第20話「どうしたら」

 教室に戻り、自分の席に着いた私は、ぼうっと窓の方を眺めた。窓際の席だったので外の景色を一望できる。この席になってから、何も考えたくないときはこうやって外を見て心を落ち着かせている。


 さっきの出来事がずっと頭の中にこびりついてくる。なんだか私の全てをぐちゃぐちゃにされたようだ。傷口に塩、なんてものじゃない。


「やあやあ、元気にしとるかね」


 杏子の声とともに、ポスンとペットボトルのような何かが頭に置かれる。私は外を向いたまま「何か用?」と尋ねた。どうせさっきについて色々言われるのだろう。


「さっき富永さんと何話してたの?」

「別に。そんなこと、杏子なら聞かなくてもわかるんじゃないの?」

「まあ、ね」


 少し強い当たりになってしまったのは、心の平穏が保てていないからだ。友達に八つ当たりするなんて、人間としてもどうかと思う。


「ねえ、私どうすればいいかな」

「どうって?」

「康太のこと……」


 こんなこと相談できるのは杏子しかいない。好きな人がいる、と打ち明けたことはないけれど、なんだかんだ私の心は全部お見通しだし、もう全部バレてしまっているだろう。


「そうだなあ。私は恋愛とかよくわかんないから、何も言えないけど、ま、後悔しないようにってのが一番かな」


 さっきも富永さんから言われた。また私の心にグサリと刺さる。今更そんなことを言われてももう遅い。はあ、と溜息と共に肩を落とす。


「その様子だと、富永さんにもおんなじこと言われたね」

「いちいち追撃しないでよ。怒るよ」


 それでも杏子はケラケラと笑っている。本当に他人事なんだから、と腹立たしい気持ちを抑え、杏子の方を向いた。


「バーカ」

「何、急に」


 杏子はまたケラケラと笑う。よほどツボに入ったらしい、その笑い声は教室全体にも響いていた。自分でもなんでこんなこと言ったのかよくわからない。だけど、胸の内にあるモヤモヤをとりあえず解消しておきたかった。それがこんな子供みたいな形で出るなんて。少し恥ずかしい。


 クラスメイトはみんな杏子の方を向いていた。その中には、さっき教室にいなかった康太の姿もあった。目が合ってしまい、反射的に顔を逸らしてしまう。どったの、と杏子が尋ねたけど、なんでもない、と答えた。


「バカ……」


 誰にも聞かれないような小さな声で呟いた。またモヤモヤが生まれたような気がした。

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