第7節 17歳

「まだ日出てないじゃん」


 夕飯は、私の体の気をつかって、卵がゆだった。少し薄味だったけど、それを完食して、クロノさんに治癒ちゆ魔法をかけてもらったおかげで、姿勢を上げることが補助なしでできるまで回復した。

 馬車で家まで移動した。満腹だからか家に帰ったからか、眠くなってすぐ寝てしまったらしい。


 私の布団の隣には、如月とアミがぐっすりと眠っていた。私も二度寝しようかと思ったけど、寝すぎて眠気がこなかった。

 歯を磨かないで寝たからか、口の中が気持ち悪くて洗い場にいく。広間から、薄っすらと灯りが戸の隙間から、見えた。


「早いね」

 戸を開けると、クロノさんが椅子に座っていた。


「おはようございます。寝すぎて寝れなくなったんですよね」

 クロノさんの対面に座る。

 クロノさんは、おはよう、と返して机の上に置いてある書類をまとめた。


「朝から仕事ですか?」

「少しだけね。こういうちょっとした時間にでもやらないと、まわらないよ」

「大変ですね」


 ほんの少し間ができて、その間に歯を磨きにいった。歯を磨き終えて席に戻ると、机の上にお茶が2つ置かれている。


「ありがとうございます」

 どういたしまして、と彼は微笑ほほえんだ。

「少し話そうか。出勤までまだ余裕あるし」

「なんですか、怖い。出てけって言うんですか?」

「そんな失礼なこと言うなら、出て行ってほしいね…」


 クロノさんは、笑って話を続ける。

「君は最初ここに来た時より、素がでて良かったよ」

 そうですか、と受け流す。私自身そこまで変わった気はしなかった。


「ほんとほんと。君は最初堅苦しくなってたし、静かな子だと思っていたけど。結構元気な子でビックリしたよ。青空教室の教員を集める件が特にね」

「その節は、本当に失礼しましたぁ!」

 机に頭を当てて、謝る。


「アミくんも如月くんも変わったね」

「確かに変わりましたね」

 3年近く関わったからこそ、変わったのがわかる。

「アミくんは、結構粗雑な子だったな。自分達より小さな子ども達と関わったからか、人の気持ちを察するようにはなったかねぇ」

 クロノさんは笑って、まだ忖度とかできないけど、と付け加えた。


「成長はしましたね。如月はどんな感じですか?」

「変わったというか、優花くんと同じように素なのかもだけど」


 クロノさんは、あごに指を組んで間を開けて

「人との距離感の掴み方が上手くてビックリしたよ。セシルとすごく仲良くなったのも驚いたけど、ナミタと仲良くなったのが特に驚いたねぇ」

「それには、私も驚きました。私ナミタ苦手だったので、まじで如月がここまでコミュ力、人と仲良くなるの上手いとは思いませんでした」

「ナミタは部族関係なく、あまり人付き合い上手い方ではないからね。良い子だけど」


 私とクロノさんは、アミのこと、如月のこと、セシルのことを続けて話した。色々聞けて面白かった、思い出話だったり、それぞれについてのことをいっぱい話した。

 クロノさんは「時間だ」、と仕切りに言って席を立ち上がった。


「あまり無理しないでね」

「はい?」

「君は、意外と頑張り屋さんだから、背負い込み過ぎるだろう」

「意外って…」


「学校作ることは、できたからもう無理して学校のことしなくていいよ」


 クロノさんは、青空教室か、と補足した。

「え、ちょっとどうしたんですか」

「君たちは元の世界にいつか、帰るんだ。なのに、そこまでこの世界のためにしなくていいんだ」

「私達は帰るかもしれないですけど」

「優花くんは、今17歳だよね?」

「そうですね」

「僕が17歳の時は、支度もなかった村長、親の仕事の手伝いをしてたんだ。ほんと誰でもできるような雑務だよ」

 ため息をついた。残念というより悲しいなため息だ。


「こんな知らない土地に来て、戦争や争いとは縁がなかっただろうに、怪我までして君たちには、17歳らしい生活を送ってほしい。元の世界に帰るれるように手伝うからさ」


 私は何も言えずに、ただクロノさんが広間から戸を開けて、出て行った姿を見送った。

 クロノさんが集会所に行ってからみんなが起きるまでの間、私はクロノさんが言ったことと如月が言ったことを思い出した。


 如月は「この世界で恋愛をしない方がいい」、と言った。

 クロノさんは「元の世界にいつか、帰るんだ。この世界のためにしなくていい」、と言った。


 私には、どれも理解できそうで、できなかった。

──せっかくこんな経験したんだから、ここでしかできないことしたいに決まってんじゃんん!


 背もたれに寄りかかって、ふたりの言う通り大人しくした方がいいか、自分がしたいようにした方がいいのか悩んだ。

「おはようございます」

「セシル、おはよぉ、お!」

 背もたれに寄りかかりすぎて、後ろに倒れてしまった。

「大丈夫ですか?」

「大丈夫じゃないよぉ」

 物理的にも、精神的にも頭が痛い。

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