第8節 クレア
歌川視点
買ったものを家において、如月が着替えるついでに水を浴びるから先に行って、と言われたので先に倉庫へと向かった。
10日近くこの世界、この村に住んでわかったが、日本の春みたいに暖かい。セシルに季節について聞いたら、季節は基本春(この暖かい気候)しかないらしい。
私は春が一番好きだから、うらやまく思う。今こうやって、目の前にちょうちょが飛んでいて穏やかな気分になるし、散歩にもちょうど良い気温になっている。
河川敷の石をいくつも積み上げた堤防に上がり、川を見ながら、歩いていると黒い髪と金髪が虎の柄みたいに混じった男の子が歩いていた。
どんどん歩いていくと、姿がハッキリとわかり見たことのある少年がいた。少年は私と同じように、歩いていた。川を見ているのかもしれない。
確か名前はクレアくん、だったはず。
「おーい。クレアくーん!」
呼び止めて、クレアくんの場所まで行く。
クレアくんは私の声に気づいたのか、止まって振り返った。
クレアくんの服装は、この前あった時と服装は変わっていた。
「これからどこに行くの?」
「…どこにも」
最近は17歳になったからか、小学生や幼稚園児を見ると可愛くてニマニマしちゃう。これが母性本能って奴か!
「そっか、軽く一緒に散歩しない?」
クレアくんは小さく頷いて私と横並びになって歩く。
「…なんで僕の名前わかるの?」
「セシルってわかる? 村長の娘のセシルから聞いたんだー。私、歌川優花ね、よろしく」
手を出したが、クレアくんは私の手を取らずに、質問した。
「他にも何か聞いた?」
クレアくんの顔がこわばったのがわかった。
「気悪くさせてごめんね。勝手に自分のこと
「大丈夫」
「また、折り紙を折ろうね!私あれから折れる折り紙増えたんだー」
「うん」
「…」
「…」
き、気まずい。私はあまり人とフリーで話すのは得意じゃないから、こういう時何を話せばいいのやら。
ふと最近始めた学校の掃除を思い出す。
「最近ね、学校作ってるんだー、って言っても学校のもとになる倉庫を掃除してるだけなんだけどね」
「なんで学校作ってるの?」
「んー?」
なんで、と言われると私は答えるのに困った。学校を作ろうときっかけになったのはクロノさんだし、それを手伝っているだけだから。
あと異世界から来たっていうのを口止めされている。変に話すと、ナミタみたいに拒否反応を起こすかもしれない。
「なんでだろうね。そんなすごい理由はないかなぁ」、作ろうとなったきっかけのクロノさんに頼まれて嫌々やっている、と付け足した。
素直に答えたら、クレアくんは笑ってくれた。歯がしっかり見える元気な笑顔だ。
──ショタの笑顔はやっぱりいいなぁ。
「なんか目が怖いよ」
「ソウカナ、クレアくんは何か最近始めたことある?」
「始めたことは…お日様にあたることかな」
「なかなか渋いね。楽しい?」
「楽しい、暖かいからたまに寝ちゃう」
最初会ったときと比べてクレアくんの口数が増えているから、心を開いてくれているのかもしれない。
「あれが、これから学校になる建物だよ」
倉庫が見えてきたので、教えてあげる。木造で木が黒ずんでいて薄汚れている、大きな長方形の建物を指をさす。
「あれががっこう」クレアくんは棒読みで呟く。
どんな気持ちでいるのかわからないけど、興味を持ってくれていたら嬉しいと思った。
「うん、それであれが私の友達」
道の向こうを歩いている人を指さし教えてあげる。
「あれ?」
2人で指さした方向には、走って近づいてくるアミがいた。
アミは、「人のこと何指さしてんだよ」、と私の指を払い続けて話す。
「如月は? てか、この子誰?」
「如月は今家で水浴びてるよ」
「あいつ、長すぎだろ」
「まぁまぁ女の子なんだから仕方ないでしょ」
「なにそれ。うちが女の子じゃないみたいな」
アミは、しゃがんでクレアくんに話かける。
「お? なんだアミちゃんに惚れたのか? でも、ごめんなうち彼氏いるんだわ」
「違う」
「アミ彼氏今いないじゃん」
アミはひどい、と言い笑う。
「うちは江藤アミ。よろしくな」
アミはクレアくんに手を差し伸べる。
「僕はカンガネル・クレア、よろしく」
「なんで2人で歩いてんだ?」
「たまたま会って倉庫に行くまでの間一緒に歩いてるの」
「クレアの家はこっちなのか?」
──こいつ、この前クレアくんについて私とセシルが話していたこと聞いていなかったな。
「暇だからクレアくん歩いてるんだよ、ねー」
クレアくんの地雷を踏む前にフォローする。
クレアくんはうなずいてくれた。
「暇だから歩くかー、うちは暇だったら友達と遊んじゃうからどこが楽しいのかわかんね」
「アミさんもったいないですね。私も結構散歩ニストなので散歩の楽しさを教えてあげましょう」
「なんだよ、それ」
アミは笑い、そのまま質問を続ける。
「クレアは友達いるのか?」
その質問はアカーン!! 友達がいようといなかろうと友達という定義が曖昧だからその質問は絶対ダメでしょ。
「クレアくんにとっての友達は私だけで充分だよ」
「なんなんだよ、さっきから。メンヘラか?」
「メンヘラじゃないですぅー。覚えたての言葉使うのやめたほうがいいよ?」
「メンヘラって?」
クレアくんが不思議そうな顔して聞いてきた。
「メンヘラはな、こういうめんどくさい女の子ことを言うんだ」
アミは私を指さしクレアくんの耳元で言う。
「違う違う、メンヘラは麺を食べていないとメンタルが弱くなる人だから」
「それこそちげぇだろ」
「そういえば、クレアの家はどこらへんなんだ?」
この流れはまずい…。アミが絶対地雷を踏むやつだ。
「…今はここの村長の家に住んでる」
「て言うことは、うちと同じじゃん。一緒に飯食べようぜー」
「アミ、もうすぐで倉庫着くし、ここで別れようっか」
無理やりでもこの話しを途切れさせたい。
「まだだろ、クレアももっと話したいよなー」
クレアくんはうなずいた。
「ん? でも、セシルパパの家に住んでいるってことは…。」
アミが何かに気付いたみたいだ。
その何かに気付いた後が大変だ。せっかく私がクロノくんとの信頼関係を気づいて、クロノくんに名前以外のこと聞いていないかって言われたときに無理やり話しを途切れさせたのに何やってくれているんだ。
「アミ、そういうクロノくんの家族のこと聞くのやめようよ」
強めの口調で止める。
「そうだな」
「僕の家無くなったんだ、部族に襲われて」
アミを止めることができたがクロノくんが話す。
「家が燃えちゃって、僕を助けるためにお父さんとお母さんが死んじゃった」
私は何も言えなくなっていた、壮絶な過去を持っているこの子に私みたいな平穏な国で過ごしていた奴が、何を言っても何の気休めにもならないだろう。
「可哀想にな…」
アミはそっとクロノくんの肩を後ろから抱こうとしたが、クロノくんは腕をどけた。
「…僕は可哀想じゃない」
クロノくんは走ってどこかに行ってしまった。
「…うち、悪いことしたな。ごめん」
「ううん、今度一緒に謝ろう」
それから私達は一言も話さず倉庫に向かった。
「僕は可哀想じゃない」って言葉が心の中でざわつく。
可哀想じゃない、としたらなんて声をかければいいんだろう。アミと違って私は黙ることを選んだ臆病者だから何も思いつかなかった。
どんな言葉をかければ良かったんだろう、と考えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます