10/20(木)ドラフト1位

10月20日(木)17時15分——。東京


「監督……すみません」


「アホ!監督はおまえやろが。しゃないやないか。箱ん中に当たりくじがなかったんやから!」


クジを外して項垂れて戻ってきた島谷にそう言って喝を入れる。フロントが強く熱望した朝野は、ラビッツの秦が引き当てた。今、この部屋に設置されているテレビ画面に、いつものキモチワルイ悪人ヅラが映し出されている。


「……意中の選手を獲得できたということは、非常に良かったと思います。朝野君も胸を張って、堂々とラビッツのユニフォームを……」


聞こえてくる裏返った声に、イラっとして思わずリモコンをテレビ画面に投げつけたくなる。秦の奴は昔から知っているが、ホント話が長くてウザイ。そんなにべらべら喋るんなら、阪本のDV・中絶の件も同じぐらい熱心に説明しろよといいたくなる。


「そんじゃ、約束通り森上でよろしいでしょ?」


だが、その話は一先ず置いておいて、島谷と同じようにがっかりしている百南球団社長や田和TAに改めて方針を確認した。元々、自分は森上を推していたのだ。確かに朝野にはロマンがあるが、チームの事情を考えれば、本当に必要なのは森上なのだと。


「原田さん。内東を指名するというのは……」


「ありえませんな。三塁手は向こう10年坂藤一択です。必要ないでしょう」


なおも言いつのる球団社長を一喝して押し通す。約束は約束でしょと。


「はあ……わかりましたよ。確かに約束しましたからねぇ……」


ようやく百南球団社長が折れて、森上指名に同意してくれた。そして、気が変わらないうちに、入力を済ませた。


『第1巡選択選手、キャッツ。森上翔太郎、外野手。東京中央大学』


おそらく、テレビの向こうで見守るファンは、外れ一位と思うかもしれない。だが、本当に欲しかった選手は、紛れもなく彼だ。だから、結果として外してくれた島谷に感謝する。これで、来年はもっと強くなるのだから。

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