5月28日 公開分

【No. 139】短篇小説はこうして創られる。

「でさ、どうする?」

「ここまで三作しか出せてないから流石にもうちょっと書きたいよね」

「確かに」

「でも再会ってテーマ、意外と難しくない?」

「あーわかる。なんかこう、アイデア思いついても妙に凡庸だったり他と被っちゃったり」

「だろうね。そもそも再会したってだけである程度のドラマが発生しちゃうから、そこから発想し始めるとできる事が限られちゃうんだよ。だからどうしても既視感がついて回る」

「そういうことかー」

「だからほら、味覚に関する思い出とかタイムカプセルとかのアイデアは僕らもあったけど先に書かれちゃったりするわけで。そうなると別に同じことやらなくてもいいかなってなっちゃうし」

「だよねー」

「だからさ、まだ誰にも書かれていないアイデア出してよ」

「出してよって言われてもなあ……」

「でもまあ正直、組み立てのパターンは二つしかないんだよ」

「ん? どゆこと?」

「前半でさくっと再会してそこから何をさせるのか。逆に前半で色々遊んでから最後に再会して伏線回収するかの二つ。文字数が限られてるからこれ以上やろうとすると窮屈になっちゃう」

「確かに」

「しかも再会ってことは、元々近しい人やら物やらと一旦別れてまた出会うわけだから、ここのパターンもある程度限られてくるわけよ」

「親子とか恋人とかライバルとかってこと?」

「そうそう。大事なペットとか思い出の品とか料理とか。そのほとんどが既視感と繋がっちゃう」

「じゃあ手詰まりじゃん」

「いやまあそうなんだけど、そこをなんとかひねり出してみんなをびっくりさせたいってこと」

「無茶言うなあ」

「まあ考えるぐらい考えてみようよ」

「んー、しょうがない。とりあえずやってみますか」

「ではまずパターンAから」

「最初に出会っちゃうパターンてことね」

「そうそれ」

「……何人かが久しぶりに集まる。……昔話に花が咲く」

「普通だなあ」

「導入は普通でいいの」

「まあそうか。それでそれで?」

「で、みんなで何かをして、何か違和感が起こればそれなりの物語になる」

「違和感か。いいねえ。嫌いじゃない。でもまだ肝心の物語が全然見えてこないよ?」

「……放送部だな。放送部員の何人かが久しぶりに集まる」

「ほう」

「そのメンバーでのお昼の放送の最終回の後に、ちょっとした座談会みたいなのをやっていて、その時の音源を誰かが持っている」

「いいねいいね」

「久しぶりに集まったわけだし数年ぶりに音源を聞いてみようという話になって、パソコンか何かで聞くことになる」

「うん」

「仮に五人で集まっていたとして、聞いてみると六人で喋っていることが分かる。そしてその六人目のことを誰も知らない」

「おおー」

「このAって奴、誰だ? こんな奴いたっけ? 俺知らないけど……誰か知ってるやついる? 全員が首を横に振る。後輩とかでもないし……じゃあ、こいつ……誰? って」

「おおー、すごい。それは怖いなあ」

「はは、ちゃんとホラーになった」

「この内容だったら、舞台は夏のビアガーデンの後ってことにして怪談っぽく仕上げたいかな。酔いも一気に醒めちゃうみたいな。で、ラストはどうすんの?」

「ラストかあ。ラスト……いまいち思いつかないんだけど。どうしよ?」

「おいおい」

「まあでもほら、恐怖に凍り付いた五人が窓の外を見るとそこに人影がーとか、どこからともなくクスクスと小さな笑い声が聞こえて来て、その声が音源の六人目そっくりだったりとかにして、書くときに上手くボカシてやればいけるんじゃない?」

「それじゃああまりにも誠実さに欠けるなあ」

「そうかなあ。よく使われる手口な気がするけど」

「ヒッチコックの逸話でこういうのがある。自動車工場のベルトコンベアの映像をノーカットで回し続ける。だんだん自動車が組みあがって完成して、ドアを開けると中から死体が転がり出てくる」

「おお、かっこいい」

「でもこれは結局映画にならなかった。この映像をうまく使える物語を作り出せなかったからだそうだ」

「あー」

「つまり、ただ怖いってだけで小説にしちゃだめってことだよ」

「面倒くさいなあもう。じゃあこれは没ね」

「でもアイデア自体は良かったからストックしておこう。これはこれで他のアイデアと組み合わせたら面白いものが出来るかもしれない」

「はーい」

「じゃあ気を取り直してパターンBいってみましょう」

「最後に再会するパターンか……どうしようかな」

「どうするどうする?」

「ちぇ、執筆担当は無責任でいいなあ」

「その代わりあとでたっぷり苦労するから大丈夫♪」

「ったく、最後に再会ねえ……ん? あれ? ほら、あれ使えるかも。サービスエリアの」

「短編にしようとしてまだ書いてないあれか。でもあれって再会する要素なくない? そもそも登場人物が一人しかいないし」

「そんなことないよ。最後のシーンは○○の○○と再会したって捉えることもできるんじゃないかな」

「あー、確かに」

「尺も二五〇〇字で丁度収まりそうな気がする」

「ありだな。……よし。今回はサービスエリアでいきますか」

「やったね。じゃああとよろしく♪」

「待て待て、まだ時間あるしサービスエリアまでドライブしよう」

「えー、短編ぐらいでそこまでしなくてもネットで検索したら出てくるって。無駄だよ無駄」

「短編か長編かなんて関係ないよ。ロケハンできる場所はできるだけロケハンしたほうが良いって。ほら、押井守も『映画の質を高めるためにはどれだけ捨てられるかが大事』って言ってたし。無駄足は踏めるだけ踏むべきなんだよ」

「そういうとこ相変わらず頑固だよなあ」

「頑固はお互い様。さ、いこっか」

「うへーい」

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