【No. 108】過去改変する奴って生が思い通りになるまで駄々をこね続けるの?

 俺が何度もタイムループを繰り返しているのは、留美にもう一度会うためだ。

2500年に発明されたタイムマシンは便利なことには違いないのだが、悪用する人間も後を絶たない。便利な技術が出始めたころによくあることで、規制する法律が間に合っていないのだ。悪の歴史改変者悪杉わるすぎが行った歴史改変のせいで、俺の彼女の留美は消えてしまった。だから俺もタイムマシンを使って留美が存在している歴史を取り戻すんだ。

 過去改変をするには、元の歴史のことと今の歴史のことを両方覚えておく必要がある。留美のことを覚えていなければ、留美を救うための歴史改変なんてできるわけがない。当たり前のことだ。一方で、「俺が留美を覚えていること」が既に過去改変的な要素を持っているから、俺がそのことで必要以上の影響を歴史に与えないためには、「俺は留美を覚えていない」必要がある。俺は留美のことを覚えているし、同時に、留美のことを忘れているし、また必要になった時だけ、留美のことを思い出し、留美のことをまた忘れ、そして留美のことを忘れたことすら忘れることができる。ま、もっと端的に説明するなら、「1984」って小説に出てきた二重思考ダブルシンクってやつだ。慣れたらさほど難しくはない。

 さて、このあたりでいいはずだ。俺は佐藤という男がここを通りすがるのを知っている。「すみません、道を尋ねてもいいですか」と通りがかった佐藤に尋ねる。佐藤は親切だから駅までの道を教えてくれた。佐藤は本来なら、今日ウォーキング中に倒れている女性を発見して救急車を呼び、それがきっかけでその女性と結婚することになる未来。だがこれで時間を稼いだ結果、その女性を発見して助けるのは別の人間になり、それによって未来が変わる。


 俺が何度もタイムループを繰り返しているのは、英子にもう一度会うためだ。

2439年に発明されたタイムマシンを始めて使った時、四杉よすぎ博士はうっかり過去を変えてしまったんだ。本人は反省しきっているが、だからと言ってそのせいで消えた俺の英子が戻ってくるわけじゃない。だから俺もタイムマシンを使って英子が存在している歴史を取り戻すんだ。

 過去改変をするには、元の歴史のことと今の歴史のことを両方覚えておく必要がある。端的に説明するなら、「1985」って小説に出てきた複数思考マルチシンクってやつだ。慣れたらさほど難しくはない。

 さて、このあたりでいいはずだ。俺は有田という子供(10歳)がここを通りすがるのを知っている。有田に大きな声をかけると、不審者に絡まれたと思って逃げていく。有田は迂回路を通ることで、たまたま自動車事故を回避する。それによって未来が変わる。


 俺が何度もタイムループを繰り返しているのは、逡咏セにもう一度会うためだ。

宇宙歴142年に発明されたタイムマシンなんて今は割と誰も使ってない。なんでって、人類が超高速を持って宇宙に進出したこの時代は宇宙に行けば無限の土地、無限の資源、無限の科学的発見が待っている、まさに第二の大開拓時代なのだ。そんな時代にわざわざ過去に戻って大日本帝国を負かしたり第三次世界大戦を未然に止めたりする必要がない。自分の人生が楽しい時、人は過去の歴史を変えたいなんて思わないはずだ。……はずなのだが、モノ好きはいくらでもいるもので、どこの誰かは分からないがどっかのアホが過去を改変して俺の彼女の逡咏セを歴史から消滅させてしまった。だから俺もタイムマシンを使って逡咏セが存在している歴史を取り戻すんだ。

 さて、このあたりでいいはずだ。俺の運転する宇宙船の目の前には、ダイソン球が広がっている。人類が初めて完成させたダイソン球と言う歴史的にも意義がある代物で、今では約100億人程度が住んでいる。そこに自動スペースデブリ対処システムでは対応しきれないぐらいの対物ミサイルを撃ち込む。粉々になったダイソン球は、100億の命を巻き込みながら音もなく崩壊していく(当たり前だ、ここは真空、っていうか宇宙空間なんだから)


 ウホウホウホウホウホウホウホウホ、英子ウホウホウホウホウホウホ。ウホウホウホウホゴリラ歴101年ウホウホ。ウホウホウホウホゴリラウホウホウホ人類ウホウホウホウホ。ウホウホマシンウホウホウホウホ、ウホウホウホウホ。ウホウホウホウホ英子をウホウホウホウホウホ。ウホウホウホウホ、ウホウホウホウホウホウホ。ウホウホウホ歴史ウホウホウホウホ。(ウホウホウホウホウホウホ!)


 俺が初めて過去改変に挑むのは、ポチにもう一度会うためだ。ポチというのは、俺の愛犬である。俺が重い肝臓の病気に気付かなかったせいで死なせてしまった。時間を戻って早めに医者に見せれば、寿命を全うできるだろう。なぜ2022年にタイムマシンがあるかというと、これがさっぱりわからない。明らかにオーバーテクノロジーだし、説明書に連絡先として書いてある「丸ガ丘大学 超時空研究室」なんてのはいくら調べても出てこなかったし、電話番号は15桁もある。おそらくさらに未来から誰かがタイムマシンでこの時代に来たか、俺は過去改変の経験があるにもかかわらず過去改変のせいでそのこと自体を忘れているか、まあそんなところだろう。わかりやすい取扱説明書があるおかげで簡単に操作できたのは助かった。望む未来を得るために必要な過去の行動まで算出してくれるなんて至れり尽くせりだ。俺はその場でジャンプした後、頭を3回、正確に3秒の間をおいて壁に打ち付けた後、クルクル回りながら奇声を上げ続ける。このことによって俺を心配して母が一階から上がってくることで、一階に老人の運転する車が突入して母が死ぬ過去が変わることで母がポチの異変に気付いて未来が変わるらしい。


 ああ、ようやく気付いた。ようやく思い出せた。これらが全て、最初の”俺”の立てた計画だったんだ。うまくいって良かった。ようやく会えた。留美子。

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