第16話 繰り返すイレギュラーな夢

 また夢を見た。

日付を超えないセレンの死を迎え始めてから繰り返し見ていた夢。


またしても暗い洞窟の中を進んでいく夢。


だけれどもこの夢は少しずつ進んでいるようで


今回は目前に少しだけ色の認識のできる大きな空間があった。

前までは洞窟を進んで、転がってくる岩を避けて

そして光の方向へ進んでいくだけだったはずだ。


それなのに目前には空間、灯りなどないはずなのに

少しだけこの空間が『赤い』と言うことだけ認識できるのだ。


「夢だから、なんでもありなのかな」


そう呟いてからハッとした。


俺が今生きているあの世界も

夢だと、そう言われていたじゃないか。


夢のような世界で見る夢


どちらが夢で、どちらが現実か

判断などつかないのだと気づいた。


繰り返す死が異常である事は気づいていた

でもそれを夢だとは認識していないかった。


なんでもありな世界だからこそ

ずっとセレンは死を繰り返してるのだが


クレナさんの死は一度きりだった。


それはセレンの存在が

夢であると言うことにも繋がるのではないかと

そう感じた。


セレンだけに起こっている異常な現象

その意味を


その原因を


俺は突き止めなければならない。

思い出して、認めなければならない。


この繰り返す世界はクロウさんから聞いた通り

セレンと俺を中心として動いている。


俺たちの存在が夢となっているのだろう。


そう思った矢先


目前の広い空間から


「早く、起きて」

「ウイングまで失うのは嫌よ」


と2人分の声が聞こえた。


「行かなきゃ」


誰の声とも判別はつかなかったが

それでも

ずっとそばに居てくれた声だと感じた。


これ以上この人達を悲しませちゃいけない


今、俺を必要としてくれている

そう感じたのだ。


ビュービューッ 


背後から強い風が吹く


また岩が来る


そう思って振り返ると


見慣れた姿があった。


いや、正確に見えている訳ではないのだけれど


でもそこにいるとわかった。


「辿り着いたんだね、ウイング」


先程のクロウさんとの邂逅の後に

俺を迎えにきてくれた

鈴の音のような声の持ち主。


「私は、このまま進んで欲しいよ」


表情を窺う事は出来ない。


「きっとあなたの世界の『セレン』は嫌がるでしょうけど


「私としては、ちゃんとあなたに受け入れて欲しいもの」


少しづつ彼女が近づいてくる。


その度に

少しづつ顔が日に照らされ始める。


そして左半分が見えるあたりで


「だから、行ってらっしゃい」


口角を上げて


彼女は俺を突き飛ばした。


目前にあった広い空間を


俺は落下させられたんだ。


その中で見た最後に見た彼女は


瞳に光の映らない虚な瞳でこちらに手を振っていて


黒く陰に覆われていた右半分は


この空間と同じように


少しだけ赤く見えたんだ。

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