11/2(水)優勝旅行の是非を巡って①
11月2日(水)14時——。梅戸電鉄本社
「……それで、結局どうしますか?優勝旅行は……」
この本社の会議室に、オーナーを始め、球団の幹部が集結していた。その中には、GM兼副社長の原田の姿もある。
「ブレーブスは取り止めにしたんでしょ?それなら、うちがやるわけには……」
昨今のコロナ事情を考えれば、海外へ渡航するのはハードルが高い。17年ぶりの優勝、37年ぶりの日本一という最高の結果を考えれば、秋季キャンプが終わった後の12月に盛大にやりたいところではあるが……。
「いや、ブレーブスがやらないからこそ、うちがやるべきでは?あちらは、日本で2番目のチームで、うちがナンバーワンなんですから!」
「……それで、コロナ蔓延させて、日本一の間抜けな球団として歴史に名を刻みますか。大阪の球団らしく、とっても強烈な『オチ』ですな」
今年は最初に大コケしたものの、結局ここまでいつものような『オチ』がないのだ。歴史的な大逆転負けもしなかったし、身売り騒動も起こらなかった。334の呪いも発動しなかった。……ゆえに警戒する声が上がった。
「もし、優勝旅行をしないのなら、どうするんですか?」
「功労金という形で、選手に分配する形になるだろう。まあ、成績に応じて格差はつけないといけないだろうが」
「それも味気ないですね。メジャーのようにチャンピオンリングを作って、渡しては?」
「それこそ、ケチと言われるのがオチだ。まだ現金の方がマシだ」
「う~ん……それなら、旅行の方が悩まなくても済むなぁ……」
喧々諤々の末、一週回って再び優勝旅行の話に戻ってきた。
「海外はダメなら、国内旅行ではどうです?」
百南球団社長が提案した。彼としては、あの悲惨な状況から頑張った選手たちをどうにかして労いたいという想いが強い。
「ケチっているように思われるやろ。実際にはそれほど費用では変わらなくてもな……」
しかし、藤田オーナーはこれを良しとしなかった。周りに与える印象が良くないと言って。
「では、オーナーはやはり海外がいいと?」
電鉄本社の羽瀬社長がオーナーの意向を汲んで最終確認を行う。ここで頷けば、良いか悪いかは別にしてこの議論に決着が着く。しかし……
「いや……それやって、コロナ蔓延させて2月のキャンプインに出遅れる選手が出てしまったら、おーん、トンデモないことになるで。それなら、功労金やチャンピオンリングの方がマシやろ」
来年からGMとして、チームを連覇に導かなければいけない原田は、全力で反対した。彼にとってみれば、終わった今年の事よりも来年のことが重要なのだ。そして、谷川オーナー代行もこの意見に賛成した。
「でも、それはやはり味気がないような……」
「そうですよね。折角、頑張ったわけだし……」
「次はいつになるのかわからないことですし……」
藤田オーナー、百南球団社長、羽瀬電鉄社長が口々に未練がましく言った。
……結局、この日は意見の一致は見られず、後日改めて再検討することになるのだった。
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