第27話「想いの爆発」

 少し歩いて、私たちは街中にある小さな公園にやってきた。コーヒーいるか、と康太は尋ねてきたけど、私はいらないと返した。今は喉に何も通らない。


 公園のベンチに私たちは座った。何も知らない人からしたら私たちは恋人に見えるかもしれない。だけど本当は違う。こんなところ楓さんに見られたら大変だ、なんて思っていたらそれが口に出てしまったようで、康太は笑って「あいつなら今北海道に社員旅行」と言った。不倫している人が相手にかける台詞のようだというのは多分私の考えすぎだろう。康太はそんなことするような人間ではないから。


「まさかこんなに早く康太が結婚するなんて思わなかった」

「でも大学卒業してすぐ楓と暮らし始めたし、早いうちに身を固めた方がいいかなって、俺からプロポーズした」


 聞いてもいないのに爆弾を次々と投下していく。もうめて、私のライフはゼロの等しい。心はボロボロになりながらも私は平静を取り繕った。上手く笑えているかは不安ではあるけれど。


 康太は近くの自販機で買った缶コーヒーを飲みながら、高校卒業後の出来事について話してくれた。と言っても事件らしい事件なんてあまりなくて、幸せそうな2人の様子が話を聞いているだけでも脳内に映し出される。


「まあ何はともあれ結婚したことお前に報告できてよかった」


 そうニッと笑う康太の顔は昔と何も変わっていなかった。また、キュッと胸が締め付けられる。


「そっか……おめでと、康太」


 そう言う私の表情は多分引きつっていたと思う。自分でもそう感じているのだから、当然康太が気付かないはずもなく、笑っていた彼の顔が真剣な表情になった。


「お前、それ本気で言ってんの?」

「へ?」


 本気だよ、と誤魔化したかったけど、声が出せなかった。康太の声は少し怒りが込められているような気がしたから、それに圧倒されたのかもしれない。ちゃんと康太のことを見ることも出来ず、目を逸らしてしまった。


「お前、本当は別に言いたいことあるんじゃないの? いろいろ嘘ついたり誤魔化したりしてずっと避けてたろ。まあ言いたくないならそれでいいけど、そんな浮ついた気持ちで俺はお前に祝ってほしくない。多分楓も同じこと言うと思う」


 ちらりと私は視線だけを戻した。康太の顔は真剣で、その顔を見てまた胸が苦しくなった。また目を背けてしまった。だけどこれはちゃんと本気で向き合わなきゃいけないな。そう思うと、私の心の中で何かが壊れた。多分、奥の奥のまた奥の方で詰まっていた栓が抜け落ちたのだろう。




「……祝えるわけ、ない」




 素直に康太の結婚を喜びたかった。だけどそれよりも勝っている感情は、楓さんへの嫉妬だった。こんな醜い自分が恥ずかしくて、消えてしまいそうなか細い声で私は呟いた。言葉にしてしまえばあとは簡単で、今まで抑え込んでいた感情がダムの放流のようにどっと身体中に溢れてくる。私は感情に身を任せた。


「祝えるわけないじゃん! 私ね、康太のこと応援しようとしたんだよ。でもね、心からできなかった。一緒にいると、富永さんのことを許せない自分がいて……康太に振り向いてほしくて、でも康太は富永さんのことが好きで、だから康太から身を引いたんだ。これ以上一緒にいると私壊れちゃいそうだったから」


 興奮しすぎてちゃんとした日本語にもなっていない。何を言っているのか自分でもわからなかった。とにかく冷静にならないと。そうは思っても口から出てくる言葉は止まらない。涙腺もとうとう決壊してしまった。あとは感情に身を委ねるだけだ。十年、いやそれ以上の想いを全部康太にぶつけてやろう。




「私……」




 私、康太のことがずっと好きでした。

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