エピローグ(前編)

 あれから少しして、康太と楓さんの結婚式が開かれた。中学校以来会っていなかった友人たちもたくさん見かけた。久しぶりすぎて誰が誰だか全然わからなかったけれど。


 純白の衣装をまとった2人は本当に綺麗だった。もうこの時点で「私が康太の隣にいれば」なんて考えはもう抱かなくなっていた。これだけでも昔の私よりも大分進歩したと思う。高校の時の私だったらきっと2人の幸せそうな様子を見るだけで吐いているだろう。誓いのキスの時はさすがにちょっとモヤモヤした気分を抱いていたけれど。


 その後、ブーケトスが行われた。楓さんが投げた白いブーケは……なんと、私の手元に届いた。楓さんは私がブーケを受け取る姿を見てとても嬉しそうだった。生憎だけど今私に恋人はいない。ひょっとしたらこの先素敵な人と巡り会うかもしれないけれど、残念ながらそんな予定は今のところない。ちょっと複雑だ。だけどブーケを貰えたのは素直に嬉しかった。


 披露宴は大変だった。なんと康太の友人代表としてスピーチを担当することになってしまったのだ。依頼を受けた時は「こいつ、事の重大性が全くわかっていない」と呆れてしまった。私は一度康太と絶縁して、その後既婚者になった康太に告白までしたんだぞ。だけど康太は「お前は俺にとって大事な存在だから」と言って聞かない。あのね、そのセリフは楓さんだけに言ってあげて。私が誤解しちゃうでしょ。


 それからいくら私が説得しても康太は引かず、結局私は折れてしまって引き受けてしまった。人前に立つことなんてあまり得意ではないのに。


 私の番になった。こんなので大丈夫かなあ、と私は原稿を確認する。恋をしている相手の結婚式でスピーチをするなんて、抵抗がないと言えば嘘になる。でも言われたからしょうがない。腹を括れ、と自分に言い聞かせ、私は壇上に登った。


「えー、私を彼とは物心ついた時からの交流がありまして……」


 彼との馴れ初めを話しながら、私はスピーチを進める。幼少期から知っている康太のこと。これでいいんだろうか? ちゃんと話せているかなんてわからない。もう頭の中は真っ白で、目もきっとグルグル回っているに違いない。


「そんな彼は……」


 そこまで言いかけて、言葉が途切れた。結婚式のスピーチで登壇者が発言中に感極まって言葉を詰まらせる、なんてことは珍しくない、と思う。だけど私は違った。何を血迷ったのか、私は原稿にないことを感情に身を任せて口にした。




「そんな康太が、私は大好きでした」




 会場がざわざわとする。そうだろう。傍から見れば修羅場だ。康太もすこし動揺していたけれど、楓さんは全く動じていなかった。むしろ、「もっとやれ」とでも言いたげな表情だ。その笑みを信じ、私は続けた。


「私はずっと、康太に片思いしてました。なんなら今も片思い中です。だけど康太の好きな人は私じゃない。隣にいる楓さんです。ずっと傍にいた私より、楓さんを選んだんです。許せませんでした。なんで、どうしてって……いつしか私は康太と関わらなくなっていきました。2人の様子は本当に幸せそうで、私の居場所なんかないんだって思って、2人に嫉妬するのが嫌で、私は康太と一度縁を切りました。でもこの間康太に会って、こんな私にも変わらず接してくれて、すごく嬉しかったんです。だから私も前を向けて、今ここに立っています。すっごく優しいんです、彼。そんな康太だから、楓さんも惹かれたんだと思います。康太なら、絶対楓さんを幸せにしてくれる。そう信じています。じゃなきゃ私が許さないんだから」


 いつの間にか私はボロボロ泣いていた。独りよがりのスピーチになってしまった。周囲の反応は何もない。あ、やってしまった、と本能が理解したと同時に顔が真っ赤になった。冷や汗がものすごく出ているのがよくわかる。


「……ごめんなさい。以上です」


 私は恥ずかしくなって、自分の席に戻らず会場を出て、しばらく外のエントランスで頭を下げていた。はあ、と重たい息が出る。杏子から「カッコよかったぜ」とメッセージが来てたけど、無視をした。今はちょっと返事をする元気がない。


 会場に戻れないまま、披露宴は終わった。会場からぞろぞろと人が出ていく。物珍しい目でいろんな人が私を見るけど、誰も話しかけてくれなかった。また関係をぶち壊してしまった。折角元通りになれたのに。私はまた後悔で泣きそうになった。

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