【No. 107】ナゥワを返すために
島に入る前の身体検査と荷物検査と消毒は念入りだった。これは、生態系を壊すような生き物、その卵、種子、菌類などが入り込まないようにするため必要なことだ。
先生に続いて島に降りる。船はあっという間に走り去って、私と先生は取り残される。そしてすぐに、この島の人たちが何人かやってきた。
先頭の一人は頭に木彫りの冠を載せている。そしてその冠は鳥の羽で飾られている。その人は先生を見て、顔をくしゃくしゃっとさせた。
それ以外の人も、量はそれぞれだけれど髪や頭のどこかに鳥の羽を飾っていた。そして、物珍しそうな視線で先生と私を眺めている。
鳥の羽を飾るのは、自分を強く見せるためのことらしい。やがてそれが正装に近い意味合いを持つようになった。特別な日には自分を強く立派に見せなければならない。
私は先生に言われていた通りに両手のひらを下に向けて重ねて、胸の前に持ち上げた。これは「はじめまして」の挨拶らしい。元々は「
私の仕草を見た人たちが、冠の人の後ろで視線を交わし合った。
先生も同じ仕草をしながら、ゆっくりと先頭の冠の人に近付く。冠の人も同じ仕草をして、二歩、先生に向かって踏み出した。向かい合って立つと、先生は自分の額に右手を当てた。それから、その手を相手に向かって差し出す。冠の人はそのてのひらをそっと撫でた。
それから、冠の人も同じように自分の額に右手を当てて、その手を先生に向かって差し出した。先生も同じようにそのてのひらをそっと撫でた。
この仕草の意味を、私は先生に聞いていなかった。教えてもらっていないということは、これは私はやらなくて良いということなんだろう。だから私は「はじめまして」の仕草を崩さずに、先生と冠の人が何事か話すのをただ見ていただけだった。
後になってから、二人のそれは再会したときの仕草なのだと、先生に教えてもらった。元々は「
島の人たちの邪魔をしないよう、先生と私は静かに観察をする予定だった。けれど、私たちが近くにいると、島の人たちは正装をしようとする。普段の暮らしぶりにはならないようだった。
先生は「前は一ヶ月かかっても駄目だった。その次にきたときには三日で普段通りになってくれた。今回は初めての君がいるからまた一ヶ月、正装を見ることになるかもしれない」と言っていた。ただ観察するだけというのも難しい。
「それもまた、この島の人たちの感性だ。こちらから正装を解くようにお願いすることはできない。ただ静かに待つしかない」
先生の言葉に溜息混じりに頷いて、正装をする人たちの姿をカメラで記録した。
夜には冠の人(
私は、この島の言葉はまだあまり聞き取りができない。
ととん、と足音がして、若い女の人が
それから先生の
女の人は私の前にもやってきて、私の
「まず一口飲むのは信頼の証だ。それからカップを軽く持ち上げるのは感謝」
頷いて、先生に言われた通りに一口飲んで、それから
「ペグン・パグ」
私の前に座った女の人が、そう言った。どうやら話しかけられているらしいと、気付いたのは一瞬の後だった。私の反応がなかったからか、彼女がもう一度口を開く。
「
「
なんとか頷けば、彼女はほっとしたように笑った。
「
彼女は、好奇心に目を輝かせていた。私や先生が彼らの話を聞きたいと思うように、彼女は私の話、島の外の話を聞きたいらしい。
しかし、私には彼女と共通の語彙があまりない。何を話せば良いだろうか。
「
私の発音は辿々しく、私が話せないということを彼女に伝えるには充分すぎた。彼女の残念そうな顔に申し訳ない気分になる。
「
謝れば、笑って「
彼女は
今回の滞在期間が終わりを迎える。明日には迎えの船がくる。その夜に
その途中で、彼女がそっと私の袖を引いた。誘われるままに中座して後に続けば、外の暗い中に連れてゆかれた。家から漏れる灯りでなんとか輪郭が見える。
彼女は自分の胸に手を当てた後、そのてのひらを私の額に当てた。温かい。彼女のてのひらの熱が、私の体の中に入ってくる。
その仕草の意味はわからないまま、それでも求められている気がして、私も同じように彼女の額にてのひらを当てた。ようやく暗闇に慣れてきた目には、彼女の微笑みが見えた。
帰りの船の中でその意味を先生に聞く。
それは「また会いたい」。そして元々は「私の
私はきっとまたあの島に行くだろう。彼女の
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