【No. 130】素敵な再会のための言語フェチ的萌え作品ピックアップ ~作者の人そこまで考えてないと思うよ~【GL要素あり】

「あら、おねえさま、ご機嫌よう。早かったですわね」

「生徒会の会議が思ったより早く終わったの。それより何かしら、その印刷物の山は。部室のプリンタを私用に使うのは頂けないわよ」

「今回の匿名コンで気になる作品を読み直していましたの。おねえさまも、素敵な小説は紙の形で読みたいでしょう?」

「ええ……というか、どうしたの、今日は『おねえさま』だなんて。普段そんなにベタベタしてこないじゃない」

「うふふ、【GL要素あり】タグを埋めようと思って。ご覧になって、昨日までの126作品で【残酷描写】【暴力描写】【性描写】【ホラー要素】【BL要素】までは揃っているのに、まだ【GL要素】の作品は出ていませんの。タグのコンプリートをお手伝いする参加者の鑑でしょう」

「それはいいけど、わたし達の関係はGLと呼べるのかしら。ただの部活の先輩と後輩よ」

「今のところは、でしょう?」

「はいはい。それで、これがお気に入りの作品? 随分と熱心に付箋が貼ってあるわね」

「皆様と素敵な作品たちの再会の一助にしてもらえればと思って、的に萌える作品を抜き出してみましたの」

「言語フェチ……。そういえば、『【No. 056】2,500字後に君は死ぬ』の作中で、イケメンさんがいきなり流暢にイタリア語を喋りだしたりしてたわね。ああいうのが好きなの?」

「あれも嫌いじゃありませんけど、【No. 056】は今さらいいでしょう。どうせ板野さんの作品でしょうし」

「あら、どうして断言できるの?」

「わかりますわよ。どんなに推奨されたところで、あのベニヤ野郎を作中でベニヤ野郎呼ばわりする勇気のある参加者なんて、そうそう居ませんわ」

「してる、あなたが今してる」

「作者さん、違ったらごめんなさいね。でも、どなたの作品であろうと、あちらは既に十分ポイントを稼いでいますわ。わたくしが光を当てたいのは、まだ十分に皆様の目に触れていない、眠り姫のような作品たちでしてよ」

「そう……まぁいいんじゃないかしら。全作キャッチコピーマラソンや、抜き打ちテストに挑戦しておられる方もいるものね。作品に再会の光を当てるのはいいことだわ」

「ふふ。その観点からまず取り上げたいのは、『【No. 065】復讐のローサ・クルエンタ 第Ⅶ章・令和JK編』ですわ」

「あぁ、古の復讐少女が現代に転生する……。確か作中でラテン語かなにか喋っていたわね」

「板野さんのTwitterのデータによると、この作品、なぜか極端にPVの谷間になっているんですの。それでいて、『得点/PV』の値は上位につけている。つまり、ポテンシャルはきっとあるのに、読まれず埋もれている可哀想な作品なのですわ」

「まぁ、あなたは好きそうね。シリアスからコメディに急転するこの空気」

「それに、おねえさま、ご存知? この作品、『【No. 098】天国の咲楽へ』と繋がっていますの」

「同じ血染めの薔薇ローサ・クルエンタと名乗っていたわね」

「言語フェチ的萌えポイントは、むしろこの【No. 098】ですわ。作中、日本語のまだ拙いローサさんが、ヒロコさんと初めて話す際に――


 「私は持たない、サクラの記憶を」と、いかにも印欧語の話者が付け焼刃で覚えたような

 不自然な語順になっているのですわ。その上、後にヒロコさんに名前を名乗るシーンでは

 ローサ・クルエンタと名乗りながら、意味を述べる際には「クルエントゥス」と言ってて

 つまり女性名詞のローサに合わせて語形変化する前の原形をここでは使ってるのですけど

 クルエンタはクルエントゥスの女性形だ、なんて説明を彼女がすることはないのですわ。

 なぜなら、彼女はきっとこれまで印欧語圏でしか生きてこなくて、形容詞の性・数一致が

 言語野に染み付いているものだから、逆にそれがない言語話者の感覚を想定できない――

 だから、ヒロコちゃんに名前を説明するにあたり、クルエンタとクルエントゥスの違いに

 言及しようという発想自体が出てこないのですわ。仮に日本語話者の感覚でたとえると、

 「咲楽の名前が『ラク』という字なのは……」「えっ、その字は『ラ』なんじゃないの」

 みたいな感じかしら。漢字の読みが変わることから説明しなければという感覚がない……

 この絶妙な噛み合わなさで、ローサさんの言語感覚や日本語への不慣れさを表したシーン


 ――というわけなの。どう、おねえさま?」

「どうって言われても……。作者の方、多分そこまで考えてないと思うわよ」

「では、こちらはどうかしら。まず、『【No. 078】私信』では、ロシア語やロシア人名をそれとわかる形で散りばめることで、ロシアという国名を直接出すことなく今の世界情勢を連想させる工夫があったのですけど――」

「ええ、素敵な試みだったわね」

「実は、そちらと似たような工夫がなされているのが、『【No. 083】手を伸ばせば届きそうなあの星から』なのですわ」

「えっ? だってこれは架空の惑星が舞台のお話でしょ?」

「だけど、ご覧になって。『ミースャチ』や『兄星スタールシィ』なんて、スラブ系言語を思わせるルビが随所に振られていますわ。だけどロシア語とは微妙に違う……だから、わたくし、調べてみましたの。そうしたら、ウクライナ語でмісяцьミースャチは月、старшийスタールシィは上のきょうだいを表す単語でしたわ。つまりこの作品は、隣りあう大国の脅威に晒されるかの国の悲劇を描いた寓話なのでしてよ」

「だから、深読みしすぎよ。作者の方、絶対そこまで考えてないって」

「言語フェチ的萌え作品はまだありますわ。『【No. 107】ナゥワを返すために』では、ポリネシア系を思わせる架空言語が効果的に用いられていますけど」

「ええ、素敵な雰囲気の演出になっているわね」

「お茶を表す『テ』だけは、いかにも外来語的で異質な響きなのですわ。きっとこれは、何世紀か前に外洋からお茶が伝わってきて、この島の文化に取り込まれたことを示していましてよ」

「あぁ、お茶は世界中でチャとかティーって言うって、あなた前に言ってたものね」

「そうした背景を作中で特に語らず、さらっと入れてくるのがキュンとするのですわ。それでいうと、昨夜公開されたばかりの『【No. 125】幼馴染はちんこくさい』もたまりませんわね。前半はいわゆるエセ中国語なのですけど、ほら、中国語の書式に合わせて、行頭の字下げが二マスありますの。この字下げで、日本語の文章に不慣れなことを表しているのですわ」

「なんだかそう言われてみるとそんな気がしてきたわね……」

「『会うヴヮール』という言葉をさらっと掲げた『【No. 092】Café Voir』や、さりげなく共通語がエスペラントになっている『【No. 112】光の旅人』のセンスも素敵でしょう。昔のSFだと、宇宙時代にはエスペラントが世界言語になると書き手も読み手も無邪気に信じていたものですわ……」

「あなたは一体いくつなのよ。さあ、そろそろ机の上を片付けてちょうだい。お喋りはこれくらいにして、の活動を始めましょう」

「ええ。ネカマ地区大会の予選も来週に迫っていますものね」

「どうでもいいけど、あなた、やっぱりタグの【GL要素あり】は看板に偽りありだわよ。今からでも板野さんに謝って外してもらったら?」

「あら、実はあれ、タグじゃなくてタイトルの一部ですわ。『がっかり嘘吐きライアー要素あり』の略でしてよ」

最下位サイカイになってしまいなさい」

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