第4話「朝の時間」
朝のホームルーム前は騒がしい。友達とお喋りをする人、勉強に勤しんでいる人、様々だ。私はどちらでもない。自分の机でただぼうっと座っていた。私の席は真ん中の方なので外を見たくてもあまりいい景色は見られない。
「よっす。今日は時化たツラしてんね」
そう笑いながら話しかけてきたのは親友の
「まあ、いろいろあるんすよ」
「恋か?」
「うっさいなあ、もう」
一発で当てられ、私は顔を机に突っ伏す。何も考えていないくせに洞察力は鋭く、今まで隠し事が通用したことは一度もない。将来は探偵にでもなればいいのに、と何度思ったことか。
私は顔を伏したまま、チラリと彼女の顔を窺う。ニヤリと眼鏡の奥に見える彼女の目はまるで「いいおもちゃを見つけた」と薄汚い笑みを浮かべる悪魔のそれだった。
「ずっと好きだったもんね、浜本君のこと」
「今はその話しないでー」
まだ空いたままの傷口に塩がどんどん盛られていく。昔から杏子はいつもこうだ。私は杏子の友達であると同時にいいおもちゃらしい。今日はあんまりいじらないでもらえると助かるのだけれど。そう願っても杏子には通用しない。
杏子は隣の席が誰も座っていなかったのをいいことに、勝手に椅子を拝借しては私に寄せる。
「で、フラれたの?」
私は首を振った。
「康太、他に好きな人がいるんだって」
あれまあ、とまるで興味なさそうに杏子は返す。今の私にはそのくらい無関心な方がいい。
「浜本君は告ったの?」
「まだ、だと思う」
「じゃあまだチャンスあるんじゃない? 当たって砕けろ」
「それなんのフォローにもなってないってば」
はあ、と私は大きな溜息をついた。自分のことじゃないからって、いじるのも大概にしてほしい。
キンコンと始業の予鈴が鳴った。じゃあまたの、と杏子は自分の席へ戻っていった。まるで嵐のような人だ。本人のテンションはずっとつむじ風ひとつ起きないような平坦なものだけれど。
ふと、康太の方に目線をやった。私の右斜め前の方の席で、ふわあとあくびを浮かべている。そこから左の方に目をやると、富永さんが英単語帳を開いていた。さすが成績優秀者だ。
この光景だけ見ていると、康太と富永さんはあまり釣り合わないようにも思える。でも私には、この2人はなぜかお似合いのカップルになると信じて疑わなかった。疑いたくなかった。だって、康太には私よりも富永さんの方がふさわしいから。
席に着け、と担任がやってきて、ざわついていた教室が少しずつ静かになっていく。だけど私の心の中のざわつきはまだ収まりそうになかった。
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