第22話「突然の電話」
3月の上旬、私は部屋でごろんとベッドで横になっていた。この日は高校入試のため学校は休みだ。両親も仕事に出かけているので、本当にすることがない。杏子と遊びに行く約束でもしておけばよかったな、なんて思いながら、スマホを何気なく眺める。
すると突然ブルブルとスマホが震えた。電話だ。しかも相手は康太からだった。突然すぎてスマホを床に落としてしまった。
「も、もしもし?」
「俺だけど、今時間ある?」
「あるけど……何?」
電話から聞こえる康太の声は、心なしか少し苛立っているようにも感じた。
「あのさ、俺のことどう思ってんの?」
「……はい?」
質問の意図が見えない。急にそんなこと言われても返答に困る。困惑している私をよそに、康太は続けた。
「最近付き合い悪いし、というか会話も減ったし、目も合わせないし、俺お前に何かしたっけ」
「ああ、そういう……」
ようやく康太の言いたいことを理解した。なるほど、どうやら私の態度が変わったことを康太も察知したようだ。そりゃそうだろう。いつも一緒にいた私が突然付き合いを悪くしたのだから。
「別に何でもないよ。ただ、康太は富永さんと付き合ってるから、私が一緒にいたら変な噂立ちそうだから怖いなって、それだけ」
正直もうその話はしないでほしい。私は康太のことを忘れたいの。それなのに、どうして……。
「もしさ、俺がお前に何かしたって言うんなら謝る。謝るからさ、元の朱莉に戻ってくれよ。今のお前、なんか怖くてさ、ちょっと心配なんだよ。もし距離を取ってるのが俺と富永さんのためだって言うんなら、そんなの気にしなくていいから。なんか言われても『何もない』って言い返すから」
それが駄目なんだよ。周りの目なんてどうでもいい。私が一番気にするんだ。もう答えは出てしまっている。私と康太の関係は「何もない」のだ。それが、ずっと恋心を抱いていた相手から言われるとどれだけ辛いものか、まるでわかっていない。
「康太が謝ることないよ。悪いことなんて何もしていないんだから」
そう。私が全部悪い。もっと早く告白していれば……ううん、恋心なんて抱かなければ、こんなことにならなかったのに。もし過去に戻れるなら、康太との関係を最初からなかったことにできないかな。それとも誰かが私の存在をこの世界から消し去ってくれないかな。
ガラスの街が粉々に壊れるようだった。内臓を全部出しても足りないくらいの吐き気がする。
「康太はさ、私のこと全然わかってくれないんだよね」
「は?」
康太は何か尋ねようとしていたけれど、私は構うことなく電話を切った。そして身体は勝手に康太の家へと向かっていた。康太が家にいるかどうか知らないけれど、構うものか、押しかけてやる。
ピンポン、と呼び鈴が鳴る。出なければ何回も連打してやろうかと思ったけれど、その心配はなかった。トタトタと階段を駆け下りる音が聞こえて、ガチャリ、とドアが開いた。
「……朱莉」
康太の姿を見ると、私はガッと康太の両肩を掴んだ。何すんだよ、と抵抗する康太に負けないよう、私は康太を押し倒した。
バタン、と玄関の扉が閉まる。私は、康太に馬乗りになっていた。
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