第6節 デロル

歌川視点



 私達がこの世界に来て、10日近くたった。私達はセシルの家での生活には慣れて家事だっていちいち聞かなくてもいいくらいできるようになったし、今までは全員で手伝わないと終わらなかった家事も当番制にしてできるくらい余裕がもててきた。


 今日は晴れていて、買い物をしに村の市場に来たら多くの人が来ていた。

 子どもから大人まで様々な髪と肌の色の人がいる。


 この世界に来て、気づいたことがある。それは、紫や緑といった髪の色の人が多くいることだ。

 セシルや家の人達に肌の色や髪の色のことを聞くと、遺伝で基本誰も髪の色のことを気にしていないし、肌の色も人それぞれで当たり前という考え方らしい。


 窓に反射して写る自分の青色の髪を見つめる。

 私やアミは自分で髪を染てるけど、日本だと悪目立ちするからうらやましいなぁ。


「歌川―! 夜ご飯の買い物終わったー」

 人混みをかき分けながら、アミが野菜やらお肉をカゴから溢れるまでもってきた。

「私もついさっき日用品買い終わったところだよー、もう買うものはないし家帰ろっか」

「そうだな、さっさと帰って学校を作ろう!」

「作るっているか掃除だけどね」


 倉庫を掃除を始めて、1週間はたった。結構倉庫は綺麗になってきている。

 いらないものは捨てたけど、棚や大きなゴミを私達でどうにかしないといけないからそれが1番の問題だ。村の人に手伝ってもらおうかな、と考えた。


「あれ? あそこめちゃくちゃ人集まってんな」

 アミが指をさした方向を見てみると、何かを取り囲むように人が集まっている。

「行ってみる?」


「あのどうかしたんですか?」

 一番後ろにいた背が高いお兄さんの服を軽く引っ張った。

「ああ、今な王国からお偉いさんが来ているんだよ」

「お偉いさんですか」

「あのお方はこの村を部族から守ってくれているんだ。王国でも結構有名な人で多くの部族を倒してるらしいぞ」


 つまり、めちゃくちゃ筋肉ムキムキで、身体中傷だらけのオッサンかな。会ってみたいけど、臭そうだし、それよりも私達のことがバレたらめんどくさそうだ。

「そうなんですね、ありがとうございます」


「歌川行ってみようぜ」、とアミが言う。

「いや、やめておこう。ってもう行ってるし」

 人の間を通って、アミの後を追う。


 私達、異世界転移した人はこの世界では、ナミタの件から考えると部族と一緒にされているみたいだから、変に悪目立ちして、厄介ごとに巻き込まれたら嫌だしアミを止めないと。

 そこまでこの世界の人達と外見だってそこまで違わないし、なんで言葉が違うだけで非難されないといけないんだ。過去になにかあったというのは予想できるけど。


「アミもう行こう」アミの肩を叩く。

──金色に染めてるから、すぐ見つけやすくて助かるなぁ。

「綺麗」

 アミがそう呟いた。

 前を向くと、さっきの男の人話から想像していた男ではなく、しなやかなでモデルみたいな男性だった。髪形はジャスティンビーバーみたいなアシュメにセットした黒髪でカッコ良かった。


 でも、黒いドレスに、赤いマントにヒールという格好をしていてかなりの変人という印象に変わった。赤いマントには国旗か、紋章もんしょうが書かれていた。

 私とアミがその男を見つめていると、男は私達を見た。


「君たちあまり見ない顔ですね」

 笑っていたけど、目が怖かった。

「私達この村につい最近きたばかりなんですよね」

「そうでしたか、ここは良い村ですよね。ちなみにその格好は見たことありませんが」

「ああ。これですか。私達旅をしていて、珍しいとよく言われるんですけど部族の村とかにも行っていて、その民族衣装です」


 私はジャージで、アミはこの村の染物のシャツと学校のスカートという格好だ。

 この世界に来たばかりなんです、なんて言ったら絶対めんどくさくなるから私達は口裏合わせてこう言っている。


「部族の村に旅ですか! それはすごい!」

 兵士が、男に「村長との面会時間です」、と話しかけてきた。

「申し訳ございません。楽しい時間でしたが私行かないといけません」

「いえ、大丈夫です」

「ごめんなさい、申し遅れました。私メルディア・デロル・サリディアと申します。この村にしばらくの間滞在します。どうぞ、よろしくお願いいたします」

 デロルはそう言って、多くの兵士を引き連れてどこかへ行ってしまった。


 人混みを抜けて、私は大きくため息を吐く。

「どうしたんだ? あいつ良い奴だな!」

 アミは私の顔を覗きこむ。

 地面に倒れ込み、息を整える。

「大丈夫か?」アミが私の背中をさする。

「怖かった。あの人……私のこと人として見ていなかった」

 あの目は怖い、二度と会いたくない。手足の震えが止まらない。

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