第24話 ハチ公、ご主人様を狙う存在を知る

【新入生のロリ爆乳美少女ちゃん撮影成功! おっぱいがパツパツになってるジャージ姿、ヤベーwww】


 そんな書き込みの主が拡散しているのは、とても見覚えのある少女の写真。

 遠目から撮影されているものの、被写体がこだまであることはすぐにわかった。


 数日前、ワイシャツのボタンが弾け飛んだ際に保健室で借りた体操着に着替えた彼女の姿を捉えたその写真には、大勢の住人たちが反応を見せている。

 【ロリ巨乳JK最高!】や【いいおっぱいしてる】、更には【襲ってスケベなことしたい!】といった危害を加えることを示唆しているかのような書き込みの数々に恐怖と怒りを覚えた狛哉は、こだまが感じていた嫌な視線の正体に辿り着くと共にその巨大さに言葉を失っていた。


(まさか、こんなに沢山の変態が森本さんを狙っていただなんて……!!)


 こだまを狙っていたストーカーの正体は一人の変態ではない。この地域で生活している無数の人間たちだったのである。

 彼らはこだまだけを狙っているわけではなく、女子高生たちを盗撮して楽しんでいるようではあるが……それが悪質なことは間違いない。


 幸か不幸か、こだまを盗撮した写真は上記の一枚だけであることを確認した狛哉は、その日を除いて彼女が自分と下校していることが原因なのではないかとあたりをつけた。

 盗撮犯たちは女子だけに狙いを定め、男子が近くにいる際には不審な行動を慎んでいるのでは……という予想をこだまの被害状況から推測する狛哉の耳に、このサイトの存在を教えた野口の声が響く。


「……昨日から学校を休んでる子、いるだろ? あの子も盗撮されて、この掲示板に晒されてるんだ。顔とスカートの中の写真を貼られてる」


「えっ……!?」


「俺がクラスの何人かを集めて遊びに行ったあの日の帰りにやられたらしい。学校で噂になって初めて自分が被害に遭ったことを知ったらしくて……今は怖くて家に引きこもってるんだ」


 こだまだけでなく別のクラスメイトにも被害が及んでいることを知った狛哉は、彼女が味わったであろう恐怖を想像して何も言えなくなってしまった。

 ある日突然、自分の顔や性的な部分を撮影した写真が悪質なサイトで出回ったとしたら?

 顔も名前もわからない変態たちから四六時中つけ狙われていることを知ってしまえば、その恐ろしさに外出すらできなくなって当然だ。


 野口もまたクラスメイトを襲った悲劇に胸を痛めると共に、自分が盗撮犯たちにその機会を与えてしまったことに責任を感じているらしい。

 悔しそうに拳を握り締めた彼に対して、狛哉は混乱しながらも質問を投げかけていく。


「こ、これ、先生たちは知ってるの? 警察とかに相談は……?」


「噂になるくらいだから学校も何らかの対策は取ってると思う。警察も動いてくれてるのかもしれない。でも、詳しいことはわからねえよ」


「犯人の手掛かりとかは……? 怪しい奴の姿を見たとか、そういう情報はないの?」


「……わかんねえ。下校の時にはみんなも警戒してるみたいだけど、相手側もそれをわかってるみたいだから、そう簡単には尻尾を出さないと思う」


 被害が判明してからまだ日が浅いことや、情報を得られる場所が少な過ぎるが故に、野口も盗撮犯たちのことは詳しくわかっていないようだ。

 今現在の時点で判明しているのは、学校の付近に女子生徒たちを狙って盗撮を繰り返す変態たちが多く生息しているということくらいのものだろう。


 こだまの感じていた妙な気配は勘違いではなかった。しかし、これはかなりマズい状況だ。

 ただのストーカーならまだしも、大勢の男たちが各々の目的の下に大規模な盗撮行為を働いているだなんて……と、予想だにしていなかった事態に狛哉が緊張感を高める中、野口が彼へと懇願するように言う。


「八神、お前は森本さんと同じバスを使って下校してるんだよな? なら、お前が森本さんを守ってやってくれ。今休んでる子みたいにスカートの中を盗撮されたりだとか、それ以上の被害に遭わないように……頼む」


「……うん、そのつもりだよ。教えてくれてありがとう」


 ショッキングではあったが、状況を把握できたことは素直に喜ぶべきことだ。

 相手の情報があれば対策が取りやすくなるし、警戒だって払える。

 もう少しすれば学校から相談を受けた警察が動いてくれるだろうし、そうなったら盗撮犯だって迂闊に動けなくなるはずだ。


(それまで僕が森本さんについて、守ってあげられれば……)


 今のところ、盗撮犯たちが学校の敷地内に入ってきた痕跡はない。盗撮の範囲も学校近辺に集中しており、家を突き止めたりするつもりはないようだ。

 決して油断はできないが、こだまがピンポイントで襲われたりする可能性は高くはない。

 後は変態たちに彼女の家の住所や帰宅ルートを掴ませないために上手く立ち回って、警察が動くのを待つだけだ。


「ここまで酷い状況になってるんだ、すぐに警察も動くはずだよ。そうに決まってる」


「ああ、そうだよな……」


 状況は悪いが、解決の糸口がないわけではない。

 少なくとも、時間が経てば警察が動くだろうし、そうなれば盗撮犯たちも蜘蛛の子を散らすように逃げていくはず。


 野口と会話しながら裏サイトに貼り付けられたこだまの写真を見つめ続ける狛哉は、その日が来るまで絶対に彼女を守り抜いてみせると誓う。

 そして、心苦しくはあるがこのことをこだまに伝えるべきだろうと考えるのであった。

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