第十四話 エリーの実力

 時は、エリーが氷塊で戦場を二分したところまでさかのぼる。

 「さあ、あんたの相手は私よ!」エリーは自信満々に標的に銃を向けた。

 「ふん、そんなおもちゃで俺様を倒せると思うなよ!」エリーと対峙しているのは、紫色の狼男のような姿をした怪物ウルフギート。

 「この銃はさっき警察ポリからパクったものだが……やっぱ役に立たなかったなぁ……」そういうとウルフギートは拳銃を放り投げた。

 そして前のめりになったかと思うと、一気に加速してエリーに襲い掛かった!

 エリーは即座に氷結銃の引き金を引いた。しかし、ウルフギートのすさまじいフットワークによって避けられてしまう。

 「もう! なんで当たらないのよ!」エリーも半ばやけくそになって銃を乱射するが……

 「ひゃっはあ! そんな豆鉄砲当たるかあああ!!」気づけばウルフギートの間合い。

 ウルフギートの黒い爪が光る!

 そしてそのままエリーを引き裂く……かと思われたが、

 「はぁ!? なんで防げてんだよ!?」

 エリーの腕は氷で覆われていた。

 ウルフギートの爪が氷に深く食い込んで固まっている。

 「まっ……爪が離れねえ……?」

 「かかったわね!」エリーはゼロ距離で銃を乱射した。

 機関銃のような速度で連射される弾が、無慈悲にウルフギートに大ダメージを与えた。

 ウルフギートは衝撃で吹っ飛んで転げまわった。

 「ぐおおおおおおお!! てめえよくもやってくれたなあぁぁぁぁ!!!」

 ウルフギートの目が変わった。

 「はああああああああああああああ……」ウルフギートが何やら力み始めた。

 「何よ、変身でもするつもり?」エリーはそれを鼻で笑った。

 突然、ウルフギートの両脚が肥大化した。

 「ふんっ!!」ウルフギートは肥大した脚で地面を蹴った。

 そしてそのままマンションの壁に着地したかと思うと、一瞬で反対側のマンションへ移動した。

 マンションとマンションの幅は五メートルほどだが、その狭い空間をウルフギートはピンポン玉のように、目にもとまらぬ速さで跳び回っていた。

 エリーの目では捉えきれず、エリーはあっちこっち跳び回るウルフギートに翻弄されていた。

 途端に、エリーのわき腹に強烈な一撃が叩き込まれた。

 「ぐふぁ! 何すんの痛っ!!」続いて右肩に、さらに背中、左足、脳天と、凄まじい勢いで攻撃されている。

 いくら防御が得意であろうと、防御する隙も与えないほど攻撃されればなす術無し。

 氷結戦士の装甲に亀裂が入った。エリーはすでにボロボロだった。

 「ひゃっはあ!! これで止めだあああああ!!!」ウルフギートはマンションの壁に足をつけると、脚をバネのように縮ませた。

 反動によってさらに強力な一撃を叩き込もうという意図だろうか。

 ……しかし、そこには、筋肉を収縮させようとしたその時には、一般人なら逃すようなたった一瞬の隙があった。

 だが、かの氷結王から英才教育を叩き込まれたエリーにとっては、そのたった一瞬の隙が逆転のピースだった。

 「『爪砲そうほう』!!!」ウルフギートの最強の攻撃が襲い掛かる! ……かと思われたが、

 「うわうわわわわわ!! 壁が滑る! ふんばれねええぇぇぇ~~~~!」ウルフギートが蹴ろうとしたマンションの壁が、いつの間にか凍っていた。

 壁だけではない。エリーの周りにある全ての「足場」が氷におおわれていたのだ。

 ウルフギートは無様にも地面に落っこちた。

 「クソ……あの一瞬で壁を凍らせるなんて……!」ウルフギートは体勢を立て直そうとしたが、当然地面も凍っているため、立とうとするたびにすってんころりん。もはや先ほどの威勢は欠片ほどもない。

 エリーは自分の足にスケート靴にありそうなエッジを出現させた。

 そしてそのまま地面を優雅に滑走し、トウを突かずに跳び上がった。

 そして綺麗に空中で回転すると、慌てふためいているウルフギートの顔面にエッジを叩き込んだ。

 「ぐあああああああああああ!!!」ウルフギートはそのままの勢いで吹っ飛び、壁にぶつかり、地面が滑るので反射してもう一方の壁にぶつかるといった、ビリアードの球のような目に遭っていた。

 エリーは右足で見事に着地していた。審査員が見ていたら十点満点のトリプルアクセルだっただろう。

 エリーは満足げに笑っていた。「あらあら、ピンボールの球みたいに乱反射しちゃって。こう見えても私、相手をいたぶるような趣味はないの。ブリデラントの淑女として相応しくないでしょう?」

 エリーは「変化~徹甲~」を氷結銃にセットすると、倒れているギートの頭に銃口を突き付けた。

 「今楽にしてあげるからね。」エリーが引き金を引こうとしたその時だった。



 「待てエリー! そいつを倒しちゃだめだ!!」ユースが氷の壁を飛び越えてやってきた。

 「ユース!カメレオンのほうは……」「倒したよ。」「ていうか、なんでこいつ殺しちゃいけないわけ!?」

 「ナーサが人質にされているんだ……ナーサの首輪に爆弾がついてるんだ、下手に触ったらナーサどころか、僕らだって巻き込まれかねない。」

 「そんな……」「へへ……その通りだ。」ユースとエリーが声の飛んで来た方角を見ると、ウルフギートが何とか地面に立っていた。

 「足ぷるっぷるじゃない。無理しなくてもいいのよ?」「エリー、これ以上相手を挑発したらまずいよ……」

 「爆弾を解除する方法は俺だけが知っている……あの小娘の命が惜しければ、今すぐ変身を解除して武器を捨てるんだな。」

 「はぁ!? そんな要求誰が認めるもんですか!!」エリーは呆れ、怒り、困惑していた。しかし、ユースは静かに笑って、

 「分かった。要求を飲もう。」と言った。

 「ちょっとユース!? 従ったってナーサさんが助かるわけ………」急にエリーは黙ってしまった。

 そして何を思ったか、「私も要求を飲むわ。」といったのだった。

 ユースとエリーはなにやらコマンドレシーバーを操作し始めた。

 すると、二人の装甲がキラキラと光る粒子となって、コマンドレシーバーに吸収された。

 「持っている武器と道具をすべて捨てろ!」ウルフギートは勝ち誇った顔でそう命令した。

 二人は何のためらいもなくレシーバーを接続バングルから切り離し、レシーバーとバングルをウルフギートの前に投げ捨てた。

 「フハハ……そうだ、それでいいんだ。」「で、爆弾はどのように解除するんだ?」ユースはできるだけ穏やかに、相手を挑発しないように尋ねた。

 しかし、「は? お前らバッカじゃねーの? 誰が爆弾を解除してやるなんて言ったんだ!? 生身のテメーらなんかひき肉にしてやるわあああああ!!」ウルフギートが攻撃態勢に入った。だが、


 ユースとエリーは静かに笑った。「「はい、終わり。」」


 突如、ウルフギートの背後から百個の風船が破裂するような音が聞こえた。

 そして次の瞬間、麻痺弾が横殴りの雨のようにウルフギートを襲ったのである。

 「があああああああああ!!!」エリーをあれほど追い詰めたウルフギートは、数の暴力によってあっけなく無力化されたのである。

 「ルーヴェ小隊長! お待たせして申し訳ありません!」麻痺弾と声の主はユースが率いる小隊の兵の一人だった。

 「ま、結果オーライだから許す!」ユースは片手を振って部下を歓迎した。

 ウルフギートが降伏を勧告してきたとき、ユースの無線に部下から通信が入っていた。

 ユースはウルフギートの背後に兵を潜ませ、エリーもそれを察しまんまと相手を欺いたのだった。

 ウルフギートとの戦いで大ダメージを負ったエリーは、ウルフギートが拘束される様子を見届けながら気を失ったのだった。

 こうして、ウルフギートはナポレード拘置所に護送され、傷ついたエリーとナーサはナポレード市立病院に搬送された。

 ユースには報奨金として、皇帝から八十万エウローが授与された。




 三日後、ナポレード市立病院、エリーの病室にて。

 「ナーサさんの首輪、無事に外れたのかしらねぇ?」

 エリーはベッドの上で点滴を繋がれていたものの、話せる程度には回復していた。

 「わからない。ウルフギートに自白剤を飲ませて、解除の方法を聞き出す手はずだそうだが。」

 ユースはローマで買ってきた高級ぶどうジュースを持ってお見舞いに来ていた。

 「ふーん……あなたナーサさんとどういう関係?」

 「僕がミラニアに来てから初めてできた友達だよ。」

 「そうなんだ……そういえば、ウルフギートのやつはどうなるの?」

 「一応裁判になるけど、公務執行妨害に加えて、過去の殺人や、誘拐の共同正犯なんかの罪がかかっているから、まあ間違いなく死刑だな。」

 「そう……ところで、孤児院の子供たちは……?」

 「……皆には、サンドロ院長は道中ギートに誘拐されたって話したよ。孤児院の経営は、隣町から名乗り出てくれた人に任せることになった。」

 「そう……子供たち、これから大丈夫かしらね?」

 「きっと大丈夫だよ。」ユースが話し終わると同時に、誰かが扉をたたく音がした。

 「入って。」エリーが答えると、中に老医者が入ってきた。

 「ナーサ・ジャクソンさんの首輪は無事外されました。」「ほ、本当に!?」ユースはそれを聞くや否や、老医者を突き飛ばしてナーサの病室に走っていった。

 「ユースさん、廊下は走らないでくだされ……」突き飛ばされながらもユースに注意する老医者を横目に、エリーはユースとナーサの関係性について深く考え込んでいた……



第十五話 ストレス、苦悩、甘い物 に続く

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