11/3(木)優勝パレード
11月3日(木)10時——。大阪市御堂筋
見渡す限りの人、人、人。多くのファンの歓声の中、車は市役所を出発して南へと進む。
「これ……凄いですね……」
隣に座る雨柳が言った。幸いなことに雨には振られていない。
「しかし……一体、これ、どれだけいるんだ?」
2003年の優勝パレードでは40万人動員したと聞いてはいたが、そんな比じゃないような気がした。中には涙を流して手を振ってくれるファンもいた。
「わかりませんけど……それを上回っているのは確実かと……」
その時を知る豊原コーチが後ろからそっと教えてくれた。加えて言うならば、熱気も違うと。
「何か、これ見てると……辞めたくなくなるよな……」
つい思ったことをポロリとこぼしてしまった。もちろん、昨日退任しているので、今更どうしようもないことではあることは承知している。
「それなら、またいつの日にか、監督になればいいじゃないですか」
沿道のファンに手を振る桐浪が言った。まだまだ若いのだから、チャンスはあると言って。
「ははは、そうだな」
そう言いつつも、明言は避ける。未来のことなどわからない。そうなるかもしれないし、そうならないかもしれない。
「あれ?あの人……矢崎さんじゃないですか!?」
「本当だ……え?『ありがとう!俺たちの野球、完結!』だって?」
丁度、本町交差点から中央通りを東に向かおうとしたところで、黒字でそう書かれている大きな黄色いプラカードを掲げている矢崎前監督の姿が見えた。
「……途中で放り出したくせに、なにが俺たちの野球だ!」
ふつりふつりと、怒りがこみ上げてくる。今すぐ車を飛び降りて、懇懇とその辺りを問い質したいものだ。
「放っておけばいいじゃないですか。よく考えれば、あのとき休養してくれなければ、こんな素晴らしい結果にはなっていないわけですし」
そう思ったら、もしかしたら最大の功労者なのかもしれないですよと、桐浪は宥めてくれた。
「確かに……」
車はすでに矢崎前監督の前を通り過ぎて、そのプラカードも次第に小さくなっていく。気を取り直して、そう答えながらも、もしもと前置きして質問した。
——あのとき、矢崎監督が休養を承諾しなかったなら。
「あのまま最下位であり続けるとは想像できませんが、精々良くても3位止まりだったんじゃないですか?」
「次期監督は、もちろん原田GMだったでしょうし……」
「それで、辛井さんは打撃不振の責任を取らされてクビ……」
雨柳、豊原コーチ、桐浪が好き勝手に想像して回答してくれた。それを聞いて、そうなっていた場合は、きっとギョッズの監督に就任していた兄に縁故採用をお願いしていたであろうことも、容易に予測がついた。
「だとしたら……なるほど。桐浪の言うとおり、彼は功労者というわけだな」
チームにとっても、自分にとっても。
「さて……もうすぐ終点の大阪城だな……」
右手に堀が見えて、大手門が視界に入ってきた。聞いている話だと、門の外にある駐車場で車を降りて、その後は徒歩で天守閣前の広場に向かうらしい。混乱が起こらないように、警備にあたる多数の警官の姿が見えた。所々に、市の職員らしき者の姿も。
「気の毒にな。みんな休日出勤か……」
そんな連中を見て、どうでもいいことだが……ついため息が出たのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます