第十話 ディナーは救助の後で

 ユースとエリーは、オッティモモールの一階にあるレストラン街にやってきた。

 「ん~~~~~! いい匂い! やっぱりローマ料理は食欲がそそられるわね~~~!」

 エリーはユースが甘い物を食べているときのような幸せそうな顔をしており、ユースはちょっと引いていた。

 「エリー、オッティモモールに来た理由はまさかローマ料理にありつくためか?」

 「まあ、そうゆうところも半分以上くらいはあるかもね。ねえユース、どこか予約してよ~」

 「え~~、じゃあ……」

ユースはレストラン街の入り口付近にある店の前に行き、

 「『ピッツァ・スパゲッティレストラン パラディーソ』だって。ここでいい?」

 「あら、そこおいしいやつじゃん。そこにしといて」

 「はーい。」ユースは伝票に「二名」「禁煙席」「ルーヴェ」と書き込んだ。ルーヴェでいいのかは正直わからなかったが、スチュアーテラートと書き込んだらめんどくさい事になりそうだから止めといた。

 途端に、ユースのお腹から、空腹とは違う別の感触が沸き上がってきた。

 「あ、ちょっとトイレに行ってくる」

 「いいよ、三十分待ちだそうだし」

 ユースはお腹が弱かった。

 ……そんなやり取りを遠くから見ていた三人の男がいた。

 「なあなあ、あのお嬢ちゃんめっちゃ良くね?」

 「ああ、顔良いし、スタイルも良いしよぉ」

 「しかも服めっちゃ豪華じゃん」

 「……あーなんか俺興奮してきたわ」

 「「俺も」」




 「エリー? どこ行ったー?」

 十五分後、ユースは戻ってきた。

 しかし、店の前にも、その周辺にもエリーがいない。

 ユースはエリーのコマンドレシーバーに電話してみた。

 「ただいま、電話に出ることが出来ません……」

 「え?一体何してるんだ?」

 ユースはやっと危機感を持ち始めた。



 「ちょっと!放しなさい!何やってんのよ!」

エリーは三人の男に捕まえられ、縄で両手を縛られ、現在地下駐車場にいた。

「怖がらなくていいんだよー?」「今からするのは、とってもいいことだからねー♡」

 いくら自然戦士たるエリーでも、変身していない生身ではただの少女だ。

 王女として何不自由なく育ってきたエリー・スチュアーテラートは、外出時も護衛に囲まれて行動範囲も制限されていた。

 今回の外出は初めて護衛無しだったため、この様な危険があることを知らなかったのだ。

 「ごめんなさいお父様……護衛無しで勝手に外出なんかしたから……」

 エリーの目から涙がこぼれた。

 すると、突然一人が「おい、やべーよこいつ!自然戦士だ!」

 「あぁ!? だからどうしたってんだよ?」

 「しかもこいつ、ブリデラント王国の王女だぜ!」

 「おおお! マジか! 王女とやれるなんて夢みたいだ!」

 「だけどよぉ、もしバレたら重罪だぜ?」

 「気にするな! こんなとこ誰にもバレやしねえよ!」

 「何か言ったか?」

 突然後ろから低い声。

 三人が振り返ってみると、太陽戦士に変身したユースがいた。

 「ユース!!」

 涙を流して安堵しているエリーの顔とは裏腹に、チンピラ三人の顔は絶望に染まっていた。

 「なななななななんでここがわかったんだ!?」

 「なんでって……」



 五分前

 「太陽変身!」

 レストラン街に光がほとばしる。

 「やれやれ…太陽変身って言う必要がなくても言ってしまうな……」

 ユースは「変身~突風~」のICカードをコマンドレシーバーにセットすると、目を閉じて高く手を挙げた。

 (自然戦士の技はイメージ………!)

 「『熱源探査ヒートソナー』!」

 ユースの手のひらから低い温度の温風が走った。

それは天井、壁、床を貫通してモール全体に充満した。

 「………………地下駐車場、業務用エリアの第四倉庫か…………」



  「という事だ。」

 「「「「いやいやいやいや!! なんでそんなことができるんだ!!」」」」

 この驚きはチンピラたちの物だけでなく、エリーの物でもあった。

 「え、エリー? なんで君が驚くの?」

 「いやユース! 二種類の属性を混ぜ合わせて新しい技を作るなんて、私だって成功したことないのに……!」

 「それよりエリー、助けてほしい?」

 「あ……」エリーは縄で縛られたままだった。

 「うん、助けて………?」微妙な雰囲気になってしまった。

 「フフ……フハ……ハハハハハハハハ!!!」突然、チンピラが笑い出した。

 「あ、おかしくなっちゃったかな?」

 「おかしくなるかボケェ!! いくら自然戦士だろうとお前みたいなチビ、三人がかりなら倒せる!」

 「チビ……? 僕のことをチビといったこと、後悔しても遅いぞ……?」

 「調子に乗るなよチビィィィィィィィィィ!」一人がナイフを取り出し、ユースに襲い掛かった!

 「夕食まで時間がない、四拍子で片づけてやる。ウーノ(1)……」

 ユースは左足で垂直に飛び跳ね、ナイフを避けた。

 「ドゥーエ(2)……」

 浮いた右足でナイフ男の首筋を蹴り飛ばした。

 吹っ飛ばされた男の体は二人目のチンピラを巻き込んで壁にめり込んだ。

 「トレ(3)……」

 相手に背を向けたまま右足で着地し、太陽剣に左手をかける。

 「この野郎おおおおおおおおおお!! ぶっ殺してやるぅぅぅぅぅぅぅ!」三人目が懐から銃を取り出した。しかし、

 「クワットロ(4)」

 ユースは剣を鞘ごとベルトから焼き切ると、そのまま相手に投げつけた。

 剣が三人目の喉に命中し、チンピラどもは四拍子で地面に打ち倒された。

 ユースは剣を拾うと、熱でベルトを溶かして剣をくっつけた。

 「エリー、大丈夫?」ユースはナイフを取り出すと、エリーを縛っている縄を切り取った。

 しかし、エリーは上の空だった。

 「……エリー?大丈夫?」

 鮮やかすぎるユースの動きを目の当たりにしたエリーの眼は「♡」になっていた。

 「……これじゃあ夕食は摂れそうにないな。」

突然、コマンドレシーバーに着信が入った。

 「もしもし?」

 「ユース? 私よ、ナーサよ!」

 「おお、ナーサ! 無事だったか!」

 「無事? どういう事?」

 「いいかナーサ、できるだけ早くミラニアから避難するんだ」

 「何言ってんのよユース? 私、明日とうとう孤児院を旅立つのよ。ついに拾い先が決まったのよ!」

 「な、なんだって?」ナーサはサンドロの本性を知らない。

 「……そうか、おめでとう」ナーサを怯えさせてはいけない。

 ユースはこれ以上ナーサに何も伝えず、通話を切った。そしてエリーの肩をつかむと、ものすごい勢いで揺さぶった。

 「エリー、しっかりしろ、話を聞いてくれ! 聖ミネルヴァ孤児院にいる親友が明日旅立つそうだ!」

 エリーは我に返った。

 「そうなの? じゃあすぐにミラニアに向かわないと!」

 「まあ待て、まずは夕食を食べよう。早く行かないと予約に間に合わなくなっちゃうよ」

 「あ、そうだったわね! いやー、マルゲリータ楽しみね~!」

 「急に元気でたね……」

 「助けてくれたお礼に私が奢るわ!」

 「言ったね?後悔しても知らないよ……」

 そこには誰が見ても恋人に見えるほど、心の距離の近い男女のすがたがあった。



第十一話 作戦会議 に続く

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