第25話 ハチ公、ご主人様と相談する
……結局、狛哉はこだまに裏掲示板のことを伝えることにした。
自慢ではないが隠し事は苦手だし、嘘をついてもすぐにバレる気しかしない。
そもそも盗撮のことが学校で噂になりつつある今、狛哉が黙っていてもこだまの耳にこの情報が入るのは時間の問題だ。
ならば、比較的近しい間柄の人間である自分の口からこのことを伝えた方がこだまもショックを受けなくて済むのではないだろうか?
そういった考えの下に彼女へと野口から聞いた情報を狛哉が伝えてみせれば、こだまは彼の想像よりもあっけらかんとした態度でそれに対する反応を見せた。
「そう。やっぱりいたんだ。目に付いた女の子を盗撮しまくるだなんて、本当に節操のない男たちがいるものね」
「うん……森本さんが感じてた嫌な感覚の正体がわかってよかったとは思うけど、これはこれで気持ちが悪いよね……」
こだまをつけ狙っている盗撮犯たちは、協力しているわけではないが単独犯とも言い難い。
朧気に敵の姿が見えたはいいが、具体的な対策方法や解決法を見いだせているわけでもない現状を不安に思う狛哉へと、標的として狙われているこだまが言う。
「必要以上に心配することないわよ。変態共は学校周辺でかわいい女の子を物色して、写真を撮ってるんでしょう? なら、学校付近で警戒を払えばいいだけじゃない」
「まあ、それはそうだけど……」
「あんたが言ったように乗り込むバス停を変えて、最寄りの停留所から家まではあんたがあたしを守って……警察が動くまでそれを続ければ安心なんでしょう? むしろ向こうがコソコソ隠し撮りすることが目的の盗撮犯だってことがわかってよかったわよ」
向こうの狙いはあくまで目に付いた女子を盗撮することであり、こだまをピンポイントで狙ったり隠し撮り以上の犯罪を犯すつもりはないことが判明したのだからよかったじゃないかと彼女は言っている。
確かにそれはその通りで、盗撮犯たちは無差別に犯行を繰り返すだけならば自分が彼女を守り続ければ問題は起きないだろうと、こだまの言葉に頷いた狛哉は彼女へとこう返す。
「とりあえず、今日は真っ直ぐ家に帰ろう。明日明後日は学校が休みだし、連中が登下校を狙って隠し撮りしようとしてるならこの二日間は安全なはずだ」
「そうね。週明けくらいには学校側も何らかの対策を施してるでしょうし、そうなれば変態共もすごすご逃げ去っていくでしょ」
教師や警官による見回り、危険地帯のピックアップ、他にも色々と学校側が取ることができる盗撮対策はある。
裏掲示板が噂になり始めた今、教師たちがこの問題を放置したままにしておくとは考えにくい。
あと数日、ほんの数日の我慢でこだまは恐怖から解放されるはずだ。
できることならば掲示板に書き込みをしていた男たち全員を逮捕してほしいところだが、それが難しいことくらいは狛哉にだってわかっている。
何よりも今はこだまやこの近辺の学校に通う全ての女子たちが安心して生活を送れるようになってほしいと……そう願う彼の耳に、主からの声が響いた。
「本当に嫌になるわね。男ってどいつも人の胸や尻をジロジロ見てきて……! その上、スカートの中身まで盗撮しようとする馬鹿が現れるだなんて、最悪以外の何でもないわよ」
憤慨しながらそう言うこだまの意見もご尤もだと狛哉が思う。
入学初日の痴漢から始まり、クラスメイトからの不躾な視線に晒されたかと思ったらお次は上級生たちにも胸を注視され、挙句の果てには盗撮とつきまといの被害に遭うだなんて酷過ぎる。
これまでもこんなふうに男性たちからの好奇の眼差しを浴び、彼らに邪な感情をぶつけられながら生きてきたであろうこだまのことを思った狛哉は、同じ男として彼女に申し訳ない気持ちを抱いてしまった。
「森本さんがかわいいから狙われるんだよとか、何の慰めにもならないもんね。痴漢とか盗撮とか、色んな被害に遭って大変なんだなって僕も思ったよ」
「そう、あたしは大変なの。だからせめてあんただけはそんなデリカシーのない真似をしないようにしなさい。ご主人様の安全と幸せを第一に考える忠実な犬としてあたしに仕えるのよ、ハチ」
「あはははは……善処します」
いつも通りの犬扱いに苦笑しながら、こだまのことを慮ってその命令に頷く狛哉。
こうして彼女がらしさを取り戻せるくらいには気持ちが楽になっていることを喜びながら、彼は今日も番犬としてこだまを自宅まで送っていった。
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