【No. 018】『 10年後の私へ 』
『 10年後の私へ
私は今10歳の小学4年生です。
10年後の私は20歳だから大学生ですか?
それとも就職して働いてますか?
もしかしたら、今の夢を叶えてますか?
私の夢は恐竜になることです。
ジュラ紀の琥珀に閉じ込められた蚊から
恐竜の血液を採取して遺伝情報を取り込み、
ヴェロキラプトルになりたいです。
まだ恐竜は好きですか?
恐竜の勉強はしてますか?
20歳だったらもう結婚もしてますか?
お父さんとお母さんは元気ですか?
今の私に返事は届きませんが、
10年後にこの手紙を読んだ時に
答えてくれると嬉しいです。
また10年後に会いましょう。
10年前の私より 』
10歳の
その手を掴んで止めたのは、30歳の恐田竜美だった。
「間に合ったッ!」
「ひぇっ、だ、誰ッ!? 助けてぇ不審」
「うるさいッ!」
「もががっ」
空前のマスク着用率を誇る2020年代初頭、マスクの上から口を塞げば、手が
通行人から遠目に睨まれたが、ぐるりと視線を巡らせた竜美(30)の
「叔母ですッ!」
の一言で鎮静。
何せ顔が似ているのだ。本人なので。
「
「いや、アンタに叔母なんていないでしょ。私は20年後の
「
と自分を拘束する不審者に困惑していた竜美(10)も、耳元で自分の機密情報(秘めたる恋心から各SNSのログイン情報まで)を囁かれては、話を聞いてやる気にもなる。
この自称未来人の素性は
もしもリアル知人を無差別フォローされたら? 恐田竜美(10)は知的で清楚な女子小学生の
「それで、20年後の私が何の用? これって10年後の私に書いた手紙なんだけど」
「知ってるわ。そいつのせいで大変だったんだから」
竜美(30)歳は歴史改変のため、タイムマシンで過去に来たらしい。
「正確には、この時代にはタイムマシンで来たんじゃないけどね。
タイムマシンで大昔へ、そこから
何だか複雑そうな話なので、竜美(10)は竜美(30)を自宅に招くことにした。
竜美(10)は2人分の麦茶を注いだグラスを持ったまま、足で自室のドアを開く。
ベッドに寝転ぶ竜美(30)にグラスを1つ渡し、自分は勉強机の椅子に座った。
「で、何しに来たの? 歴史改変? 法律とか大丈夫?」
「未整備だから合法よ。順を追って説明するとね」
曰く。
10年後、20歳の竜美は大学で時間移動の研究室に入ったそうだ。
「虫入り琥珀から目当ての恐竜の血液を
「なるほど?」
「で、タイムマシンが完成した! って頃に20歳の誕生日が来て、この手紙も届いたわけ」
「なるほど」
「で、慣れないお酒の勢いで研究所に忍び込んで、マシンを無断使用しちゃったわけ」
「なるほど?」
確かに手紙が切欠ではあるが。
「お酒の勢いでやらかしたのは、10年後の私だよね?」
「それはいいのよ」
「良くないよ」
「いいのよ。問題は手紙の内容」
そう言われて、持ち帰った手紙の封を開けて読み返してみる。
「このジュラ紀ってとこ」
「はぁ、ここが何か」
竜美(30)はじっとり目を細めて。
「ヴェロちーは白亜紀の恐竜よ」
「え」
「20歳の私は誤って、ヴェロちー全盛期の1億年くらい前に飛んじゃったの」
深々と息を吐いた。
「何でそこ把握してないの?」
「だって理工学部だし……アンタも間違って書いてるじゃん」
「だって小学生だし……てか調べてから行きなよ。10年後の未来じゃWeb百科財団は解体されてるの?」
「されてないけど、アンタこそ調べてから手紙書きなさいよ」
故に、世界初の時間旅行はジュラ紀中期の1億8千万年前、現在のモンゴル周辺を行先と定められた。
タイムマシンは乗り物というより砲台に近い。大規模エネルギー設備を外付して稼働するため、片道切符が前提仕様。
その帰りの手段が
「ドローン飛ばして調べたら、まだヴェロちーはいないって言うじゃない」
「1億年早いからね。それで
「ん-ん。千年ごとに起きて、ヴェロちーが生まれてないか確認することにしたの」
「なんで?」
「お酒が抜けてなかったから」
ドローンを周囲に飛ばし、調査結果の確認も含めて1回50分程。
「千年に1度の調査を約10万回よ」
「えぇ……何でそんなになるまで……」
「冷凍明けは半分寝惚けてるし、お酒もまだ抜けてないしで」
「だから今は30歳なの」
「1億8千万年も寝てたんだから1億8千万20歳では?」
「どっちでもいいわ。とにかく手紙を修正して!」
かくして、竜美(10)は竜美(30)の監修の元、Web百科を参考に、未来の自分への手紙を書き直した。
「それじゃ投函してきなさい」
そういった竜美(30)の体は。
「えっ。何か半透明になってるけど!」
「え? ああ、未来が変わったのね」
手紙を書き換えたことで、30歳の竜美がこの時代に来る未来は失われる。
改変された状況に合わせて現在が変化したのだ。
「また20年後に会いましょう」
それだけ告げて、30歳の恐田竜美は消えた。
10歳の恐田竜美は、先程までもう1人の自分がいたベッドを見る。
誰かが寝転んだ
竜美の記憶も、
しかし手元にある手紙には、確かにジュラ紀ではなく白亜紀と記されていた。
竜美は手紙を丁寧に折り畳んで、封筒に収める。
そうして改めて家を出て、10歳の恐田竜美が
その手を掴んで止めたのは、20歳の恐田竜美であった。
「ギャースッ!」
「ひぇっ、だ、何ッ!? 助けてぇ化けも」
「キシャーッ!」
「もががっ」
鱗と鋭い鉤爪の生えた前肢でマスクの上から口を塞ぐ竜美(20)の正体を察した竜美(10)は、慌てて口元の指を外し、
「撮影ですッ!!」
と周囲の通行人に向けて叫んだ。
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