第十二話 ナーサ救出作戦

 ユースは夢を見ていた。

 家に両親がいて、ユースがいて、三人とも笑顔だった。

 一瞬で家が燃え、両親は焼け焦げた死体になった。

 軍隊が近づいてくる。

 その先頭にいたのは……

 「うわああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」




 「何よ、ユース! いきなり大声上げないでよ!」

 エリーが険しい表情をしてユースをにらんでいる。

 時計はアラームを響かせながら午前六時を指していた。

 「あ、エリー、おはよう。」

 「おはようじゃないでしょ! どうしたの? 寝てるときすごくうなされてたわよ?」

 「えーと、それは……」

 ユースはエリーに悪夢の事を話した。

 「なるほど……悪夢を見るようになったのはいつから?」

 「三年前……僕がローマンドに帰ってきたころから。」

 「となると、記憶を失う前から見ていた可能性が高いわね。ご両親の顔は覚えてるの?」

 「それがわからないんだよ。」

 「わからない?」

 「夢を見ている間も顔がベールみたいなので覆われていて……」

 「親の顔くらい覚えさせてあげたらよかったのに……まあいいわ。今日は大事な任務の日よ。早速朝食にしましょう。」

 よく見ると、エリーはどこから持ってきたのか、ドレスの上に水色のエプロンを着ていた。

 「そのエプロンどこで?」

 「どこでって……作ったのよ、さっき。」

 「作った!!?」

 「そうよ、氷で糸を作って、縫い合わせて作ったのよ。」

 「な……簡単そうに言ってるけど、想像つかないぞ……」

 ユースがあっけにとられているのを横目に、エリーはキッチンに移動する。

 「冷蔵庫の食材使ったわよ。」

 既に下ごしらえは済んであるようで、エリーは何やら食材を炒め始めた。

 (慣れてるな……料理は得意なのかな?)

 することがないので、ユースは部屋を移動して着替え始めた。

 (任務に出るわけだし、軍服でいいよな。)

 ユースが着替えると、既に食卓には朝食が用意されていた。

 「速っ!」

 「当然でしょ? こう見えても料理は得意なの。」

 エリーは自慢げに笑みを浮かべた。

 「さあどうぞ。フィッシュ・アンド・チップス、ブリデラントではおなじみの料理よ。」

 並んでいたのは白身魚(ユースはどんな魚なんて気にしなかった)とフライドポテト。

 「じゃ、さっそくいただきます。」

 ユースはお腹が弱い。

 朝から脂っこさそうなものを食べるのはどうなんだ、と身構えながら白身魚を一口食べた。

 「おいしい……!」

 「当り前よ! ブリデラント王室にはね、代々伝わるフィッシュ・アンド・チップスのレシピがあるのよ。」

 「そりゃ興味深いな。」

 そう言いながらユースはちらとエリーの方を見た。

 エプロンは氷で出来ているからか、細かく光を反射してキラキラ光っている。

 エリーがもともと美しいのもあって、さらに輝きを増している気がする。

 「……? 何見てるの、ユース?」

 「いや……何でもない。」

 「もしかして、気にしてる?」

 「昨日の事?」

 エリーは顔を赤らめてもじもじしている。

 「ほら……あの……私が……ユースに……」

 「昨日の事はから覚えてない。」

 「やっぱり気にしてるでしょ~~~~~~!!(泣)」



 ローマンド城正門前にて。

 「さて、今七時半だが、ミラニアまで行くのに四時間以上はかかるよね? ……間に合わないじゃないか!」

 「そりゃあ、そうよね。」

 エリーはコマンドレシーバーをセットすると、「変身~氷結~」のICカードを差し込んだ。

 「氷結変身!」

 あたりに光がほとばしった。

 エリーのコマンドレシーバーの画面から鎧のパーツが次々に飛び出していき、エリーの体を覆った。

 光が晴れると、エリーは水色を基調とした鎧をまとっていた。

 ユースの鎧が炎をかたどっているように、エリーの鎧も氷を象っているものだった。

 しかし、ユースは思った。

 (露出多くない……?)

 「さあ、あなたも変身しなさい。」

 「あ、うん。太陽変身!」

 突如として二人の自然戦士が現れたことにより、周辺の人が何があったかと集まってきた。

 「ちょっと……人集まってきちゃったよ……!」

 「わかってるわよ。さてユース、今から三十分でミラニアまで行く方法を教えるわ。」

 「え、たった三十分で!?」

 エリーはレシーバーを何やら操作し始めた。

すると、エリーがまとっている鎧の背面部分が変形し始めた。

 「これは……ジェットパックか?」

 「そうよ。これさえあれば移動から空中戦まで何でもありよ。」

 「どうやって起動させるの?」「ええと、それはね……」


 ……十分後

 「はあ、はあ、やっと起動できた……」

 「もう、ユース機械音痴過ぎ!じゃあ、早速飛ぶわよ!」

 エリーの体がゆっくりと宙に浮き始めた。

 「ほら、ユースも飛んで!」

 「飛ぶって、どうやって……」「イメージするのよ! 得意でしょ!?」「う、うん……」

 ユースは頭の中で想像し始めた。

 (僕の体が浮かぶ……ゆっくりと浮かぶ……)

 気づくと、ユースの体は宙に浮いていた。

 「わわわ、本当に宙に浮いてる!」

 「じゃ、早速ミラニアに行くわよ!」というが早いか、エリーは一瞬で加速して彼方へ消えていった。

 ユースは茫然と見ていたが、「あ、ちょっと! 待ってよー!」ユースも一気に加速してエリーに追いついた。

 「すごいスピードだ! どれくらい出てるのかな?」空を飛んでるので鎧に搭載されている無線で通話する。

 「最高速度は時速720kmだそうよ。」

 「なんだそれ! 超特急よりも速いじゃないか!」

 「ほら、もう街はずれの森が見えてきたわよ。」

 「やっぱり速いな~。……ねえエリー。」

 「どうしたの?」

 「空を飛ぶって、楽しいね!」

 「そうでしょ! 一度これを知ったら病みつきになっちゃうわ!」

 重要な任務に向かうはずなのに、まるで学校に行くような雰囲気だった。



 三十分後

 二人は聖ミネルヴァ孤児院の屋根の上にいた。

 「さて、ここからは暇な時間が続くねぇ。」

 「そうね……とりあえずばれないように透明になっておきましょう。」

 「そうだね。」二人は「変化~透明~」のカードをセットした。

 二人は自覚がないが、身体がホログラムが消えるように見えなくなっていった。

 「そう言えば、ずっと気になってたんだけど……」

 「何?」

 「何で僕の武器は剣で、エリーの武器は銃なの?」

 「知らなかったの? 自然戦士の武器はね、その人にとって一番使いやすい武器が自動で決まるのよ。」

 「そうだったんだ……あとさ、」

 「何?」

 「その鎧……露出多くない?」

 「鎧のカスタマイズは自由なのよ。御父様はこういうの嫌いでデフォルトのデザインにしろって言ってくるけど、それくらい自由にさせなさいよね!」

 「まあ、そうだね……(防御力は度外視か……)」

 「……ところで、サンドロ・ポッティチェリってどういう人なの?」

 「院長の人柄? そうだね……明るくて笑顔を絶やさず、子供が好きで、友達がいなかった僕を気にかけてくれたよ。」

 「そうなんだ……」

 「だから、院長が奴隷商人だなんて、本当は信じたくないんだ……」

 「……ユース、気持ちは分かるけど、相手が誰だろうが、討伐命令が出てる時点で討伐しなきゃいけないのよ?なんなら今孤児院に突入しても良いくらいで……」

 「子供達を巻き込みたくない。それに、奴隷商人なら別の奴隷商人に売るんだろ?ソラントでどっちも逮捕できるかもしれないんだ。今は待とう。」

 「そうね……」




 「あっ! 院長が出てきた! ナーサも一緒だ!」

 ユースが指差した先には、確かにサンドロ・ポッティチェリとナーサ・Iイシス・ジャクソンがいた。

 「どういう事? まだ九時よ!?」

 「まさか、偽情報をわざと漏洩して欺こうと……」

 門の前では送別会が行われている。

 ユースはすぐに部下に電話した。

 「いまどこ?」「現在は高速道路でミラニアに移動中です。あと三十分はかかるかと……」

 「今すぐ行き先をソラントに変更しろ! すっかり騙されていた! 最速の手段でソラントへ向かうんだ!」

 「は、はい!」

 「ユース、サンドロとナーサさんが車に乗るわ!」

 「やれやれ、ひとまず追うか。あいつら間に合うと良いが……」



 ローマンド帝国は地中海に面しており、昔から海運業が盛んだった。

 その中でも、ナポレードという地域にある港ソラントは、ローマンド帝国最大の港である。

 「そんな港から船を出されたら、どんな国に行くかわからないじゃない!」

 「いや、一応あてはある。帝国の植民地イージットだ。」

 イージットとは、アフロ大陸の北東に位置する植民地だ。

 四千年ともいわれる歴史を持ち、独自の文明を持っていたのだが、ローマンド帝国に支配され、植民地となっていた。

 とにかく、船に乗る前を狙うため、ユースとエリーはサンドロとナーサが乗っている車の上空に張り付いていた。

 「問題は取引先が人間だった時だ。」

 「どうして?」

 「院長には討伐命令が出てるからいいけど、相手にはまだ証拠がない。証拠がないのに逮捕してもなぁ……」

 「明らかな取引とかあったら良いのにね……あ!海が見えたわ!」

 視界の先に水平線が見えた。

 ここが、ローマンド最大の港、ソラントである。



 「院長の乗っている車は……あれ?人気の無い路地裏へ行くぞ?」

 「もしかして、港へは行かないのかしら?」

 「人身売買なら、確かに人気の無いところはベストだけど……」

 「ユース、サンドロが車から降りたわ!」

 「黒いマントを着た人が近づいている。あれが取引相手か?」

 「とにかく急ぐわよ!」

 「そうだな……もうそろそろ動いても良い頃だ。」

 二人は透明化を解除すると、ユースはサンドロの前に、エリーは黒マントの人間の前に立ちはだかった。

 「な、なんだね君達は!」突然自然戦士が空から降ってきたのだから、サンドロ達が驚くのも無理はない。

 ユースは袋から令状を取り出すと、サンドロに突きつけた。

 「私は太陽戦士、ユース・Aアルペジオ・ルーヴェ少尉。サンドロ・ポッティチェリ、貴方には人身売買の容疑がかけられています。大人しくローマまで護送されてください。」

 「黒マントのあなた! 貴方も一緒に来てもらおうかしら?」とエリーは偉そうに言った。

 「おお、ユース! なんと立派な姿に……!」サンドロはこんな状況でも感動の対面のつもりでいるのか、とユースは内心憤りを覚えた。

 「、貴方には先日の皇帝狙撃事件の犯人という容疑もかかっているのですよ。大人しく逮捕されなければ……我々にはここで貴方をここで斬る権利があります。」

 ユースは抜剣し、育ての親の前に突きつけた。

 エリーもまた銃を構えた。

「そうだ、ナーサは……ナーサはどこにいるんです?」高ぶる気持ちを押さえながらユースは言った。

 サンドロは、いつもの笑顔を崩さず言った。「おお、ナーサなら、爆弾付きの首輪をつけて車の中で大人しくしてもらっておるぞ。」

 「!!!」場の空気が一気に変わった、その時だった。


バン


 ユースの後方から銃声が聞こえた。

 ユースが振り返ってみると、エリーがお腹を押さえて膝をついていた。

 紫色の怪物がマントを脱ぎ、銃を構えている!

 銃口からは煙がかすかに出ていた……

 「エリーーーーーーーー!!!」



第十三話 ユースの怒り に続く

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