第2.5節

 男の子達が、手伝ってくれたおかげで、掃除は早く終わりそうだ。

 やっぱり、こういう力仕事は男の子がいると、助かるなぁ。


 チャラそうな子は意外と真面目に働いてるし、真面目そうな子もガレキをせかせかと運んでいるし、ヒョロヒョロな子もがんばっている。


「結構力持ちだね」

 ヒョロヒョロな子は、私の顔を見た後にまた見返した。

「そうですか、ね」

 腕を触ると、筋力があるのか硬かった。

──骨が細いから瘦せて見えるけど、実際は筋肉あるんだなぁ。


「男の子だぁ」

「え?」

 男の子は、顔が赤くなっていた。

 ──こいつ私と同じ童貞だ。シンパシーを感じる。


「痛!」

 おしりに衝撃がきた。

 後ろを振り向くと、如月がいた。ムスっとしている。


「なに?」

 如月は、私の耳元でささやいた。

「勘違いさせるようなこと言わないの」

「そんなつもりは」


 ため息をついて

鈍感どんかんだなぁ。男子は少し話かけられると、その気になっちゃうんだから」

 どの口が言っている。最初話かけられたとき、顔赤くしてたくせに。


「あと、恋愛はこの世界でしない方がいいよ」

「恋愛? なんで、急にそんな話題になったの」

 如月は、「あんたのさっきの行動見てそう思ったの」、とため息をついて続けて話す。

「いつかは、あたし達日本に戻るんだからさびしくなるよ」


「そういえば、日本ってどういうところですか?」

 真面目そうな子が私達の間から、顔を出して言った。


「びっくりした!」

「盗み聞きとは、エッチだねぇ」

 私がそう言うと、男の子は慌てたように、「違います」、と言った。

「ただ気になっただけですよ、皆さんが日本? っていう他の世界から来たって村長から聞いたので」

 デロルの一見があってから、私達は一気に注目の的になった。


 魔法を使えないのに、どうやって倒したんだって、村中のみんなに聞かれた。倒した本人であるアミは、トーテムを使ったのと相手が舐めていたからこそ勝てたって、謙遜けんそんしていた。

 それが、裏目に出たのか逆に興味の対象になったらしい。


 クロノさんは、私達が異世界から来たことを暴露ばくろした。部族なんじゃないかと不安視されたこともあったけど、クロノさんの人柄かすぐに、受け入れてくれた。


「日本はご飯が美味しい国かなぁ。色々なご飯がどこでも食べれるんだよ。ラーメンとか寿司とか」

「ラーメン? 寿司?」

「粉を棒状にして、スープと一緒に食べるみたいな?」


 隣にいる如月に確認する。如月はジャージのポケットから、メモ帳とペンを取り出し、絵を描いて

「これがラーメン。ツルツルしてて、美味しいよ。今度ある物で作ってあげる」

 男の子は、「へぇ」、と感嘆の声をあげた。


 寿司の説明をすると、ラーメンの時より驚いた。

「魚を生で?! 狂っている!」

 外国人(異世界人)特有の反応だな。


「食べてからその反応してほしいね!」

「寿司は衛生面あるから食べさせて、あげられないか」

 如月は仕方なさそうだった。


「お前ら何サボってんだよ!」


 アミが大声を出す。アミの後ろには、ガレキがタワーみたいに積み上げられている。

「どの口が言ってんの」

「うっせー」

 アミは、チャラそうな子とヒョロヒョロな子のもとに行った。

「逃げんな! 手伝え!」

 如月が怒鳴ったのは、聞こえていなさそうだ。


「そういえば、なんで私達に声かけたの?」

 ナンパだと最初は思ったけど、尊敬の眼差しを向けてきたから何かしら理由がありそうだ。

 真面目そうな子は、間を空けて話す。


「正直、俺らアミさん達がデロルを倒したの信じてなかったんですよね」

「まぁ、信じられるわけないよね。魔法使いにヤンキーが勝つなんて」

「でも。話しかけた時の気迫で本当なんだって、わかりました」

「アミは熊だって倒せるんだから!」

「なんで、あんたがほこらしげなの」

 如月は、冷静にツッコむ。


「はは、俺達みたいにまだ信用しきれてない人は、たくさんいると思うので気をつけて」

 真面目そうな子は、笑った後真剣な顔つきになった。

 他所者を簡単に、信用しろというのは難しい。


「逆説的に、信用している方も多いですよ」

 セシルは、両手にアミとチャラそうな子を引きずっている。


「たまに、市場に行きますと歌川さん達のことめられますよ」

 子どもに親切にしているとか、日本の子は受け答えがしっかりしているとかとか、色々と補足して説明してくれた。

「そうなんだ」

「それよりも、ある程度片付いたのでご飯食べましょう」

 やっと休憩か。男の子が手伝ってくれたから、スペースができた。青空教室はできそう。

 服についた土煙の後や小さな木片を払う。


「手伝ってくれてありがとうね、えっと」

「俺の名前は、ムルラックです」

 真面目そうな子は、手を差し出した。


「歌川優花、よろしく。敬語じゃなくていいよー、この馬鹿にも」

 手を取り、アミの方を見る。

 アミはおしりについた汚れを両手で、パッパッと払いながら

「青空教室が始まったら、しごいてやるからな!」

 悪だくみしてそうな顔で言った。

「青空教室参加するから、よろしく」

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