第26話 ハチ公、自分の無力さに悩む

(全部、時間が解決してくれるんだろうか……?)


 金曜日の夜、自室に置いてある椅子の背もたれに寄りかかりながら、狛哉はそんなことを考えていた。


 今日も昨日と同じくこだまを家まで送り届けたわけだが、こんな日々がいつまで続くのかがわからないというのは不安だ。

 実際に被害に遭っていない自分がそうなのだから、ターゲットにされているこだまの方はもっと心細いのだろうと考えながら、狛哉は天井を見上げて呟く。


「学校や警察が動いたとして、どれだけの時間があれば騒動が治まるんだろう? あのサイトも、閉鎖とかできないのかな……」


 ただの高校生である狛哉には姿の見えない盗撮犯たちをどうこうできるだけの力なんてない。

 警察や学校がこの問題への対策を考え、解決に取り組まないことにはどうしようもないということはわかっている。

 その行動が実を結ぶまでの間、自分がこだまを守り続ければそれでいいと思っていたが……それでも、不安を完全に拭えずにいた。


 自分が知らない間にこだまの家が特定されていたら? 盗撮犯たちが結託し、複数人で彼女を襲いにきたら?

 学校側の動きが遅くなればなるほど、解決までに時間がかかってしまう。その間に掲示板利用者たちの犯行がエスカレートしないとは限らないのだ。


 もしも変質者たちの魔の手がこだまに迫った時、自分は彼女のことを守り切れるだろうか?

 武術の心得どころか喧嘩をしたことすらない自分が、こだまに危害を加えようとする男たちを撃退することができるのだろうか?


 彼女が自分のことを信頼してくれていることはわかっている。そうでもなければ不安を吐露したり、妙な気配について相談などするわけがないのだから。

 その信頼に応えるためにも、自分はこだまの犬として彼女を守り抜かなくてはならないのだと……そう自分自身に言い聞かせつつも、やっぱり自分に自信を持てずにいる狛哉は天井を見上げながら盛大なため息を吐いた。


「僕がもっと強くて逞しい男だったらなぁ……」


 自分がもっと強面で、厳つくて、筋骨隆々とした大男だったならば、悪意を持ってこだまに近付こうとする変態共を追い払ってやれるのにとぼやく狛哉。

 ドーベルマンや柴犬のような心強い番犬になれない自分の頼りなさに再びどんよりとしたため息を吐いた彼は、机に突っ伏しながら自虐的な呟きを繰り返していく。


「チワワ、ってほどかわいくはないしなあ。ブルドックや土佐犬みたいに強そうでもないし、やっぱり雑種かなぁ……?」


 大して取り柄のない自分にはお似合いの犬種などないなと狛哉が悲しそうにぼやく。

 犬として、友人として、こだまのためにできることはないかと考えるも、名案を思い付くこともできない自分の役立たずっぷりに彼が三度目のため息を吐き出そうとした時、机の上のスマートフォンが着信音を鳴らして震え始めた。

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