第十三話 ユースの怒り

 紫の怪物が放った銃弾が、エリーの腹部に命中した!

 「エリーーーーーーーーーーーー!」

 だが……

 「ちょっと、ユース!一発撃たれたからって大袈裟すぎ!」

 「……え?」

 エリーはピンピンしていた。

 「「なんで無事なんだよっっ!」」この驚きは、ユースのものであると同時にエリーを撃った犯人の 驚きでもあった。

 「なんでって、自然戦士の鎧はピストルごときで……ユース危ない!」

 「え?」ユースが振り向いた瞬間、鞭のようなものがユースの右腕に巻き付いた!

 が飛んで来た先を見ると、なんとそれはサンドロの舌だった。

 「何!?院長、あなたまさか!」

 「へっへっへ……」サンドロの肉体がマーブルのように変色していくかと思うと……カメレオンのような紫の怪物になった。

 すると、カメレオンもどきが何かしゃべりだした。

 「ばたすぃばすぁべれおうぐぇーて、こねめぁめぁめうなめねすてやう」

 「なんて言ってるか分からねーよ!」カメレオンもどきの舌はユースの右腕に絡みついたままだった。これではまともに話せるはずがない。

 カメレオンもどきは仕方なさそうに舌を戻すと、今度ははっきりとわかるローマ語で言った。

 「私はカメレオンギート、このまま丸呑みにしてやる! ……て言おうとしたんだ!!」

 さらに、ユースの背中から若い声がした。

 「俺様の名はウルフギート! よくも俺様たちのを邪魔してくれたな!!」

 ウルフギートは拳銃をエリーに向けて銃を向けながら、同じように銃を向けているエリーと対峙していた。

 ユースは思った。(狼が拳銃を使うって違和感あるな……)

 「ランチ? 何言ってんのよあんたたち。」

 「俺たちはそこにいるカメレオンの爺さんが連れてくる新鮮な子供たちをなぁ、ラザニアにして食うのがうまいんだよ!」

 「なんですって……!」「エリー、君はウルフを頼む。僕はカメレオンをやる。」

 エリーの顔は怒りに歪んでいた。ユースの顔色はほぼ変わらなかった。

 しかし、二人の考えは全く一致していた。

 「「絶対にあいつ・あの子は助けて帰る!!!」」

 エリーは手を後ろに向けると、ユースとエリーの間に氷の壁を作った。

 「ナイスだエリー。こいつら組まれると厄介そうな特性だからな。」



 「さあ、今度こそ丸呑みにしてくれるわ!」カメレオンギートの舌が飛ぶ!

 しかし、ユースは同じ手は二度と食らわない。

 飛んでくる舌を太陽剣で斬り飛ばした。

 ……さて、このユースの太刀筋、何か変わったことに気づかないだろうか。

 勿論文章だけで判断できるわけがないが、第四話「初陣」の時に子ギートを斬り伏せたあの時に比べて、太刀筋がとても鋭くなっている、

 この時、ユースの刃には強い意志が込められていた。

 子ギートを斬ったときはただの自己防衛でしかなかったが、この時のユースは表情こそ変えなかったが、とても強い怒りを覚えていた。

 「カメレオンギート……お前は数々の子供たちを殺した挙句、院長まで殺したんだ。」

 「はぁ? 何を言っている。私はこうして生きているではないか。」

 「お前がそんな奴だったとしても、少なくとも五分前の僕や、今孤児院で待っている子供たちは、お前が子供に優しく、いつも笑顔を絶やさず、行く当てのなかった僕を拾い、衣食住も、教育だって用意してくれた。そんなサンドロ・ポッティチェリが生きていると思ったんだ。だが……お前はたった今院長を殺したんだ!」

 「知るかそんなこと!お前たちはずっと、屠殺される豚のように育てられてきたんだよ!!」

 目の前にいるのは育ての親。しかし、ユースの心から迷いは一切消えてなくなった。

 ユースは太陽剣を構えると、足底を爆発させ、その反動で急加速した。

 そして一気にカメレオンギートとの距離を詰めた……かと思うと、

 「甘い!」

 ユースが切りかかる直前、カメレオンギートの姿が消えた!

 「な……!」ユースは戸惑って剣を鈍らせた。困惑した顔であたりを見渡す。

 しかし、すぐ冷静になって、相手の能力を分析した。「カメレオン特有の保護色か………」ユースには打開策があった。

 コマンドレシーバーに「変身~突風~」のICカードをセットするが……


 グイッ


 突然ユースの体が上空に引っ張られた!

 その拍子に、ユースは太陽剣を落としてしまった。

 「な、どういうこと……」首に何かが巻き付いているようで、うまく言葉が出ない。

 「フハハハッハッハハハハハ!!!」途端に、ユースの頭上から笑い声がした。

 「まさか……」ユースの悪い予感が的中した。

 何もないところから急にカメレオンギートの姿が現れた。

 尻尾をマンションの雨どいに巻き付けている。尻尾一本で全体重を支えているのだ。

 しかも、ユースの首に巻き付いていたのは、先ほどユースが切り飛ばしたはずの舌だった。

 「何で……再生してるんだ……」ユースはもがきながらかろうじて言葉を紡いだ。

 「カメレオンは爬虫類なんだ。もともと再生力が強い。それもギートともなれば、その再生力ははるかに高い!貴様ら人間とはわけが違うのだ!!」

 首が物凄い勢いで締め付けられる。

 このまま窒息するか、はたまた首の骨がおれるか……絶体絶命の大ピンチだった。

 だが、ユースにはがあった。

 ユースは首に巻き付いている舌を掴んだ。

 「炎波えんぱ!!」

 手のひらから炎が噴き出す!

 「ぎゃああああああああ!! あちちちちちちちいいいいいいい!!!」

 カメレオンギートはたまらず舌を解いて、地面に落ちた。

 ユースは激しく咳き込みながらも、何とか剣を拾って体制を立て直した。

 「うぬぅ……調子に乗るなよ! このチビが!」 カメレオンギートがまた姿を消す!。

 「今度は準備できてるんだよな~。」ユースは手のひらを上に向けた。

 「熱源探査ヒートソナー!」

 ほとばしる温風が、カメレオンギートの位置をとらえた!

 「そのあたりか! 炎波!」またもユースは火柱を発射した。

 しかし、直接標的は狙わず、地面を燃やす。

 「ぎゃああああああああ!! あちちちちちちちいいいいいいい!!!」カメレオンギートが姿を現した!

 相当慌てているのか、体の色が次々に変化している。

 「僕をチビといったこと、後悔しても遅いぞ!」

 その時、太陽剣に炎が灯った。

 ユースは大胆にも炎の中に飛び込んだ。


 「『炎斬えんざん』!!」


 のたうち回っているカメレオンギートに強烈な一撃を叩き込んだ。

 カメレオンギートは断末魔とともに、黒い煙となって空へ昇って行った……




 ユースは「変身~水流~」を用いて、消火作業に当たっていた。

 「そうだ、ナーサは無事か?」ユースはもう一度「熱源探査ヒートソナー」を使った。

 サンドロが乗っていた車に生体反応があった。

 すぐに車に駆けつけ、車のドアを開けようとするが鍵がかかっている。

 ユースはナイフを取り出すと、窓ガラスをナイフの柄で叩き割った。

 「ナーサ、無事か!?」しかし、ユースが見たのは、とても「無事」とは思えないような光景だった。

 ……そこにいたのは、席に手錠で繋がれていて、さるぐつわをはめられ、目隠しをされ、全身に打撲の痕がある水色の髪の少女だった。

 シーツのあちこちに血が付いている。どんな目に会わされたのだろうか。

 ユースはしばらく言葉を失ったが、やがて我に帰った。とにかく、ナーサにつけられているさるぐつわと目隠しを取った。

 「ナーサ、僕が分かる?」「……ユース?」ナーサの目から涙がこぼれた。

 「可哀想に……今助けてあげるから。」ユースがナイフで手錠を断ち切ろうとしたが、「ダメ。」静かな声で制止された。それからかすれた声で、自分の置かれた状況を解説した。

 「私の首につけられた爆弾付きの首輪……誰かがこれに触れたら爆発するよ……」

 「そんな……解除の方法はないの?」

 「ウルフギートってやつが……解除できる方法を知ってるって……」

 「そうか、すぐに助けてあげるからね!」ユースはすぐにエリーの救援に行くのだった。



 第十四話 エリーの実力 に続く

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