第6話「いつかいなくなる帰り道」

 まだ暑いけれどもう9月も半ばだ。さすがに夏場と比べて日が傾くのが早くなっている。だけど私は康太といつものように一緒に帰っていた。これがいつまで続くかはわからないけれど。


「それで、富永さんとは上手く話せた?」

「え? ああ、まあ」


 康太は完全に上の空だ。想像以上に2人の関係が進んでいることがわかる。もしかしたら告白したのではないか。そう思うと胸が痛くなってきた。まるで心臓に穴があいたような痛みだ。


「何かあった?」


 聞かなくてもわかるけど、とりあえず尋ねてみた。だけど相変わらず康太の返答はぼんやりとしたものしか返ってこない。これでは煮え切らない。知りたくはないけれど、知らないままなのもなんだかもどかしい。さらに踏み込んだ質問をしてみた。


「告白したの?」

「はあ?」


 今度は先程よりもいいリアクションが返ってきた。康太は目を丸くし、顔を真っ赤にし、変な声を上げる。


「いやしてないし、出来る訳ないだろ」

「ホント?」

「本当だって。そんな雰囲気でもなかったし」

「そっか……」


 ならよかった、という言葉を喉奥に留めた。気を許せばすぐに口からこぼれてしまいそうだ。危ない危ない。私はいつも通りを装いながら、康太の隣を歩いた。このポジションは幼馴染である私の特権だ。それもあと少ししたらきっと奪われてしまうのだろう。だから今は、今だけは康太と一緒にいる時間を精一杯大切にしたい。この幸せを噛みしめる権利くらい私にだってあるはずだ。


「ま、富永さんと進展があってよかったよ」

「うるさいって。ただ、2人で世間話しただけだし」

「それを進展って言うんだよ」


 そう茶化したけど、本当は進展なんて来ないでほしかった。このまま何事も進まず、今まで通りでいてほしかった。そうすれば、私はこの先もずっと康太と一緒でいられたかもしれないのに。


 だけど現実と言うのは残酷だ。きっとそう遠くないうちに私は康太の元を離れなければならない。根拠はないけれど、そんな気がする。


 じゃあまた、と私たちは家の前で別れた。またね、という言葉を口にするのが怖い。いつかその「また」が永遠に来なくなるのではないか。そんなことばかり考えてしまう。胸の奥が痛い。涙が溢れてしまいそうだ。こみ上げる気持ちをぐっと抑え、私は玄関の扉を開けた。


 私みたいなガサツで芋っぽい女よりも、富永さんみたいな可憐な女の子の方がきっと康太には相応しい。私の方が康太のことをずっと好きだったのに。出会った時からずっと、ずっと……。


 神様、どうか康太にその時が訪れませんように。不意にそんなことを考えてしまった自己嫌悪に陥る。どうして私は康太の幸せを素直に応援できないんだ。他人の不幸ばかりを願う自分自身が何よりも嫌いだった。どうして私はこんな風になってしまったのだろう。




 そして、その時は唐突に訪れた。


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