【No. 133】龍神様への捧げ物
美代の祖母も母も叔母も
一年前の新月の晩、姉はかつての母達と同じように物語の束を携えて入江に赴いた。男衆が
姉が喰われたのは物語が龍神の気に食わなかったためか、それとも己が掟を破ったためか。深き
潮と共に時は満ちた。波の寄せる入江に輿を下ろし、去り際に男の一人が言う。
「
「はい。龍神様のお
大人達の手前、しおらしい態度を装いつつも、美代は姉の
岩肌に染み込んだ涙の跡を手で示し、物語の
轟々と渦巻く風雨の中を半刻程も飛んだろうか、訳も分からぬままに美代が降ろされたのは見知らぬ浜辺だった。いつしか嵐は去り、穏やかに寄せる波音が夜の
「もじら様がここに連れてきて下さったの。もじら様は私達の願いを叶えて下さったのよ」
その一言で美代も全てを悟った。島で生きる限り、身分違いのこの男と結ばれることは叶わぬ。ゆえに姉は龍神に願ったのだ。海を越えた
美代が咄嗟に振り仰ぐと、龍神の眼は心なしか優しく見えた。声ならぬ声が響いた気がした――美しき物語の礼だ、と。姉には既にその言葉は聴こえぬようだったが、夫と共に龍神を見上げるその瞳は畏敬と感謝の念に満ちて見えた。
「ごめんね、美代」
姉には謝られたが、責める気は起こらなかった。二人と共に龍神の赤き瞳を見上げ、もじら様、と美代は呟いていた。先祖達がその呼び名に込めた想いを美代は改めて悟った。人語を解し物語を聴き分け、人の願いまでも聞き入れてくれる海の護り神。それと心を通わす
島に戻り、母や叔母と言葉を交わす中でもう一つ察したことがある――母達は姉の身に起きた真実に気付いているのではないか。母達もまたもじら様と長く付き合い、その気性を見知ってきたのだから。しかし、それより後、美代がそれを母達に尋ねることも、母達が姉の名を口に出すこともなかった。もじら様と自分達だけの
婿を取り子を産むまでの間、美代が
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