第七十五話 うっかり季忠

「なかなか壮観じゃのー」


難民を工兵に変え数イズパワーで開発した栄村はゲーム感覚で開発されている。

シ〇シティ感覚で道路や居住区画、田畑等を区画整理し街づくりをした。これで鉄道が走れば〇列車でいきたいが鉄は無い、なんなら車も列車も無い。

そして俺は某ゲームで建物を作ると気付いたら豆腐建築様式になっていたが、ここでは掘っ立て小屋が出来上がる、「ハァン?」「フゥン?」と鳴く村人より優秀で嬉しくなる。

そんな優秀な村人によって田植えを終えた水田を見て思う。


「秀さん、苗をテキトーに植え過ぎじゃないか?」


「そうか?こんなもんじゃろ?」


この時代の感覚ではそうなのか…田植えが面倒なのはわかるんだが俺の未来の記憶だと等間隔に植えていた覚えがある。

昔…というか遥か未来にどっかの国のえらい王様が「稲を植える間隔を三分の一にしたら三倍収穫出来るじゃろ?」とかいってやってみたら収穫量が減ったなんて話があった気がする。この故事に倣うなら稲は一定の間隔を開けた方が良いハズだ。


「来年は田畑毎に稲を植える間隔を変えて実験をしてみよう」


目に見えて収量が変わるかは分からないが、せっかく区画整理をして一定の大きさの田んぼを作ったのだし比較実験が出来るかもしれない。


「コメの事となると皆目の色を変えるからほどほどにな」


この時代とにかく思考の中心が米だ、そしてそれを育てる為の水。

実は村を作った時に水源の下流にあった小さな村から物言いがついたが三百人の賦役部隊をチラつかせ、ちょっと村長に金を握らせてニッコリと円満解決した。マネーアンドパワーだ。


しかし此処と違って羽豆崎は川はないわ井戸を掘っても塩水しか出ないわで溜め池を作るくらいしか出来なかったがこいつ等使って用水路とか作れないだろうか?…無理だろうなー。

結局あそこは水が貴重なので稲作はやらせていない、魚やら鯨やら千歯扱きやらを作って輸出し米を輸入し生計を立てさせている。港があるので米の輸入元にある程度自由が利くので成り立っているが街道の整備くらいはしておきたいな。


そして今は犬山を探りに行っているロクデナシこと滝川一益情報だとどうやら斯波義銀は今川に臣従したようだ。この辺りの情報をわりと誰も教えてくれないモンだな…正直主君なんて誰でもいいのだが、義元のお膝元の駿府まで遠いのは有難い。駿府から此処まで遠いから支配が及び難い。でもアイツ忘れた頃に突然虚無僧スタイルでやって来るから気を付けないとな…

尾張は温暖で水も豊富で更には交易の為の港もある、奪うより開発した方が良い。年貢と別途上納金を納めて俺はわりと自由にやらかしている。無かったら隣から奪う、そんな蛮族ムーブは変えたい…と思う。



「なんじゃ村を作っておるのか?」


俺は街道から聞き覚えのある声の方向に首をきしませながら回した。

三人の虚無僧が地図にない村を見て驚いていた。


…なにやってんすか…

なにやってんすか……


◇ ◇ ◇


村長屋敷という事になっている掘っ立て小屋で俺は土下座をしている。


「治部大輔様におかれましてはご壮健そうで…」


「そう畏まらずとも良い、既に隠居した身じゃ」


隠居…?そういや大六天魔王神社でそんな事独白してたな…


お付きの人は今回も一宮宗是いちのみや むねこれさんと久野元宗くのうもとむねさん。

前のお忍びの時もいたなこの二人…ズッ共か?


「しかし新興の村だというのに随分と人が多いな」


「今年の初めにあった一向一揆との争いで三河からの流れてきた者を集めて村にしました」


「ほう…ではこの村の者は皆三河からの流れ者か?」


流れ者…難民は良い顔はされない、食い詰めた流れ者は食い物を求めてさ迷う。元々被害者であった彼らは食うに困りそして奪う側に回る。数が揃えば野盗となり一揆となれば為政者としては見過ごせない。

そして国境に受け入れる村を作ってしまおうなんていうのは上策とは言い難い。人を囲うには木材も食料も必要だ、収穫まで最低一年分ないと立ち行かない。しかも人数に比例して増える。ちなみにこの村…というか町に近いが千五百人程に膨れ上がっている。俺の毎食の雑炊も薄くなるわけだ。


「三河の者など国に追い返せばよかろう、奴等の食べる米も熱田からの持ち出しであろう、何故そこまで情けをかけてやるのだ?」


この時代は上から下まで蛮族ムーブで人権意識など皆無に近い、普通に疑問なのだろう。


「救いたいから救う…と言えるほど人格者ではありません、三河に再度彼らを戻し暴徒となるよりも三河は早く落ち着きを取り戻し今川様の治める地が安定すると思います」


見捨てて追い返したとしても不穏分子が何処に流れるのかもわからない、そして地域の治安の悪化に繋がる。


「…今川の為…と申すか」


「結果としてその一助になれば…と思います。彼らも安心して食う事が出来れば良民でありそして大きな力になります」


事実元流民の賦役部隊を一斉に駆り出すとその力は凄い、不穏分子だろうが纏めて適性に管理すれば人の数は生産力、数イズパワーだ。

それに元康に少しは借りが作れて俺はニッコリだ。ただ懐さえもう少し痛まなければ…あの滝川のロクデナシがいなければもう少し痛まずに済んでいるというのに!


「徳で以て人を治めるか」


「いえ、決してそんな高尚なものでは…与えるだけだと人は図に乗りますし」


パンとビールを与えておけば民は満足するみたいな事を言ってたヤツがいたけどクーデターで殺されてた気がする。統治って難しい。


「自らの歩を否定するつもりはないが隠居し一線を退き数年、強権の支配を間近で見ると些か思う事もある」


楽隠居キメてるのかと思ったが悩みもあるんだな。


「お前はそんな者らと共に在ったのだな…ワシは気付けなんだ」


「…そんな大層なものではありません」


いやホントに。好き好んで汗水たらして働いて薄い粥なんぞ啜りたくないんですが?

しかしご隠居様がお供を連れて諸国漫遊とは…これはアレだ。


「領民の顔を見て知る事もあるか…」


統治者として非情にならざるを得ない場はあるだろうけどやはり領民の表情を知っておいて損はないと思うんだよな、それを感じているからこそ虚無僧スタイルで歩いてるのだろうし…そう思ったら勝手な思い付きが口から滑り出ていた。


「治部大輔様のご尊顔を知る者など尾張には斯波か岡部位しかいないでしょうし深編笠など被らずちりめん問屋のご隠居という事にして歩きませんか?」


義元は驚きの表情、お付きの二人はなんだコイツみたいな顔をしている。しまった思い付きをにしてうっかり過ぎた。


「直に民を見るのに深編笠は邪魔でしょう?」


また何も考えずにとってつけたような言い訳を重ねてしまった、何言ってんだ俺は…


「それは…流石に危険であろう…」


お付きの一宮さんは渋い顔だ、本来は御簾で隔てて会話をするような人だもんな。


「ですが深編笠を被っては周りが見え難いとも思っておりました」


久野さんは肯定的。

虚無僧スタイルは普通に目立つし警備する者として深編笠は視野角に難があるのだろう。ライダーメットを被ってケンカすると驚くほど戦いにくいと聞くし某SF小説では感覚が鈍るから頭に何かを装着するのはその人次第とか言ってた気がする。単に深編笠否定派なのかもしれない。


「なるほど、面白い事を考えるな…せっかく尾張まで来たのだ、民を直に感じてみよう」


出まかせを言って申し訳ないがそんな義元に俺は大きな懸念事項を伝えないといけなかった。


「言い出しておいて申し訳ないのですが治部大輔様がお召しになれるような衣がこの村にはありません…」


村長宅()がこのあばら家である、袈裟を纏った義元が着るご隠居グッズなんて置いてあるはずがない。ちりめん問屋のご隠居否定派の一宮さんはほっとした顔をしているが空気を読まない義元は勝手な事を言い出した。


「良い、熱田まで行けば服を替える事も出来よう」


え、俺の実家に?うっかり面倒事に足を突っ込んだか?

俺はいつのまにかうっかり役に抜擢されてしまったようだ。

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