11/10(木)優勝旅行の是非を巡って②

11月10日(木)14時——。梅戸電鉄本社


「豪華客船をチャーターして、日本一周だと!?」


先週議題に上がり、結論が出なかった優勝旅行の件。阪下キャプテンの提案という形で案を提出した原田GMに注目が集まった。


「パンフレットを見たところ、10日の日程で北は函館、南は鹿児島まで巡るとか。価格も、スイートで50~60万円程度ですから、まあ、船を丸ごとチャーターすることも交渉によっては可能では?」


実現すれば、船会社の方も宣伝になるのだから、むげには断られないのではないかと原田は言った。


「なるほど……それなら海外に出るわけではないから、帰国時の面倒な手続きはありませんな」


「しかも、それならケチっているという印象もないでしょう。流石、阪下キャプテンですな。いいアイデアかと」


そして、原田の提案に感心して、百南球団社長も電鉄の羽瀬社長も賛成の意志を示した。


「それならいっそのこと、行く先々の港でトークショーやサイン会、あるいは野球教室などを開催してもいいかもしれませんね」


それに続くように、谷川オーナー代行が提案した。選手には負担をかけてしまうが、日本一になることができたのは、ファンの後押しがあってこそなのだ。置き去りにしてはいけないと言って。


「しかし、今から計画を立てて実行が可能としても、12月に入るのでは?そんな時期の日本海を航行して、もし何かあったら……」


冬の日本海は荒れるのだ。しかも、最近はミサイルまで飛んでくる。そのことを蔦邑球団本部長が心配して発言した。


「確かに……そんな状況では楽しめませんな」


「折角の妙案でしたが……」


さっき賛成した百南球団社長と電鉄の羽瀬社長が残念そうにして唸った。すると、原田GMは言った。


「せやったら、日本一周ではなくて、瀬戸内海クルージングにしてはどないやろか?」


「瀬戸内海?」


それなら確かに波は穏やかではある。だが、インパクトが弱い感があるという意見も出た。しかし、原田は言う。


「豪華客船でカジノとかやって遊ぶということがメインなんやから、行き先がどこでもかまへんやろ」


マスコミも乗せてどんちゃん騒ぎをする。それで、十分世間に向けてアピールができると。


「確かにそうですな。原田さんの言うとおり、マスコミを入れて派手に遊んでいるところを見せれば、ケチ旅行などというファンはいないでしょう。加えて、谷川さんの言ったようなファンサービスをすることも検討するのも賛成ですね。それで、どうですか?ご異議のある方はいますか?」


藤田オーナーが締めくくるようにそう言ったが、誰も挙手する者はいない。


「では、優勝旅行はそれでいきましょう。あとは、この仕事は誰がやるかですが……」


「阪下キャプテンにお願いしましょう。猫メダル廃止で、時間はありますからね」


彼もきっと喜ぶでしょうと、原田GMは太鼓判を押して推薦するのだった。

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