第2節 自己紹介

歌川視点

 


 目を覚まし周囲を見ると、アミが右で寝ていて、如月が左で寝ていた。

 昨日のことは夢のようでもあったけど、これはまぎれもなく現実でもドッキリでもなかった。


 昨日出会った、女の子。セシルの家で私達は濡れていたし、汚れていたから水を浴びて着替えを借りて、寝床に案内されると私達はすぐさま寝てしまった。

 私は今着ている寝間着に目が行った。柄が特徴的で私はボヘミアンな花柄だったり、アミと如月はボヘミアンなシマシマ模様だった。ズボンの後ろポケットを確認すると、昨晩さくばんもらったお札が入っている。


 起きてすぐに顔を洗ったり、歯を磨きたかったけど1人でこの家の中を歩くのはなんか怖いから、両隣に寝ている2人を起こすことにした。


「アミ、如月起きてー」

「もう少しだけ寝かせてー」

アミは反応がなく、如月は布団の中にさらにうずくまってしまった。

「起きて」

「あと10ッ分―!」

「人の眠り妨げんじゃねぇ! 殺すぞ!」


 2人ともかたくなに起きるのを拒み、怒りだしてしまった。ひとりは(アミのことだけど)完全に目を開けてぶちギレしていたけど。

 しかたなく私は1人で行動することにした。寝室から出ると長い廊下が続いていた。私達の部屋は、廊下の一番端に位置している。


 廊下を歩いくと、キシキシと音が響いた。こんな音がするわりには廊下は綺麗に掃除されてる。

 扉が9つある。

 私の右手側に4つの扉が等間隔であり、はたまた左手側にも4つの扉がある。そして、突き当り最後の1つのドアがある。

 たぶんセシルの部屋はこの中のどれかだろう、と私はどの扉を開ければセシルの部屋があるか気になった。

 廊下を歩いていると、突き当りにある扉の向こう側から物音が聞こえた。私は扉を開けて中の様子をそっとのぞき見ると、セシルがいくつもの食器をテーブルの上に並べていた。


「おはようございます。起きるのが早いんですね」

 セシルは私のことを見ずに挨拶し、食器を並べていく。

──この子は殺し屋か、なにかかね。なんで、気配だけで気付くんだよ。


「おはよー。なんか目が覚めちゃっただけだよ」

 普段はもっと起きるのが遅い、と一言つけたし部屋の中へ堂々と入る。

 部屋の中は学校の教室くらいの広さでテーブルが真ん中にデカデカと置かれていて、その周りに10席以上はイスが置かれていた。部屋の隅々には大きな食器棚や本棚が置かれていた。

 この家はいったい何人暮らしなんだろう。


「セシルさ、洗面所ってどこ?」眠気眼をこすりながら聞く。

「この部屋を出てすぐの左手側にあるドアを開ければありますよ」

 セシルは手際よく作った料理を皿に盛りつけていく。

「ありがとー」

 私はセシルに言われたとおりこの部屋を出て、すぐの左手側にあるドアを開ける。


「キャー!!」

 そこには真っ裸で股間をあらわにしたオジサンがいた! すぐさまドアを閉めて深呼吸する。

 さっきの部屋を出てすぐの左手側にある扉を開けるとそこに洗面所があるはず、なのに、そこはオジサンの全裸お披露目会場になっているわけがないよね。

 もう1度私はドアを開ける。


「キャー!! エッ」

 すぐに扉を閉めた。

──どういうこと??? オジサンが裸でいるし、私が見せられて騒ぐ方じゃないかな???

 「大丈夫かい? お嬢さん」、とオジサンが全裸で洗面所の扉を開いて呼びかける。

 全然大丈夫じゃないです。

 困惑しすぎて声が出なかった。


 全裸のオジサンは急に股間を抑えながら、床に顔を押し当てうずくまる。

 私は何もしていない…。オジサンの上を飛び越えて、セシルが私の肩を掴む。

「大丈夫ですか? この人になんか変なことはされてませんか? いや、全裸を見せられているのでこれはもう自警団を呼びましょう」


 セシルは立ち尽くしている私を抱き寄せて、オジサンを軽蔑けいべつの目で見る。

「ジツノチチニナンテコトヲ」オジサンは悶えながらカタコトながら呟く。


「お父さんこの前も何度も言いましたよね。全裸で家の中をウロチョロしないでくださいって。他の子に影響したらどうするんですか」

「え? セシルのお父さんなの!?」全く似てない…。

 肌の色も顔つきも違っていた。オジサンの髪の色は明るい茶色だった。

「ええ、とりあえずこの人はどうにかしておきますので、身支度を済ませてあとの2人を起こしといてください。もうすぐで朝ごはんの準備が終わります」

 セシルはどこか思いつめた顔をして私に近づいて、小さな声でささやく。


「なるべく自分以外の前では発言しないように、してください。あとで説明しますので」

「それはどういうこと」


 私が聞くとセシルはそそくさとお父さんを連れて部屋の中に戻っていった。

 私は顔を洗い、歯を磨く(歯ブラシと歯磨き粉は私が知っているようなものではなかった)、裾をあげていた時、腕には黒い角ばった指みたいな刺繡が描かれていた。

 私はヤの者ではない…。

 ここに来たときにできた怪我かな、それか寝ている時に描かれたのかな。腕を擦っても取れる気配はなかった。


 痛くも痒くもないから気にせず、アミと如月を起こしに行く。

 ドアを開けると2人は眠そうに目をこすっていた。

「おはよー」

 私が挨拶すると2人は眠そうに返事を返す。

「おはよう」

「よう」


 布団を畳んで、2人は顔を洗い、歯を磨いて、私達はさっきの大きな部屋に向かった。

「おはよう! 3人とも。そこの君さっきはすまなかったね」とセシルのお父さんは言う。さすがにもう服は着ていた。

「おはようございます」

私は2人にこの人はセシルのお父さんだよ、と紹介すると2人は私と同じような反応をした。


「お父さん、あの子達起こしてきてください」

 セシルは席に座りお父さんに命令する。

「任せろ」と、セシルのお父さんは心地よい返事を返し、この部屋の出入口付近にある紐を何度も引っ張った。そうすると家の中は鐘の音が響いた。


 セシルが私達の前で小さな声で話す。「皆さん、注意事項が」

 ドアが開く音、騒ぐ声、愉快に走る音など色々な音が聞こえた。


「おはよう! クロノ!」

「おはよー。セシルおねぇちゃん」

「知らない人いるー」


 小学生から中学生くらいの背丈の子どもたちが、ゾロゾロとこの部屋に集まってくる。

「食事をしながら説明しますので、席についてください。あと変な発言はしないでください」

 セシルが私達だけに聞こえる声で、呟く。

「みんなおはよう、さぁ朝ごはんを食べよう」

 クロノさんの声で、子どもたちは席について、みんなで食事を始めた。私達もそれにつられて席につき食事を始める。テーブルの上にはサラダや肉、パン、ジャガイモなど色々な食材がおいてあった。


「おねぇさん誰?」、と私の隣に座っている男の子が聞いてきた。

 私が答えようとしたらセシルのお父さんが口を挟む。

「そういえば、自己紹介がまだだったね。僕の名前はマルクヴィー・クロノ・イムル、クロノと読んでくれ、このイムル村の村長をしている者だ。よろしくね」クロノさんは白い歯を見せて笑う。


「私は歌川優花と言います。よろしくお願いします」

 私に続いて2人が挨拶する。

「あたし、私は尾崎如月と言います、よろしくお願いします」

「初めまして、泊めてくださりありがとうございます! 江藤アミです。ぴちぴちの17歳です。よろしくお願いします!」

 私と如月はアミに続いて、泊めてくださりありがとうございます、とお礼を言う。

「そんなかしこまらなくてもいいよ。優花に如月にアミね。よろしく」

 私達とは対照にクロノさんは話し終えるとパンを大皿から取り食べ始める。


 如月が緊張した面持おももちでクロノさんに話しかける。

「あのここはいったいどこですか?」

 クロノさんと話しを聞いていた一部の子どもたちはキョトンとする。


「ここはアンダルシア王国の地域だよ」、とアミの隣に座っている子どもは当たり前のように言う。

「如月、後で説明するから」

 如月の身体を小突いて質問するのを留める。

「アンダルシア王国? 聞いたことない名前の国だな」

 アミは隣の子と目を合わせて、不思議そうな顔をする。

「知らないのー? お姉ちゃんおかしいー」

 アミの向かいに座っていた緑髪の女の子が笑う。

「はっ倒すぞ、うちはこれでも漢字検定5級持ってんだぞ」

「自信満々に言ってるけど、そこまで凄くないからね?」

 アミにツッコミを入れて話を途切れさせる。


「お二人ともその話は一旦あとでしてください」

「あ、あのあたし達日本から来て、この国。世界についてまったくもって知らないことばかりなんです」

 如月は緊張しながら私達の素性を明かす。

 

 食卓にいた全員が食べるのをやめて、静かになる。

 セシルは大きなため息をはく。

 クロノさんと子ども達はセシルの方を見て一斉に話しだす。

「セシル、これはいったいどういうことだ?」「この人達ってどこかの部族の人なの?」「セシルねぇちゃん!?」と誰が何を言ったかわからないくらい大騒ぎになった。


 セシルが私達に警告していた意味がなんとなくわかってきた。

 私達の素性は絶対に、バレちゃいけない――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る