイシアは自分のことを囮にしようとしている様子だったが俺にはどうしてもそれを許容することができない、どうにかしてこの状況を変えないといけないと俺は思いレイシアに話してみる。
「レイシア頼む俺の事なんて気にせずに逃げてくれ。俺のせいで君を巻き込んでしまうのは耐え切れない。俺が君を守るんだから、俺はもう君を失いたくないんだよ」俺はそう言いレイシアを抱きかかえると俺は走り出したのである。するとレイシアは「そんなことはダメですよ、私と一緒に居てもろくなことにはなりません、お願いだから逃げて」と俺の腕の中で言う、 そんなことを言う彼女に俺は「君と一緒に居ることで俺が得られるものこそが本当の幸せなんだよ、君がいなくなることに比べたら俺はどんな困難でも立ち向かってやるさ」
俺はそういうとレイシアの手を引きながらその場から離れようとした、しかしそんな時俺は地面に転んでしまったのである。俺はレイシアに大丈夫だと伝えようとすると彼女はそんな俺に微笑みかけてくれた、そのレイシアの様子に思わず俺は見とれてしまいレイシアの方に手を差し伸べようとしたがそこで俺は違和感を覚える、レイシアの顔が少しばかり赤くなっていたのを俺は目にしたのである。俺は慌ててそのことについて尋ねると彼女はこう言ってくれた。
「その恥ずかしいのであまりこちらを見ないでください。その今の私は、少しおかしくなっていますから、その今私はアスタさんのことを考えると胸がドキドキしてどうしようもなく苦しくなるんです。こんな感情は私にはとても信じられなくて、そのせいであなたの事をもっと感じたくて仕方がないんですよ」
俺はそのレイシアの言葉を聞いて胸の奥からこみ上げてくるものがあるのを感じていた。俺もその気持ちにつられて顔が赤くなっているだろう、そんな俺たちの所にその巨大な化け物が現れてくる、その大きな腕は俺達をなぎ払おうとしていたのだった。俺はすぐにレイシアのことを抱き寄せると、レイシアのことを庇うようにして俺の後ろに下がらせると攻撃に備えるために態勢を整えようとした。しかしその攻撃に対しての俺達の方に突然何者かが現れると手に持った槍のような物を投擲した。その攻撃によりその怪物の攻撃は相殺されて消滅してしまった。
俺達の前に現れたのは俺に良く似た容姿をしている青年だった。その人物がこの世界に居るはずのない俺のよく知る人物であった。そしてその人物は「間に合ってよかったぜ。俺は『大賢者』にして最強の存在『破壊者』でもあるこの俺、『大魔王』が一人『魔皇王』ベルゼバブ様がお助けに参ったぞ」と言い放った。
そして彼は続けて、「しかし驚いたぞ、この世界でお前とこうして会うことになるとはな」と話しかけてくる。俺はこの人物に話しかけようと思ったがまずはその前にこの場を切り抜けなければならないと、 俺はレイシアを背にかばい、レイシアがその背中に抱きついてきてくれる、そのレイシアの温もりが伝わってきて俺は嬉しさを感じつつ俺達は戦闘準備を始めるのだった。
俺は『聖杯』と『賢者の石』を使い『ルシファー』を完全に制御することができるようになっていた。その『聖杯』の力で『勇者』に力を貸すことになった俺はこれからの事を考えておかなければいけなくなった。俺の目的は世界を滅ぼすことだからだ。
そのため俺は自分の計画を実行するための行動を開始しようとしていた。
しかしそんな時に『大魔女』こと『マモン』の使いである少年『レビィ=ロレングナク』、『悪魔伯爵の執事長』『ソロモンの72柱』の一人である序列44位の『グレモリオ侯爵』こと、その『魔神公爵サタンバフォメット(堕天魔王)』である。その2人がこの城に現れたのであった。その二人が現れたのは俺が召喚される前からすでにいたらしい。そして彼らはその二人の目的について俺に話し始めた。その目的は魔王と化したレイシアを元の世界に連れて帰すことにあるようだ。そしてそのためにレイシアを連れ戻すことを承諾してほしいと言ってくる。俺としては別にそれはかまわないと思う、だがその事に対するデメリットが俺に襲いかかってきた。それは、
「いいだろう。だがそれでは、この国の奴らが黙ってないだろう」俺はその言葉を彼らに告げる。すると『悪魔将軍』は、俺にこの国の現状についての情報を語って来た。
この国にレイシアを返せばおそらく俺の命を狙って来る。そんなことがあればせっかくここまで作り上げたレイシアとの幸せな時間が壊されてしまう可能性がある。それにこの世界の者達にレイシアを渡す気など毛頭なかったのだ。だからこそレイシアの事を連れて行くという行為自体がリスクが高すぎるのである。そう考えるとレイシアが俺と一緒にいることを選んでくれる可能性はゼロに等しい。
俺の予想通り彼女はこの城に残ってくれることになった。その事に俺は内心ほっとしてしまう。
そんなわけもあって俺はここでの戦いが終わったらレイシアと一緒に旅に出ようとしていたのである。
俺達が城の外に出てみるとそこには『勇者パーティ』や『ダスターン王国』、『シンドゥラ王国』の国王や兵士達がいた。俺達がその事に気が付き、警戒するとそこで一人の男が俺に話しかけて来た。
「お前か俺の国の兵士を殺しやがったやつは」その男は俺に向かって怒りをぶつけるように言ってくる。
その男の服装を見ると俺に良く似た雰囲気の服を着ていたのだ。
俺はそこでその男を俺が作り出したキャラクターの一人ではないかと予測し、そのことをその男の質問に答える代わりに確認するために問いかけることにした。
「お前は、もしかして俺のキャラクターなのか?」
俺がそう問い詰めるとその男は「ああ、俺の名前は、魔王『サタン=ベヒモス』、この世界で俺が最強の存在だよ」と答えてくれる。
俺はその答えを聞くと、俺が作り出したキャラクターが魔王に進化していたという事実に驚かされたのである。そしてそれと同時に俺と同じような存在であることが確定したことに少しだけ喜びを感じられたのであった。
そしてその男は、魔王と名乗った後に「それで、どうしてお前はこの世界を救おうとしないんだ? 俺ならこいつらを殺さずに無力化させる事ができるのに」と問いかけてくる。その発言からその男の性格の善良さを俺は感じ取ることができたのである。
その言葉に対して俺はすぐに反論する、確かに俺の力ならばこの国を滅ぼすことができる。ただ俺はそれをするつもりはないだけだと説明する。
すると俺の言葉に対して、目の前にいる男が急に吹き出した。そして笑いながらこう話し始める。「面白い、そんなに俺のことが恐ろしく見えるのか?」と、その言葉を受けて俺の中で警戒レベルが一気に上昇し始めていた、そんなときである。もう一人の方の存在が、その俺の考えを否定してくれた。
「違うのよ。私があなたに言いたいのは、この人達を殺す必要が無いんじゃないかということなのよ。だってあなたにはこんな風に私を救い出しに来てくれているじゃない、私はそれが嬉しかったわ。あなたのおかげで今の私は、私のままでいられているのだから」
彼女は優しい声で俺に向けて話すと俺の事を抱きしめて「本当にありがとう」と言ってくれた。俺は彼女の温もりを感じることで俺は、彼女に恋をしたような気持ちになって、胸の中にあった暗い闇が取り除かれるような思いを抱く。しかし俺はレイシアと俺の今後を考えなければいけないと考え直すと彼女に別れを告げようと、レイシアの方へと手を伸ばすと彼女は俺のことを抱きしめたまま離そうとしなかった。俺は、彼女を連れていくことはできないと言うとレイシアは「わかっています。ですけどせめて最後にこれだけは許して下さい。アスタさんが大好きです」という言葉を耳にする。そしてその直後唇に暖かい何かを感じた、その暖かさを味わっていると俺の中の不安感などが消えてなくなっていたのである。そしてレイシアは、俺から手を放してくれる。するとレイシアが俺の方を見つめて「必ずまた会いに行きます」といってくれたので俺は、「俺もまた会えると信じてる」と返したのである。
そんな俺たちの様子を見守っていた魔王を名乗る人物は、「感動の再会に水を差すようで悪いんだけどそろそろいいか」と言い出してくる。そんな様子に俺は苛立ちを覚えると俺の体の中に存在する『ルシファー』の力が俺の心の中から溢れ出して行く、俺が放つ圧力にその男は「そんな馬鹿な。俺は魔王の中でも最強なんだぞ」とつぶやくとその男に攻撃を仕掛けてきたのであった。そして戦いが始まったのだがその攻撃を見ていて俺は魔王の強さというものを理解する。
俺とレイシアを襲った『悪魔公爵ベリアル(堕天使魔王)』よりもこの男の方が強い。その事が俺には分かると、この場で戦っても俺に分がないと判断したため一度引こうと俺は判断したのである。俺は魔王から距離を取り転移魔法を使ってその場から離れることにした。しかし次の瞬間魔王が消えたのであった。その現象を目にして俺はすぐにその事を確かめようとして魔王を探そうとする。しかしその姿はどこにもなかったのであった。
(くそ。なんであの野郎が消えることができたんだ。そんなことが出来るはずがないはずだ。まさかあれは俺と同じ転生した者だとでもいうのか。それともこの世界に存在しないはずのアイテムを持っていたり、俺が召喚したキャラクターの誰かだと考えるしかないが一体だれなんだ。そんなことを思っていてもしょうがないか。しかし今のままじゃこの国は危険だ、それに俺の計画の障害となる可能性もある、ここはいったん引くか)
俺はそのように結論付け、一旦魔王については諦める事にしたのであった。そして、今現在俺達は『聖杯』の力で手に入れた能力を使用して『大悪魔ルシファー』を完全に支配することができるようになっていた。それによって俺は『聖杯』を起動させることにより俺の中に眠っていた能力を使用することができるようになっていた。俺はその『大悪魔ルシファー』を完全に掌握することに成功したのである。そして『大魔王』である『ベルゼバブ』と共に魔王軍を復活させることに成功した。
それから『ベルゼバブ』は、『大魔王』としての責務を果たすために俺とレイシアと離れていったのであった。
そしてレイシアと二人で『ルシファー』と『アスモデウス』の能力を使い、『勇者』と『ダスターン王国』の兵士全員と国王の意識を奪うことに成功する。その後、レイシアと『大魔王』は、『ルシファー』の力を利用して自分の姿を偽ったのであった。
そんなわけもあって俺達二人は今、俺の作りあげたキャラクターと初めて会うためにある場所へ向かっていた。そこは『勇者』であるリリス=アーレスが暮らす街であり、俺が初めて訪れた町である『シンドゥラ王国』の王都でもある。そこで『賢者の石』の力で『悪魔公』の最上位に位置する爵位『魔侯伯爵』となった『バエル』と対面することにしているのだ。この世界では俺は、魔王でありながらこの国の王女と結婚して国を納めることにしている。そして俺の正体を知っているレイシアを俺の側近にして行動を共にする事になっていた。
ちなみに『大魔王』である『ベルゼブブ』はこの世界での名前は『バフォメット』と名乗っており、レイシアの夫ということになっていたりする。そのため俺が魔王になったことによって自動的にレイシアが『大魔王の妻』という立場になってしまったのだ。
俺は、そのことについてレイシアと話し合ってみることにする。まず最初に俺がレイシアに対して謝罪を行った。
そしてレイシアの気持ちを聞くと「私はアスタと一緒に居られればそれだけで幸せなのです」と言ってくれるのである。
俺はその言葉を聞いてとてもうれしい気分になりながら、俺もレイシアと一緒にいれることが幸せなのだと答えた。するとレイシアは俺に対して「私はアスタのことを信じています。それにこの世界に来る前にもいったじゃないですか、どんなことがあっても貴方を愛しているって」と言ってくれる。俺はその言葉を受けてレイシアのことを心の底から信じて、絶対に守ってみせると決心を固めるのだった。
レイシアとのやり取りを終え俺は、この世界のレイシアに俺達が『勇者』のいる国へ向かう事を伝えると、彼女は、レイリアを連れてこの国から出ることにしていた。そしてこの国を『魔王領』に変えるつもりなのだそうだ。
『勇者』と敵対関係になるのならばそのほうが安全だし、この国の『勇者』が俺達に勝てる可能性は無いに等しい。俺の力の根源となっているものは全てレイシアに依存しているからだ。俺が本気を出せればいい勝負をすることはできるかもしれないが、俺は全力を出せない状況にされているし、それどころか力に制限をかけられていた。それは俺の持つ剣と俺の力の関係上俺が力を暴走させない為に必要な処置なのだろうが、正直俺は不満を感じていた。なぜなら俺の実力はまだまだ伸び代があり、この世界でトップレベルの強さを持つレイリアよりは圧倒的に強いのだ。
そんなわけもあり俺はレイシアの言う事に反対はしない。レイシアに「わかった。ただし無茶だけはしないで欲しい」とだけ言っておく。そして俺は、この国に俺が作りだした『ダスターン王国』を裏切る存在が現れる可能性があることを告げておく。俺達の会話が終わりそうになったとき、レイシアが「それで、どうすればいいのでしょうか?」と俺に尋ねてきた。俺はその言葉に「ああ。レイシアは、これから『大魔王の妻』になってもらうことになる」と答えると「そういえばそういう話になっていましたものね」と、どこか嬉しそうに微笑んでくれたのである。そしてレイシアと話をしていたら時間が結構経過していたらしくレイリアが心配していたので「レイシア。俺はこれからやることがあるから先に王城へ戻っていてくれないか」と頼んでみた。
レイシアは、何か言おうとしたようだがそれを察してくれたようで、「わかりました。アスタ様」と言ってからその場から姿を消したのである。
俺達はその後、リリスが住む村へと向かった。そこには以前俺が召喚したキャラクターの1人がいるからである。
「おい! お前、その服に血がついているじゃないか。それにお前の仲間が何人か死んでいるぞ!!」と言い出した人物に対して俺は、この世界にはこんな奴もいたのかと思ったのである。そんな男に俺は声をかけた。その男は俺の事を警戒したような視線を送ってきたが俺はそんなことは気にせず、こいつが俺に危害を加えようとしないことを確認する。その確認が終わると「大丈夫か? とりあえず治療をするから傷を見せてくれ」と話しかけた。
しかしそいつは俺のことを睨みつけた後で俺から距離を取ったのである。俺は少し残念に思ったがまあ仕方がないとあきらめることにした。そしてそいつに「俺は敵じゃない。俺の名は、レイア。一応、レイシアの母親だ。俺が何者かわからないと思うが安心してくれ。俺はこの国を救うためにやってきた。お前に頼みたいことがある」と言う。しかしそいつは俺に「俺には無理だ」と即答するのである。
そして俺はそいつの話を聞いてみると「この村にはまだ子供が居るんだよ。俺の妹と姉がここに取り残されてるんだ。俺は妹と弟を安全な場所に連れて行かなきゃならないんだ」と言われたのである。確かに家族を見捨てることは簡単ではない、しかしそいつが言っていることを全て信用するわけにもいかないので、俺の本当の目的を伝えて協力してもらうようにすることにした。俺がこの世界に来てすぐに出会ったキャラクターの一人であり俺がこの世界をゲームの世界だと思っている原因を作った男でもあるからだ。俺の目の前にいるこの男は、俺と同じ転生者でもあるのだが、彼は前世の記憶を無くしておりそのせいでこの世界に違和感を覚えずに生きることができなかったのであろう。だから俺はその男に真実を話すことにした。その男にこの世界が自分の知っている世界であることを教えると男は「本当にこの世界がゲームの世界でもあるっていうのか」と聞いてくるのである。俺は男の問いかけに答えると男は俺に「この国の王族は、何を考えて俺達を呼び出しやがった。この国の王族を皆殺しにすればいいじゃねえかよ」と、言ったが俺はそれを否定した。俺には俺の考えがあるのだと説明した後に俺についてくるように言う。そしてその男が素直に従うとは思わなかったので俺の能力を使い、操ってから連れて行くことにする。
俺の能力によって、そいつもレイナの事を思い出させたことで俺の言葉を信じるようになり、俺に協力してくれるようになった。俺はその後、レイナをこの世界に送り込んでくれたあの女性に頼まれていたことをその女の娘さんに伝えに行くことにしたのである。その女性は、この世界に来る前の俺を知っていたようで、この世界の俺も救ってくれと言われていたのだ。
その女性の娘であるレイナは俺のことが気に入ったようだった。俺は、そんな彼女に、あるお願いをするために彼女を探しに行った。レイリアに探して来てくれるように依頼してから数分ほどで見つけることができ、俺はその娘と話をしてから、レイシアとレイリアを探すために一度町を出ることにしたのである。その前に俺はリリスに会いに行ってリリスと相談をすることにした。リリスに、今から行くところの情報をある程度伝えるように伝えておき、俺はその国に向かって出発をした。
そして数時間ほど歩いて目的地に到着するとレイリアとレイシアを見つけて事情を説明すると、レイリアが一緒に行動するといって来たためレイシアの事も任せることになった。俺達はそのまま街の中に入るが門で衛兵に声をかけられたのでレイアの能力で眠らせて侵入したのであった。
その後、街の中に入り、宿を取る。俺達はすぐにレイシアと別れる事にする。俺とレイシアは別々に行動した方がレイアの事を調べやすいと思ったからだ。俺達が宿に戻るとすでにレイアは居らず部屋にもいなかったので俺は外に出て情報を集める事にしたのだった。そして情報収集を行い始めると早速手に入ったのがこの国は『勇者』のパーティーの1人である『大魔導師』、『賢者』、『勇者』、『聖女』の4人は街を出ているということだった。しかもリリスも一緒だという。そんなわけなのでリリスも今この国の中にいるはずであるが俺はリリスの気配を全く感じなかった。これはおそらく、レイシアが俺に気づかれぬよう細工を施した可能性があると考えたのだ。そうでなければこの国の王女という身分を隠す必要がある存在として考えれば当然のことな気がしたのだ。
俺は、その事実を知り、これからどうしようかと考えていた時に「お兄ちゃん!」と声をかけられた。俺は振り向くとレイアの弟と妹の2人が立っていたのである。
その少年の名前は『ライル=バアルス=ガスタード』といい、少女の方の名前は『ラティーシャ=アスバ=ガンバルツ』というらしい。その2人とは以前俺が召喚された際に出会い話をしたり、俺に好意を持ってくれている子供達のことだ。俺がこの世界で『勇者』を倒す前に俺に告白をしてきた相手でもあり、そして俺がレイシアと出会ったきっかけにもなった子たちなのだ。そんな2人に俺と行動を共にしているはずのレイシアの事が気になったのかと聞くと「お母さんと離れちゃダメなんだ」とレイリアの事を慕っているからなのかそんなことを口にしていたので俺はどうしようかと悩むことになる。俺はこれから『魔王』である俺の仲間のところに行こうと思っていたからだ。俺はどうしたものかと悩んでいたが、結局はこの国の中で俺と一緒に行動することを了承させることに成功するのであった。俺はその後、まず初めに『魔王軍』の拠点へ向かうことに決めていた。その途中で、その『魔王軍』の関係者であるアリシアと合流することが出来たので俺は『勇者パーティー』のメンバーの居場所を知ることが出来るかと期待をしてみたが残念ながら俺達の前に現れることはなかった。そしてその道中、なぜかアリシアが俺達に襲いかかってきた魔物を全て瞬殺していたのである。それはあまりにも一瞬の事で何が起きたのかわからなかったが俺はすぐに理解することになったのだ。なぜなら俺の視界には信じられない光景が広がっていたのである。そうそれは俺達の周りにある大量の死体だったのだ。そしてそれをやったのがこの俺に襲い掛かってきていた謎の女性だったのである。
しかし俺はその時になってこの女性が誰かを思い出すことができたのである。それは俺がこのゲームで遊んでいたときに攻略キャラに選ぼうとしていた女の子であり『魔王軍』に所属していた存在だ。名前は『アイリス』と言い、年齢は18歳で髪の色は金色。見た目の身長は165センチでスリーサイズは86-58-86だ。彼女は大魔王様に仕える忠実な部下でもあるのだが、大魔王様が不在の場合、魔王軍の統率をしている立場でもあった。大魔王様の命令がなければ動かないような存在だったのであまりプレイヤーからは印象は良くない存在だと言われているのだが、俺は彼女の事は好きなタイプではあったのだが、やはりゲームの中では好きになれそうもなかったのだ。その理由としては、彼女が俺に対して異常なまでのライバル意識を持っていたことと、ゲーム中の会話が、少し嫌だったからだろう。それに彼女は自分の容姿が美しいと思っているらしくそれが理由でよく男を口説いているシーンが多く描かれていたのである。まあゲームの中だけならば俺だって別にそこまで思うことはなかったと思うがリアルに目の前でそれをやられると少し引くものがある。
それに俺の記憶の中にはこんな会話もあったのである。
「ねえあなた、私が誰だかしら」と言ってきた彼女に俺は、「俺がわからないのか?」と問いかける。それに対して彼女は、「私を知っているなんてあなた凄いわね。私はあなたのこと知らないわ」と答えた。その発言に対して俺は、少し残念に思いながらも、なぜ自分を知ってもらいたいと思ったんだ? という気持ちがあったのだ。すると彼女は俺に「あなたに私の事を思い出させるためにキスをしなさい」と言い出してきたのである。さすがの俺はそんな言葉を聞いて唖然としたが俺のその態度を見ても諦めずにさらに迫ってくるので仕方なく、ゲーム中で何度か彼女とデートをするイベントが発生した時にするキスを俺に無理やりしようとしたところでゲーム終了となってしまった。そして俺はそこでその記憶を失ってしまったのだが、俺にはその女性との思い出は全くなく、名前すら覚えていなかった。俺は一体どうして忘れてしまったんだろうと、考えることになったのである。そしてそのことを思い出そうとすると激しい頭痛に襲われてそれ以上を考えることが出来なくなってしまう。そして俺は、俺のその様子に気づいたのか「レイ、大丈夫かい?」と言われたので俺は慌てて思考を中断するのであった。
その後、その女性を何とか説得することに成功した。
俺達がこの国に入って最初に立ち寄った場所でもある、この町のギルドマスターに案内を頼むことにする。その人物とはなんとリリスの父親だったのである。リリスの父親は元この国の王だったのだ。その人物は今はこの国の王を引退した人物であり、リリスの父でありながらこの国で冒険者をやっていた経歴を持つ人物であったのだ。
そんな彼にこの国のことについて詳しく教えてもらうと俺達が向かう予定だった『大魔境』と呼ばれているところの正確な地図を手に入れる事ができた。この国の地図を手に入れた俺は、この国を出る前にリリスの母親に会いに行くことにする。俺は彼女に挨拶くらいしてから出発しようと思い彼女を探して回ることにした。そしてようやく彼女を見つけることに成功したのだがそこにはリリスの母の他にもう1人存在していたのである。その少女を見た瞬間、俺は息が止まりそうになるほどの驚きを感じた。そうそれは、あの時の少女と瓜二つの顔をした女性がいたからである。俺はその少女に目を奪われるがどうにか冷静になる。
俺とアリシアとリリスは、彼女の名前も知らなかったのだが、俺の頭の中に名前が自然に浮かんできたので俺はそれを確かめるべく質問をした。しかしその答えは返ってこずに少女から逆に名前を尋ねられてしまい、その流れで少女の名前がわかったのだ。そしてその後、俺は、レイシアが『大魔道師』に狙われている可能性があるので気を付けるように伝えると、レイアの母親はレイシアを庇うように抱きしめると俺にレイシアを助けて欲しいと頼み込んできたのである。
そんなことを言われなくても助けるのは当たり前だった。レイシアを助けることがレイシアの母親の願いでもあったし、何より俺自身の望みだからである。そして俺はレイシアを探すためにレイシアの家を出るのであった。レイシアを探すためにこの国で一番強いと言われている騎士のところへと向かうのである。そしてリリスはレイシアを探すために別れることにしたのである。レイシアを無事見つけ出すために俺はレイシアが持っているはずの俺が作ったレイシアの気配を探るための装置を頼りにすることにしたのであった。
俺はアリシアとともにこの『魔王城』の門番をしている兵士の元へ向かうと、俺達の素性についての説明をした。しかし兵士たちはその話を全く信じようとはせず、門を通るためには通行料が必要と言われ、お金を持っていない俺達はその門を通してもらうことはできなかったのであった。しかしここで門が開いて俺達は中に入ることが出来たので俺達はそのまま門の奥へと進んでいく。
門を抜けるとそこはとても大きな町があり、その中に入ると俺達の前に1人の少女が現れたのであった。
その少女は俺達に「貴方達が侵入者ですね。お父様に会わせてあげます。こちらへどうぞ」といって俺達は彼女の後を追うと、この城の城主がいるという部屋の前に着いた。俺はこの部屋に入る許可を求めようとして部屋の中に入ったのだが中には大柄の男がおり「ここは俺の部屋だ! 出て行け!」といっていきなり剣を俺に向かって振り下ろして来たのである。
俺は咄嵯に身をかがめて避けるとその男の懐に潜り込む。男は反応ができなかったのか驚いた顔になり硬直してしまったのだ。俺は、そのまま手刀をその男の胸に打ち込むと、その男は何も抵抗できずに地面に倒れると白目を剥いていたのである。俺はこの部屋に居た人間を見渡すと先ほどまでの威勢はどこにいったのか誰も喋らなくなってしまったのであった。俺はその男の近くにいる執事服の老人を見るとこの男が『ガスタード』家当主だと分かったのである。俺はその老人の目の前まで行き話しかけた。「君が『ガスタード』家の当主かな? 少し聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
すると執事の服を着ていた老人が、「私は執事のジイです。旦那様なら今席を外しておりましてご不在となっており、私が代理をしております」と答えてくれる。俺は、ここに来た目的を伝えると、彼はその件に関しては知らないとのことだった。俺はその情報に嘘がないのか調べるスキルを発動してみる。そうするとその回答は真実だということが分かった。なのでその話の内容を確かめてみるとどうやら『魔王』を倒すために『勇者』の力を手に入れようとしているようだ。その『勇者』というのは『勇者の聖杯』を使い『聖杯』に認められた者を勇者としているそうだ。『勇者』になると『勇者』の称号を得られると同時に身体能力が格段に上昇し魔力の量も増え、寿命が伸びるという恩恵が得られるらしいのだ。
ちなみに俺が『勇者』であるということを言ってみたが特に驚かれることはなかった。どうも俺は見た目的に『勇者』のようには見えないのだろう。俺は『魔王軍』のことも確認しようとしたがそのことについては何も知っていないということであった。そのことに俺は、この『大魔王』に関する情報が全くない事に驚いてしまう。なぜなら、『魔王軍』についてはどのゲームにおいても必ず登場してくるのにこのゲームではなぜかその存在すら出てこないのである。
そこで、その『魔王軍』についてもこのジイから聞くがやはり知らないということだった。しかし、なぜか俺に対して協力してくれていたのである。そして俺は『勇者』について何か知ってはいないかと思い尋ねるがこの国の王族が隠している『魔王』の封印場所を知っていることしか知らないと答えるのである。しかし俺はそんな情報をこの国から得ることができなかったのだ。
俺は仕方なくこの場所から出て行こうとすると、後ろから呼び止められたので、俺は振り向くがそこにいたのはメイドの格好をしている女性だけだったのだ。俺は少し残念な気持ちになってしまうがそんなことを知らない彼女は笑顔で話しかけてきた。なんでもこの国の国王の娘が行方が分からなくなり、探し出して連れてくるように指示されていたのを俺達が来てしまったため仕方なく案内していたと言うのである。その女性は、俺達がその女の子を見つけ出した時のために、俺の連絡先に女の子の写真を送ると言っていたので俺は、その女性が言う通り写真を受け取ろうとするがそこで彼女が何者かに気絶させられたことで写真をもらう事が出来なかったのだ。
その後リリスと合流することができた俺は、その女性の名前を確認するとそれが『リリスの母親』だったことを知ることになる。そして彼女は意識を失っていたため、リリスは急いで自分の母親のところに向かい看病をしていた。俺達はリリスと一緒に彼女の様子を見に行っているとしばらくしてその女性の目が覚めたので俺とアリシアで自己紹介をするが、彼女は俺の事を知らなかったのである。そして俺の事を不思議に思っているリリスの母親に事情を説明すると、リリスと俺の関係について聞いてきたのである。
リリスが俺との出会いを話すとそれを聞いた母親が、「も、もしかしてリリスちゃんとこの男性は夫婦になったとか言わないわよね」と言ってきたので、俺達はそれを認めることにしたのだ。すると、母親である彼女は俺のほうに体を向けると、「私はリリスちゃんの育ての親であるミシアと申します。このたびはリリスを私の元に連れ戻してくださりありがとうございます。もしリリスがいなくなれば、リリスは私のところに戻らず、私の命も奪われるところでした。貴方のお名前は?」と言われ俺は名前を答えようとするが俺が名乗ろうとする前にアリシアが勝手に名前を名乗ってしまったので俺は慌てて口を閉ざした。そのせいで俺は偽名を使おうと思ったがすぐに思い浮かぶはずもなく俺はアリシアに目で助けを求めたが彼女は、諦めろというような顔をしてきたのであった。そしてアリシアの口から俺の名前は『レイア=ルメイユ』と名乗ると伝えたのである。
その後俺はレイシアを探しに『大魔境』に行く事を伝えた。すると母親は、自分もついて行くといい出したのである。そして俺達はレイシアの母親の実力は知っていたがそれでも万が一の場合があった場合危険なため同行することを断った。だが彼女達は俺達に迷惑をかけないためにもついていくと言ったのである。
それから俺はレイシアの居場所について考えるとまずは『勇者』が『魔王城』のどこにあるかを聞こうとしたのだが答えを聞く前にリリスの母親である『ミーシャさん』は、俺達の前から姿を消したのであった。リリスの母親は一瞬にして消えたのだがリリスは、それを見慣れているのか特に驚きもせずにいつものことだから仕方が無いといったような顔をしていた。そんな彼女を見ながら俺は、どうしてそんなことがリリスに出来るのかを聞いてみると、実はリリスの母は『賢者』と呼ばれる存在で魔法を極めたものに与えられる称号を持っているらしいのである。しかしそんなすごい人がなぜこんなところで門番のような仕事をやっているのか疑問が残っていた。そしてそのことを尋ねると彼女は、元々はこの『大魔道師』に仕えていたらしい。
それならば、この国にはこの国に古くから存在する魔道具などが存在しているらしくそれでこの国を守るように命令を受けていたらしいのだが魔道を極めすぎてその役目に耐えられなくなったという理由もあるようだ。そしてレイシアの母親は、レイシアの母親は俺達がレイシアを見つけたらどうするかと尋ねられた時に、彼女は俺の嫁にするから連れてきてほしいと言い、その話を聞いた俺達は呆然とするしかなかったのである。
俺はレイシアと再会できたら絶対に彼女に惚れているはずのアリシアとリリスをけしかけてみようと企むのであった。
俺はリリスの母にレイシアの行方を尋ねたのだが結局レイシアはどこにもいなかったのである。俺は、アリシアと共に城の外へと出て『勇者の聖杯』を手に入れるために動き出そうとしたが城を出る直前にアリシアがこの国の国王が『勇者』について隠していることを知っているのかを尋ねてみる。するとどうもアリシアはこの城の地下に何があるか知っているみたいだったのだ。
地下に向かう階段の場所まで案内してもらった後に、俺は、この『魔王城』にいる人達が何故この国の国王のことを信用しないのかを聞きたいと思うと突然、城の外から爆発音が鳴り響いてきて、その音を聞きつけた兵士達が次々と集まって来た。俺は、その様子を見ていると城の兵士が全員集まるとその兵士たちの前に俺達を連れてきたメイドの格好をした女性が現れると、この城の当主である『ジイ』がその女性の正体を告げた。
「私はこの城を警備している兵士の長をしています。ジイと申す者です」と頭を下げながら言ってきた。俺はジイの言葉を信じて彼女の言葉を待った。ジイがこの『ガスタード』家の人間だと分かると他の兵士たちの態度も変わり一斉に敬礼をする。そしてジイが「現在我が城内では謎の侵入者が侵入してまいりました。おそらく先ほどの轟音の元は奴でしょう。なので今のうちに我々だけで捕らえようと思います。この者たちが協力してくれるそうです。なので皆のものこの侵入者の男を捕獲しろ! そしてその男は我が国の敵です。なんとしても逃がさないでくれ」と指示を出した。
俺はその指示に従いジイの傍に行こうとしたがその必要はなかった。なぜならジイの指示を受けて俺達の前に立ちふさがっていた兵士達はまるで操られるかのように俺に攻撃を仕掛けて来たのである。俺は、《自動回避》を発動させてその場から離れるが、俺に攻撃をした人間は次々と倒れていったのだ。これはいったいどうなっているんだ? 俺は周りの様子を窺うがそこには倒れた人間の山ができていて誰も動かなかった。そこでふとあることを思い出して俺は自分のステータスを確認するとレベルが上がらなかった。そのことについて俺は戸惑っていたがそんな俺に対してアリシアが近づいてきて、「ごめんね。ちょっとだけ借りてるから」といってから俺に回復薬を渡してくれた。どうやらアリシアは自分の能力を使用して俺の回復薬を盗んでいたようだ。俺はその行動に少し戸惑いながらも回復薬を飲もうとすると、なぜか回復効果が全く無かったので俺はその事に驚いてしまうが、それはどうもスキルによる物だということに気付いたのである。俺はこの世界に来て初めてスキルというものの存在を知った。俺も何かしらの能力を持っていた方がいいかもしれないと思い、俺の持っている『解析』と『アイテム鑑定』と『スキルコピー』以外のスキルが欲しいと思ったのである。そこで俺はとりあえず目の前の状況が収まるまではアリシアの『アイテムボックス』の中にしまっておくことにしたのである。
俺は『大魔王』の力を使う為に、『勇者の聖杯』の入手方法を調べるとこの城に眠っていることが分かったのでその場所を確認してからアリシアにその場所を教えると、そこでジイから声がかかる。
「そなたらは何をしているのですか? この場にいる全ての者に聞こえていたのにあなた達は何もしなかった。つまり、これがあなたのやり方なのですね。私は今までの『聖女』様の付き添いで何度かこういう場面に立ち会ってきましたがこれほど酷くはありませんでした。私もこの国を守るものとしてこの国の民を守りたいのですが、残念なことに今の私には何も出来ません。なのでどうか私に力をお貸しください」と言ってくるので、俺もこの状況を見て何か手伝えることがあると思い俺は協力を申し出る。そこでアリシアは、少し考えて何かを思い出してすぐに『精霊王』を呼び出して事情を説明すると、この場で『賢者』の力を持つ者を召喚してほしいと言われた。そして『聖女』が持っていた『賢者の石』をこの『精霊王』の力で発動させると言ってからアリシアが『大魔境』に行っていたときに入手した石を『大魔王』に手渡すと『賢者の王』の力が発動される。
するとそこに姿を現したのは全身が淡い光を放つ白い服と黒いローブを着た『白衣』と呼ばれる服装をして眼鏡をかけた優しそうな顔の男の人だったのだ。そして彼は俺たちを見ると驚いた顔をして、「もしかして君たちがあの時の『勇者』の仲間かい?」と話しかけてくるので、俺は、「はい」と答えて彼を見据えた。
すると、「ああ、僕の名は『アベル=ロシュフォード』。僕のことは『アベル博士』と呼んでくれるかな。『勇者』は『勇者』であって勇者ではないのさ。『聖剣』とはただの伝説の武器で『聖なる加護』を与える力なんてないんだよ。あれはこの世界で最強の力を持つ『英雄神』の作り出した偽物さ。でも、まぁいいか、今はそんなことよりも『聖杯』だよね。確か君は『勇者』に頼まれたと言っていたね。その『聖杯』を使えばきっとこの『ガスタード』を救えるはずだよ。『聖杯』は今あるこの世界の『勇者』が持つにふさわしい器だけど、僕はその資格はないと思うんだよね。だからこの『聖杯』の本来の主を呼んでみるのが一番早いと思うけど、この国に存在する魔導師の中だとその人物しか無理だろうから頑張ってみてくれないかい。じゃあ、あとはよろしくね」と、一方的に喋ると消えてしまったのである。
俺達はそれから、城の地下に向かって歩き始めると途中途中で兵士達に襲われてしまうのであった。そして兵士達は全員同じ状態異常にかかっており完全に支配されていたのである。この状態では兵士達と戦うのは難しかったので、アリシアが《解毒魔法》を使って治してから戦いを続けた。そしてなんとか兵士の集団を突破して地下の『勇者』の祭壇がある部屋に到着したのである。しかし『勇者』のいる場所にたどり着く前に巨大な魔法陣によって俺達の侵入が防がれてしまい中に入れない状況になってしまったのだ。その魔法陣は『賢者』が『魔王』に対抗するために作り上げたと言われている魔法で『魔法結界』と呼ばれるものだそうだ。そして、この結界が邪魔をしてくるので先に進めなくなってしまい俺はどうしたら良いか考える。するとアリシアが何気なく言った一言に反応を示したのである。
「この魔法陣を作った『賢者』なら何かわかるかもね」という言葉を聞いて俺は試しに『解析』を使いその魔法陣について調べてみた。するとどうやらこの魔方陣には『賢者の塔』と呼ばれる場所への転送装置であることが判明した。俺はそのことを説明するとアリシアとリリスとレイシアの3人がその場所を俺達に教えて欲しいと言い出す。特にレイシアが行きたがっている感じだったので、俺はこの場所について尋ねる。レイシアの話によるとそこは、この城の下にあるらしく、しかも城の中の魔道具や武具は全てそこにあるらしく俺が『勇者』を仲間にした時には既になかったとのことらしい。
そこで俺とレイシアとリリスの三人が魔道具のある『賢塔』へ行こうと提案したのだが、アリスの母とリリスの母がそれに反対したので結局行くメンバーは俺、アリシア、リリスの3人で行くことになる。残りのメンバー達は城に残ったほうがいいのではないかという話になって残った。そこで俺は念のために『転移石』を使用して『ガスタード城』へと戻ってきた。
俺はアリシアと共に城の地下に向かい、『賢者の塔』の入り口を探す。すると地下に向かう階段を発見したのである。俺はこの先がどうなっているのか確認しようと中に入ると目の前の光景を見て驚くのだった。そこには広大な砂漠が広がり、そこには巨大な『ゴーレム』が存在していたのだ。その『ゴーレム』を見たアリシアはすぐにこの国に伝わる『魔神』の話をしてくれたのである。この『ゴ―レム』は元々この地に眠る『勇者』に『魔神』の呪いが宿りその肉体に封じ込められた存在であり『封印の祠』と呼ばれている建物の中で厳重に守られていたのだという。
俺はアリシアの言葉を聞くとその話が事実であることを悟ったのである。そこでアリシアと二人でどうしようかを悩んでいると突然現れた人型をした『ゴーレム』が現れ、俺に襲い掛かってきた。俺は、アリシアと一緒に応戦するがその圧倒的なパワーで押されてしまうが、俺は《自動回復(大)》をフル稼働させることでなんとかその攻撃を受け止めることに成功した。俺はアリシアを庇うように前に出ると『魔神』の攻撃に備えるが『魔神』の姿がいつの間にかきえていたのである。俺は警戒しながらアリシアの方を確認すると彼女は気絶していた。そこでアリシアを守るためにはここで戦うより逃げて体勢を立て直す必要があると判断し、俺は《瞬間移動》を使用して逃げることにする。そして『大迷宮』に一度戻って対策を立てることにしたのだ。しかしそこで『賢者の塔』の入り口に俺達が探し求めていた『賢者』と思われる老人が現れる。俺と『賢者』が相対して戦闘になるとすぐに勝負がついた。
その戦闘の様子は『賢者の塔』が吹き飛ぶほどの大規模な爆発が起こった。その衝撃で俺達は完全に意識を失ってしまうがしばらくしてアリシアと『賢者の塔』から外に出ることができた。俺が『賢者』を倒したのか聞くと、アリシアが言うにはすでに死んでいたらしいが、俺達を逃がすために時間を稼ぐ必要があったのだろうとアリシアは予想する。そのアリシアの意見に納得した俺はすぐにその場から離脱することにしたのである。
俺は急いで地上に上がって『賢者の塔』から離れて安全な場所で待機してもらうことにした。それから俺はレイシアと合流しようとした時だった。『大迷宮』から出てきたアリシアがレイシアを連れて来てから俺と合流する。俺はアリシアがどうして『大迷宮』から出てきたか理由を確認すると、俺がいない間に起きた出来事を簡潔に説明してくれる。それによるとアリシアと『大魔王』と『精霊王』の会話が終わった直後にアリシアに異変が起きた。そしてアリシアの体に変化が起こり始めたのである。その姿はだんだんと人間のものに戻っていき、『大魔王』の力の影響が無くなっていったのだ。俺はその様子を確認するとあることに気づくことができた。それは彼女の背中からは光の羽根のようなものが見えており、『精霊王』の髪の色も銀色から金髪に変わっていったからである。
アリシアはその後、『精霊王』の力が解放されて、『白き聖女』、『天使の聖杯』、そして『精霊の王』の力を全て手に入れたことを告げたのだ。その発言に驚きながらもとりあえず事情を話してほしいと告げる。アリシアはしばらく悩んだ末に覚悟を決めて自分の過去を話すことに決めてくれたのである。アリシアは『勇者』の生まれ変わりであるらしく、その時の事は詳しくは覚えていないが、どうやら自分が何者なのかわからないまま生きていくしかないと諦めて過ごしていたらしい。そしてレイシアと出会ったのは本当に偶然だったということだ。それからアリシアは『精霊王』にお願いをしてから、リリスのお母さんに力の使い方を教わったようだ。
俺とレイシアはお互いに『大賢者』に力を与えられる資格を持っているのはわかっていたが、アリシアが力を受け継いだのは驚いたが『大魔王』の力を引き継ぐよりもよかったのではないかとも思う。『大魔王』の力でレイシアやみんなを守ることが無理なのは明白だと思ったのだ。そして『精霊王』も今回の件を受けて、力を貸すことを決意したのであった。そして俺はアリシアの話を聞いたあと、この国の人達にどうやってこの事態を伝えたらいいかを考えてある考えが浮かぶ。
そうすると俺はまずレイシアにこの国に残っている人間を集めてもらうことを告げるとレイシアはそれに了承してくれたので、その間に俺が『賢者の王』を探し出して『聖杯』のことについて聞き出すことになったのだ。
俺はこの『大迷宮』に来た本来の目的を果たす為に、レイシアが呼びに行ってくれている間にある場所に急ぐ。俺は、この『聖都』の中心部に存在する『勇者』の『聖杯』が置かれている祭壇の部屋に到着する。すると祭壇の奥には、豪華な服を着た若い男性が立っており彼はこちらを振り向くと同時に口を開く。「ほう、こんな場所に人間が迷い込むなんて珍しいね。ここは僕の許可なしに入ることが許された部屋ではないよ」と言い放った。その言葉を聞いている俺はなぜか体が熱くなり始めていたのである。そして彼の言葉を聞いていたレイシアは俺の前に立ち塞がり『勇者』と対峙してこう言った。「あなたはもう死んでいます。だからこの『勇者の剣聖』である私が相手をします」と口にしたのだ。そして『魔王化』状態のレイシアの体は真っ赤に染まり、さらに瞳孔は細くなって、その額には赤い第三の目が現れて『魔神』の姿へと変わる。レイシアは『聖杯』が『聖剣』と共鳴している状態なのを確認して《聖光魔法》を使用すると《聖槍術 一閃》を放つ。そして見事に『勇者』に命中したと思われたのだが、次の瞬間に攻撃を加えた箇所をすり抜けてしまう。しかし、その直後に俺は『勇者』に向けて飛び込んでいき《風魔法》の刃を飛ばしながら《炎弾》の魔法を使うとそのまま攻撃を直撃させた。そして俺は追撃として再び《風魔法》を纏わせた刀を振るうとまたも攻撃を与えた場所が通り抜けるような感触を覚える。
それから俺の攻撃は全て無駄だということがわかる。俺はそれでも戦い続けるが徐々に傷を増やしていっていたのである。その光景を見てアリシアが止めに入る。「ユウト、そこまでにしておきなさい」と言われて我に返ると『勇者』が目の前から姿を消して背後から攻撃を仕掛けてきたのだ。するとリリスがアリシアの前に飛び出してきて盾を使ってその攻撃を受け流すと《聖壁結界(マジックウォール)
> を使って結界を発動させて敵の攻撃を止めた。しかしその隙を狙って『勇者』は姿を消すと今度は正面に現れて攻撃してくる。その攻撃が俺達を捉える寸前にリリスが結界で受け流しを行いその衝撃をレイシアにぶつけることでレイシアに攻撃を命中させることに成功したのだ。リリスはその勢いで俺とアリシアがいる方向に吹き飛ばされてくる。そのリリスを俺とアリシアが支えることに成功して何とか危機を脱することが出来た。俺達は一旦レイシアの元まで後退することに決める。そこでリリスを休ませてから俺はもう一度『勇者』に向かって行くことにする。
『勇者』が《空間転移》を使用した直後を目掛けで俺は『大太刀』を横に振ると攻撃は命中し、その攻撃によって『勇者』が姿を現したところを俺は蹴りで攻撃を行った。それから俺は何度も『聖槍術 一閃』を放ち続けたのだが、『聖槍術 四連突き』と『天撃流 飛空斬』と『大賢導 一の型』を駆使して俺に対抗してきたのだ。それからは激しい戦闘が続き俺が優勢かと思い始めたところでレイシアは突然、黒い霧に包まれてしまうとそこから白い髪と翼と悪魔の角が生えた悪魔の姿へと変化したのである。その様子に動揺した『勇者』だったが、すぐに落ち着きを取り戻すと『魔王』と戦闘を開始した。
『魔王』の力はやはり圧倒的だった。俺とアリシア、そして《自動人形》とレイシアの三人は連携を取りつつ戦った。そしてついに俺達が勝利して《勇者》を追い詰めたのだが、ここで予想外の出来事が起きる。俺達の『大魔王』であるレイシアの体に異変が起きていた。そして彼女の体の変化と共に俺は『魔神』の姿を思い浮かべてしまったのである。そこで俺はレイシアに話しかけたのだが、返事がなかったのだ。その事に気づいたアリシアは慌ててレイシアに駆け寄って声をかけたのである。しかし『魔王』の力を手に入れたレイシアに俺は一瞬で斬り伏せられてしまい、そこで俺は意識を失った。しかし『聖女』と『魔王』の二人の少女の力は互角でなかなか勝負はつかなかったのであった。だがレイシアは『聖女』との戦いに夢中になっていて俺は気を失ってしまうのであった。
意識を失っていた俺が再び目を覚ますとアリシアは地面に横になっていた。俺の側にはリリスもいたので彼女達に事情を確認するために質問することにした。どうやらアリシアは『聖騎士』から受けた呪いのせいでレイシアは暴走してしまったらしい。レイシアの方はどうやら俺を殺さずに気絶させようとしているようだが上手く行っていない様子だった。そんな状況を見守っていた『勇者』はレイシアが苦しむ姿を見るに見かねて行動を起こすと俺に『勇者の剣』を放り投げてくると「それを使え、僕と戦えば彼女は解放される」と言ったのである。俺はそれを聞いて警戒しながら立ち上がると刀を拾い上げた。
『勇者』は俺の持っている刀に興味があったのか、「その刀は何という名前なんだい?」と聞いてきた。俺はそれに対して「名前はない。
これは『精霊王の加護』の力を凝縮させてもらった特別な武器だよ」と言うと、『勇者』の表情が強張った。俺は続けてこう口にする。「レイシアを元の状態に戻すにはお前を倒すしかなさそうだな。だから戦う前に教えてくれないか? この世界の人間はなぜこの世界を救おうとする。
そしてなぜレイシアの体を乗っ取ろうとしたんだ。
そして何が目的なのかも聞かせろよ!」と言い放つと、彼は答え始める。
「君はこの世界を救うつもりなのか? だとしたら愚かだね。
だってこの世界はすでに壊れているんだよ。この世界で生きているのはもはや『大賢者』や『魔皇』、『勇者』、『大聖女』、『精霊王』といった力を持った者だけになってしまった。もはやこの世界に生きる価値のある人間などいない。そう僕は確信していたよ」と言ってから少し間を開けて彼はさらに語り始めた。
「そもそも君たち人間はこの世界の仕組みを知らないだろうから教えるよ。『精霊』というのは『魔神族』が作った道具のような物なのだ。彼らはその力を持ってこの世界に破滅をもたらす為の道具を作ったのさ。でも『大聖杯』は『精霊』が作り出せる魔力を全て使い切ってしまったのでもう何もできないはずだ。『勇者』の力を受け継いでいる者はみんなそう考えていると思うけど、そうじゃないんだよ。
なぜならこの『勇者』の力と『勇者の剣』があればこの世界でもまだ『精霊』を操れる可能性が出てくるからだ」と語る『勇者』の言葉を聞いて俺の中で疑問が膨れ上がっていくが、このタイミングでレイシアは苦しみだした。すると俺に『聖剣』を差し出してきたので受け取って『勇者』に問いかける。すると奴が言うには俺とレイシアのどちらかが持つ事でこの『聖剣』を扱えるようにできるのだという。そこで俺に『聖剣』を持たせようとしたのには理由があると話すとこの国に伝わる伝承を話し出したのだ。
かつて『大賢者』に倒された初代『勇者』は異世界召喚された際にこの世界の住人ではありえない能力を持っていた。それは《スキル創造》の恩恵によるものだった。その《スキル創世》の能力は全ての人間が等しく得られる訳ではない。そしてその力を持つのは必ず男であり女性には発現しなかった。そこで彼は《勇者の剣》と《勇者のマント》の2つの装備品を作り出し、そしてその《勇者》の称号を受け継ぐ者を『聖杯』を用いて《勇者》へと変える事を思いつき、《勇者の証》という《聖剣》を生み出すことを成功させた。
《勇者の剣聖》はその称号を引き継いだ者が装備した時のみに《勇者の剣聖》の力が使えるのだと説明した。
俺はその説明を聞いてレイシアの事を考えて、このレイシアに剣を渡してみる事にする。『聖剣』を受け取る際にレイシアは『聖剣』を手から落として膝を着いて苦痛に喘いだのだ。その様子を見た俺はすぐにその聖剣を回収して《聖剣》に手を触れる。すると聖剣が淡く光り始めて聖剣を手に取ることができたのである。その聖剣を眺めていた俺に対して「それでその剣を使えば『勇者』に勝てるのか?」と質問をぶつけると『勇者』が言った。
「残念ながらその程度の実力ではまだ無理ですね。『勇者』の本当の強さとは単純なステータス値だけでは計れないんです」と言ってからさらに話を続けていった。まず最初に『勇者』が所持している《神器
『勇者』
> に干渉して俺の《アイテムボックス》の機能を使って俺の《異空間》に《勇者》の武具を転送させた。
そして《聖槍術 二式 貫牙(つらぬが)
>を俺に見せつけるとこう告げたのだ。『勇者』は聖槍術を二つ習得しているので『勇者の槍』を自在に操ることができるようになるので、それを教えようかと思ってと説明すると《風魔法》を纏わせた刀を構えてくる。
俺が刀を構えた次の瞬間、レイシアが《転移》を使用して俺の背後に現れると攻撃を加えようとしてくるのと同時に『勇者』が攻撃してくる。その攻撃を避けた後、俺は反撃に転じる。しかし『勇者』は回避を行い俺の攻撃をやり過ごすとその状態から攻撃を仕掛けてくるが俺はどうにかその攻撃を防いでいく。そしてレイシアの攻撃を避けると今度は俺の攻撃がレイシアを襲うが、レイシアはどうにか攻撃を捌き切って《闇夜之豹 改 黒豹隊ver》を展開すると《転移陣》を使い、上空へ移動するなり、そこから俺に向かって攻撃を仕掛けてきた。だが『勇者』もすぐに《勇者の盾》を展開し、レイシアの攻撃を阻み、その勢いを殺さずに俺に向かって突撃を仕掛けてきたのである。その攻撃を受け流すことに成功した俺は『勇者』と鍔迫り合いの状態になるがレイシアが背後に現れ俺を襲おうとしてくる。
それからしばらく激しい戦闘が続き俺は『大賢者』から与えられた力の殆どを失い、レイシアも暴走状態で思うように動かせない状態になっていく。しかしレイシアは『勇者』の技を受けてしまうと意識を失う直前でなんとか持ちこたえるとレイシアは『魔王』の姿に変化した。そして『勇者』は《聖弓》と《勇者の槍》の二本の武器を装備してから《転移》でその場から離れるとレイシアの《重力魔法》で動けない俺を攻撃してきたのである。
《転移》で移動を繰り返しながらレイシアを斬り伏せようとする『勇者』の動きを見てから《魔装展開》を行うとレイシアに加勢しようとするが、その時、突如地面が隆起してそこからゴーレムが姿を現すと俺に襲いかかってくる。しかしゴーレムの足を止める事はできなかった。そこで俺はアリシアに「アリシア! 今すぐレイシアを正気に戻す為に力を貸してくれ!」と言うとアリシアはうなずいた。俺も同じように行動を開始する。アリシアもレイシアと同じように暴走状態にあったがアリシアの場合は暴走状態ではなくただ意識を失っているだけの状態だった。
アリシアがレイシアの方へ向かうと『勇者』はアリシアに狙いを定めたらしく彼女に集中的に攻撃を繰り出していた。そんな『勇者』の様子を見ながらアリシアをレイシアの方へ《飛行》させて彼女の体を支えるとそのまま二人に駆け寄って俺達三人で協力してレイシアの相手をしていた『勇者』に挑んでいく。
『勇者』と戦うために俺の側にレイヴィアを《憑依装着化》させたまま俺の背中に乗って戦ってくれるように頼むと彼女もそのつもりだったらしい。
こうして再び始まった『勇者』と『魔剣聖』、『魔王』と三人目の『魔王』の戦いは激しさを増していき、『大聖女』と『精霊王』が戦いを見守る中で俺達は戦っていた。俺は刀の一撃を相手に放つのだが避けられてしまったのでその流れのまま《連閃の型壱一式一閃》を放ち続けると相手の『勇者の剣聖』で受け止められる。そこにアリシアが乱入し、彼女はレイアの持っていた双剣を取り出して、それを構えると戦いを始める。どうやら彼女は《錬刀師》の技能を持っているようだ。俺はアリシアのサポートをするべく《雷帝》を使うと刀に電撃を帯びさせる。すると相手はそれを警戒したのか、俺達の連携による攻撃を防ぎ始める。しかしそれでも隙を見つけ次第レイシアとアリシアで攻撃を繰り出す。
俺自身も負けていられないとばかりに《居合 弐零四 電刃》を発動すると刀に纏わせていた《闘気 雷迅》を一気に解放して相手に叩き込むとレイピアで防がれてしまい、そのまま反撃に転じられてしまうがレイシアがその間に割込んできて俺への攻撃を妨害してくれる。その攻防を繰り返すことでお互いに消耗していった。『勇者』の方がやや優勢になっている様子だったので《転移》を利用して《勇者》の背後に回る。そして俺は《魔弾》を放つが『勇者』の剣で撃ち落されてしまう。そこで《雷速瞬撃》を使用するがやはり《勇者の剣聖》で対応されて威力を弱められる。すると俺は『聖剣』を使ってレイシアの持つ『レイシアの聖剣』(この世界で最強と言われる武器)、『レイシアの神剣』(『レイシアの世界』の神話に出てくる最強の神が作り出したとされる聖剣。これを超える物は存在しないとされている)の二つの聖剣を操作を切り替えてレイシアが持つ《レイシアの大剣》の柄からレイシアが取り出した《魔導電磁砲 》へと繋げて発射するとレイシアに直撃するが『勇者』が防御してくれたお陰でダメージをそこまで与えることはできなかったが、俺とアリシアの攻撃を防いでいる間に俺と『勇者』がレイシアを引き離してくれた。それから俺はレイシアと二人で戦うことになるが、ここで俺の体に異変が起きた。
レイディアとの戦いでかなり無茶をして限界まで『勇者』の力を使用したため肉体に大きな負荷がかかり始めたのだ。その証拠に俺の体はボロボロになっておりいつ倒れてもおかしくはない状況に陥っていた。そしてその事に気がついていた『勇者』がレイシアの攻撃を凌ぎつつ《聖剣》を使ってレイシアの剣を破壊する。そして『勇者』が《聖弓》を構え、それを連射してきた。それに対して俺はどうにかして反撃をしようと考えている時に突然体が発光し始めた。そして次の瞬間、レイヴィアが俺の前に立ちふさがり俺の代わりに攻撃を受けて吹き飛ばされてしまう。その後、『勇者』が追撃を行おうとしたが、アリシアが駆けつけてきて、レイシアが俺を抱えながら離脱を行ったのである。
それからしばらくして俺は意識を取り戻してから自分の身体に起きている事を自覚した。レイヴィアのおかげでなんとか助かった俺は、アリシアにレイシアを任せて、レイヴィアの傷を《修復》する。その作業を終えると俺はレイシアを連れて《浮遊 > 》でその場を離れたのだった。
それから俺はアリシアと『勇者』の戦闘の様子を眺めていたが、アリシアが徐々に押され始めていた。それを見た俺は助けに向かうことにして『聖弓 天叢雲剣』と《聖槍術 六式 裂牙(さくが)
>を呼び出し装備する。
俺がレイシアと共に駆けつけたときには『勇者』は『聖弓 天叢雲剣』と《勇者の剣》の二刀流で攻撃を仕掛けており、アリシアは《聖弓 アマテラス》を使用して矢を放っていた。《聖弓
勇者、異世界を行く!~勇者になった俺はハーレムパーティーで目指すよ理想郷!魔王だって楽に倒してあげるから!(涙)~ あずま悠紀 @berute00
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。