第4話 王子「不安ばっかり増えてく。どうしよ。どうしたらいいの……」



 私は隠している。

 にゃっこへの一方通行なこの想いを。



 夏の夜道はまだ暑さが残ってて、私は汗をぽたぽたと道に垂らしながら歩いていた。適当なタンクトップとシャツを着てきたことをちょっぴり後悔している。久しぶりににゃっこに会うのに……。袋に詰めたペットボトルの重さが肩に食い込むように、もっと違う格好をすればよかったと心を締め付ける。

 街灯の白い光に照らされた家々の軒先をすり抜けていく。夏草の香りがわずかにする。遠くで誰かが歓声を上げている。

 夏休み。

 私も楽しい日々を過ごしている……、はずだった。

 にゃっこに会えない日がこんなにつらいだなんて、思ってもみなかった。毎日会えない苦しさを、毎日枕を握りしめて耐えていた。


 バカみたいだ、私。

 会いたいのなら、そう言えばいいのに……。


 ほんの4文字。ほんの1秒。


 でも、それができなかった。

 私のこんな想いは、にゃっこを追い詰めてしまうから。


 今日のことはあっちょが言い出した。「うちに泊りに来いよ。だらだらと映画でも見ようぜ」とみんなにメッセージが来た。にゃっこが勉強したいから遠くに行きたくないと漏らしていたので、あっちょなりの気遣いの結果なのだろう。みんなはわりとすぐ日を決めて、それぞれ持ち寄るものを言い出した。にゃっこもすぐに行くと返事してた。

 私は嬉しかった。こうやって飲み物係になって重い袋を苦労して運んでいても、どこか心が浮いていた。

 好きな人に会える。たったそれだけなのに。

 自分の中にいる女の子を感じていた。かっこいい王子とみんなに言われるのとは違う、そんな女の子を。





 私は隠している。

 私はただの恋するかわいい女の子だということを。





 あっちょの部屋は一番奥にあった。マンションのきゅっきゅっと鳴る廊下を歩く。扉の前でゆっくり荷物を降ろし、チャイムを鳴らした。


 そういやにゃっこが言ってたっけ。「扉を開けたら、そこから異世界に旅立つかもしれないんだ。わくわくしとけ」って。


 扉が開く。言われた通りに、わくわくしとく。だって……。


 「よ。遅かったな」


 にゃっこは私を見るなり、少し恥ずかしそうに顔を背ける。緩くはだけた生成りのシャツにカーキ色の木綿スカートが、制服のときより女の子らしさを感じさせる。

 全身が喜ぶってこんな感じなんだ……。

 このまま抱きしめたい衝動を私は苦労して抑える。その奥にはみんながいるから。


 「ちょっと、こんなオーダーにしたの誰? 重かったよ」


 私はあえて怒ったように言う。


 「やっほー、王子やー!」

 「よっす。こっち来なよ」

 「喉乾いた」


 みんな勝手に奥から言い返す。


 「持つよ」


 にゃっこが私が手に提げていた袋に手を伸ばす。


 あ……。


 私とにゃっこの手が触れる。ふたりでそっとわからないようにうつむく。


 私が会えなくてつらかったように、にゃっこもつらかったのだろうか。

 ……そうだったらいいな。そうだったら……。





 あっちょの家は1人暮らしにしてはかなり広く、いまいるリビングは自分の部屋なら4つは入りそうだった。壁際にはうちの何倍もある大きなテレビがあり、横長の灰色のソファーと、その下には毛足の長いもこもことしたベージュのラグが敷かれていた。いくつかの大きなクッションは方々に置かれていて、食べかけのポテチやたぷんと琥珀色の飲み物が揺れるコップも、それと同じぐらい散らばっていた。


 ソファーの上であぐらをかいてたあっちょが私を見る。


 「迷った?」


 銀色の鋲が胸元に入った黒いタンクトップに黒いラフパンツ。ギターを持たせたら似合いそう。頭の中でじゃかじゃかじゃーんと音楽が鳴る。


 「ううん、大丈夫だった。もう映画見てるの?」

 「まだ。みんな揃ってから何見るか、決めようと思ってさ」


 あっちょの足元にやっちんがいる。ラグにそのままぺたんと座っている。ガーリーなワンピースがふわっとした長い髪に似合っている。


 私もこうなりたかったな……。こんな女の子に……。


 見つめていたら花が咲いたようにやっちんが言う。


 「王子ありがとな、ちょうど飲み物、切れてもうたし」

 「ううん、いいけど。ドクペとかスイカジュースとか頼んだの、やっちんでしょ?」

 「あはは、バレてもうたか」


 やっちんが小花を散らしたようにとても嬉しそうに笑う。


 「そろそろ映画見たい」


 てちがぽつりと言う。やっちんの隣に少し離れたところに膝を立てて座り、手にしたスマホから目を上げずにそれだけを言う。

 いまみたく黒いパーカーにデニムのショートパンツを履いていると、だいぶ男の子っぽく見える。てちが女子に人気があるのは、こっそりクラスの人に聞いていたけれど、それがちょっとわかった気がした。


 「ねえ、映画」

 「あ、ごめん。何見ようか?」


 そんなことをてちに言ったら、みんなが勝手にしゃべりだした。


 「トーベ、ハンズ・オブ・ラヴ、藍色夏恋……」と、あっちょ。

 「却下だ。なんだ、その思わせぶりなラインナップは」と、にゃっこがツッコむ。

 「悪魔の毒々モンスター東京へ行く、片腕マシンガール、シャークネード、あとな……」と、やっちん。

 「却下だ。B級が過ぎる。みんな傑作とは思うが、夏休みの女子高生がお泊り会で見るものとしては、だいぶこってりしてるぞ……」と、にゃっこがツッコむ。

 「夜は短し歩けよ乙女、ペンギンハイウェイ、アイの歌声を聴かせて、どうにかなる日々、あさがおと加瀬さん……」と、てち。

 「却下だ。確かに夏っぽいけど、後半のラインナップはだめだ」と、にゃっこがツッコむ。


 3人がそれぞれぶーぶーと文句を言う。それから逃げだすようににゃっこは私に聞く。


 「王子は何見たい?」

 「私は……」


 少し言い淀む。どうしてもにゃっこと恋愛映画を見たかったから。恋人ぽく、手を繋ぎながら……。

 私はぽつりと言う。


 「花束みたいな恋をした、君に届け、アオハライド、恋する惑星、とか……」


 みんなが私を見つめる。


 「王子、意外と純情乙女だな」と、あっちょ。

 「すさんだうちらがそんなん見たら、溶けてまうで」と、やっちん。

 「女子高生がここにいる……」と、てち。


 ええ……。

 どうしよ。

 にゃっこに助けを求めようと振り返ると、口に手を当てて笑いをこらえていた。


 「ひどい」

 「ぷふ。悪い悪い」

 「にゃっここそ、見たい映画あるの?」


 変なのを薦めようとしたら笑ってやろうと思ってた。


 「レオン、アメリ、ニューシネマパラダイス、最強のふたり、フィールドオブドリームス、スモーク……」

 「あれ、まとも」

 「まともって、なんだよ」


 あっちょがいたずらっ子ぽく言う。


 「ねえ、にゃっこー。なんで百合映画だめなんだよ。見ようよー。みんなで百合百合しようよー」


 不敵な笑みって、こんな顔なんだ……。ニヤリと挑発しているあっちょを見て、にゃっこはこめかみをピクピクとさせている。


 「だめだ、あっちょ。百合はだめなんだ」

 「なんでだよ。大したことないじゃんか」

 「そうだけど、そうじゃない」

 「おい、にゃっこ。まさか、やましいことがあるのかよ」

 「なんだと」

 「言ってみろよ。言えないのかよ」

 「お前……。これが目的か?」

 「なんのことかな?」


 ふたりが睨み合う。

 慌てながら私は言う。


 「じゃ、じゃあさ。あれ見ようよ。『ユキユリ』。ちょっと百合だけど、最近話題になったし、普通の恋愛映画だし。ね、そうしよ」


 やっちんが助けるように話へ乗ってくれた。


 「『雪に咲く百合のように』かー。ええやん、面白そうやん。てちもええやろ」

 「ええ……」


 てちが微妙な顔をしてる。

 なんとか多数決に持ち込みたいので、声に出さずにハンドサインをあれやこれや送り続ける。


 「いいけど……」


 やった!


 「ええな、ふたりとも」

 「まあ、いいけど」

 「納得しないが納得してやる」


 よかった……。

 胸を撫で下ろしてたら、にゃっこが私のそばにぽすんと座る。


 「このコップ、新しいのだから。コーラでいいか?」

 「え、あ、うん……」

 「どうした。座りなよ」


 言われるまま、ソファーを背にラグの上へ足を伸ばして座る。


 「ほい、コーラ。ポップコーンもあるよ」

 「うん……。なんか勝手に見る映画を決めちゃってごめん」

 「いいよ。問題は見た後だから」

 「そうなの?」

 「それより、ほら」

 「え、ちょっと、にゃっこ?」


 にゃっこが私の脚の間に入って座り込む。そのまま背中を私に預けてくる。

 触れるにゃっこの体温が私の気持ちを瞬時に沸かせる。


 ……抱きしめたい。

 このままぎゅっと何時間でもずっと……。


 「どうした。こぼすぞ」

 「いや……」

 「王子の背もたれだから、これ玉座かな。なんだか笑える」

 「ひどいな」

 「あーん」

 「な、なに?」

 「ポップコーン」

 「あ……。はい」


 左手でポップコーンをつまみ、にゃっこの口に運んでやる。もぐもぐとさせるとこう言う。


 「コーラ。手にしているそれでいいよ」

 「うん……」


 右手のコップをそっとにゃっこの前に差し出すと、にゃっこはそれを両手でつかみ、ごくごくと飲み干した。


 「ぷはー! まさに王侯貴族!」


 にゃっこが感極まったように叫ぶ。


 「なんや、その全自動にゃっこ甘やかし機は……」


 やっちんのその一言で振り向くと、てちもあっちょもだいぶひどい顔をして、私たちを見ていた。


 「い、いまのうちに。私がにゃっこを抑えているうちに、映画を始めて!」


 私がそう大げさに言うと、「あ、ああ。わかった」とあっちょがリモコンをいじりだす。


 部屋の照明が少しずつ暗くなる。

 私は、みんなに見えない左手をにゃっこの左手にそっと触れさせる。

 ゆっくりとにゃっこの指が私の指に絡んでいく。

 おそろいのペールブルーのマニュキアが重なっていく。

 抱きしめられないから、少しだけにゃっこの頭に頬を寄せる。にゃっこの匂いがする。すごく安心する。どこまでも青い空へと吸われていくように、自分の心は浮遊していく。


 私はにゃっこが好き。とても。とても大好き。


 私はこれを幸せだと思った。ただ、そんなことだけを。





 エンドロールが流れる頃、あっちょが部屋を明るくした。そのまま興奮したように言う。


 「すごいな……。言われているだけはあったな」

 「あっちょ喜んどるなー」

 「だってさ。真夏だけどふたりの心には雪が舞うって演出、すごくよくない? なんかわかるよ」

 「その雪に耐えてるのに、あのふたりは周囲には笑顔で接してるのって、えぐいやん、かなり」

 「でもさ、最後は幸せになれてよかったじゃん」

 「あれ、幸せなんか? ふたりが結ばれるのときと同じ繰り返しになるんと違うやろか? 女同士のカップルなんてそんなもんちゃう? 素直によろこばれへんわ」


 背中を私に預けているにゃっこへ、そっと声をかける。


 「面白かったね。絆の話なのかな」

 「ふられても好きってどうなんだろうな。そのうえ、ふられた同士でくっついて結ばれるなんて……」

 「ひどいふられ方のほうが良かったのかな。あんなふうに想いを断ち切れないまま、ふられたほうとも友達としてつながり続けられたら、お互いつらいよね……」

 「王子」

 「何?」


 左手をぎゅっとされる。

 私のちょっとしたいじわるに、にゃっこは気づいたのかもしれない。


 やっちんに同意されないとわかったあっちょが、てちに矛先を向けてきた。


 「てちはどう? おもしろかった?」


 てちはまたスマホを取り出して、なんかいじってた。


 「これが本当のふたりじゃないから」


 そのまま黙り込んでしまう。

 たまにそういうときもあるので、私たちはそんなに気にはしていない。てちはそういう生き物。でも、いまのは普段とはちょっと違っていた。


 てちって、不思議な子……。


 あんまり喋らないと思ったら、鋭いことを言う。みんなが間違っていることをなあなあで済ませようとしていると、必ず「どうしてなの?」と聞く。私たちの仲には何も言わない。その基準がわからない。1年のとき、ほんとうにてちはみんなに遠巻きにされていた。何を話していいのか、わからない子。そんな立ち位置。本人はそれで平気そうにしていた。


 あっちょがソファーから身を起こす。


 「さて。10時回ってるし、寝る支度するか」

 「え、もう寝るの?」

 「違うぞ、王子。寝ながら映画を見るんだ。今日はオールナイトだ」

 「おお」

 「で。寝間着、一応買っといたよ。新品だから遠慮なく使って」

 「これ、ジェラートピケ……。金持ちがすぎくない?」

 「ええ? そんなものじゃないの?」

 「うちなんか着古したTシャツがパジャマだよ」

 「それって寝づらくない?」


 にゃっこが口を出す。


 「おい、あっちょ。俺また何かやっちゃいました系は飽きてるぞ」

 「なにそれ?」

 「やっちん、説明しといてやれ」

 「ほいなー!」


 やっちんとあっちょが話し込む。たまに「ほー」とか「なるほど……」とか言ってる。

 にゃっこが顔を傾けるようにして後ろの私に振り向く。少し見上げるようにして、にゃっこが私に言う。


 「風呂入っとけ。王子来る前に沸かしてたんだ」

 「うん……」

 「あー。ふたりでは入らんぞ」

 「バカ。わかってるよ」

 「ぷふ。そうか」


 にゃっこがよいしょっと立ち上がり、私から離れていく。


 「いい椅子だったぞ」


 にししと笑うにゃっこ。私は「もう」と少しだけ文句を言ったら、にゃっこが右手を差し伸べてくれた。私をその手を握り、ゆっくりと起き上がる。さっき見た映画のふたりのように。





 お風呂は脱衣所との仕切りがガラス張りになってて、どんなホテルなんだここは……とか思ってしまった。シャンプーもボディソープも見たことがない高そうなものばかりだった。

 私はいい香りがする乳白色のお湯にぷくぷくと浸かりながら、もうそんなことを考えないようにしていた。仕方ないし。


 お湯を手ですくいながら、にゃっこのことを思い出す。

 こんな関係になったのは去年の夏休みからだった。ただの買い物のつもりだったのに、体に触りだしてきた男女の友達の輪から、「お前、女の子だろ? 無理すんなよ」と言いながらにゃっこが連れ出してくれた。私はみんなに王子なんて言われているけど、にゃっこのほうがよっぽど王子っぽい。あのとき、恋に落ちた。とっさに告白してしまった。「私を女の子にしてください」って。


 あれから。

 どこにいたって、どんなときだって。

 私はにゃっこを感じてる。


 さっきまで触れていたにゃっこの手を思い出す。細くて柔らかい小さな手。あの手は私の体を触れてくれた。私をちゃんと女の子として触れてくれた。みんなが言う王子じゃなくて清音として……。ほら、あのときはこんなふうに……。こうやって……。


 ビクンと水面が揺れる。


 とっさに口を抑えてよかった。

 何してんだ、私……。


 触れてほしいよ、にゃっこ。

 早く、お願い……。そうじゃないと私は……。


 不安という暗闇が私を塗り潰していく。





 私は隠している。

 にゃっこには私とは違う好きな人がいるということを。

 それを私が知っているということを。





 あれから3本の映画を見た。『言の葉の庭』『オーシャンズ8』『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒』。にゃっこはなかなかいい映画を選ぶ。みんな女の人ががんばってた。家族に、社会に、敵に。一度負けてもくじけない。想いを貫き通す。そんな映画ばかりだった。

 派手な恰好のハーレイ・クインが、敵のマフィア相手にハンマーをぶんぶん振り回しているあたりで、3人の寝息が聞こえてきた。エンドロールが流れ始めたとき、私に体を預けているにゃっこへ声をかけた。


 「にゃっこ、起きてる?」

 「ああ」

 「みんな寝ちゃったね」

 「毛布ぐらいかけてやるか」


 私たちは起き上がると、部屋の端に置かれていた毛布を手に取る。ソファーで猫のように丸まっているてちに毛布をかぶせてあげる。にゃっこを見ると、ラグの上で寝ているあっちょとやっちんを見つめていた。それはテレビのかすかな光に照らされて、なんとも艶めかしく思えた。ふたりは、足を絡ませながら、お互いの体を抱きしめあっている。

 にゃっこが見つめたまま、小声で言う。


 「こいつらデキてるよな……」

 「言い方」

 「最近このふたりは仲がいいんだ」

 「そうなの?」

 「勉強会と言って、何してるんだか」

 「それは……。私達もそう思われているかもよ?」

 「まあ、そのまましとくか」


 ぞんざいにふたりへ毛布をかぶせると、にゃっこが言う。


 「うちら、どこで寝る?」

 「これ、寝るとこないよね」

 「あっちょのベッド使うか。遠慮しても仕方ないし」

 「……そうだね」


 映画の合間に教えられたあっちょの部屋に、音を立てないように入る。窓の月に照らされたその部屋は、ベットと小さな机だけがあるだけだった。こんだけ大きなベットなら、ふたりでもじゅうぶん寝られるだろう。布団をばさりとめくると、先に私が入った。ベットはふかふかで気持ちいい。ほのかにラベンダーの香りがしている。

 メガネを外し枕元に置くと、にゃっこが隣にやってくる。布団を引き寄せながらにゃっこが言う。


 「あっちょ、本物の金持ちだよな」

 「うらやましい?」

 「まあ、少し。でも、親の金だしな。将来、自分で稼げばいいし」

 「にゃっこは、なんでこんな考えがしっかりしてるのに、そんななの?」

 「そんなのって」


 それからはふたりで天井を見つめていた。

 いろいろ話したいことがあった。

 でも、こうやって隣ににゃっこが寝ているだけで幸せだった。

 そんなふうにぼんやりと感じていたら、にゃっこが布団の中で手をつないでくれた。


 「人んちだからエロいことはなしだぞ」

 「何言ってるのもう。しないから。手をつないでいるだけでいいよ」


 にゃっこが少しため息をつくかすかな音がした。


 「もう1年経ったな」

 「あのとき、なんで声かけてくれたの?」

 「なんかさ、無理して『王子』をやっているように見えたんだよ。合わない服を無理して着てるというか」

 「そんなふうに見えてた?」

 「ああ」

 「それで『お前、女の子だろ?』と聞かれたのかな」

 「そうだっけかな」

 「ねえ、にゃっこ。私はその言葉で救われたんだ」

 「そうかい」

 「小さい頃からずっと背が高いし、みんなが王子って言うし。それを演じていないとみんなががっかりするんだ。それがとても怖かった」

 「いまはどうだ?」

 「少し薄れてる。わかっている人がそばにいるから。わりと耐えられるかな」

 「お前も私も、そんなこと隠さないで済めばいいんだけどな……」


 私たちはつないだ手を握り締める。映画で見たあのふたりのように。


 「にゃっこ、隠してないと怖い?」

 「ああ、怖い。失敗してるし。みんな失敗しているから隠している」

 「みんな?」

 「うん。あっちょは家庭関係に失敗してるんだ。知り合いに聞かされて知ってた」

 「いま一人暮らししているのはそんなとこ?」

 「うん。母親と離れていないと生きていけない感じ。そんなこと、みんなには言わないけどな」

 「そうなんだ……」

 「やっちんは、ねたまれたというより異質だったんだよ」

 「異質?」

 「好きな人のためにはなんでもできる。それが良くないことであっても。そうしないと好きになってもらえないでしょ、とか」

 「ちょっと重いね」

 「うん。かわいくて人目をひく姿なのに、聞かされたほうはもっと努力しろよ的に馬鹿にされたのかと思ったらしい。それがハブられたのがきっかけなんだ」

 「どおりで女子たちに悪口言われてたわけだ。あのとき、すごかったよ」

 「あれから恋バナをやっちんはしなくなった」

 「てちも?」

 「てちは人見知りすぎるし、たどたどしいところもあるけど、いい奴とは思う。なんかこいつ、ああいうことにやたら詳しいか無頓着なんだよな……」

 「ああ、それはわかる。なんだろうね」

 「私にとっては話しやすかった。他の人には話しにくい。そんなズレが面白くてさ。でも本人はそれで悩んでた。話す言葉でいつも失敗してる。だから話をしない」

 「そっか……」

 「残念5人組。失敗してばかり。だから隠していることが多すぎる。そんなかわいそうな奴らさ」

 「私もその中のひとりなんだ」

 「違うのか?」

 「ううん、違わない。私はたぶん生き方に失敗したのかな」

 「『そんな奴は大勢いる』。そんなことを言ってしまう奴には、私はなりたくないんだ。だから……」


 私はにゃっこのほうを向く。軽く目をつむっているけれど、気にせず話しかける。


 「私はかわいそうな人を見ると、救いたいと思う。自分と同じだから」

 「ああ、私もだよ。あいつらはみんなそう思うだろうよ。だから友達でいたいんだ」

 「私にはそんなのできなかったよ。にゃっこにしかできなかった」

 「そんなことないさ」

 「ううん。私にはにゃっこは憧れの人なんだ」

 「私はそんないいものじゃないよ」


 それからはにゃっこは黙ってしまった。隣に感じるにゃっこの体温が、私ににゃっこもかわいそうな人だと告げている。女の子を愛してしまう女の子。そんな愛し方を昔の好きな人に教えられてしまった人。もういないその人に……。


 にゃっこはずっと悩んでる。

 私を好きになってしまっていいのか。

 あの人と同じように愛していいのか。

 自分と同じ目を私に合わせるのはいいことなのか。


 私はそれでいいのに……。いいって言ってるのに……。


 ずっと一方通行。それでも私は、にゃっこのそばにいたい。愛していたい。大好きだから。





 眠ることができず、ベッドから窓越しに空を見上げていた。月と星に支配されてた夜空は少しずつ青さを取り戻そうとしていた。黒と青とオレンジ色が天上で混じり合っていく。私たちは手をつないだまま、そんなふうに色づいていく空の様子を見つめていた。


 「朝に変わってく今が好きなんだ」


 にゃっこがぽつりという。それから空を見たまま、私に話しかける。


 「勉強しながら深夜ラジオを聴いてるんだけどさ」

 「うん」

 「最後に少し寂しい曲がかかるんだけど、それを聴きながら、明けていく空を見てるのが好きなんだ。なんか青い気持ちになれて」

 「青い気持ち?」

 「うん、色にすると青かな。暗闇と朝靄がかかったような。白くて黒い青」

 「ねえ。にゃっこの言うことはたまにわからないけどさ」

 「なんだよ」

 「でも、いまはわかるよ。そんな気持ち。この空を見ていたら、そう思える」


 にゃっこが私に振り向く。


 「なあ、ドキドキして寝られなかったのか?」

 「うーん、寝るのがもったいない感じかな」

 「そっか。私もだ」

 「もしさ。もし、にゃっこと一緒に暮らすことができたら、毎日こうしていられるのかな」

 「そうだな」


 にゃっこがくすりと笑う。


 「毎日、夜が朝に変わってくのをふたりで眺める、そんな生活ができるのかもな」


 そうなればいいな。そうなれば……。

 でも、みんながそれをさせてはくれない。

 女同士の結婚とか、今はよくわからない。すごくたいへんなのだろう。にゃっこのそばにいられたらそれでいい。それだけでいいのに。


 にゃっこががばりと布団をはね上げ、体を起こした。


 「うーん。寝られん」

 「どうしようか?」

 「少し散歩にでも行くか」

 「いいよ。どこ行こう?」

 「近くのコンビニぐらいかな」

 「うん、わかった」


 私達はそっとベッドから抜け出す。

 フローリングに素足で触ると、ひんやりとしていた。


 「格好は適当でいいぞ」


 にゃっこはそう言って、パジャマを脱ぎ始める。

 細くて華奢な女の子の体。白い肌にわずかに差し込んできた朝日が伝わっている。胸のふくらみが影になって浮き上がる。少し寝癖がついた髪が光に揺れている。


 私は見惚れてしまっていた。目が離せなくなっていた。

 そんな私を見て、いつものからかいではなく、気がつかないふりでもなく、にゃっこはただ笑ってくれた。


 たぼっとしたTシャツをゆっくりと着ると、にゃっこは私に服を投げて寄越した。


 「私のだけどいい?」

 「あ、うん……」

 「みんなを起こさないよう静かにな」


 唇に人指し指を当てて笑いかけるにゃっこ。これからいたずらをたくさんするんだ、という顔してる。

 私が大好きな人は、こんな人だ。それを心から抱きしめている。





 夏の朝日の中、知らない街をにゃっこと歩いていた。

 軒先の植木鉢に咲いている朝顔も、家からはみ出た大きな木も、色とりどりの屋根をした家々も、みんなキラキラとしていた。

 小さな庭に咲いたひまわりが私たちを見下ろしているところで私は言う。


 「今日も暑くなりそうかな」

 「水鉄砲が欲しいな。でっかい奴」

 「みんなに水を掛けるの?」

 「そんなとこ。私だけ完全武装で大暴れだ」

 「ひどいな」

 「何をいう。涼を運んでやってるんだぞ」

 「それは押し売りと違うかな」

 「じゃあ何かつけるよ。関の包丁セットとか」

 「なんで包丁」

 「便利じゃないか」

 「そうだけどさ」


 私たちは誰もいない街を、白い朝日に照らされながら歩いていく。

 きっと私たちもキラキラとしているのだろう。

 すこし楽しくなって、握っていた手をぶんぶんとふると、にゃっこは笑ってくれた。





 コンビニの中でオレンジのカゴを持ちながら、何にしようかと棚の前で手を泳がしていたら、にゃっこがどさりとおにぎりをカゴへと入れた。


 「あいつらの朝飯も買ってやろう」

 「おにぎりでいいの?」

 「朝飯はご飯派だからな」

 「ぷふ。私も。朝にパンを食べる奴は許さない」

 「あはは。なんだそれ」

 「炊き立てご飯にしたいけどね」

 「炊飯器あったっけ。人んちはわからん」


 私はおにぎりに合いそうなお惣菜をひとつ手に取る。


 「コンビニならおかずもあるしね」

 「人類の英知だよ」

 「ずいぶん安い英知じゃない?」

 「高度な技術なんて、みんな安いもんさ」


 ふと野菜が置かれた棚の前で立ち止まる。


 「味噌汁ぐらいは作ろうかな。温かいものもあったほうがいいだろうし」

 「いいな。具はじゃがいも希望な」

 「いいね。わかめも入れていい?」

 「いいぞ。ただし、ネギはなしだ」

 「わかる。私たち、味噌汁の相性はいいね」

 「なんだ、その相性は」


 私たちは笑い合う。日常の何でもない幸せ。なのに、それが胸を締め付ける。





 袋をふたつ下げて、暑くなってきた街の中を歩く。アスファルトの照り返しが私たちを襲い出す。

 わずかな冷気に振り向くと、行きには気づかなかった小さな公園が見えた。入口の奥にある噴水が、涼しげな風をここまで送っていた。

 ふと立ち止まってそれを眺めていたら、にゃっこが手を引っ張った。


 「少し寄るか」


 噴水の前の華奢なベンチにふたりで座る。吹き上げられた水が、光に輝いているのをぼんやりと見つめていた。


 気持ちいいな……。


 にゃっこがコンビニの袋をがそごそと探すと、冷えたペットボトルを渡してくれた。


 「ほい。お茶」

 「ありがとう」


 にゃっこが私を見ずに言う。


 「最近どうよ?」

 「なにそれ」

 「心の中はわからんからな。話してくれないと」


 にゃっこは気づいていたんだ。


 「そうだね……」


 どう言おうかと悩んでいた。何が起きていて何を感じているのか。

 全部を言ってしまえば、にゃっこを追いつめる。でも……。


 「不安でいっぱいかな」

 「ん?」

 「あっちょとキスしたんでしょ?」

 「キョドってたからな」

 「ほんとににゃっこは……。どんなことするのか、わからないね」

 「それが不安?」

 「にゃっこを独り占めしたいんだ。もうそういうこと、して欲しくない」


 にゃっこが私の手に触れる。なぐさめるように。

 それで、その先は言えなくなった。


 「妬いたのか」

 「そうかも」

 「違うよ、それ」

 「え?」


 私の驚いた顔に、にゃっこは冷静に言葉を投げる。


 「王子はさ、女の子になりたいんだ。普通の女の子に。王子じゃなくて」

 「うん」

 「だから、たぶんその感情は女の子というものへの憧れや羨ましさだと思う。自分を投影してた女の子の人形が友達に遊ばれたら嫌だと思う、そんな感情さ」

 「にゃっこ、それはそうかも知れないけどさ。私はにゃっこのことが好きなんだよ」

 「知ってるよ。両方知ってる」

 「もう」

 「ほら」


 にゃっこが手でおいでというしぐさをする。

 顔を近づけると、にゃっこの口がかすかに開く。私の舌を迎え入れてくれる。にゃっこを感じる。みんな好き。このくすぐったい感じも、少し痛い感じも。


 エスカレートしてく。

 止まらなくなる。


 Tシャツの下から手を入れ、にゃっこの何もつけていない胸に触れる。その少し汗ばんだなめらかな肌が、私を安心させる。


 あっちょに触らないで。

 涼子さんを見ないで。

 私だけを見て……。

 お願い……。


 「おい、王子。それ以上はだめだって」


 とんと手で押された。

 その弾みで私の何かが壊れた。

 堰き止めていた何かが。


 「ごめん……。ごめんなさい。飢えが止まらないの……。何度キスしても、体をいくら重ねても。不安ばっかり増えてく。どうしよ。どうしたらいいの……」


 にゃっこの欲情してた目が急速に冷えていく。

 怖かった。

 それがとても。

 震えだした私の両手をにゃっこがつかむ。


 「堕ちるならいっしょに堕ちてやるよ」


 そのまま私の手を、自分の首にかけさせる。


 「なんなら王子に殺されてやってもいいんだぜ」


 にゃっこは死にたがってる。

 私が好きになればなるほど、死を選ぶ。


 私はゆっくりと手を引っ込めた。


 「そんなこと、しない。しないから」


 私の絶望した声が朝に広がる。にゃっこは夜の帷のような静かな声で言い返す。


 「かわいそうな奴。大好きだよ、王子」


 体を抱きしめられる。闇に覆われていく。にゃっこの黒い熱が私を焦がしていく。


 恋焦がれる。

 好きな人に触れてもらったときの沸騰するようなうれしさ。

 好きな人に何をしても自分ではどうにもできないつらさ。


 これが恋だと言うのなら。

 私はなんていう恋をしてるんだろ……。


 焦燥感が私を焼いていく。

 真夏の太陽を浴びるように、私はじりじりと真っ黒に焼けていく。





 私は隠している。

 このどうしようもない、やり場のない想いを。





 あっちょの家に帰ると、てちが起きていた。


 「あ、おにぎり。うれしい。ツナマヨあるし」


 袋の中身を見ながら、ぼさぼさとした頭のてちがぼさっと言う。


 ……なんていうかわいい生き物なんだ。これは。


 小動物的なかわいさ。寝起きのネコのような。

 ペットにして飼いたいと、ふと思ってしまった。


 にゃっこがほかの袋をテーブルに置きながら言う。


 「あいつらまだ寝てるのか」

 「うん。すやすやしてる」

 「まあ、いいっか」

 「台所勝手に使っていいのかな」

 「いいんじゃね。私が許す」


 てちが台所というよりは、キッチンと呼ぶのが良さそうな感じのところに立つ。


 「これ、味噌汁作るの?」

 「ああ、味噌もあるだろ」

 「じゃ、私やる。ふたりはお惣菜とおにぎりをお皿へ盛り付けて」

 「わかった」


 いくつか引き出しを開けて包丁を探し出したてち。その手に包丁を握ると、器用にじゃがいもの皮を剥きだした。

 お惣菜の袋を開けてたにゃっこが、つい声をかける。


 「手際いいな」

 「お母さん達、料理作るのうまくて。私も必須スキルだと思って習ってる」

 「どれぐらいのスキル?」

 「弓溜め段階解放ぐらい」

 「それは必須だな」


 私とにゃっこは、そんなてちを見ていた。

 てちには不思議なことが多いな……。

 まだ何か隠していることって、あるのかな。


 「だいぶすっきりしたね。ふたりとも」


 てちの一言で、うっかりにゃっこの顔を見てしまった。にゃっこは何も言わずどんな顔もしていなかった。

 私たちのことをどこまでわかってるのだろう……。


 「朝の散歩はいいよ。気持ちいいし」


 そうあいまいに言った私に、てちはにこにことしてくれた。





 ご飯の用意ができたので、まだ寝てるふたりを起こしに行く。

 あっちょは寝相悪くて、おなかを出して転がっていた。

 やっちんは毛布をぎゅっと抱きしめたまま、横になっていた。


 「ご飯だよ、ふたりとも」


 まずはやっちんの肩をつかんで揺する。


 ……え?


 がばっとやっちんが起きたら、そのまま腕を引きずり込まれた。思わず毛布の上に倒れ込む。そのまま別の毛布をかぶせられ、むぎゅっとされる。


 「妖怪毛布かぶせやでー」

 「やだ、ちょっと。やっちん、なにすんの」


 今度はあらぬ方向から抱きしめられた。


 「こーすんだよ」


 あっちょの声がした。ふたりで私の体をむぎゅむぎゅとされる。


 「こ、こらー」

 「あはは、ふたりのダブルタイフーン攻撃をくらうんやー」

 「この毛布はもがけばもがくほど逃げられないんだぞー」


 適当なことを言うふたりに抱きしめられる。たまにちょっとくすぐられた。じたばたとしていたら、なんだかちょっとおかしくなってきた。


 「ほら、味噌汁冷えるぞ」


 にゃっこの声で、ふたりは私を離してくれた。ゆっくりと毛布をのけると、あっちょが不機嫌そうに言ってた。


 「ちぇー。にゃっこも混ざる?」

 「混ざるか」

 「けち」


 あっちょとやっちんが起き上がる。

 ふたりにぼさぼさにされた頭を撫でながら、私はテーブルに向かう。


 「私はあの中には入れんのだろうな」


 すれ違う時に聞いたにゃっこの声は、とても寂しそうだった。





 みんなでわちゃわちゃと朝ご飯を食べる。

 良く寝た? 昨日の映画面白かったね。今日どこ行こうか。あ、この新作おにぎりおいしい。味噌汁うまいな。今日も暑くなるかな。

 バラバラな5人によって、バラバラな話題が食卓に飛び交う。

 にゃっこが買ってきたお惣菜のひじきに箸を付けながら言う。


 「コンビニ総菜でも、皿に置くとそれっぽいな」


 それにてちが答える。


 「お母さんの教え。美味しいには見た目も入るって」

 「そうか。それはいいな」


 むすっ。

 にゃっこがてちに向ける笑顔にちょっと嫉妬する。

 私は今までもそうしてきたように、そんなことを感じさせないように、感情を隠しててちに言う。


 「私も料理覚えようかな」

 「いいよ。教える」

 「てち、いいの?」

 「必須スキルを初心者に教えるのは古参ギルド員の役目」

 「そうなの?」


 にゃっこがあくびしながら言う。


 「ご飯食べたら人狩りしますか」

 「それ、字が違う気がする」


 私がそんなこと言ってたら、またみんながバラバラなことを言い出す。


 「ハーレイ・クインが使ってた釘バット欲しいな。おしゃれな奴」と、あっちょ。

 「なら服買いに行きたいわー。夏っぽいワンピ欲しいねん」と、やっちん。

 「海行きたいかも」と、てち。

 「なら、バーベキューとかどうかな?」と、私。


 にゃっこがキレたように言う。


 「お前らなー」


 みんな黙ると、にゃっこはうれしそうに言う。


 「みんなやればいいじゃん」

 「やたー」

 「そだね」

 「行こう行こう!」


 みんな楽しそう。

 夏の日差しみたく楽しそう。


 そして私には。

 雪が降る。


 そっと、本当にそっと。

 テーブルの上に置かれたにゃっこの手を握る。


 「おい」


 にゃっこの抗議を気にせず握りしめる。みんなから見えるその手を。

 にゃっこは少しだけため息をつく。

 そのまま応えるように握り返してくれた。


 嬉しかった。

 ただ、それだけで。


 この手を離さない。

 たとえこの想いが一方通行だったとしても。

 絶対に。


 覚悟を決めたよ、にゃっこ。


 私は困った顔をしてるにゃっこに笑いかける。


 死なせはしない。幸せにする。ずっと一緒にいる。

 私は本当の王子になる。にゃっこみたいな、みんなに立ち向かえる王子に。


 反対の手で、テーブルの下に隠しながら、スマホに来ていたそのメッセージを削除した。

 タイトルは「あっちょに聞いたにゃっこのこと、教えとくわ。たいへんな恋しとるな」。

 やっちんからのやさしさは、もういらないから。





 私は隠している。

 友達に恋をしていることを。

 私の中の女の子を。

 この不安と焦燥感を。


 そして決意を。





--------

次話はてちの番。ちょっと不思議なてち。てちにはみんなには隠している秘密があって……。

お楽しみに!



推奨BGM:

小松未可子『Pains』

鹿乃『世界で一番近くにいるのに』

あたらよ『夏霞』

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