【No. 059】絶対に再会してはいけないLovers 24時 ~ロミンゴとジュリエンヌのLet'sお別れ大作戦~

「別れましょ、私たち」


「えぇっ! そんなぁ!」


「もう限界よ。うちらの親たち、犬猿けんえんどころか、まるでコブラとマングースだもの。殺し合いになりかねないわ」


「だからって、僕らの仲まで…… ジュリエンヌ、まさか、愛が冷めたの?」


「ロミンゴったら、相変わらず大バカ野郎ね。そんなはずないじゃない! 別れるっていっても、一時的によ」


「一時的?」


「いったん別れて、しばらく会わず、連絡も取らないようにするの。その間に両家の仲を取り持って、丸く収まったら、元サヤハッピーエンドってわけ」


「な~るへそ! さすがジュリエンヌ!」


「そうと決まれば、善は急げ。じゃ、ロミンゴ、元気でね。再会禁止よ! バイナラー!」


「えっ、ちょっと、ジュリエンヌ~!」


 彼女の頭と体の回転の速さに置いてけぼりのロミンゴ。ショックで崩れ落ちはしたものの、ジュリエンヌのぷりっと愛らしいお尻、もとい、後ろ姿によだれをらすのだった。




        *




「ジュリエンヌと一緒に過ごせないなんて、もう何していいのかわかんないよ。ベタだけど、映画でも見て気をまぎらわすか」


 二時間後、ロミンゴは隣町の映画館にいた。二人の行きつけのシアターだとバッタリ会ってしまうかもしれないため、えての遠出。


「ここまで来れば、だいじょうブイ! そうだ、ジュリエンヌが絶対アウトオブ眼中な甘々恋愛モノにしよう。念には念を入れて、席も最前列の端っこがいい」


 席に着き、予告編が始まって数分後。


「ふう、間に合った!」


 鼻息荒く、ドスンと隣の席に座ったのは……。


「ガビーン! ジュ、ジュリエンヌ⁉」


「えっ、ロミンゴ? わけワカメ。何してんの⁉」


「何って、こんな遠くでこんな映画なら、きっと会わないと思って……」


「うっわー、チョベリバ! うちら気ぃ合いすぎ! とっととドロンしましょ!」


 二人は、ナウでヤングなアベックににらまれながら、映画館を後にした。




        *




「ガッデム! 油断ならないわね。さて、夜はどうしようかしら」


 他の日ならあきらめて家にこもってもいいが、今日は小路こみちも華やぐ花金。


「う~ん…… いつもなら、橋の下でチャリンコチキンレースか、町外れの霊園で肝試きもだめしってとこよねぇ」


 ロミンゴとのラブラブなデートを思い出し、今にもチビらんばかりの彼のチキンっぷりに、思わずニヤけるジュリエンヌ。


「そうだ! 霊園なら、ビビりんぼなロミンゴが一人で来るはずないから、鉢合はちあわせの心配なし! 我ながら名案!」


 ジュリエンヌは、レンジで●ンする●ン●ンポテトをタッパーに詰め、ピクニック気分で霊園へとレッツらゴーした。


 暗がりも静けさも余裕のよっちゃんなジュリエンヌ。鉄○飲料を片手にホニャララポテトを頬張ほおばっていると、以前この場でプルプル震えていたロミンゴが脳裏をよぎった。


「おぉ、ロミンゴ、あなたはどうしてチキンなの? 愛しすぎて鼻血ブーしそう!」


「ジュ、ジュリエンヌ⁉」


 その声に振り向くと、しげみの向こうにひょっこり現れたのは、まだ懐かしくも何ともないロミンゴの間抜けづら


「アジャパー! ロミンゴ、どうしてここに⁉」


「どうしてって、あたり前田のクラッカーさ。僕らの思い出の場所じゃないか。だけど、一人じゃ怖くて怖くて、腰が抜けちゃったんだ」


「ああ、ロミンゴ。その小心っぷりがたまらないんだっちゅーの! とにかく、しばらく会わないって決めたはずよ。お別れ、やり直し!」




        *




「こうなったら、おとなしく家にいるしかないか」


 ベッドに寝転び、天井を眺めるロミンゴ。しかし、浮かんでくるのはジュリエンヌの姿ばかり。


「あのごっつして、リモートイチャラブしたいなぁ。ムフフ♡」


 プルルルル…… プルルルル…… 


「えっ、何? 呼び出し音?」


 そばにあったスマホから、


「ちょっと! なんでかけてきてんのよ!」


 ジュリエンヌの声だ。


「えっ、しもしも?」


「ロミンゴってば、ほんっとにドジでノロマなカメなんだから!」


「僕、何もしてないけど…… いや、ちょっとタンマ!」


 キュルルと記憶を巻き戻したロミンゴは、すぐに事情を飲み込んだ。


「あぁぁ~! Siriの奴、なに勘違いしてんだよぉぉ! 『ヘイシリ、今すぐジュリエンヌと通話』じゃないよ‼ 尻だ、尻‼」


「尻、尻、って何よ! エッチ・スケッチ・ワンタッチ!」


 お風呂に入ってアッチッチ、とロミンゴが続ける間もなく、通話は切れていた。




        *




「うちら、アツアツすぎるわ。こんなに避けようとしてるのに、まるで磁石じゃない。私がS極で、ロミンゴがM極ね」


 こうなったら、とっておきのリーサルウェポンの出番。ジュリエンヌは、ひそかに入手していた秘密の小瓶を手に、ある覚悟を決めた。




        *




「何だろう、ドキがムネムネする」


 ジュリエンヌが恋しいのとは違う。あの魅惑的なお尻にチョメチョメしそうになるのとも違う。胸騒ぎの正体を突き止めようと、ロミンゴは意識を集中させた。すると、


《ロミンゴ、私よ》


「えっ、ジュリエンヌ⁉」


 慌ててスマホを見るも、今度はSiriの誤動作ではない。


《禁断のテレパシーよ》


「ジュリエンヌ、君ってエスパーだったのか!」


《いいからよく聞いて。かくかくしかじかで、親たちのドンパチ、収まりそうなの》


「えーっ! そんなバナナ! こんなに早く⁉」


《それはいいんだけど、何やかんやで、私が幽体離脱しちゃってて》


「はぁ? ちょっとイミフなんだけど」


《だから元に戻れるように、キッスしにきて……》


「よっしゃガッテン承知之助しょうちのすけ‼」


 食い気味で答えるロミンゴに、ジュリエンヌは慌てて場所を告げた。




        *




「ジュリエンヌ~! 僕が今すぐ」


 ぶちゅぅぅぅ~。


 ロミンゴのキッスで、ジュリエンヌはたちまち目を覚ました。


「ふぅ~、サンキュー、ロミンゴ。実はね、瀕死ひんしのふりして親たちのことおどしちゃった。今、みんな別室に呼ばれてお医者さんから話聞いてるけど、もうケンカはやめるから許してチョンマゲだってさ」


「てゆーか、そもそもなんでモメてたの?」


「あれよ。きのことたけの……」


 ぶちゅぅぅぅ~。


 両家のみならず二人の仲までおびやかしかねないその論争ネタを、ロミンゴはホットでウェットなキッスで封じたのだった。






    ~ジ・エンド~

 

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