第14話 ハチ公、ご主人様と朝ご飯を食べる

「じゃあ、そろそろ教室に行こうか。時間はまだあるし、パパッと買ったパンを食べちゃって――」


「はぁ~……! ハチ、あんたって本当にデリカシーがないのね。あたしにクラスメイトたちの前でこの大量のパンをがっつけって、そう言いたいの?」


 自分がパンを買い過ぎた自覚はあるのかと、心の中でこだまの発言に突っ込みを入れる狛哉。

 やれやれと呆れた様子で首を振って彼の気遣いのなさを叱責したこだまは、そのまますぐ近くにある談話室を指差して言う。


「食事をするならあそこでもいいでしょ? 人もあんまりいないし、まだ時間に余裕もあるわけだしね」


 いくつかのテーブルが並ぶ談話室では、生徒たちが朝のHR前に朝食を食べている姿がちらほらと見受けられる。

 ここでならば自分も目立たないだろうと判断したこだまは狛哉を伴って談話室に入ると、空いている席に着いて早速買ったばかりのパンを頬張り始めた。


「いっただっきまーす! ん~っ! 甘くて美味し~っ!!」


「はは、それはよかったね」


 やや大きめのサイズのクリームパンを一口齧ったこだまがこれまでの不機嫌そうな表情を綻ばせて幸せそうな笑みを浮かべる。

 もしかしなくとも彼女は食事をしている時が一番幸せなんだろうなと思いながら対面の席に座った狛哉は、そこで彼女からおまけで貰ったコロッケパンを差し出されてきょとんとした様子でこだまを見つめ返した。


「はい、あげる。あんたの言った通り、流石にこれ以上は食べ過ぎになっちゃうからね。あたしが買った物じゃあないし、遠慮はいらないわよ」


 そうビニールの袋に包まれたコロッケパンをテーブルの上を滑らせて狛哉へと差し出すこだま。

 彼がそれを受け取る間にクリームパンを食べきってしまった彼女は、即座に二つ目のパンを取り出してそれを食べ始める。


 本当にお腹が空いていたのか、はたまたこれがこだまの通常の食事風景なのか……と疑問に思いながらもコロッケパンの包みを開けた狛哉は、食欲を誘うソースの匂いに鼻を引くつかせてからそれにがぶりと食らいついた。


「あっ、美味しい……! ソースの甘さがちょうどいいや」


「へえ、そうなんだ? どうやらあの売店のパンは当たりみたいね」


 クリームパンに続いてチョココロネを頬張るこだまが狛哉の感想に頷きながら呟く。

 値段もお手頃だし、これをいつでも学校で買えるというのはかなり嬉しいことであると考える彼女は、紙パックの牛乳にストローを刺すとそれを飲んで喉を潤していった。


 よく食べ、よく飲むこだまの食べっぷりに圧倒される狛哉は、あの小さな体のどこにそれだけの食物を溜め込むスペースがあるだろうかと疑問を抱いていたのだが――


「んっぐっ……!?」


 そこで対面に座る彼女の胸が綺麗にテーブルの上に乗っている様を目にして、つい咽せ込んでしまった。


 両手で自身の顔と同じくらいのサイズをしたメロンパンを持つ彼女は、肘をテーブルについたお行儀の悪い格好でそれをパクついている。

 リスのように頬を膨らませながらはむはむと小さな口でパンを齧っている彼女は、自分の胸が卓上に乗っていることに気が付いていないのだろう。


 ブレザーを押し上げるぱつぱつの胸が、ずしんという重みを主張しながらテーブルの上に鎮座している。

 昨日、目にした谷間と下着を思い出してしまった狛哉は自身の不埒な考えと視線をこだまに悟られぬように気を張りながら食事を続けようとするも、どうしたって気になってしまうのが男子高校生の悲しい習性というやつだ。


 幸い、今はこだまが食事に夢中になってくれているから助かっているが……ふとした拍子にこのことがバレたら自分の命はない。

 デリカシーのない真似をするなというここ数日彼女から言われ続けている命令を破っている上に、こだまの最大の地雷であるロリ巨乳体型に関係する自身の不埒な行いをどうにかして誤魔化さなくてはと必死になる狛哉であったが、そこで周囲の生徒たちの声を聞き、ぴくりと眉をひそめた。

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