【Ex- 042】学校一のクール系美女と学校一の陽キャ王子が実はちょっと残念な件について

「俺、嶺さんに告ろうと思うんだよね」


 焼きそばパンを頬張りながら俺は言う。友人の旭川は、「おー」とマジで興味のなさそうな声で相槌を打った。

「お前、それ去年の秋から言ってるよな。なんで告ってないの、逆に」

「俺だって告れるもんなら告ってるよ」

「チキってるだけなのになんか事情があるみたいな言い方やめろ」


 嶺さんといえば、この学校一のクール系美女だ。容姿はもちろん、佇まいまで品があって美しい。少しばかり近寄りがたいのが玉に瑕、と周りのやつらは言うが、俺にはよくわからない。話しかければ返事をしてくれるし、声までめっちゃ可愛い。


「お前さ、普通に女子からモテるじゃん。なんで嶺さんにはそんな奥手なんだよ」

「嶺さん以外からモテてもな……」

「殺していいか? 全男子と全女子を代表して」

「旭川って人類の代表だったんだ」


 とにかく、今日の俺の決意は固い。どれぐらい固いかというとサイゼのプリンぐらい固い。そしてあれはめっちゃ美味い。

 万事思い立ったが吉日の俺は、早速嶺さんに声をかけることにした。




×××××




「嶺さん、今帰り?」

「……そうだけど」


 嶺さんはちょっと俯きがちに俺を見て、瞬きをした。そんな仕草が一々可愛い。頭を掻きながら、俺は「隣歩いていい?」と訊いてみる。嶺さんは軽く首を傾げただけで、何も答えなかった。

「あのさー、嶺さん」

「……うん」

「す……すちっ、す、好きな寿司ネタ何?」

「えんがわ」

 嶺さんはえんがわが好きなようだ。俺はあれを食べたことがない。なんか寿司屋行ってわざわざ白身魚食おうと思わなくないか? いやでも嶺さんが言うなら今度食べてみようと思う。うめえんだろうな。つうか嶺さんの口から出てきた名前というだけでもう美味い。

「小林は?」

「えっ」

「小林は、何が好きなの」

「あっ、俺? チャーシュー麵かな」

 嶺さんは一瞬だけ俺を胡乱な目で見て、すぐに「ふうん」と言いながら前を向いた。


「あのさ、」

「何?」

「す、好きな人とか……いるの、嶺さん」

「え……」


 嶺さんは少し目を丸くして、「なんで?」と俺を見る。俺は盛大にきょどってしまい、「いや芸能人とかでさ」とごまかしてしまった。嶺さんは少し考える素振りを見せ、口を開く。

「キムタク」

「ああ……」

 キムタクかぁ、と俺は呟いた。その後は何となく口数が減り、やがて「バイバイ」と別れた。

 俺は一人で歩きながら、もう一度「キムタクかぁ」と呟いた。




×××××




 内心早まる鼓動を押さえつけながら、私は速足で歩く。

 好きな芸能人なんて聞かれると思わなかったからちょっと焦った。というか普段三次元に触れないから、ちょうどよく『ああ……』ってなるラインの芸能人がパッと出てこないんだよ。まあでも『ああ……』ってなってくれて助かった。ありがとうキムタク。いつまでもそのラインの現役でいてくれ。


 小林との距離が十分に離れたあたりで、私は息を吐く。歩くスピードを緩める。


 あいつほんと、なんで私なんかに話しかけてくるんだろう。陽キャにも程がある。そのたびに大騒ぎな私の心臓を慮ってほしい。

 もう一度、深いため息をつく。


「ラーメン好きなんだ、小林……。なんか、解釈一致だな」


 いや寿司ネタのくだりは全然意味わからなかったけど。何なんだろう、あいつ。マジ時々『なんだこいつ』って思うわ。そんで私はなんであんなやつが好きなんだろう。謎すぎ。




×××××




 焼きそばパンをむさぼりながら、俺は頬杖をつく。旭川は目の前で午後ティーをキメて、そんな俺を面倒そうに見ていた。

「あのさぁ、旭川」と俺は口を開く。

「客観的な意見を聞きたいんだけど」

「おうよ。俺は客観的な男よ」

 俺は遠くを見た。空の彼方にライバルの姿を幻視する。

「俺、どっかキムタクに勝てるようなところあるかな」

 ストローから口を離した旭川が俺のことをじろじろと見る。それから手元のトッポを口に運び、また俺を見て「ははは」と笑った。


「来世に期待だな」


 そう言って、旭川は俺に親指を立ててみせた。

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