第十一話 作戦会議

 ユースとエリーは、ピッツァ・スパゲッティレストラン「パラディーソ」にて、ピッツァを食べながら任務についての作戦会議をしていた。

 「明日の朝、ナーサ・Iイシス・ジャクソンと言う僕の友達が、孤児院を出て拾い先の下へ行くそうだ。」

 「その『拾い先』がギートってこと?」

 「そうとも限らない。サンドロは植民地に育てた子供を奴隷として売り飛ばしているらしいからね。」

 「……ひょっとすると、バックには大きな犯罪組織が居るかもしれないわね。」

 「奴隷商人のネットワークか……そうなれば、僕ら二人の手には負えなくなる。警察どころか軍隊を派遣するような事態は避けたいな。」

 「何で? いくら相手が大軍でも、帝国軍は強いんでしょ?」

 「事態が大事になれば、孤児院に居る子供達を巻き込みかねないじゃないか。」

 「そうね……でも、やっぱり二人じゃ不安よねぇ。」

 「必要なら私兵も動員するよ。僕一応小隊長の資格持ってるから。」

 「……え!?」

 「何、そんなに驚くこと?」

 「私だって三年くらい地道に頑張ってやっと去年小隊長になったのに……あんたズルいわよ! 一体どんな手を使ったってのよ!」

 「たまたま皇帝の命を救っただけだってば。」

 「ま、まあ精鋭六十人と自然戦士二人がいれば、なんとかなるかしらね。」

 「実はもう三人程ミラニアに派遣しといてあるんだ。何かあったらいつでも連絡してくれる。」

 そう言ったとたん、エリーのコマンドレシーバーが鳴った。

 「え? あの人たちエリーの方に連絡?」

 「そんなわけ無いでしょ……え、御父様!?」

 エリーの顔が青くなっていくのがわかった。

 「……エリー? 大丈夫?」

 「う、うん……大丈夫……もしもし?」

 「このバカ娘!!! 護衛無しで街をふらつきおって!!!」

 エリーの父親、ヘンリー王の怒鳴り声が聞こえた。

 「えーと、違うの御父様! 実は違う人に護衛をやってもらってて」

 「そんな護衛信用できるか!! お前にはいつも我が国最高の自然戦士を十人は付けてやってるだろう!」

 (十人!?? いやいくらなんでも多すぎだろ! ヘンリー国王は過保護か!)とユースは思っていた。



 数分後、エリーは見るからにやつれていた。

 もはやマルゲリータを目の前にしても、虚ろな目をしているだけだった。

 「エリー……? 生きてる?」

 エリーの口がかすかに動いた。

 「……うん……一応……」

 「明日は早朝から任務だけど……行けるよね?」

 「多分……」

 今度はユースのレシーバーが鳴った。

 「あ、今度こそ偵察兵だ。もしもし?」

 「小隊長、ナーサ殿は明日の朝10時にミラニアを出てソラントへ行くそうです。」

 「ナイス情報! ご苦労様。……そう言えばエリー、今日はどこに泊まるの?任務に参加するならローマンドこっちに泊まるよね?」

 「……あ。ホテル予約するの忘れてた。」

 「あらら……」

 「……こうなったら仕方無いわ。ユース。」

 「何?」

 「あんたん家に泊まらせなさい。」

 「え?」



 夜八時頃、ユースはローマンド城内にある兵舍に帰ってきた。

 ユースの住む部屋は自然戦士専用の特別仕様となっており、2LDKで日当たり良好、インディーカ産の最高級クラスのシルクを用いたベッド付き。水道光熱費と通信費が無料で、空調と床暖房も完備されながら、家賃はたったの五万エウローである。

 ユースはこの部屋を昨日契約したばかりだった。

 「ふーん、結構良い部屋に住んでるじゃない。」

 横にはモールでお泊まりセットを買ってきたエリーがいた。

 まさか契約して一日で自分の部屋でお泊まり会、しかも同世代の女子と二人きりでなどと言うことになろうとは、ユースも思っていなかっただろう。

 「ま、私は宮殿住まいだけどね!」とエリーはドヤ顔をしたが、ユースが「僕は実質城住まいじゃないか?」と言ったため、「ま、私ん家は持ち家、いや持ち宮殿だけどね!」と張り合ってきた。

 「そんなことはどうでも良い。本当にここに泊まるで良かったのか? ホテルくらい探せば見つかるだろ。」

 「だってホテル代高いんだもん。」「王女のクセにどこにけちってるんだよ。」

 「何言ってんのよ! 王女だって節約くらいするわよ!」

 「だからってさ、会ってまだ一日も経ってない男子の部屋に寝泊まりするなんて発想はないだろ………」

 「別に良いでしょ……(ユースじゃなかったらそんなこと考えないから。)。」

 「ん? 何か言った?」

 「い、いやなんでもない!なんでもないの! ねぇ、それよりお風呂に入りたいんだけど。」

 「お風呂なら一応部屋にもついているけど、やっぱり大浴場の方がいいよ。」

 「あらそう。なら早速大浴場とやらに案内してちょうだい。」

 「はーい。」



 約一時間後

 「あら?もう帰ってきてたの?」エリーが部屋に 戻ってくると、ユースが既に帰ってクラシックギターを弾いていた。

 「うん、長風呂は好きじゃないからね。」

 「て言うかそれギターじゃない! ギター弾けたんだ。」

 「まあね、三年前、僕が外国から帰国した時に既に持ってたんだ。」

 「何それ、気付いたら持っていたみたいな言い方じゃない。」

 「……そうだよ。僕、十三歳までの記憶がないんだ。」

 「え……!?」

 「気付いた時には、ローマ空港に荷物を持って立っていたんだ。その時覚えていたのは、自分の事と、ローマンド帝国の基礎知識くらいだった。」

 「それって……空港で記憶を失ったんじゃないの?」

 「そうなんだろうけど、空港で記憶喪失になるようなことあるかな?」

 「事故にあった訳じゃ無いんでしょ?考えられる理由はただ一つ、誰かがあんたの記憶を消したのよ。」

 「でも、誰がなんのために?」

 「やったのは恐らく、外国であんたを育てた人ね。理由は……これは難しいわね。」

 「僕、そもそもどこに亡命していたかどうかすら把握してないんだよ。」

 「それはあんたの守護精霊からわかってるでしょ?」

 「まあ、天照大神って言ってたような……」

 「じゃあニポネシアね。」

 「ニポネシア?」

 「ニポネシア共和国は、エウローシャ大陸の東にある島国で、国土面積はブリデラントの二倍くらい。人口は約一億二千七百万人で、世界で十一番目に多いわ。」

 「おお、大国だねぇ。」

 「二千年以上も前から皇室があったとされて、その独特で長い歴史に美しい自然、高い工業技術があって、さらにはアニメや漫画などのポップカルチャーが人気よね。」

 「え? 共和国なのに皇帝がいるの?」

 「ニポネシアでは『天皇』と言ったかしら。でも政治的権力は一切持っていないわ。条約を承認したり、首相を任命するみたいな国事行為はやってるけどね。」

 「ニポネシアか……いつか行かなきゃならないな。」

 「そうね、あんたが記憶を取り戻したいと思うならね。」

 「エリー、ところでどこで寝るの?ベッドは使わせないよ?」

 「大丈夫!氷でベッド作るから。」

 「いやダメだよ!?氷なんて暖房で溶けちゃうでしょ!折角契約したばかりなのに。」

 「じゃあどうしろってのよ。だったらベッドで寝させてよ。」

 「い、いや、それは……」

 「良いじゃない!そのベッドセミダブルでしょ! それともおニューのカーペットをびちゃびちゃにしても良いの?」

 「……分かったよ。セミダブルって本来一人用だけどね。」



 ユースとエリーは、セミダブルのベッドで一緒に寝ていた。

 本来セミダブルとは、ユースも言った通り一人用である。

 ユースは狭い範囲の中で、寝返りも打てずに寝付けずにいた。

 「眠れない……」

 「私も眠れないわ。」ユースの背中からエリーの声がした。

 「暑くて眠れないわ……」

 ローマンドの冬はそれ程寒くない。それに対してブリデラントの冬はとても寒い。

 寒さになれているエリーは、ローマンドのそんなに寒くない冬に暖房をつけて羽毛布団で眠れるわけが無かった。

 「ユース……暖房消してよ……」

 「嫌だよ、自分で冷やせば良いじゃん…………」

 「氷結戦士の能力をそんなことに使うなんてもったいないじゃない……」

 「……分かったよ消すよ……」

  静寂が数分間続く。

 「ユース? まだ起きてる?」

 「起きてるよ。」

 「……今日のあんたスゴかったわよね。」

 「どうして?」

 「どうしてって……あの『熱源探査ヒートソナー』ってやつ、並みの技術じゃ出来ないわよ?」

 「そうなの? あの時思いついたんだけどね。」

 「しかもその後、チンピラ達を一瞬で倒しちゃって……」

 「ギートでもない相手に負けるわけがない。」

 「でもカッコ良かったわよ?『四拍子で倒してやる!』って。ふふふ。」

 「恥ずかしいから言わないでよ……」

 「……ユース、天才かもしれないわね。」

 「天才は嫌いだよ。」

 ……また静寂が流れる。


 エリーは何を思ったか、突然ユースの首筋にキスした。


 「……え……!?」

 「今日のお礼よ、おやすみ。」



第十二話 ナーサ救出作戦 に続く

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