第4節 猫とイラストと招待
今日の当番は、家の掃除だったからスムーズに終わって、買い出しを終えた如月と一緒に、学校跡地のガレキ
如月と黙々と作業したからか、青空教室ができるほどの広さと
「あのさ」
如月の方を見ると、細かいガレキを手に持っていた。
「なに? 私のことでも殺す気?」
「違うって」
「ガレキを片手に持ってたら、誰だって勘違いするって」
「たしかに」
如月はガレキを、ガレキの山に放り投げて
「なんでこの世界に来たんだろうね」
悲しそうな顔、と一瞬思ったけど目を見ると疑問をもったような顔をしていた。
「どうしたの? 急に」
──腕の後を気にしているのかな。
「物事何でも理由はあるでしょ、だからあると思って」
「そんなのわかんないよ。なんで生きてるのってくらい、哲学に近い質問だと思うよ」
「生きてる理由と違って、この世界に来たことは理由くらいあるでしょ」
「あるのかもしれないけど、わかんないよ。私だって知りたい」
私達は、もうここに来て半年近くたったなのに、何も進展がないから不安になる気持ちもわからなくは、ない。
「教えてやろうか?」
誰かの声がした。
周りを見ても、如月しかいない。
「誰?」
「もういるだろ」
しゃがれた声の方向を見ても、誰もいない。
「出てきなさいよ!」
如月は、地面に落ちていた木片を手に取った。
「乱暴な奴だニャ」
「「ニャ?」」
「おっと、うっかり猫言葉が出てしまった」
「ふざけてんの? 早く出てきなさいよ」
「もういるが」
足もとに、1匹のミケ猫が歩いてきた。
「この猫どこかで」
かがんで、ミケ猫を見て思い出す。
「掃除している時に、あたしの胸馬鹿にした奴だ…」
如月は明らかに、猫に向けるような顔をしていなかった。嫌いな食べ物が食卓に、並んでいた時の顔に近い。
「覚えててくれたか、貧乳娘」
「このクソ猫がっ!」
猫を今にも殴ろうとしている如月を抑える。
動物愛護団体に、訴えられたらたまったもんじゃない…。
「それで、何をわかっているの?」
体育座りをする。如月も私の横に体育座りした。猫は、私達の前で鎮座している。
「そうだったな、本題に入ろう」
「なんで、あたし達がここに来させられたの?」
「どこから話すべきかニャ」
「ニャーニャー、うるさいな。早く言いなさいよ」
「しょうがないだろ、接続の問題で猫の意識が戻ってくるんだから」
ミケ猫は、後ろ足で頭をかいて
「結論から言うと、王国が君たち転移者を召喚した」
淡々と、言った。
転生みたいに、私達は死んだわけじゃないからビックリはしないけど、あっけなく真相を言われると、なんだか腑に落ちない。
「どうしたんだ? お前らが聞きたかったこと言ってやったんだぞ」
「王国って、アンダルシア王国だっけ?」
猫の頭を撫でながら聞く。ふわふわしてて気持ちいい。
「ああ、その王国だよ。ここら辺で、王政で牛耳っているのはアンダルシアくらいだろう」
「なんで、私達を召喚したの?」
「たまたまじゃないか?すまないが、君たちを選んだ理由までは、わからない」
如月はため息をついた。
「それじゃあ、ここに来た理由がわからないじゃない」
「如月、君はさっき言っただろうに。物事全てに理由があると」
「言ったけど…」
「人が生まれた理由なんて、大抵はあとから恋するためだの。何かを達成すためだの言っているが。本当は人を繫殖するためだろうに」
「何が言いたいの?」
如月は、首を傾げた。赤い髪が、ゆらゆらと揺れる。
「理由なんて、自分で決めれば良いんだよ。本当の理由が、わかろうがわからなかろうが、君がここに来た理由をつけるんだ」
ミケ猫は、如月の足に前足を乗せて
「君は、なんでここに来たと思う?」
如月は、目を閉じて、深く考えているみたいだ。「あたしは」、と口を開いた。
「あたしは、この世界を変えるために来た、と思う」
「そうでなくっちゃ」
私は、如月がこんな大きなことを言うとは、思っていなかった。彼女は、高校からの付き合いだけど、リアリストというか物事を、客観的に見ていて大人びた発想の持ち主だと印象がついていた。
「王国が私達、異世界人を転移させたとして、その理由がわからないよ」
私達がここにいる意味がわかったところで、本筋の転移させた理由がわからないと納得できない。
「それはニャ。意識が」
ミケ猫の声は、猫の音声としゃがれた声が交互に、混じったように聞こえた。
「最後に言う。王国に行って、王様に聞け」
「それだけ? ちょっと!」
ミケ猫を持ち上げると、「ニャー」って鳴いた。
私は、ふ、と息を吐いて如月を見た。
「とりあえず、わかることわかったし、次の目的、は決まったね」
「ええ、王国に行こう。それで、日本に帰る」
如月の手を繋いで、家に戻った。
* * * * *
「ダメだよ」
「え?」
クロノさんは、お茶の音を立てながら飲んだ。
「なんでですか? 仕事で行くからですか?」
「みんな寝てるから、静かにしてね」
すみません、と小声で謝る。
「それもあるけど、道のりが危険なんだ」
クロノさんは、君を取り出して図を書いている。山みたいな半分まで書かれた楕円の内側に、家を。楕円の外側に大きな丸を書いた。
「この丸はアンダルシア王国ね。イムルからアンダルシアまで、行くのは山を超えないといけない。王国で1番近い村だけどね」
「熊とかが出て危ないんですか?」
「それもあるけど」
クロノさんは、サッと山の端と端に丸を書いた。
「2つ大きな部族が存在している、まぁ他にも部族は住んでいるけどね」
「部族が危険ってことですか」
「特に、コネ族が危険だな。ヌイ族は内部分裂してるのか王国に従う側とそれに反対するって感じ」
「はぁ、危険があるなら仕方ないなぁ」
「手跡の件と一緒に聞いておくよ」
「そういえば、なんでクロノさん行くんですか?」
「村の状況を教えたり、売上の上納だね」
日本史で習った大名に米を納める話みたいだなぁ(ほとんど内容忘れたけど)。
「あ。あとナミタも行くな」
「え?! ナミタも?なんで!」あの陰キャヤンキーが連れてかれんだ。
「声、声」
クロノさんは両手を下に下げて、声のボリュームを下げろ、みたいなジェスチャーをした。
「国王に招待されたんだよ」
「なんかやらかしたんですか…? 村に常駐してる兵士ボコったとか、部族の村1つ燃やしたとか」
「あの子をなんだと思ってるの…」
「村に常駐してる兵士の中で、ナミタの落書きが上手いって評判になったのを、国王が聞いて気になったらしいよ」
確かにナミタの絵は不気味なのが多いけど、絵が上手い。
「いいなぁ、私の萌え絵もこの世界に理解されてれば…」
一度みんなの前でアニメのキャラを描いたら、「人の目はこんな大きくない」、と言われて泣きそうになった。これが表現者の苦労か…。
──招待?
「クロノさん」
「なんだい?」
「招待されれば、いいんですよね?」
「ああ、いいよ」
──いいこと思いついた。
「なんか怖い顔してるね…」
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