第9節 ナミタ

アミ視点



 如月と一緒に家の掃除をしているけど、ほぼ毎日掃除しているから埃とか特になくて退屈だな。


「なぁ如月―」

「なに? ふざけるのはなしだからね」

 如月は広間から見える庭の手入れをしている。


「しりとりしようぜ、りんご」

「ゴーギャン」

「県の名前で山手線ゲーム、神奈川」

「……」

「冷たくね?」

 庭に出て、怒る。

「ふざけるのなしって言ってるじゃん」

「わかったよ」


 広間に戻るとピンク髪の女が、立っていた。

 この前うちらに、部族がなんだとケンカをうってきた女だ。


「まだこの家いたの? お前ら暇ね」

 食器の洗い場にあるグラスや皿を洗いながら、ピンク髪の女が言った。

「まだお前もケンカ売ってんのかよ。クロノさんにうちらは部族じゃないって言われなかったか?」

 ぞうきんで家具を拭きながら言う。


「はっきりは言ってないでしょ、バカなの?」

「因数分解できんのか? できないんだったらお前はバカだな」

「本当に馬鹿なのね、自分ができることでしか優劣測れないようなら馬鹿の中の馬鹿よ」


「は? ていうかお前なんなんだよ、てめえの過去に何があったかわかんねぇけど、うちらは関係ないだろ」

 作業の手を止めて、ピンク髪の女の前に立つ。

「殴るの? いいわよ、殴ってみなさいよ。今回はあの青髪のブスがいないから殴られてあげる」

 ピンク髪の女は水洗いをやめて、手についた水をうちの顔に飛ばしてきた。


「調子乗るのもいい加減にしろよ」

 胸ぐらを掴み壁に身体を押し付ける。

「殴りなさいよ。まぁできないんでしょうけどね。腰抜けだから」

「ちょっと何やってんの、アミ」

 如月がうちとピンク髪の女の間に、割ってはいった。


「こいつが先にケンカ売ってきたんだ」

「だとしても、手を挙げるのは良くないでしょ、ナミタもあたし達も自分達で、過ごしていけるようになったら出ていくからさ、それまで辛抱しんぼうしてよ」


「……の」

「え?」

 うちと如月には聞き取れなかった。

「わたしの名前を気安く呼ぶな!」

 ピンク髪の女は後ろにあった包丁を取った。


**************************


「アミ、何ぼーっとしてんの?」

 潤美がうちの顔を横から見る。

「ん、わりわり。掃除の続きしねぇとな」

 倉庫の入り口の前で背伸びして倉庫の中に入る。


「ちょうどいいところに」

 如月がバケツを持ちながら近づいてくる。

「嫌」

「まだ何も言ってないでしょうが。バケツに新しい水入れてきてくんない?」


「ええ……。如月が行けばいいじゃん」

「あたしは引き続き掃除するから。アミは暇そうなんだから行ってよ。なんなら、そこで隠れている方も連れってもいいよ」

 如月が見つめる方を見ると大きな木から顔を覗かせている歌川がいた。


 結局うちと歌川がバケツを2つ持って水を替えに行くことになった。めんどくさいけど、怒られるの嫌だし、行くしかない。


「グリコ!」

 うちがパーで、歌川がチョキだった。

 先に水汲み場まで行った方がバケツを持たないで行けるというルールで、グリコをやっている。


「ち・ば・ま・り・ん・ス・タ・ジ・ア・ム」

「ちょっと待てや!」

「なに?」

「チョキで勝ったんだから、チョコレートだろうが!」

「なにそれ? ローカルルール?」


「全国共通だろ!チョキで勝ったんだから、チョコレートは」

「それ地球でのルールでしょ? 異世界においては、チョキで勝ったら千葉マリンスタジアムだから」

「ほんとダリいな」

「ごめんねー、私みたいな女の子はメンヘラだしなー?」

 こいつメンヘラって言われたこと気にしてやがるな。


 歌川が倉庫の壁に沿うようにして何かを見ている。

「アミ、一旦隠れよ」

 うちも見習って覗いてみると、ピンク髪の女が倉庫の壁に何かやっていた。

「落書きしているねー。結構絵上手い。私の次くらいに」

「お前が得意なのはアニメ系の絵だろうが」

 ピンク髪の女が描いているのはグラフィティ系の絵だった。ドクロを描いているが結構リアル調で怖く感じる。うちらへの嫌がらせだろう。


「カッチーンアニメとか、漫画馬鹿にしてるの?」

「別に馬鹿にしてねぇけど、あの壁の絵と比べると漫画とかの絵はショボく見えるだろ」

「はあぁぁあ!? 表現の違いでしょ!」

「なに…」ピンク髪の女と目があった最悪だ。

「落書きしちゃダメだよー」

 歌川がうちの後ろに隠れながら指摘する。


「お前らが来るまでわたしがここで絵描いてたんだから、わたしの勝手でしょ」

 使った道具を片付けてながら答えている。

「うちは昨日のこと気にしてないからな」

「あっそ」

 ピンク髪の女は道具一式を持ってどこかに行ってしまった。

「昨日のことって?」


 歌川はうちの前に出て聞いてくる。

「昨日アイツに包丁で殺されかけた」

「え。ほんとに!?」




「如月!」

 とっさに、如月を移動させた。

 左腕が痛い。左腕を見ると切り傷ができていた。


「何やっているんだ!」

 広間にクロノさんが大声をあげて、ピンク髪の女からナイフを強引に取り上げて、ビンタした。


「わたしは…ただ…」

 ピンク髪の女は唇を細かく震わせながら、何か言おうとしている。

 クロノさんの身体を押しのけ広間から出て行ってしまった。

「アミ、ケガはないか」

 うちの手を取り、クロノさんは怪我の具合を確認する。そこまで深くないな、と呟いた。


「ヒール」

 うちの左腕の周りを緑色の光が包む。

「本当にすまない。君の親御さんに顔を見せられないな。僕がしっかり言っていれば……」


「気にしなくっていいすよ! これくらいへの屁ですわ! 金属バットで腕折られた時より全然ましだわー」

「あの。なんで彼女はあそこまでうちらのこと、部族のことを目の敵にしているんですか?」

 如月が床に落ちた包丁を広い、水桶に投げ入れた。


「前も言ったと思うけど、ナミタの家族は部族に殺されてしまったんだ」

「だとしても、殺したのはうちらじゃないでしょ」

「そんなの彼女も知っている。ただそれほどまでに部族に対しての憎しみが強いんだ」


 うちは親を殺されたこともない。ましてや周りのダチすら誰かに殺されたことすらないから、アイツの気持ちを理解することはわからない。

「またこんな事があったら彼女を別の場所に住まわすから、それまでナミタと接触するのは避けてもらってもいいかい?」


 クロノさんは続けて

「君たちを傷つけた時点で別の場所に、住まわした方がいいのはわかっている。ただ済まない。

僕も親と妻を部族に殺されているから、彼女の気持ちはわかる。もう少しだけ時間を欲しい。絶対起こさないように説得するから」


 最後までセリフを言った後に、クロノさんは静かに地面に頭をつけた。




 昨日あったことを説明したら、あごに手を当ててうなっていた。

「私は正直ナミタの気持ちはわからなくはないっていうか、たぶん私も大切な人を傷つけられたら関係してそうな人を傷つけちゃうと思う」


「うちはわからなんわ。やったやつじゃないって、冷静に考えればわかるのに、他の人にまで迷惑かけるのはおかしいじゃん」

「イライラしたら八つ当たりしちゃうことあるでしょ。それと似ているというか。うー難しい!」


 歌川は誰かの気持ちを考える優しさはあって、とても良い奴だけど相手の気持ちを言語化するのが下手だな。


「言いたいことはなんとなくわかったわ。うちは別に気にしてないしアイツもりてちょっかい出さなくなってた…と思うしな」

 クロノさんが頭を下げたんだ、うちがこれ以上とやかく言う必要はない。


 壁に落書きしていたから、嫌がらせかもしれない。

 壁に描かれた絵を見る。ドクロが羊を絞め殺している絵だった。

 めちゃくちゃ絵が上手い。素人目でもわかる。


「ほんと上手な絵だねー」

「あれ? 自分の方が上手いんじゃないんだっけ?」

「そりゃ私の絵の方が上手いですよ。パースを把握してかけてますし」

「もし学校なり学ぶ場があればこの絵はさらに上手くなるし、誰かに発見してもらえる機会が増えるから、どうにかしてあげないとね」

「早く行こうぜ、如月に怒られちゃう」

 うちと歌川はバケツを持って急いで向かう。

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