第2.5節
「皆さん静かにしてください、質問には答えます」
セシルは机を両手で叩き、みんな静かになり続けて話す。
「まず、お父さん噓をついてごめんなさい。この人達が夜中に部族に襲われていたというのは嘘です」
「なんでこんな騒がしくなってんの?」、とアミは私と如月の顔を見ながら言う。
私はある程度理解はできているけど。
「今の状況にアミさん達が置いてきぼりなので、先に説明します。質問はありますか?」
「私も解説できると思うので、解説席に行きまーす」セシルの横にイスを持っていき座る。
「質問したいことがありすぎるというか、理解が追いついていなくてわからないことがわからないって感じ」
「アミは如月と違って頭がいいので質問がありまーす!」
「あたしたちより勉強できないでしょ、二度と勉強教えないから!」
「では、アミさんどうぞ」と、セシルが発言を促す。
「はい、はーい。ここって地球ですか?」
セシルは一旦考え始めたのか、アゴに手を当てる。
「自分は地球というのはわかりませんが、あなた達がいた国とは違うというのは言えます」
セシルの隣にいた太った男の子が手を挙げる。セシルはうなずく。
「おねぇさんが言っていた日本って何? どんなところ?」
「その解説は私達に任せてー」
私達は地球について知っていること、色々な国があって海や自然、街や文化、物が豊かなところと、ザックリと説明し、日本についてもスマホで写真を見せて私達がいた街のこと、行った場所、学校について地球より丁寧に説明した。(地球よりか日本については多少自信があったからだ)
「スゲー! なにこれ!?」「キレー」「これ何なに?!」、と子どもも大人も興奮し私達の席に集まり、スマホを興味津々に見る。
「皆さん、気になるのもわかりますが、話を進めましょう」
セシルが進行を促す。
「自分達の国はアンダルシア王国と言います。地球と違ってこの世界はまだ星の名前はない…と思います」
セシルは小皿に盛ったサラダを一口
「アミさん達も食べながらでいいので情報の整理をしましょう」
私達以外みんな食べながら、セシルの話を聞いていた。この国では食事を大切にしているのかもしれないと思った(この家だけかもしれないけど)。
「アンダルシア王国はこの付近では1番大きな国です。そんな大きな国にある村がここイムル村です。アンダルシア王国の兵士や商人がここを泊まりどころとしています。他には大きな川、アンダル川が近くにあって鮎が多く釣れます」
セシルは自分の村のことを真顔で言うが、たぶん村長の娘なりに誇りに思っているだろう。
「めちゃくちゃ魚美味しいから今日の夜一緒に食べようぜ!」、とセシルの隣にいた太った男の子はご飯粒を頬につけ笑いながら言う。
セシルは優しい眼差しで、太った男の子の頬についたご飯粒を取り食べる。オネショタにしか見えない、変に発言するとめんどくさくなりそうで心の中に留めておく。
「私達にとって、ここは異世界ってやつだと思う」
「最近漫画とかである異世界転生ってやつ?」
アミは長い髪を後ろに束ねて聞く。
「そうだと思う、セシルからもらったこのトーテムがその証拠」
首にぶら下がっている紙を胸元から取り出し説明を続ける。
「これ吊り下げるだけで、言葉が交わせるってすごいけど私達の世界の技術じゃない。魔法だよね」
「ええ、自分達の世界には魔法があります。さきほど見せていただいたスマホ? とやらも自分達にとっては魔法より凄いと思いますが。恐らく技術のベクトルが大きく違うのでしょう」
「技術のベクトル?」
アミと隣に座っていた太った子が、首を横に傾けて聞いた。
「私達の世界では機械が発展しているけど、この世界では違うってことだよね?」
「はい、自分が言いたかったことはそれですね。なので、優花さん達を元の世界に」
バン、と机を強く叩いた方を見るとピンク髪の女の子が口を開く。「なんでそんな他所者のために行動しようとしてんの。部族かもしれないのに」
「ナミタ、確かに彼女らは部族かもしれません。しかし、目の前で困っている人を助けないわけにはいきません」
「ここにいるみんなの過去知っててそう言ってんの? こいつらが部族だった時にあなた救えるわけ。その善意の結果誰かが傷ついたら絶対に後悔するよ」
ピンク髪の女の子は席を乱暴に立ちあがる。伸びた前髪から見える垂れた目は私達をにらんでいた。人生で初めて殺意をもった眼差しで、見つめられて手足が震える。
「ナミタ」、とクロノさんが呼び止めるがそれに応じず、ナミタと呼ばれた中学生くらいの女の子は歩く。私達の後ろを通る時に「お前らさっさと出てけよ」、と小さな声で言った。
部屋から出ようとするナミタの前に、アミが立ちふさがる。
「ケンカ売ってんなら買うぞ、ガキ」
「本性見せたぁ? やっぱりわたし達を殺そうとしてたのね」
「いや、違うぞ」
「は? 殺そうとしていないとでも言うつもり?」
「今この場でお前のこと黙らせることにした」
アミが拳を振り下ろそうとした瞬間、このあと起こることに恐怖して目を閉じてしまった。
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