異世界転生~前世で無職だったのはスキルの所為だった!俺、異世界で最強の戦士になって無双します~

あずま悠紀

第1話

主人公の青年(男でも女でも)は無職のニートだったが、気がついたら知らない世界に転移していた。その世界には魔物が存在していて、冒険者と呼ばれる職業の人間たちが活躍しているようだ。しかし彼の場合はちょっと違った方法で最強の能力を授かったため、彼は冒険者になる必要もなく魔王を討伐する。だがこの世界の勇者もまた、彼と同様に強力な力を宿しており――。

これは主人公がチート能力を持ちながらも努力を重ね、自分の理想の世界を作り上げて行く物語である。



「さて、今日の仕事は終わったな。それじゃ帰ろうか」

僕は今日もいつものようにダンジョンから出て家に帰ることにする。ここは『イレギュラーハンターズギルド』というところで、僕はここで受付嬢の仕事をしているのだ。ちなみにここの仕事内容は依頼書の作成とか簡単な事務作業が中心だね。たまにあるクエストでは、魔物を倒しに行って素材を手に入れたり、薬草を集めてきたりすることもあるよ。僕の場合だとあまり戦闘が得意じゃないからね、こういう地味な仕事をやってることが多いんだよね。

(やっぱり毎日ダンジョンの中に籠ってたら息苦しく感じるもんなぁ。適度に外に出ないと精神が持たないや。でもこんな田舎だから仕方ないんだよねぇ。まあ僕にとってはいい職場だけど)

ただ最近、この『ギルド会館の迷宮』というところの近くに新しく出来た村があるみたいなんだけど――

(あの村は凄いな。まだできたばっかりなのにあんなに大きな町になったなんて)

僕の住んでいる村の人たちとは大違いだった。みんな笑顔で過ごしてるみたいだし、新しい建物が増え続けてるし、何よりも人が多いから活気があったね。そういえばあそこの村人がこっちに来ることがあったっけ。どうせ来るならもっと前に来て欲しかったけど。

『ギルド』というのは冒険者たちが情報交換するための場所なのだが、最近は色々な理由で他の土地から来た人が増えたため、『イレギュラーハンターズギルド』にも沢山の冒険者が訪れるようになったのだ。ただそういう人たちに限って変なことをする奴が多いから注意が必要だと言われている。特に問題を起こすような冒険者には『ハンターライセンスカード強制剥奪』というものが与えられることがある。そんなわけで僕としてはそういう迷惑な人は嫌いなので関わり合いにならないようにしてるんだよね。でもそういう人は意外と目立つらしいから避けようがない時もある。

(でもまさかこの僕がその変なことに巻き込まれてしまうとは思わなかったよ)

しかもその事件は突然起こった――

(あの時は驚いたよねー。なんたってダンジョンの中で急に床が無くなったと思ったらそのまま下の階層に落とされちゃったからね)

まさに不幸の連続と言ってもいいかもしれない。まず第一に、ダンジョンの奥深くまで進んでいたら落とし穴が出現してしまったこと。普通ダンジョンの入り口付近に設置されているはずの罠がほとんどなくなっていたせいだろう。これに関しては完全に事故だったので仕方なかったとも言える。第二に、その時の僕はちょうど休憩中だったんだけど、その際に持っていたお昼ご飯の入った袋を落としてしまった。そしてその落ちた先がダンジョンの更に下に通じる階段だったため、もう大変だった。結局その先にあるフロアまで降りることになっちゃったんだけど――

(いや本当に最悪な出来事だよ! なんせそこには――魔物の大群がいたから)

魔物たちはいきなり僕が現れたことで警戒態勢に入ったのか攻撃してきたりして非常に危なかったが、運よく僕はその場から脱出することが出来たのだ。しかしその先は別のフロアであり、そこはまだ攻略していない未開拓のダンジョンでもあった。そこで偶然魔物たちと戦うことになった僕はなんとか撃退に成功する。それからも何度かモンスターと遭遇してしまいかなり危ない目に遭ったものの、無事に生還することができたという感じである。しかし問題はここからで、ダンジョンの外に戻ってきて安心していたら、そこに例の冒険者が乗り込んできたというわけだ。僕はそいつに捕まって拘束されそうになったところを必死に逃げることになった。そして最終的に逃げ延びた先で力尽きて倒れてしまったのだが――

(そこから記憶が無いんだよねー)

多分僕は意識を失ったまま誰かに助けられたんだと思う。おそらく助けられた時の状況はそんなものじゃないかなと思っているのだが――あれ? 何かおかしいぞ。確か僕は森の中で倒れていたはずだ。それがどうして今は家のベッドにいるんだろうか。もしかするとどこかで拾われて家にまで運ばれたのか。それとも病院のような施設に連れて行かれて保護されている最中ということなのかも――

「あ、起きました?」

「へっ!?」

目を覚ますと僕は何故か知らない部屋にいた。そしてすぐそばには女性が一人座っている。もしかしてこの人のおかげでここにいるってことか? いやそれよりも彼女はいったい誰なんだ。僕は混乱しつつも話しかけることにした――※次回投稿予定 明日12/15(日)



(一体ここはどこなんだよ。僕は今まで何をしていたんだ?)

僕は謎の女性によって家に運び込まれた後、なぜか寝かせられていたみたいだ。もしかすると彼女

が介抱してくれたからこうして生きて戻って来れたのかなと思ってしまったほどだ。まぁとりあえず彼女が起きてきたようだし色々と話を――

(えぇぇっ! こっちに来たよぉ。なんかめっちゃ見られてるんだけどぉ)

さっきまでは部屋の中がよく見えていなかったので気付かなかったが、改めて顔を見ると超美人なんだよな。それに着ている服装も派手すぎず清楚な感じで素敵すぎる。そんな女の子と二人っきりで同じ部屋にいて大丈夫なはずがないと思うんですけど。

(ちょっと待って。今の状況ってヤバいんじゃないですか。まさか僕はこのまま彼女に襲われてしまうなんてことはないよね。いくら相手が綺麗で魅力的な人でもこればっかりはダメだ。ここは紳士らしく断らないと。よし覚悟は決まった。じゃあいこうか。うん、行こう。いざ出陣!)

だが僕の決意に反して女性は意外な言葉を言ってきたのだ――



「あ、あ、あのあのあのあのあの」

どうしよう、言葉が上手く出ない。というか緊張しているんだ。そりゃこんな可愛い人と会ったことがないもん。僕の人生の中でここまでの美女に出会うなんて想像したことすらなかったからね。だからこの気持ちを抑えきれなかったんだ。

(どうしましょうどうしましょう。こういう時はやっぱり『まず最初にお礼を言う』べきでしょうか)

僕は深呼吸をしてから口を開いた。落ち着いて考えればこんな状況になっている時点で僕は幸運に恵まれているというものだ。だからこそまずは感謝の意を伝えないといけませんよね。だってこの人がいなければ僕は確実に死んでいたでしょうから。ならば僕は言うべきだ。勇気を出して一言だけ――

「こここ、こちらこそ助けて頂いてありがとうございました」

よし言えた。ちゃんと言えた。これで少し落ち着いたから次に何を言えばいいのかが分かってきたぞ。つまり次なる行動は――

「ぼぼぼ僕が君を助けられたのかは分かりませけど、そ、それでも一応僕なりに最善のことをしたので。その、気にしないで欲しいっていうか、あ、あと僕がこの家に連れ込んだとか変なことは全くないですからね。そこは勘違いしないように」

うわーやばいよやばいですよ。僕は何言ってるんでしょう。でもこれは事実だから仕方ありません。僕がこの人をこの家まで運んだわけではありませんから、僕が勝手に勘違いされて襲わないように説明しておかないとね。でもちょっと言い方がきつくなってるから注意しておく必要はあるかもしれない。さて彼女の反応は――

「はい。私も特に気になりませんでした。それにあなた様は悪い人じゃないってなんとなく分かるんですよね。でもそんな方がどうしてこのような場所に?」

良かった。怒ってはいないようだ。だけど逆にこっちが心配されてしまうとは思ってもいなかったよ。やっぱり変なことに巻き込まれないように先に事情を説明したほうがいいのかもしれない。だから僕はその通りにすることにしたんだ。だけどそれを聞いた途端に相手の雰囲気が変わったような気がしたのは何故だろう。しかもその表情も一瞬にして変化したように見えるし、何かおかしなことでもあるのか。

(もしかして今の僕の話が変だったとかそういう意味なんだろうか。でも別に何も嘘はついてないからね。真実を伝えたつもりなんだけど)

まぁそれは良いとしても相手の名前はなんていうんだろう。これだけ美しい容姿をしていれば名前だけでも十分有名になる可能性もありそうだ。そういえば僕はまだ彼女に名前を名乗っていないんだった。だったらまずは自分のことから話そうか。それで向こうの反応次第でこの人のことが理解できるかもしれない。じゃあそろそろ本題に入るとしますか。まずはこの僕の名前からだ――

僕は自己紹介を始めることにした。名前はもちろん本名じゃないよ。実は『真紅郎』というのが僕のハンドルネームなのだ。そして職業も『フリーター』である。この世界だと無職になるんだけどね。だから僕はこれから先、この異世界で暮らすことになるんだ。ただ僕はあくまでも冒険者じゃなくて一般人として生きて行くつもりです。だってせっかく平和そうな世界を目の前にしているのに冒険者になんかなりたくないもん。なので僕はこの世界で自由に暮らすことを目標にしています。だけどそれだとこの人が不安になってしまうだろうから――

――この世界に転移してくることになった理由を話すことに決めたんだ。僕には元の世界での思い出が殆ど残っていない。唯一残ってるのはこの異世界に来てしまう直前に起きた『事故』の記憶だけだった。ただそれがきっかけで自分の記憶の一部が消えてしまっている。それがどういう原因で起こっているのかは不明だし治るのかどうかすら分からないんだ。なので僕にとっては『事故』が起きたという記憶とこの世界の常識や知識だけが全てなわけだ。

まぁそういうわけで僕は元々こっちの世界の住人ではなかったんだ。だけどある日突然、ダンジョンの中から出られなくなってしまったというわけだよ。しかも運が悪いことにそのダンジョンに迷い込んでしまった冒険者たちを助けるために一人でダンジョンに潜らなければならない状況になってしまって――「え、ダンジョンから外に出られない?」

しまった。これだと彼女が驚くのも無理はない。そうか。僕はまた失敗してしまったのか。どうもこの話は彼女にとって聞き慣れていないものらしい。それでは詳しく教えておく必要がありますかね。

「はい。正確にはダンジョンから出て来たモンスターの討伐後に入り口に戻ると入口そのものが消滅しているのです。おそらく他の階層にも同じような現象が起きると思われます。そしてこの階層で起きていることは全て地上に影響を与えるようですね。なので僕たちはダンジョンの外に出るためにはボスを倒さなければならないということなのですよ」

「へぇーそんな仕組みがあるんですねぇ。勉強になります」

「いやいや。そんなにかしこまるようなことではないんですが」

この人は見た目とは裏腹にすごく物腰の柔らかい感じなんだよな。僕もあまり人と関わる機会が無かったからこの感覚に慣れてない部分もあるけど、とにかくこの人になら普通に話をすることが出来るって思ったんだ。なんせ今までの人生でこんな美女と出会った経験は一度も無かったから、もうどうしたらいいのか分からなくなってしまいましたから。本当に緊張しまくりだよ。

(あぁこの子可愛い。めちゃくちゃ可愛いぞ! もうやばいだろこんなの。僕の人生の中でこんなに美人に巡り合えるなんて夢にも思わなかったんだぞ!)

とりあえず彼女は今のところ僕を襲うつもりは無いようだ。それによく見てみると、どうも困っているみたいなんだよね。おそらく誰かと一緒にダンジョンから脱出するためにここに来たんだと思う。もし一緒に来るのが嫌だって言われても連れて行くつもりなんだが、できればここで一緒に暮らして欲しいとも思っていたりする。もちろん断られても仕方がないと思うけどさ。さてそんなことを考えていたら、ついにその本人が動き始めたようだ。何か言いたげに僕をジッと見つめてくるんだけど、いったいどうしたんだろうか。「あのぅ~すみません。ちょっと確認したいことがあるんですけどぉ。もしかして私、お世話になっても宜しいんですか?」

ん? 何を言い出すんだろうこの子は。そんなこと当然じゃないか。この家に女性が来るなんて今までなかったことだもん。だから嬉しいって感じなんですが、どうも何かおかしい気がしてきたんですが――

「もしかして私、あなた様にお仕えすることになるんですか?」

えぇぇっ!? なんですとー! 僕は一体何を聞いてしまったのでしょう。今の発言は一体どういう意味なんだ? 僕は思わず叫んでしまったよ。すると彼女は少し戸惑った様子を見せていた。あぁ僕の大声のせいで驚かせてしまったのかもしれない。だからすぐに僕は謝罪の言葉を口にすることにした。「い、いえ。違うのですよ。あなたの言っていることが理解できなくて、あぁごめんなさい」

(えぇぇっ! 謝り過ぎですって。それにそんな泣きそうになるほど慌てて頭を下げなくてもいいんですけど。なんかこっちも申し訳ない気分になっちゃいますから。ってそんな場合じゃないわよね。とりあえず私のほうから先に説明したほうがいいかもしれない)

僕は彼女の言葉の意味を理解したかったのだ。でもこれ以上質問すると答えてくれないかもしれないからね。そこで僕の方から聞いてみることにした。もしかすると答えてくれるんじゃないかと思ってさ。でも彼女から返ってきた言葉はあまり要領を得ないものだったよ。なんでも自分がこの村に住んでいる人間なのか判断出来なかったんだと。だから僕がこの村の出身だと分かって驚いていると――

「も、もしも私が奴隷で主人が貴方だとかだった場合は、ど、どうなるのでしょうか」

うーむ。これは困ってしまいましたね。確かに今の言い方だとそう思われても不思議じゃないですよね。それにこの世界には奴隷なんていうシステムが存在しているのか。それは知らなかったから、つい僕は聞いてしまっていた。だってそんなのがこの世界に存在していたなんて信じられなかったからね。

(えぇぇっ! そんなに怯えられるほどの発言だったかな)

いかんいかん。また怖がらせてしまいましたよ。というかさっきから僕は何を言ってるんだ。まるで女の子が泣いてしまっているような感じじゃないですか。ここはまず僕の考えを説明しないと駄目かもしれない。僕はまず自分の考えを述べてから、その後で再び同じ内容を確認するように問いかけた。

するとやはり僕が思っていたとおりの反応だった。彼女は僕の説明を聞くなり納得してくれたようなんだけど、やっぱりまだ少し怖いみたいだ。なので安心してもらうための説明をしてあげたんだけど――「はい。私は元から奴隷だったわけではないんですよね。でもこの首輪が外れないので、もしかしたらそうなっていた可能性もあったのかと」

ふむふむ。つまりどういうことだ? というかこの子の雰囲気が少しずつ柔らかくなってきているような気がする。やっぱり僕のことを少しは信用してくれるようになったのだろうか。だとすればこの調子なら話を進めやすいかもしれないな――よし。ならばここからは僕から積極的に話しかけるとしよう。

まずはお互いに色々と情報を交換していくことが大事なのかもしれない。だから僕は彼女に名前を名乗ることにする。これで僕も彼女もお互いの名前を知れるわけだし一石二鳥だ。

まずはこの家の持ち主でもある『真紅郎』という名前で自己紹介をした。そしてこの世界に来る前のことについて軽く話してみたよ。まぁ僕がこの世界に転生する前に体験したことを話すことにしただけなんだけど。だけど何故か僕が異世界からやってきたということを話すたびにこの子の表情が変わっていくのは何故だろう。もしかして僕の話が変だったとかそういう意味なんだろうか。

それじゃあと思い今度は僕の職業のことを話すことにしたよ。でもこの話はなかなか上手く伝わらないことが多かったね。どうも僕のスキルは特殊なものばかりらしい。なのでその話をしていくと――

「あの、すみません。職業についてもう少し教えていただいてもいいですか」

おっ、やっと食いついてきてくれたぞ。僕としてはもっと詳しいことを教えて欲しいと思っていたんだ。なので僕は職業のことを教えることにした。

といっても別に隠すほどのものではない。まず『勇者』や『戦士』といったものが存在していないことを伝えておく必要がある。その代わりに存在するのはこの世界における代表的な三つの職種のようだ。

「まず一つ目が『狩人』というものだ。その名の通り魔物たちと戦うことに長けている職業だが、弓などの遠距離武器を得意としているためパーティの中ではサポート役に回ることが多いだろう。次に二つ目にあるのは『神官』と呼ばれる職になる。回復や解毒などといったことが得意な職種になる。そして三つ目が――」「あぁすみません。待ってください。そこまでは必要無いですよ。もう十分に分かりましたから。そうですよね。まさか異世界の人間がこちらの世界で普通に暮らしているはずありませんよね。それじゃあ次は私も名乗らせていただきますね。私の名前は『サラ=メルル=シュナイデンハイム』と言います。一応この村の領主の娘ということになるのかもしれません」

おおぅいきなり凄い自己紹介をされてしまった気がする。いやまぁそれはいいんだが、領主の娘さんであらせられるという。この子が。まぁなんにせよこうしてお互いに名前を確認出来たわけだし良かった。ちなみに彼女の苗字は聞いたことのない感じのものでしたよ。

しかし本当に綺麗だよねこの子って。年齢は僕よりも年下だと思うんだが、なんとなく雰囲気で言えば二十歳を超えているように見えるんだ。それにしてもここまでの美人と知り合った経験なんて今まで無かったんだよ。僕はその感動で思わずニヤけてしまいそうになったので必死に顔を背けることになった。

(な、何なんだ一体。僕のことを見る目がどんどん優しくなっているんですけど!)

どうも僕が彼女の態度に違和感を覚えていることは間違いないようですね。もしかして僕の気持ちを悟られてしまっているのでしょうか。だけど僕としてもこのまま引き下がるわけにはいきませんから。ここは覚悟を決めて攻めていこうと思うんです。そこで彼女の肩に手を伸ばそうとしたのだが、どうやら彼女がそれを察知したらしく僕に対して手を出してきた。どうやら警戒させてしまったようである。それならそれで構わない。この程度で逃げてしまう程度の気持ちでしたら僕だって相手にするつもりは無いんだ。

しかし僕の予想とは違った方向に事が進んでしまったのである。彼女はなぜか突然泣き出してしまったのだ。しかもそれは今まで見たことがないくらい悲痛な涙であった。一体どうしたっていうんでしょうか。どうもかなり深刻な事情がありそうだと思ったので僕はそっと彼女を抱きしめながら頭を撫でていく。そしてゆっくりと背中をさすっていくと、少し落ち着いてきたようだ。なのでそのままの状態を維持すると――「う、うぅ、ひっく、えっく、うえぇーん」どうも僕の胸の中で大泣きしているようです。本当に一体どうしたんでしょう。もしかするとさっき言っていたことが関係あるのかな。もしやご両親がすでに亡くなっていたのか?

(いや待てよ。さすがにこの状況はまずいぞ)いくらなんでも泣かせてしまった状態で二人っきりの状況というのは非常にまずいと思う。僕は慌てて彼女を離すことにしたのである。さて、ここで彼女の顔を見るとまだ目に涙が残っているようで、なんだか寂しげな表情になっているではないか。どうやら僕から距離を取りたいけど、その手段が見つからないと悩んでいるようだ。

なのでここはあえて自分から彼女から離れていくことにした。そうすることで相手の心の負担を減らしてあげようという作戦だ。しかし僕が離れた後で彼女は再び悲しい声をあげてしまった。これはいったいどういうことなんだろうか。まさかこんなことになるとは思ってなかったんだけどな。

もしかして僕の側に居たいと思わせてしまっていたってことなのか。それならば今の状態ではまだ駄目な気がする。だから僕はしばらく距離をおくために家の外に出ることにした。そうして時間を置いたところでもう一度戻ってくると彼女は落ち着いた様子になっていたのでホッとすることが出来たよ。ただ彼女は少し恥ずかしそうにしながら、僕のほうを見て微笑んでいた。

うむむ。どうも気になりますね。彼女はいったい何を考えて笑っているんでしょうか。まさかまた泣くのが嫌だったから笑って誤魔化そうとしていたとか? それはありえる話かも知れませんね。とにかく今の笑顔が無理に作ったものではなく本当のものであると信じることにします。

(うん? よく考えたら僕ってこの子のことをほとんど知らないじゃないか。でも今はいいでしょう。それよりも重要なことがありますからね)

そこで僕はようやく自分の状況を理解し始めることが出来ていた。というのも彼女のことに夢中になっていてすっかり頭の中から抜け落ちていたことがあるからなんだよね。それが僕がどうしてこの村に飛ばされたのかという話だ。なので改めて彼女のことをしっかりと見ることにしました。すると彼女の服装がこの世界における普通のものだと分かったのですよ。だから少しだけ安心してしまいました。もしも何か特別な理由があった場合に備えて心のどこかで不安を抱えていたようなんだ。

だけどそうじゃなくて良かったと思っていると――「あっ! ちょっと聞いても宜しいでしょうか?」「はい。僕で答えられることでしたら」とりあえず僕は彼女にこの世界の常識などを質問することにしましょう。もしかすると僕のスキルが役にたつかもしれないと思ってね。そこで彼女に対して質問をぶつけていくことにしたのである。まずは僕が元々住んでいた世界が地球と呼ばれていたことなどを説明していった。

そうして質問を繰り返して行くうちに彼女の方からも積極的に話をしてくれた。その結果としてこの村の周辺についても聞くことが出来ることになったんだ。この村は周囲を高い壁で囲まれているそうなんだが、外の世界については何も知らないらしい。なんでもこの国の国王からこの村の存在自体が知られてはいけないと言われたからみたいだ。

ふむふむ、なるほどね。つまりはこの子はこの村を守るために一人でずっと頑張っていたというわけか。でもそうなると少し疑問があるんだよな。僕が来た時に限ってなぜモンスターが襲ってきたのだろうか。もしかしたら僕の存在がバレていた可能性もあるな。それならばもっと違う形でこの世界に来ることになっていたはずだしな。しかしそれなら僕を捕まえようとする意味が分からなくなるな。まぁ考えれば色々と分かるのかもしれないが、今のところはこれといって思い当たる節はない。

そこで僕は一旦思考を止めることにしたのでした。これ以上の考察をするのは危険だと感じたからね。そこで別の話題に移ることにする。例えば彼女が着ている装備に関してだ。やはり僕が見立て通りの高級品だということが分かった。しかも結構貴重な金属を使っているため値段に換算したら相当な額になるはずである。そしてそんなものをどうやって入手したかというと。実は彼女に渡したものの中に『魔法袋』というものがあって、そこに収納されているものを自由に使えるということだったのだ。ただし容量には限りがあるので貴重と思われる物以外を入れることが出来ないそうだ。

う~ん、これまた不思議なアイテムが出て来たもんだな。どうもここ最近になって色々なものが出回っているみたいなんですよ。まぁ僕はそういうことはどうでもいいんですけどね。だって興味がないんだもん。それにそういうものにお金を使っていても仕方ないからさ。それなら僕は自分が必要な物を自分で作ってしまうよというわけである。なのでこの先に必要なものについて話し合ってみることにしたんだ。

まず一番の問題が水の確保であるということです。この家は森の中にある洞窟を住居としているのですが、どうもこの近くに川などは存在しないらしく、そのため毎日飲み水を確保出来なければ干上がってしまう可能性が高いのだという。なのでその対策について彼女と相談していくことにする。しかし残念なことに僕自身はそういった知識を持ち合わせていなかった。そもそもスキルの中に水源を見つけられるものが無かったのでどうしようもないのである。

ただ僕としてはスキルに頼らないで解決する方法を模索していたんです。そこで彼女が住んでいる小屋の中を見せてもらったところ、そこに置かれている家具類の中には大量の武器が存在していたわけですよ。その中にはもちろん弓矢もありました。そこで僕のスキルが反応し始めたというわけですね。

『解析』の能力は対象物の詳しい情報を引き出すことが出来るものですが、それ以外にも便利な機能がいくつかあったりします。たとえば鑑定のように詳細まで把握出来るものもあるし、『サーチ』のような効果を持つものもあったりする。

さらに僕の場合は魔力を流し込むことで特定の相手にのみ情報を開示することも可能なのである。しかしこれは非常に高度な技術が必要なものであり、基本的には不可能な行為と言われているのだ。それなのに何故か僕は簡単にやってのけることが出来たのである。おそらくこれが僕の持つスキルの効力なんだと思うんだけどね。

まぁとにかく今は検証よりも目の前の問題を解決することが最優先事項なので、これらの道具を借りて使ってみることにする。それで使えそうなものはどれなのかを調べる必要があるだろうと考えたからだ。しかし問題が起きたんだよ。なぜか僕以外の人は『矢筒の中身に触ることすら出来なかったんだ。なのでその作業を行うことは出来なかった。

しかし僕はそんなことでは諦めたりしない。そこで僕が使ったのが魔力を注ぎ込むという方法なのだ。するとなぜか彼女の弓の矢だけが普通に扱えたんですね。それからも僕は試行錯誤を続けてなんとか彼女の家にある物資を使いきるまでに何とかすることが出来てしまったんです。ただそのせいで僕の手元に残せる物は最低限の食料ぐらいしかありません。それでも無いよりは遥かにマシなはずなんですけど。そして問題はまだまだ山積みです。

僕たちが住むための家と寝るためのスペースをどうにかしないといけません。しかしこれも僕の力があれば可能となるのではと考えていました。なぜならばこの空間の広さはかなりあるみたいだし壁や床がかなり頑丈であることが判明したからである。これはかなり期待できそうだなと思った僕は試しに地面へ触れてみることにしました。するといきなり地震が発生してしまい――「ちょ、大丈夫か!?」「わっ、私は平気だ」

揺れはすぐに収まったのだが――「おーい、誰か居ないか」僕は外に飛び出した。すると村人の姿が見えたのである。そしてすぐに家の中に入ってもらい避難させることにしたのであった。

(もしかするとここにもあのダンジョンと同じタイプの結界が存在しているのかもしれませんね)

この村の周囲に存在しているであろう壁のことを思えばあり得ない話ではないだろうと思う。だからこそ彼女はこの場所から動くことが出来ないのではないかと予想出来たのだ。そう思ったので僕は早速、行動を開始することに決めた。まずは何が足りないのかを確認しなければいけないだろう。そうでなければ今後のためにも色々と出来ないことが分かっていくはずだからね。そう考えていたのだけど。そこで彼女はある場所へと案内してくれた。

そこは僕たちの寝室となっている場所である。どうやらこの部屋に何も無いのであれば新しく作る必要がありそうだ。しかし僕のスキルが使えるならそれほど難しくはなさそうである。そこで僕はベッドを作ることにしてみた。ただ僕の力だけでは無理があったようなので手伝ってもらうことになったがね。そうしてベッドが完成する頃にはすっかり日が落ちていたのでそのまま就寝することになった。そうして夜になった頃に僕は夢を見たのである。しかもそれが妙な感じだったんだ。なんせ僕が知らないはずの情報が頭の中に流れ込んできたからな。それも断片的なものではなく完全な形で理解してしまったんだよ。そうすると僕は思わず笑ってしまいました。

何故なら僕の中にあるステータスの数値が変化していたことが理由なんだけどね。これはどういうことだか説明する必要があるなと思い、まずは彼女を呼んで確認をしてもらったよ。その結果は驚くべきものであった。なんと僕にはこの世界の住人が持つステータス数値が適応されていたらしいんだ。これには本当に驚かされちゃったね。まさかそんなことがあり得るとは思っていなかったので。

そしてさらに驚くことになったのが、彼女はこの村の中でもっとも高い能力値の持ち主だったのである。つまり僕のレベルは1のままなのに彼女の方が圧倒的に強かったということになる。僕は驚きすぎて頭が真っ白になってしまいそうになる。しかしここで取り乱すわけにもいかないので必死で耐えました。

とりあえずこの村は彼女の指示で守られていたことだけは分かったので良かったですよ。それにしてもこれからの生活が楽しみになってきました。でも今は休むべきときなので今日はゆっくりと眠ることにしましょう。

(うん? あれって何だ?)

僕たちが住んでいた家に何かが迫ってきているようだが。

もしかするとまたモンスターが襲ってきたのかと僕は思いました。しかしその可能性は低いだろうとも同時に思っていた。何故ならば今の状況を考えればそんなことをすればこの国がどういった行動をしてくるかも分からないでしょうからね。そう考えればやはり違うんじゃないかと思えるのだ。

だがしかし近づいてきたものの姿を見てみるとどうもそういうわけでもないらしい。そこで少し警戒しつつ窓から外の様子を眺めてみるとそこには小さな女の子がいるのを確認したのです。

どうもその子は僕たちの家が気になってきたようで近付いて来たみたいだ。だから僕たちは慌てて外に出るとその子に向かって声を掛けることにしたんですよ。しかし返事はなかった。そこで僕はどうしてこの村に来たんだと聞いてみたところ――「わたしの名前はユノっていうなのです! お兄ちゃんに会いたくて来たです!」と言ってくれたんです。どうも人懐っこい子なんだが、僕が知っている妹にはまったく似ていないので困惑してしまいます。しかしいつまでも戸惑っている場合ではないと思い直し、ひとまずこの子の保護者に連絡を取る必要があるのではと考えました。

だけどこの村にそのような存在はいなかったはずなんだよな。なのでどうしようかと思っていたところで。ユノが「お姉ちゃんのことなのですか?」と言ったんです。そこでふっと思い出したのはこの子の姉の名前だと言うことに思い至りました。

なので僕は彼女に尋ねてみると。その答えはすぐに分かりました。やはり彼女の名前は『ユキ』で、その容姿から考えるとおそらくはこの世界のどこかで保護されているんだろうということが分かったんです。それならば迎えに行くしかないと考えてみましたが、僕にはそこまでする余裕がありませんでした。

そもそもここ最近は忙しかったのです。というのもこの国の王が直々に現れてきたからです。しかもその男は勇者として召喚されてきたのだという話を聞いてしまい、僕はどうしたらいいか困り果ててしまう。

この国は魔族の国との戦いを続けているので、魔王を討伐するために戦える人間を欲していたようであり、そのために僕は召喚されたみたいなんですけどね。ちなみに僕が選ばれた理由はよく分かっていないんですけど、それは僕がこの国にやって来てすぐの話である。

どうも僕の持つスキルが原因であるというのは確かなのだけれど、詳しいところまでは教えてもらえなかったのです。だけども僕が特別な力を持っているのは事実であり、そのおかげでこの国ではかなりの待遇を受けていたのです。それにこの国から逃げ出すことは容易ではなかったし。それ故に逃げるのを諦めたのですよ。

ただ僕はそんな状況の中でも、出来る限りの抵抗は続けていたのですよ。そのせいなのか僕が元の世界に戻ることは出来ずにいました。しかしそれでもどうにかしなければいけないという思いはあったのですよ。だからこそ僕は密かに計画を練ることにしたんですね。しかしそれをするにしても時間がないのが現状でしてね。そこで仕方なくこの子と会うことにしたんです。まぁせっかく来てくれたんだし挨拶だけでもしようと思っただけなんですけどね。

すると僕の予想を裏切る結果が出ましたよ。だってその子のおかげなんだけど僕の中に眠っている力が目覚め始めたんだから。

「おにーさん、おはようなの」

この声は僕のことを慕ってくれているユノのものである。この少女との出会いをきっかけにして僕がこの世界で生き残るための力を身につけていくことになるのだが――

『名前:真紅郎 Lv1 →Lv20』

『状態:空腹(小)

満腹時補正なし』

(ステータスの数値が変化したのはいいとしても、なんかこう微妙なんだよな。でもレベルが上がっていたからまぁよしとするべきか)

そんなふうに考えている僕であるが、実際のところはかなりのショックを受けていた。何故ならば僕の現在の所持金では食事を用意することすら出来そうにないのである。それでは飢えて死んでしまうのでどうにかしないと。しかし手持ちにある物資は食料関係ばかりなのでどうにか出来るのは水くらいのものだったのだ。

そこで水を飲んでから僕が取った行動はというと、村の外にある湖へと向かうことであった。その途中で出会ったスライムを倒しつつ進んでいき。そしてたどり着いた湖の水を飲みながら考えていた。すると僕の中でスキルを使用する際の意識に変化が生じ始めていることに気づいたのである。

(もしかするとこれが新しいスキルの効果なのかもしれません。しかし僕が考えていたこととはまるで違うものですがね。しかしこれはこれで役に立ちそうですね。これなら僕の力で作れるものは限られているので選択肢が増えるわけです。あとはこの力を有効に使う方法を考えないといけませんが。それよりも問題は僕自身がこの力を使いこなせるようになるまでどのぐらいの時間がかかるかということが重要なのですよ。それまでの間はどうするかという問題が出てきましたが――とりあえず今は保留にしておけば問題はないと思いますが。

「でも本当に僕自身の力はなんなんでしょうかね」

独り言を口にしてしまうが。

実際にそうなのである。

「お兄ちゃんお帰りなさいなのー」

「あ、お嬢様、ただいま戻って参りました」

僕はそう口にするとすぐに頭を切り替えて村の中に戻って行った。

(しかし僕はなんのためにここにやって来たんだろうか)

それが今の正直な気持ちである。僕にはもう帰る家があるのだ。家族がいて、友達もいる。仕事は辛いが、しかしそれも頑張ろうと思えば頑張れるだけのやりがいのある生活。だけど僕にとってはどれも大切で手放すことが出来ないものになっていた。

僕にとっての宝物だ。そして何より――あの人への思いを僕はまだ引きずっている。だから諦めるわけにもいかなかった。でもこの状況がどう変わるのかは分からない。だからこそ僕の目的のためには必要なものが色々と足りなかったりするので困ったことになっている。(本当にどうしたものですかね?)

僕の目の前にいる少女を見てそう思った。彼女はユノといってとても元気いっぱいな女の子だ。ただ不思議な能力を持っていて、人の心の声を聞くことが出来るというのだ。僕はそれを知ったときは驚いたものだ。ただ今は慣れてきたのか、普通に接することが出来ているが。ただこの村にやってきた当初は少し警戒してしまったが、ユノはとても優しい性格をしているようなのである。それにこの子は僕に好意を寄せてくれるので嬉しいが。僕は彼女に対して申し訳なさを感じていたりするのだ。なぜなら僕は彼女のことを妹のように見ているからである。僕よりもかなり小さい子だがそれでも女の子であるわけだし。そういうのを意識してしまって変な態度にならないように注意しながら彼女と接するように気をつけないといけないんだよな。

そう考えたところで僕はこの村で生活をすることを選んだわけなのだが。その理由が彼女の存在が大きかったりするのだよな。僕とユノの関係は一言では説明しにくいのだが、それでも強い言葉で表現するとすれば、ユノは僕の大切な存在であるといえるだろう。

ユノの持っている能力というのは本当に不思議で。この子には他人から嫌われているということはない。なのに何故なのか分からないけど僕には特別良くしてくれるのである。だから僕にはそれが凄く嬉しくもあり、それと同時に寂しさを感じてしまうこともあるので複雑だった。そんな感情を抱くことになってしまう理由のひとつにはこの子の持つ能力に秘密があった。彼女は相手の心を読めるのである。それはつまり相手が何を考え、どのようなことを望んでいるかを知ってしまうということである。だからこの子が僕のことを好きだというのは本当だ。しかしそれは彼女が幼いがゆえに、そういった恋愛というものに憧れを抱いているからに過ぎない。つまり彼女は僕のことを異性として好きなわけではないのだ。

しかし僕はユノのことが好きだったりもしているので。そんな風に思うと悲しかったりもする。なので複雑な気分になることが多いのだ。それでもやっぱりこの子の傍に居たいと思うのでこの子の優しさを利用していたりするんだよな。そう考えてみると自分が嫌になるが。しかしどうすることも出来ないというのが本当のところである。なので僕はこの子に自分の思いをぶつけることはしなかったのだ。そう、それで良かったと思っている。何故ならば僕とユノの間には決定的な差が存在していたからだ。僕は男、だけどこの子は女の子であり、僕が彼女に思いを伝えてもそれはきっと受け入れられるはずもなく。この世界は同性愛など認めてはいないのだから当然のことだ。

それにしても今日もユノちゃんと一緒にいられて楽しいです。それに最近は僕たちの村にやって来る冒険者たちの数も大分減ってきたので、暇な時間も増えてきました。それに加えて最近は村の住人が増えてきて、皆がそれぞれの仕事をして日々の生活を送っているんですよ。もちろんその中心に立っているのは子供たちで、大人たちに混ざって一生懸命頑張っている姿は見ていて可愛らしいものです。しかし中にはそんな子供たちを快く思ってはいない人たちがいるというのもまた事実。子供がいることで自分たちの仕事を取られてしまったという人もおり、その人たちは子供の面倒を見ている僕たちに向かって悪態を吐いているんです。

しかしそれでも僕は別に気にならなかったんですよ。僕はこの村のみんなと仲良くしていきたいと思っているから。そのために出来る限りの努力はしていこうと思っていますし、そのおかげでこの村も賑やかになってきましたからね。

しかし僕としてはこのままの状態では駄目だと分かってはいるんです。僕たちが努力をしていけばいずれこの村の環境が良くなっていくはずだからです。そのためにはまず村人を増やすということが重要なわけで。そのためにも今以上に村が発展していくことが必要です。そうすることでこの村の存在意義を周囲に知ってもらうことができるわけなんです。そして最終的には魔族との戦争を終結させることができればいいかなと思っていたのです。そうすればこの村は平和になりますしね。

しかし現状としてはかなり厳しいものがありますよ。だってこの国の国王は勇者を使って戦争に勝つつもりなのですから。そんなことは間違っていることだと思うのですが、僕のような立場の人間には口を出すことは出来ない。それは分かっているのですよ。でも僕はそんな間違った方向に進んでいるのを放ってはおけないというか、そんなことが許されて良いわけがないと考えているので、僕にできる範囲のことをしようと考えています。なので今はこの村に住んでいる人たちが安心して暮らしていける場所を作ることに集中していたりするのですよ。

さて僕は現在、森の中にいた。というのもこれから行うことについて色々と考えておきたかったのだ。なのでいつもは近寄らない森の方へと足を踏み入れたのだ。そこでしばらく歩き続けていると、魔物を発見したので剣を鞘から抜いて攻撃に移ることにする。

まず僕が試したいのは新しい武器を創造する方法だ。しかし僕が作り出せるのは自分の知っている道具だけでしかないため、それをどうやって改造するかを考えていたのである。

(とりあえずどんな形のものを創り出すかを決める必要があるんだけど。どういう形にするかだよな)

今までは鉄の棒を使っていたがそれを槍のように尖らせたいと考えていたのだ。そして先端の部分に刃を付けることによって、切れ味を向上させることが出来るのではないか? そんなことを考えていた。そしてその通りに行動したのだ。

その結果は成功したのだが、同時に問題点にも気づいたのであった。それは――僕の魔力を消費するという欠点があったのである。僕はそのことを頭に入れて行動に移すことにした。

僕はその後、試行錯誤を繰り返して新たな技術を生み出していったのだ。そしてそれが出来たときにはかなりの疲労感に襲われて動けなくなっていたが、これは成功といっていいのかもしれない。なぜなら僕は新たな技を生み出したのだから。しかもその力を使えば簡単に木を削ることも出来ると知ったので今後の生活に役立つだろうなと、僕は確信したのである。しかしここで気を抜いてしまったのは失敗としか言いようがないだろう。何故なら――

『名前:真紅郎 Lv20 →Lv10』

「あーーー」

僕はあまりの強さの差を見せつけられたせいで情けなく叫んでしまいましたね。どうしてこうなったんだろうな。そんなふうに疑問を抱きながら僕は意識を失っていく。

(ああそういえばこの世界に来てから僕はよく倒れてばかりですね。でも今はそれも悪くないかも)

そう考えながら僕は意識を手放すのだった。

それからどれぐらい時間が経過しただろうか、僕はゆっくりと目を覚ましたのである。しかし体が動かないのだ。いや正確に言うのであれば感覚がなかった。まるで僕自身がなくなったかのように感じるのでこれはこれで不気味ですね。そして周りを見渡してみるとここはどうやら洞窟の中みたいである。そして僕はこの光景を見て思い出していたのだ。僕が最後に覚えていることを。

「そうだ、たしか僕は何もしていないのにレベルが上がったんで驚いていたら気を失ったんでしょうか」

あれだけの実力差を見せ付けられたわけですし。無理もないのかもしれません。そう思った僕は改めてステータスを確認した。するとやはりそこには信じられないような数字が表示されていたので僕は絶句してしまうことになる。しかしそれでも冷静になった僕が出した答えはこれだ。

(もしかしてあの時の戦いで何か特殊な力が目覚めてしまったのか?)

僕が生み出した力にはそういう効果も含まれていたのかと思い込んで、そういうものだと納得するしかなかったのである。

(しかし本当になんなんでしょうね?)

そんなことを考えながらも僕が立ち上がれるようになった頃には、外は完全に日が落ちていて暗くなっていた。そしてこの暗闇の中ではどうすることもできないので、今日はこの場所で休むことにしようと決める。僕は魔法を使って火の明かりを作り出し、それによって周囲が見えてきた。僕は周囲を眺めてから自分の身に起きたことをもう一度確認する。そしてようやく理解が追いついたとき。思わず叫びそうになった。なぜなら――

この世界のどこかにあるという伝説の秘宝を手に入れなければならないのだから。しかしそれは簡単な話ではないとすぐに分かるわけで。

僕は今の状況でどうにかできるのかを考えなければならなかったのだ。なので僕はこれからのことを考えると憂鬱になってしまうのである。なぜなら僕の能力ではまだそこまで遠くまで探索を行うことができないからだ。それは先程行った実験ではっきりとわかったことだった。

(それにしても僕ってば何をしてたんですかねぇ。いくら記憶が無いとは言え、あんなにも疲れるほどの実験をするなんて。いったい何のために行っていたのでしょう。そもそも僕にそういう趣味があったんですかね?)

自分でも良くわからないことだらけなんだよな。ただこれだけは言えてしまう。こんなことはもう二度としないと。それはなぜかと聞かれれば。その理由を説明出来ないからなんだよね。だから今の気持ちはただただ怖いだけである。もし次にまた同じ状況に遭遇したとしたならば。その時の僕の精神が持つかどうかは怪しいだろうなと思った。

(まぁそんなことは起きないことを祈ってますけどね)

とりあえず明日になればある程度は元気になっていると思うので、それを確認してから外に出てみようと決めた。しかし僕が眠っていたこの場所には何も無いようで、これといった収穫は得られなかったのである。

(それにしても何もないというか、あるといえばありますけどね)

それは僕の装備一式だったのだ。それはつまり僕がここに落ちてくる時に身につけていたものだったということである。なので僕が寝ている間に誰かが拾ってくれたという可能性もあるが、僕に装備品を身につけさせてそのままにしておくというのは考えにくいと思うのだ。なのでこれは最初から僕に装着されていたと考えないとおかしい。つまりこの服は元の世界にあったものということだ。

(ということはこの異世界では手に入らないはずのものなので、もしかしたら元の世界に帰れる方法を見つける手がかりがあるかも知れませんよ)

僕はこの事実を喜んだのだが。それでも少しだけ引っかかることがあって複雑な心境になってしまった。何故なら僕はこの世界に来る直前の記憶が完全に消えてしまっていたからである。それは恐らくこの世界で目覚めたことと何か関係があるのだと思う。だから僕はその辺りを調べていく必要があると感じて、まずは自分に起こったことをしっかりと調べていこうと考えたのであった。

ただここで問題が出てきてしまう。それは僕のスキルで出来る事のほとんどを把握していなかったということ。僕はこれまでずっと剣を創造するという行為に頼り切っていて、それ以外のことは特に何もやって来なかった。それに自分の能力をしっかり知ろうともしなかったのだ。だからこそ今になって後悔しているわけだが、その問題をクリア出来なければこれからの行動を制限されてしまうという可能性が出てくる。

僕はそれを防ぐために出来る限りの努力をしないといけないと思っていたのだ。だから僕は自分にできることを確認するためにも、ステータスを確認していたのである。そこで判明した事実。まず僕には魔法を使うことは出来ないということが分かった。これには僕も驚きを隠せなかったが。それと同時に別の疑問が湧いて来たのだ。僕が剣で戦っているときは確かに魔導士系の職業だと思われる表記が書かれていた。しかしその時には魔導剣士と表記されており、魔法を使っている様子は見れなかった。

しかし今になって魔導師という表記に変化していたのだ。そのことについて考えている内に思い当たることが一つだけあった。それは魔族との戦争での出来事。僕はこの体で初めて戦った時のことを思い出したのである。そういえばあの時は何故か魔法の詠唱なしで使うことが出来たんだっけ? 僕は不思議だったので、試しにファイアーボールを唱えてみた。そしてその効果は想像以上に強力で僕が一番最初に創造した鉄の棒で放ったファイアアローよりも強い威力になっていたのである。この変化については考える必要がありそうだと僕は考えたのであった。

翌日になると体調は回復していて、動くことが出来るようになった。

「うわーー」

僕は感動の声を上げながら立ち上がると、その場で屈伸をしたりして動き具合を確かめる。そして軽くジャンプしたりしてみるが体に異常はない。むしろ以前よりも身体能力が上昇していたのだ。これは昨日の成果と言えるのかもしれないが、それでもここまで上昇してくれると思わなかったのである。だから僕は喜びながら笑ってしまう。そしてそんな状態のまま森の奥地を目指して歩き出していくのだった。(やっぱり新しい武器を手に入れたからなのでしょうか?)

僕の持つ新しい力。それを上手く使えば簡単にモンスターたちを倒せるはずなのだが、僕はあまり使いたくはなかった。それはやはり剣で戦うのが好きだということが大きいが、それ以上にあることを期待していることが大きな理由だった。それはもしかしたら自分が望んでいるような特別な力を秘めた武具が見つかるのではないかと考えていたのだ。だから僕はこの世界に存在する全ての物に感謝しながら奥へと進んでいくと。ついに魔物の群れを発見した。

(あれ? なんか数が多くありません? それに種類が多いというか)

僕の視界に入ってきた情報は複数の種類のモンスターがいるように見えたのだ。

「ゴブリンが五体、ウルフが四体、コボルトが一体にオーガ二体ですか」

さすがに多すぎませんかね? 僕がそんなことを考えていると突然。

『名前:真紅郎 Lv30 →Lv1 』

と目の前に現れたのである。これはどう考えても僕のレベルが上がったからだろうな。しかしそれよりも問題なことがある。何故ならその現象は周囲にいたモンスターたち全員に起こったのだから。そしてこの場にいる全員がこちらに注目したのだ。そして僕の存在を認識したことで彼らは警戒心を強くした。それは当然のことだろうと僕は思った。

(いきなり僕みたいな子供が現れたんだからね)

しかしそれで引く訳にもいかない。なぜなら僕の目的はこの先に存在している遺跡だからだ。

(あそこを何とか突破しないければ。もしかしたら僕の欲しいものがあるかも知れない)

だからここで退くわけにはいかなかったのだ。僕は覚悟を決めると一気に飛び出す。そうすれば必然的に戦いが始まるので、この機会を逃すまいと次々に敵を斬り裂いていった。

(うん? 体がいつもより軽い。まるで風になったみたいに体がスムーズに動いている。これってもしかして!)

この世界にきて一番嬉しかったことであるのと同時に、この能力が発動してくれたことに僕は歓喜する。それは今まさに望んでいた状況であり、僕が待ち望んでいたことだったからだ。

(これが僕が強くなったという証拠ですね)

僕の動きは普段と比べるまでもなく格段に向上していた。しかもその恩恵を受けた体は、僕の意思通りに動かせるようになっている。今まで以上の力が出せるようになり、この状態での戦いに慣れていない相手だと苦戦する場面もあったのだが。それでもどうにか乗り切ることができた。その結果――

僕の周囲にはモンスターの亡骸が大量に転がっており、このフロアを制覇することに成功したのである。

「よし!」

そのことに僕は喜びの感情を抑えることが出来ずに思わず叫んでしまった。しかしすぐにここがダンジョンの中であることを思い出して、慌てて周囲を確認し始める。すると他の敵が出てこないことを確認できたので僕はホッと胸を撫で下ろしたのである。そして僕は先に進む前にステータス画面を開くことにした。

そうしないと倒したモンスターたちがどこに消えたのか分からなくなるからである。

僕の視界には倒した敵のリストが表示されていた。そこには名前が表示されているので誰がどうなっているのか一目瞭然だ。

(ゴブさんと、ホブさんは、ちゃんと消滅しましたか。それと、スライムにコボルトに、おぉ!? ウルフがドロップ品になりましたね)

まさにゲームのように消えて行く様子を目の当たりにした僕は感嘆の声を上げたのだ。そして僕はさらに下の階層へ進むための準備を始める。それはこの場所で見つけたものを回収しなければならないと思ったからだ。この世界では何が起こったとしても不思議なことはないのだから、僕は自分の力で手に入れた物を有効利用しようと考えたのである。

それから僕はアイテムを回収するために走り回った。この世界は思っていた以上に危険だらけの場所で、気を抜いた途端に命を落とす可能性もありえるからだ。だからこそ僕は慎重に行動する必要があったのである。しかしそれでも全てを見つけることはできなかった。なので僕の手元に残っている物はほんの一部だけで、それも回収できるものは限られている。

(うぅ。せっかく装備一式を見つけて使えると思ったのに)

残念なことだが仕方がないよね。僕は自分にそう言い聞かせて気持ちを切り替えることにした。

ちなみに僕は今持っている装備の中で気に入った剣を取り出し、それを片手に持ちながら移動をしていた。だって剣を持ったらつい使ってみたくなってしまったので。でもやっぱり慣れない内は扱いにくいということが分かったので僕は少しだけガッカリしてしまう。それにまだ残っている道具は僕にとっては使えない物ばかりだったので捨ててしまった。だからもうここには何一つ残ってはいない。だからもう引き返すしかないんだけど、それでも何か残っていないか探索を続けているというわけだ。

(だけど結局何も見つからなかったかぁ。まぁ仕方ないか。今回は諦めるしかなさそうだね)僕がそんな風に肩を落としている時だった。突然足元が崩れて下に落ちて行ってしまう。

「は?」

僕はその出来事を理解することができなかったが、ただ分かることは下が暗くて何も見えないということ。そしてこの空間では魔法を使うことは危険なことくらいである。つまり僕は何も抵抗できずに、そのまま暗闇に飲まれてしまうのだ。

(あーれーー)

僕の叫び声だけが響くが、もちろん誰にも聞こえてなどいない。なのでこのままどこまでも落ち続けていきそうな感覚に陥るのだが、それは間違いであったことを直後に知る。僕は急に明るくなっていく光景を見ながら、そのまま光の中に消えていったのであった。そして目を覚ますと僕はベッドの上に寝ていたのである。

(あれ? なんで僕は生きているんだろう?)

もしかして夢落ちということなのか? しかしそれはあり得ないはずである。それなのにこうして生きているということは、やはり僕は死んだということなのだと思う。

「う、ぐす。よかったよ~本当に死んじゃったかと」

「あの大丈夫ですか? もしかして泣いていますけど、どこか痛いんですか? それにあなたの名前は?」

僕の隣には金髪の少女がいた。

「ごめんなさい。えっと、その、名前、は、私は、マコト。真紅郎、君と同じ、日本人」

僕が目覚めたことで安心したのか、泣きじゃくっていた少女が笑顔を見せてくれた。しかしその顔は悲しんでいるように見えた。それは彼女が僕を助けようと頑張ってくれていたことが伺えたからだろう。だからこそ僕は感謝を伝えたいと思っていた。しかし僕が口を開こうとするとその前に彼女は立ち上がり、部屋の外に向かって走って行ってしまう。そして扉を開けるとそこに立っていた人物に飛びつくようにして抱き着いたのだ。その人は僕のよく知っている人だった。そうあの人だよ。

「真央、大丈夫かい? 良かった。無事に戻って来れたんだね。本当に、心配していたんだよ」

僕が目覚めて安心したことで彼女の目元には涙が溜まっていた。それを優しく拭っているのは僕のお父さん。この人が真紅郎の本当の父親なのである。そしてこの世界に転生する前の真紅郎を育て上げ、愛情を与え続けてくれた人であった。だからこそ僕もこの人を心から愛しており、本当の両親だと思っているのだ。

しかし今の僕の目の前にいる二人は僕の知らない人達。だから僕はどう反応したらいいのか迷ってしまい、二人の邪魔にならないように黙っていることにした。だから今は二人だけの会話を優先させてほしいと心から思う。しかし僕はふとあることに気付いた。

この二人が親子として仲が良いように見えるのだ。だからもしやと思い、僕とお母さんの関係を思い出してみると。

うん。僕が一方的に懐いている感じになっている気がしますね。

これならきっと仲良くしてくれるんじゃないかと思っちゃったりしている僕ですが。

そしてしばらくして僕たちはお互いの名前を知ることになった。そうしないと話が噛み合わない部分が出てくる可能性があると言われたからだ。だから僕は自分なりに考えてみるが特に思い当たるような記憶はなく、困り果てていた。そんな僕の表情を見て両親は困惑した顔を向けていたが、そんな僕の事情を話したら二人は驚きながら頭を抱えてしまっていた。もしかしたら僕は相当厄介な性格の持ち主と思われているのかもしれない。しかしそれが事実だったのは認めるしかなくて、むしろ反論できない。何故なら今までの記憶が全く無いので僕としては認めざるを得ないというのが現実であるからだ。しかし僕も前に進む必要があると思ったので、どうにか前向きに考えてみることに決めるのだった。

とりあえず僕には前世がある。

この世界を一度経験した上でまた違う世界に生まれ変わったのが僕。だからその知識を活かして生きていけたらいいのではないだろうか。この世界について詳しいのは間違いなくこの世界で生まれた僕だろう。だからこそ僕が先頭に立ってみんなを引っ張っていくべきだとも思った。だって僕はまだ子供だし頼りになるとは思えないから。だから少しでも力になれるようになろうと決めた。

だからまずはこの世界に生きる為の知識を得る必要があると思って僕は質問をしたのだ。

「すみませんがここはどこですか? それとこの国はいったいどういう場所ですか? それにどうして僕は倒れていてここにいるんですか?」

「ちょっと待ってくれ。まさか君は自分が何をしたのか分かっていないのか?」

僕の言葉を聞いてお父さんはすぐに疑問をぶつけてきた。僕はそれに素直に答える。すると二人はさらに驚いていたようだが、その後で何かを相談するように話し始める。

僕はその内容に興味があったので聞いてみたのだが、どうやらそれは秘密にしておきたい内容だったらしく、すぐに教えてくれることはなかった。

なので僕は諦めて他のことについて尋ねていく。

その方が時間を無駄にしなくて済むと思ったからだ。だから次に僕が尋ねる内容はこの世界のことだったりする。

だってさすがに僕のことが分からなかったら、これからの人生をこの世界で過ごしていける自信がないもん。だからこそ僕は真剣に尋ねた。そしてその結果、ようやくこの世界のことを知ったのである。そしてこの世界に生きる人々がどうやって暮らしていて、どの国がどこの場所に位置しているのか、その辺りまで分かった。まぁこれぐらいのことを知っていれば、少なくとも道に迷うことはないはず。

だって国の名前が違っても地形は同じだと思うので覚えること自体は難しくない。そう思って僕は気合を入れる。

(うん! これで僕もこの世界で上手くやっていけるよね!)

この時の僕は自分の置かれている状況を理解したつもりでいて、まだ甘い認識しか持っていなかった。なぜならまだ僕は自分がどのような存在であり、どうしてこのような状況になってしまったのかを知らなかったのだから。そしてそれを教えられるまでは僕にとって厳しい人生が待っているとは夢にも思わずに。だけどそれでも僕は精一杯努力してみようと決めていたのであった。

この世界で初めて目を覚ました日から数日が経過した。

僕はすでにこの世界の生活に慣れ始めている頃で、最近では一人で外に出たりして街の様子を確認したりしている。だから街の中であればどこにでも行くことができるようになっていたのだ。そして今日もお店のお手伝いをするべく朝早くから店番をしてお客様の相手をしたり、商品を作ったりと忙しく過ごしていたのである。

その最中、一人のお客さんが店に入ってきた。

お昼にはまだまだ早いのに珍しいなぁ。なんてことを考えながら、その人の顔を見た僕は一瞬固まることになる。その相手というのは僕のよく知る人物――つまり僕の実のお父さんであったのである。

僕はその姿を見て驚きながらも、内心で焦っていた。だってこんな所で会えるとは思ってもいなかったから、完全に予想外で対応に困ってしまったのである。だっていきなり過ぎて、しかもお父さんの様子がおかしいのだ。もしかして気づかれないかな? そんな淡い期待を抱いて話しかけた僕だが、あっさりと気付かれてしまったので苦笑いを浮かべるしかない。そういえば昔からこういう人だったっけ。僕は改めてその事を思い出していた。だけど今の状況を考えれば喜んでいる場合ではなかった。だから少し警戒しながら声をかけてみることにしたのである。

(えーっと、あの、久しぶりだね)

「え、えぇ。その、元気にしているようで何よりです」

うわぁー。すっごくぎこちないよー。でも仕方がない。この人を前にした時だけは僕は普通の子供として振る舞えないからだ。それはもう緊張してしまうから。だからこそ普段よりも口下手になってしまうし、いつものように接することができなくなってしまうのだ。

そしてそんな僕の態度の変化は当然相手に伝わってしまうもので、その表情が険しいものになっていた。しかしそれも無理はないかもしれない。僕はこれまで一度も家族と会うことができなかったのだ。もしかしたら嫌われているのかもしれないと思っていた。もしかしたら死んで欲しいと思っているのではないか。そう考えてしまうと怖くて、なかなか会いに行く勇気を持てないでいた。そして僕自身もこの気持ちの正体が何なのかが分からずにいたのである。

(ま、まぁいいや。それより聞きたいことがあったんだった)

僕は話題を変えることにした。これ以上追及されたくはなかったのである。なので別の話をすることにしたのだ。

僕はこの国の事を尋ねてみたのである。そしてその返事は驚くべきものだった。それは僕の両親がこの国ではかなりの実力者らしいという情報を得たのである。

(って、なんじゃそりゃー!?)

これには本気で驚いてしまったよ。

だってあのお父さんとお母さんだよ? 信じられないし、嘘だろと言いたくなっても仕方がないことじゃないだろうか。いやだって、あんな普通で温厚な性格なのに実は超有名な人だったなんて想像できる? それに実力がどうのこうのレベルの話じゃなく、実際に二人には二つ名がついているんだ。その凄さを実感するしかないよ。

その名は――『無謀王』と『破壊者』。うん、意味分からないね。なんだろうねこれ? なんかカッコいい響きの名前だけれど、なんなんだろうね? そして僕はその説明を聞いた時に、その正体を知った。その人はかつて異世界召喚に巻き込まれた人物だというのだ。しかしそれだけではなく、その人はダンジョンを攻略すべく戦い抜いたのだという。しかしその結果、命を落としたはずだったそうだ。それがこうして転生したということなのだと聞いた時にはさすがに呆気に取られてしまった。

いやいやそんなことがあり得るわけないだろうと思ったのは言うまでもないことだよ。そもそも異世界で死んだ人は元の世界には戻れずにこの世界で一生を終えることになっているんだから。それが例外となるのはダンジョンを攻略した時のみと言われている。そしてそのダンジョンで死ねば魂ごと消滅し、この世界に来る前の時間に戻されると聞くのだ。だからこそその話を聞いた時に、僕は思わずお父さんの顔を見つめてしまっていた。その目はとても真っ直ぐに僕を捉えていたのである。

「そんなに見つめられたら恥ずかしいんだけどなぁ」

照れたように笑っている姿は昔見たことのある笑顔で。やっぱりこの人が僕の知っている人なんだと感じさせられて嬉しかったけど。それ以上に疑問もあったのだ。

何故なら僕の記憶の中にあるお母さんとこの人が同じ人だったからだ。

だって明らかにお母さんの方が綺麗だし、性格も良いと思うから不思議でしょうがなかった。だからついつい僕は聞いちゃったんだよ。お母さんのことをどこから知ったのか。そしたら答えてくれた内容を聞いて納得した。お母さんは元々冒険者をしていてこの国に居たのは僕が生まれる前だったみたい。そしてこの世界で再会した時に結婚したのだと教えてくれた。それで僕は思い出したのである。あーそうかそうだったのかと、僕は心の中で理解していた。そして心から感謝したい気持ちになったのだった。だってそのおかげで僕はこの世界で幸せに生きていけているような気がしたからだ。

(まさか僕を育ててくれていたのがお父さんで、この世界に生きる為に頑張って色々と知識を与えてくれていたなんて思わなかったな。だって僕の前世の話を信じて協力してくれたりしてさ。ほんと優しいな。ありがとう、お父さん。僕、絶対にこの世界で一番の職人になるからさ。だから安心して待っていてください!)

僕はこの時初めてこの世界に対して前向きになれていたと思う。だって今まではどうしても前世の記憶を引きずっていたところがあった。だってその記憶の中に大切なものがあると信じて疑っていなかったのだから。だけどそれは違ったのだ。だって今の僕は間違いなく僕だから。だから前世とは関係のない新しい人生を生きていくべきだと考えを改めたのである。そしてそれは僕の人生をより良いものにしてくれるはずだ。

僕はお父さんとの会話を終えてすぐに店番に戻ることになった。そこでお客様から様々な商品について聞かれたので僕は自分の出来る範囲で対応したのであった。ちなみにその人達はこの辺りに住む方々ではなく、近くの都市に住んでいる常連さん達ばかりだったのである。そして僕はそれらの商品の説明を行いつつお買い上げしてもらうことに成功できた。その売り上げを見て喜んだ僕が次にしたのは、すぐにお金を受け取って金庫にしまうことだ。

「うん、大丈夫。まだ余裕はあるし。あと一ヶ月ぐらいは平気かな?」

一人満足そうにつぶやいたのであった。その声に反応したお姉ちゃんに僕は尋ねられる。するとすぐに僕に仕事の内容を教えていたお兄ちゃんに尋ねている様子が視界に映ったのである。僕はすぐに二人の方に視線を向けると、どうやら二人は僕に仕事を教える為に残ってくれていたようだ。だから二人はその話をしていたらしい。

(うわぁ。また悪い癖が出ていたのかも)

僕には物覚えが悪くてもやらなければいけない事があると我慢して仕事をしようとするという悪いクセがあった。それを知っていた二人は心配して、何かあった時の対応策まで一緒に考えてくれるようになったのである。それはきっと僕のことが好きだからだろう。でも僕はその優しさに申し訳なく思っていた。

(せっかく二人とも僕のために色々と教えてくれるのに全然身に付かない)

僕が頭を抱えているとお父さんは僕の頭を撫でてくる。そして優しい声音で話しかけてくれるのであった。

「まぁ焦らずゆっくりやっていこう。お前は今はまだ子供だ。そして俺の自慢の息子だ。いつかは俺を追い越して立派になってくれるはず」

「うぅー。追いつける自信が無いよ」

「ハハッ。まぁその内に分かるさ」

「ううっ。そういえば最近僕に剣を習いたいと希望してくる人が増えたんだ。でも皆弱いから嫌なんだけど。もっと強くなりたいって言われてるのに断ってるの。どうしてかな? 強い人はいくらいてもいいんじゃないかなって思うんだけど」

僕の疑問は最もであるはずだ。だってこの世界において強者は絶対に必要なのである。それはダンジョンに挑む為であり、もしも魔王が現れた場合に備えての事でもあった。でもその事をまだ幼い僕の言葉で上手く説明できなくて悩んでしまっていたのだ。しかし僕の考えとは別にお父さんの回答は全く予想していないものだったのだ。それはあまりにも意外な内容であった。なぜならそれはこの世界の常識を覆してしまうほどの内容であり、そしてお父さんが僕の力の秘密に気づいていたと言わざるを得ない言葉であったのだ。

僕には特殊なスキルがあって他の人には無い特別な力を使えた。その事はすでに両親にも説明しており、もしかしたらこの世界でも役に立つかもしれないと喜んでいた。だからこそお父さんはそんな僕の言葉を肯定してくれたのだが。しかしまさかその力が戦闘系ではなかったとは考えもしなかったらしい。つまり僕の能力は鍛冶に関する能力だということだった。それもただ単純に生産が出来るだけではなく、僕の思い通りの形状や材質を作り出すことが出来るというのだ。その能力を簡単に言うと、僕が作った物は僕の思った通りに作り替える事が出来るらしい。しかもその効果はこの世界にある魔法よりも強力だと言われた。その話を聞いた時に僕はかなり驚いたが、同時にこの力があれば何でも出来そうな予感がしたのだった。だからお父さんは期待を込めて僕に声をかけてきてくれたのだと思う。それはこの世界で僕にしか使えない武器を作ることが出来るのではないか、と期待してくれていたのだ。しかしそれでもお父さんの考えとは違い、この世界では使い道のないものであったのは残念なことだった。だから僕はそのことを伝えると、少し悲しそうにしていたが仕方がないと諦めてくれた。しかし僕が作れるものが本当に少ないと知ると、その可能性を広げるために協力しようと申し出てきたのである。僕はこの人の役に立てるなら嬉しいと思い、喜んでお願いしますと答えるのだった。そして早速次の日から色々な作業を行っていくのである。

その作業は大変ではあるけれど楽しいものだった。

そして僕の作ったアイテムで多くの人たちが救われることを祈っていたのである。

僕の生活は忙しい毎日が続いたけれど、とても充実した日々を送っているのは間違いなかった。それに最近では僕の作るものに興味を抱いた人が買い求めにきてくれるようにもなったので僕は大喜びだ。

それから僕の店に訪れるお客はどんどん増えていき、僕の作る品を求める人々が増えていくことになるのであった。

僕は今日も店の商品を整理しながら過ごしていた。

すると突然店の奥からお父様の声が聞こえてきて。僕は驚いてしまったのだ。何故ならお父様に頼まれて店に卸している道具は僕にとって思い出のある物ばかりなのだ。それは前世で作った思い出の品。その全てをこの世界で再現したものなのだから当然のことだろう。そのどれもこれも僕にとっては大切な想い出深い物であることは確かで、それを大事に使っている人もいる。そしてその人達のおかげで僕は自分の作った物の有用性を知ることが出来ているわけで。それを考えるとやはりお世話になった人が困っているならば手を差し伸べるべきだろうと思えたのだ。だから僕はすぐに店番のお兄ちゃんと交代で奥の部屋に向かうことにする。するとそこではいつものように笑顔で迎えてくれるお父さんの姿があった。僕はその姿に安心すると共に、お礼を言われたのである。どうやら僕の作っている魔石入りの水差しは評判が良いらしく、かなり需要が高いとのことで追加注文を出してくれたようだ。僕はそれを聞いてホッと胸をなでおろしていた。

実はこの数日前に、僕はダンジョンで採れる鉱石に新たな変化をもたらすことに成功していたのだ。その鉱石を僕は魔鉄と呼んでいたのだけれど、これがなかなかに凄いもので。このダンジョンから採取される鉱石の全てが純度の高い魔力を帯びたものとなっていたのだ。

だから僕としてもまさかこの世界で魔石を精製することが出来るとは思っていなくてビックリしてしまったほどである。だからこそ僕はダンジョンの下層に足を踏み入れてみた。その結果、そこにはこの世界で初めて遭遇したゴーレムがいたので、僕はこのモンスターを利用して更に上質な武具を作ってみせることを心に決めた。そこで僕が新たに考えた案は魔石の魔力を使い、様々な形状の金属を作ることだった。これは今まで僕自身が作り出したことがないタイプの素材だったけど、この世界に来てからは何故かイメージ通りの形を生み出すことが可能だったので、これ幸いと利用させて貰ったのである。僕はこの方法を使えば面白いものを沢山作れるような気がした。そこで僕が思いついたのがオリハルコンの加工方法とアダマンタイトと呼ばれる希少金属の精製方法である。そして僕はその二つの材料に、お馴染みのドラゴンの鱗を使ってみることにしたのである。これらの素材は以前手に入れたことがあり、その時に錬金術師が使っていたレシピを再現して見せたので、僕はこの世界に存在しているものだと勝手に思っていたのだけど。実際は違うと知った時はショックを隠し切れなかった。

そもそも錬金なんて存在していなかったのだから当然なんだけど。しかし実際に存在しなくても僕に出来るのだから関係ないと思ったのである。だからこの機会を逃すことなく僕はこの世界で最初に手に入れたあの伝説のアイテムを使用して、その技術をこの世界に蘇らせようと目論んだのである。しかし僕はこのアイテムの使用方法が分からず、仕方なくお店の常連さんに相談することにした。

するとその人は僕に対してこんなアドバイスを送ってくれたのだ。その言葉はとても印象深く、僕はすぐに試すことにした。しかしその人は他にも様々なアイデアを教えてくれ、それが今後の僕の行動を大きく変えることになるとは思わなかった。その人は僕から話を聞いていたのだけど、僕と同じように異世界から来た人なのでその知識を僕が使うことに興味を持ってくれていたのだ。そして僕が色々と聞いてきたことに親切に答えてくれるだけでなく、色々と知識を分け与えてくれて、今では僕の中で先生のような位置付けになっているのだった。そしてその人のおかげもあってか、ついにこの世界でも新しい技術が生まれることに成功できたのであった。

ただ、これには大きな問題が一つあって。その方法は今まで僕がやってきた方法ではない、つまり全くの新発想のやり方である。しかし、その事に関しては僕は気にしていない。なぜならこの世界の住人に受け入れられない可能性の方が高いと思っていたからだ。僕にはこの世界での経験があり、その上で生み出した方法をこちらの世界の人々に認めてもらいたい気持ちが強かったからである。しかし結果としては、僕はこの世界で僕しか使えない武器の開発に成功していた。

僕が初めてダンジョンの最深部で入手したこの世界の理から外れた不思議な鉱物。この鉱石はなんと、他の世界の物質であるにも関わらずこの世界の常識の範囲内で効果を発揮できるのであった。それは僕にとっても驚くべき結果であり、同時に興奮を覚えるほどの出来事でもあった。

この世界において僕の力は他の人と比べて明らかに強い。そしてそれはこの世界に来た時からそうであった。しかし僕自身にはまだ自分が特別だという認識がなく、周りの人からの好意は理解できても、なぜここまで皆が優しいのかは分かっていなかったのである。でもこの世界に僕しかいないと知ってからは流石にその理由にも気づき始めてきたのであった。でも僕は自分よりも弱い人を見下したり、威張り散らしたいと思っていない。むしろ助けになりたいと思っているくらいだったんだ。そんな風に僕を導いてくれた人が目の前にいる人で。しかもこの人も元は別の世界から来て色々と苦労したと教えてくれた。でもこの人には僕の力のことは伝えていないし、今後も話すつもりはなかった。何故なら僕もこの力についてはまだ完全に把握しきれてはいないのだ。下手したら僕の存在はこの世界を崩壊させてしまうかもしれない危険な能力でもあるわけだし。ただでさえ僕は魔王の力まで使えるようになってしまっているのだから尚更なのだ。それに僕だってこの世界が好きだ。そしてその世界にはこの人と、その奥さんと子供と、僕を受け入れてくれた町の皆がいる。それだけで充分過ぎるほど満足なのだ。だから今はこのままでいい。僕も僕ができることを最大限にやっていきたいと思う。だから僕は僕の出来る範囲でこの力を皆のために役立てていければいいと本気で思っている。そんな事を考えながら作業を続けているうちに僕は作業場に到着したのであった。

僕の作った武器を鑑定して貰うと、その効果は想像以上に良いものであることが判明してしまった。

お父様はその事を確認すると大喜びで僕のことを抱きしめてきたのだ。お母さまもとても嬉しそうで僕自身も思わず頬が緩んでしまう。

僕は早速その武器をお店の棚に並べて宣伝するようにお願いする。すると早速その日のうちに多くの人がお店に押しかけて来た。それを見ただけで僕もとても嬉しい気分になる。しかも中にはこの店のお得意様であるお金持ちの人々もいた。彼らはいつもお金に余裕のある生活をしている人たちばかりで。そんな人達が買ってくれるとは思っても見なかったのでビックリしてしまったのだった。

そして僕が作っていた武器が評判になって数日経った頃に事件は起こった。

お店の外から悲鳴が聞こえて来たのである。何が起こったのか分からないが僕はすぐに外へ飛び出した。そこで目にした光景は悲惨なものであったのだ。まず僕が作った剣を手にしていた男性の首が宙を舞い、そして次の瞬間にその首が地面に落ちたのである。僕が作った剣で殺された。それは一目瞭然ですぐに分かったのだ。しかし僕の体は動かなかった。

どうしてこのような事態が起こってしまったのか。

一体この惨劇は誰が起こしたものなのか。それを僕は考えながら呆然と立ち尽くしてしまう。そこで僕の視界にある人物が入り込んできた。それはいつも僕の作った魔道具を購入しに来てくれている常連の男性で、その顔はよく知っているものだったのだ。しかしその人が持っていたものはいつもとは違う雰囲気の物で。僕は咄嵯にその男性が何をしようとしていたのかを理解する。

(こいつ――まさかお店の商品を盗もうとしたんじゃなくて。自分のものにしようとしたってことか!)

その男性の目が虚ろだったことを考えるとその結論に行き着いたのだ。

この人はきっと精神を支配されている。それ故に僕のお店の商品を狙って犯行に及んだのだろう。その証拠にこの人が握っていた物はお店で取り扱っている品ではなかったのだ。それは僕自身が作成した武器で、本来であればお店では扱っていない。なのにその商品を持っているということは僕から商品を奪って売ろうとしているに違いないのだ。だから僕から商品を奪おうとしたこの人を僕は全力で止めた。僕自身が作り上げた最高傑作でお店に置いてある品々には手を出して欲しくなかったからだ。しかしそれでも僕は止めることが出来ずに殺されてしまった。それを考えると自分の無力が悔やまれ、同時に自分の犯した行為がどれだけ危険だったかを今頃気づくのであった。そして、もしあのまま店の中で戦闘になっていたら、間違いなく町が被害に遭っていたことだろう。そうなればもっと多くの死者が出ることになったはずだ。だからこの人に命を奪われて良かったのだと思えてくる。それに僕はこの世界に来て初めて作った魔道具のお守りを身に付けていたこともあり、そのおかげでこの人の攻撃から免れたのだ。それは魔鉄で作られたペンダント型のお守袋である。

これは僕が一番最初にダンジョンの最下層で見つけたもので、その時からこの魔鉄製のペンダントは何故か壊れることなく僕の元に戻ってきた。しかもダンジョンから出ようとしても出られなかったはずなんだけど何故かダンジョン内を探索することができたのだ。だからこそお店を閉めた後に一人でダンジョンの奥へ足を運んだり出来ていたわけで。まぁその結果として色々と面白いものを見つけ出すことができたんだけどね。そして今回僕は、これのおかげで助かったとも言える。これは恐らくダンジョンの中限定で僕を守ってくれる代物であることは間違いないだろう。このおかげかどうかはともかく、お店の商品に手をつけなかったお客さんはどうやらいないようで一安心である。それに僕はこのお店を守りたいと思っているので、この魔道具が手元に返ってきてくれたことが心の底から嬉しかった。僕は本当に運が良いのかもしれない。そんなことを考えながらもこの人を止めなければと考えていた僕は再び行動に移ったのである。僕は何とか相手の隙を突いて相手の動きを抑えることに成功した。それからこのお店は大丈夫だということを伝えると、お店の外で倒れ込んでいる人の姿を見つけた。

すると僕はお客さんの一人を慌てて店内に入れると、お店の外に出るのであった。

それから数分後。お店の前で待っていた僕の元に警察と名乗る人達が到着して僕と一緒に中に入って行くのであった。しかし、ここで事件は大きく動くことになる。それは僕の作り出した武器を持っていた人物が逮捕されずに、この国の大臣の息子というとんでもない肩書きを持つ人間だったというのが大きな原因となっていたからだ。この人物は以前から僕とお店が邪魔だと考えており、どうにか潰すことができないかと考えていたようなのだ。それでこのタイミングを狙ったかのようにこんな行動を起こしたようである。

しかし結果的にこの人はこの国の王様に睨まれる結果になり、この人は国外追放されることになるのだった。ちなみに今回の事件は犯人が逮捕されたことで無事に解決となった。そして僕はお城に招待されることになる。お城の敷地内に入るのはこれが初めての経験だったので緊張しながらも、僕はその部屋に入ったのだが。

そこで僕のことを待っている人物がいた。

「おお。来たか」

そう言って声をかけてきたその人の外見はとても若々しく、四十過ぎぐらいだろうか。ただ、見た目とは裏腹に威厳があるように感じる人物であった。

僕をこの世界に呼んだのはこの人であり、僕の力の秘密も教えてくれていた人である。名前はアガート=ダレスと言って、この世界で五人しかいないと言われる魔王の一人であった。そんな存在に呼び出されてしまった僕だが、正直どうしてそんな凄い人物に呼びつけられたのかは分からなかった。だけど呼び出しに応じないという選択肢はないので僕はすぐに了承の返事をするのであった。すると彼は突然笑い出し始めて僕を迎え入れてくれたのである。しかも僕のためにわざわざ椅子を用意してお茶まで出してくださった。

そんな対応を受けて戸惑ってしまう僕だけど、この人は何か理由があって僕の元を訪れたのだと思う。

そして僕に対してこう話を切り出したのである。

それは――異世界の理から外れた武器を作れないかという質問であった。

「そなたにこの世界の理に囚われない武器を作ることは不可能ではないのか?」

僕にはこの言葉の真意は理解できなかった。しかし、この世界にない物を僕に作らせることに何か意味があると思ったのだ。そこで、僕はその疑問をそのままぶつけてみることにした。すると彼の口から予想もしない言葉が飛び出してきた。

その人の名前を聞いた僕は驚きを隠せなかったのだ。その人の名前はサクヤで。つまり彼がこの世界の住人ではないことは既に理解していたわけで。その人が目の前にいてしかも話しかけてきたとなれば僕はもう頭が真っ白になってしまいそうだったよ。しかも彼も他の世界からやって来たみたいで。それを聞いて更に驚いた僕なのだが。その後の話の内容の方が衝撃的過ぎた。というのも実は彼はこの世界とは別の世界を管理する神だと言うのだから尚更である。そして僕は別の世界に行くことになり、そこで魔王を倒してきてくれないかと頼まれたのだった。ただ、魔王を倒すと聞いて流石に躊躇してしまった僕である。そもそも別の世界に行けると言われても信じられないし、別の世界に行って魔王と対峙するなんて普通に考えれば無謀以外の何ものでもないように思えたんだ。だから最初は断ろうとしたんだけど。僕はどうしても行かないと駄目らしい。それにこの話を蹴ってしまえば僕がこの世界に戻ることはないらしく。向こうで死ぬと二度と戻ることは出来ないそうだ。そんな事を聞くと不安になるよね。だって戻れる可能性はないと言われているようなものなんだし。でもそんな僕の反応も見越していたのか、彼にはまだ他に方法があると言われたので、とりあえずそれを聞くことにしたんだ。その内容というのが、僕のスキルが関係していて、それを使えば一時的に僕の能力を大幅に強化することが出来るとのこと。しかもその能力は一度きりで。この一回を無駄にすれば次は絶対に使えなくなると言われていた。そんな大事な力を僕は使い切るつもりはなかったので断ることに決めたのだ。

ただ僕は少し気になることがあったのでそのことを尋ねてみると彼は快く答えてくれるのである。

「ふむ。確かに私もあまり詳しくはないが。私の知る限りにおいて、あの力は世界を崩壊させてしまうほどの威力はあるな。ただしそれは普通の人間が使った場合に限る」

この言い方では普通の人が使ってはいけないということなのだと思うけど。どうしてそういうことになるのか僕は不思議で仕方がなかったのだ。だからその事を詳しく聞き出そうとした僕だったが。その時は丁度時間切れになってしまったのである。そして気がつけば、僕は自分の家の中にいたのだ。そこで夢でも見ていたのかなと僕は思ったが。しかし僕が手にしていた魔道具のお守りを眺めると、あれは夢ではなく現実に起こっていたことだったと認識させられる。なので僕は改めて考え直すことになったのだ。自分の持っている特別な力がどれほどのものなのかを。そしてこの世界とは違う世界に魔王がいることを聞かされて僕は途方に暮れることになった。まさか魔王が実在しているとは思わなかったので、僕はどうするべきか悩んでいたのだ。

だけど僕はそこで思いつくことがあった。もしこの力が上手く使えれば、僕にもできることが増えるのではないかと思ったのだ。しかしそれは危険な賭けでもあるので迷う僕である。しかし僕はこの魔鉄のペンダントの力があれば大抵の危険は乗り越えられると信じている。そのおかげでダンジョンの最下層にある魔鉄製の装備を手に入れることも出来たくらいだからね。だからこそ僕は自分が出来ることをやっていこうと考えた。それで少しでもこの世界を守ることに貢献できればと思ってのことだったんだ。それから数日の間、お店を閉めてからダンジョンに潜り続けた僕は最下層まで到達して大量の武器と素材を回収することに成功した。それらの素材を使って作った武具の数々は全て僕が作った魔道具の効果により性能が大幅に上がっている。それにこの効果には制限がついており、武器や防具を一定以上の品質まで引き上げることが出来るというものなんだけど。それが限界でありそれ以上を上げることが出来ない。そして僕が身に付けていたお守袋もこのお店の中でしか使えない代物であった。そして僕が身に付けることによって効果が発揮できる。つまり僕以外には扱えないのがこのアイテムの特徴である。そのため、お店で使うのならば問題ないが、外で使おうとすると何の効力も持たない代物に変わってしまうのだ。

その点だけはこの魔道具を作った時はかなり苦労したのを覚えているが、その甲斐もあって今の僕がいる。しかし、それだけ強力な効果を持つ魔道具だと、僕は思っていたのだ。だから僕自身、この力には期待をしていた。そこで僕は試作品第一号として、お店の前にいる人に渡せるだけ武器を作ってから、その人をお店に入れることにしたのである。

すると、すぐに僕の手元が光り始めてその光が収まる頃には既に魔道具が完成されていたのであった。そして、その剣を見た瞬間、僕は驚いたのだ。何故ならその刀身の部分が、この世で最も美しい宝石と呼ばれるダイヤモンドのように見えたから。しかしその剣に魔力を注ぎ込んでも変化はなく、僕はそれを残念だと思いながら次の作業へと移ることにした。僕はこのお店の商品である包丁と、お客さんに配る護身用のナイフを作り出すことにした。そうしないといざという時に対応できないと思ったからである。それと僕の作った魔道具の性能の確認のために僕は先ほどから何度も魔道具を握りしめたりしていた。どうやらこの魔道具が発動するのには一定の条件が必要なようで、魔道具を使うたびに少しずつその条件が増えていっているようなのである。それにこの魔道具は僕の手から離れなければ使えない。だからもしも僕の近くに魔物が現れた場合はどうしようもない状況になっていたのであった。

それからしばらくした後、僕は再びお店の前で待っている人達の元へ急いだ。

しかしそこには、さっきまでの場所には誰の姿もなかったのである。僕は不思議に思いながらも外に出たのだが、そこでとんでもないものを目にしてしまうことになる。お城の近くから火の手があがっており、そこにモンスターの大群が押し寄せてきたのだ。僕はその光景をみて、この国に危険が迫っていることを悟ったのであった。

「早く助けに行かないと!」

そう言って駆け出そうしたのだが、僕はすぐに思い留まった。というのも、僕が行ったところで、果たしてこの状況で役に立つことがあるだろうかと。冷静になって考えてみればこの国がピンチだということは分かった。しかし、この場には戦う術を持たない一般市民の方達もいるわけで。僕が勝手に飛び出すのはまずいだろうと思ったのだ。それで結局僕はお城の兵士達を信じることに決めたのだった。そして彼らが無事に戻って来るのを信じていたのだが、いつまで経っても彼らは戻ってこないのである。しかも僕達のお店が襲撃された場所からは、かなり離れた場所で事件が起きていたはずなのに。どうしてそこまで辿り着いているのだろうか。それにあの炎を見ている限りではどうも火元にいる人たちに余裕がありそうにも見えるので、このまま僕達は待機していればいいのかもしれない。

そこで僕の頭に浮かんできた考えは、やはり僕をここに呼び出したのはあのサクヤと名乗っていた神様で間違いなかったのではないのかというものである。

だって、僕が別の世界へ召喚されたことを証明するものが今目の前に存在する魔道具なのだから。

「この魔道具が使えたということは。僕の推測が間違っていないということになるんだけど。一体どういうことなんでしょう?」そんな独り言を呟いていた僕だけど。そこで一人の女の子が走ってこちらに向かってきたことに気がついて。僕はその子に話しかけたんだ。

「すみません! この近くに大きな建物がありませんか?」と 僕は彼女にそう聞かれてすぐに思い出した。ここは僕の家の目の前である。なので彼女の言う建物のことは、この近くにあるお城に決まっているのだ。すると彼女が慌てた様子のままこう言ったので僕は更に驚くことになった。というのも彼女は僕の家に飛び込んできたからだ。そしてすぐにこう口にしたのである。その建物はもぬけの殻だと言うので僕は思わず笑ってしまったのだ。まさかこんな小さな子供が、あんな立派な建物に入り込めるわけがないだろうと考えていたからだ。しかしそんなことを気にせず子供はその中に入っていきそうになったので。僕は必死に止めることにしたのである。するとその時、僕は気が付いたのだ。どうやら彼女の腕から血が出ていることを。だから慌てて手当をしてあげようとしたら。突然目の前に人が姿を現したのだった。

その人の容姿を見て、どこか見覚えがあるような気がしたが。よく考えてみると、そもそもその人は仮面を被っていて素顔が見えないので、この国の住民である可能性も十分に考えられるのである。だからあまり深くは考えずに。僕はこの国の王子と名乗る男と話をすることにしたのだ。すると彼は、この国の王様が倒れてしまっていて困っていると言っていたので。僕はとりあえず彼の話を聞くことにした。

そこで聞いた内容は衝撃的なものであったのだ。なんでもこの世界には魔王が存在をしていて、現在、その魔王が人間を支配しようと企んでいるとのことで。その魔王が作り出した怪物によって国は滅茶苦茶になりかけているらしい。しかしそんな状況を何とかしてくれる人がいたので、その人と連絡を取りたいと言われてしまった。その頼みを聞いて僕は断ろうと思った。そんな大それたことを頼まれても僕は無理ですとはっきり断ってやったのである。

しかし僕の意見など無視されてしまい話は進められてしまうのである。まずその勇者というのは、この世界に来たばかりで今はどこにいるのかも分からないと。だから居場所を知っている人物を捜すためにも協力して貰いたいとのことだった。そこで何故か僕が一緒に付いてくるように言われたが。それは当然断ったのであった。しかしここで引き下がる訳にはいかないと言われたのである。何故ならこの国が滅んでしまう前に、一刻でも速く問題を解決したいというのだ。そしてその為ならば何でもする覚悟なのだと。だからお願いしますと真剣な顔つきで言われてしまったのだ。

しかしそれでも僕は断ると決めた。いくら相手が困っていたとしても、無責任なことは言えないのだ。それにもし仮に僕が魔王を倒したとしてその後どうなるんだという気持ちもあったので。やっぱりこの話を受けることは出来なかった。

「分かりました。だけど僕の方では力になれそうにありませんので」

「ま、待ってくれ! この世界を救えるのは君しかいないんだ」

そうしてその男の人も僕を引き留めようとして必死になって来たけど、それでも僕の意思が変わることはなかったのである。

しかし、それからしばらく時間が経つとお店に大勢の人達が集まり始めてきた。どうもお店の前に立っているのが僕だという情報が広まっていたみたいである。しかしそこで僕はまた驚いたことがあったのだ。それは集まってきたのがこの国の国民でもなく、ましてやこの国のお姫様とそのメイドであるということが発覚したのである。しかも僕は彼女達が何故この国にやってきた理由も聞いてしまった。なんでも彼女達には婚約者候補の男性がいるらしく、その候補者の一人であるお兄さんに用事があったそうなんだ。そしてその婚約者候補の男性はどうやら僕の知り合いであり。彼に会いに行く途中であるという話だった。その男性に会う為にも、是非同行させて下さいということで話がまとまってしまう。そしてお店の前で待っていた人たちが全員店の中に入るのを確認出来たのと同時に、その人たちは一斉にお店から出て行った。それからしばらく後、ようやく落ち着いてきたところで、僕もその集団と一緒に移動することになったのである。そこでお城に到着した僕たちは王様が住んでいる部屋へと連れられてしまったのである。しかし僕はそのお城に入った途端。自分の目に飛び込んできた景色に絶句してしまったのだ。何故ならば僕達のいた場所とは明らかに雰囲気が違うのだから。もしかしたら何か特別な場所でも通されたのかと思ったのだが、しかしそんなことを考えていたのもほんの僅かな時間だけで。次に入ってきたお城の住人に僕たちの会話を邪魔されてしまったのである。そのお城の人に連れられて僕たちが入った部屋の中にはとても綺麗な服を着ている女性が現れたのである。

「え? ど、どうして!? あなたはこの国にいなかったはずじゃ!」僕はそう口にすると、お姉さんの様子がおかしいことに気がついた。そしてその理由もすぐに知ることになったのであった――僕はその光景を見て驚愕した。何しろ僕の目の前にいる女性がいきなり泣いて崩れ落ちたからである。それだけでは無くて他のみんなも同じ反応をしていたので僕はどうすればいいのか分からなくなってしまった。ただ唯一冷静なのは、この部屋の主人である王様だけである。その女性は僕と面識があり、僕に対して恋心を抱いていたということを説明してくれたのだ。つまり彼女はこの国から姿を消していたのは、僕との婚約破棄が原因だったのである。そして今回の件は僕のことを嫌いになったわけではなく、実は彼女は病気で倒れてしまっていたのだそうだ。しかしそれを治せるだけの魔法石を手に入れることが出来ず。その結果、病は進行してしまい命を落とす寸前にまで至ったのだということだった。だからこそこのタイミングを見計らい、自分がこの国にいる間にどうにか出来ないかと、最後の賭けに出たのだと語られたのである。しかしその願いは叶うことはなく。彼女はそのまま亡くなってしまい。僕たちがここに呼ばれた意味を理解することになるのであった。

そう。彼女は最後にどうしても伝えなければならないことがあって。この国に来てくれたのだと言う。それは彼女が僕に伝えてくれと、神様に頼んでいたことでもあり。僕は神様と会っていないはずなのに何故か神様のことを思い出せていることに疑問を覚えた。だがそんなことより大事なことは彼女の伝えたいことなのだ。僕としては最後まで聞くつもりではあったのだが。しかしお店の前に集まった人たちが僕達に話しかけてきたのである。

「あ、あの! 俺達はその人のことが大好きでした! なので、どうか彼女に会わせてください!」その男性は、その女の子のことが好きだったらしくて。その男の子も同じく、その子を好きだったみたいで。その二人が一緒に会いたいというので、王様も仕方なくその二人の望みを受け入れてしまったのである。だから結局僕達の目の前で彼女は死んでしまうことになったのだ。

そして彼女の最期の言葉を、僕はその耳で直接聞き取ることが出来たのであった。彼女はその口を動かしながら涙を流しながらこう言ったのだ。

『ありがとうございました。あなたの幸せを願っています』

その言葉を聞いた瞬間、僕は目の前が真っ暗になるような錯覚に陥り。思わずその場で吐いてしまった。そんな僕の姿を見て王様が慌てて声を掛けてくれたのだが。僕は何も答えられずに気を失ってしまったのである。

*****

「うわぁぁぁ!!」僕は叫び声をあげつつ、目が覚めた。どうやらあの時の夢を見てしまったらしい。しかも僕の体はかなり汗でびっしょり濡れていて、息もかなり上がっていた。だから呼吸を整えることに集中して何とか落ち着きを取り戻したのだった。

そして僕は今、何処にいるのかという疑問が頭をよぎる。確か、この部屋にいる人達に質問をしたんだけど誰も返事をしてくれなかったはずだ。それに目の前にいた女の子が僕の方を見ていた気がしたから。もしかしたらその時に僕は気絶していたのか。それとも違うのかと考え込んでしまったが。そこで扉の方に向かって歩く一人の男の姿が目に映ると、僕の頭の中はその考えを吹き飛ばしてしまったのである。何故ならそこにいる男は僕の友達でもあるタクトであり。その姿を一目見ただけで僕は彼が戻ってきたのだと確信したからだ。しかし僕はここで一つの可能性に思い当たってしまったのである。それはサクヤという男がタクトに成り済ましているのではないかということだ。だって僕は今までずっとタクトは異世界で勇者をやっていたのだと思い込んでいたから、もしかすると、その記憶を思い出したのではないかと思ってしまったのだった。

そしてその可能性にたどり着いた僕は、恐ろしく感じた。何故なら、この世界の人にとっては異世界に召喚されるなんて話は御伽噺の世界の話でしかないのだ。それに僕も実際にそんな話を聞いたことも無かったし、信じようとしなかった。だから、その話を知ったとしても僕のように直ぐに受け入れるような人間は極少数だと思う。

しかし僕はこの世界に転生する前に、タクトがこの世界で生きていく為に色々と教え込んだことがあったのだ。その一つに、僕は前世の記憶を持っているということ。更にもう一つ、僕はこの世界では死んだことになっているということ。そして僕はもう勇者ではないので、普通の一般人として扱うようにして欲しいということを伝えたのである。

だから、もしかしたら僕の知っているタクトは本当は別人であり。その記憶だけを頼りに、その話を広めて勇者だと言い張っている偽物ではないかと思ったのだ。だからその可能性も考えておく必要があったのである。だけど、もしもその仮説が正しいとしたら。今の僕の立場は非常に危ないものになっていたのかもしれない。だからその危険性も踏まえた上で、その人の正体を探らなければいけなかったのである。

まず僕は自分の持っている情報とこの世界での常識がどれだけ食い違っているかを考えてみることにした。そもそもの話、僕の頭の中に残っている記憶が本物であるのならば。僕の知り合いであるサクヤが、僕を殺した相手であることになってしまうのでは無いだろうかと。しかしそうなれば僕はどうして殺されてしまう羽目になったのかと疑問が残るのだ。

何故なら僕を暗殺しようとした人物が僕が死ぬ直前にサクヤの姿に変わったというのが、一番考えられる原因だからである。しかしそうなってくると、何故僕はサクヤが自分を殺しに来ることを予想出来なかったのかということになってくるのだ。その部分だけは未だに理解出来ていない。しかしそんなことよりももっと大きな問題が浮上してくるのである。

「どうしよう。本当にこの世界に来たばかりの僕は何にも知らなかったんだよな。いや、でも待てよ」

そこで僕は一つ思いついたことがあった。そう。僕は神様の所為で、こちらの世界に強制的に来させられたというのに。何故か僕にはこの世界に関する知識があった。しかもそのおかげで、ある程度ではあるが自分の立場も分かるぐらいには知識があったのである。だから普通に生活出来る程には知識が備わっていたという訳なのだ。だけどそのことについては深く追求しない方がいいのかなと。

そういえばサクヤって僕が殺された後に魔王に生まれ変わったんだっけ? それで、それから一体どういう人生を送っていたんだろう?

(う~ん。よく分からないけど、今はとりあえずそのことを置いておいて)

「取り敢えずは現状確認をしなければ始まらないよな」そう考えたのと同時に。部屋の扉がノックされた音が聞こえたので、僕はベッドから降りてから扉を開けたらそこには僕と年齢の変わらなそうな若い男性が現れた。どうやらこのお城に滞在することになった僕達のために部屋を準備してくれるという話で。僕は少し迷ったけど案内して貰うことにしたのだった。ただその際に王様は部屋を用意することが出来なかったので。もし宜しかったらと王様からの誘いがあり。僕たちは断る理由も無いことから部屋へと移動することにした。

部屋に入ると王様とその側近であると思われる女性二人。それと、僕達をこの部屋まで連れてきた執事らしき人と。護衛官と思われる屈強そうな男性が数名、合計八人が僕たちの前に並んでいた。しかしそこで僕はふと気づいたことがあり。王様と僕との距離が異様に遠いのである。そこでその理由を察した僕は自分の行動を改めることに決めたのであった。

僕が何故距離を取るのかと考えた理由は簡単である。僕も男として、自分の裸体を見られるのは恥ずかしいと感じていたからだ。だから相手が王様であろうと女性であればそれは尚更のことであろう。だからこそ、僕もこの場に集まっていた人達に、自分の姿を見られることは避けたいと考えていた。なので自分の身を守れるのならば、僕は喜んで魔法を発動させてもいいとすら考えているのである。だが僕がそう思った直後。急に体が動かなくなりその場に膝をつくことになってしまったのである。どうやらこの部屋の中に入った時から既に何らかの細工がされていたみたいで。僕は抵抗することも出来ず意識を失うこととなってしまったのだ。

そして次に目を覚ますと、目の前で見知らぬ女性が泣いているのが見えた。どうやらここはお城の一室らしく、豪華な装飾品に囲まれており。僕はその部屋の中央に敷かれている布団の上で寝ているようだ。しかしどうして僕はここで眠っていたのだろうと考えて。王様との会話を思い出そうとしたのだが上手くいかないことに僕は気がついた。

しかし僕はこの違和感を気にするより、目の前にいる女性が泣き止むまでは傍にいてあげようと思って話しかけたのだ。すると女性は嬉しそうに微笑んでくれて。その笑顔に僕の心は完全に奪われてしまったと言っていいだろう。ただ残念なことに女性は王様のお妃さんであると言うことだったけど。それでも彼女と話すことが出来るというのは非常に嬉しいことだったから。だからこそ僕は彼女のことを名前でしか呼ぶことが出来ず。そのことで彼女が悲しんだということで僕の心が苦しくなっていってしまったのだ――僕は何故か彼女を見ると心が落ち着かない気分になる。もしかすると彼女は何か特殊な力があるのではないかと考えると。それをどうにかしなければならないと思い、その為の方法も一緒に考えることになった。だが何も思いつくことはなく。そのまま時間が経ってしまったために僕は部屋に戻って休むようにと言われてしまい部屋から追い出さられてしまったのだった――そこで僕の脳裏に浮かんできたのが、あの女の人のことだけだったのだ。

「やっぱり彼女のことが気になるよね。だけど僕は彼女の名前を呼べないんだよな。いやいやいやまてまてまてまて!! そもそもあれが夢なのか幻だったのか確かめたいだけなんだし。その確認が取れたら問題はないはずじゃないか!」しかしどうしてもその女性のことが頭から離れなくなってしまったため、どうしたら彼女にまた会う事が出来るかを考えてみるが。結局は何も浮かんでこないまま時間だけが過ぎていくばかりであった――

*****

「おはようございます、旦那様」僕が起きた気配を感じ取った使用人の女性の一人に声を掛けられた。その言葉を聞いてから暫くの間僕はボーッとした状態になってしまい動けずにいたが。なんとか体を起こしてから返事をしたのだ。そして部屋の中に用意された朝食を摂ることにする。

この世界の料理は初めて食べたけれど、どれも美味しいと感じたのである。だけどやはり一番気に入ったのは味噌汁だったので朝はこれを食べたいという気持ちが強かったのだ。しかし僕はそんなことを考えながらも先ほど見た夢のことを思い出してしまったのである。

その夢では僕の記憶の中にあるはずの人物が登場していた。だからその人の名前はしっかりと覚えているというのに。何故か顔を思い出せないでいたのだった。それに声もはっきりと聞いたはずなのに。僕はそれすら忘れてしまったかのように、夢の内容を思い出すことが出来ないでいる。

それどころか夢の中で見たはずの女性の声さえも忘れてしまっていることに気がついてしまったのだ。だから夢の記憶が無くなるなんてことは通常ではありえないことだと思いながら。もしかするとこれは僕の頭がおかしくなっているのではないかと思い始めたのである。だけどそう思ってしまうと不安が一気に押し寄せてきて。

それを抑えるためにも何とか冷静になって状況を分析してみたのだ。もしかするとあの女の正体が僕を騙していたことに気づいていないのかと。だからそんなことも考えるようになってしまっていた。ただ僕が騙されていることに気づかず。今まで通りに生活している可能性もありえると思ったのだ。だがその可能性もすぐに否定した。何故ならそんなことは有り得ないと思っているからだ。だって僕は神様が言ってきた話を信じるつもりはないが。この世界に存在するという勇者召喚についての話を聞いたことがあったのである。そしてその話の中には。勇者召喚を行った人間は、異世界に召喚されても記憶が残るという話を聞いたことがあった。だから僕はその話を思いだし。自分が勇者として異世界に転生したということを認識しているというわけだ。だから僕は自分の状況を完全に理解していたつもりだった。しかし今の僕が置かれている状況は理解出来るようなものではなかったのだ。何故ならば僕が勇者の能力を持っていなかったことで殺されそうになったのに、どうして僕は生きているのか。そして何故この国の王様が僕に求婚をしているのかが全く分からなかったのである。

そもそも僕は勇者としての力を手に入れることが出来ていなかった。だからこそ王様から『魔王を倒してきて欲しい』とお願いされて来たはずだ。その目的が果たせなかった今、僕にはもうここにいる意味は無い。しかし僕がこの国から出て行こうとするのを止めてくる人たちがいたのだ。その一人はお姫様であり。僕はお礼を言いつつも。どうして止めようとするのか疑問に感じていた。しかも他の人達が王様に呼ばれていたようで僕を部屋へと送ってくれる時に王様の部屋の前で待っておくように指示されたのだ。だから僕はその通りに従うとしばらくして王様が部屋に入ってきたのである。

そこで僕を見た王様は、とても心配してくれていて僕の為に色々と用意をしてくれたみたいである。そこで僕が目覚めたという連絡を受けて急いでやって来たのだという。そこで僕が眠っている間に色々な話を聞かせてくれたのである。まずはこの国は昔に勇者によって救われたことがあるという事と、その時に僕と同じ世界から来ているという人と仲良くなったことを教えてくれて。他にもその人と仲が良かった人は僕と同じようにこちらの世界に来ていて。その人が国王になっていたという話もあったので、僕もいつかその人とも再会できるかもねと笑っていた。その言葉が真実だとしたら本当に嬉しいことだと僕も思っていた。

しかし僕はそこで重要な事実に気がついたのだった。その話は嘘である可能性があると僕は考えていたのだ。そうでなければ、同じ日本からやってきた人間と仲良くなれていたとしても。わざわざ自分の子供や孫にその人を殺させる理由がないのである。だけどそれが本当だったらどうなんだろうか? 僕はそのことを詳しく聞いてみると王様は少し難しい表情をして考え込んだ。だけど直ぐに答えが見つからなかったのか。一度部屋から出ていくことになり僕も一緒に付いていったのである。そして少し経ってから再び部屋に戻り。王様が真剣な顔つきで僕を見て言った。どうやら僕にある依頼をしたいという話だった。そしてその内容というのが、僕が持っているスキルが本物かどうか調べさせて欲しいというもの。要するに協力してほしいという内容であるらしい。僕は別にいいかなと思って王様に協力することを約束すると、王様はとても喜んでくれていた。しかし次の瞬間、僕は王様に言われた言葉を聞き逃すことになってしまったのである。

そう僕達はお互いの名前を名乗らなかったのに、何故かお互いに名前を知っていたのであった。

その日以来、僕は毎日のようにお城へと招かれることになり。お昼ご飯を王様と王妃と一緒に食事をするようになったのだ。そうして王様の人柄に触れる内に、僕の中にあった警戒心も徐々に解かれて行き、僕自身も気さくに話し合えるようになったと思う。そんなある日、王様から突然こんなことを言われることになったのだ。王様の娘さんの家庭教師として僕が呼ばれたのである。

なんでも僕の持つ魔法に関する力が欲しいから娘さんと勉強をするときに教えて欲しいと言ってきたのだ。だが僕としては困った事態であると判断せざるを得ない。というのもこの国の人達は皆魔法を使うことが苦手だということで僕の魔法に関する知識などは全く役に立たないのだ。だけど僕の魔法の力を役立てたいという王様の要望を受け入れるしか道は無くなってしまい。王様は凄く喜んでいたのだけれど。僕は複雑な気持ちのままその場を後にすることになってしまった。そしてその日の夜のことだった。いつも通り夕食を共にしている時。急に僕とお話がしたいと言い出してきたので、僕はどうしようか迷ったが素直に応じてみることにした。そうして僕が話を始めた直後にお姫様から驚くべき言葉が発せられたのだ。

それは、僕の事をずっと昔から知っているというような内容であった。僕はそのことに驚いてしまうと同時に、王様と王女である二人が同じ日に産まれたことに驚いたりしていたのだが。そのことについては後々に知ることになる。ただ今は目の前にいる女の子のことに集中しなければならない。何故かと言うと。僕のことを勇者だと言っていたのだから。そして何と彼女は僕の前世のことを知ってると言ったのである。だが僕はそれについて思い出すことが出来ずにいたのだ。なので僕が戸惑っている様子を感じ取ったのか彼女は僕の手を掴んでから何かを唱え出したのである。その行為により彼女の手から光が溢れ出し。その光を受けたことで僕の意識は次第に遠のいていき。そのまま深い眠りについたのであった――

目を覚ますとそこは見知らぬ天井があった。もしかするとここが例の場所なのかと思い起き上ろうとするが体が動かない事に気がついて僕は混乱したのだ。一体僕はどういう状況に置かれているんだと思い必死になって体を動かそうとすると扉が開かれて女性が入ってきて。そして僕の様子を見てから安心したように微笑むと僕の傍まで来て優しく抱きしめてくれたのである。

そこでようやく僕の状態を理解することが出来た。どうやらベッドの上に寝ている状態でいるのだと。しかも僕は女性の腕の中で抱きかかえられているという状況で。僕はそのことを意識して慌てて体を離そうとしたが。彼女の力の方が強くどうにもならなかったので仕方なくその状態を甘んじることになったのだ。ただそんな状態のせいなのか分からないけど、僕は妙に恥ずかしさを覚えてしまい、思わず彼女に質問を投げかけてしまったのである。

「あなたが僕を治療してくださったんですね?」するとその問いかけに女性は静かに首を振りながら否定したのである。その仕草を見た途端に、僕は彼女に迷惑をかけてしまっているのでないかと心配になり、すぐに謝罪したが。その言葉を聞いた彼女は何故か泣き始めて僕をギュッと力強く抱いてきたのだ。僕はどうして彼女が泣いてしまったのか全く分からなかったが。その女性の頭を撫でながら落ち着くまで待っていたのである。暫くして落ち着いた彼女は僕から体をゆっくりと話してから涙を拭う。

「ありがとうございます。でもごめんなさいね、貴方を悲しませるつもりは無かったのよ」僕はその言葉を聞いてから彼女をじっと見つめる。何故ならその言葉とは裏腹に。僕は悲しみという感情が浮かんでこないのだ。だけど僕に対しての謝罪ということは。やはり彼女達が僕に酷い事を行った人達の親であるということが予想できたのである。それに今の発言は間違いなく『勇者のスキルを持っていれば問題無いと思ったから、私の大切なあの子を危険な目に遭わせてしまった』という言葉に繋がるはず。だから僕がそんなことを言うと、その人は悲しい表情を浮かべるのであった。だがそんな表情を見せられても僕はどうすれば良いのか。僕には理解出来ないのである。

だってこの人の子供達は殺されそうになったというのに、この人自身だって、僕に復讐したいという思いがあるはずなのにそれを我慢して、そしてこうして謝ってくれたわけだから、これ以上僕は何も言えないと思っていたのだ。だからもうこの件に関してはこれで終わりにしても良いかなと考えたんだけど。やっぱり納得がいかないこともあるのでそのことを確認するために。僕はどうしても気になっていることを聞くことにした。何故なら僕は自分のスキルが何なのかを知らないからだ。そしてもし僕が想像した通りの能力であれば、そのスキルを持っている人間として僕は扱われて。この人の子供達を殺した人たちの恨みを一身に受けることになるわけだ。だから僕としては、自分が持つ能力をしっかりと確認しておきたかったのである。

その話をしたら女性は僕の言葉を真剣に聞いてくれた。そして僕が持つ勇者の能力について説明してくれたのである。そう、僕は勇者召喚の能力を手に入れることができなかったのに。神様の言う通り異世界へ転生することに成功したらしいのだ。そこで勇者召喚の力を得ることが出来なかった代わりに神様から貰った能力。

その力は僕の魂が勇者と同じものだと判定されて、その勇者が持っていた能力を手に入れることができるというものであったのだ。だけど僕には勇者の力が使えるかどうかを確認する術がなかった為、どうしようも出来ずにいたら、僕に鑑定のスキルを与えてくれるという話になり。そして今はその鑑定の力で自分の持つ能力を確認しようとしている所なのだ。しかしどうやって使うのかが全く分からなかった。

そして困った末に女性に相談すると、彼女は優しい笑顔を見せてから僕に向けて言ってきたのだった。

『私に触れて念じてみて』と言われた通りに実行すると。突如僕の脳裏にある文字が思い浮かぶようになったのだ。そしてそこには確かに『ステータスオープン』と書かれていて、それを読むと【神無月 秋夜】と書かれた名前があり性別は男になっていて年齢18歳となっていたのだ。しかしそれ以外は何も書かれていない状態であったため僕は戸惑いながらもそのことを女性に伝えると。女性は笑みを浮かべてから説明してくれたのである。つまりはこうであるらしい。鑑定の魔法というのは、相手の情報を読み取ることが出来る魔法であり本来は相手に触る必要があるのだが。僕の場合は触れなくても相手の名前を知る事が出来るということなのではないかと考えられるのだと言う。更には自分が得た知識なども含めて知ることもできるようで非常に便利なものだと感じると共に、僕のことを本当に心配してくれていたのだと分かって嬉しく思ったのである。

そうやって話をしながら時間を過ごしていく内に僕はあることを思いついた。そもそもこの人は僕の味方であって欲しいので正直に事情を話した方が良いだろうと思って僕がこの国に来た時のことから順を追って話をしたのであった。最初は驚いた表情で聞いていたが次第に険しい顔つきへと変わり僕が嘘偽りなく事実だけを語っていることが分かるようになると彼女は、その瞳に光るものを溜め込み僕に抱きついて来たのだ。僕は彼女の気持ちが伝わってきて、どうするべきか悩んだ結果、僕もまた同じように抱きしめることを選択したのである。

そうすると僕が女性から抱きしめられる形になっていたが。そこで部屋の扉が突然開かれ一人の人物が入ってくるなり女性を引きはがしてしまったのだ。その人物というのが国王である。どうやら僕が起きて、部屋から出てくるのが遅いことを不審に思って様子を見に来てくれていたようだ。僕はそんな彼に挨拶をしようとしたのだけれど、彼は僕のことを一目見て何かに気がついたようにハッと息を呑む。そうして僕のことを見てくると。急に慌て始めたのだ。一体何を慌てているのだろうかと思っていると王様から衝撃的なことを言われることになったのである。

「お、お前、俺の息子によく似ているな?まさか、も、もしかすると! き、貴様、息子の友達ではないのか?」

「息子って、そ、その、も、もしかすると。も、も、もしかするとですが、お、王様の。ご子息は、い、生きていらっしゃいますか!?」僕が興奮気味に話すと、その態度から僕の正体を悟ったのであろう女性が僕に視線を向けると僕の目を見つめてきた。それから僕の手を掴んで王様の目の前まで連れて行くとそこで改めて自己紹介をしてくださり、僕はそのお二人の姿を良く見たのだ。特に女性の方はじっくりと観察するようにしてだ。すると僕と目の前にいる二人が何処か似ていると気が付き、僕が思わず声を出してしまうとその事に気が付いた二人も同時に驚いたような反応を見せたのだ。ただ僕のことをじっと見ていた男性が僕に向かって手を差し伸べてくれたので僕は迷わず握手に応じると、そこから何とも言い表せない温かさを感じることが出来たのである。それは、その男性から、今まで僕が会ったことのない程の力を感じ取っていた。だからこの人がきっと僕を助けてくれた人であるとすぐに確信が持てるくらいである。そしてこの人に付いて行けば安心出来ると本能で分かるほどだ。だが、それでも僕は目の前にいる人達が僕の恩人で有り仇でもあるということを頭で理解していたから、複雑な感情を抱くことになるのであった。

だが、僕はそんな事よりも今は二人の事が気がかりであった。僕は僕の持っている鑑定で確かめてみることにする。するとやはりその二人は、この世界で有名な冒険者だということが分ったのだ。名前は、父親のほうは勇者と書かれており、母親の方は女神と書かれているのだ。そしてやはりというべきなのか僕が助けられた時にはぐれてしまった幼馴染達の名前を鑑定しても、その名前は出てこなかった。恐らくだけど僕をはめようとした人達が何らかの方法でその記憶を奪ってしまっているのだろうと判断することにしたのである。そうでなければ僕に対してあそこまでひどい扱いが出来るはずが無いのだから。だから僕は鑑定を使えるようになってから初めて心の底から感謝することができたのであった。

ただ鑑定を使ったことにより判明したことが他にもある。僕はどうやら転生する際に、僕が元々所持している力に加え。この世界でも手に入る力というものを手に入れたらしいのだ。その力というのを鑑定を使ってみると、僕が持つ『神無月』という名前の中に新たに追加された能力として記載されていたのだ。それによるとこの世界の言語が読めるようになり読み書きも問題ない状態になるのである。

他にも僕には特殊な力がありそれがどんなものなのか分からないけど、その効果を発揮するためには魔力を消費するみたいだ。そして消費することで僕の体から力が溢れ出して行く感覚に襲われる。そうすると僕の持つ『真紅眼』の能力が強化されるだけでなく、更には新たな能力が追加されることも分ったのだ。これは凄いと思いながらも、まだこの能力を使いこなせているとは言えないので、とりあえずは保留しておくことにしたのである。

だが、僕にはどうしても確認したいことがあったのだ。この人の名前は間違いなく勇者だ。でもこの人の子供が殺された時にその場にいたとは考えられないのだ。だとしたら一体どうして僕はこの場所へ来れたのか不思議で仕方が無かったからである。それにこの人の名前も間違いなく神様と同じで漢字が違うが僕のよく知っている文字が使われていたのだ。だから僕の考えが間違っていないなら。目の前のこの人も同じ世界に転生してきた人間なのではないのかと思ったのだ。だからこそ僕はその事について尋ねてみると。なんと、目の前の男性は勇者の子供ではなく父親であることが分かったのである。つまり、僕の目の前には、神様の話では僕と一緒に召喚されたはずの仲間達がいて、そして彼等を殺した犯人がこの場に集まってしまったということになるのだった。そうして僕は改めて自分がこれからどうすべきかを考えている時である。この部屋に国王の使いであるメイドさんが現れたのだ。

その人は僕達の側に来るなり報告を行うと、この国の王妃が亡くなったと伝えられて僕は驚愕する。そして僕は急いで部屋を出る前に二人に別れの挨拶を行ってからその場を離れようとするのだが。そこで僕の事を心配した女性の方に声をかけられてしまい。つい足を止めてしまっていた。すると僕の手を掴んできた女性は真剣な表情で僕に向かって言ってきたのである。

「あの、あなた、お願いがあるのですが。貴方の仲間を探すために、私にも協力させて貰えないでしょうか?」

その女性の言葉に僕は驚く。彼女は今なんて言ったのだろうか。彼女は確か僕の仲間の捜索を手伝うと言ってきたはずだ。しかもその言葉はまるで自分から死にに行くと言っているのと同義のように思えたからだ。僕は彼女に、そのことの真意を確かめると、彼女はその質問をされることを覚悟していたのか僕に理由を教えてくれたのである。まず彼女が僕の手を掴んだ瞬間に感じ取ったのが僕の中に流れている魂だという。

その話を聞いて僕は驚いてしまい彼女を見るが、どうも冗談ではなさそうだった。そして僕はその話を信用することにすると、彼女の話はさらに続いたのだ。

実はこの世界で僕は一度死んでしまっていて。それで神様に異世界転生を勧められたということなのだ。僕はその話を信じると僕はどうするかを考えたのであった。そうすると彼女は僕が悩んでいる間にも自分の気持ちを打ち明けてくれる。それは僕に命を救ってくれた恩を返したいということであり。そして僕と一緒の境遇を持つ存在を一人にさせない為に一緒にいてくれるというものだったのだ。その言葉を聞くだけで嬉しかったのだけれど、僕はそれを断った。何故ならば僕がここにやって来たのは自分が強くなるためだと言い張ったのだ。

そして僕の目的は既に決まっているのだ。僕がここへ来た理由はたった一つしかない。それは、もう一度大切な仲間たちと会って謝罪することであり、また元の世界に帰る方法を見つけて、そこで死ぬほど迷惑をかけた人たちを楽にさせようと思っていることを全て話すと。それでも彼女は引き下がろうとはしなかった。その話によると。彼女は神の力を得たことによって不死身の存在になってしまったのだという。そのため死という概念が無くなってしまったようで僕の話が本当であるかどうかを確かめることが出来ない状態になっていたのである。しかし、もしも僕の言っていることが真実である場合。その時は神によって強制的にこの世界に戻されると教えられて僕はその話を信じることにした。そうしないと僕は永遠に彷徨うことになると脅されたからだ。

その話を聞いた僕はすぐに納得した。確かにそうだと思ったからね。だけどその事実を知った途端に僕は急に強い眠気に襲われ始めたのだ。おそらくは僕の肉体の限界が近づいて来た証拠だろうと考えた。このままここで寝ていれば僕は死んでしまうかもしれないから早く安全な場所に移動しようと思っていると。そこに僕を探しに来た王様が現れると、彼は僕の事を見て何かを感じ取ったのだろう、王様が言うには、僕には特別な力があるので簡単に死んだりしないだろうとのことだった。

そんな王様の発言に対して僕は全く反論できないので困っていると、彼は僕の事を助けてくれた。彼は王様なのに僕の事を息子に似ていると言ったのだ。その言葉を聞けば王様の息子というのはきっと勇者のことだと思うからこそ嬉しくて涙を流してしまったのだが。僕はこの人が王様の息子であると聞いてから疑問を持っていた。王様の顔つきを良く見てみれば。この王様の息子が勇者であるはずがないと思っていたから。そうすると王様はその疑問を解決してくれた。王様は息子の本当の親じゃないらしく。育ての親らしいのだ。だから王様の息子は目の前にいる王様の実の娘であるという。それを理解すれば僕の中で色々とつじつまがあったのだ。つまりこの親子はこの世界では珍しくもない一夫多妻制を取っているらしい。そして目の前にいる女性は正妻の子供で王様は愛人という扱いになっていたのだ。だが、王様は勇者と深い関係にあったという話を聞いていると、目の前の女性もその血族である可能性が浮上して来た。そうなれば当然目の前にいる女性が勇者の子孫でもある可能性が高くなるわけである。

ただ、僕にとっては、目の前にいる女性がどうこうよりも、今はこの女性がどうやって生き返ったのかが気になって仕方がなかったのだ。だからそのことを聞くことにしてみるが、その問いに対して王様から帰ってきた答えが衝撃的な内容になるのであった。その言葉は僕にとってはとても信じがたいものであったのだ。

その説明によると目の前の女は神と取引をしたらしい。そしてその取引の内容とは『自分がもし、魔王を倒しても帰ってこれない場合は、愛する夫と同じ場所に行けるようにして欲しい』というもので、そして契約として、自分が無事に帰れたら愛娘である王女を好きにしていいという契約を結んでいたようだ。

正直、僕の頭の中には理解出来ないことばかりだが、僕は何よりも目の前にいる女性の娘という言葉に驚きを覚えてしまう。だって僕はまだ高校生の頃に幼馴染のみんなが勇者とその仲間たちを殺したことを知ってしまい心が壊れかけたことがあるのだ。その際に僕はその復讐を果たした後は何もする気になれなかった。いや、何も出来なかったのだ。その当時はとても無職が似合う男だと言われても仕方が無いような生活をしていたのだから。そんな僕がこの世界を生きていける自信なんてないのだ。だからこそ僕はこの国を出た後は一人で生活し、どこか遠くの地で冒険者をしようと考えていた。でも、そんな時に僕の前に姿を現したのは僕と全く同じ境遇を持った人だった。だからこそ、僕はその人と出会ってしまうと、離れがたく思ってしまい。僕は一緒に付いて行きたいと考えたのだ。そう、僕と目の前にいる女性はお互いに失ったものを取り戻すために旅に出ようとしているのだ。その目的のために僕はこの人のことを絶対に見捨てることだけはしたくないと心に誓うのであった。

ただ、僕のその想いとは別に目の前に起きていることは現実であり。目の前では僕の幼馴染である神奈が神様に向かって泣き叫んでいたのだ。

僕は神奈に対してどう声をかければいいのか悩んでいた。僕は彼女に対して、どうしてこんなことが起きてしまったのかを説明する必要があると考えていた。だけど目の前に広がっている光景を見ると心が痛みすぎて、何を言っても無駄だと思い。神無月と名乗ろうとしたのだが、その名前が思い出せないことに気づく。そういえば、この世界での名前はなんだったか? 僕は必死に考えるが思い出すことは出来ず。ただこの世界での名前を言わなければと思い、この世界で僕が貰った名前を答えることにしたのである。すると僕の名前が呼ばれた瞬間、その場に居合わせた全員は、一斉に息を飲み込み、まるで化け物を見るかのような視線が突き刺さる。そんな中で国王が僕に向けて言ってきた。

「お主の名前は真紅だったな。それで、どうしてここに?」

「はい。それが、僕の持っている特殊なスキルでここに転移させてもらったんです」

「そ、その言葉、本当なのじゃろうな。嘘ならお前の首はもうないぞ!」国王の質問に対し僕は答えると、その言葉を聞いた神奈が大粒の涙を流すが、彼女は自分の気持ちを押し殺しながら、冷静に状況を理解してくれて僕の言葉を信じてくれる。すると神様は僕がここへ来た理由について尋ねてきた。

僕がここへやって来た理由とは僕がこの世界へ召喚されたことであり。僕は仲間である勇者と魔王を殺すことでこの世界を救うためにこの世界へ召喚されたのだと伝えたのだ。そうすると国王はすぐに神様を呼んでくるように指示を出し。国王と僕と神様の三人で話し合いを行うことになる。そこで僕はまずは神に対して謝罪をする。そうすると僕と神の会話が終わると今度は国王と神が話をすることになったのだ。そして、その結果は――

僕は神との対話を終えて国王との話に切り替わる前に、この部屋に残されている神の死体を片付けることに決めたのである。僕一人だけでは無理なので人を呼ぶことにしたのだ。僕は人を呼びに行くために、その場を離れることにしたのだが、そんな僕を引き留めようとしたのが先程名前を思い出した神奈だった。

神は僕の名前を思い出すことが出来たのだろうか。

僕はそのことについて考えようとしたが、とりあえず今は彼女のことを考えないようにしようと決めると。僕は自分の部屋に向かって駆け出す。すると、そこで神奈は僕の事を追いかけてきて、僕に何か用事があるのか尋ねることにする。しかし、彼女から発せられた言葉は僕にとってあまりにも予想外の言葉で僕は混乱してしまう。彼女はいきなり僕に対して好きだと言ってきたのだ。僕が戸惑っていると、神奈は顔を赤くしながら恥ずかしそうにしている姿を見ながら僕は彼女がなぜ、僕なんかを好きになったのかを考える。そこで一つ思いついたのは僕の職業である【戦士】に関係があるのではないかと。

そうすると僕は彼女から詳しく事情を聴くことにして、そしてその話は彼女の家族について語られることになったのであった。そして彼女は僕に全てを打ち明けると僕の胸の中に抱きついてくる。その姿は今にも泣き出しそうになっている少女のように見えた。そして彼女は自分の家について語る。

彼女の家は古くから続く歴史ある一族で。先祖代々から受け継がれてきている書物があるというのだ。その中にはこの世界の創世記についての物語が記されており。そこには魔王と呼ばれる存在を討伐した勇者が、異世界の扉を開くことに成功したという伝説が綴られているという。彼女はそれを何度も読んだ影響で勇者に対する憧れを抱いていたというわけだ。そして今回僕という勇者が現れたことにより、自分の人生を変えてくれるかもしれないと考えた結果。僕と一緒にいることを選んだというのだ。彼女は自分が好きな人を救ってくれるという夢物語を現実のものにするために。彼女は自分がどれだけ苦しんだとしても構わないと言い放ったのである。それだけの覚悟を持っている彼女は本当に強い女の子だと思うよ。そんな彼女を僕は心の底から守りたいと思える。しかし、ここで問題が発生した。その話の中で僕はある事実を知ることとなるのだ。その話が真実であるならば僕は彼女とは一緒にいられないのだ。何故ならば神を殺してしまったのは間違いなく僕の所為なんだからね。神を殺した責任は取らないといけないと思っていると、彼女は僕のことを優しく抱きしめて言う。その行動に僕は心を救われるような感覚を覚えると彼女に抱擁するのであった。

それからはしばらくの間、二人っきりの時間を過ごした僕たちはこれからどうするべきかを話し合ったのである。僕としてはすぐにここを出て行けば良いと考えているのだが。そう簡単には出れないと思うんだよね。なぜなら僕の力だけでここから脱出することは不可能だろうと思ったからだ。その理由は単純で、目の前で僕たちの様子を眺めている国王と王妃の二人がとても邪魔だからである。それに国王は神を殺してしまったことに関して何も言及しないし、このまま何もなかったことにして立ち去れるはずがないんだよ。だからどうしようかなと困っているのだが。

「まあ、よい、それより、勇者の真紅と言ったか、お前は、わしたちの敵なのか?」王様の口から突然放たれたこの言葉の意味を理解するのには時間がかかったが。おそらく彼は、僕の事を勇者の仲間だと思っており、そしてその立場を利用して自分たちに不利益な行動を取ろうとしているのではないか? そんな疑問が浮かんでしまったようだ。

だから王様としては僕が味方であるか敵対者なのか確認しなければ不安なのだそうだ。だから僕は正直に伝えてあげる。

「僕はこの国の為に戦う気なんてありません」すると僕の言葉を聞いた神無月が何かを言いかけたが。すぐに口を閉じる。おそらくだが僕には王様と戦う意思はないと伝えてくれたのであろう。

すると目の前の国王はため息をつく。その表情を見て、王様はこの場を収めて帰してくれるつもりなのであろうと僕は思っていたのだ。だけどそうはならなかった。王様は僕のことを信用できないと言い出したのである。しかもそれは王様だけではなく王妃までが僕のことを怪しい男と判断する発言をする。僕も僕でどうしてこんな扱いを受けているのか意味不明であったが。どうやら僕たちが神様と会ったことは誰にも知られてはならないらしく。それを誰かが知ってしまう前にこの場で殺さなければならないらしいのだ。その話を聞いた僕は神奈の事が心配になり。彼女の方を確認すると、やはりその情報を聞いてしまっていたようだ。だから僕たちは殺されるのは嫌だった。僕は死にたくない。そう思っても仕方がないことだと思うんだけど、神奈だけは僕のことを信じてくれていたようで、僕の身を案じてくれるような言葉を口にしていたのだ そのおかげで少しだけ気持ちが楽になった。だけど問題は目の前にある。神殺しを行った者は必ず死が訪れるという話だ。それを回避するために神奈は自分を犠牲にしようとしていた。だからこそ僕と神無月は彼女を救うべく動く。僕一人ではとても国王に勝つことなど不可能だが、二人で協力すればなんとかなるのではないだろうか。ただ僕が一人で国王と戦った場合。神奈が無事では済まないかもしれないが。そんな風に考えていると国王は剣を抜いていた。その瞬間、僕は死ぬと確信した。神を殺すことが出来るのであれば僕にだってできるはずだと思っていたが。それでもやっぱり怖いものは怖かったのである。

しかし僕の恐怖はすぐに消え失せることになる。僕に向かって襲い掛かってきたのが国王ではなく。王妃だったのだ。僕は彼女がなぜこんな行動を取るのか理解できなかった。すると僕の背後の方で爆発音が鳴り響く。僕は慌てて後ろを振り向くと。そこには神無月の姿があり。神殺しの一撃で国王と国王を守る近衛騎士達を皆殺しにすることに成功したのだ。

その結果に国王も慌てるが。僕はそれよりも神奈のことを心配してしまい。彼女のことを助けに行こうとすると国王によって阻まれる。国王の目的はこの国の戦力を潰すことだったのである。そしてそれが達成されてしまったので後は勇者の神殺しを行いこの国を崩壊させるつもりだったみたいだ。そしてそのために、国王自らが前線に立つことによって、この国最強の力を持つ神殺しを仕留めることを狙っていたという訳である。そうすることで、神の力を手に入れることができるという算段だったらしい。

でも神は殺されたことで神の能力を使うことが出来ないようになっているという可能性もあったのだが、国王は、自分の能力を使えば問題ないという結論に達したようである。だけど、もしも神を殺害出来ても僕たちを見逃す気は無いようだった。そして僕の前に現れたのが神様と同じような服装をした人物。おそらく神と同じ立ち位置の人であるのだろう。その人物が僕たちに攻撃を仕掛けてきたのであった。

国王は僕と神殺しを戦わせてその隙に神奈を殺そうと考えたのだと予想できたので。僕は神無月に神殺しを任せてその間に国王と対峙することにした。国王と僕との一騎討ちが始まるのであった。

しかし僕と国王が一騎打ちを行うのを黙ってみているほど国王は甘くなく、国王は自分の周りを固める騎士達に僕のことを捕まえるように命令を出す。僕は自分のステータスを確認したが。残念ながら戦闘に役立つものは何も表示されていなかったのである。なので僕は逃げることにした。そうすると僕の前に立ち塞がり攻撃をしようとする国王だったが。僕の姿が消えることで戸惑う。しかし次の瞬間には国王の首が地面に転がることになる。僕は【瞬神速】を使い、一瞬のうちに神殺しを倒した神無月と合流しようとするのだが、そこで異変に気づくことになる。神奈が国王の近くに倒れていることに――

「まさか! 貴様!」僕は急いで国王の元へと走るのだが。すでに遅く国王は僕が先程倒した神と似たような技を使って僕を攻撃してきたのである。その技の正体はおそらく転移系の力であると思われる。僕と神が遭遇した際に使った力だと思われたのだ。そして、僕は、僕に向かって伸びてくる槍に飲み込まれてしまい。そのまま吹き飛ばされた。僕は自分の状況を確認してから立ち上がるが。どうやら、僕が立っている場所は戦場から離れた森の中であるようだ。つまり僕と神殺しは戦いやすい場所へと転移させられたということになるのだろう。

「お、おまえら、よくもこの私の部下を殺してくれたな、こ、今度は私が相手をしてやる」

そう言うと神殺しを名乗る人物は僕のことを睨んできたのである。

「お前に名乗った覚えはないが」僕はその問いかけに答えると、相手のことを観察しながら質問をぶつけることにした。すると神殺しは僕の問いを無視して魔法を発動してくる。

僕が回避するよりも早く放たれた攻撃。だけど僕がそれを避ける必要はなかったのだ。なぜならば相手が放つ攻撃を全て吸収したからである。僕は自分の体から魔力が奪われる感覚を感じながら相手の出方を伺うことにして様子を眺めることに決めた。しかしここで予想外の出来事が起きることになるのである 突如現れた光の柱に飲み込まれたのは魔王軍の大軍勢であった そしてそれは、魔王軍と、魔王軍が支配しようとしている王国との間で勃発した大規模な戦争の始まりとなったのである この世界で勇者と呼ばれる職業があるように、魔界には魔神と呼ばれる種族が存在した。彼らは他の種族と比べて圧倒的に強くその力を持って魔界の頂点に君臨していたのだ。そのため彼らの力は圧倒的であり多くの者達が恐れを抱いていたのである しかし彼らが本当に恐るべきなのはその実力や戦闘力ではなかった そもそも魔神達が最も得意とするものは圧倒的な数なのだ 魔族が住まう大陸に点在する村から攫われた人々は、魔神達の暮らす国に送られ、奴隷として扱われるのである。しかしそれは表向きな理由で、本当はもっと別な目的があってそうしていたのである この世界では定期的に大量の人間を贄とする事で力を増す存在がいたのだ。それは女神である。その女神は人の命が散らされるたびにその力を上昇させていっていたのである。それこそ全盛期の女神の力とは比べ物にならない程の強力な力が発揮されていたのだ そしてそんな強大な力を手に入れた魔神達はより上の地位を目指して行動を起こす事となる。しかし彼らだけでは女神に対抗するにはあまりにも力不足であったため。この世界において一番影響力を持つ王に協力を求めたのである。しかし王は当然のように拒否したのだが。ここで問題が発生したのだ。その時に召喚された勇者こそが、今代の魔神達の主になる存在であったのだ。

しかし、ここで一つの問題が浮上したのである。この世界に元々存在する魔物と魔神は共存関係にありお互いの領域を侵さないようにしていたのだ。だからこそ両者は争うことはなく今まで均衡を保っていたのだが。そこに勇者が現れたことによって、そのバランスが崩れたのである。それにより勇者は魔神側につくこととなり。それによって魔物は駆逐されることになってしまったのだ これによりこの世界を牛耳る為に立ち上がった魔王軍は敗北してしまったのだ この話を知っている者達からは神界と魔界の戦争と呼ばれていたこの争いによって魔王と、魔神、そして、その配下となっていた魔物たちは全員消滅してしまうこととなる だがこの時既に一人の男が暗躍し始めていたのである。

「ようやく、これで全ての条件をクリアする事ができた」俺は目の前にある機械を見つめると笑みを浮かべた この装置の名前は「人造異世界創造計画」といい。これから作り出す世界の管理をする為のものであった。

「それにしてもここまで上手く行くなんてな」そう思いながらも嬉しさを感じていた。

俺が目指したものはただのハーレムを作ることじゃない。そんなものではこの世の中は変わらないんだということを実感する。

何故ならば女というのは一人に決めると他の存在が気に食わなくなる生き物だからである。

だから俺は何人もの女を同時に相手にすることのできる方法を考えることにした。

最初はそんなことできるはずがないと思った。しかし考えていく内にそんなことは不可能ではないと思うようになっていた。だからこそ研究に勤しむことができたのである

「よし完成させるぞ!」その掛け声とともに装置を動かすスイッチを入れると。辺り一面は眩しい輝きを放つと同時に大きな爆発音が起こったのであった。

僕は目の前にいる人物の攻撃を受け流すとその人物の体に一撃を叩き込もうとしたのだが。どうやら僕のことを攻撃する気は無かったみたいで、その攻撃を防いでくれる。

僕が神殺しと名乗る男と戦おうとすると、なぜか、神無月が僕の方に向かってきていて。神殺しは僕のことを警戒しているのか僕と神無月の両方に対して攻撃を仕掛けてきたのである。

そして僕の目の前に現れた光柱。その正体はすぐに分かった。これはおそらくだが僕たちが元居た世界へと帰るための門を開く鍵みたいな役割をしているのではないかと予想できる。その光が消えると共に神殺しの体が突然燃え始める。僕も巻き込まれて一緒に燃やされそうになるが何とかその現象を回避しようと動くのだが。僕と神無月に襲い掛かってくる火の勢いが強くて僕は逃げることを諦めてその場に立ち止まった。そして僕は自分が纏っている【炎龍化】の出力を最大限に上げ、迫りくる火を防ぐことに成功すると、僕は【氷竜剣】を発動させ。【風刃剣】【土豪剣】を発動するとそれを一気に解き放った。

この二つの剣の効果によって僕の目の前にいた神を殺すことに成功した神殺しの肉体に次々と傷跡を残していったが致命打を与えることまでは出来なかった。僕はこのまま続けて攻撃してしまえば勝てるかもしれないと考えたのだが、神無月がそれを止めてしまう。彼女は僕のことを止めると、僕たちに向かって攻撃をしてきた人物のことを警戒しだしたのである。そして神殺しは僕たちに攻撃を加えようとしてくるが、そこで異変が起き始める 神を殺したことによって現れたのが巨大な光柱である。それは僕たちを強制的に元の世界に戻すために作動したみたいで僕たちもそれに飲み込まれる形となってしまう。僕は神無月だけでも守ろうと彼女を庇おうとしたのだが間に合わずに、彼女と手を繋ぎながら僕たちの意識はそのまま途切れたのだ。

◆ 目を覚ますとそこは森の中で近くには何故か国王の姿があった

「ここは?」そう呟いた僕の言葉を聞いた国王は驚きの声を上げると僕に近づいてきたのである。その表情はとても驚いた様子であった。僕はなぜこのような状況になったのか分からずにいると急に国王の手が伸びてきて僕を抱きかかえると頬を擦り付けて来たのであった。どうやら彼は興奮状態になっているようで何を言っているか理解できない状態だった。とりあえず僕のことを誰かと勘違いしているらしく。国王はその相手の特徴を話してくれた。どうやら僕はその特徴に心当たりがある。

それは、この世界での国王は僕の事を「救世主様」と呼びながら僕のことを抱きしめてくる 僕がその人物のことを話すが国王は聞き入れる様子がなく、ついにはキスまでされてしまったのだ。さすがに僕はそれを拒否したのだが、それでも国王がしつこく迫って来るのである。

そこで僕は国王にどうしてここに居るのか聞くことにする。しかし残念なことにその質問には答えてもらえず。国王は僕の事を抱きしめたままでずっと何か喋り続けているのである。正直言ってこの人は危ない人であるとしか言えなかった。そこで僕はどうにか脱出しようと色々と試すのだが。結局のところ無理だったので諦めることに決めたのである。

そうしていると急に空に光が現れるとそこから見覚えのある少女と青年が現れたのだった。僕はその二人に助けを求めることにしたのだが。神奈は僕を見るなり抱き着いて離れなくなってしまった。神無月はどうやら僕がこの国の王女であるルミリス様を抱きしめている姿を見て怒ってしまったようだ。

そういえばこの世界は神と魔が争うというかなり特殊な世界で、この国は魔の勢力と同盟を結んでおり、魔の力を一部受け継いているのだ。だからこそ神殺しの攻撃に対しても対抗することができたわけなのだが、そのせいで神の力を受け継ぐ者は極端に少なくなっているのだと。それこそ勇者として召喚されて魔王を倒すほどに強くなった人間でもその力はたかが知れているというくらいにまで落ち込んでいる。だからこそ勇者は必要のない存在になっていたのだが。しかし、僕のような勇者がいたお陰でこの国が滅びることはなかった。しかも僕の場合は、勇者の中でもトップクラスの力を有しているらしい。そのおかげで僕は魔王軍と戦うことが出来るほどの力を得たということであった 僕は、勇者の力を持っているおかげもあり。魔王軍との戦力差を埋めることができるだろうとこの国の人々は考えているみたいだ。しかし、それは間違いであることを伝えようとした。なぜなら僕は、魔王軍の力の方が圧倒的に強いと判断したからだ。だからこそここではっきりと伝えておいた方がいいと思い。その話をしようとするが、ここでまたしても予想外のことが起きる それは僕のことを神と崇めるこの国の人々によって勇者は神の子なのだと認識されていた。その証拠が勇者の力だという事になり。この世界では「加護持ち」と呼ばれる者達の事は特別な呼び方をすることになっている。それは勇者と同じ意味を持っていたのである。その説明を受けた時、確かに、その通りだと思ってしまったのは否定することが出来なかった 僕もそう思ったのである。この世界の勇者とは女神と契約を交わしており。その恩恵を受けている者達のことであり、女神の力が使える存在こそが本物の「勇者」と呼べる存在であると考えていたのだ。だからこそ僕自身がこの世界に「転移させられた」のではなく、「転移させられた女神の加護を与えられた」のが「勇者の力を持つ本当の意味で勇者」なのではないだろうか。

だからこそ、この世界には勇者が存在するのは、女神の加護を受ける者だけが「勇者になる事が出来る」と教えられてきたのだ。だがしかし僕はこの世界に勇者がいるという話を聞いても、いまいち実感が湧かなかった。だって僕は自分の力を使って魔王軍と戦ったことはないし、魔王とも直接会ったこともなかったのだ。だからこそその言葉だけでは実感を得ることは出来なかった。

しかし神と名のつく称号を所持していた事を考えると勇者である可能性も捨てきれなかった。

そして僕がこの国に滞在する事になったのだが。なぜか、僕のことを神様扱いしてくる人達のせいで。僕のことを助けてくれた神殺しの件もあって、僕は、この国を守護するという仕事をする事になってしまう。まぁ別に嫌ではないので引き受ける事にしたのだけどね。ただその条件として、僕以外の人に手出ししないように約束させて。僕たちは元の世界に戻る為の方法を探すことにしたのである。ちなみに神無月が一緒になって行動することになったのだが。神無月にはどうしても聞いておかなければいけないことがある。なので僕はあることを聞こうとすると神無月は少し照れ臭そうな表情をしたのを見てから、思い切って聞いたのである。

僕は気になることがあって。

まず最初に確認したのはこの国の現状についてなのである。僕は神殺しによって殺された国王が復活していたのを確認したのである。その話を聞くと、なんでも神の力で蘇ったということになっていたのだが。僕の中で引っかかっていたことは、その死体が腐ることが無かったという点にあった。僕はもしかしたらと思っていたことを神無月に話すと、そのことについては僕も気付いていたのだという そう考えるとあの場所にいたのが国王ではなくて、偽物なのではないかと思うようになっていったのである。

そして神殺しは神を殺してしまったことから魔王側に付くことになり。魔王と手を繋げるようになった。そのことが関係しているのではないかと考えてしまう しかし神殺しが本当に生きているかどうかは疑問が残っていて、神無月にその辺の確認をしてもらったところ、やはり生きていたようで、僕はホッとしてしまう そんなことがあり、神無月は神殺しと戦おうとするのだが 僕はそんな神無月を止めることにしたのである。その時に、なぜ止めようと思ったのか自分でもよく分からなかったのだが。神無月は一人で戦おうとする癖があり。僕はそんな彼女を止める為にいつも頑張っている。そして今回もそのパターンになってしまわないように僕は注意を促したのである。

だが神無月は僕の忠告を無視して戦いに行ってしまうので僕は慌てて追いかけていく。そして戦闘が開始されてすぐに僕も戦闘に加わることになるのだが。神無月は僕に背中を任せて戦うと言った後で僕はその場から離れていったのである。そして僕も戦闘を開始した。

僕が神殺しと向かい合っている最中、国王と神殺しの戦いが始まったのだが、どうやら決着がつくのに時間はかからないみたいだった。国王の動きを見ただけでそれが分かる。それほどまでに彼の動きに迷いがなく。攻撃が的確なのだ そこで僕は神殺しの持っている能力が何なのかを考えていたのである。そこで思い出したことがあった。それはこの前僕たちが飛ばされたダンジョン。あそこには確か魔獣がいたはずだ。僕はそれを神殺しに伝えようと声を出すのだが、何故か国王がそれを止めに入る 僕は、国王に邪魔されないように魔法を使いながら国王を足止めすることにした 僕は国王に事情を説明しようとしたが。彼はそれでも僕のことを止めてくるのである。僕は仕方なく。彼に向かって魔法を放つのだがそれでも国王は動く気配がなかった そしてそのことに呆れたのか国王は剣で斬りかかってきたので、そこでやっと止まってくれたのである しかし彼はどうしてそこまでして僕の言葉を止めたのだろうと考えていると急にある人物のことを思い出してしまい。神無月のことを放置してしまったのだ 僕は急いで彼女の方へ駆け付けると僕は、神無月と神殺しとの戦闘に巻き込まれそうになり どうにか回避できたものの。僕は神殺しの圧倒的な力を目の当たりにした。神無月と神殺しの攻防が繰り広げられると僕は神無月を援護しようとした。僕は神殺しに向けて風の刃を放った。その風を受けて神殺しにダメージが入ったように見えたのだが 僕は、神殺しを侮りすぎていたようだ。なぜなら神殺しが笑みを浮かべた瞬間に僕たちの視界は真っ暗になったのだ ◆ それから僕はゆっくりと意識を取り戻し始める。目を覚ました時真っ先に見た光景は、目の前に居たルミリス様だった。ルミリス様の顔は近くにあって、彼女は目を覚まして僕の顔を見つめている

「んっ?ここは?」と呟くルミリス様に対して「よかった、無事でしたか」と言う僕にルミリス様は不思議そうな表情をしながら「えぇ私は特に問題ありませんでしたよ」と答えてくれる そこでふっと我に返ったのか「ところでここはどこでしょうか?」と言ってきたルミリス様に説明を始めることにする僕と神奈でダンジョンの中に入っていたこと その道中に罠に掛かっているところを僕が発見したこと そして助けてここまで連れて来たことなどを話し。

その後にこの国のことを説明したのである そして僕の力についても話そうとしたのだが 急に体が震えだし。怯え始めたのだ。どうやらこの国の王女であるルミリス様にとっては神は恐れるべき存在になっているのかもしれない。僕も正直言ってこの国の人々にどう思われているのか不安だったが。どうやらその気持ちが強いのが分かった。僕の場合は神というより。異世界人という感じだったんだろうけど。それでも怖い思いをさせたのは事実だ。それによく考えてみると僕もこの国で暮らしていける自信がないような気がしたので。

とりあえず僕はルミリスさんを連れて城に帰ることにしたのであった 僕達はこの国に着てから色々な事が起きた。この国に来るまでの道中ではモンスターに襲われたりと危険な事もあったんだけど。神殺しのおかげでなんとかなったので、今のところ大きな問題はない。ちなみに、神殺しとは未だに和解出来ていない。というかなんで僕と戦おうとしてくるのか理由がわからないんだよ。だから余計困る。しかも神殺しの方から襲ってくるからね、僕としても戦うのをやめてくれとは言いにくい状況だったりする しかし今はその話をしたいわけではないので置いといて、この国は神教という宗教によって国を支えている部分があった。それこそ女神を崇める教団だね。その女神というのは女神の加護を持つ者の事を指しているのだけど。それはつまり僕も含まれてるって事になるのかな まぁ僕は神様じゃないし。そもそも神様じゃなかったわけだよね。この世界に来させられた時は そういえば僕の加護には、神の力があるって言われたんだけど。あれがどういう意味なのか分からないんだ。確かに僕は神様ではないし。むしろその逆だと思っているくらいだ。ただ神の力を所持していることだけは否定しようがないわけだけど

「それで、神無月はこの国に居る間何をするのか決めたのか」と聞くと神無月は少し考え事をしてから、僕の顔を見て「やっぱり何もしないわ」と言った。そういわれてしまうと、僕がここに来るまでの経緯について話す必要が出てしまったのである。その経緯を話す前にこの国の現状について話さなければならないのだが。この世界には神というものが存在していなかった。

それは当然な話で、もともと神々の加護が授けられた者達は、勇者という扱いになっていたからね。そして勇者が誕生した時に、その恩恵を受けた者は神の子と呼ばれるようになったのである。しかし勇者が誕生しない世界もあったため その時にこの世界に女神が生まれたということになっているのだ その女神は女神であり、そして同時に創造主でもあるとされている。そのことから女神という称号を与えられた者こそがこの世界を作り出したのだと、人々は思っている そして神の力を受け継いだものたちは、神の子として神界に招かれることになる。しかし神無月の父親は魔王を倒すための切り札として扱われて、神殺しと呼ばれるようになって、最終的には死んでしまった だからこそ神殺しとしての役目を果たすために僕と戦うつもりなのかもしれないが。僕は神無月が戦うことは嫌だったから、神殺しとの戦いを止めていたのである 僕はそのことで少し罪悪感のようなものを覚えていたのだけど、そんな僕のことを神無月は優しい声で慰めてくれた。そしてこれから僕達がこの世界で生きていく上での指針を決めておいた方がいいと思うと僕は神無月に提案すると、彼女は同意してくれたので。僕はまずこの国の人達に僕達の事情を伝えておくべきだと思うと言ったのである それから数日後。僕は、神無月に案内された場所で神無月に告白をした。それは僕にとってはとても大事な話になる 僕と神無月には共通点があったのは分かっていた 僕は神殺しが僕と神無月に何かを仕掛けてきているのではないかと考えていた。神殺しは僕たちに対して、神として崇めるような態度を取っていたのである。

もしかしたら神無月と神殺しは同一人物ではないかと思ったのだ。

もしそれが本当なら僕は神殺しを殺す必要があるのだろう。神無月にとっての神は神無月自身であって神殺しではなかったのだから。しかし僕は神殺しのことがどうしても許せなかった。僕達をこの世界に連れて来たことがそもそもの原因だと思うのだが、それ以上に この世界の人々を騙していたことが一番の理由なのだ もしかしたら僕も知らないうちに、神殺しの手によって殺されていた可能性だってあったはずなのに それどころか僕と神無月は、元々住んでいた世界でも知り合いだった。

しかし僕と神無月の仲が良かったかというと、別にそんなことはなかったのである。

しかし神無月は僕のことを気にかけてくれているようでもあったので。

僕のことを好きだといってくれた神無月のためにも。

神殺しとの決着をつけたいと思ったのである 神無月と一緒に旅をしている間に色々とこの世界について知ることができた。そして神無月も自分のことを少しずつ教えてくれて。僕はそんな彼女に好意を抱き始めているのを自覚していたのである ◆ 僕たちが出会ったあの場所は、僕が住んでいた街で。

僕は神無月の家に居候している形になっている。僕は彼女の家にお世話になっている立場なので。せめて家の掃除などを積極的にやっていたのだが。彼女はあまり僕がそういうことをするのは望まないらしく。家の中ではあまり手伝うことがない。でも僕が料理を作る時に使う食材などを仕入れにいく時にはついてきて荷物を持ってくれることがある そして僕が神殺しと出会ったダンジョン。そこに関しては、実は攻略していないのだ。というよりも僕はダンジョンの入口付近にいた神殺しを偶然見つけただけで、ダンジョンにはまだ入っていないのだ しかし僕の考えが正しければダンジョンの中に潜った方が早いので、とりあえず中に入ってみるかと考えているので、神殺しを探しながら、ダンジョンの攻略をすることにして、神奈にはダンジョンの攻略を進めてもらうように頼んでいた 僕は、この国の人達が神を信じていることを利用して神の力を使いこなすことにしたのである その結果僕の能力は神の力としか言い表せないほどの力を身に着けたのだが 僕はそのことをあまり喜べずにいた というのもこの国の人達は、この国の神様を本当に信じており。神の存在を証明できる力を手に入れることが出来たのだ ただ、僕はそのことについて疑問を感じていた 何故ならばこの国の人たちは神様を実際に見てはいないからである 僕はこの国の人が神と出会っていないことに不安を覚えたのであった。もしも神様に会っていないのに。その人のことを勝手に神様と信じ込んでいるという状態だったらどうしようもないと思っていたのだ しかしそれも、すぐに分かることになってしまったので 僕はとりあえずそのことについては後に回すことにする。それから数日経った後のことだった。僕はとある村へと辿り着いたのだけど。そこで不思議な現象に遭遇することになったのである

「ねぇ神無月。どうしてこんなところに隠れていたの?」と僕が言うと彼女は少し慌てたような表情を浮かべてから。僕に対して、ごめんなさいと一言言ってから。今までの出来事を話し始めてくれた それは少し前の話だった

「神奈、ちょっといいかしら?」と私が話しかけると神奈はすぐにこちらを向いて、「なに?お母さん」と私に尋ねてくる 私はこの子が可愛くて仕方がなかった。神奈を産んだ時。その日を境に私の心は満たされていったの だから私は神奈のためだったらなんでもした。たとえ自分が犠牲になろうとも。それで神奈の幸せにつながるならそれでも構わないって本気で思ったの それに、あの人にも神無月さんって言われるよりも神無月ちゃんとかの方が嬉しいのよね。まぁ名前で呼ばれたことが無いわけじゃないけど

「神奈、あなたは勇者召喚の儀式には参加しなくてよかったのよ。あなたの体に何があるのか分からない以上。危険が及ぶかもしれないし」と神奈のことを心配しすぎて、私は娘に対して、かなりきつく当たってしまっていた。神奈の体は生まれつき普通の子と違っていて。それをどうにかできないか考えていた その時に、ある一人の男と出会うことになる 彼の名前は黒谷といい。彼の職業は神の力を受け継ぎし者として神に選ばれた存在だという。彼はその事を隠そうとはせず、堂々と神の力を受け継いだと話を始めたのだけど。神の力を引き継いでいるということは神の子である可能性が高いの それに彼がこの国の人間でないことも問題だと思った。もし他の国の住人だとしたら、この国に不利益をもたらす存在にもなりかねない。そして神無月さんは、神殺しのことを知っていた。そして彼女が、神殺しの関係者であることまで分かっているからこそ 彼を信用することなど出来なかったのである だけど彼は、私と神奈を救ってくれると言っていた。だから神無月さんを連れて行くことに決めたのだけど。それは間違いだったのかもしれなかった そう思えた理由は神奈が神殺しに出会ったときに。彼に殺される可能性が出てきてしまったからだ そう、私は神殺しに会うことを恐れてしまったのである 神殺しに会いたくないという一身で私は行動してしまっている そうしないと、この国が滅んでしまうからこの国はもうすでに神殺しの存在を知っている だからこそ神殺しの信者達が暴動を起こしたとしてもおかしくはない状況だといえる

「母さん大丈夫」と神奈は私の顔を見ながら聞いてきた。その瞳はまるで心配しているかのように思えるものだったのだけど。本当は神殺しから逃げていることに関してなのだろう。この子は勘が鋭い。そして賢いから。

神殺しがどんな存在であるのか知っているはず

「神無月はさ、俺がこの世界に来た経緯については知ってるか?」

僕は彼女にそんな質問を投げかけた その質問は神無月に、僕がこの世界に飛ばされるまでの経緯を説明して欲しいという意味で、聞いた言葉である。そして僕はその説明を聞くまでもなく。彼女と同じ境遇だということを悟ってしまうのである 僕と神無月は同じ時期に、別の世界に住んでいた そのことは、僕が彼女をこの世界に呼び出してしまった原因だと理解できたので 神殺しに対する恨みは消えることはないのだけど そして僕は、彼女とこの世界の事について話をすることにしたのであった そしてこの世界での生活を始めようと決意を固めた翌日。神無月と二人で街に出てみることにした。

僕達が暮らしている家は森に囲まれているので、どうしても街中に出なければいけないという訳ではないけども。一応食料などの生活必需品なども買わないといけないので。僕達は買い出しのために町へと向かうことになったのだ。

それからしばらく歩いたところで僕達はかなりの大きさを誇る建物を発見することができた。僕はこの建物がいったい何かを確かめたくて近くに行ってみると看板を発見したのである。そこに書かれている文字は『冒険者ギルド』というものであり。つまりこの建物は依頼の仲介をするための場所で そしてこの国の冒険者達の拠り所になるのだと分かったので。僕はここで情報収集をしておこうと思ったのだ

「あ、神殺し君じゃないか!」と言って僕に声をかけてきた女性が居たのである。その人は以前この世界に来てすぐに知り合った女性の人で。彼女はこの冒険者ギルドの職員をしていた。

「どうもこんにちは!久しぶりですね」とその女性と話をするのだが。彼女は僕の名前を呼ぶことはなく。なぜか神殺しと呼んで僕に接してくれるのだ。

それはなぜだろうかと思ったが。僕がこの世界では、魔王を倒し英雄になった人物である。そしてこの国の王女である神無月の彼氏だからだと思う だからこの女性は僕が勇者であることを知っており。その上で僕と接してくれているのだと思われる。ただこの世界に来て間もない僕にとっては、それが当たり前だったので特に何も思うことはなかったのだけど

「あの。私の名前は真白神奈と言います。よろしくお願いします」と神無月が、その女性に自己紹介をするのだが。この女性はそんな神無月にたいして。優しく接してくれていたのだ そしてその光景を見て僕は思ったのだ。この人はもしかしたら良い人の可能性があるかもしれないって。そしてその考えはすぐに正しいものだと分かる

「あらご丁寧にありがとうございますね。私はクレアといいますので」とその女性は自分の名前を明かしてから。早速本題に入ろうとして僕に話しかけてくれたのだ 僕は彼女の方を見つめた後に、彼女が口にした本題について聞こうとするが。その前に、僕は彼女に質問をぶつけてみることにしてみたのである

「えっと、それで今日は僕たちになんのようなのですか?」と僕が訪ねると。彼女は笑顔を浮かべて、「はい。先程も言いましたけど、実は、神殺し様に指名依頼を受けて頂けませんか?」と言ってきたのである それを聞いた僕は内心嫌な気持ちになってしまった というのも僕としては、別にお金に困っているわけでもないし。そこまで仕事を頑張らなくてもよいと思っているのである。それにこの国の人達の依頼なんて絶対に面倒ごとしかなさそうな感じしかしない。それに神無月の方も僕の隣で不満げな態度を示しているし しかし僕は少し考えてから、神殺しとしての力を試すため。この国からのクエストを引き受けてみることにしたのだ。それは僕と神無月が受けた依頼内容は、『神殺しの力を確認させてほしい。それとこの国で最強の人物と戦ってほしい。もちろん、神の力を継承した勇者でも構わない』という内容で。僕が最強と言われるぐらいの人物と戦いたいという願望があるのならばと。神無月と共に戦うことにして。神殺しの力が通用するのかを確かめる事にしたのである。

◆ 僕たちは神殺しの力を披露するために用意された舞台に案内された そこには屈強の戦士が数十人と魔法使いが二人ほど集まっているようで。その数は100人を超えているように思われた 彼らは全員神の力を継承しておりその力は凄まじいものであるらしい ちなみに僕の力に関してはすでにこの場にいる全ての人間が理解していることであり。その力を確認した後なら好きに行動してくださいと言われたので、僕はその言葉を素直に受け止め。神奈に合図を送る すると神奈はその手に持っている槍を構えた後。その場から離れていったのだ 彼女はその槍を使い魔法を使うこともできる。だから今回僕たちの前に現れる魔物に対しての攻撃を担当してもらうのである そう、今僕たちが立っている場所の周りを取り囲むようにして魔物は出現しており。その数は優に百を超えていたのである 僕はその数の多さを見て本当にこれでよかったのか不安になってしまっていた こんなに多くの数を倒さなければいけないと思うとかなり億劫になりそうだと思ったから だけどその瞬間。僕に向かって、巨大な岩石が襲いかかってきたのである その岩石のスピードはかなり速く。避けないとやられてしまうと判断した僕は、急いで回避しようと足に力を入れたのだけど その刹那。僕は何者かによって、後ろから腕を押さえつけられてしまう。そのため避けることができなかった しかも僕の目の前には神奈の操る岩石が迫ってきていたので もうだめだと思ったのだけど その次の瞬間。突然目の前に迫っていた岩が崩れ落ちる それをみた神奈が驚いた表情を浮かべていて

「あれ?どうして私の技が?」と言っているのが聞こえた どうもこの岩石は誰かが僕を助けようと、放った攻撃だったようである そう思った僕は振り返り、自分のことを助けた人物が誰なのかを確認しようとしたのだけど そこに立っていたのは見覚えのない少女であった しかしその服装に見慣れているところがあった 僕が通っていた学校が女子生徒だけが着用することが許された特別な制服に似ているからこそ、僕はこの少女を警戒することを決める なぜならこの世界は、僕がいた元の世界とは全く異なる別世界なのだから。そして神無月が言っていたように、僕と同じような境遇の存在がいても不思議ではないから。僕はいつでも神殺しの能力を使用できる準備をしながら

「助けてもらったので一応礼を言うが、お前は何者で。僕達に一体何のようだ?」と僕は質問を投げかける その問いかけに対し。その謎の美少女は僕に対してこう答えた

「私の名前は黒谷。そしてこの世界とは別の世界の住人だ。だから君達の敵にはならないから、そこは安心して欲しい」と彼女は言うのである しかし、この世界は、この世界に住む人間達以外の存在の立ち入りを認めていない国だ。そして神無月の話によれば。この国の住民以外は、神の力を受け継いだ者達の事を良く思っていないはずだから 僕は彼女が嘘をついているのではと疑ってしまうのだけど。僕はその疑念を抱きながらも

「そうか。ならまずはこの魔物の山から脱出することが優先だ。僕は神無月を援護しながら、その女と戦うから。君も協力してほしい」と僕は言ったのである そしてその発言が終わり。僕達が行動を起こそうとしたとき。突然、この国の王女である神無月が。黒谷と名乗る女のところに駆けつけていく姿が目に入ってきたのであった 神無月さんは私にとって大切な人であり そして私を守ってくれる騎士でもあり 私の恋人である その彼が、この世界に現れたばかりの見知らぬ女のことを心配するかのように 彼女の下へと駆け寄り、私に助けを求めるように言葉をかけたのだ それを見た私は、すぐに行動を開始した。神殺しと呼ばれる彼と私の親友の神奈ちゃんの二人だけで、大量の魔族を相手にするのは無理だと思う。だからこそ、この世界の王族として、私は、神無月を助けるべく。神無月に駆け寄ったのだ そしてそこで私が目に入ったのは、地面に膝をつけている親友の姿であった。そしてその光景を目の当たりにしたとき。私の心の中にどす黒い感情が生まれる。なんでこの子は倒れこんでいるのかって そんなことを考えたけど、私は神無月のことを心配し すぐに彼女の元へ駆けつけたのだ

「神無月!大丈夫!?怪我してない!?」と慌てて声をかけると。神無月はすぐに立ち上がってくれて。そして私に微笑みかけてくれるのだけど そんな彼女を見ていた私に気づいた神殺し君は、いきなり現れた私を警戒し始めたのだ そして、そのタイミングで。神殺し君の知り合いだという黒髪の女性が彼に近づいてきた 私は彼女が何かをするのではないかと思い警戒をし始める しかし女性は、私達の間に入り。まるでこの国の住民ではないかのような言動を始めたのである

「私の名前は、黒谷。君達が戦おうとしている相手の仲間だ。だが今は君たちの味方をするつもりはない」

その発言を聞いていた私は疑問を抱いた この人はいったい何を言っているんだろうって、しかし隣で神殺し君が何かを感じ取っている様子を見せていたのだ それはおそらく黒谷さんの纏う雰囲気が変わったのだと分かった。なぜなら彼女の放つ魔力が大きく膨れあがったのである その魔力はあまりにも強く。それを浴びていた神殺し君が辛そうな表情を見せ始めてしまった 私もそれに影響されて、神奈が持っていた杖を構え、臨戦態勢に入ることにしたのだ するとその刹那、黒谷と名乗った女性の瞳に。今までの冷静さが消え、殺意が宿り始める そしてその瞬間。私達は、この人の恐ろしさに気がついてしまう この人が本気で殺しに来ていると しかし私は負けるわけにはいかない。神無月を、神殺しくんを守ると決めていたのである そして神奈の方はというと。なぜか怯えているようだった。私は彼女に何があったのかを確認するために声をかけようとすると。なぜか彼女は私のことを見て「ひいっ!」と悲鳴を上げ 神殺しの方へ逃げるように走って行ってしまったのである なぜ彼女が逃げたのか分からないけれど。そのことで少し余裕ができた私は改めて黒谷さんに視線を向ける。この人は明らかに普通じゃないと理解できたからだ だってこんなに膨大な量の魔法力を一瞬で放ってくるなんて、あり得ないことだったからである でも、今の私たちの現状で、彼女の力を頼る必要があることは確かなことだと感じた私は覚悟を決めてから黒谷に質問をぶつけることにする そうすれば神奈も落ち着いてくれるかもしれないと思って そしてその考えは当たっており、彼女は落ち着いた態度を見せるようになっていた しかしここで黒谷さんの方から神殺し君に質問をしていたのだ それはこの国の人間ではないあなたが。なんでこんな場所にやってきたのかという事についてである それにたいして神殺し君はこう答える

「それは僕がこの国の勇者として、魔王を倒しに来たからだ。それがどうかしたのか?」とね するとその返答をきいた彼女は少しだけ戸惑っているような素振りを見せた後に、口を開く

「それは違うぞ。神殺し様。勇者とは私の称号である。それにこの国にも勇者がいる。それに貴方の力なら私など簡単に倒せるはずだ。それをわざわざこのような場所に訪れる理由がわからない」と言ってきたのである その言葉を言われた僕は内心動揺してしまった この女はいったいなにを言っているんだと 確かに、この国にいる勇者になら神殺しの力を使うことができるだろう だが僕の場合は例外だ 僕自身が神殺しの力を持っているのは。異世界から呼び出された時。その時に手に入れた能力のせいなのであり だから本来なら神の力を継承しなければ、僕が最強の存在になることは不可能なはずなのだ しかしこの女は、僕が神の力で、最強になっていると、そう考えているようで そのことに関して、この国の人間から僕に対しての不信感が募る可能性があると考えた そう思った僕は、すぐにこの場を去ろうとしたのだけど。その時に僕が動き出したことに気づいたのか。黒谷が僕の方に向かって攻撃魔法を放ってきたのである

「ちっ。面倒だ」

僕は舌打ちをして、神無月に向かってこう言う

「お前は、俺から離れるなよ」とね 神無月はそれを聞いて嬉しそうにするんだけど 正直言ってあまり離れられると、この国の住民からの僕の印象が良くなくなってしまう なのでこの攻撃に関しては神無月を巻き込まないように注意をしつつ、僕がこの女を止める必要があったのである そう考えていた僕はすぐに神奈が使っていた剣を抜き取り そして黒坂の攻撃を受け止めたのである しかし相手の方が攻撃は上であった その事実を確認出来た僕はすぐさま。反撃に転じるために神無月の方を向くと

「ごめんなさい」という言葉を口にしてから 僕は彼女の首元に手刀を入れ気絶させたのである しかし、彼女は意識を失ったものの。命に別状はなさそうだと判断した僕は

「おい!俺はお前と戦いたくはないが。この場で決着をつけたほうが良さそうだと判断したから、悪いが。本気でいかせてもらう」と、宣言をしたのであった そして神無月の首筋から手を離した後

「今からお前を倒す。だから、死んでも恨むんじゃねえぞ」と言ったのである 僕はそう言い切ったあと。まず最初にこの世界で得た新たな武器を使って戦うことにした その名は『神殺しの槍』

これは神殺しの力を込められて作られたとされる槍だ そして僕が持つ神無月が作ったと思われる武器の中では一番強力な物でもある しかし、その槍は、使い手が未熟であればあるほど。使用時の代償が大きくなるのである その力を使いこなせれば、神すら殺すことが出来るほどの破壊力を得ることが出来るけど。使いこなせない者は。ただ使用者の力を吸収するだけの危険な武器になってしまうのだ だからこそ、神無月を守るためには まずこの槍に認められた者でなければならないと、そう判断していたのである そう考えた僕はその手に握った神殺しの槍を黒江に突きつけながらこう言った まず初めに忠告しておくが。下手したら本当に死ぬことになるかもしれんが。文句を言うでないぞ。と、ね

「え? そんなに強いんですか!?」と驚きの声を上げるのだけど それを見た神無月が、心配そうな顔をするのを見て、黒宮が慌てて神殺しに詰め寄って その矛を収めさせようとするのであるが。僕はそれを無視することにしたのである

「貴様がそのつもりであるならば。仕方ない、こちらにも考えがある。だが後悔だけはしないで欲しい。もしもこの国の住人が。この女の命を奪うというのであるのならば。この国は滅ぶであろう。そのことをよく考えるがよい!」と言い放つ黒屋は 神殺しに襲いかかって来たのである

「神無月。少し離れていろ。この女の狙いは俺らしい」と神殺しに聞こえる程度の声で呟いた その言葉で、神無月は、僕の言葉に素直に従ってくれて。すぐにその場から離れた そして神無月が、この部屋を出ていくのを確認して 僕は黒屋と戦う覚悟を決めた それからしばらく、黒屋の魔法攻撃をひたすら避け続けたのだが どう考えてもこの黒谷は。僕が知る黒屋とは違いすぎることに気がつく なぜ僕と同じ顔なのかは知らないが。黒髪に赤い瞳をしている。まるで僕がそのまま女性になったような容姿に違和感を覚えてしまうのであった 黒宮が言っていた、もう一人の黒神というのはこの人の事だと直感でわかったけど。そんなことを考えていたら。突然、この部屋の出入り口から大勢の人が部屋に入ってきたのである それはこの国の兵士達であった。おそらく神無月をここまで追いかけてきたんだろうけど その人たちを見た神殺しが、神殺しの力が使えると勘違いするのではないだろうかと思ったのである

「神殺し殿! ここは我々にお任せください!」と兵士の一人が声をかけてくれたおかげで。神殺しは、自分の役目を果たすため。ここから出ていったのである

「ふー」と息を吐いて呼吸を整えた僕は。目の前にいる敵に集中することにした そうして僕達の戦いは再開されるのだった しかし、この世界の神を殺すという目的のためには。この女は邪魔だと改めて感じたのである そして僕はこの場から立ち去ることを決めた この国の王族である黒坂には悪いとは思ったが この黒谷の相手をするためには 僕の持っているスキルを全て使うしかないと考えてしまったから この世界において、僕は圧倒的な強さを持っていると、神無月に説明をしていたこともあり 僕と神殺しの戦闘が始まったことで、戦いの場が壊れることを恐れ。私は黒坂の傍で様子を見ることにした しかし、この光景を見てしまった私は、あまりにも衝撃的な場面を目撃してしまうのである なんと神殺しが戦っているのは、私の良く知っている人物で 神無月と一緒に、この城の中に捕らわれていた黒髪の女性であった それを確認した私は驚いてしまう。どうして彼女が神殺しと戦えるのか。その理由を考えている間に 神殺しは神殺しの力を発揮し始め 彼女のことを圧倒し始めた しかし神殺しが神殺しの能力を発動し始めた途端 私は恐怖心を抱き始めてしまい 無意識のうちに体が震え始めてしまったのである なぜそこまで神殺しの力に恐れているのかという疑問は当然湧いてくるとは思うけれど 私はこの国の姫で。この城の主でもある。その私がこんなにも怯えているという事が分かれば この国の住民はさらに私を信用しなくなる可能性があると、それだけは避けなければいけないのだと その事を考えた時に思った しかし、神殺しの力は想像以上であり 神殺しは、彼女に攻撃を加えることができればそれで良いと考えているのか。

彼女は神殺しの攻撃を避け続けるだけだった でも私からしてみれば、その動きも十分に脅威であった だってその動作一つだけで 神殺しと同等の魔力量を一瞬で生み出しているからだ それを何度も繰り返すことによって神無月と私に対して見せ付けてきて。私たちを精神的に追い詰めていくのであった

「なんなのだ、あいつは?」と黒坂が困惑しながら口を開いたのである その言葉を聞いた私は この男なら神殺しと戦っても勝てるのではないかと考えてしまう この国にいるどの騎士や魔法士たちより強いのがわかるからだ

「この国の勇者様があれだけ一方的にやられるのですか?」

黒宮は、私以上にこの国の中で神殺しの力について詳しいはずだと、そう思って。彼女なら黒坂のことを助けられるんじゃないかと、そう考えてしまっていたのである

「ああそうだな。あの男は。確かにこの国の勇者よりも強い」

しかし神殺しに一撃を当てることが出来ず。神殺しの動きにも余裕を感じ始めていた時。彼女はいきなりこの城の窓から飛び降りたのである 神殺しはそれを見逃さなかったのだけど。神殺しはなぜか追撃することなく彼女を逃がすことを優先した

「いったいどういうことだ?神殺しの力を理解できていないはずなのに。この国から逃げ出すなどあり得るはずがないのじゃが? それに奴の能力はまだまだあるということか?それとも何かの罠なのか?」

黒江は神殺しの行動の意味がわからず 首を傾げてしまうのである そんな黒井に対して、黒神が近寄りこう言うのであった その前にお前たちは。一度外に出てから。この国を出るための手配をしてきてくれ。それが終わればこの国に待機していてくれればいい 俺はこの場で神殺しに仕掛けるが。万が一。神殺しを取り逃がしたら大変な事になるだろう

「わかりました。では、そうしますね」と黒宮が答えた後。二人は黒江を置いて出て行ったのである黒坂はその二人の会話を耳に入れ。自分が何をすべきなのか考えようとするのだが。それよりも先に神無月が僕のことを心配しながら駆け寄ってきたので 神無月が離れないように抱きかかえるように腕を回してから、神殺しの後を追いかけようとしたのである

「お前ら待ってくれ!」と言う黒坂の言葉に振り向いたのは黒神だけであり 他のみんなは黒神のことが怖くて動けなかったのである

「なんじゃ貴様。俺のことを気にしている暇があったら。あの女を追ってはくれないか? このまま行かせていいわけじゃないから」

神殺しは、黒宮達が逃げようとしているのが分かったから、それを阻止するために。僕に声をかけてきたのだと思っていたから、僕はすぐに神無月を抱えたままその場から移動しようとした 神殺しの事をあまり知らない神無月からすれば、黒殺しが怖いのは仕方ないことだと思うし 黒神が神殺しの力を使えないのであれば。黒神から逃げるためには仕方のない事だと考えたのであろう そんな僕たちが移動するのを見て。神殺しが「逃すかよ!」と、神殺しの槍を取り出したのだ。そしてそのまま、こちらに目掛けて投げつけてきたのである そんな攻撃をまともに受けてしまえば致命傷になる可能性が高かったけど その攻撃を受けるのは危険だと判断した僕は。神殺しの投げた槍を避けるべく行動を開始したのだ その槍の軌道は、真っ直ぐに僕たちに向かうことはなく。その先にある物に向かって進んでおり。槍は途中で軌道を変えて壁に突き刺さった そのおかげで僕たちには槍の影響はなく。神殺しの槍は天井を貫き大きな穴を開けてしまう そんな出来事に唖然としてしまう神無月だったけど。僕と神殺しの力の違いを嫌でも知ることになり 悔しそうな表情をしながら「黒宮さんが、言っていたことがよくわかった」と、口にしたのである その言葉を聞いて僕は 神無月が神殺しの本当の力に気がついてくれたんだと思い。神殺しに負けたくない気持ちが湧いたのである それから僕は神殺しの武器から放たれた衝撃波を受け。地面に倒れてしまうが 神殺しが、神殺しの力を使い始めてから。黒神が黒屋の前に現れるまでの時間は長く感じられたが 実際には短い時間でしかなく。

黒神は黒屋を守るかのように現れて「神殺し。そろそろ諦めてください」と黒屋に危害が及ばないようにするかのような口調で神殺しに話しかけていた 僕はというと。衝撃波を受けて吹き飛ばされ。壁に衝突し意識を失ってしまうのだが。それでも、神殺しと戦う意志は失ってはいなかったのである

「神殺し! この国をどうするつもりですか!? この国をあなたの力で潰そうとでもいうのですか?」

黒神は怒りを抑えきれず神殺しに向けて叫んだのである その黒神の言葉で黒屋のほうを振り向くと。黒宮に抱きしめられて。今にも死にそうなくらい弱っている黒屋の姿を見て 僕はすぐに二人に近づいて「黒神!神無月を連れて離れていろ!」と声をかけてから 急いで黒宮の元に行くのであった

「あああ黒谷殿。ど、どうして。ここに居るのです?」と苦しそうな顔をしながらも必死に笑顔を向けてくる黒宮を目にした途端 僕は居ても立ってもいられなくなり「黒宮殿!死なせないぞ! 黒坂は約束する。俺が絶対に助ける!だからもう安心してくれ!」と僕は叫び。

「黒坂。頼む」と神殺しが僕の名前を呼んだ時には すでに僕の身体からは黒い霧のようなオーラが出ており そのオーラを神殺しは確認すると同時に、神殺しの力を使うために構えに入った瞬間 僕は黒神の胸を手で貫いていたのである「ごふっ!」口から大量の血を流していた神無月だったけど。その顔には苦痛の色は見せずに笑みを浮かべていて。自分の胸に手を触れている神無月が、自分を殺そうとしている黒坂の腕を掴んでいたのである そして「黒坂君ありがとう」と小さな声で神無月に囁かれた時。僕の手の中に、今までとは違う暖かいものを感じることができた 神殺しのスキルの発動条件。それは黒坂の大切な人の生命を、この世界に留まらせるための条件でもあり それが叶ったことによって、黒神の力が失われ そのせいで神殺しの力が使えなくなっていたのである それと同時に、黒坂の纏っていた闇も消え去り

「お主は誰じゃ?なぜわしのスキルが消えた?」とその様子を見ていた黒坂は驚いてしまう なぜなら神殺しは。神殺しの力を使っていて。なおかつ黒坂は黒神から黒帝の加護を得ているはずなのに。

その黒帝が、目の前に居る存在の力に打ち消されたようにしか見えなかったので それならばなぜ自分が、神殺しのスキルの力を使えなくなったのか疑問が尽きなかったのである しかしその時に黒坂はある事に気がついたのである。そう、この部屋にいるもう一人の人物が消えているという事実を その事実に気がついた時。神殺しはニヤリと笑うと

「やはり、貴様も偽者か」と言いながら神殺しは剣を取り出すと、黒神と僕がいる空間に向けて振り払ったのであった 僕も神殺しと同じように、神殺しが作り出した闇の中に黒石がいたような感覚を覚えていたから。僕と神殺しの攻撃を避けようとする黒石の姿を確認した時に僕はすぐに、彼女のことを抱きかかえ 神殺しから離れた場所に移動して。そのまま神殺しが攻撃していた場所を見ると、そこには、黒髪のロングヘアーに白い肌の女の子が無傷で立っており その子を見て、黒坂は驚愕してしまったのである

「どうして、どうして彼女が?」と呟いている黒坂のことを、神殺しの攻撃を避けながらも、黒石のことは気にかけている様子に、黒坂のことが心配になった黒宮は黒坂の傍まで行くと 黒宮のほうを見た神坂が、「彼女は黒石と言うんです」と口にした時 神無月が神殺しの前に立ち塞がり 神殺しに向かってこう言い放ったのである

「私に勝てるつもりか? 私の前に立つなら容赦しない」と言う神無月の目には殺意があり 僕は初めて見た感情を露わにしている神無月のその姿は、黒宮とはまた違う美しさを感じてしまったのである 神殺しは自分の力を使える状態ではないと判断した神殺しは、黒石を一筋の涙をこぼすと、神無月のことを斬り捨てようとし。

僕たちが見ている前で黒無が斬られる光景を目に収めてしまいそうになったのだが。僕たちの前に現れたのは黒神ではなく。なんと白崎さんだったのだ しかし現れた場所は僕たちの背後にであり しかもなぜか全身が真っ赤に染まっていて、頭からも流血している状態だったのだ。僕と黒宮はその姿を見て 何が起きたのかさっぱり分からなかったが。それよりも早く神殺しのことを止めなければならないと思ったのだ そんな僕たちを、神殺しが襲おうとする直前。僕の身体は再び黒い霧に包まれると、そのまま僕の姿に変化が起きる。髪の毛の色が変化し。瞳の色が紫色に変わっていく その様子を見続けていた神殺しは「きさまさっきのやつだな!黒神の居場所を言え!」と言って僕に襲いかかろうとしたのだが。その攻撃を止めたのは。僕の変化に気が付いた神殺しでもなく、神無月だったのである 僕を守ろうとしてくれた神無月が神殺しの一撃を受けそうになっているのを目にして 僕はすぐに黒刀を神無月に向けて投げたのである。

神無月は突然のことに驚きながら避けようとしたが、僕からの投擲物は追尾機能があるから避けることができなかったのである その結果、神無月は右肩から脇腹にかけて切り傷を負うが 神殺しは、神無月の持っていた小太刀が折れた事を確認すると同時に、すぐに僕の元に走り出してきたのであった 黒刀は僕のところに戻るように戻ってくるのを確認しながら、僕のことを追いかけてきた神殺しに対して、今度は、黒い炎の球体を投げ込んだのである

「くっ!これはまさか!?」と神殺しが言った次の瞬間。僕の視界には神殺しさの足元から徐々に燃え広がり。

最終的には、神殺しの体を包み込むと。神殺しの動きを止めることに成功したのである そんな僕たちのやりとりを見て。唖然としているのは黒姫だった なぜなら、先ほどまで、目の前にいた僕たちの姿形がまるで別のものへと変わっていることに気がつき 黒宮も同じような状況で困惑していたのである

「さすがは、神殺しだね」と神殺しは苦笑いしながら「俺の攻撃を初見でかわすのは黒坂以外だとお前だけだな。それに今のスキル。

間違いなく黒帝だろ?」と神殺しは黒刀を手に持ち、僕をじっと見つめてくる

「うん。そうだよ」と黒無が言うと。「やっぱりそうだったんだ」と言い出したのである 神殺しの言葉に、僕はどういう意味なのか聞くことにした

「あれ、言ってなかったかな。俺は君の本当の名前を、君の父親から聞いていたんだよ。君は黒坂真人だって」

「そ、そんな」と、神無月が自分の父親の言葉を聞いて驚いていた

「だから君が、俺と対の存在。つまり俺のスキルを封じることが可能な力の持ち主。そして俺がもっとも恐れている人物。だから黒帝には、手を出してはいけないと教えられてね」

そう言われて、僕はあることを考えてしまう 黒宮がこの場にいないという事は 神無月はともかくとして、なぜこの世界に来てからずっと一緒にいてくれた黒坂さんはここに居ないのですか?」と疑問を口にしていた 僕は黒神のほうに振り返って。「神殺し!今すぐこの世界に、俺たちが来れるよう。黒神を説得してくれ!」と叫ぶと

「それは出来ぬ話じゃ。そもそもお主がここに来た理由は分かっておる。あのスキルを使えばわしの力が発動できなくなってしまい、わしはこの世界のルールから外れることになってしまうのは理解しておる。だが。だからと言って、はいそうですか、とは言えん」と神殺しは、黒坂さんの問いかけを否定したのである

「ならば仕方がない。無理やり連れ帰るのみ」と黒坂さんが神殺しに近づくと 神殺しが「黒無!黒石!俺から離れるな!」と言い。僕と神殺しの間に立ちふさがったのである それを確認した僕はすぐさま、僕自身にしか使うことが出来ない。スキルを起動させる準備をする すると神無月と黒姫は、僕の行動を見て、何かを感じ取ったのか、黒坂さんの後ろに隠れるように移動して 黒坂の背中にしがみつくと、黒坂の事を信頼しきっているかのように身を寄せているのだった その行動を気にすることもなく、僕はスキルを使うための準備をしている 僕はスキルを発動するために集中していたが。神殺しが「おい待ってくれ黒坂殿。少しだけ話をさせてくれないか。君にも関係のありそうな内容だから。この世界を救えるかどうかは分からないけど。少しでも黒石のために時間を稼ぐ時間をくれ」と言われ 黒坂さんが、神殺しと向き合い。話し合うことになったのだ 僕は二人を見ながら、この世界で起きている異変について、考察をしていた 僕はなぜ。神殺しが黒石を連れ去るのではなく。黒石を連れてきたのだろうか この世界を救う鍵が黒神であると、知っているからなのか。黒坂のスキルを使って、神殺しと黒石を入れ替えることができるかもしれないと考えている可能性を考えたからである もし、その考えが正しければ、僕たちは大きな勘違いをしてしまっていたことになる ただでさえ厄介なスキルを持っているのに、その効果を打ち消すことができる存在。しかもその人物は黒帝と同等の力を持つ存在である可能性が高い さらに黒無が僕に近づいてくることで、その考えがより一層、現実味を帯びてきて、僕が黒坂さんのことを信じ切れていなかったことが仇となってしまったのである 僕はこのスキルを、黒坂さんの願いによって手に入れることができていた 黒神の力を手に入れるためのスキルだったのに、いつのまにか黒坂さんの力を借りるための道具になってしまったような感じになってしまっていて 僕のこの力で黒坂さんの力を取り戻すためにも、僕は全力で黒石を救い出すことを決意したのである そんな時に神殺しと黒坂さんは話し合いを終えたらしく。神殺しは僕の元にゆっくりと歩いて近寄ってきた 僕は警戒しながらも、神殺しの目の前まで来ると 僕の顔を見るなり。笑みを浮かべながら、「久しぶりだな。黒神。会いたかったぜ」と言ったのだ そんな神殺しに向かって黒坂は「僕に会いに?一体なんの用があって?」と言うと 神殺しは真剣な表情で、「黒神。俺と手を組まないか?」と提案を持ちかけてきたのである 僕が「どうして僕に?」と神殺しに尋ねると。「あんたなら。今の俺が求めている答えを持ってると思ったからさ」と答えると。黒神は黒坂のことを見ると

「その気持ち。僕にもよくわかるよ。だけど僕にはやらなければならないことがある」

僕はそう言いながらも黒神の方をじっと見つめると。僕の目を見返してくる黒神は、「あなたには、まだ早いと思うのですが」と僕に忠告してくれると。僕はそれに対して何も言わずに黙り込んでしまった 神殺しはそんな僕のことを、見つめ続けているのだが、僕の反応を見ているのである

「ふぅー」と息を吐き出した神殺しは、黒神から目を離すと、僕に向かって、自分の意思をはっきりさせてくれると

「やはり駄目だ。どうしてもと言うのであれば。俺はお前を殺すしかない」と神殺しが言うと。僕はそれを否定せず。そのまま受け入れたのだ 神殺しが、黒刀を構えると同時に、黒無は僕に攻撃してきたが、僕の周りに結界を張ると、僕への攻撃が防がれたことに驚くと同時に。僕の結界に傷をつけていたことが不思議に思っていた 僕は、そのまま神殺しの攻撃を受け止める体勢に入り、そのまま攻撃を受けると同時に

「僕の力を返してもらうよ」と、神殺しに告げると。僕と神殺しの意識が入れ替わるように入れ替わったのである 僕の力を受け取った神殺しは「黒神のやつ。本当に容赦ない奴だな。いきなり攻撃を仕掛けてくるなんてな」と愚痴をこぼしていた 僕が、神殺しのことを観察していると、神殺しも僕の方を見ていて「黒神も俺と一緒で変わってなかったな」と言う その言葉をききながら、どうやら僕は。元の世界に帰ることが出来るのではないかと希望が見えてきた気がしたのであった そして僕と神殺しが再び入れ替わりをすると。僕はすぐに神無月のことを抱き寄せると、僕の能力が正常に戻っているかどうかを確認してみると。僕の中で黒刀が光輝いていることからも、僕の力がちゃんと使えていることを確認することができた しかし、ここで問題が一つあった それは僕のスキルは確かに正常に戻ったことは確認できたのだが。それと同時に僕の力を奪い取り続けていたスキルまでもが消えてしまい。神無月を助けるために必要なスキルまでなくなってしまったことである しかし、それでも、このまま神殺しと一緒にいる時間が増えるごとに、僕たちの存在が消されていってしまい。この世界自体が、壊れていくことだけは分かったので、黒坂は仕方なく。

この世界のどこかに、隠れ住んでいる黒神を探し出す方法を考え始めていた

「そう言えば黒坂さんって、黒神のお父さんでしょ?」と、突然の問いかけに対して、一瞬、誰なのかと思い戸惑ったが、よく見るとそれは、この世界に来てしまった時の事を思い出し。

僕と神無月の目の前に現れた神殺しだったのである

「あぁ、お前は確か、神殺しと呼ばれていたんだっけ。それでお前は何を言っていたんだ。それにしても急に黒神の名前を出すなんてどういうことなんだ?」と僕は疑問を投げかけた

「あれ?言ってなかったっけ?俺も一応あいつの眷属だからね」と衝撃的な事実を突きつけてくると 僕は神殺しの口から黒神の名前が出てきていることも驚いたが。それ以上に神殺しが、僕の知らないところで、黒神と繋がっていたことにも驚き、動揺してしまった 神殺しから話を聞く限り。

この世界には、三つの勢力があり。

黒神が率いる。神無月に加護を与えた。神々の住む場所。つまり。天界が存在していて、 白神率いる。人間たちが暮らす地上。いわゆる、この世界の大地が存在しているのである ちなみに黒帝とは。この世界の神である。神殺しが仕えている黒神よりも、さらに上の神格を持った存在。

それだけではなく、神無月には神としての力が目覚めつつあるようで、その影響で、本来ならば。この世界では生きていくことができないはずなのに、今の状態で生きていられているようだ。

ただ神無月はまだまだ不安定な存在であり、今はまだ生きているというだけの状態なのであって、いつかは必ず命を落とす時が来るのである そこで問題となることが一つあるわけで。それは、神殺しはなぜ、神無月ではなく。黒宮を連れ去ったのか。それが一番の謎なのだが。神殺し自身も分かっていないようなので。今は何とも言えない状態だったのである 僕はこの事を神殺しに質問することにした 神殺しに黒神たちの現状を聞いたが。詳しいことは分からないと言われたが。

今の時点で分かっていることだけでも聞きたいと思って聞いてみると。神殺しは、分からないと言っていたが。話してくれた 僕に分かるように。話してくれていたが。話の途中で何度も黒無は話に割って入ってこようとすると。僕に邪魔するなとでも言いたげな顔を見せてくると。神殺しの話を聞いている僕のほうに視線を向けてきたのである

「おい。そろそろいいだろ」と言ってきたが、神殺しが黒石のことを大切に思っているのか。それに関しては何も語ることはなかった 僕が神無月のことを守ってくれるなら。それぐらいなら許してやってもいいと思っていたのだ そして僕は神殺しと黒坂が話し込んでいる最中にも。僕の体から少しずつ、黒刀が抜け始めてきて 神殺しも神無月から、僕の中に戻っていく黒刀が気になったのか。僕の様子を気にし始めると。僕は神殺しに気にしないようにとだけ伝え。僕はそのまま会話を続けることにした 僕は神殺しとの話し合いを終えると、そのまま小屋を後にすることにすると。神殺しは僕と神無月を引き留めようとしたが、僕は気にせずにその場を離れるのだった 神殺しが、黒坂の背中に向かって叫ぶと、黒坂のスキルにより黒剣が召喚され。黒坂はその黒剣を振り払うと。黒神に向けて黒剣を飛ばしたのである 僕は神殺しに向かって黒神について聞くと。彼は、この世界の管理者であると、そして僕がこの世界に飛ばされた理由はこの黒神にあると話すと。この世界での唯一の理解者であり。

神殺しにとって、なくてはならない存在であるのだと教えてくれた しかし、僕としては、そんな存在を殺せるものかと考えながら。神殺しに神殺しと戦えるほどの強さは黒神には存在しないと僕が言うと。

その答えは意外なもので、僕たちは、この世界に存在する神のステータスを見ることのできる。神の目を使って調べると。黒神がどれだけの力を持っているのかは、神無月がいればわかることだったので。僕たちは一度黒神に会うことを決めた それからしばらくして、僕が黒刀と、入れ替えて、自分の体に戻したはずの。黒刀が僕から離れていきそうになる現象に僕は戸惑うと同時に。僕に話しかけてきたのは。先程まで話をしていた神殺しだったのだ 僕はどうしていいか分からず困った顔をしていると、そこに神無月と、僕の中にいる神殺しが現れると

「お前。まだそんなくだらないことをしているのかい?黒神がお前なんかに協力するわけないじゃないか」と神殺しが言うと

「黒神様?私を助けてくれたあの黒神様のことですか」と言うと 神殺しは黒神が黒神であることを知ることになると。

黒無は僕に近づき抱きしめると同時に、黒神のところに行こうとするのを止めようとしていた 僕の中で神殺しが、黒無と入れ替わったのだ 黒無と入れ替わることになった神殺しは、黒刀に自分の意思を伝えると、そのまま僕は。

意識を失ってしまったのだ そして神殺しが僕の中にいる時に。神殺しは黒神のことについて説明を始めてくれていた まずこの世界がどのような経緯で作られたのかについては話さなくてはいけなくなってきたが、そもそもこの世界の作り主が、黒神であることを教えてくれた 黒神はこの世界を作り上げると。神たちをこの地に住まわせ、自分たちが住むために新たな土地を作り出し。この世界に元々存在していた生命たちには自分たちの世界で暮らすようにと言い。

この世界に新しい命が生まれたのである しかし黒神と神たちが作り出した世界が出来上がったことにより。この世界には様々な変化が起こった その結果として。今までは平和に暮らしていたこの世界に、争いが起こるようになっていったのだと言う それを止めるためには黒神たちの存在が必要不可欠であり、そのために力を与えた。黒神の加護を与えていったのであったのだが、それでも完全に止めることが出来なかった そのため黒神は自分の力を封印し、この世界の外から干渉する形を取ったのだという。そうすることにより黒神の存在を認知させることが出来るようになり 黒神と神が生み出した生物は、黒神のことを認識できるようにして、その存在を認識している。そしてこの世界に住む生き物たちも、それぞれに与えられた能力を使い、その者たちにしか出来ない方法で戦い。

それぞれの力でこの世界を守ることで、戦争を防ぐことができたのだ しかしその方法を取るとどうしても。黒神の力は弱くなっていき。徐々に力が失われていくことで、黒神は黒帝の下に行くように言われるようになったと言う そして、最終的に、黒神がたどり着いたのは、神無月が元いた世界であったと言う そしてそのことを知った神無月を黒帝の下に連れて行くように指示を出したのが。白神だということがわかった 黒無と入れ替わる前に聞いていた話の続きで 僕と神殺しと黒刀が、この世界の外の世界に出ると、この世界の外に広が世界が広がっていることに驚いたのである そして、黒無と入れ替わる前に聞いた。僕たちの敵になる人物のことについても説明を受けていたのであった 神殺しによると、僕たちがこの世界に来る前から、この世界に存在してはいたが、ずっと姿を見せなかった存在。神たちが作り出した生物たちの生き残りがいたのである それは神殺しが僕と黒無と出会うより前の話らしく、その頃の話は黒神や黒帝の眷属であっても知る者はいないのだと

「おいお前ら、黒帝からお前らに話があるみたいだぜ」と言ってきたので。僕たちはすぐにその場から離れることにした 黒無と僕はこの場を離れてからしばらく歩くと。目の前から一人の人物が姿を現す その人物は、この世界に僕を連れてきてしまった張本人。白帝と呼ばれる存在であるが、この男についてはよくわかっていなかったのである この男はこの世界の管理者でもあり。同時にこの世界に生きるもの達からは絶対的な強さと、存在感を漂わせるような。他の人間とは違う何かを感じていた 黒宮は僕の背後に隠されると。黒刀を握りしめながら、僕の服の裾を掴み、怯えていた

「あぁ~久しいねぇ。この世界に人間がやって来たということは、君達が黒無様をこの世界から追い出したという事だよねえ」と言ってくるが。白帝と名乗るその男の言っていることが何を意味しているのかが分からなかったので「おい白帝とかいうあんたがこの世界を作ったって言うのか?」と問いかけると

「そうだよ」と答えたが「俺の名は。この世界にいる黒帝の部下の一人でしかないんだが」と言ってきたが 黒帝が黒刀を手にして前に出てくると。僕たちが来た世界とは別の空間に転送したのだ するとそこにはこの世界の住人が何人かいたので。僕と黒無と黒宮は警戒するのである 黒刀が黒神を呼び出そうとしても何も反応がなく。僕は自分の体の中から黒神が出ていく気配がないことで。黒神がこの場所にはいないことを悟ると。黒宮が不安な顔で見つめてくると「大丈夫ですよ、あなたを置いてどこかに行ったりしないです」といって。安心させようと微笑むのである 僕がこの黒宮を落ち着かせている時だった。この異世界に連れてこられてからずっと僕と一緒に居た神殺しがいなくなっていることに気付いた 僕は黒無をその場に残すのも危険と判断し。黒帝に許可を求めると「勝手にしろ」と返ってきたため。黒宮の手を取り転移魔法を使うと。その場を離れたのである

「あれ、ここは」

僕が連れてきた場所は。僕が最初にこの世界に来た場所だった そして周りを見渡すと。そこには何もいないと分かると 黒宮はほっと胸を撫で下ろして。僕から離れようとはしなかった そして黒宮をどうにかなだめながら、これからどうするか考えているときに。突然現れた男が、黒神と名乗り「私はあなたのお陰で生まれ変わることが出来ました。そして、私の願いは一つだけ、この子を私の娘として受け入れてください」と言ってきたのである そしてその声は、先程僕に黒神からの声と同じ声で。僕は黒神の言っていた。黒神が僕に残した力というのがこれなんだと理解することができた 黒神はこの世界で僕に黒帝の配下になるようにお願いしてきたが。その理由を聞くと、自分の娘の体を借りて、生き続けることにしたらしいが。娘は僕のことが好きで。僕を好きになったせいか。自分が作った黒神の分身に体を乗っ取られることになったのだという。しかし僕の側にいることはできたので問題はなく。僕の中に入っていったが、なぜか僕の中の奥深くに行けないと言う 僕も試してみようとすると。僕が入れずに困った状況になると、黒無が現れて、僕に力をくれた それから黒刀も僕の中に戻っていくことになり。神無月と神殺しも黒無と黒無が作り出した。神器の武器の力により。神殺しと黒無が黒刀の中に戻ることができ。さらに黒神を僕の中で存在できるようになり。そして今に至る 僕と黒刀、黒神、黒無、神無月、神殺しの五人が僕の周りに集まると 僕は自分の体の中に入っていた。黒神と話すことにする 黒神とは直接話をする機会がなかった というのも、僕の中に黒神の存在を感じられなかったからである

「黒神さん。初めまして。僕は如月と言います。この度は僕の為に、力を尽くしてくれてありがとうございます」と言うと

「いいわ。それよりさっきまで私の存在を消していてくれたわね。感謝するわ」と言ってくれていたのである 僕は黒神に事情を説明すると この世界を作り出した理由を聞いてみたこの世界を作り出した理由は、黒神の力が徐々に失われていき。いずれこの世界が崩壊してしまうことになる。そしてそうなったとき。また争いが始まるかもしれないという事で。黒神は新しい世界を作り出すために、力を使って。僕が暮らしていた地球と、黒無が住んでいた世界を作り出したという 僕は黒無の方を見ると。僕と目が合い。僕は笑顔を作ると。僕は黒無の頬に手を当てると。僕はこの子のために、黒神の力と知識を授けて欲しいと言うと 黒神はその答えを保留にして。しばらく考えたいといい。黒刀が黒神の代わりをすると言ったが、黒無は、黒神になりたいと言っていた それならば黒無が黒刀を使えばいいと思うのだが。黒刀には無理があり、どうしてもこの世界を崩壊させるほどの魔力が必要になるので、この世界で生きる僕たちにそんなことは頼めないと言う そこで、僕たちは話し合いをして。この世界に残り、黒無の望み通り、黒神の代わりに黒刀を使うことで決まった 僕が黒無を連れていこうとするのだが。僕が黒無を抱きかかえると。黒無が顔を赤くしながら恥ずかしそうにしているのである それを見て神殺しと黒宮は、嫉妬しているようだったので、神無月に僕たちの護衛を任せることにし 僕たちは一度。元の世界に戻ろうとするが。僕はこの世界に残ることを伝えると。この世界に残ったほうが。僕にとって得なことがあると言うので。その話を聞き。僕もこの世界にとどまることを決めることになる それからしばらくして。この世界の仕組みを理解するのと同時に僕は。僕の力を取り戻すためにある人物と対面していた それは、僕を連れてきた張本人であり、黒帝の側近でもある男だが、僕の予想では。白帝のはずだと 白帝と名乗るその男は僕の前に現れると。「お前は一体誰だ」と言ってくるので。僕は「ただの通りすがりだ、そして俺はお前のことを知っているぞ。白帝」と言うと 僕の言葉に、動揺を見せる白帝に対して。「やはりそうだったのか。この世界でのお前の目的は黒帝だと思っていたけど。それは違ったみたいだな」

白帝は自分の目的を言い当てられたのが気に食わなかったらしく、不機嫌な表情を浮かべていた そして「何を根拠に俺が目的だと思った?」と言う白帝に対して 僕は白帝のことについていろいろ調べていたことを白帝に伝えたのだ。白帝の生い立ち、性格、能力など。全てを話すと 白帝が僕に向かって攻撃をしかけてきた それを神殺しと神無月が止めに入ると 黒刀の切先が白帝に向けられていた 黒神は「やめなさい」と止めるように言うが 僕は黒刀を下げるように言った 僕が黒刀を止めると、神殺しは、なぜ黒刀が自分から黒刀を止めさせたのかを聞いていたのだ 黒帝から、黒帝の眷属たちが作り出した生物。その中でも一番の強敵になる相手と戦うときは黒刀を使わずして勝つことはできないと言われていて。その黒刀からの指示だからと言う それに僕が補足説明を付け加えることにした 黒刀は、僕を守るために存在しているので。僕を守ることを第一優先に考えていると、そして僕は神無月から神剣を預かり、僕の中にある魔剣と融合させることを提案する 神殺しが黒神に許可を取ると。黒神もそれでいいと言い出してくれたのである 僕はこの場でこの場にいるみんなにも分かるようにすると 僕は、自分の体の中にいる白神の本体に、意識を移してもらおうとしたが「無駄よ。私はすでにこの世界の一部として組み込まれているんだから」と言っていて。どうしようもない状態だと知る すると白帝が何かを思い付いたようで

「そうだわ!私の分身ならこの世界に干渉出来るんじゃないかしら」と言ってきて。僕は白帝の分身を僕たちと同じように転移させてもらえるか聞くと可能との事だったが、僕が頼み込んだところでは、僕の許可がないとダメなのだという事だった 僕はそのことを黒帝に伝えてもらうと 黒帝の方は黒神に説得してもらうことにして。黒神が僕の中に入り込み。僕の体の中から、白帝の分身の中に入り込むことに成功していたのである

「あなたの名前は、白玉に決めたわ」と僕は、僕の体を乗っ取ることになった白神のことを名前を付けてあげ。僕の体を乗っ取り、この世界を創造主となった 僕と黒宮は白神と、僕が元いた世界に。神無月と神殺しと黒無と黒帝は、僕の体の中に。

そして黒神は黒刀の中で過ごす事になった 僕は自分の中にいる、黒神に話しかける

「これからこの世界がどうなるのか分からないですが。一緒にがんばりましょう」と言うと 黒神様も、「よろしくね」と言ってくれるが 僕はあることを思い出した 黒神の話では、この異世界を作り出してから時間がかなり経過しているため、もしかしたら僕が転移されたときにいた場所よりももっと先に飛ばされている可能性があったことを知らされる なので僕の体はもう存在しない可能性があると言うのだ そしてもう一つ大事なことがあり。この異世界に送り込んだ者を探し出すのが難しく。仮に僕が送った者たちがいたとして。黒神が送り込んでいるかもしれない。僕たちを元の体に戻せない可能性が高くなっていると言われたので。まずは自分たちの力を回復させるために。僕は僕を転移させてきた場所に転移することを伝えたのであった そしてその場所に向かう途中で、僕の中で眠っている黒神を外に出す方法を考えている時に、僕の体の中で。僕の中の黒神と僕の会話をしていると。なぜか僕の体を乗っ取ってしまった、僕と同じ日本人だということが分かったので。僕も僕の中に入ったままの。黒神の本体と話をすることにして 黒神が言っていた、この世界の人間たちのことで、気になることがあった 僕の中に入っていった。黒神の人格についてなんだけど。僕の中に入っていた時の、この黒神は僕の事を好きになっていると言うことだったが、僕は僕をこの世界に送り込んできた、黒神の分身に会っていないが。黒神の話を聞く限り、この黒神も僕を好きなっているということだ。それどころか。この黒神の力は。黒神の分身よりも遥かに強い力を持っているような気がしたので もしかして。この世界に来た時から感じた、僕の中の黒い感情の正体って。黒神なのかなと思って聞いてみると 黒神は。少し間を置いた後に 自分のことではなく。この世界で、黒神の力が徐々に失われていくことが原因で、この世界が崩壊しそうになっていたのだけど。この世界の仕組みを詳しく知っている黒神は。黒神がこの世界に残せるだけの力をこの黒神が作り上げたことを告げて さらに、自分の力を僕に渡すのが、僕と黒神の目的だったことを言われてしまうことになる ただ。この世界の成り立ちを知って、黒神がどうしてこの世界を救おうとしたのかが分かったので 黒神は僕が黒神の力を受け継がなかった場合、別の人を探すと言ってくれた それなら黒刀の中にいる黒神は。今のままの方がいいのかなとも思ったのだけど 黒神の話では、黒神はこの世界に、新たな神を作るつもりらしいが その新しい神が、僕が今。持っている知識を元に作る神器を使うと言うのだ それで僕が黒神の神殺しを使って。その新しい神の力と知識を受け継ぐようにしているというのだ 僕は黒神の言葉を信じる事にして。僕と一緒に転移される、僕の知り合いの人たちは、僕の家族と親戚だけにしてくれと言うと

「そんなに大切な人達なんですか?分かりました」

と言うと 僕は黒神の案内で。黒帝の城へと移動するのだった そこで待っていたのは。この世界で、僕と共に過ごしてくれていた、神殺しや、神無月、神無月にそっくりな少女の3人が待っていて

「やっと来たんですね。真紅郎様」と言う 黒無の方は僕を見るなり「ママ、パパ」と言うので。僕は僕と黒無の間に生まれるはずの。僕たちの子供なのだということを告げられる 黒無は「私がお母さんなんですよ!」と嬉しそうに言うので。僕は「まだ生まれる前に話していたからな」と言っていて 黒帝が僕たちに事情を説明すると

「この子のためにも頑張らなくちゃ」と神無月が言うので。神殺しは「神無ちゃん、大丈夫。私がいるから」と言うと。神無月は「ありがとうございます」と言うと 僕たちは、この黒帝の城の地下に転移して。黒帝たちが作っていた施設の中に移動していた そこは僕の記憶にあった。あの装置がある部屋に僕たちが集まるのである そこには僕と黒帝以外の全員が集まったのだが。

僕にはどうしても会いたい人たちがいた それは僕に魔力を注入してくれた人と、黒帝の側近でもある。あの白帝の存在である 白帝の居場所がわからないのが。今の現状だが、白帝と、僕が元の世界に戻る際に、一緒に連れて行って欲しいと言っていたのだが。黒神いわく、白神は黒帝と同じく、白神が生み出した生物をこの異世界に呼び寄せることができると。だから、もし。この世界で。白神の分身を見つけられた場合は、そいつを連れて帰ることにして欲しいと言うのである そして黒帝に白帝の分身を呼んでもらうと。僕の目の前に白い空間が広がり。その中から出てきたのは、真っ白な肌をしていて、長い白髪の少女。その姿を見て。僕は白帝の分身だと言うことが分かると。僕は白帝の手を取って。僕は元いた世界に。僕の体に戻りたいのだとお願いすると 僕はこの世界での出来事を話して。そしてこの異世界で。僕と僕の家族を助けてくれた人たちを。元の世界の僕の家族や親戚を助けたいんだと言うと 白帝は、僕の体を乗っ取り。この世界に送り込んだのは。僕が元いた世界の、日本にある僕が住んでいた街を襲わせようと考えていたと言うので。僕のことを乗っ取った白帝は、黒帝たちに向かって、「あんたらの所為で。こいつらが元いた世界が大変なことになっているのよ」と怒りを込めて言い放ったのである 白帝の怒りに対して、白帝からしたら関係のない話で。白帝が怒っている意味が分からず。

僕たちにとっては大事な存在でも。この世界の人からしたら赤の他人に過ぎないと言うのに。なぜ白帝がこの世界の住人に対して、ここまで腹を立てていたのかは。

黒神から説明を受けた。白神の話によると。この異世界の創造神として生み出された。

白帝と白神の二人だったが。二人は同じ女性でありながら。白神の方に、神の加護が与えられたと言う そのため。神の加護を与えられた方の女性の方は。この世界で、女神と呼ばれ崇められていた。この女性は自分が作り出した世界を管理する神になり。そしてもう一人の男性の方が。自分と同じ境遇だった、人間の女の子を娶って、夫婦となり。人間に、神と人間との混血の証として。神の力を与えようと画策したのである そして、僕の体を乗っ取ってしまった、黒神は、「お前たちがやった事は。全て私たちにとって迷惑なのよ」と言い放つと 白帝の方は自分の作った世界を管理出来るだけで満足をしていたらしいが。ある日突然。神が消え去り。この世界を、人間が自由に動かせるようになって、自分の作り上げた世界を、勝手に壊し始めたと言うのだ

「私の可愛い眷属たちが。せっかく作りあげた、この異世界を壊し始めるとか。ほんと、許せない」と言っていて。そして、この黒神は、僕の体の中で、僕のことをずっと守ってくれていて。僕の中にあるこの異世界の知識を元に、この異世界を救おうとしていたと告げて この世界を守るために、僕の体を奪い。黒神は僕の体に憑依することで、黒神本来の力を発揮することが出来。

そして僕の力を使えば、この世界を救うことも出来たというのだ

「そして私は、あなたの中に入って。あなたの体の力を利用して、この異世界を作り替えることが出来たけど。本来、この世界のルールでは、一つの世界に干渉することは禁止事項になっているので、もう、これ以上は出来ないんです。それにこの世界の生き物たちにも影響が出ますし。そしてこの異世界がどうなっていくのかは、この世界の運命を見届けるために。この異世界の中で、見守っていきたいと思っています」と言って 黒帝に。この僕が元いた世界に戻れるのかを聞くと。黒神は「あなたは。私の力を使って。この異世界に来たのですから。私がこの異世界に来るときに通った。ゲートを使うか、もしくは。あなたが元々持っていた力を利用するしか方法は無いですね。ですが、あなたが元々持っている力というのは、おそらく神を殺すための力を使えたでしょう?」と聞くので 僕は「あぁそうだけど」と答えると 僕と黒神は。この世界に送り込まれてくる前のことを覚えていないんだけど、僕に魔力を流し込んでくれていた、神殺しや、神無月。僕たちの子供を、お腹の中に入れていた神無月も。それぞれ神殺しの剣や、槍を持っていたりする 黒神の方は。この世界に、自分の力で生み出すことが出来るのは。僕に魔力を渡してくれている人の姿だけだし。この世界に僕に好意を寄せてくれている人たちを転移させてくれるように頼んでいる 神殺しの方も。僕が黒帝から借りた、武器を使って戦うことが出来るようになっているが 黒無の方は、まだ赤ん坊のため。まだ使うことは出来ないだろう それを聞いた僕は 神殺しの力を、黒無に与えることにした 神を殺し、その力を奪う。その能力を与えて 神殺しは。僕と同じように、神から力を授かっているから。神と戦えるだけの力では無く。その力を扱えるだけの力を、与えればいいと思うのだが。それならば、この世界に飛ばされた僕が使えるようになるかもしれないし それなら僕は。僕の力を、この黒神の器の中に入れることを決めると。黒刀に宿りし、黒の神の力が僕の中に入ってくる

「うぅ、なんだこれ。気持ち悪い」と思っていると

「大丈夫ですか?マスターさん。顔色が悪いですよ」と言う神無月 僕が神殺しの力が。自分の中の奥底で眠っていることに気付くと。

神殺しから受け取った力は、僕の意思に関係なく動き始めてしまうと。自分の体の中から溢れ出る力を感じ取り。

「おい!止めろ」と叫んでしまうのだけど。止まらなかった

「大丈夫ですか?」と心配そうな顔をして僕を見てくる神無月 そして神無月と目が合った瞬間に。僕の意識は、僕の体から離れることになった 僕は自分の中に流れ込んだ、僕の物ではない神殺しの力によって、僕の中にいる。この異世界の神である白帝と戦うことになったのである そして白帝が僕の体を乗っ取るのは簡単だと。白帝に僕の体が奪われていく だがしかし、白帝の体は。僕の方には、白帝が使っていた武器と。そして僕の体を乗っ取り操ろうとする。黒神がいるために。

僕たちの体の中には。僕と黒帝と黒神がいる状態で 僕は、僕の身体を乗っ取ろうとする白帝と戦いを繰り広げることになるのであった 僕が白帝の体に憑依される寸前。僕たちは、この異世界での戦いを終わらせるべく、白帝と黒神。二人の戦いを見ていた

「ママとパパが戦うなんて、どうして」と、黒帝が言う 黒無は「ママ」と泣きながら黒帝の方を見ていた



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

異世界転生~前世で無職だったのはスキルの所為だった!俺、異世界で最強の戦士になって無双します~ あずま悠紀 @berute00

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ