第8節 人物画
歌川視点
「よし、これで完成だな」
アミが描いた垂れ幕を見ると。 『青空教室』、と可愛いく丸っこく書かれた字体に、カラフルに赤青ピンクなど様々な色を使って、長い垂れ幕に絵も書かれていた。
「いつの間に、こんなの作ってたの?」
アミに聞くと、お前の傷が完全に治るまでの間に作った、と答えた。
「2,3日で作ったんだ。あと、部屋の仕切りも作ったしな」
アミの見た先を見ると、木の板が等間隔に置かれている。一応授業に集中してもらうために、仕切りが作られたみたいだった。
「結構私が休んでた間に、話進んでたんだね」
「お前が教師集めたから、後はうちらが、やるしかないべ」
「私が勝手に集めたのに、そんな気にしなくて良かったのに」
「もう済んだことだし。今はこの後に来る人達の対応話し合おうぜ」
参加者が多数いたため、7歳から12歳の低学年組と13歳から15歳の高学年組で、それぞれ30人ずつに抽選で決めたらしい。
その子ども達が今からもうすぐ来るから、名前を名簿で確認して席に案内するのが、今のところの私達の役割だ。
「そういえば、如月は?」
「ナミタ探しに行ったな」
ほんとナミタと仲良いな、と内心感心した。
* * * * *
如月視点
村の中心部に比べて、草木が手入れされていなくて、木造の家が、ところどころに放置されていて、家にも草が
自然が濃いからか、草と土の匂いがしっかりする。
カラ、ボト、と物音がする。一定のリズムじゃなくて、何か作業しているのが音から推測できた。
音の方向へ、進むとピンク髪をポニーテールに結んだ女の子の姿が見えた。その子は、土の壁に絵を描いている。
「見つけた」
ナミタは、あたしを「ゲッ」、と嫌そうな顔をしながら言った。
「なんでここ知ってんの」
「ヨハネちゃんから聞いた」
ナミタはハァ、と言って絵を描き続ける。
あたしは、ナミタが絵を描く姿をジッと見つめる。背筋をピン、と伸ばしたり、はたまた猫背を極めたみたいに、壁と顔がぶつかるんじゃないかってくらい近づけたりした。
それを見て、あたしは静かに笑うと
「今笑った?」
「人が集中してる姿ってちょっと面白いよね」
「死ね」
ナミタは、舌打ちして、また絵の方に顔向ける。
ふと、2,3分たってから
「あんたなんで、あたしのこと助けたの?」
絵を描く手を止めずに聞いてきた。
「子どもがいるって聞いたら、助けるに決まってるよ」
「あんたの達のこと馬鹿にしてたんだから、私をほおってヨハネだけ助ければ良かったのに」
「それは一瞬考えたかもしれない。でも、あたしはここで変わりたいの」
「なにそれ、キモ」
ナミタはあたしを見ながら
「でも、お前1人じゃ助けられないか。だって、クロノがいなかったら死体がもう1つ増えてただけだし」
「うん、その通りだね」
あたしの態度が気に入らなかったのか、右目を一瞬細くしてにらむ。
それからあたし達は静かにそれぞれがやりたいことをした。
ナミタの絵は、現実調でゴッホとかそこらへんの現代美術らしい絵を描いている。いつも通りドクロを描いているからもったいないと思う。
「どこで絵習ったの?」
「独学」
「独学でここまで上手いの」
「お前より才能あるし、できることがあるから」
「その自画自賛っぷりアミに似てる」
小馬鹿にしたように言うと「うっさい」、と怒鳴られた。
「ナミタはさ、花とか人物画は描かないの?」
「これ以外描くつもりは、ない」
即答だった。一拍置いて
「お前のこと少し描いてやるよ」
絵が完成したのか、壁から離れて絵の具がついた筆やパレットを、バケツに入れて水で洗い落としている。
「どうしたの、急に」
人のこと馬鹿にしたかと思いきや、あたしのために絵を描くなんて脈絡もなさすぎて、ビックリした。
「今度王様の前で絵を描くから、その練習。別にあんたに助けられたお礼じゃないから」
ツンデレ? ってやつか。よく歌川があたしに対してよくわかんない単語を言ってるから、どれがどの意味か覚えてられない。
「じゃあ、お願いしようかな」
あたしが青空教室で、手伝うのは午後だからまだ全然時間がある。
近くにあった大きな石に座り、ナミタと向かい合う。
ナミタは、ポケットからトーテムを取り出した。念じるみたいに、目を閉じた後、あたしとの間に土の壁が出てきた。さっき描いていた時に使用した壁より小さく、肩幅くらいの幅で高さも、座った時に胸の辺りまでくらいの大きさだ。
「便利だねぇ」
ナミタは、しゃべんないで、と言った。
あたしを見ているのか壁を見ているのかわからない。実際は交互に見ているのかもしれないけど、誰かと長時間正面に向き合うというのは少し恥ずかしい。
「こうやって、ナミタと顔見合うの初めてだね」
「黙ってて」
「はいはい」
ナミタは、筆を細かく何度も動かしている。
──黙れって言われても退屈。動いたら絶対怒られるしなぁ。
「退屈だから、少し話していい?」
ナミタは、少し間を置いて
「いいよ」
と、答えた。
さすがに、しゃべることくらいは許してくれた感じだった。
「好きな人いるの?」
「なっ、はぁ!?いるわけないでしょ」
「なになに。そのあわてよう」
「笑うな、キモイ!」
顔を赤くして、筆を動かすのをやめているあたり好きな人がいるみたいだ。
「相談のってあげよっか。年上だから」
「いないって。お前はいるの?」
「いたけど…」
あたしが話す言葉を
「お前意外と女々しいんだな」
「なにそれ、馬鹿にしてるの? 褒めてるの?」
「お前のそういう人間臭いところ好きだよ」
「え?」
ナミタは、自分が言ったことを思い出して顔を赤くした。
「なんでもない! お前なんか嫌い!」
「ほんと可愛いなぁ」
「ニヤニヤするな! キモイ! 動くな!」
お昼の鐘が鳴った。ゴンゴン、と何度も音が
「あたしもう行くね。今度続き描いてもらってもいい?」
ナミタは絵を描いてた土を
「どこ行くの」
「学校の手伝い行くの」
わかった、と道具を片づけてながらナミタは言った。
ナミタとお別れをして、また草木をかき分けながら進む。
金髪の男がいる。
確かムルラックくんと一緒に、学校のガレキ撤去手伝ってくれた人だ。
「どうしたの?」
「なんでもないっすよ! 如月さんこそどうしたんですか?」
友達と会っていた、と答え「学校手伝うからもう行くね」、と言ってこの場を去ろうとしたら「待ってください」、と声をかけられた。
「抜け道があるんで教えるっすよ」
「ほんと? ありがとう」
チャラそうな子は笑って、あたしの前を歩いて案内してくれた。
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