第7節 決意
如月視点
倉庫の中は最初と比べて人が歩ける道もできたし、棚の中を綺麗にしたから棚自体も、ちゃんと機能するようになった。
久しぶりにこんな大掛かりな掃除をしたから毎日へとへと。でも、掃除が好きなあたしにとってはモチベーションが上がって掃除も捗ったし、みんな結構集中してやっていたから、思ったより早く掃除が終わりそう。
「如月さん学校ってどんなところですか?」
さっきまで黙って掃除をしていたセシルが話しかけてきた。
「学校は、そうだなー」
初めて学校の印象について聞かれてなんて答えようか考えてしまう。なにせ、相手は学校には行ったことがないわけだしそこで「学校はだるいよ」なんて言ってしまったら興ざめだろう。実際だるいけど。
「そうだね、学校は楽しいところだよ。色々な人と会えるし遊べるしね」
「色々な人と遊べるのはうらやましいです、学校はいつから行っているんですか?」
「学校は7歳くらいのときから行ってるよ、15歳までは必ず学校に行かないといけないから」
「そんな長い間学校に行けるんですか、日本という国は豊かなんですね」
セシルが珍しく目を大きく見開いた。
普段は菩薩顔みたいに表情がまったく変わらないから新鮮。
「まぁ、豊かって言われると豊かなのかなぁ」
あたしは棚に無造作に詰めこまれた本、木の枝をゴミを入れるカゴに入れていく。
セシルはあごに指を組んで話す。
「学校ができたら、孤児院の子ども達はもちろん、自分も行くことになるんですか?」
「まぁ、そうなんじゃない? 一応あたし達と同じ年だし」
「自分は本音を言いますと、学校に行きたくないです。自分はあまり人と関わるのは得意ではないですし、同年代で仲いいのは如月さん達が初めてってくらいです」
たぶんセシルは学校で友達が作れるかという悩みより、独りになるんじゃないかって悩んでいると思う。あたしも人見知りで、仲良かった人がいなくて、孤立してたから新学年や中学から高校に上がる時に、同じような悩みを抱えたから、セシルの気持ちもわかる。
「あたし達も学校ができたら一緒に行くし、家事も手伝うから心配しなくていいよ」
「そうですね、ありがとうございます」
「あと、友達は無理して作るものじゃないからね。学校なんて学ぶ場だから勉強となにか発見できればいいから」
「じゃあ、学校に行かなくてもいいのではないですか? 学ぶ場は本でもいいですし、発見なんてどこでもできます」
「手厳しいね…。誰かから教えてもらうって楽しいことだよ。違う価値観、感性も学べる。だから学校に行けるなら行った方がいいと思うし、行ってみて合わなかったらバックレちゃえばいいよ」
「そんな適当なものでいいんですか」
「いいんだよ、無理やり決められたんだから、こっちだって無理やり決めないと」
今整理している棚の中からお札が出てきた。あたし達が持っている翻訳のトーテムと少し変わっていた、文字というか紋章の部分が違う。
「ねぇねぇ、これなに?」
「それはですね、水のトーテムですよ。試しに使ってみますか? 古いと思うので使えても1回限りだと思いますが」
「どうやって使うの?」
トーテムの裏を見てもスマホや機械みたいにボタンが見当たらない。
「念じてみてください」
セシルは合掌して言った。
「念じる?」
言われた通りあたしは「水よ、出ろー」って念じたが水は出てこなかった。
「水出てこないよ?」
トーテムを裏返したり指ではじいてみても出てこなかった。
「古いので、時間がかかっているのかもしれませんね」
「へぇ、古いと出にゴファ!」
急にトーテムから大量の水が吹き出した。
「大丈夫ですか?」
「なんで、こんなのがここにおいてあるの!?」
「あの人、物を捨てるのが苦手なのでこの倉庫に色々なものが溜まっていくんですよ。あと、お父さんが元々」
「ごめん!ごめん!お待たせ」
セシルが話している最中に、買い物カゴを持ったアミと歌川が戻ってきた。
「すごい水の量だね、如月大丈夫?」
「大丈夫」
「一旦家に戻って着替えよー。買ったもの家に置いてきたいし」
「セシルとアミ、少しの間お願いしてもいい?」
2人から了承を得たので家に歌川と一緒に家に戻る。
更衣室で濡れた服を脱ぎ、風呂場に入る。
風呂場は木のタイルを床や壁に貼っているが、寒くはない(セシルが言うには、外に火が置いてあり、湯船を温めているおかげで、暖かくなっている仕組みらしい)。
ここに来てから腕に刺青がついているが、何も身体には変化がない。
アミや歌川に聞いても、何も変化はないと言っている。
「何も変化がないね」
アミは誰かのために怒ることができるし、歌川は誰かのために行動ができる。でも、あたしは何もしないただ見ているだけ。
桶でお湯をすくい、頭からお湯をかぶる。
「ここからあたしも変わらないと」
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