第21話「進路」

 その日から私はあまり康太と関わらないようにした。登下校も一緒にすることはなくなったし、会話も1日に1回、2回あれば多い方だ。メッセージも送らないようにしているし、向こうからメッセージがきてもあまり返さないようになった。彼女がいるのに他の女とベタベタするのはいかがなものか、というのがこうなった建前だけど、これ以上康太の隣にいたら私が壊れてしまいそうだから、というのが本音だ。




 受け入れるしかないんだよ。




 自分に言い聞かせるように毎日を過ごす。辛い。辛いに決まっている。だけど私が諦めるにはこれしか方法がなかった。それなのに、心の奥底にある恋の炎はまだメラメラと燃えている。この熱で消し炭になって散り散りに消えてしまえたらいいのに。


 そんなつまらない灰色の日常を送っていた12月のある日だった。もう終業式まで残り僅かという時期、この頃になると文系に進むか、理系に進むか、という話がちらほらと話題になってくる。この選択が後の進路を大きく決定するから安易には決められない。


 そういえば康太はどっちに進むんだろう。将来のことなんてあまり話したことがないからわからない。最近は疎遠になってるからなおさらだ。


 聞いてみるか。いやしかし……いろんな感情がせめぎ合っている。


「普通に聞けばいいじゃん」


 後ろから杏子の声がした。ひゃあ、と変な声を出してしまった。本当にこうやって脅かすのだけはやめてほしい。心臓に悪いから。


「聞けないよ」

「なんで? 文系理系どっち行くのって言うだけじゃん。小学生でもできる」

「私は小学生以下か」


 はあ、と溜息をついた。ちなみに杏子は理系に進むらしい。薬剤師を目指しているそうだ。


「杏子、康太に聞いてくれない?」

「自分で聞きなよ」

「出来たら苦労しないって」


 だけど杏子の言う通りだ。こんなことくらい自分で聞け。でもそれが聞けないのが私なんだよなあ。またさらに自己嫌悪に陥る。


 しょうがないなあ、と杏子は康太の元にフラフラッと立ち寄り、ものの数秒で帰ってきた。本当にこの何事にも物怖じしない精神力を見習いたい。


「文系にするんだって。富永さんも一緒」

「そっか……」


 なんとなく想像はできていた。むしろスッキリできた、と思う。


「私、理系にしよっかな」


 はあ、と杏子は目を丸くした。私の成績は大体平均より少し上、くらいだ。だけど得意科目は文系科目で、理系科目はそこまで得意ではない。当然杏子も私の成績を知っているため、驚いて当然だ。


「一時の気の迷いで自分の進路狂わせるのやめときな」

「もう既に人生狂ってるんだよ」


 自嘲気味に私は答えた。全部私のせいだ。私がとっとと告白しなかったから、こんなにも悲観的になっている。私が康太のことを忘れるにはこうするしかない。


 そして冬休みも何事もなく、年が明け、3学期を迎え、文系理系の進路選択も本気で考える人も出始めた。


「変わんない? 進路選択」

「変わんない。別に医者になりたいとか、そんなの全然ないけど」


 両親に理系に行くって言ったらかなり怒られた。何を考えているんだ、勉強について行けなかったらどうするんだ、なんていろいろ言われたけど、もう決めたことだから、と跳ねのけた。


 私には、もうこうすることでしか康太を忘れられないから。

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