【Ex- 050】それちがうんじゃね

 僕の最近の悩みを聞いてもらえるかい。

 僕は佐藤遼太郎、どこにでも居る取り立てて取り柄のない普通の男だ。愛する妻と娘と三人で慎ましくも幸せに暮している。


 悩みというのは、娘の事なんだが、最近娘が怖い。いやいや、可愛いよ。それこそ目に中に入れても痛くないくらい。親の欲目でなく、町内一可愛いと思っている。細くて柔らかくセピアっぽい長い髪をハーフツインテールにしていると、どこのジュニアアイドルかってくらいだし。それに、いつもは素直で聞き分けが良くて、声を荒げてしかる必要もない。とても良い娘なんだ。


 それのどこが怖いんだって。そりゃ、夜中に首が回ったり、口から緑色の粘っこい何かを吐いたりするようなオカルトホラーじゃないよ。ふと見せる仕草や、僕に向ける表情が何と言うか子供っぽくないと言うか妙に色っぽいんだ。


 昔から、妻よりも僕に張り付いている事が多い娘で、僕とばかり遊びたがる娘だった。清潔好きで自分からお風呂に誘ってくるし、背中を流してくれたり手のかからない娘だったよ。

 それが、小学校四年生になり、細いからだが丸みを帯び始めた頃から、僕に執着を見せ始めた。妻に何かにつけて張り合おうとするし、夜の、その何と言うか営みを覗こうとしたり、時には妻と雰囲気が盛り上がってきた頃に突然ドアを開けて「怖くて眠れない」と言って寝室に入ってきたり、それが、なにをしているか興味があると言うより、邪魔をしようとしているようにしか思えないタイミングなんだ。

 妻に言っても気のせいだと言って取りあってもくれない。


 この間、久しぶりに一緒に風呂に入っていたら、最近忙しくて帰るのが遅くなっていてなかなか一緒に風呂に入れなかったんだ、最初は不機嫌な顔ががだんだん機嫌が良くなってきて「背中流してあげる!」と言って背中を洗い始めてくれた。


 それは良いんだよ。子供が親の背中を洗ってくれるなんて、親思いの美談じゃないか。それが、背中を洗い終わった後、ぴたりと背中に張り付いて後ろから短い手を無理やり前に回して僕の○○○を洗おうとし始めるんだ。無論、アタマじゃないぞ。


「何するんだ。華羽かわちゃん、ここは洗わなくてもいいから」

「だめだよ。そこは綺麗にしていないと嫌われるよ」


 ボディシャンプーでぬるぬるの娘の小さな手で触られて思わず反応しそうになってくる。あわてて手を押しのけて、強めの声で窘めた。


「いいよ、パパ自分で洗えるから」

「いいの、わたしが洗ってあげたいの!」


 半分反応し始めている○○○を冷たい水で洗って治める。


「いいから、自分で洗うから」


 風呂場で押し問答してるもんだから、妻が様子を見に来ちゃって、娘が自分の○○○を洗おうとするんで押し問答していたなんてさすがに言えないから適当にごまかしたよ。まったく、まいったよ。

 そんなことならもう一緒にお風呂に入れないと、はっきり断わったら、娘の機嫌が無茶苦茶悪くなってしまって、もう一週間話をしてくれていない。妻は僕が何かしたんだろうと疑い始めているし散々だ。


 僕は洗ってもらったほうが良かったのか? いやいやいや、それはまずいだろう。

 それは、まずいと言ってくれ。断わったのは当然だと言ってもらえれば、少しは安心できる。


 愛する妻と、愛する娘が居るこの幸せな家庭を壊したくないんだ。当たり前だろう。僕はどうしたら良いんだ。


 昨日なんて、やっと機嫌が直ってきた娘が僕の布団に潜り込んできてぼそっとね。


「パパ、わたしパパのこと大好きだよ。もうすぐ赤ちゃんだって産めるようになるし、数年もしたらもっともっと娘の子ぽくなって、エッチだってできるようになるよ」

華羽かわ、何を言ってるんだ。いい加減にしなさい。そんなことする訳ないだろう。パパだっていい加減怒……」


 大声でしかろうとしたら、すっと唇に人さし指を当てて、子供とは思えない声を上げる。


「シーッ! わたしは今度こそは遼太郎くんとひとつになるの。その為に生まれ変わったんだから」


 その声の響きには覚えがあった、幼なじみのなっちゃんの声、もう二十年になるだろうか将来を約束していた。果たせなかった後悔は切なく心に残る。青春の思い出、もう思い出す事もなかった。そう言えば十年前の臨死体験の時に……


「それちがうんじゃね。地獄行きでしょ」


 思わず素の返事が出た。


「あっちで聞いたから、今は地獄も規制緩和で大丈夫だよ」


 この世で大丈夫じゃないよ。


 教えてくれ。僕はどうしたら良い?

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