第25話「5年後」
あれからもう5年が過ぎた。私は大学を卒業した後、その近くで就職した。とある小さな会社の事務員だ。毎日パソコンとにらめっこしたり上司からの理不尽な仕事の押し付けられたりで大変だが、まあ何とか元気にしている。一人暮らしなので心細いところはあるけれど。
杏子とも電話でよく話したり、たまに会ったりで今でも仲がいい。念願の薬剤師になれたようで、現在は地元の病院の薬局勤務となったそうだ。
康太と富永さんはどうなったかは知らない。杏子にも一応聞いたけど「わかるわけないでしょ」と一蹴された。ついでに「そんなに気になるなら自分で聞けばいいのに」とまで言われてしまった。全くその通りだ。だけどできない。怖いから。
今でも康太のことが好きだ。ふとした時に康太の姿を映し出してしまう。今どこで何してるんだろう。富永さんと元気にしてるかな。そんなことばかり。だから大学に入っても恋人を作らなかった。康太への想いに対する裏切りのようにも思えた。まあ一番の理由は康太以上の男性がいなかったからなのだけれど。
もう自分の恋煩いは末期だ。治る見込みがない。忘れられないし、日々康太への想いが募っていく。それが表情などに出ることはあまりないけれど、寂しいことに変わりはない。いつか時間が康太への想いを忘れさせてしまうのかな、なんて考えたら逆にそれが悲しくて……結局、解決する方法なんてないのかもしれない。私は一生この消せない感情と向き合っていくのだろう。
とある冬の日のことだ。仕事が休みだったので、私は街を適当に散策していた。買いたいものもなかったけれど、なんとなくショッピングモールをぶらぶらと眺めていた。休日ということもあり、多くの家族連れでにぎわっていた。中には手を繋ぐ男女もいた。康太とこんな風に慣れたらな、なんてふと考えてしまう。
そんな感じでぼうっとしながら歩いていたので、私は通行人と肩がぶつかってしまった。衝撃で私は尻もちをつく。
「すみません、大丈夫でしたか?」
「いえ、私の方こそ……」
ぶつかった相手の顔を見た瞬間、時間が止まったような感覚になった。大人になった康太が、私に手を差し出してくれていた。顔つきも体つきも、昔よりずっと男らしくなっている。だけど面影はまだ残っていた。
向こうも私の顔を見て気付いてくれたようで、目を丸くして驚いていた。鳩が豆鉄砲を食らったよう、とはこのことを言うのだろう。
立てる? と康太は私の手を引っ張る。素直に「ありがとう」と言った。まさかこんなところで出会うなんて思ってもいなかった。脳内に当時の苦い思い出が鮮明に再上映される。
「えっと……久しぶり」
「おう。元気そうでよかった……」
5年ぶりの会話だ。お互いぎこちない。それに恥ずかしい。もっとちゃんとした服で来ればよかったな。少なくともベージュのコートなんて、あまり男受けしないだろうから。
康太は長い沈黙の後、昔のように微笑んでくれた。
「少し話さないか? 伝えたいことがある」
「……いいよ」
私は康太についていった。その間康太とは一言も会話できなかった。話って何だろう。富永さんとはどうなったんだろう。今まで何してたんだろう。そんなことばかりを考えてしまう。緊張感が拭えない。過呼吸になりそうなのを冷静に抑えている。ドクンドクンと心臓が強く脈を打っているのがわかる。私は手を胸に当て、落ち着け、と心の中で呟いた。
やってきたのはフードコートだった。ほとんどいっぱいだったけど、窓際に一席だけ空席が空いていたので、そこに座ることにした。
「何かいる?」
「いや、いい。それより話って何?」
「そうだな……」
改まったような表情で康太は私を見る。緊張感が私にも伝わった。そして康太は一言、私に爆弾をぶちまけた。
「俺、
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