【No. 045】Who killed the dreamer?
栞里がひさしぶりに遊びに来た。
俺は某大手企業で内定が決まり、将来は今のところ安泰だ。
大学でやることは卒業論文を書くだけとなっている。
俺は実家を離れ、一人で暮らしている。
気楽でいいもんだが、こうして来られると不安になってしまう。
彼女の両親はまあ、世間でいうところの毒親だ。あまりアテにできない。
昔からウチで面倒を見ているから、妹みたいに接していた。
あんなに小さかった栞里は気がつけば高校生、かなり大人びていた。
紺色のブレザーが輝いて見えたのは内緒の話だ。
「で、文芸部とやらの調子はどうだ」
「文化祭で部誌出すから、来てよ」
「へー、ちゃんと文学やってんだな」
「おかげで本を読むようになりましたよ、なんか優雅な人になった感じ?」
本は1冊も読めなかったというのに、俺の知らないところで克服していたのかな。
嬉しいような寂しいような、どう言葉にすればいいのか分からない。
「そうだ、ギター弾いてよ」
「急にどうしたよ」
「小さい頃、よくやってたでしょ。
今度はちゃんと書いてきたからさ」
栞里は紙っぺらを見せた。
文芸部で歌詞を書いてきたってのか、わざわざ俺のために。
ちょっと何が起きているか分からない。
「軽音部に入ってた時さ、言ってたじゃん。
リズムは出てきても言葉が出てこないって。
私は音楽なんて全っ然分からないけどさ、こういうのあるとできるんじゃない?」
幼い頃、父のギターで遊んでいたら怒られ、禁止にされた。
諦めておもちゃで遊んでいた。適当に歌詞とメロディをつけるだけも楽しかった。
その後は軽音楽部に入り、本物のギターに触れる。
難しくて大変だったけど、それだけでも楽しかった。
大学受験に追われ、そのまま進学した後はめっきり触っていない。
バイト代を貯めて買ったギターもお飾りになっている。
埃をかぶらない程度に掃除はしているが、何もできていない。
夢を見る時間は終わったのかもしれない。
現実を見るために、夢から覚めた。悲しいことだ。
「ここ最近、就活やら卒論やらで全然触ってないからなー……錆びついてると思うよ」
「マジで? 大学生ってそんな大変なの?」
「遊んでるとでも思ってたか? そんなわけないだろーが」
現実と向き合う時が必ず来る。彼女はどう見るのだろう。
俺は運がよかっただけで、恵まれていただけだ。
悲しいことに壁は高く、そう簡単には超えられない。
『何で大人になっちゃったの?
大きくなっても変わらないよね?
私のことを忘れたりしないよね?
お願いだからどうか歌ってよ My Dreamer』
詩に書いてあったフレーズがちらりと目に入った。
心に刺さった。
何を示しているのかは分からないが、一度も忘れたことはない。
そう言われても正直困る。
俺だって好きでこうなったわけじゃない。
なんでだろうな、本当に。
「この前のアイツ、どうしてる?」
「壮馬のこと? なんで?」
俺は逃げるように話題を変えた。
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