【No. 151】サイカイノサダメ
恨めしいほどに広がる青空の下、俺は独り歩いている。
背後から吹いてくる風は気持ちがいい。大して急ぎたくもないのに、急かすように背中を押してくる感じは実にうざったくて気持ちがいい。清々しいまでに嫌味な風だ。
閑静な住宅街というほど格式の高い場所ではないが、そういう戸建てやらそれなりの大きさのマンションなどが建ち並ぶ一角の、ど真ん中を突っ切るように通る片側2車線道路。街路樹が立ってもそれなりの広さのある歩道に、自転車が2台横に並んだとしてもまだ余裕のある路側帯が設けられてはいる。
だが、それなりの速度で駆け抜けていく車からの風は、当然ながらそれなりに強い。生ぬるさをまとった風は、ただ単純に嫌味ったらしい。
空を見て、街並を見て、終日(ひねもす)のたりのたりかな。
このままちょっとコンビニにでも寄って、アイスなんかを買い込むのも悪くはない――。
――がすっ。
「いでっ」
「おい、ちょっとは走れ」
後頭部に軽い衝撃。
振り返る必要もない。その衝撃の原因は、すぐ横に並んできた。
「おぉ。久しぶりのサイカイじゃねえか」
「うるせえ、周回遅れのサイカイの間違いだろ」
「良いんだよ、俺は意図的にやってんだから」
「どこが良いんだよ。……っつーか、意図的にやんな。余計タチが悪いだろ」
「しゃーねえだろうが、何でこんな気持ちの良い天気(ただしクソ暑くなってきてる)で、何で外周なんてやらなきゃいけねんだよ。この後走って帰らなきゃいけないこっちの身にもなれ、ってんだよ」
「それこそ、そんなの知らねえよ、って話だろ。だったらお前も、駅前の駐輪場に、自転車置けば良かっただろうが」
「枠が埋まってて、もうダメだったんだよ」
「あと……、普通に俺と、併走してんじゃ、ねえよ」
「意図的にやるな、って言われたからなぁ」
「駄々をこねるな、っつーの」
そんなことを言っているつもりなんかないのだが。
「お前、毎回外周ランニングのときそうだけど、よくバレないよな」
「そりゃあもちろん、ウマいことやってますし?」
「世渡りだけはウマいよなぁ……」
「だから、お前との時間は息抜きに使わせてもらってる。……感謝、してるぜ?」
「うっぜー!」
何なら、良い隠れ穴的存在でも教えてやろうか。
「……っていうか、追いついて来れんなら普段からもうちょっとやる気出せって」
「ヤだ」
「即答かよ」
「当たり前だろ」
考えるまでもない。
「あ、そうだ」
「何だ」
「財布ある?」
「お前に貸す金はない」
「……先手を打ちやがったか」
「どーせお前、コンビニでも寄る気だったろ」
「さすが」
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