【No. 172】ピアス
日曜日と月曜日の週に二回、同じ授業があります。
どちらかには出席をしてください。
各教科、二十回以上出席することと、提出物を期日内に提出することで単位を得ることが出来ます。
卒業に必要な単位数は各自で確認してください。
膝丈のスカート。セーラー服。
黒髪。肩より長い髪は縛らなければ行けない。
おんなじ格好。おんなじ制服。
休み時間は用がなくても一緒にトイレ。まる文字でくだらないことを書いたメモ帳を小さく折って、先生に見つからないようにこっそり渡す。
女子だけの暗黙のルール。暗黙の了解。
それが疎ましくて嫌だった。
でも、一歩踏み外してみたのは、失敗したと思った。
女子の暗黙のルールは、この小さな
つまり、それを拒んだわたしは、異端児で、腐ったみかんだった。
イジメこそなかったけれど、壁を作られているのは明らかで、わたしは学校に行くことを辞めてしまった。
一緒に染まることを拒んだだけで、社会不適合者なのだろうか。
「リイナ、通信制行ったらどう?」
学校や勉強が嫌いな訳ではなかったから、母親に勧められるままに通信制のある高校へ進学した。
桜が舞う中、体育館で静かに入学式が行われた。
想像していた高校の入学式と違って、保護者も少なければ出迎えてくれた在校生も少ない。
制服が無いため、スーツの人からシャツにデニムというラフな格好の人も居るし、年齢制限が無いため、両親より年上の人が同じ新入生の席に居たりする。
つい数日前まで、同じ年の子供達と似たような格好をして、ひとつの教室に詰め込まれていたのが嘘みたいだ。
入学式のあと、学校の説明があるということで視聴覚室へと移動した。
ずらりと並ぶ机と椅子に、好きに腰を下ろしている。
わたしは廊下から入ってすぐの席に腰を下ろした。
「ここ、空いてます?」
顔を上げると、その女の子の容姿に心を奪われた。
左目には白目と黒目が逆に見えるカラコン。スッと通った鼻筋の横にきらりと光る鼻ピアス。髪はブルーからピンクへと変わるグラデーション。
首元や腕にはゴツいシルバーのアクセサリー。着ているものは破れていて、安全ピンがあちこち付いている。
「ど、どうぞ」
「どーも」
可愛い顔立ちにおよそ似合わぬ、パンクファッションは突き抜けていてカッコイイ。
ちらちらと彼女を見ていると、「なに?」と、不機嫌そうなトーンで声をかけられた。
「いや、あの、その……カッコイイなって思って」
「そう?」
「うん」
どーも、と彼女がぶっきらぼうに言って、会話は途切れてしまった。
同い年くらいの女の子と話すのは緊張する。
けど、もっと、彼女のことを知りたい。
友達になりたい。
でも、勇気が出なくて……次に会えたら、とその日はそのまま帰ってしまった。
それから、彼女に会えないまま一年が過ぎてしまった。
スクーリングは週に二回。わたしとすれ違いで授業を受けているのかもしれない。学園祭などのイベントも強制参加ではないし、なにかしらのイベントに出ていれば出席とみなされるので、全部のイベントに出ている生徒のほうが稀だ。
彼女に出会ってから、わたしの中で何かが弾けた気がする。
初めは皮膚科に行って、耳朶にピアスホールを開けてもらった。
それから、彼女と同じパンクファッション……ではなく、ゴスロリファッションに目覚めて、クローゼットを着々と侵食している。
両親は最初渋い顔をしていたけれど、最近は受け入れてくれるようになった。
二階の教室から校庭に咲く桜を見下ろしていると、黒髪に白のメッシュを入れた丸い後頭部が見えた。
一瞬で、あの子だとわかった。
わたしはおまじないのように耳朶のピアスに触れると、適当に言い訳をして授業中の教室を飛び出した。
単位のことが頭を過ぎったけど、それよりも彼女に会えるタイミングはもうないかもしれない。
「こ、こんにちは!」
まだ桜の木の下に居た彼女は、わたしの顔を見て首を傾げる。
「覚えてないよね? 去年、入学式の日に教室で隣の席だったんだけど」
「あー……あの子か。なんか、めっちゃ変わったね。気付かなかった」
「わたし、ずっと変わりたかったんだ。あなたを見て、変わる勇気を持てたの。
一年間ずっと、あなたに会えたら言おうと思ってました。
――わたしの、お友達になってください!」
返事の代わりに、大きな笑い声が返ってくる。
ひらりひらり、花びらが風に流れる。
「なんかそれ、プロポーズみたいだな」
いいよ、と笑う彼女に、わたしまでつられて笑ってしまった。
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